(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060460
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】酸素飽和度測定装置、酸素飽和度測定方法及び酸素飽和度測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167841
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 光明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昌之
(72)【発明者】
【氏名】松井 優貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 和夫
(72)【発明者】
【氏名】木口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX02
(57)【要約】
【課題】測定精度を向上できる酸素飽和度測定装置を提供する。
【解決手段】酸素飽和度測定装置は、動脈に対して、赤色光と赤外光と赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を投光し、投光された赤色光と赤外光と参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光し、赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号とを取得し、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出し、第二脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出し、それぞれ算出された第一情報と第二情報との比に基づいて酸素飽和度を算出することによって動脈の酸素飽和度を測定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈に対して赤色光を投光する第一発光素子と、前記動脈に対して赤外光を投光する第二発光素子と、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を前記動脈に対して投光する第三発光素子と、投光された前記赤色光と前記赤外光と前記参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光し、前記赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、前記赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、前記参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号とを出力する受光素子と、を有するセンサユニットと、
前記受光素子に電気的に接続され、前記第一脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出し、前記第二脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出し、それぞれ算出された前記第一情報と前記第二情報との比に基づいて酸素飽和度を算出することによって前記動脈の酸素飽和度を測定する、プロセッサと、
を備える、酸素飽和度測定装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記第一脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度と前記第二脈波信号の強度とを時間的に連続して取得し、
前記第三脈波信号の強度と前記第一脈波信号の強度とを用いた回帰分析によって第一回帰直線の傾きを前記第一情報として算出し、
前記第三脈波信号の強度と前記第二脈波信号の強度とを用いた回帰分析によって第二回帰直線の傾きを前記第二情報として算出する、
ように構成される、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
最小二乗法のみによって前記第一回帰直線と前記第二回帰直線とを算出する、
ように構成される、請求項2に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記第一脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度と前記第二脈波信号の強度とを時間的に連続して取得し、
前記第三脈波信号の強度と前記第一脈波信号の強度との比の平均値を前記第一情報として算出し、
前記第三脈波信号の強度と前記第二脈波信号の強度との比の平均値を前記第二情報として算出する、
ように構成される、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、複数の酸素飽和度を算出し、
算出された複数の酸素飽和度の中から1つの酸素飽和度を、予め設定された基準に基づき前記動脈の酸素飽和度として決定する、
ように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記受光素子によってそれぞれ出力された前記第一脈波信号と前記第三脈波信号とのうち、
前記第一脈波信号と前記第三脈波信号との間の関係性に基づいて予め設定された閾値を満たすデータを前記動脈の拍動に関連しない外れ値として決定し、
決定された前記外れ値を除いて前記第一情報を算出する、
又は、
前記受光素子によってそれぞれ出力された前記第二脈波信号と前記第三脈波信号とのうち、
前記第二脈波信号と前記第三脈波信号との間の関係性に基づいて予め設定された閾値を満たすデータを前記動脈の拍動に関連しない外れ値として決定し、
決定された前記外れ値を除いて前記第二情報を算出する、
ように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項7】
被測定者が装着可能なウェアラブルデバイスである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項8】
動脈に対して、赤色光と、赤外光と、前記赤色光及び前記赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を投光し、
投光された前記赤色光と前記赤外光と前記参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光し、
前記赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、前記赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、前記参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号と、を取得し、
前記第一脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出し、
前記第二脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出し、
それぞれ算出された前記第一情報と前記第二情報との比に基づいて酸素飽和度を算出することによって前記動脈の酸素飽和度を測定する、
酸素飽和度測定方法。
【請求項9】
動脈に対して、赤色光と、赤外光と、前記赤色光及び前記赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を投光する処理と、
投光された前記赤色光と前記赤外光と前記参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光する処理と、
