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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060471
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】非接触給電装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/50 20160101AFI20240424BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20240424BHJP
   H02J 50/23 20160101ALI20240424BHJP
   H02J 50/27 20160101ALI20240424BHJP
【FI】
H02J50/50
H02J50/12
H02J50/23
H02J50/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167860
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(72)【発明者】
【氏名】中尾 悟朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】三島 大地
(57)【要約】
【課題】受電側の装置に接続される負荷が変動する場合でも、電力伝送効率の低下を抑制できる非接触給電装置を提供する。
【解決手段】非接触給電装置1は、送電装置2から受電装置3へ非接触で伝送される電力を中継する中継回路4を有する。送電装置2は、電力供給回路11から供給された所定の周波数を持つ交流電力を中継回路4へ伝送する送信12コイルを有する。中継回路4は、送信コイル12と電磁結合するように配置され、送信コイル12から交流電力を受信する第1のコイル31と、受信した交流電力を受電装置3へ伝送する第2のコイル32と、第1のコイル31及び第2のコイル32とともに、送信コイル12に供給された交流電力と共振する共振コンデンサ33とを有する。そして受電装置3は、中継回路4の第2のコイル32と電磁結合することで第2のコイル32から交流電力を受信する受信コイル21を有する共振回路20を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置と、
受電装置と、
前記送電装置から前記受電装置へ非接触で伝送される電力を中継する中継回路と、
を有し、
前記送電装置は、
供給された交流電力を前記中継回路へ伝送する送信コイルと、
直流電源から供給される直流電力を所定の周波数を有する交流電力に変換し、変換された前記交流電力を前記送信コイルに供給する電力供給回路と、
を有し、
前記中継回路は、
前記送信コイルと電磁結合するように配置され、前記送信コイルから交流電力を受信する第1のコイルと、
前記第1のコイルを介して受信した交流電力を前記受電装置へ伝送する第2のコイルと、
前記第1のコイル及び前記第2のコイルとともに、前記送信コイルに供給された交流電力と共振する共振コンデンサと、
を有し、
前記受電装置は、
前記中継回路の前記第2のコイルと電磁結合することで前記第2のコイルから交流電力を受信する受信コイルを有する共振回路と、
前記共振回路から出力される交流電力を整流して直流電力に変換し、当該直流電力を負荷回路へ出力する整流平滑回路と、
を有する非接触給電装置。
【請求項2】
前記中継回路の前記第2のコイルは、前記中継回路の前記第1のコイル及び前記送電装置の前記送信コイルと電磁結合しないように配置される、請求項1に記載の非接触給電装置。
【請求項3】
前記第2のコイルの外周は前記第1のコイルの外周よりも大きい、請求項2に記載の非接触給電装置。
【請求項4】
前記中継回路の前記第1のコイルは基板の一方の面上に形成され、かつ、前記送電装置の前記送信コイルは、前記基板の他方の面上において、前記第1のコイルの中心軸と前記送信コイルの中心軸とが同軸となるように形成される、請求項1に記載の非接触給電装置。
【請求項5】
前記中継回路の前記第1のコイルと前記送電装置の前記送信コイルとは、同一のコアに巻き付けられる、請求項1に記載の非接触給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属の接点などを介さずに、空間を通じて電力を伝送する、いわゆる非接触給電(ワイヤレス給電とも呼ばれる)技術が研究されている。
【0003】
