(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060463
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240424BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240424BHJP
A61K 36/282 20060101ALI20240424BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20240424BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240424BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240424BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/73
A61K36/282
A61K36/736
A61P17/00
A61Q19/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167845
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】399101201
【氏名又は名称】健栄製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】筒井 優
(72)【発明者】
【氏名】南 貴大
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC122
4C083AC302
4C083AC482
4C083AD092
4C083AD311
4C083AD312
4C083AD352
4C083AD532
4C083CC02
4C083CC04
4C083EE12
4C088AB29
4C088AB52
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA02
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】ヘパリン類似物質を含む皮膚外用組成物であって、従来よりも高い皮膚の保湿作用を有しつつ、好ましくは、敏感肌にも刺激が少ない皮膚外用組成物、好ましくは保湿剤を提供する。
【解決手段】ヘパリン類似物質と、ヨモギ属植物またはモモの抽出物と、液状担体と、を含有する皮膚外用組成物を提供する。前記抽出物の含有量は、皮膚外用組成物に対して、0.0001質量%~1質量%の範囲であることが好ましい。また、前記ヘパリン類似物質の含有量は、皮膚外用組成物に対して、0.005質量%~5質量%の範囲であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質と、ヨモギ属植物またはモモの抽出物と、液状担体と、を含有する皮膚外用組成物。
【請求項2】
前記抽出物が、前記皮膚外用組成物に対して、有効成分含量として0.0001質量%~1質量%の範囲で含まれる、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
前記ヘパリン類似物質の含有量は、前記皮膚外用組成物に対して、0.005質量%~5質量%である、請求項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
保湿剤である、請求項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
ヘパリン類似物質を含む皮膚外用組成物の保湿作用を増強する方法であって、
前記皮膚外用組成物に、ヨモギ属植物またはモモの抽出物を配合することを含む、保湿作用増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用組成物及び保湿作用増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン類似物質を含む組成物は、外用剤として皮膚に適用されると、皮膚の保湿作用や、皮膚の抗炎症作用や、血行促進作用などが得られることが知られている(非特許文献1)。そのため、ヘパリン類似物質を含む外用組成物がいくつか提案されており、例えば、特許文献1には、ヘパリン類似物質とアミノ酸成分を含む外用組成物が記載されており、特許文献2には、ヘパリン類似物質と、トコフェロール、抗炎症剤及び鎮痒剤を含む皮膚外用剤が記載されている。
【0003】
また、植物の抽出物を配合した皮膚外用剤も知られており:例えば、キュウリ液汁と、ニンジンエキス、モモ葉エキス、カミツレ花エキス又はブナの芽エキスとを含む化粧料(特許文献3)、モモの抽出物を含有するタンパク質糖化抑制効果を有する化粧料(特許文献4)、モモの未成熟果実の抽出物を含有する保湿剤(特許文献5)、ヨモギ属植物の抽出物と、ミッドカイン、レチノイド、エストロゲン又はビタミンD1とを含む皮膚外用剤(特許文献6)、キク科植物の植物抽出物を含む紫外線防御効果を有する化粧料組成物(特許文献7)、ゲンノショウコ抽出物、サンショウ抽出物、シャクヤク抽出物、ヨモギ抽出物、レモンバーム抽出物又はローズヒップ抽出物を含有するキネシン抑制効果を有する化粧料(特許文献8)などが開示されている。
【0004】
