(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060484
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/00 20060101AFI20240424BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20240424BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B60C9/00 L
B60C9/08 E
D07B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167885
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】山口 栄士
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
【Fターム(参考)】
3B153AA10
3B153AA12
3B153AA17
3B153BB05
3B153CC29
3B153CC52
3B153FF16
3B153GG05
3D131AA14
3D131AA39
3D131AA46
3D131BB03
3D131BC31
3D131BC39
3D131BC40
3D131DA01
(57)【要約】
【課題】 耐久性能を向上し得る空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 トレッド部2から一対のサイドウォール部3を経て一対のビード部4に至るカーカス6を有する空気入りタイヤ1である。カーカス6は、複数のカーカスコード8が配列された少なくとも1枚のカーカスプライ6Aを含んでいる。複数のカーカスコード8のそれぞれは、少なくとも1本のコアコード10aで構成されたコア10と、少なくとも1本のコア10の周囲に配された複数本のシース11とで構成されている。少なくとも1本のコアコード10aは、長径d1と短径d2とを有する偏平形状の断面を有している。少なくとも1本のコアコード10aの偏平率d2/d1と、タイヤ子午線断面におけるサイドウォール部3の外表面3aからカーカスコード8の中心までの最短距離L1(mm)との積(d2/d1×L1)が、5.6(mm)以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部から一対のサイドウォール部を経て一対のビード部に至るカーカスを有する空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、複数のカーカスコードが配列された少なくとも1枚のカーカスプライを含み、
前記複数のカーカスコードのそれぞれは、少なくとも1本のコアコードで構成されたコアと、前記コアの周囲に配された複数本のシースとで構成され、
前記少なくとも1本のコアコードは、長径d1と短径d2とを有する偏平形状の断面を有し、
前記少なくとも1本のコアコードの偏平率d2/d1と、タイヤ子午線断面における前記サイドウォール部の外表面から前記カーカスコードの中心までの最短距離L1(mm)との積(d2/d1×L1)が、5.6(mm)以下である、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記少なくとも1本のコアコードの前記偏平率d2/d1が、70%以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記少なくとも1本のコアコードの前記短径d2が、0.15mm以上0.42mm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記コアを構成する前記少なくとも1本のコアコードは、1本以上3本以下のスチール単線からなる無撚りのスチールコードを含む、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記複数本のシースは、5本以上12本以下の断面円形状のスチールコードを含む、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスプライの厚さTが、前記カーカスコードの短径D2の250%以上400%以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記カーカスプライの前記カーカスコードの長手方向に直交する断面において、互いに隣接する一対の前記カーカスコードの中心間距離L2が、前記カーカスコードの長径D1の170%以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスコードの長手方向に直交する断面において、前記コアコードの長径方向が、前記カーカスコードの配列方向に対して30°以内である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカスを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部から一対のサイドウォール部を経て一対のビード部に至るカーカスを有する空気入りタイヤが知られている。