非接触給電技術の一つとして、電磁誘導により給電する方式が知られている。電磁誘導により給電する方式では、一般に、1MHzよりも低いスイッチングの周波数にて、送電側の装置に設けられるインバータを駆動することで、送電側のコイルに交流電力を供給して、受電側のコイルとの間に電磁誘導を生じさせる。これに対して、給電用の送電機をE級アンプとして構成することで、6.78MHzの周波数によるスイッチングを可能とする技術が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】市原文夫、大村一郎、「窒化ガリウム(GaN)FETを使用したワイヤレス給電用E級送信機」、電力技術/電力系統技術/半導体電力変換 合同研究会 2016、EDD-16-069/SPC-16-156、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非接触給電装置の送電側の装置において、送電側のコイルに電力を供給する電力供給回路がE級アンプとして構成されるためには、電力供給回路に設けられるスイッチング素子について、下記の条件が満たされることが求められる。
・オンからオフ、あるいはオフからオンにスイッチングするタイミングにおいてスイッチング素子に印加される電圧がゼロであること(Zero-Voltage-Switching, 以下では、ZVSと呼ぶことがある)
・スイッチング素子がオフからオンになるタイミングにおいてスイッチング素子に印加される電圧の時間変化に対する傾きがゼロ(すなわち、dV/dt=0)であること(Zero-Voltage-Derivative-Switching, 以下では、ZDSと呼ぶことがある)
【0006】
上記のZVS及びZDSの条件が満たされることで、スイッチング素子におけるスイッチングロスが可能な限り低減され、その結果として電力伝送の効率が向上する。しかしながら、受電側の装置に接続される負荷の変動により、ZVS及びZDSを達成するための条件が変動する。
【0007】
そこで、本発明は、受電側の装置に接続される負荷が変動する場合でも、電力伝送効率の低下を抑制できる非接触給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの形態として、非接触給電装置が提供される。この非接触給電装置は、送電装置と、受電装置と、送電装置から受電装置へ非接触で伝送される電力を中継する中継回路とを有する。送電装置は、供給された交流電力を中継回路へ伝送する送信コイルと、直流電源から供給される直流電力を所定の周波数を有する交流電力に変換し、変換された交流電力を送信コイルに供給する電力供給回路とを有する。中継回路は、送信コイルと電磁結合するように配置され、送信コイルから交流電力を受信する第1のコイルと、第1のコイルを介して受信した交流電力を受電装置へ伝送する第2のコイルと、第1のコイル及び第2のコイルとともに、送信コイルに供給された交流電力と共振する共振コンデンサとを有する。そして受電装置は、中継回路の第2のコイルと電磁結合することで第2のコイルから交流電力を受信する受信コイルを有する共振回路と、共振回路から出力される交流電力を整流して直流電力に変換し、直流電力を負荷回路へ出力する整流平滑回路とを有する。
係る構成を有することにより、この非接触給電装置は、受電側の装置に接続される負荷が変動する場合でも、電力伝送効率の低下を抑制することができる。
【0009】
この非接触給電装置において、中継回路の第2のコイルは、中継回路の第1のコイル及び送電装置の送信コイルと電磁結合しないように配置されることが好ましい。
係る構成を有することで、この非接触給電装置は、受電側の装置に接続される負荷の変動に対する、電力伝送効率の低下の抑制をより確実に実行することができる。
【0010】
この場合において、中継回路の第2のコイルの外周は中継回路の第1のコイルの外周よりも大きいことが好ましい。
係る構成を有することで、この非接触給電装置は、受電装置の受信コイルが、中継回路の第2のコイルに対して電磁結合しつつ、送信コイル及び第1のコイルと電磁結合しないように配置することを容易化できる。
【0011】
さらに、中継回路の第1のコイルは基板の一方の面上に形成され、かつ、送電装置の送信コイルは、基板の他方の面上において、第1のコイルの中心軸と送信コイルの中心軸とが同軸となるように形成されることが好ましい。
係る構成を有することで、この非接触給電装置は、送信コイルと第1のコイル間の結合度をおおきくすることができるので、電力伝送の効率の低下を抑制することができる。
【0012】
あるいは、中継回路の第1のコイルと送電装置の送信コイルとは、同一のコアに巻き付けられることが好ましい。