また、モモ葉(桃葉)は浴湯料として用いられることがあり、あせもや湿疹、かぶれ、荒れ性などに効果があるとされ;ヨモギ葉(艾葉)は、止痒作用があるとされ、透析患者やアトピー性皮膚炎などに用いられている(非特許文献2)。さらに、ヨモギ葉(艾葉)の抽出物には、1,8-cineol、α-thujone、β-thujoneなどが含まれることが知られている(非特許文献2,3)。また、モモ葉の抽出物には、タンニンやアミノ酸、フラボノイド、フェノール、ニトリル配糖体、クロロゲン酸などが含まれると報告されている(非特許文献2,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-59524号公報
【特許文献2】特開2016―196419号公報
【特許文献3】特開2006-219431号公報
【特許文献4】特開2016-124827号公報
【特許文献5】特開2015-151390号公報
【特許文献6】特開平10-251133号公報
【特許文献7】特開2002-128630号公報
【特許文献8】特開2013-166712号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】商品名ヒルマイルド添付文書URL: https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/otc/PDF/J2001000156_02_A.pdf
【非特許文献2】第2版カラー版漢方のくすりの事典-生ぐすり・ハーブ・民間薬-(医歯薬出版株式会社)
【非特許文献3】伝統医薬学・生薬学(南江堂)
【非特許文献4】Research J. Pharm. and Tech. 12(7): July 2019, Study of Biologically Active Compounds in Prunus persica Leaves Extract
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、ヘパリン類似物質を含む従来の皮膚外用組成物は、皮膚の保湿作用、抗炎症作用、血行促進作用を有しているものの、これらの外用組成物には、さらなる高い作用、とりわけ、さらに高い保湿作用が求められることがあった。また、モモやヨモギ属植物の抽出物には、皮膚の疾患に対する治療効果があることが知られていたが、皮膚外用剤として保湿作用を有するかどうか、特に、即効性の保湿作用を示すかどうかは明らかでなかった。
【0008】
本発明者は、まず、モモやヨモギ属植物の抽出物が皮膚外用剤として保湿作用を有すること、特に、皮膚に適用して1時間以内に即効性の保湿効果を示すことを確認した。更には、ヘパリン類似物質とモモやヨモギ属植物の抽出物とを組み合わせることで、ヘパリン類似物質の保湿作用を相乗的に高めること、その相乗効果が即効性であることを見出した。この知見に基づき、本発明は、ヘパリン類似物質を含む皮膚外用組成物であって、高い皮膚の保湿作用を有しつつ、好ましくは、敏感肌にも刺激が少ない皮膚外用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下に示す皮膚外用組成物に関する。
[1]ヘパリン類似物質と、ヨモギ属植物またはモモの抽出物と、液状担体と、を含有する皮膚外用組成物。
[2]前記抽出物が、前記皮膚外用組成物に対して、有効成分含量として0.0001質量%~1質量%の範囲で含まれる、[1]に記載の皮膚外用組成物。
[3]前記ヘパリン類似物質の含有量は、前記皮膚外用組成物に対して、0.005質量%~5質量%である、[1]又は[2]に記載の皮膚外用組成物。
[4]保湿剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の皮膚外用組成物。
【0010】
さらに本発明は、以下に示す保湿作用を増強する方法に関する。
[5]ヘパリン類似物質を含む皮膚外用組成物の保湿作用を増強する方法であって、前記皮膚外用組成物に、ヨモギ属植物またはモモの抽出物を配合することを含む、保湿作用増強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚外用組成物は、皮膚に適用されることで、従来のヘパリン類似物質含有組成物と比較して、皮膚の保湿性をより高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.皮膚外用組成物]
本発明の皮膚外用剤は、1)ヘパリン類似物質と、2)ヨモギ属植物またはモモの抽出物と、3)液状担体と、を含有し、さらに、他の配合成分を含んでいてもよい。
【0013】
[1-1.ヘパリン類似物質]
ヘパリン類似物質とは、ムコ多糖類の多硫エステル体である。ムコ多糖類とは、動物組織や体液に広く分布するアミノ糖を含む複合多糖であり、例えば、コンドロイチン硫酸などである。ヘパリン類似物質は、ムコ多糖類を多硫酸化することにより得てもよく、食用獣の組織(例えば、ウシの気管軟骨を含む肺臓)から抽出して得てもよい。また、本発明の皮膚外用組成物に含まれるヘパリン類似物質は、日本薬局方外医薬品規格に収戴されているヘパリン類似物質であってもよい。
【0014】
本発明の皮膚外用組成物は、ヘパリン類似物質を、組成物に対して0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上含む。また、本発明の皮膚外用組成物は、ヘパリン類似物質を、組成物に対して5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下含む。本発明の皮膚外用組成物は、ヘパリン類似物質を、例えば0.1質量%、又は0.3質量%含む。なお、ヘパリン類似物質の含有量は、皮膚外用組成物が適切な保湿作用を有するように、適宜設定することができる。
【0015】
[1-2. ヨモギ属植物またはモモの抽出物]
本発明の皮膚外用組成物は、ヨモギ属植物またはモモの抽出物を含む。これらの抽出物は、本発明の皮膚外用組成物において保湿作用を発揮し、しかも、ヘパリン類似物質との相乗作用により皮膚外用組成物の保湿作用を増強し得る。なかでも、ヨモギ属植物またはモモの抽出物が、ヘパリン類似物質の即効的な保湿作用を増強したことが、後述の実施例において示されている。