前記赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、前記赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、前記参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号と、を取得する処理と、
前記第一脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出する処理と、
前記第二脈波信号の強度と前記第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出する処理と、
それぞれ算出された前記第一情報と前記第二情報との比に基づいて酸素飽和度を算出することによって前記動脈の酸素飽和度を測定する処理と、
をプロセッサに実行させる、酸素飽和度測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素飽和度測定装置、酸素飽和度測定方法及び酸素飽和度測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)を測定する方法の一例として特許文献1のように、吸光分光法を用いた測定方法が知られている。具体的には、互いに異なる波長を有する赤色光と赤外光とが動脈血に対して投光されると共に、それぞれの光に対応する透過光又は反射光が、受光素子によって受光される。なお、以下、説明の便宜のため、透過光及び反射光のように受光素子によって受光される光をまとめて「受光光」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸光分光法では、受光光の脈波信号から取得される最大値と最小値とから、赤色光と赤外光とのそれぞれについて脈波信号の振幅が複数算出される。算出された複数の振幅から脈波信号の変動成分(AC)と固定成分(DC)とが算出されると共に、算出された変動成分と固定成分とによって、赤色光と赤外光とのそれぞれの灌流指標(PI値)が算出される。
【0005】
そして、赤外光のPI値に対する赤色光のPI値の比(吸光度比)を、予め設定された酸素飽和度算出用の計算式に導入することによって、測定値としての酸素飽和度を算出できる。すなわち、吸光度比は、赤色光の受光光の脈波信号の振幅に対する、赤外光の受光光の脈波信号の振幅の振幅比によって算出される。
【0006】
しかし、血流が比較的低灌流、すなわち受光光の脈波信号の光強度が微弱であるほどSN比が低くなるため、脈波信号の振幅の算出精度が低くなる。このため、吸光度比が振幅比によって算出される場合、変動成分と固定成分との算出精度も低くなり、結果、酸素飽和度の測定精度が低下する、或いは、測定自体が不可能となり得る。
【0007】
SN比が低い場合であっても吸光度比を算出する手段として、回帰法と呼ばれる算出手段が知られている。回帰法では例えば、それぞれ経時的に対応する赤色光の脈波信号と赤外光の脈波信号とが、赤色光の受光強度をY軸、赤外光の受光強度をX軸に取ったXY座標にプロットされることによって、データの散布図が算出される。そして、最小二乗法等の回帰手段によって、データの散布図から求められた回帰直線の傾きが、吸光度比として算出される。
【0008】
回帰法では、受光光の脈波信号の波形データのすべてが、赤色光と赤外光との真の関係を表す直線の方程式を算出するために利用される。一方、吸光度比が振幅比によって算出される場合、受光光の脈波信号の最大値と最小値とのみが、振幅を算出するために利用される。このため、回帰法は、振幅比を算出する方法と比べ、SN比が比較的低い脈波信号に対しても堅牢、いわゆるロバストであって、かつ、吸光度比を精度よく算出することが可能とされている。
【0009】
特許文献1に開示された回帰法では、赤色光と赤外光とが生体組織に対して投光されると共に、生体組織を透過したそれぞれの透過光の強度が測定される。また、測定されたそれぞれの透過光の強度の対数が、縦軸と横軸とに配置される。そして、座標上において、最小二乗法によって回帰直線が算出されると共に、算出された回帰直線の傾きに基づいて酸素飽和度が測定される。
【0010】
最小二乗法では、X軸又はY軸のうち一方の軸の側のデータのばらつきしか考慮されない。このため、最小二乗法によって求められた回帰直線の傾きは、真の関係を表す直線の方程式の傾きから乖離することがある。特に、酸素飽和度の測定では、それぞれの軸に配置された変数である、赤色光に対応する受光光の脈波信号と赤外光に対応する受光光の脈波信号とのSN比が比較的低い場合、測定精度の低下が、より顕著になる。この点、特許文献1の回帰法では、酸素飽和度が、赤色光と赤外光とのそれぞれの透過光の強度に対する最小二乗法によって算出されるだけであるため、測定精度の低下を抑制できない。
【0011】
本開示は、上記に着目して為されたものであって、測定精度を向上できる酸素飽和度測定装置、酸素飽和度測定方法及び酸素飽和度測定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第1の態様に係る酸素飽和度測定装置は、動脈に対して赤色光を投光する第一発光素子と、動脈に対して赤外光を投光する第二発光素子と、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を動脈に対して投光する第三発光素子と、投光された赤色光と赤外光と参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光し、赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号とを出力する受光素子と、を有するセンサユニットと、受光素子に電気的に接続され、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出し、第二脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出し、それぞれ算出された第一情報と第二情報との比に基づいて酸素飽和度を算出することによって動脈の酸素飽和度を測定する、プロセッサと、を備える。
【0013】
上記の構成によれば、動脈に対して投光される参照光の波長は、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長である。このため、参照光に対応する第三脈波信号のSN比は、赤色光に対応する第一脈波信号及び赤外光に対応する第二脈波信号よりも高くなる。すなわち、受光光の脈波信号のSN比は、投光される光の波長に依存する。酸素飽和度の算出アルゴリズムの中に、赤色光と赤外光との2つの光以外の第3の光としての参照光が介在することによって、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比が算出される場合に比べ、酸素飽和度の測定精度を向上できる。
【0014】
また、第2の態様では、第1の態様において、プロセッサは、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度と第二脈波信号の強度とを時間的に連続して取得し、第三脈波信号の強度と第一脈波信号の強度とを用いた回帰分析によって第一回帰直線の傾きを第一情報として算出し、第三脈波信号の強度と第二脈波信号の強度とを用いた回帰分析によって第二回帰直線の傾きを第二情報として算出する、ように構成されてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比が算出される場合に比べ、回帰直線の傾きが真の関係を表す直線の方程式の傾きから乖離することが抑制される。このため、酸素飽和度をより精度よく算出できる。
【0016】
また、第3の態様では、第2の態様において、プロセッサは、最小二乗法のみによって第一回帰直線と第二回帰直線とを算出するように構成されてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、第一回帰直線と第二回帰直線との算出のために使用される回帰手段の種類は、最小二乗法のみである。ここで、例えば直交距離回帰のような主成分回帰の算出アルゴリズムは、最小二乗法に比べて複雑であるため、全体の計算量が多くなる。このため、例えば測定装置の消費電力が大きくなったり処理時間が長くなったりするといった、計算負荷が大きくなるという問題が生じる。このため、最小二乗法のみが用いられる本開示では、直交距離回帰等が用いられる場合と比べて、全体の計算量を低減できるので、計算負荷を抑制できる。