例えば、下記特許文献1は、スチール製のカーカスコードを含むカーカスを有する重荷重用空気入りタイヤを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、タイヤ製造時の二酸化炭素の排出量の削減等、環境負荷低減の観点から、空気入りタイヤの耐久性能を更に向上させることが期待されている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、耐久性能を向上し得る空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部から一対のサイドウォール部を経て一対のビード部に至るカーカスを有する空気入りタイヤであって、前記カーカスは、複数のカーカスコードが配列された少なくとも1枚のカーカスプライを含み、前記複数のカーカスコードのそれぞれは、少なくとも1本のコアコードで構成されたコアと、前記コアの周囲に配された複数本のシースとで構成され、前記少なくとも1本のコアコードは、長径d1と短径d2とを有する偏平形状の断面を有し、前記少なくとも1本のコアコードの偏平率d2/d1と、タイヤ子午線断面における前記サイドウォール部の外表面から前記カーカスコードの中心までの最短距離L1(mm)との積(d2/d1×L1)が、5.6(mm)以下である、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上述の構成を備えることにより、耐久性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本実施形態のサイドウォール部の拡大断面図である。
【
図5】他の実施形態のカーカスコードの断面模式図である。
【
図6】他の実施形態のカーカスプライの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ1」ということがある。)の正規状態における回転軸を含むタイヤ子午線断面図が示されている。ここで、「正規状態」とは、タイヤ1が正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧に調整された無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0010】
「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0011】
「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0012】
図1に示されるタイヤ1は、例えば、トラック、バスに用いられる重荷重用タイヤとして好適に用いられる。タイヤ1は、重荷重用タイヤに特定されるものではなく、例えば、ランフラットタイヤ等の乗用車用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、不整地走行用タイヤ、航空機用タイヤ等の様々な空気入りタイヤに応用され得る。
【0013】
本実施形態のタイヤ1は、環状に延びるトレッド部2と、トレッド部2の両側に延びる一対のサイドウォール部3と、サイドウォール部3に連なって延びる一対のビード部4とを含んでいる。タイヤ1は、例えば、トレッド部2から一対のサイドウォール部3を経て一対のビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2のタイヤ半径方向の内側に配されたベルト層7とを有している。
【0014】
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aを含んでいる。カーカスプライ6Aは、例えば、本体部6a及び折返し部6bを有している。本体部6aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るのが望ましい。折返し部6bは、例えば、本体部6aに連なりかつビードコア5の回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向外側に延びている。
【0015】
カーカスプライ6Aには、例えば、折返し部6bの端部が本体部6aとベルト層7との間に至る、いわゆる超ハイターンナップ構造が採用されてもよい。また、カーカス6は、例えば、2枚以上のカーカスプライ6Aで構成されていてもよい。
【0016】
ベルト層7は、少なくとも1枚の、本実施形態では4枚のベルトプライ7A、7B、7C、7Dを含んでいる。ベルト層7は、タイヤ半径方向に互いに隣接した2枚以上のベルトプライ7A、7B、7C、7Dを含むのが望ましい。ベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、それぞれ、例えば、タイヤ周方向に対して10°以上45°以下の角度で傾斜して配列されたベルトコードと、ベルトコードを被覆するトッピングゴムとを含んでいる。複数のベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、互いのベルトコードが交差するように配されるのが望ましい。このようなベルト層7は、複数のベルトプライ7A、7B、7C、7Dが互いに協働してトレッド部2の剛性を向上させ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0017】
ベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、それぞれ同一の構成を有するのが望ましい。このようなベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、1つのベルトプライ7aとして製造、管理することができ、生産コストを低減されることができる。なお、ベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、例えば、それぞれ異なる構成を有していてもよい。また、複数のベルトプライ7A、7B、7C、7Dの少なくとも1枚が、例えば、タイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列されたベルトコードを含むプライであってもよい。