【0016】
[1-2-1. ヨモギ属植物の抽出物]
ヨモギ属植物の抽出物におけるヨモギ属植物は、キク科 (Asteraceae) ヨモギ属(Artemisia) の植物であればよい。ヨモギ属植物の例には、ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini = Artemisia vulgaris L. var. indica Maxim.)、ヤマヨモギ又はオオヨモギ(Artemisia vulgaris L. var. vulgatissima Bess., Artemisia montana Pampanini)、モウコヨモギ (Artemisia mongolia Fischer)、ヒメヨモギ(Artemisia feddei)、オトコヨモギ (Artemisia japonica Thunb.)、シロヨモギ (Artemisia stelleriana Bess.), イヌヨモギ (Artemisia keiskeana Miq.)、ヒメヨモギ (Artemisia lavandulaefolia DC.)、タカネヨモギ (Artemisia sinanensis Yabe)、サマニヨモギ (Artemisia norvegica Fries.,A. arctica Less.)、アサギリソウ (Artemisia schmidtianaMaxim.)、カワラニンジン(Artemisia apiacea Hance)、クソニンジン (Artemisia annua L.)、ハマヨモギ (フクド,Artemisia fukudo Makino)、カワラヨモギ(ArtemisiacapillarisThunb.)、ニガヨモギ(Artemisia absinthium)、イワヨモギ(Artemisia iwayomogi)、ホソバノオトコヨモギ(Artemisia japonica f. resedifolia)、キタダケヨモギ(Artemisia kitadakensis)、ヒロハウラジロヨモギ(Artemisia koidzumii)、セメンシナ(Artemisiacina)、ヨモギナ(Artemisia lactiflora)、ミブヨモギ(Artemisia maritima = A. monogyna)、ヒトツバヨモギ(Artemisia monophylla)、ハマヨモギ(Artemisia scoparia)、ミヤマオトコヨモギ(Artemisia pedunculosa)、ヒロハヤマヨモギ(Artemisia stolonifera)、Artemisia abrotanum、Artemisia anomala、Artemisia arborescens、Artemisia argyi、Artemisia caucasica (=Artemisia assoana=Artemisia lanata=Artemisia pedemontana)、Artemisia dracunculus、Artemisia eriopoda、Artemisia finita、Artemisia frigida、Artemisia gmelinii、Artemisia halodendron、Artemisia hedinii、Artemisia incana、Artemisia integrifolia、Artemisia lagocephala、Artemisia ludoviciana、Artemisia pallens、Artemisia parviflora、Artemisia pontica、Artemisia sacrorum、Artemisia sacrorum、Artemisia selengensis、Artemisia sieversiana、Artemisia subdigitata、Artemisia tangutica、Artemisia tilesii、Artemisia tomentosa、Artemisia vulgaris などが含まれる。ヨモギ属植物は、好ましくは、ヤマヨモギ、モウコヨモギ、又はヨモギである。ヨモギ属植物の抽出物におけるヨモギ属植物は、これらの植物の単独又は2種以上の組み合わせである。
【0017】
ヨモギ属植物の抽出物は、ヨモギ属植物を抽出処理して得ることができるが;ヨモギ属植物の花,茎,葉,根の各部位及び全草を抽出処理することができ、好ましくはヨモギ属植物の葉を抽出処理して得ることが好ましい。また、ヨモギ属植物を生のまま抽出操作に供してもよいが、抽出効率を考えると、細切,乾燥,粉砕等の処理を行った後抽出を行うことが好ましい。
【0018】
ヨモギ属植物の抽出処理は、抽出溶媒を用いて行うことができるが;抽出溶媒の例には、水、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等の低級アルコール、1,3-ブチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル,プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル,酢酸ブチル等のエステル類、アセトン,エチルメチルケトン等のケトン類などの極性有機溶媒などが含まれ;抽出溶媒は、好ましくは、水、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールであり、抽出溶媒は1種又は2種以上を組み合わせてもよい。また、皮膚外用剤への配合を考えて、リン酸緩衝液や生理食塩水等を用いても良い。抽出温度は5~50℃程度が適切である。
【0019】
