(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060482
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20240424BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240424BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167882
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和也
(72)【発明者】
【氏名】豊島 広朗
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001XA09
4H001XA11
4H001XA13
4H001YA63
5F142AA02
5F142BA02
5F142BA22
5F142CA03
5F142CC01
5F142CE03
5F142CG03
5F142DA12
5F142DA22
5F142DA42
5F142DA53
5F142DA56
5F142DA72
5F142HA01
(57)【要約】
【課題】発光強度に優れる新規蛍光体を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、Na5Al3F14と同一の結晶構造を有し、一般式Na5-2xAl3F14:Euxで表される蛍光体であって、上記xの値が、0.110≦x≦0.320である、蛍光体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na5Al3F14と同一の結晶構造を有し、一般式Na5-2xAl3F14:Euxで表される蛍光体であって、
前記xの値が、0.110≦x≦0.320である、蛍光体。
【請求項2】
前記xの値が0.130≦x≦0.253である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長が390~410nmである、請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅が26.0~30.0nmである、請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項5】
一次光を発する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置であって、
前記波長変換体が、請求項1又は2に記載の蛍光体粉末を含む、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、発光表示管(Vaccum-Fluorescent Display:VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(Field Emission Displya:FRD)、表面電動型電子放出素子ディスプレイ(Surface-Conduction Electron-Emitter Display)、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:PDP)、陰極線管(Cathode-Ray Tube:CRT)、液晶ディスプレイバックライト(Liquid-Crystal Display Backlight)、及び発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)等の種々の製品に用いられている。
【0003】
蛍光体としては、β-SiAlON、及びCASN等の窒化物に賦活元素を固溶させた蛍光体など種々の蛍光体が知られている。その他、特許文献1には、チオライトと呼ばれるNa5Al3F14に対してMn4+を固溶させた赤色蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光体が利用される領域の拡大に伴い、設計選択肢の拡大の観点から、新規蛍光体が求められている。
【0006】
本開示は、発光強度に優れる新規蛍光体を提供することを目的とする。本開示はまた、上述の蛍光体を備える発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の[1]~[5]を提供する。
【0008】
[1]
Na5Al3F14と同一の結晶構造を有し、一般式Na5-2xAl3F14:Euxで表される蛍光体であって、
前記xの値が、0.110≦x≦0.320である、蛍光体。
[2]
前記xの値が0.130≦x≦0.253である、[1]に記載の蛍光体。
[3]
波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長が390~410nmである、[1]又は[2]に記載の蛍光体。
[4]
波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅が26.0~30.0nmである、[1]~[3]のいずれかに記載の蛍光体。
[5]