係る構成を有することで、この非接触給電装置は、送信コイルと第1のコイル間の結合度をおおきくすることができるので、電力伝送の効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一つの実施形態に係る非接触給電装置の概略構成図である。
図2】中継回路が存在しない比較例の非接触給電装置の等価回路図である。
図3】本実施形態による非接触給電装置の等価回路図である。
図4】送信コイル、第1のコイル及び第2のコイルの配置の一例を示す図である。
図5】送信コイル、第1のコイル及び第2のコイルの配置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一つの実施形態による非接触給電装置、及び、非接触給電装置にて実行される電力伝送方法を、図を参照しつつ説明する。この非接触給電装置は、使用上の制限が少ないISMバンドに含まれるスイッチング周波数で、送電側のコイルに交流電力を供給する電力供給回路のスイッチング素子を駆動する。また、発明者は、電力供給回路のスイッチング素子について、ZDSが達成されなくても、ZVSが達成され、かつ、スイッチング素子がオフからオンに変わるタイミングとスイッチング素子に印加される電圧になるタイミングの差が十分に小さければ、ISMバンドに含まれるスイッチング周波数にてスイッチング素子を駆動しても、スイッチング素子のスイッチングロスを実用上問題の無い程度まで軽減できるとの知見を得た。
【0015】
そこで、この非接触給電装置は、送電側の装置と受電側の装置との間に、送電側の装置から受電側の装置へ伝送される交流電力を中継するための中継回路を有する。この中継回路は、送電側の装置に設けられる、送電用のコイルと電磁結合する第1のコイルと、受電側の装置に設けられる受電用のコイルと電磁結合する第2のコイルと、第1のコイル及び第2のコイルとともに、送電側の装置から伝送される交流電力に対して共振するための共振コンデンサとを有する。これにより、この非接触給電装置は、受電側の装置に接続される負荷が変動しても、ZVSを達成し、かつ、スイッチング素子がオフからオンに変わるタイミングとスイッチング素子に印加される電圧になるタイミングの差を十分に小さくすることを可能とした。その結果として、この非接触給電装置は、スイッチング素子におけるスイッチングロスを軽減して、電力伝送効率の低下を抑制することを可能とした。
【0016】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る非接触給電装置の概略構成図である。図1に示されるように、非接触給電装置1は、送電装置2と、送電装置2から空間を介して非接触で電力伝送される受電装置3と、送電装置2から受電装置3へ伝送される交流電力を中継する中継回路4とを有する。送電装置2は、電力供給回路11と、送信コイル12と、コンデンサ13と、制御回路14とを有する。一方、受電装置3は、受信コイル21及び共振コンデンサ22を含む共振回路20と、整流平滑回路23とを有する。そして受電装置3は負荷回路5と接続される。負荷回路5は、例えば、2次電池、2次電池の充電回路、あるいは、直流電力を利用して動作する回路である。さらに、中継回路4は、第1のコイル31と、第2のコイル32と、共振コンデンサ33とを有する。
【0017】
先ず、送電装置2について説明する。
電力供給回路11は、直流電源10から供給された直流電力を、ISMバンドに含まれる周波数を持つ交流電力に変換し、変換した交流電力を送信コイル12へ供給する。そのために、電力供給回路11は、コイル15と、コンデンサ16と、スイッチング素子17とを有し、DC-ACコンバータとして構成される。
【0018】
コイル15は、直流電源10の正極側の端子と、送信コイル12の一端との間に接続される。また、コンデンサ16は、その一端でコイル15と送信コイル12の一端との間に接続され、その他端で直流電源10の負極側の端子と接続される。そしてコイル15とコンデンサ16とは、直流電源10から出力された直流電力を、スイッチング素子17のオンとオフとが切り替えられるスイッチング周波数を持つ交流電力に変換する。
【0019】
スイッチング素子17は、コンデンサ16とコイル15との間において、コンデンサ16と並列となるように接続される。すなわち、スイッチング素子17の一端は、コイル15を介して直流電源10の正極側の端子と接続され、スイッチング素子17の他端は、直流電源10の負極側の端子と接続される。
【0020】