抽出溶媒によって抽出したヨモギ属植物の抽出物を、そのまま本発明の皮膚外用組成物に配合してもよいが;抽出溶媒によって抽出したものを、1)濃縮,乾固してから水や極性溶媒に再度溶解したもの、2)脱色,脱臭,脱塩等の精製処理したもの、3)水蒸気蒸留して得られた水層成分、などを本発明の皮膚外用組成物に配合してもよい。また、保存のために、抽出溶媒によって抽出したものを、精製処理の後凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解させて用いてもよい。
【0020】
ヨモギ属植物の抽出物は、特に限定されないが、テルペノイド(シオネールなど)、モノテルペン(ツヨシ)、フェニルプロパノイド(クロロゲン酸)などの有効成分を含むことが好ましい(非特許文献2及び3参照)。
【0021】
皮膚外用剤におけるヨモギ属植物の抽出物の含有量は、ヨモギ属植物の抽出物の有効成分(エキス(つまり、溶媒を含まない))含量として、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく;また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。ヨモギ属植物の抽出物の有効成分含量は、本発明の皮膚外用剤に保湿作用を与えることができる濃度であればよく、好ましくは、ヘパリン類似物質との相乗作用により保湿作用を増強することができる濃度とする。
【0022】
ヨモギ属植物の抽出物は、市場から入手可能なものを用いてもよい。例えば、ヨモギ(Artemisia princeps)の葉のエキスとして、和ism(登録商標)<ガイヨウ>(丸善製薬)、ヨモギリキッド(一丸ファルコス)、ヨモギエキス-ET(J)、ヨモギエキス-BG(K)、ヨモギエキス-BG(J)(以上、ヤマダ薬研)、ガイヨウ抽出液BG(丸善製薬)、ガイヨウ抽出液 BG-50(香栄興業)、NEWAPLE(HYUNDAI BIOLAND)、AOF ヨモギエキス-HBG(ヤマダ薬研)などがあり;ヨモギ水として、ヨモギ水 K(香栄興業)、ヨモギ水 K/EPH(香栄興業)などがある。
【0023】
[1-2-2. モモの抽出物]
モモの抽出物におけるモモは、バラ科(Rosaceae)に属するモモ(Prunus persica)であればよく:白鳳系、白桃系、黄金桃系のモモが挙げられる。モモの抽出物は、モモの葉、果実、核(内果皮)、花、全草等を抽出処理して得ることができ;好ましくはモモの葉、果実、核(内果皮)を、より好ましくはモモの葉を抽出処理して得ることができる。また、本発明におけるモモの抽出物は、モモの果実を圧搾して得られた果汁の「濃縮物」であってもよい。
【0024】
抽出処理されるモモは、必要ならば予め水洗して異物を除いた後、そのまま又は乾燥した上、必要に応じて細切又は粉砕し、抽出溶媒と接触させて抽出を行う。モモの抽出処理は、抽出溶媒を用いて行うか(浸漬法等)、超臨界抽出法や水蒸気蒸留法を用いて行うこともできる。モモを抽出処理する抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類; エチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類;n-ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。好ましくは、抽出溶媒は、水、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、無水エタノールなどである。抽出溶媒は、単独の溶媒又は二種以上の溶媒の混合溶媒である。
【0025】
モモの葉の抽出物は、特に限定されないが、タンニンやアミノ酸、フラボノイド、フェノール、ニトリル配糖体などを有効成分として含むことが好ましい。また、モモの果実の抽出物は、特に限定されないが、有機酸、ビタミン、ペクチンなどを有効成分として含むことが好ましい(非特許文献2,4参照)。モモの種子の抽出物は、特に限定されないが、トウニンエキスを含むことが好ましい。
【0026】
皮膚外用剤におけるモモの抽出物の含有割合は、モモの抽出物の有効成分(エキス(つまり、溶媒を含まない))含量として、例えば、0.0001質量%以上であることが好ましく;一方、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましい。モモの抽出物の有効成分含量は、本発明の皮膚外用剤に保湿作用を与えることができる濃度であればよく、好ましくは、ヘパリン類似物質との相乗作用により保湿作用を増強することができる濃度とする。
【0027】
モモの抽出物は、市場から入手可能なものを用いてもよい。例えば、モモ葉エキスとして、山梨モモ葉抽出液BG30(丸善製薬)、PEACH HYDROGLYCERIN EXTRACT(BERKEM)、ピーチリーフリキッド B(一丸ファルコス)、モモ葉エキス-BG、モモ葉エキス-ET(以上、ヤマダ薬研)、桃葉エキス(3)、桃葉抽出液 BG-100、油溶性桃葉抽出液、混合植物抽出液 (33)(以上、香栄興業)などがあり;モモ果汁として、ベビーピーチエキス、ベビーフルーツミックス(片倉コープアグリ)、Hormo Fruit Peach、Hormo Fruit Peach/N(以上、香栄興業)、混合果実抽出液 (1)、混合果実抽出液 P(以上、香栄興業)などがある。
【0028】
[1-3. 液状担体]
本発明の皮膚外用組成物は、組成物の性状に応じて適切な液状担体を含むことができる。例えば、本発明の皮膚外用組成物が水溶液(例えば、化粧水や美容液)やジェルであれば主な担体を水とすることができるし、乳液であれば水とともに油分(例えば、ワセリンなど)を主な担体とすることができるし、軟膏や油性クリームであれば主な担体を油分とすることができる。