【0018】
図2は、本実施形態のサイドウォール部3のカーカスコード8の長手方向に直交する断面おける拡大断面図である。
図2に示されるように、カーカスプライ6Aは、カーカスコード8と、カーカスコード8を被覆する被覆層9とを含むのが望ましい。本実施形態のカーカスプライ6Aには、複数のカーカスコード8が配列されている。カーカスコード8は、例えば、タイヤ周方向に対して70°以上90°以下の角度で傾けて配列されている。
【0019】
図3は、カーカスコード8の断面模式図である。
図3に示されるように、本実施形態の複数のカーカスコード8のそれぞれは、少なくとも1本のコアコード10aで構成されたコア10と、コア10の周囲に配された複数本のシース11とで構成されている。
【0020】
カーカスコード8は、例えば、N本のコアコード10aで構成されたコア10とM本のシース11とで構成されたN+M構造を有している。
図3には、1本のコアコード10aで構成されたコア10と8本のシース11とで構成された1+8構造が例示されている。このようなカーカスコード8は、N本のコアコード10aで構成されたコア10にM本のシース11を巻き付けることで、タイヤ1が変形したときにシース11が柔軟に変形すると共に、N本のコアコード10aが剛性を発揮することができる。このため、本実施形態のカーカスコード8は、タイヤ1が変形したときの破断が抑制され、タイヤ1の耐久性能を向上させることができる。
【0021】
図2及び
図3に示されるように、少なくとも1本のコアコード10aは、長径d1と短径d2とを有する偏平形状の断面を有するのが望ましい。コアコード10aは、例えば、略矩形状の断面を有している。コアコード10aの断面形状は、このような態様に限定されるものではなく、偏平形状であれば、例えば、楕円形状であっても、六角形状等の多角形状であってもよい。
【0022】
このようなコアコード10aは、コア10の周囲に配された複数本のシース11を含むカーカスコード8全体の断面形状を偏平形状とすることができ、カーカスコード8の強度を維持しつつ、カーカスプライ6Aの厚さTを低減させることができる。これにより、本実施形態のカーカスコード8は、カーカスプライ6Aの変形を抑制し、カーカスプライ6A内での発熱を抑制することができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0023】
本実施形態では、少なくとも1本のコアコード10aの偏平率d2/d1と、タイヤ子午線断面におけるサイドウォール部3の外表面3aからカーカスコード8の中心までの最短距離L1(mm)との積(d2/d1×L1)が、5.6(mm)以下である。
【0024】
このようなカーカス6は、偏平率d2/d1を小さくすることで、カーカスプライ6Aの厚さTを低減させることができ、カーカスプライ6Aでの発熱を抑制することができる。また、このカーカス6は、最短距離L1を小さくすることで、カーカスプライ6Aで生じた熱をサイドウォール部3の外表面3aから放出させ易くし、カーカスプライ6Aでの蓄熱を抑制することができる。
【0025】
これにより、本実施形態のカーカス6は、カーカスプライ6A内での発熱及び蓄熱を抑制することができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることができる。このため、本実施形態のタイヤ1は、耐久性能を向上することができる。
【0026】
ここで、コアコード10aの長径d1及び短径d2は、コアコード10aの断面中心を通り、コアコード10aの輪郭と交わる直線のうち最小のものが短径d2であり、短径d2に直交する方向のものが長径d1である。長径d1及び短径d2は、カーカスコード8から取り出したコアコード10aの長手方向に垂直になる方向にノギス等を当てて測定することにより求めることができる。
【0027】
また、最短距離L1は、サイドウォール部3のタイヤ周方向に非連続に設けられる凹凸構造を除く外表面3aからカーカスプライ6Aの本体部6aのカーカスコード8の中心までの距離のうち最短のものである。なお、複数枚のカーカスプライ6Aを含む場合の最短距離L1は、本体部6aがサイドウォール部3においてタイヤ軸方向の最も外側に位置するカーカスプライ6Aのカーカスコード8の中心までの距離である。
【0028】
最短距離L1は、上述のように、正規状態で測定された値であるのが望ましく、例えば、X線を用いたコンピュータ断層撮影法により求めることができる。なお、最短距離L1は、例えば、タイヤ1の一部をタイヤ子午線に沿って切り出した断面部のビード部4を、正規リムの幅に合わせて簡易的に測定されてもよい。
【0029】
より好ましい態様として、コア10を構成する少なくとも1本のコアコード10aは、スチール単線からなる無撚りのスチールコードを含んでいる。このようなコアコード10aは、コア10の中心部での変形を抑制することができ、カーカスプライ6A内での発熱を抑制し、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0030】
少なくとも1本のコアコード10aの偏平率d2/d1は、好ましくは、70%以下である。コアコード10aの偏平率d2/d1が70%以下であることで、カーカスプライ6Aの厚さTを低減することができ、カーカスプライ6A内での発熱をより確実に抑制することができる。このような観点から、コアコード10aの偏平率d2/d1は、より好ましくは、68%以下であり、更に好ましくは、65%以下である。
【0031】