さらに、スイッチング素子17は、ISMバンドに含まれるスイッチング周波数にてオンとオフとを切り替えることが可能な素子、例えば、ガリウムナイトライドにより形成される電界効果トランジスタ(GaN FET)とすることができる。スイッチング素子17のスイッチング端子(例えば、GaN FETのゲート端子)は、制御回路14と接続され、制御回路14からの制御信号により、オンとオフとが切り替えられる。そして上述したように、スイッチング素子17がスイッチング周波数にてオンとオフとが切り替えられることで、直流電源10から出力された直流電力は、コイル15及びコンデンサ16により、そのスイッチング周波数を持つ交流電力に変換される。そして変換された交流電力は、送信コイル12へ出力される。
【0021】
なお、電力供給回路11は、直流電源10とコイル15との間に、直流電源10から出力された直流電力を昇圧または降圧するためのDC-DCコンバータを有していてもよい。
【0022】
送信コイル12は、電力供給回路11から供給された交流電力に応じて、送信コイル12の周囲に周期的に変化する磁場を発生させる。そして送信コイル12により発生された磁場により、送信コイル12と中継回路4の第1のコイル31とが電磁結合する。これにより、送信コイル12に供給された交流電力は中継回路4へ伝送される。
【0023】
コンデンサ13は、電力供給回路11の正極側の出力端子と送信コイル12の一端との間において、送信コイル12と直列に接続される。そして電力供給回路11から出力された交流電力は、コンデンサ13を介して送信コイル12に供給される。
【0024】
制御回路14は、プロセッサと、メモリと、ゲートドライバとを有する。そして制御回路14は、ISMバンドに含まれるスイッチング周波数(例えば、6.78MHzまたは13.56MHz)、かつ、所定のデューティ比(例えば、0.5)にて、ゲートドライバを介して、電力供給回路11のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。
【0025】
次に、受電装置3について説明する。
【0026】
共振回路20は、受信コイル21と共振コンデンサ22とが直列に接続されるLC共振回路である。そして共振回路20が有する受信コイル21の一端が共振コンデンサ22を介して整流平滑回路23の一方の入力端子に接続される。また、受信コイル21の他端が、整流平滑回路23の他方の入力端子に接続される。なお、共振回路20は、この例に限られず、受信コイル21と共振コンデンサ22とが並列に接続される、LC並列共振回路であってもよい。
【0027】
受信コイル21は、共振コンデンサ22とともに、中継回路4の第2のコイル32に流れる交流電流に対して共振することで、送電装置2から中継回路4を介して電力を受信する。そして受信コイル21は、共振コンデンサ22を介して、受信した電力を整流平滑回路23へ出力する。すなわち、受信コイル21のインダクタンスと共振コンデンサ22のキャパシタンスは、共振回路20の共振周波数がスイッチング周波数と略等しくなるように設定される。
【0028】
共振コンデンサ22は、受信コイル21と直列に接続される。すなわち、共振コンデンサ22は、その一端で受信コイル21の一端と接続され、他端で整流平滑回路23と接続される。そして共振コンデンサ22は、受信コイル21とともに共振することで受信した交流電力を整流平滑回路23へ出力する。
【0029】
整流平滑回路23は、例えば、ブリッジ接続された4個のダイオードを有する全波整流回路と、平滑コンデンサから構成される。全波整流回路の入力側の二つの端子の一方は、共振コンデンサ22と接続され、入力側の二つの端子の他方は、受信コイル21と接続される。また、全波整流回路の出力側の二つの端子の一方は、平滑コンデンサの一端と接続され、出力側の二つの端子の他方は、平滑コンデンサの他端と接続される。そして整流平滑回路23は、共振回路20から出力された交流電力を整流して直流電力に変換する。整流平滑回路23は、変換した直流電力を負荷回路5へ出力する。なお、整流平滑回路23は、全波整流回路の代わりに、半波整流回路を含んでもよい。
【0030】
また、受電装置3は、整流平滑回路23から出力された直流電力の電圧を昇圧または降圧するためのDC-DCコンバータをさらに有していてもよい。
【0031】
次に、中継回路4について説明する。
【0032】
第1のコイル31は、第2のコイル32及び共振コンデンサ33とともにLC直列共振回路を構成する。第1のコイル31は、送信コイル12と電磁結合可能な位置に配置され、第2のコイル32及び共振コンデンサ33とともに、送電装置2の送信コイル12に流れる交流電流に対して共振することで、送電装置2から電力を受信する。
【0033】