一次光を発する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置であって、
前記波長変換体が、[1]~[4]のいずれかに記載の蛍光体粉末を含む、発光装置。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、発光強度に優れる新規蛍光体を提供できる。本開示によればまた、上述の蛍光体を備える発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、発光装置の一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施例3で調製した粉末についてのX線回折スペクトルである。
【
図3】
図3は、実施例3で調製した粉体についての励起・発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0012】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
蛍光体の一実施形態は、Na5Al3F14と同一の結晶構造を有し、一般式Na5-2xAl3F14:Euxで表される蛍光体である。上記蛍光体は、Na5Al3F14のNa(ナトリウム)の一部がEu(ユウロピウム)に置換された化合物であるということもできる。本開示は、上記蛍光体の粒子の集合である蛍光体粉末や他の蛍光体と組み合わせた蛍光体組成物を提供するともいえる。蛍光体がNa5Al3F14と同一の結晶構造を有することは、X線回折スペクトルの回折パターンによって確認することができる。より具体的には、Na5Al3F14に対するX線回折スペクトル測定によって得られる回折パターンと同様の回折パターンを、測定対象となる蛍光体が呈するか否かによって判断することができる。
【0014】
Na5Al3F14は、チオライトとして知られる化合物である。チオライトの結晶は、正方晶系に属し、空間群P4/mnc対称性を有する結晶である。当該結晶の空間群は、International Tables for Crystallographyにおける128番に対応する。上記蛍光体は、チオライト同様に、正方晶系に属し、空間群P4/mnc対称性を有してよい。
【0015】
本明細書において結晶の空間群は、測定対象となるサンプルに対するX線回折スペクトルの回折パターンと、対称性が確定されている結晶群の回折パターンとの比較から、決定される。
【0016】
上記蛍光体において、一般式Na5-2xAl3F14:Euxにおけるxの値は、0.110≦x≦0.320である。ナトリウムとユウロピウムとは価数が異なるため、上記xの値が大きく、Euの固溶量が多くなると、結晶構造に欠陥が生じると想定される。このため、上記xの値が、例えば、0.050を超えて大きくなると、蛍光体の特性が低下すると推測される。しかし、本発明者らの検討によれば、上述の推定に反し、むしろ一定以上のユウロピウムを固溶させることによって、発光強度が大幅に上昇することが判明した。本開示はかかる知見も組み入れられている。
【0017】
上記xの値の下限値は、例えば、0.115以上、0.120以上、0.125以上、0.130以上、0.135以上、又は0.136以上であってよい。上記xの値の下限値が上記範囲内であることによって、より発光強度に優れる蛍光体となり得る。上記xの値の上限値は、例えば、0.315以下、0.310以下、0.305以下、0.300以下、0.295以下、0.290以下、0.285以下、0.280以下、0.275以下、0.270以下、0.265以下、0.260以下、0.255以下、0.253以下、0.250以下、0.245以下、0.240以下、0.235以下、0.230以下、0.225以下、0.220以下、0.215以下、0.210以下、0.205以下、又は0.200以下であってよい。上記xの値の下限値が上記範囲内であることで、Euの固溶量増加に伴う濃度消光の影響をより抑制することができる。上記xの値は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.110≦x≦0.300、0.130≦x≦0.253、0.135≦x≦0.253、又は0.136≦x≦0.200であってよい。
【0018】
蛍光体の構成元素及び割合は、マルチ型ICP発光分光分析装置を用いたICP発光分光分析方法によって決定することができる。蛍光体の構成元素のうちフッ素(F)については、イオンクロマトグラフ法によって決定することができる。具体的には、実施例に記載の方法で測定する。なお、蛍光体における元素組成は、蛍光体を製造する際の各元素の仕込みの割合に対応することから、原料組成から蛍光体の元素組成を推定することもできる。
【0019】
上記蛍光体の粒子の集合である蛍光体粉末の平均粒径は、例えば、1~100μm、又は3~50μmであってよく、LEDパッケージへの使用を想定した場合、5~35μmであってよい。蛍光体粉末の平均粒径が上述の範囲内であることで、より小型の発光素子を調製する際に有用である。上記蛍光体粉末の平均粒径が上記範囲内であることで、当該粉末を用いて、例えば、LEDパッケージを調製した際のLEDパッケージの発光輝度をより向上させることができる。