【0018】
また、第三脈波信号の参照光の波長は、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長であるため、赤色光及び赤外光よりも動脈からの受光光のSN比が高い。このため、第三脈波信号のデータが配置された側の軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われなくても、第三脈波信号のデータに起因する回帰直線の傾きへの影響を抑制できる。このため、回帰法として最小二乗法のみが用いられても、赤色光と赤外光との吸光度比を赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて直接的に算出する場合に比べ、傾きの算出精度を向上できる。
【0019】
また、第4の態様では、第1~第3のいずれかの態様において、プロセッサは、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度と第二脈波信号の強度とを時間的に連続して取得し、第三脈波信号の強度と第一脈波信号の強度との比の平均値を第一情報として算出し、第三脈波信号の強度と第二脈波信号の強度との比の平均値を第二情報として算出してもよい。
【0020】
上記の構成によれば、いずれも比の平均値である第一情報と第二情報とを用いて酸素飽和度を精度よく算出できる。
【0021】
また、第5の態様では、第1~第4のいずれかの態様において、プロセッサは、複数の酸素飽和度を算出し、算出された複数の酸素飽和度の中から1つの酸素飽和度を、予め設定された基準に基づき動脈の酸素飽和度として決定する、ように構成されてもよい。
【0022】
上記の構成によれば、例えば特性の異なる算出方法が複数搭載されることで、酸素飽和度測定におけるロバスト性を向上できると共に酸素飽和度の測定精度をより向上できる。
【0023】
また、第6の態様では、第1~第5のいずれかの態様において、プロセッサは、受光素子によってそれぞれ出力された第一脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとのうち、第一脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとの間の関係性に基づいて予め設定された閾値を満たすデータを動脈の拍動に関連しない外れ値として決定し、決定された外れ値を除いて第一情報を算出する、又は、受光素子によってそれぞれ出力された第二脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとのうち、第二脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとの間の関係性に基づいて予め設定された閾値を満たすデータを動脈の拍動に関連しない外れ値として決定し、決定された外れ値を除いて第二情報を算出する、ように構成されてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、酸素飽和度の測定精度を一層向上できる。
【0025】
また、第7の態様では、第1~第6のいずれかの態様における酸素飽和度測定装置が、被測定者が装着可能なウェアラブルデバイスであってもよい。
【0026】
上記の構成によれば、長寿命化を図ることが可能なウェアラブルデバイスを実現できる。
【0027】
本開示の第8の態様に係る酸素飽和度測定方法は、動脈に対して、赤色光と、赤外光と、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を投光し、投光された赤色光と赤外光と参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光し、赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号と、を取得し、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出し、第二脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出し、それぞれ算出された第一情報と第二情報とに基づいて酸素飽和度を算出することによって動脈の酸素飽和度を測定する。
【0028】
第8の態様によれば、第1の態様と同様に、酸素飽和度の測定精度を向上できる酸素飽和度測定方法を実現できる。
【0029】
本開示の第9の態様に係る酸素飽和度測定プログラムは、動脈に対して、赤色光と、赤外光と、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する参照光を投光する処理と、投光された赤色光と赤外光と参照光とのそれぞれに対応する透過光又は反射光を受光光として受光する処理と、赤色光の受光光の光強度に応じた第一脈波信号と、赤外光の受光光の光強度に応じた第二脈波信号と、参照光の受光光の光強度に応じた第三脈波信号と、を取得する処理と、第一脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第一情報を算出する処理と、第二脈波信号の強度と第三脈波信号の強度とに基づいて第二情報を算出する処理と、それぞれ算出された第一情報と第二情報とに基づいて酸素飽和度を算出することによって動脈の酸素飽和度を測定する処理と、をプロセッサに実行させる。
【0030】
第9の態様によれば、第1の態様と同様に、酸素飽和度の測定精度を向上できる酸素飽和度測定プログラムを実現できる。
【発明の効果】
【0031】
本開示に係る酸素飽和度測定装置、酸素飽和度測定方法及び酸素飽和度測定プログラムによれば、測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本開示の実施形態に係る酸素飽和度測定装置を説明する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置のセンサユニットを説明する断面図である。
【
図3】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置のプロセッサのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置を用いた酸素飽和度測定方法を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5(A)は、測定対象の動脈に投光された赤色光の反射光から得られた第一脈波信号の波形を説明する図であり、
図5(B)は、測定対象の動脈に投光された赤外光の反射光から得られた第二脈波信号の波形を説明する図であり、
図5(C)は、測定対象の動脈に投光された参照光の反射光から得られた第三脈波信号の波形を説明する図である。
【
図6】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置を用いた酸素飽和度測定方法において、第一脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとの散布図に対して最小二乗法を用いて第一回帰直線を求める方法を説明するグラフである。
【
図7】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置を用いた酸素飽和度測定方法において、第二脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとの散布図に対して最小二乗法を用いて第二回帰直線を求める方法を説明するグラフである。
【
図8】第1比較例に係る酸素飽和度測定装置を用いた酸素飽和度測定方法において、第一脈波信号のデータと第二脈波信号のデータとの散布図に対して最小二乗法を用いて回帰直線を求める場合のデータのばらつきを説明するグラフである。