コアコード10aの偏平率d2/d1の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは、30%以上であり、より好ましくは、45%以上であり、更に好ましくは、55%以上である。このようなコアコード10aは、長径d1が過度に大きくなることを抑制することができる。
【0032】
少なくとも1本のコアコード10aの長径d1は、好ましくは、0.30mm以上0.50mm以下である。コアコード10aの長径d1が0.30mm以上であることで、カーカスコード8の強度を維持し、カーカスプライ6Aの変形を抑制することができる。このような観点から、コアコード10aの長径d1は、より好ましくは、0.35mm以上であり、更に好ましくは、0.38mm以上である。
【0033】
コアコード10aの長径d1が0.50mm以下であることで、カーカスコード8の適度な柔軟性を維持してカーカスコード8の早期折損を抑制することができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。このような観点から、コアコード10aの長径d1は、より好ましくは、0.45mm以下であり、更に好ましくは、0.43mm以下である。
【0034】
少なくとも1本のコアコード10aの短径d2は、好ましくは、0.15mm以上0.42mm以下である。コアコード10aの短径d2が0.15mm以上であることで、カーカスプライ6Aの変形を抑制し、カーカスプライ6A内での発熱を抑制することができる。このような観点から、コアコード10aの短径d2は、より好ましくは、0.20mm以上であり、更に好ましくは、0.22mm以上である。
【0035】
コアコード10aの短径d2が0.42mm以下であることで、カーカスプライ6Aの厚さTを低減させることができ、カーカスプライ6A内での発熱を抑制することができる。このような観点から、コアコード10aの短径d2は、より好ましくは、0.40mm以下であり、更に好ましくは、0.38mm以下である。
【0036】
図4は、
図3のコアコード10aの拡大図である。
図4に示されるように、コアコード10aは、例えば、略矩形状の断面の角部が円弧状に形成されている。コアコード10aの角部の円弧状の半径rは、好ましくは、0.07mm以上である。また、コアコード10aの角部の円弧状の半径rは、好ましくは、0.15mm以下である。このようなコアコード10aは、シース11を損傷させるおそれがなく、タイヤ1の耐久性能を向上させることができる。
【0037】
図5は、他の実施形態のカーカスコード8の断面模式図である。
図5のカーカスコード8は、3本のコアコード10aで構成されたコア10と12本のシース11とで構成された3+12構造を有している。
図3及び
図5に示されるように、コア10は、1本以上3本以下のコアコード10aを含むのが望ましい。
図3には、1本のコアコード10aを含む態様が示され、
図5には、3本のコアコード10aを含む態様が示されている。このようなカーカスコード8は、カーカスプライ6Aの変形を抑制し、カーカスプライ6A内での発熱を抑制することに役立つ。
【0038】
複数本のシース11は、好ましくは、5本以上12本以下の断面円形状のスチールコードを含んでいる。
図3には、8本のシース11を含む態様が示され、
図5には、12本のシース11を含む態様が示されている。このようなカーカスコード8は、適度な剛性を維持ししつつ伸びを生じさせることができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。ここで、断面円形状とは、シース11の長手方向に直交する断面形状が円形であることを意味し、偏平率が1.05以下のものを指す。
【0039】
本実施形態のシース11の直径d3は、コアコード10aの長径d1よりも小さい。シース11の直径d3は、コアコード10aの短径d2に等しいか、短径d2よりも大きいのが望ましい。このようなシース11は、カーカスコード8の強度と伸びとを両立させることに役立つ。
【0040】
シース11の直径d3は、好ましくは、0.30mm以上0.37mm以下である。シース11の直径d3が0.30mm以上であることで、カーカスコード8の良好な強度を維持することができる。シース11の直径d3が0.37mm以下であることで、カーカスコード8の良好な伸びを維持することができる。
【0041】
カーカスコード8は、コア10を中心にシース11がらせん状に撚られているのが望ましい。シース11の撚りのピッチは、特に限定されるものではないが、シース11の直径d3とシース11の本数との積以上であることが好ましい。シース11の撚りのピッチは、より好ましくは、シース11の直径d3とシース11の本数との積の1.05倍以上4.00倍以下である。
【0042】
カーカスコード8の長径D1は、好ましくは、1.10mm以上1.80mm以下である。カーカスコード8の長径D1が1.10mm以上であることで、カーカスプライ6Aの変形を抑制することができる。このような観点から、カーカスコード8の長径D1は、より好ましくは、1.12mm以上であり、更に好ましくは、1.14mm以上である。
【0043】
カーカスコード8の長径D1が1.80mm以下であることで、カーカスコード8の適度な柔軟性を維持してカーカスコード8の早期折損を抑制することができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。このような観点から、カーカスコード8の長径D1は、より好ましくは、1.70mm以下であり、更に好ましくは、1.50mm以下である。
【0044】