【0020】
本明細書における蛍光体粉末についての平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径の分布曲線において、小粒径からの積算値が、全体の50%に達した時の粒子径(D50)を意味する。蛍光体粉末の粒子径に関する分布曲線は、JIS R 1629:1997「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に記載のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法に準拠して行う。測定には粒子径分布測定装置を用いることができる。具体的には、まず、測定対象となる蛍光体粉末0.1gをイオン交換水100mLに投入し、ヘキサメタリン酸ナトリウムを少量添加し、超音波ホモジナイザーを用いて3分間、分散処理を行ったものを測定サンプルとし、粒子径分布測定装置を用いて粒度を測定して、得られた粒度分布からD50を決定する。D50は、メジアン径とも呼ばれる。なお、粒子径分布測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製の「Microtrac MT3300EX II」(製品名)を使用できる。超音波ホモジナイザーとしては、例えば、株式会社日本精機製作所製の「Ultrasonic Homogenizer US-150E」(製品名、チップサイズ:φ20、Amplitude:100%、発振周波数:19.5KHz、振幅:約31μm)を使用できる。
【0021】
上記蛍光体は、波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長が390~410nmであってよい。本明細書における上記蛍光体の発光ピーク波長とは、波長が365nmである光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークについてのピーク波長のことを意味する。
【0022】
上記蛍光体は、波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長は、Euの固溶量によって調整することができる。上記蛍光体は、波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長は、例えば、391nm以上、392nm以上、393nm以上、394nm以上、又は395nm以上とすることができる。上記蛍光体は、波長が365nmである光を照射したときの発光ピーク波長は、例えば、408nm以下、405nm以下、400nm以下、又は398nm以下とすることができる。
【0023】
上記蛍光体は、波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅を小さなものとすることができる。上記蛍光体は、波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅は、例えば、30.0nm以下、29.8nm以下、29.6nm以下、又は29.4nm以下とすることができる。上記蛍光体は、波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅は、例えば、26.0nm以上、27.0nm以上、27.5nm以上、28.0nm以上、又は28.5nm以上とすることができる。上記蛍光体は、波長365nmの光を照射した際の発光スペクトルにおいて、390~410nmの波長域に最大発光強度を有する発光ピークの半値幅は上述の範囲内とすることができ、例えば、26.0~30.0nm、27.0~29.8nm、27.0~29.6nm、又は28.5~29.4nmであってよい。
【0024】
本明細書において蛍光体の発光ピークの波長及び半値幅は、波長365nmの光を照射したときの発光スペクトル測定によって決定される値を意味する。本明細書において半値幅は、半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)を意味し、波長365nmの光を照射したときの発光スペクトル測定によって得られる発光スペクトルから決定することができる。
【0025】
上記蛍光体粉末の色度Xの上限値は、例えば、0.175以下、0.173以下、又は0.172以下であってよい。上記蛍光体粉末の色度Xは、例えば、0.165~0.175、0.167~0.174、又は0.170~0.172であってよい。
【0026】
上記蛍光体粉末の色度Yの下限値は、例えば、0.020以上、0.021以上、又は0.022以上であってよい。上記蛍光体粉末の色度Yは、例えば、0.020~0.037、0.020~0.030、0.020~0.023、又は0.020~0.022であってよい。
【0027】
蛍光体の製造方法の一例は、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム及びフッ化ユウロピウムを含む原料混合物を焼成することを含む。
【0028】