第2のコイル32は、第1のコイル31を介して送電装置2から受信した交流電力により磁場を生じさせる。したがって、第2のコイル32と電磁結合可能な位置に受電装置3の受信コイル21が配置されることで、中継回路4が送電装置2から受信した交流電力は、受電装置3へ伝送される。
【0034】
共振コンデンサ33は、第1のコイル31及び第2のコイル32と直列に接続される。すなわち、共振コンデンサ33は、その一端で第1のコイル31の一端と接続され、他端で第2のコイル32の一端と接続される。そして共振コンデンサ33は、第1のコイル31及び第2のコイル32とともに、送電装置2の送信コイル12に流れる電流に対して共振することで送電装置2から交流電力を受信する。すなわち、第1のコイル31及び第2のコイル32のインダクタンスと共振コンデンサ33のキャパシタンスは、中継回路4の共振周波数がスイッチング周波数と略等しくなるように設定される。
なお、第1のコイル31のインダクタンスと第2のコイル32のインダクタンスは等しくてもよく、あるいは、互いに異なっていてもよい。また、中継回路4が有する各コイルと送信コイル12の配置の詳細については後述する。
【0035】
以下、非接触給電装置1の動作の詳細について説明する。
図2は、中継回路4が存在しない比較例の非接触給電装置の等価回路図である。すなわち、図2に示される等価回路200は、非接触給電装置1において、中継回路4が省略され、送電装置2の送信コイル12と受電装置3の受信コイル21とが電磁結合することで送電装置2から受電装置3へ交流電力が直接伝送される比較例の等価回路図である。ここで、Lf、Ltx、Lrxは、それぞれ、電力供給回路11のコイル15、送信コイル12、受信コイル21のインダクタンスであり、Csh、Cs、C2は、それぞれ、電力供給回路11のコンデンサ16、コンデンサ13、共振コンデンサ22のキャパシタンスである。また、Racは、受電装置3の負荷抵抗である。そしてMは、送信コイル12と受信コイル21間の相互インダクタンスである。
【0036】
受電装置3の共振回路20が共振している場合、等価回路200は、等価回路210または等価回路220のように書き換えられる。このとき、比較例の非接触給電装置全体のインピーダンスZ、すなわち、電力伝送中における、送電装置2側から見たインピーダンスは以下のように表される。
【数1】
ただし、ω(=2πf)は、送信コイル12に供給される交流電力の周波数(すなわち、スイッチング周波数)fに対応する角周波数である。またkは、送信コイル12と受信コイル21間の結合度である。そしてRoは、非接触給電装置全体に対して接続される等価的な負荷の抵抗、すなわち、電力伝送中における、送電装置2側から見た負荷抵抗(以下、単に非接触給電装置全体の負荷抵抗と呼ぶ)である。
【0037】
(1)式から明らかなように、受電装置3の負荷抵抗Racが小さくなると、非接触給電装置全体の負荷抵抗Roは大きくなる。逆に、受電装置3の負荷が小さくなり、負荷抵抗Racが大きくなると、非接触給電装置全体の負荷抵抗Roは小さくなる。そして負荷抵抗Roが小さくなり過ぎると、ZVSが達成されなくなるか、スイッチング素子17がオンになるタイミングに対して、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングが早くなり過ぎる。スイッチング素子17がオンになるタイミングに対して、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングが早くなり過ぎると、スイッチング素子17のボディダイオードに流れる電流によるロスが発生してしまう。このように、比較例による非接触給電装置では、受電装置3と接続される負荷回路5の負荷の変動により、電力伝送効率が低下してしまうことがある。このことについての詳細は、例えば、Zhang, Lujie, “Load-Independent Class-E Power Conversion”, https://vtechworks.lib.vt.edu/handle/10919/97601, 2020年、Chapter 2を参照されたい。
【0038】
図3は、本実施形態による非接触給電装置1の等価回路図である。この等価回路300において、図2と同様に、Lf、Ltx、Lrxは、それぞれ、電力供給回路11のコイル15、送信コイル12、受信コイル21のインダクタンスであり、Csh、Cs、C2は、それぞれ、電力供給回路11のコンデンサ16、コンデンサ13、受電装置3の共振コンデンサ22のキャパシタンスである。また、Racは、受電装置3の負荷抵抗である。さらに、Lr1、Lr2は、それぞれ、中継回路4の第1のコイル31及び第2のコイル32のインダクタンスである。また、Cr-1、Cr-2は、中継回路4の共振コンデンサ33のキャパシタンスを二つに分けたもの(すなわち、共振コンデンサ33のキャパシタンスは((Cr-1)*(Cr-2))/((Cr-1)+(Cr-2)))である。また、Racは、受電装置3の負荷抵抗である。そしてMaは、送信コイル12と第1のコイル31間の相互インダクタンスであり、Mは、第2のコイル32と受信コイル21間の相互インダクタンスである。