【0029】
本発明の皮膚外用組成物は、液状担体として、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコールを含むことができる。さらに、本発明の皮膚外用組成物は、液状担体として、エタノールやプロパノールなどの低級アルコールを含んでもよい。ただし、本発明の皮膚外用組成物を敏感肌に適用したときの皮膚への刺激を少なくすることが望まれる場合には、皮膚外用組成物が低級アルコール、特にエタノールを含まないか、または実質的に含まないことが好ましい。
【0030】
[1-4. 他の配合成分]
本発明の皮膚外用組成物は、ヘパリン類似物質、ヨモギ属植物またはモモの抽出物及び液状担体に加えて、皮膚外用組成物に求められる効果、あるいは、所望とする製剤の剤形に応じて、他の配合成分を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の皮膚外用組成物は、他の有効成分、例えば、アンチエイジング剤、抗炎症剤、アクネケア剤、抗ヒスタミン剤などを含んでいてもよい。アンチエイジング剤の例には、ナイアシンアミド(ニコチン酸アミドともいう)、アルブチン、トラネキサム酸、ビタミン類(例えば、トコフェロール誘導体、ビタミンC誘導体、パルミチン酸レチノール等)、エラグ酸、リノール酸などが含まれ;抗炎症剤の例には、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩(例えば、グリチルリチン酸ジカリウム)、ε-アミノカプロン酸などが含まれ;アクネケア剤の例には、イソプロピルメチルフェノール、サリチル酸などが含まれ;抗ヒスタミン剤の例には、ジフェンヒドラミンまたはその塩などが含まれる。
【0032】
本発明の皮膚外用組成物は、さらに湿潤剤を含んでいてもよい。前述のヨモギ属植物またはモモの抽出物も湿潤剤として機能し得るが;さらに、1)セラミド又はセラミド類似成分、2)リン脂質ポリマー、3)(モモ抽出物及びヨモギ属植物抽出物以外の)植物エキス、4)アミノ酸系湿潤剤、5)スクワラン、6)多価アルコール、7)異性化糖、又は8)タンパク質加水分解物などが含まれうる。これらは、皮膚外用組成物に求められる保湿作用などに応じて、その配合量を設定することができる。
【0033】
1)セラミドとはスフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴイドに脂肪酸がアミド結合した化合物である。セラミド類似成分は、グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミドのような糖セラミドであっても、ソフケア(登録商標)セラミドSL-E(花王株式会社製、N-(ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル)-N-(ヒドロキシエチルヘキサデカナミド))、CERACUTE(登録商標)-L(日油株式会社、グリセリル-N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバメート・メタクリル酸ステアリル共重合体)のような合成セラミドであってもよい。本発明の皮膚外用組成物におけるセラミド及び/又はセラミド類似成分の含有量は、目的に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0034】
2)リン脂質ポリマーとは、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体であり、生体膜の主要な構成成分であるリン脂質に類似する生体適合性ポリマーである。リン脂質ポリマーの例には、リピジュア (登録商標)(日油株式会社、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体)、NIKKOL (登録商標) 、レシノールS-10(日光ケミカルズ株式会社、水素添加大豆リン脂質)などが含まれる。本発明の皮膚外用組成物におけるリン脂質ポリマーの含有量は、目的に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0035】
3)植物エキスには、アマチャエキス、アルテア根エキス、アルニカ花エキス、アロエエキス、アロエベラエキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウワウルシエキス、エンドウエキス、オウゴンエキス、オランダカラシエキス、オレンジエキス、カッコンエキス、カミツレエキス、カラスムギエキス、カロットエキス、カワラヨモギエキス、キイチゴエキス、キダチアロエエキス、キュウリエキス、クインスシードエキス、クミンエキス、クレマティスエキス、ゲンチアナエキス、ゲンノショウコエキス、ゴボウエキス、コムギ胚芽エキス、コンドルスクリスプスエキス、シモツケソウエキス、シャクヤク根エキス、ジャノヒゲ根エキス、スイカズラ花エキス、スピルリナマキシマエキス、セイヨウオトギリソウエキス、セイヨウカノコソウ根エキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウネズエキス、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、セージエキス、タイムエキス、タチジャコウソウエキス、チャ葉エキス、ツボクサエキス、テルミナリアエキス、トウガラシ果実エキス、トウキンセンカエキス、トマトエキス、トルメンチラエキス、ニンニクエキス、ノバラエキス、バクガエキス、バクモンドウエキス、パセリエキス、ハマメリスエキス、バラエキス、パリエタリアエキス、ビターオレンジ果皮エキス、ヒバマタエキス、ビルベリーエキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、フユボダイジュ花エキス、プラセンタエキス、プルーンエキス、ヘイフラワーエキス、ベニバナエキス、ホップエキス、マグワ根皮エキス、マリアアザミエキス、マロニエエキス、メリッサエキス、メリロートエキス、モウコヨモギエキス、モモエキス、ヤグルマギクエキス、ヤマヨモギエキス、ユーカリエキス、ユリエキス、ヨーロッパシラカバエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、ラミナリアディギタータエキス、リンゴエキス、レタスエキス、レモンエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキスなどが含まれる。