【
図9】本実施形態に係る酸素飽和度測定装置を用いた酸素飽和度測定方法において、第一脈波信号のデータと第三脈波信号のデータとの散布図に対して最小二乗法を用いて回帰直線を求める場合のデータのばらつきを説明するグラフである。
【
図10】本実施形態に係る実施例、第1比較例及び第2比較例のそれぞれにおいて算出された吸光度比を説明するグラフである。
【
図11】本実施形態に係る実施例、第1比較例及び第2比較例のそれぞれの吸光度比の算出にかかった処理時間を説明するグラフである。
【
図12】第一脈波信号のAC/DCを目的変数とすると共に、第二脈波信号のAC/DCを説明変数とした散布図において、拍動に関連したデータの分布と外れ値の分布との重なりの状態を説明するグラフである。
【
図13】第一脈波信号のAC/DCを目的変数とすると共に、第三脈波信号のAC/DCを説明変数とした散布図において、拍動に関連したデータの分布と外れ値の分布との重なりの状態を説明するグラフである。
【
図14】第一脈波信号のAC/DCと第二脈波信号のAC/DCとを第三脈波信号の信号強度順で並び替えた場合の散布図において、拍動に関連したデータの分布と外れ値の分布とを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0034】
<酸素飽和度測定装置>
本実施形態に係る酸素飽和度測定装置10の構造を、
図1~
図3を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る酸素飽和度測定装置10は、バンド12と、筐体14と、センサユニット16と、表示部18と、演算制御部20と、を備える、被測定者が装着可能な携帯型のウェアラブルデバイスである。
【0035】
また、本実施形態に係る酸素飽和度測定装置10には、駆動電源11が設けられる。駆動電源11は、1次電池であってもよいし、或いは2次電池であってもよい。なお、本開示では、酸素飽和度測定装置の形状は、被測定者が装着可能なウェアラブルデバイスに限定されない。本開示の酸素飽和度測定装置は、装着の有無を問わない携帯型、例えば、手首に近接可能な携帯型であってもよいし、或いは据置型等、任意に構成されてよい。
【0036】
なお、本明細書では「前腕の延びる方向E」は、被測定者の橈骨の延びる方向、尺骨の延びる方向及び動脈の延びる方向のいずれの方向とも重なる。また「前腕の延びる方向E」は、厳密には被測定者毎に異なる。すなわち「前腕の延びる方向E」は、3次元空間内で座標によって一義的に決定されるものではなく、被測定者毎の橈骨の延びる方向、尺骨の延びる方向及び動脈の延びる方向に基づいて個別に決定される。
【0037】
(バンド)
図1に示すように、バンド12は、手首の周方向Cに沿って、被測定者の手首に巻かれる。バンド12の素材は、例えば樹脂、布地、金属等、任意である。また、バンド12には手首に巻かれた際の長さを調節し、かつ、固定するための留め金が設けられる。
【0038】
(筐体)
筐体14は、バンド12に取り付けられ、被測定者の手首の甲側(すなわち、手背側)の表面に接触する。筐体14の素材は、樹脂や金属等、任意である。筐体14は、前腕の延びる方向Eに沿って一定の幅を有する。筐体14には、センサユニット16と、表示部18と、演算制御部20とが設けられる。
【0039】
(表示部)
図1に示すように、表示部18は、筐体14の手首とは反対側の表面に配置される。表示部18は、例えば液晶等によって形成される画像表示装置である。表示部18は、演算制御部20による演算結果を、被測定者が視認できるように、外部に対して表示する。表示部18には、測定結果を一時的に保存する記憶装置が設けられてもよい。
【0040】
(センサユニット)
センサユニット16は、バンド12に取り付けられる。センサユニット16は、手首の動脈の脈波信号を取得すると共に、取得された脈波信号に基づいて手首の動脈の酸素飽和度を測定する。本実施形態のセンサユニットは、被測定者の手首の手背側で、例えば、背側手根動脈網に含まれる動脈に対向する。背側手根動脈網には、橈骨動脈からの枝や尺骨動脈からの枝が含まれる。なお、本開示では、測定対象の動脈は、手首の動脈に限定されない。
【0041】
図2に示すように、センサユニット16は、第一発光素子LED1と第二発光素子LED2と第三発光素子LED3とを有する発光部16Aと、受光素子PDを有する受光部16Bと、を有する。すなわち、本実施形態では、3つの発光素子と、3つの発光素子に対応する1つの受光素子とによって、1つの「センサユニット」が構成される。なお、本開示では、複数のセンサユニットが設けられてよい。また、1つの「センサユニット」中に含まれる発光素子の個数と、受光素子の個数とは、いずれも任意に設定できる。
【0042】
筐体14における発光部16Aと外部との間には、開口部14Aが形成される。開口部14Aには、発光素子から投光される光に対する透光性を有する光学装置15Aが配置される。光学装置15Aは、例えば、照射領域を拡大可能な拡散レンズである。また、図示を省略するが、発光素子の上側に、拡散レンズと共に、又は拡散レンズの代わりに拡散剤が配置されてもよい。
【0043】
また、筐体14における受光部16Bと外部との間には、開口部14Bが形成される。開口部14Bには、手首の動脈からの反射光に対する透光性を有する光学装置15Bが配置される。光学装置15Bは、例えば、反射光を集めることが可能な集光レンズである。なお、本開示では、光学装置15A及び光学装置15Bは、必須ではない。
【0044】
(発光素子)
第一発光素子LED1と第二発光素子LED2と第三発光素子LED3とは、いずれも例えば発光ダイオード(LED)等の電子部品である。それぞれの発光素子は、手首の動脈に対し光を照射する。第一発光素子LED1と第二発光素子LED2と第三発光素子LED3とは、互いに離れて配置される。なお、本開示では、第一発光素子、第二発光素子及び第三発光素子のそれぞれの個数は、1つ以上、任意である。
【0045】
(第一発光素子及び第二発光素子)
第一発光素子LED1は、動脈に対して赤色光を投光する。第二発光素子LED2は、動脈に対して赤外光を投光する。
図2中には赤色光の波長λ1が、第一発光素子LED1の内側に例示されると共に、赤外光の波長λ2が、第二発光素子LED2の内側に例示されている。なお、第一発光素子LED1と第二発光素子LED2とは、それぞれが投光した光の光路が可能な限り同一に近づくように配置されることが、測定精度を高める観点から好ましい。
【0046】
(赤色光及び赤外光)
酸素飽和度の測定処理では、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの吸光係数が異なる2つの波長帯を組み合わせて用いる必要がある。波長帯の組み合わせとしては、波長帯がおおよそ590nm以上、770nm以下の範囲である赤色領域と、波長帯がおおよそ770nm以上、1000nm以下の範囲である赤外領域との組み合わせが好ましい。
【0047】
特に、精度を高めて酸素飽和度を測定するためには、酸化ヘモグロビンの吸光係数と還元ヘモグロビンの吸光係数との差が大きいほうが望ましい。このため、赤色光のピーク波長は、640nm以上、660nm以下の範囲内であると共に、赤外光のピーク波長は、940nm程度であることが好ましい。本実施形態では、赤色光と赤外光とは、動脈の1つの拍動の間に、例えば1回のように、時間的に間欠的に投光される。
【0048】
(第三発光素子)
第三発光素子LED3は、参照光を投光する。参照光は、動脈に対して赤色光及び赤外光よりSN比が高い波長を有する。
図2中には参照光の波長λ3が、第三発光素子LED3の内側に例示されている。本実施形態では参照光は、例えば、動脈の1つの拍動の間に10回や20回等、時間的に連続して投光される。
【0049】
(参照光)