原料混合物において、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化アルミニウム(AlF3)及びフッ化ユウロピウム(例えば、EuF2,EuF3等)の配合割合は、一般式Na5-2xAl3F14:Euxにおけるxの値が、0.110≦x≦0.320となるように調整してよい。上述の調整は、例えば、原料混合物におけるAlとEuとの原子数の比を調整することによって行ってよい。すなわち、原料混合物におけるAl:Eu=3:xで表した場合に、Euの含有量が0.110≦x≦0.320となるように調整してよい。
【0029】
原料混合物は、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム及びフッ化ユウロピウムに加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、焼成工程における加熱温度又はそれ以下の温度で溶融し液相を形成する化合物などが挙げられる。このような化合物はフラックスとして機能し、原料成分の反応、及び蛍光体粒子の粒成長を促進させ、より安定な蛍光体を製造し得る。フラックスとして機能し得る上記化合物は、例えば、無機化合物であってよく、より具体的には、炭酸ナトリウム、及びフッ化マグネシウム等が挙げられる。
【0030】
上記原料混合物の調製は、各化合物を秤量し、混合することによって調製できる。混合には、乾式混合法又は湿式混合法を用いてもよい。乾式混合法は、例えば、V型混合機等を用いて各成分を混合する方法であってよい。湿式混合法は、例えば、水等の溶媒又は分散媒を加えて溶液又はスラリーを調製し各成分を混合して、その後、溶媒又は分散媒を除去する方法であってよい。
【0031】
焼成工程における加熱温度(焼成温度)は、例えば、500~1200℃であってよく、500~1000℃、500~900℃、又は600~800℃であってよい。上記焼成温度の下限値が上記範囲内であることで、反応をより促進できる。また、上記焼成温度の上限値が上記範囲内であることで、原料成分の分解及び揮発をより抑制できる。
【0032】
焼成工程における加熱時間(焼成時間)は、例えば、1~96時間、1~80時間、1~60時間、1~30時間、2~15時間、2~12時間、2~10時間、2~8時間、2~6時間、又は2~5時間であってよい。上記焼成時間の下限値が上記範囲内であることで、反応をより促進できる。上記焼成時間の上限値が上記範囲内であることで、原料成分の揮発をより抑制できる。
【0033】
焼成工程の雰囲気(焼成雰囲気)は、例えば、大気、窒素、水素、アルゴン、又はこれらの混合ガスを含むものであってよい。焼成雰囲気は、発光特性をより向上させる観点から、窒素及び水素の混合ガスであってよく、窒素と水素とを体積比でN2:H2=96:4となるように混合した混合ガスであってよい。
【0034】
上述の製造方法は、焼成工程に加えて、その他の工程を有していてもよい。その他の工程は、例えば、解砕工程、分級工程、及び酸処理工程等が挙げられる。
【0035】
解砕工程は、例えば、焼成工程で得られる焼成物が塊状で得られる場合があるため、これらを解砕し、粒度を調整する工程である。解砕工程においては、乳鉢等を用いてもよく、また一般的な粉砕機又は解砕機を用いることもできる。粉砕機及び解砕機としては、例えば、ボールミル、ジェットミル、及びヘンシェルミキサー等が挙げられる。解砕工程は、イオン交換水等の媒体を共存させた湿式におけるボールミル粉砕で行われることが望ましい。また、ボールミルにはジルコニアボールを使用できる。
【0036】
分級工程は、蛍光体粉末の発光輝度等を低下させるような微粒子分を除去する工程であってよい。蛍光体粉末に求められる光学特性の要求レベルが高い場合には、上述の蛍光体の製造方法は、分級工程を有することが望ましい。分級工程は、例えば、デカンテーション法を用いてよい。分級工程は、処理対象物(例えば、解砕工程を経た蛍光体粉末)を分散媒中に投入し、分散液を調製して撹拌した後、当該分散液中の蛍光体粉末を沈殿させ、上澄みを除去することによって行う。上澄み除去後、沈殿物を濾過処理によって回収し、乾燥させることで、微粒子分の除去された蛍光体粉末を得ることができる。分級工程では、上述の分散液の調製、上澄みの除去を繰り返し行ってよい。分散媒としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウムの水溶液等が挙げられる。
【0037】
酸処理工程は、蛍光体粉末を酸処理することによって、発光に寄与しない不純物の含有量を低減する工程であってよい。酸としては、例えば、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、及び硝酸等を挙げることができる。酸は、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、及び硝酸からなる群より選択される少なくとも1種を含んでよく、混酸であってよいが、好ましくは塩酸である。酸処理工程は、蛍光体粉末を上述の酸に接触させることによって行う。具体的には、上記酸を含む水溶液中に上述の蛍光体粉末を投入し、分散液を調製して、撹拌しながら所定時間処理を行う。