本発明の皮膚外用組成物は、任意の植物エキスを含むことができるが、例えば、アロエエキス、ツボクサエキスなどが好適に例示される。アロエエキスとは、ユリ科の薬用植物であるアロエ(ケープアロエ、アロエベラ、キダチアロエなど)の葉肉などからの抽出成分である。アロエエキスには、ウロン酸、脂質、蛋白、アミノ酸、アントラキノン系化合物(アロイン、アロエエモジン等)が含有しているとされている。本発明の皮膚外用組成物におけるアロエエキスの含有量は、目的に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0036】
4)アミノ酸系湿潤剤とは、グルタミン酸などのアミノ酸から導かれる湿潤剤である。アミノ酸系湿潤剤としては、ピロリドンカルボン酸又はその塩類(例えば、ナトリウム塩)、ピロリジンカルボン酸又はその塩類、アシルピロリジンカルボン酸又はその塩類、アシル塩基性アミノ酸アルキルエステル又はその塩類などが挙げられる。アミノ酸系湿潤剤のアミノ酸は、ラセミ体であってもよいし、光学活性体であってもよい。アミノ酸系湿潤剤は、AJIDEW (登録商標)(味の素株式会社)、PRODEW (登録商標)(味の素株式会社)、アクアデュウ(登録商標) (味の素株式会社)、CAE(登録商標)(味の素ヘルシーサプライ社)などとして市場から入手可能である。本発明の皮膚外用組成物におけるアミノ酸系湿潤剤の含有量は、目的に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0037】
5)スクワランとは、アイザメなど深海に生息するサメ類の肝油から得られる炭化水素であるスクワレンを還元(水素添加)させて得られる飽和炭化水素であり、無色液体である。本発明の皮膚外用組成物におけるアミノ酸系湿潤剤の含有量は、目的に応じて設定すればよく、特に限定されない。
【0038】
湿潤剤としての6)多価アルコールの例には、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが含まれる。
【0039】
7)異性化糖とは、「ブドウ糖」の希アルカリ処理物と「乳糖」の希アルカリ処理物を19:1の割合で混合した糖類の混合物で、主としてブドウ糖及び果糖からなる。異性化糖は、PENTAVITIN(ペンタバイティン、DSM社)として市場から入手可能である。
【0040】
8)タンパク質加水分解物とは、特に限定されないが、加水分解エラスチン、加水分解カゼイン、加水分解ケラチン、加水分解コムギ、加水分解コラーゲン、加水分解コンキオリン、加水分解シルク、加水分解ゼラチン、加水分解ダイズタンパク、加水分解トウモロコシタンパク、加水分解トサカ、加水分解バレイショタンパク、加水分解フィブロネクチンなどが含まれる。
【0041】
本発明の皮膚外用組成物は、粘稠剤を含んでいてもよい。粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の皮膚外用組成物は、組成物のpHを所望の値に調整するためのpH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤の例には、無機酸(リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、塩酸等)及びその塩;有機酸(モノカルボン酸(例えば、酢酸、ソルビン酸)、ポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸)、オキシカルボン酸[例えば、ヒドロキシモノカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、グルコン酸)、ヒドロキシポリカルボン酸(例えば、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等)等])等及びその塩;無機塩基(金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)等);有機塩基(アミン類[例えば、アルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等)等]、アミノ酸(例えば、グリシン等)等)があげられる。本発明の皮膚外用組成物は、複数種のpH調整剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
本発明の皮膚外用組成物は、防腐剤を含んでいてもよい。防腐剤の例には、いわゆる「パラベン」と称されるパラオキシ安息香酸エステルが含まれる。具体的には、メチルパラベン(パラオキシ安息香酸メチル)、エチルパラベン(パラオキシ安息香酸エチル)、プロピルパラベン、イソプロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン等、及びそれらの塩が防腐剤として例示される。本発明の皮膚外用組成物は、複数種のパラベンを組み合わせて含んでいてもよく、例えば、メチルパラベンと、エチルパラベンまたはプロピルパラベンとを組み合わせてもよい。本発明の皮膚外用組成物にパラベンが含まれる場合には、組成物に対するパラベンの含有量は、1w/v%以下、好ましくは 0.5 w/v%以下、さらに好ましくは 0.25w/v%以下でありうる。