参照光は、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長を有する。本実施形態では、光電式容積脈波記録法(PPG)で得られる参照光に対応する受光光の脈波信号のSN比は、赤色光のSN比と赤外光のSN比との両方より高い。参照光としては、例えば、動脈の血液中での吸光係数が比較的大きい、430nm以上、590nm以下の波長帯の光が好ましい。具体的には、波長帯が430nm以上、490nm以下の範囲である青色領域や、波長帯が490nm以上、550nm以下の範囲である緑色領域が好ましい。
【0050】
本実施形態では、特に、ピーク波長が530nm以上、540nm以下である緑色光は、血液中のヘモグロビンに吸収され易く、かつ、動脈血管の容積変化を捉え易いため、SN比が比較的高い脈波信号を得られる点で好ましい。また、緑色光の波長帯のLED光源は、市場における入手性が高いと共に、比較的低価格であるため、参照光を照射する第三発光素子として有利である。なお、本開示では、430nm以下の紫色領域及び紫外領域の波長帯の光源についても、参照光の光源として除外されない。
【0051】
なお、本開示では、参照光は、緑色光に限定ない。本開示では、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い限り、ヘモグロビン吸収スペクトルから取り得る任意の帯域の光を参照光として採用できる。
【0052】
(受光素子)
受光素子PDは、例えばフォトダイオード(PD)等の電子部品である。受光素子PDは、発光素子に対し予め設定された位置に配置される。本実施形態では、受光素子PDの個数は、1つであるが、本開示では、受光素子の個数は、複数であってもよい。
【0053】
受光素子PDは、赤色光に対応する反射光を受光し、受光された反射光の光強度に応じた第一脈波信号を出力する。また、受光素子PDは、赤外光に対応する反射光を受光し、受光された反射光の光強度に応じた第二脈波信号を出力する。また、受光素子PDは、参照光に対応する反射光を受光し、受光された反射光の光強度に応じた第三脈波信号を出力する。具体的な酸素飽和度の測定には、受光素子が受光する赤色光と赤外光との2種類の反射光が用いられる。
【0054】
なお、本開示では、受光素子は、赤色光、赤外光及び参照光のそれぞれの反射光に限定されず、それぞれの光に対応する透過光を受光し、受光された透過光の光強度に応じたそれぞれの脈波信号を出力してもよい。すなわち、本実施形態に係る酸素飽和度測定装置10は、反射光によって脈波信号の強度が測定される反射型であるが、本開示では反射型に限定されず、透過光によって脈波信号の強度が測定される透過型の酸素飽和度測定装置が構成されてもよい。
【0055】
また、図示を省略するが、発光素子と受光素子との間には、遮光部が設けられてもよい。遮光部によって、受光素子が発光素子からの光を直接受光することが防止される。
【0056】
(酸素飽和度の測定原理)
ここで、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比が算出される場合の酸素飽和度の測定原理を説明する。具体的には、赤色光の第一脈波信号と赤外光の第二脈波信号とのそれぞれの強度の変化を経時的にモニタする。そして、第一脈波信号のデータと第二脈波信号のデータとを、それぞれ経時的に対応するデータをXY座標軸の中にプロットすることによってデータの散布図を算出する。例えば、X軸の側に説明変数として第二脈波信号のデータの値を、また、Y軸の側に目的変数として第一脈波信号のデータの値を配置できる。
【0057】
そして、散布図に含まれるデータに対して回帰処理が行われることによって、回帰直線を求める。求められた回帰直線の傾きは、赤外光の吸光度(AC/DC)に対する赤色光の吸光度(AC/DC)の比、すなわち吸光度比Φに対応する。それぞれの光の吸光度(AC/DC)は、脈波信号の固定成分DCに対する変動成分ACの比である。そして、算出された吸光度比Φを以下の式(1)に用いることによって、酸素飽和度を算出することができる。
酸素飽和度[%]=a×Φ+b ・・・式(1)
式(1)中の係数a,bは、実験によって求めることができる。
【0058】
(演算制御部)
本実施形態では演算制御部20は、筐体14に設けられる。プロセッサは、第一発光素子と第二発光素子と第三発光素子と受光素子PDとに電気的に接続される。演算制御部20には、それぞれの発光素子から投光された光に対応する反射光の脈波信号のデータが、受光素子PDから経時的に入力される。演算制御部20は、反射光から取得された脈波信号に基づき、光が照射された動脈の酸素飽和度をPI値の比を用いる方法等によって測定する。
【0059】
図3に示すように、演算制御部20は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、ユーザインタフェース25及び通信インタフェース26を有する。各構成は、バス27を介して相互に通信可能に接続されている。
【0060】
CPU21は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU21は、ROM22又はストレージ24からプログラムを読み出し、RAM23を作業領域としてプログラムを実行する。CPU21は、ROM22又はストレージ24に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。CPU21は、本開示のプロセッサである。
【0061】
本実施形態では、ROM22又はストレージ24には、酸素飽和度測定プログラムが格納されている。酸素飽和度測定プログラムは、酸素飽和度を測定するための演算プログラムである。
【0062】
ROM22は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ24は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0063】
ユーザインタフェース25は、ウェアラブルデバイスである酸素飽和度測定装置10を装着する被測定者が演算制御部20を使用する際のインタフェースである。ユーザインタフェース25は、例えば、被測定者によるタッチ操作を可能とするタッチパネルを備えた液晶ディスプレイ、被測定者による音声入力を受け付ける音声入力受付部、及び被測定者が押下可能なボタン等の少なくとも一つを含み得る。本実施形態の表示部は、ユーザインタフェース25の一例である。
【0064】
通信インタフェース26は、演算制御部20が、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0065】
酸素飽和度測定プログラムを実行する際に、酸素飽和度測定装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。酸素飽和度測定装置10が実現する機能構成として、酸素飽和度測定装置10は、脈波信号取得部、回帰直線算出部、吸光度比算出部及び酸素飽和度測定部を有する。各機能構成は、CPU21が、ROM22又はストレージ24に記憶された酸素飽和度測定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0066】
<酸素飽和度測定方法>
次に、本実施形態に係る酸素飽和度測定装置10を用いた酸素飽和度測定方法の一例を、
図4~
図11を参照して説明する。
【0067】
(脈波信号取得処理)
まず、
図4中のステップS1に示すように、プロセッサ21の脈波信号取得部は、第一発光素子LED1を用いて、動脈に対して赤色光を投光する。また、プロセッサ21は、第二発光素子LED2を用いて、動脈に対して赤外光を投光する。また、プロセッサ21は、第三発光素子LED3を用いて、動脈に対して赤色光及び赤外光より動脈からの反射光のSN比が高い波長を有する参照光を投光する。
【0068】
次に、
図4中のステップS2に示すように、プロセッサ21は、投光された赤色光に対応する反射光を、受光素子PDを用いて受光する。また、プロセッサ21は、投光された赤外光に対応する反射光を受光する。また、プロセッサ21は、投光された参照光に対応する反射光を受光する。
【0069】
次に、