【0038】
上述の蛍光体は、単独で用いてもよく、その他の蛍光体と組み合わせて用いることもできる。本開示に係る蛍光体は紫外領域にピークを有する蛍光を発光し得ることから、紫外発光蛍光体として有用である。本開示に係る蛍光体はまた優れた発光強度に優れ得ることから、例えば、LED等の発光装置等に好適に使用できる。蛍光体を硬化樹脂中に分散させて使用してもよい。硬化樹脂は、特に制限されず、例えば、発光装置等の封止樹脂として使用される樹脂等を用いることができる。封止樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエステルなどが挙げられる。
【0039】
発光装置の一実施形態は、一次光を発する発光素子と、上記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置である。上記波長変換体が、上述の蛍光体粉末を含む。上記発光素子及び波長変換体は、封止樹脂等によって封止されていてもよい。
【0040】
図1は、発光装置の一例を示す模式断面図である。
図1に示す発光装置は、表面実装型に分類される光半導体装置の例である。発光装置100は、基材10と、基材10の表面に設けられた金属層20と電気的に接続された発光素子40と、発光素子40を取り囲むように基材10の表面に設けられた反射部30と、基材10と反射部30とで形成される凹部に充填され、発光素子40を封止する透明封止樹脂60と、を備えている。透明封止樹脂60中には、紫外発光蛍光体52と、その他の蛍光体54とが分散している。紫外発光蛍光体52は本開示に係る蛍光体を含む。
【0041】
基材10は、表面の一部に金属層20が形成されており、金属層20は、基材10の表面に配置された発光素子40と導通される電極となっている。発光素子40は、アノード側及びカソード側のいずれか一方の金属層20とダイボンドされており、ダイボンド材42を介して金属層20と電気的に接続されている。発光素子40は、アノード側及びカソード側のいずれか一方の金属層20とボンディングワイヤ44を介して電気的に接続されている。
【0042】
反射部30は、発光素子40を封止するための透明封止樹脂60を充填させると共に、発光素子40から発せられた光(励起光)、並びに上記光を受けて紫外発光蛍光体52及びその他の蛍光体54から発せられた蛍光を発光装置100の表面側に反射させるものである。
【0043】
発光素子40は、紫外発光蛍光体52及びその他の蛍光体54を励起することが可能な光(一次光、励起光)を発するものであってよい。発光素子40は、例えば、近紫外発光ダイオード(近紫外LED)、紫外発光ダイオード(紫外LED)及び青色発光ダイオード(青色LED)等であってよい。発光素子40は、複数用意されていてもよい。
【0044】
発光装置100は、紫外発光蛍光体52の他に、その他の蛍光体54を含むが、紫外発光蛍光体52のみであってもよい。その他の蛍光体54としては、例えば、赤色蛍光体、黄色蛍光体、緑色蛍光体、及び青色蛍光体等を含んでもよい。
【0045】
上記例では、発光装置を表面実装型に分類される光半導体装置の例で説明したが、これに限られるものではない。発光装置は、例えば、分析用光源、信号装置、並びに、液晶ディスプレイ及び液晶パネル等のバックライト用光源などであってよい。
【0046】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0047】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
フッ化ナトリウム(NaF、シグマアルドリッチジャパン合同会社製、型番:201154)が42.20質量%、フッ化アルミニウム(AlF3、株式会社高純度化学研究所製、型番:ALH17PB)が52.97質量%、及びフッ化ユウロピウム(EuF3、富士フイルム和光純薬株式会社製、型番:053-05171)が4.83質量%となるようにそれぞれ測り取り、アルミナ製乳鉢を用いて空気中で10分間混合し、原料混合物を得た。
【0049】
次に、得られた原料混合物をアルミナ製坩堝に入れ、高温雰囲気炉で室温から、約5℃/minの昇温速度で700℃まで昇温し、700℃で4時間保持した。高温雰囲気炉中の雰囲気は、窒素と水素との混合ガス(体積比でN2:H2=96:4となるように混合したもの。表1中では「N2/4vol%H2」と表記する。)とした。その後、室温まで冷却したのち、アルミナ製乳鉢によって粉砕することによって、Euが固溶したNa5-2xAl3F14:Euxの粉末を調製した。なお、得られた粉末がNa5-2xAl3F14:Euxの粉末であることは、以下の組成分析によって確認した。確認されたNa5-2xAl3F14:Euxで表される式中のxの値は、設計組成に一致していることを確認した。設計組成におけるxの値は、表1に示す。
【0050】
[組成分析:ICP発光分光分析方法、及びイオンクロマトグラフ分析法]