カーカスコード8は、長径方向が同一面を形成するようにカーカスプライ6Aに配列されるのが望ましい。このようなカーカスプライ6Aは、厚さTを低減することができ、カーカスプライ6A内での発熱を抑制することができる。ここで、長径方向が同一面を形成するとは、長径方向の相対角度が10°以内であることを意味する。
【0045】
図2に示されるように、カーカスプライ6Aの被覆層9としては、例えば、ゴム組成物、熱可塑性エラストマー組成物等が挙げられる。被覆層9は、化学的なネットワークを形成させ、強固にカーカスコード8と被覆層9とを接着させる観点からは、ゴム組成物を用いるのが望ましい。なお、被覆層9は、リサイクル性の観点からは、熱可塑性エラストマー組成物を用いるのが望ましい。
【0046】
被覆層9がゴム組成物である場合、ゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエン系ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。被覆層9は、カーカスコード8との接着性の観点から、イソプレン系ゴムを含むのが望ましい。イソプレン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム等が挙げられる。
【0047】
被覆層9のゴム組成物は、例えば、補強用の充填剤を含有してもよい。充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等が挙げられる。
【0048】
充填剤の含有量は、耐久性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上であるのが好ましい。一方、発熱性の観点から、充填剤の含有量の上限としては、65質量部以下であるのが好ましい。
【0049】
被覆層9のゴム組成物は、充填剤の中でも、カーボンブラックを含有することが望ましい。カーボンブラックの含有量は、耐久性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であるのが好ましい。一方、発熱性の観点から、カーボンブラックの含有量の上限としては、65質量部以下であるのが好ましい。
【0050】
カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF及びECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FT及びMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPC及びCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイト等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
被覆層9のゴム組成物は、例えば、可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、例えば、オイル、樹脂成分等が挙げられる。可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部超、10質量部未満であるのが好ましい。
【0052】
被覆層9のゴム組成物は、接着性の観点から、例えば、ゴム中にコバルト元素を含んでいてもよい。コバルト元素を含む化合物としては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素三ネオデカン酸コバルト等の有機酸コバルト塩が挙げられる。
【0053】
被覆層9のゴム組成物は、接着性の観点から、例えば、硬化性樹脂成分を含有していてもよい。硬化性樹脂成分としては、例えば、変性レゾルシン樹脂、変性フェノール樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上であるのが好ましく、2質量部以上であるのがより好ましい。一方、硬化性樹脂成分の含有量の上限としては、10質量部以下であるのが好ましく、8質量部以下であるのがより好ましい。
【0054】
被覆層9のゴム組成物は、硬化性樹脂成分を含有する場合、樹脂硬化剤を併せて含有するのが望ましい。樹脂硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)等のメチレン供与体が挙げられる。樹脂硬化剤の含有量は、硬化性樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上であるのが好ましい。
【0055】
被覆層9のゴム組成物は、その他の成分として、例えば、老化防止剤、酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤、架橋助剤等を含有していてもよい。
【0056】
カーカスコード8は、被覆層9との接着性の観点から、表面にめっき処理が施されるのが望ましい。めっき層の種類としては、例えば、銅、亜鉛を用いた2元めっき層や、銅、亜鉛、コバルトを用いた3元めっき層等が挙げられる。カーカスコード8は、3元めっき層が形成されることで、被覆層9との接着性をより向上させることができる。
【0057】
カーカスプライ6Aの厚さTは、好ましくは、カーカスコード8の短径D2の250%以上400%以下である。カーカスプライ6Aの厚さTがカーカスコード8の短径D2の250%以上であることで、カーカスコード8と被覆層9との剥離を抑制することができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。カーカスプライ6Aの厚さTがカーカスコード8の短径D2の400%以下であることで、カーカスプライ6Aでの発熱をより確実に抑制することができる。