図4中のステップS3に示すように、プロセッサ21は、受光された反射光の光強度に応じた第一脈波信号PS1を受光素子PDから時間的に連続して取得する。また、プロセッサ21は、受光された反射光の光強度に応じた第二脈波信号PS2を受光素子PDから時間的に連続して取得する。また、プロセッサ21は、受光された反射光の光強度に応じた第三脈波信号PS3を受光素子PDから時間的に連続して取得する。
図5(A)中には取得された第一脈波信号PS1の波形が、
図5(B)中には取得された第二脈波信号PS2の波形が、
図5(C)中には取得された第三脈波信号PS3の波形が、それぞれ例示されている。
【0070】
(回帰直線算出処理)
次に、
図4中のステップS4に示すように、プロセッサ21の回帰直線算出部は、第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとに基づいて第一回帰直線を算出する。また、
図4中のステップS5に示すように、プロセッサ21は、第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとに基づいて第二回帰直線を算出する。
【0071】
具体的には、プロセッサ21は、
図6に示すように、第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとを座標軸中に配置する。本実施形態では、赤色光の第一脈波信号PS1のデータがY軸に配置されると共に、参照光の第三脈波信号PS3のデータがX軸に配置される場合が例示されている。そして、プロセッサ21は、配置されたそれぞれのデータに対し、第一脈波信号PS1のデータが配置された側のY軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法を行う。回帰分析としての最小二乗法が行われることによって、第一回帰直線が算出される。
【0072】
なお、本開示では、赤色光の第一脈波信号PS1のデータがX軸に配置されると共に、参照光の第三脈波信号PS3のデータがY軸に配置されてもよい。赤色光の第一脈波信号PS1のデータがX軸に配置される場合、第一脈波信号PS1のデータが配置された側のX軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われることによって、第一回帰直線が算出される。
【0073】
また、プロセッサ21は、
図7に示すように、第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとを座標軸中に配置する。本実施形態では、赤外光の第二脈波信号PS2のデータがY軸に配置されると共に、参照光の第三脈波信号PS3のデータがX軸に配置される場合が例示されている。そして、プロセッサ21は、配置されたそれぞれのデータに対し、第二脈波信号PS2のデータが配置された側のY軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法を行う。回帰分析としての最小二乗法が行われることによって、第二回帰直線が算出される。
【0074】
なお、本開示では、赤外光の第二脈波信号PS2のデータがX軸に配置されると共に、参照光の第三脈波信号PS3のデータがY軸に配置されてもよい。赤外光の第二脈波信号PS2のデータがX軸に配置される場合、第二脈波信号PS2のデータが配置された側のX軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われることによって、第二回帰直線が算出される。
【0075】
(最小二乗法が用いられた回帰直線の傾きについて)
ここで、
図8に示すように、最小二乗法では、X軸とY軸との両方の変数にばらつきがある場合、データの分布を表す散布図の全体形状は、点線の楕円状である。
【0076】
最小二乗法では、一方の軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われるため、最小二乗法によって求められた回帰直線は、真の関係を表す直線よりも、他方の軸の側に偏り易い。
図8中には、Y軸に沿った距離の二乗和が最小になるように最小二乗法が用いられた回帰直線の実線の傾きが、真の関係を表す直線の方程式の破線の傾きよりもX軸の側に傾いた場合が例示されている。
【0077】
このため、
図8中の楕円の左下側に描かれた、実線の双方向矢印の長さと破線の双方向矢印の長さとから分かるように、X軸に配置されたデータのばらつきに起因する、真の関係を表す直線からの回帰直線の偏差が大きくなる。結果、最小二乗法が用いられた回帰直線の傾きは、真の関係を表す直線の方程式の傾きから乖離し易い。
【0078】
一方、
図9に示すように、本実施形態では、X軸に、SN比が高い参照光の受光光の脈波信号のデータが配置される。換言すると、X軸における受光光の脈波信号のばらつきは、Y軸における受光光の脈波信号のばらつきと比べて、大きく抑制されている。
【0079】
図9中には、軸に沿った距離の二乗和が最小になるように最小二乗法が用いられた回帰直線が、真の関係を表す直線とほぼ同じである場合が例示されている。また、データの分布を表す散布図の全体形状は、点線の平行四辺形状である。このため、
図9中の回帰直線を挟んで形成されたデータの分布のばらつきは、Y軸に沿って、ほぼ上下対称である。すなわち、本実施形態では、X軸のばらつきに起因する、真の関係を表す直線からの偏差が生じ難い。
【0080】
このため、本実施形態では、回帰直線の傾きは、真の関係を表す直線の方程式の傾きから乖離し難い。なお、本開示では、回帰直線を求める回帰手段としては、最小二乗法に限定されない。本開示では、例えば標準主軸回帰やデミング回帰等、任意の回帰手段を採用できる。
【0081】
(第一情報及び第二情報)
本実施形態の第一回帰直線の傾きは、本開示の「第一情報」に対応する。本実施形態の第一情報は、参照光の受光光に関する情報を基準として設定された、赤色光の受光光に関する情報である。また、本実施形態の第二回帰直線の傾きは、本開示の「第二情報」に対応する。本実施形態の第二情報は、参照光の受光光に関する情報を基準として設定された、赤外光の受光光に関する情報である。
【0082】
なお、本実施形態では、第一情報と第二情報との比として、第一情報に対する第二情報の比が用いられたが、本開示では、第二情報に対する第一情報の比が用いられてもよい。また、本開示では、第一情報と第二情報とは、回帰直線すなわち関係式から導かれる傾きに限定されない。第一情報と第二情報とは、例えば、傾き以外の数値や、数値の集合であってもよいし、或いは、回帰直線以外の関係式から導かれる数値であってもよい。
【0083】
(回帰直線の式)
ここで、回帰直線の算出に用いる要素を以下のように設定する。
Sred:赤色光の吸光度(AC/DC)
Sir:赤外光の吸光度(AC/DC)
Sgreen:緑色光の吸光度
Φ1:緑色光の吸光度に対する赤色光の吸光度の比
Φ2:緑色光の吸光度に対する赤外光の吸光度の比
b1:第一回帰直線の切片
b2:第二回帰直線の切片
【0084】
このため、
図5に示すように、第一回帰直線の式は、
S
red=Φ1・S
green+b1
と設定できる。
【0085】
また、
図6に示すように、第二回帰直線の式は、
S
ir=Φ2・S
green+b2
と設定できる。
【0086】
(吸光度比算出処理)
次に、
図4中のステップS6に示すように、プロセッサ21の吸光度比算出部は、それぞれ算出された第一回帰直線の傾きと第二回帰直線の傾きとに基づいて、第二脈波信号PS2に対する第一脈波信号PS1の吸光度比を算出する。換言すると、第一回帰直線と第二回帰直線との連立方程式を解くことによって、吸光度比が求められる。
【0087】
具体的には、赤外光の吸光度Sirに対する赤色光の吸光度Sredの比を吸光度比Φとすると、
Φ=Sred/Sir=(Φ1・Sgreen+b1)/(Φ2・Sgreen+b2)
となる。
【0088】
ここで、変数同士の線形性から切片b1,b2が原点を通ることによって、b1=b2=0と見做すことができる。よって、
Φ≒(Φ1・Sgreen)/(Φ2・Sgreen)=Φ1/Φ2
【0089】