マルチ型ICP発光分光分析装置(Agilent社の装置、型番:5110VDV型)を用いて組成を分析した。測定対象となる上記粉末10mgを白金るつぼに入れ、アルカリ性融剤2gを加え、電気炉で融解した。放冷後、白金るつぼに塩酸(HCl)20mLを加え、温浴中で加温溶解して溶液を得た。その後、得られた溶液を100mLに定容した。この100mLの溶液を純水で10倍に希釈し試験液として、上記装置にセットし、組成を分析した。
【0051】
蛍光体のフッ素(F)の含有量はイオンクロマトグラフィー/IC(DIONEX社製、型番:DX-320型)にて測定した。樹脂容器に水50mLを入れ、50℃の恒温槽へ移した。水が50℃になったことを確認したのち、蛍光体試料(上記粉末)0.5gを入れ、10分間撹拌した。撹拌終了後、0.45μmのメンブレンフィルターを用いて、固形物を除去し、水溶液のみ抽出した。検量線濃度に応じて、希釈を行い、イオンクロマトグラフィー測定を実施し、フッ素の割合を決定した。測定条件は以下のとおりとした。
・測定用カラム:Ion PacAG22/AS22
・溶離液:Na2CO3 4.5mmol/L、NaHCO3 4.0mmol/L
・溶離液流量:1/2 ml/L
・恒温槽温度:35℃
・サプレッサー付電気伝導度(検出器):50mA
・試料導入量:50μL
【0052】
(実施例2~5、比較例1~3)
一般式Na5-2xAl3F14:Euxにおけるxの値を、表1に記載のとおり変更し、各成分の混合量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、Euが固溶したNa5-2xAl3F14:Euxの粉末を調製した。
【0053】
<Na5-2xAl3F14:Euxの粉末の発光特性評価>
上述の実施例及び比較例で調製した粉末について、後述する方法によって、結晶構造、相対発光強度、発光ピーク波長、半値幅、色度X及び色度Yを評価した。
【0054】
[結晶構造の確認]
実施例において調製した粉末について、結晶構造の確認を行った。まず、実施例で得られたX線回折スペクトルを取得した。得られた回折パターンを、Na
5Al
3F
14のX線回折パターンと対比することによって、実施例で得られた粉末が、Na
5Al
3F
14と同一の結晶構造を有することが確認された。測定には、株式会社リガク製の「Ultima IV」(製品名)を使用し、測定範囲を10~120°とした。参考のため、実施例3で調製した粉末のX線回折スペクトルを
図2に示す。
【0055】
[発光強度の測定、発光ピーク波長、及び半値幅の決定]
実施例及び比較例において調製した粉末について、蛍光体として機能するかを確認するために、発光強度の測定を行った。まず、測定対象である蛍光体を石英セルに充填し、これを付属の固定試料ホルダーに固定した。次に、励起光として波長365nmの光を用い発光スペクトルを測定した。励起スペクトル測定時には、蛍光モニター波長を393nmとして、励起スペクトルを測定した。また、得られた発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長を決定し、発光ピークの最大発光強度に対する半分の強度の値をとる波長を決定し、その差分をとることで半値幅を算出した。測定には、株式会社日立ハイテクサイエンス製の分光蛍光光度計「F-7000」(製品名)を用いた。結果を表1に示す。なお、表1における相対発光強度は、実施例1で調製した粉末(蛍光体)の発光強度を100とした場合の相対値で示した。また参考のため、実施例3で調製した粉体についての励起・発光スペクトルを
図3に示す。
図3中、励起スペクトルを点線で示し、発光スペクトルを実線で示した。
【0056】
[色度X及び色度Y]
色度X及びYは、発光スペクトルの375~800nmの範囲の波長域におけるスペクトルデータから、JIS Z 8781-3:2016「測色-第3部:CIE三刺激値」で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標のx値(色度X)、及びCIE色度座標のy値(色度Y)をJIS Z 8724:2015「色の測定方法-光源色」に準じ算出することで求めた。なお、色度X及びYを測定するためのスペクトルデータは、以下のようにして測定した。
【0057】
まず、測定対象である蛍光体(上述の実施例及び比較例で調製した粉末)を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。発光光源であるXeランプから365nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として上記積分球内に導入した。この励起光である単色光を測定対象である蛍光体に照射し、発光スペクトルを測定し、スペクトルデータを取得した。測定には、分光光度計(大塚電子株式会社製、「MCPD-7000」(製品名)を用いた。
【0058】
本開示によれば、発光強度に優れる新規蛍光体を提供できる。本開示に係る蛍光体は紫外発光蛍光体として有用であり、例えば、分析機器等に使用される光源として利用し得る。本開示によればまた、上述の蛍光体を備える発光装置を提供できる。
10…基材、20…金属層、30…反射部、40…発光素子、42…ダイボンド材、44…ボンディングワイヤ、52…紫外発光蛍光体、54…その他の蛍光体、60…透明封止樹脂、100…発光装置。