【0039】
等価回路300において、送電装置2と中継回路4についての負荷抵抗をZ1とすると、受電装置3の共振回路20が共振している場合、等価回路300のうちの第2のコイル32よりも受電側の部分300aは、等価回路310で表される。この場合、負荷抵抗Z1は、次式で表される。
【数2】
ここで、kは、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度である。
さらに、非接触給電装置1全体の負荷抵抗をRoとすると、中継回路4が共振している場合、等価回路300のうちの送信コイル12よりも受電側の部分300bは、非接触給電装置1全体の負荷抵抗Roで表される。この場合、負荷抵抗Roは次式で表される。
【数3】
ここで、kaは、送信コイル12と第1のコイル31間の結合度である。
【0040】
(3)式から明らかなように、比較例と異なり、受電装置3の負荷が小さくなり、負荷抵抗Racが大きくなるにつれて、非接触給電装置全体の負荷抵抗Roも大きくなる。また、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度k1が小さくなるほど、非接触給電装置全体の負荷抵抗Roは大きくなる。したがって、受電装置3の負荷抵抗Racが想定される最小値となり、かつ、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度k1が想定される最大値となるときに、非接触給電装置全体の負荷抵抗Roは最小となる。そこで、受電装置3の負荷抵抗Racが想定される最小値となり、かつ、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度kが想定される最大値となるときの非接触給電装置全体の負荷抵抗Roが、ZVSが達成され、かつ、スイッチング素子17がオンになるタイミングに対する、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングの差が許容最大値以下となるときの抵抗値以上となるように、非接触給電装置1の各回路素子の値及び第2のコイル32と受信コイル21間の最大結合度が設定される。これにより、受電装置3の負荷が変動しても、ZVSが達成され、かつ、スイッチング素子17がオンになるタイミングに対する、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングの差が許容最大値以下となる。さらに、受電装置3が中継回路4から離れて受電できなくなる場合も、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度kが小さくなるので、ZVSが達成され、かつ、スイッチング素子17がオンになるタイミングに対する、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングの差が許容最大値以下となる。なお、上述した負荷抵抗Roが満たすべき条件を、以下では、説明の便宜上、負荷抵抗条件と呼ぶことがある。
【0041】
例えば、送電装置2の電力供給回路11のコイル15のインダクタンスが1μHであり、送電装置2の送信コイル12、中継回路4の第1のコイル31及び第2のコイル32、及び、受電装置3の受信コイル21のインダクタンスがそれぞれ3μHであるとする。さらに、送電装置2の電力供給回路11のコンデンサ16のキャパシタが330.4pF、コンデンサ13のキャパシタが201.9pFであるとする。また、中継回路4の共振コンデンサ33のキャパシタが91.8pF、受電装置3の共振コンデンサ22のキャパシタが184pFであるとする。このとき、スイッチング素子17が、スイッチング周波数6.78MHz、かつ、デューティ比0.5で駆動されると、ZVSが達成され、かつ、スイッチング素子17がオンになるタイミングに対する、スイッチング素子17に印加される電圧がゼロになるタイミングの差が許容最大値以下となる、非接触給電装置1全体の負荷抵抗Roは41.4Ωとなる(上記の文献“Load-Independent Class-E Power Conversion”を参照)。したがって、送信コイル12と第1のコイル31間の結合度が0.5であり、第2のコイル32と受信コイル21間の想定される最大の結合度が0.1であると仮定される場合、(3)式から、負荷抵抗条件が満たされる、受電装置3の負荷抵抗の最小値Racminは1.65Ωとなる。そこで、受電装置3に負荷回路5が接続された状態で、受電装置3の負荷抵抗は、その最小値Racminに所定のオフセットを加えた値、例えば、2Ωとなるように、非接触給電装置1は構成されればよい。