すなわち、本実施形態では、参照光の第三脈波信号PS3のデータは、赤色光の吸光度と赤外光の吸光度との値のばらつきを抑制するために測定用の算出過程の中に介在する。
【0090】
(酸素飽和度測定処理)
次に、
図4中のステップS7に示すように、プロセッサ21の酸素飽和度測定部は、算出された吸光度比に基づいて、動脈の酸素飽和度を算出する。算出された酸素飽和度は、測定値として表示部18に表示される。
【実施例0091】
次に、本実施形態に係る実施例として、シミュレーション解析を用いて行われた第1解析例と第2解析例とを、
図10及び
図11を参照しつつ説明する。
【0092】
(第1解析例)
第1解析例では、本実施形態に係る実施例、第1比較例及び第2比較例のそれぞれにおいて算出された吸光度比を比較した。
【0093】
具体的には、脈波信号を模して、解析用の三角波信号を生成した。生成された三角波信号には、全波長範囲におけるランダムなノイズ、いわゆるホワイトノイズを含ませた。三角波信号のそれぞれSN比は、
図10中の横軸に示すように、2、4、8、16、32、64、128、256の8パターンである。そして、8パターンのSN比のそれぞれにおいて、実施例、第1比較例及び第2比較例のそれぞれの演算方法を行い、吸光度比Φを算出した。
【0094】
第1比較例及び第2比較例では、参照光は使用されず、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比Φが算出された。第1比較例では、赤色光の第一脈波信号のデータと赤外光の第二脈波信号のデータの散布図に対して、最小二乗法が用いられた。また、第2比較例では、赤色光の第一脈波信号のデータと赤外光の第二脈波信号のデータの散布図に対して、直交距離回帰が用いられた。
【0095】
図10に示すように、実施例において算出された吸光度比Φは、8パターンのSN比のいずれにおいても、直交距離回帰の第2比較例の場合と同様、真値に近い値であった。特に、実施例の吸光度比Φは、SN比が2又は4等の比較的低いパターンであっても、直交距離回帰と同様に、真値に近い値であった。第1解析例によって、実施例は、直交距離回帰と同程度の測定精度を実現できることが分かった。
【0096】
(第2解析例)
第2解析例では、本実施形態に係る実施例、第1比較例及び第2比較例のそれぞれの吸光度比の算出にかかった処理時間を比較した。第2解析例で使用されたCPUは、Intel社製Xeon(コア数:8、周波数:2.20GHz)であった。第2解析例におけるその他の解析条件は、第1解析例の場合と同様である。
【0097】
図11に示すように、直交距離回帰の第2比較例では、繰り返し計算量が最小二乗法と比べ多いため、処理時間が多いことが分かる。一方、実施例において吸光度比の算出にかかった処理時間は、8パターンのSN比のいずれにおいても、真値に近い値であった。直交距離回帰の第2比較例より短かった。特に、実施例の処理時間は、SN比が2、4又は6等の比較的低いパターンであっても、第2比較例の半分以下であった。第2解析例によって、実施例は、直交距離回帰より短い処理時間を実現できることが分かった。
【0098】
(第1変形例)
次に、本実施形態に係る酸素飽和度測定装置の変形例を説明する。第1変形例に係る酸素飽和度測定装置には、上記の本実施形態で説明した酸素飽和度を測定する算出手段以外にも、酸素飽和度を測定可能な異なる算出手段が搭載されている。このため、プロセッサ21は、搭載された複数の算出手段に基づき、複数の酸素飽和度を算出することが可能である。そして、第1変形例では、算出された複数の酸素飽和度の中から1つの酸素飽和度を、予め設定された基準に基づき動脈の酸素飽和度として決定するようにプロセッサ21が構成される。
【0099】
具体的には、例えば、プロセッサ21は、脈波の最大値及び/又は最小値に基づき算出する方法や回帰法などの酸素飽和度算出手段による酸素飽和度測定処理を並列的に実行することによって、それぞれ異なる酸素飽和度を算出できる。算出された複数の酸素飽和度のうち、例えば、外れ値をより多く含んで算出されたと考えられる酸素飽和度を除外するように、1つの値が決定され得る。すなわち、外れ値の大小関係が、基準として用いられる。
【0100】
また、算出された複数の酸素飽和度のうち、例えば、計測した脈波信号のSN比や基線変動の大きさといった基準に基づき、正確性が低いと考えられる酸素飽和度を除外するように、1つの値が決定され得る。或いは、正確性が高いと考えられる複数の酸素飽和度を選定し、平均値や中央値を求めることで、1つの値が決定されてもよい。また、他の基準としては、例えば、被測定者の過去の測定に取得された実績値に応じて設定された一定の範囲等であってもよく、本開示では基準は、適宜、設定できる。
【0101】
(第2変形例)
第2変形例に係る酸素飽和度測定装置では、プロセッサ21は、受光素子PDによってそれぞれ出力された第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとのうち、動脈の拍動に関連しない外れ値を除いて、第一回帰直線を算出するように構成される。また、プロセッサ21は、受光素子PDによってそれぞれ出力された第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとのうち、動脈の拍動に関連しない外れ値を除いて第二回帰直線を算出する。
【0102】
具体的には、プロセッサ21は、受光素子PDによって出力された複数のデータのうち、予め設定された閾値を満たすデータを外れ値として決定する。第一回帰直線の算出において設定される閾値は、第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとの間の関係性に基づいて設定される。また、第二回帰直線の算出において設定される閾値は、第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとの間の関係性に基づいて設定される。
【0103】
なお、本実施形態では、外れ値を除いて回帰直線を算出する処理は、第一回帰直線の算出と第二回帰直線の算出との両方において実行される場合が例示されたが、本開示では、少なくとも一方の回帰直線の算出において実行されればよい。
【0104】
(閾値)
本実施形態では、外れ値を検出するための本開示の閾値の例として、例えば第一閾値と第二閾値とを設定できる。なお、本開示では、外れ値を検出するための閾値は、第一閾値と第二閾値とに限定されず、任意に設定できる。
【0105】
(第一閾値)
脈波信号には、変動成分(AC)と、変動しない固定成分(DC)とが含まれる。赤色光の第一脈波信号と赤外光の第二脈波信号とのそれぞれから、固定成分に対する変動成分の比(AC/DC)のデータが算出される。
【0106】
そして、第一脈波信号のAC/DCのデータを目的変数とすると共に、第二脈波信号のAC/DCのデータを説明変数としたデータの散布図では、第一脈波信号のAC/DCのデータと第二脈波信号のAC/DCのデータとの相関が比較的低い。このため、
図12に示すように、拍動に関連したデータの分布と外乱による外れ値の分布とは、重なり合う領域が比較的大きくなる。結果、拍動に関連したデータの分布と外乱による外れ値の分布とは、分離し難い、すなわち、外れ値を検出し難い。
【0107】
一方、第一脈波信号のAC/DCのデータを目的変数とすると共に、参照光の第三脈波信号のAC/DCのデータを説明変数としたデータの散布図では、第一脈波信号のAC/DCのデータと第三脈波信号のAC/DCのデータとの相関が、比較的高い。このため、拍動に関連したデータの分布と外乱による外れ値の分布とが、分離し易くなる。
【0108】
具体的には例えば、マハラノビス距離のような、データの分布との相対距離を表す予め設定された指標を第一閾値として設定する。例えば、設定された第一閾値以上に基準値から離れたデータを拍動に関連しないデータと設定することによって、外れ値を容易に検出できる。
図13中には、点線の楕円によって、データの約95%を含むマハラノビス距離が例示されている。本実施形態では、例えば、
図13中の楕円の範囲に含まれないデータを外れ値として除外できる。