【0044】
本発明の皮膚外用組成物は、剤形が乳液である場合には乳化剤を含む。乳化剤は、アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性界面活性剤のいずれかでありうる。乳化剤の例には、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸ポリオキシル、ジステアリン酸グリコール、レシチン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、ステアレス-2、ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリルなどが含まれるが、特に限定されない。
【0045】
本発明の皮膚外用組成物は、軟化剤、着色剤や香料などを含有してもよい。
【0046】
[1-5. 皮膚外用組成物の剤形]
本発明の皮膚外用組成物は液状製剤であることが好ましいが、水性製剤、油性製剤、エマルション製剤(水中油型エマルション、油中水型エマルションのいずれもよい)、サスペンション製剤、エアゾール製剤、ゲル製剤など、剤形は特に限定されない。また、本発明の皮膚外用組成物は、化粧品の剤形として、固型(ソリッド)、プレスト、オイル(油)、液状(リキッド)、ジェル、練り(バーム)、マッド、クリーム、乳液、ローション、フォーム(バブル)、フィルム、パウダー(粉)、水、ペンシル、スプレー(ミスト)、スティック、シート等であり得る。
【0047】
本発明の皮膚外用組成物のpHは5~7の範囲に調整されていることが好ましい。皮膚外用組成物の皮膚への浸透性を高めやすいからである。
【0048】
本発明の皮膚外用組成物の粘度は、製剤の剤形、及び組成物を皮膚に適用するときに求められる使用感に応じて、適宜調整されうる。例えば、組成物の粘度が低い方が、皮膚に適用されたときに濡れ広がりやすさを有しやすく;組成物の粘度が高い方が、皮膚に適用されたときに馴染みやすさを有しやすい。例えば目安として、本発明の皮膚外用組成物が水溶液であれば粘度400~1300mPa・sの範囲にあり、乳液であれば粘度2000~12000mPa・sの範囲にあり得る。粘度は、レオメーター条件:25℃、0.33rpm 90秒後の粘度として測定される。
【0049】
本発明の皮膚外用組成物は、容器に充填されているが、例えば、遮光容器に充填されている。また、本発明の皮膚外用組成物はポンプ又はスプレータイプの容器に充填されることで、皮膚への適用を簡便にすることができる。
【0050】
[2. 皮膚外用組成物の用途]
本発明の皮膚外用組成物は、皮膚に適用、例えば、皮膚に塗布されることで使用される。例えば、皮膚外用組成物を直接皮膚にすりこんだり、皮膚外用組成物を染み込ませたガーゼなどを皮膚に貼ったりすることができる。本発明の皮膚外用組成物を適用する患部は、皮膚である限り特に限定されず、例えば、特に保湿が求められる患部、例えば、顔、粉ふきがあるひざやかかと、背中、などが例示されるが、特に限定されない。皮膚に適用する頻度は、特に限定されないが、1日1~数回程度でありうる。
【0051】
本発明の皮膚外用組成物は、皮膚に適用されることで、保湿作用、抗炎症作用、血行促進作用などを発揮することが期待され;それにより、肌荒れやあれ性の改善、あせも・しもやけ・ひび・あかぎれ・にきびを防いだり、肌を整えて皮膚をすこやかに保つ、皮膚にうるおいを与える、皮膚を保護する、皮膚の乾燥を防ぐ、などの効果が得られうる。
【0052】
本発明の皮膚外用組成物は、特に、皮膚への保湿作用が高いため、皮膚の保湿剤として用いられることが好ましい。とりわけ、本発明の皮膚外用組成物は、ヘパリン類似物質とともに、モモまたはヨモギ属植物の抽出物を含有することで、即効的な(例えば、皮膚に適用されてから1時間以内に)保湿作用も、中長期的な(例えば、皮膚に適用されてから1日後に)保湿作用も増強されている。モモまたはヨモギ属植物の抽出物が、即効的な保湿作用を示すことは従来知られておらず、それ自体が本発明で見出された知見であるが;それに加えて、ヘパリン類似物質の即効的な保湿作用を、モモまたはヨモギ属植物の抽出物が相乗的に増強するという予想外の効果が、本明細書の実施例で示されている。
【0053】
また、モモの抽出物には、セラミド産生酵素(SPT)mRNA発現促進、プロフィラグリンmRNA発現促進があることが知られており;ヨモギ属植物の抽出物は、カスパーゼ-14 mRNA発現促進があることが知られている。これらの作用により、中長期的に皮膚に対する保湿効果が現れると考えられる。そのため、本発明の皮膚外用組成物は、短期的な保湿作用のみならず、中長期的な保湿作用も増強された保湿剤である。
【0054】
[3. 皮膚外用組成物の製造方法]
本発明の皮膚外用組成物の製法は、特に限定されず、剤形に応じて常法にしたがって製造することができる。例えば、所定量の各配合成分(少なくとも、ヘパリン類似物質及びヨモギ属植物またはモモの抽出物を含む)を、液状担体に順次、添加・混合することで得ることができる。各剤形の組成物の製造方法は、例えば、「エマルションの調製技術事例集(出版社:技術情報協会、著者:水野朝子, 寺田千春 企画編集)」に記載がされており、参照することができる。
【実施例0055】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、これら実施例によって本発明は限定して解釈されない。