【0042】
例えば、第2のコイル32と受電装置3の受信コイル21間の距離が長くなるほど、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度は小さくなる。そこで、中継回路4が収容される筐体において、第2のコイル32からその筐体の表面までの距離が、負荷抵抗条件が満たされるための第2のコイル32と受電装置3の受信コイル21間の最大結合度に相当する距離となるように中継回路4がその筐体内に設置されればよい。これにより、第2のコイル32と受信コイル21間の結合度は、常に最大値結合度以下となる。また、負荷回路5内に、あるいは受電装置3と負荷回路5とが接続される配線上に、負荷抵抗条件が満たされる、受電装置3の負荷抵抗の最小値に相当する抵抗値を有する固定の負荷が設けられればよい。
【0043】
以下、送電装置2の送信コイル12と、中継回路4の第1のコイル31及び第2のコイル32の配置について説明する。
【0044】
図4は、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32の配置の一例を示す図である。この例では、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32は、それぞれ、基板400に設けられる導体のパターンにより形成される。なお、図4において、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32以外の回路素子の図示は省略される。
【0045】
送信コイル12と第1のコイル31とは、電力伝送の効率をできるだけ高くするために、結合度ができるだけ高くなるように配置されることが好ましい。そこでこの例では、送信コイル12の中心軸と第1のコイル31の中心軸とが同軸となるように、第1のコイル31は基板400の一方の面400aに形成され、かつ、送信コイル12は面400aと反対側の面400bに形成される。
【0046】
第2のコイル32、及び、第2のコイル32と電磁結合し、かつ、第2のコイル32を介して電力を受信する受電装置3の受信コイル21は、送信コイル12及び第1のコイル31と電磁結合しないことが好ましい。そのため、第2のコイル32は、第1のコイル31と同様に基板400の一方の面400a上に配置される。さらに、面400aの法線方向から見て、第1のコイル31と第2のコイル32とは、互いに重ならず、かつ、所定距離以上離れるように配置される。所定距離は、送信コイル12により生じた磁場及び第1のコイル31により生じた磁場が第2のコイル32及び第2のコイル32から受信する受信コイル21に及ぼす影響が無視できる距離である。これにより、受信コイル21が、第2のコイル32を介さず、送信コイル12または第1のコイル31から電力を受信することが防止される。そのため、受電装置3の負荷が変動しても、非接触給電装置1全体の負荷抵抗が低下することが抑制される。
【0047】
図5は、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32の配置の他の一例を示す図である。この例でも、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32は、それぞれ、基板500に設けられる導体のパターンにより形成される。なお、図5において、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32以外の回路素子、及び、中継回路4の各コイルを接続する配線の図示は省略される。
【0048】
この例でも、送信コイル12の中心軸と第1のコイル31の中心軸とが同軸となるように、第1のコイル31は基板500の一方の面500aに形成され、かつ、送信コイル12は面500aと反対側の面500bに形成される。
【0049】