【0109】
(第二閾値)
赤色光の第一脈波信号のAC/DCのデータと赤外光の第二脈波信号のAC/DCのデータとを時間的に連続して取得された参照光の第三脈波信号の信号強度順で並び替えた場合、赤色光と赤外光とが信号強度順に配置されることが、各色の線形性から期待される。
【0110】
しかし、
図14に示すように、外乱による外れ値は、赤色光及び赤外光のような線形性を有さないため、第三脈波信号の信号強度順で並び替えても、期待順位と実際の順位との差が大きくなる。このため、予め設定された期待順位と実際の順位との差を第二閾値として設定する。例えば、設定された第二閾値以上に実際の順位が期待順位から離れたデータを拍動に関連しないデータと設定することによって、外れ値を容易に検出できる。
【0111】
(作用効果)
本実施形態では、第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとに基づいて第一回帰直線が算出されると共に、第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとに基づいて第二回帰直線が算出される。また、第三脈波信号PS3は、赤色光及び赤外光よりも動脈からの受光光のSN比が高い波長を有する参照光に対応する脈波信号である。
【0112】
そして、第一回帰直線の傾きと第二回帰直線の傾きとに基づいて、第二脈波信号PS2に対する第一脈波信号PS1の吸光度比が算出され、算出された吸光度比に基づいて動脈の酸素飽和度が測定される。
【0113】
すなわち、本実施形態では、動脈に対して投光される参照光の波長は、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長である。このため、参照光に対応する第三脈波信号PS2のSN比は、赤色光及び赤外光よりも高くなる。すなわち、受光光の脈波信号のSN比は、投光される光の波長に依存する。酸素飽和度の算出アルゴリズムの中に、赤色光と赤外光との2つの光以外の第3の光としての参照光が介在する。参照光の介在によって、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比が算出される場合に比べ、回帰直線の傾きが真の関係を表す直線の方程式の傾きから乖離することが抑制される。このため、赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて吸光度比が算出される場合に比べ、酸素飽和度の測定精度を向上できる。
【0114】
また、本実施形態では、第一脈波信号PS1のデータと第三脈波信号PS3のデータとが座標軸中に配置される。また、配置されたそれぞれのデータに対し、第一脈波信号PS1のデータが配置された側の軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われることによって第一回帰直線が算出される。
【0115】
また、第二脈波信号PS2のデータと第三脈波信号PS3のデータとを座標軸中に配置される。また、配置されたそれぞれのデータに対し、第二脈波信号PS2のデータが配置された側の軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われることによって第二回帰直線が算出される。すなわち、第一回帰直線と第二回帰直線との算出のために使用される回帰手段の種類は、最小二乗法のみである。
【0116】
ここで、例えば直交距離回帰のような主成分回帰の算出アルゴリズムは、最小二乗法に比べて複雑であるため、全体の計算量が多くなる。このため、例えば測定装置の消費電力が大きくなったり処理時間が長くなったりするといった、計算負荷が大きくなるという問題が生じる。このため、最小二乗法のみが用いられる本実施形態では、直交距離回帰等が用いられる場合と比べて、全体の計算量を低減できるので、計算負荷を抑制できる。
【0117】
また、本実施形態では、第三脈波信号PS3のデータを介在させることによって第一回帰直線と第二回帰直線とをまず算出し、第一回帰直線の傾きと第二回帰直線の傾きとを用いて、間接的に算出する。介在する第三脈波信号PS3の参照光の波長は、赤色光及び赤外光よりも酸化ヘモグロビンの吸収係数と還元ヘモグロビンの吸収係数とが高い波長であるため、赤色光及び赤外光よりも動脈からの受光光のSN比が高い。このため、第三脈波信号PS3のデータが配置された側の軸に沿った距離の二乗和が最小になる最小二乗法が行われなくても、第三脈波信号PS3のデータに起因する回帰直線の傾きへの影響を抑制できる。
【0118】
よって、回帰法として最小二乗法のみが用いられても、赤色光と赤外光との吸光度比を赤色光と赤外光との2つの光のみを用いて直接的に算出する場合に比べ、傾きの算出精度を向上できる。結果、酸素飽和度の測定精度の向上と計算負荷の抑制との両立を図ることができる。
【0119】
また、本実施形態では、第1変形例のように、算出された複数の酸素飽和度の中から1つの酸素飽和度が、予め設定された基準に基づき動脈の酸素飽和度として決定される。特性の異なる算出方法が複数搭載されることで、酸素飽和度測定におけるロバスト性を向上できると共に酸素飽和度の測定精度をより向上できる。
【0120】
また、本実施形態では、第2変形例のように、第一回帰直線及び第二回帰直線の算出において、動脈の拍動に関連しない外れ値が除かれるので、酸素飽和度の測定精度を一層向上できる。
【0121】
また、本実施形態では、計算負荷が抑制されることによって、長寿命化を図ることが可能なウェアラブルデバイスを実現できる。
【0122】
<その他の実施形態>
本開示は上記の開示された実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本開示を限定するものであると理解すべきではない。
【0123】
本開示では例えば、第一情報は、第三脈波信号の強度と第一脈波信号の強度との比の平均値であってもよい。また、第二情報は、第三脈波信号の強度と第二脈波信号の強度との比の平均値であってもよい。そして、いずれも比の平均値である第一情報と第二情報との比に基づいて酸素飽和度が精度よく算出されてもよい。いずれも比の平均値である第一情報と第二情報とを用いて、酸素飽和度を精度よく算出できる。
【0124】
また、例えば、参照光の第三脈波信号のSN比は、赤色光や赤外光よりも相対的に高いため、赤色光や赤外光の発光タイミングの制御に使用できる。具体的には例えば、脈波の最大値と最小値とが得られるタイミングに発光タイミングを同期させたり、最大値と最小値とが得られるタイミングに応じて発光タイミングを一定期間内に制限したりすることができる。脈波の最大値と最小値とが得られるタイミングに基づいて発光タイミングが選択的に制御されることによって、第一発光素子と第二発光素子とのそれぞれの発光回数を減らすことができ、結果、低消費電力化を実現することが可能である。
【0125】
また、節約された電力を赤色光と赤外光とのそれぞれの発光強度に還元すれば、赤色光の第一脈波信号と赤外光の第二脈波信号とのそれぞれの振幅値のSN比を向上できる。このため、振幅値のSN比が高いデータのみを選択的に収集することができ、結果、測定精度をより向上させることができる。
【0126】
また、例えば、本開示では、上記の実施形態で、CPU21がソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した酸素飽和度測定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。
【0127】
また、酸素飽和度測定処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0128】
また、上記各実施形態では、酸素飽和度測定プログラムがROM22又はストレージ24に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0129】
本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。