【0056】
[実施例1]及び[実施例2]の検体:精製水に、表1及び表2に示す通りの配合量のヘパリン類似物質(局外規収載品)とモモの抽出物であるモモ葉エキス(山梨県産モモ葉抽出液BG30(丸善製薬), 0.20%溶液)とを添加して常温で溶解させた。
[比較例1]の検体:精製水に、表1~4に示す通りの配合量のヘパリン類似物質(局外規収載品)を添加して常温で溶解させた。
[比較例2]及び[比較例3]の検体:精製水に、表1及び2に示す通りの配合量のモモ葉エキス(山梨県産モモ葉抽出液BG30(丸善製薬), 0.20%溶液)を添加して常温で溶解させた。なお、山梨県産モモ葉抽出液BG30(丸善製薬)の組成は、モモ葉エキス0.20質量%、1,3-ブチレングリコールを29.94質量%、水を69.86質量%である。
【0057】
[実施例3]及び[実施例4]の検体:精製水に、表3及び表4に示す通りの配合量のヘパリン類似物質(局外規収載品)とヨモギ属植物の抽出物であるヨモギ葉エキス(和 ism <ガイヨウ>(丸善製薬), 1.00%)とを添加して常温で溶解させた。
[比較例4]及び[比較例5]の検体:精製水に、表3及び表4に示す通りの配合量のヨモギ属植物の抽出物であるヨモギ葉エキス(和 ism <ガイヨウ>(丸善製薬), 1.00%)を添加して常温で溶解させた。なお、和 ism <ガイヨウ>(丸善製薬)の組成は、ヨモギエキスを1.00質量%、1,3-ブチレングリコールを49.50質量%、水を49.50質量%である。
【0058】
各実施例及び各比較例で調製した検体、及び水(対照検体)について、被験者(ヒト2名)の皮膚における保湿作用を確認した。まず、各検体の塗布前に、被験者の皮膚塗布部位(前腕内側)の皮膚水分量について5回の測定を行い、最大値及び最小値を除いた3回の水分上昇率の平均を塗布前水分量Xとした。そして、当該部位の直径約0.8 cmの円領域に、各検体5μLを塗布した。塗布後30分(試験例1及び2)または1時間(試験例3及び4)経過した時点で、皮膚塗布部位の皮膚水分量について5回の測定を行い、最大値及び最小値を除いた3回の水分上昇率の平均を塗布後水分量Yとした。
【0059】
各検体について、「(塗布後水分量Y-塗布前水分量X)/塗布前水分量X×100」を算出して水分上昇率Z(%)とした。各検体での水分上昇率Z(%)から、対照検体である水での水分上昇率(%)を差し引いた値を、各表の「皮膚水分量の上昇率」として示した。
【0060】
皮膚水分量の測定は、皮表角層水分量測定装置SKICON(登録商標)-200EX (株式会社ヤヨイ)を用いて行った。本装置は、高周波を用いた交流電流に対する伝導度(conductanceμS)を測定することで、「表層」の角層の水分量を測定することができる。高周波電流は物の表面を流れやすく、伝導度と水分含有量の間には密接な相関関係があるからである。このように、本実施例では、「表層」の角層の水分量を測定することで、皮膚の柔らかさや滑らかさを適切に評価している。
【0061】
【0062】
【0063】
表1に示される試験例1の結果の通り、ヘパリン類似物質を0.1質量%含む比較例1の検体では11%の水分上昇率、山梨モモ葉抽出液BG30を有効成分量として0.0002(2×10-4)質量%含む比較例2の検体では17%の水分上昇率であったのに対して、実施例1の検体では45%の水分上昇率が認められた。同様に、表2に示される試験例2の結果の通り、ヘパリン類似物質を0.1質量%含む比較例1の検体では12%の水分上昇率、山梨モモ葉抽出液BG30を有効成分量として0.02(2×10-2)質量%含む比較例3の検体では24%の水分上昇率であったのに対して、実施例2の検体では63%の水分上昇率が認められた。これらの結果は、ヘパリン類似物質とモモ抽出物とが相乗作用をすることで、検体の保湿作用、なかでも即効的な保湿作用を増強していることを示す。
【0064】
なお、試験例1と2とで、比較例1の検体での水分上昇率が若干異なるのは、被験者の個人差によるものである。
【0065】
【0066】
【0067】
表3に示される試験例3の結果の通り、ヘパリン類似物質を0.1質量%含む比較例1の検体では13%の水分上昇率、和ism<ガイヨウ>を有効成分量として0.001(1×10-3)質量%含む比較例4の検体では4%の水分上昇率であったのに対して、実施例3の検体では35%の水分上昇率が認められた。同様に、表4に示される試験例4の結果の通り、ヘパリン類似物質を0.1質量%含む比較例1の検体では18%の水分上昇率、和ism<ガイヨウ>を有効成分量として0.1(1×10-1)質量%含む比較例5の検体では14%の水分上昇率であったのに対して、実施例4の検体では44%の水分上昇率が認められた。これらの結果は、ヘパリン類似物質とヨモギ属植物の抽出物とが相乗作用をすることで、検体の保湿作用、なかでも即効的な保湿作用を増強していることを示す。
【0068】
なお、試験例3と4とで、比較例1の検体での水分上昇率が若干異なるのは、試験例1と2の場合と同様、被験者の個人差によるものである。
【0069】
ヘパリン類似物質とモモ又はヨモギ属植物の抽出物との相乗作用のメカニズムは定かではない。ただし、ヘパリン類似物質の保湿メカニズムとして推定される角層細胞間脂質のラメラ構造の回復促進と2次結合水量の増加作用とは別途の保湿メカニズムを、モモ又はヨモギの抽出物が有しており、作用メカニズムの違いによる保湿効力の相乗効果があると考えられた。
【0070】
以下に、本発明の皮膚外用組成物を化粧水として調製する例を示す。
【0071】
本発明によれば、保湿作用が増強された皮膚外用組成物を提供することができるため、皮膚にうるおいを与えたり、皮膚を保護したり、皮膚の乾燥を防いだりするための化粧料
等として本発明を利用することができる。