また、この例でも、第2のコイル32は、第1のコイル31と同様に基板500の一方の面500a上に配置される。ただし、この例では、面500aの法線方向から見て、第1のコイル31及び送信コイル12と第2のコイル32とが電磁結合しない程度で重なるように、第2のコイル32は配置される。すなわち、第1のコイル31の各部から生じ、かつ、第2のコイル32の内部を通る磁場が互いに打ち消し合う程度に第1のコイル31と第2のコイル32とが重なる場合、第1のコイル31と第2のコイル32とは電磁結合しない。同様に、送信コイル12の各部から生じ、かつ、第2のコイル32の内部を通る磁場が互いに打ち消し合う程度に送信コイル12と第2のコイル32とが重なる場合、送信コイル12と第2のコイル32とは電磁結合しない。例えば、第1のコイル31と第2のコイル32とがともに略正方形状、かつ、同じサイズで形成される場合、第1のコイル31の何れか一辺と第2のコイル32の何れか一辺とが同一の直線上に位置し、かつ、第1のコイル31と第2のコイル32とが略12%重なるように配置されるときに第1のコイル31と第2のコイル32とが電磁結合しなくなることを、発明者はシミュレーションにより確認した。なお、第1のコイル31と第2のコイル32とが重なる部分には、第1のコイル31と第2のコイル32との間に絶縁体で形成される層が設けられることが好ましい。また、この例では、第2のコイル32と受信コイル21とが電磁結合して第2のコイル32から受信コイル21が交流電力を受信する際に、受信コイル21が送信コイル12及び第1のコイル31と電磁結合しないように受信コイル21を配置することが容易となることが好ましい。そこで第2のコイル32の外周が、第1のコイル31の外周よりも大きくなるように第1のコイル31及び第2のコイル32が設計されることが好ましい。
【0050】
なお、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32の形状は略円形に限られない。例えば、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32は、それぞれ、略正方形状に形成されてもよく、あるいは、他の多角形状に形成されてもよい。さらに、第1のコイル31の形状と第2のコイル32の形状とは互いに異なっていてもよい。また、第1のコイル31と第2のコイル32とは、基板の互いに異なる面に配置されてもよい。すなわち、上記の図4の例または図5の例において、第2のコイル32は、送信コイル12が配置される側の基板の面に設けられてもよい。この場合、第1のコイル31と第2のコイル32とは、基板に設けられるビアを介して接続されればよい。また、送信コイル12、第1のコイル31及び第2のコイル32の配置は上記の例に限られない。例えば、送信コイル12と第1のコイル31とは、磁性体で形成される同一のコアに巻き付けられてもよい。さらに、第2のコイル32は、送信コイル12と第1のコイル31とが巻き付けられるコアとは別個に設けられる他のコアに巻き付けられてもよい。なお、各コイルが巻き付けられるコアは、円柱状のコアでもよく、あるいは、ドーナツ状のコアでもよい。さらに、図4に示される配置の例においても、第2のコイル32の外周が、第1のコイル31の外周よりも大きくなるように第1のコイル31及び第2のコイル32が設計されてもよい。
【0051】
以上に説明してきたように、この非接触給電装置は、使用上の制限が少ないISMバンドに含まれるスイッチング周波数で、送電側のコイルに交流電力を供給する電力供給回路のスイッチング素子を駆動する。また、この非接触給電装置は、送電側の装置と受電側の装置との間に、送電側の装置から受電側の装置へ伝送される交流電力を中継するための中継回路を有する。この中継回路は、送電側の装置に設けられる、送電用のコイルと電磁結合する第1のコイルと、受電側の装置に設けられる受電用のコイルと電磁結合する第2のコイルと、第1のコイル及び第2のコイルとともに、送電側の装置から伝送される交流電力に対して共振するための共振コンデンサとを有する。これにより、この非接触給電装置は、受電側の装置に接続される負荷が変動しても、ZVSを達成し、かつ、スイッチング素子がオフからオンに変わるタイミングとスイッチング素子に印加される電圧になるタイミングの差を十分に小さくすることができる。これにより、この非接触給電装置は、スイッチング素子におけるスイッチングロスを軽減して、電力伝送効率の低下を抑制することができる。
【0052】
当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 非接触給電装置
2 送電装置
10 直流電源
11 電力供給回路
12 送信コイル
13 コンデンサ
14 制御回路
15 コイル
16 コンデンサ
17 スイッチング素子
3 受電装置
20 共振回路
21 受信コイル
22 共振コンデンサ
23 整流平滑回路
4 中継回路
31 第1のコイル
32 第2のコイル
33 共振コンデンサ
5 負荷回路
400、500 基板
図1
図2
図3
図4
図5