【0058】
ここで、カーカスプライ6Aの厚さTは、正規状態の最短距離L1が求められた位置における厚さTであって、例えば、X線を用いたコンピュータ断層撮影法により求めることができる。なお、カーカスプライ6Aの厚さTは、例えば、タイヤ1の一部をタイヤ子午線に沿って切り出した断面部から簡易的に測定されてもよい。
【0059】
カーカスプライ6Aのカーカスコード8の長手方向に直交する断面において、互いに隣接する一対のカーカスコード8の中心間距離L2は、好ましくは、カーカスコード8の長径D1の170%以下である。カーカスコード8の中心間距離L2がカーカスコード8の長径D1の170%以下であることで、カーカスプライ6A内の剛性を向上させることができ、タイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0060】
ここで、カーカスコード8の中心間距離L2は、最短距離L1が求められた位置における10本のカーカスコード8の中心間距離L2の平均として求められる。中心間距離L2は、上述のように、正規状態で測定された値であるのが望ましく、例えば、X線を用いたコンピュータ断層撮影法により求めることができる。なお、中心間距離L2は、例えば、タイヤ1の一部をカーカスコード8の長手方向に直交する方向に沿って切り出した断面部から簡易的に測定されてもよい。
【0061】
図6は、他の実施形態のカーカスプライ6Aのカーカスコード8の長手方向に直交する断面おける断面模式図である。
図6に示されるように、カーカスコード8の長手方向に直交する断面において、カーカスプライ6Aは、例えば、コアコード10aの長径方向が、カーカスコード8の配列方向に対し角度θを有して配列されていてもよい。この場合のコアコード10aの長径方向は、カーカスコード8の配列方向に対して30°以内となるように配列されるのが望ましい。
【0062】
このようなカーカスプライ6Aは、カーカスコード8の長手方向が同一面を形成するように配列されたものと同様の効果を発揮することができ、また、製造工程を簡略化することができるので、製造コストを低減することができる。
【0063】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例0064】
図1に示される基本構造を有する空気入りタイヤ(11R22.5 14PR)が、表1の仕様に基づき試作され、その耐久性能がテストされた。製造方法及びテスト方法は、以下のとおりである。
【0065】
<試作タイヤの製造方法>
最初に、以下に示す各配合材料を準備し、270Lバンバリーにて混合することで、被覆層用のゴム組成物が得られた。
【0066】
(配合材料)
(a)ゴム成分 :天然ゴム
:100質量部
【0067】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ)カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN326
:40質量部
(ロ)カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550
:15質量部
(ハ)硬化性樹脂成分 :田岡化学工業(株)製のスミカノール620
:5質量部
(ニ)樹脂硬化剤 :田岡化学工業(株)製のスミカノール507
:1.5質量部
(ホ)有機酸コバルト :DIC(株)製のDICNATE NBC-2
:1質量部
(ヘ)老化防止剤 :大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
:0.5質量部
(ト)老化防止剤 :川口化学工業(株)製のアンテージRD
:1質量部
(チ)酸化亜鉛 :三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
:10質量部
(リ)硫黄 :鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
:7質量部
(ヌ)加硫促進剤 :大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ
:1.2質量部
(ル)架橋助剤 :フレキシス社製のデュラリンクHTS
:1.5質量部
【0068】
次に、表1に示されるカーカスコードを準備し、準備されたカーカスコードを、表1に示されるカーカスコードの中心間距離L2となるように並べ、被覆層をカーカスコードの上下から圧着することで、カーカスプライが得られた。
【0069】
得られたカーカスプライを用いて、インナーライナー、ベルト層、サイドウォールゴム、ビードエーペックス、ビードコア、チェーファーゴム、トレッドゴム等と合わせて成形し、未加硫タイヤが得られた。得られた未加硫タイヤを、160℃の条件下で40分間加硫することで、試作タイヤが得られた。
【0070】
また、テストに用いられる試作タイヤとは別の確認用タイヤが、試作タイヤと同じ仕様で試作された。確認用タイヤを破壊検査し、タイヤ子午線断面、カーカスコードの長手方向に直交する断面等から、試作タイヤの各部の寸法が確認された。
【0071】
<耐久性能>
試作されたタイヤが正規リムに組み付けられ、酸素濃度90%で正規内圧に調整され、70℃のオーブンで6週間熱劣化させた。その後、熱劣化させた試作タイヤをドラム試験機に装着し、国土交通省の技術検査基準・適合検査の荷重/速度耐久試験の試験条件に基づき、タイヤ表面に膨れが発生するまで走行させ、その走行時間が測定された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど、走行時間が長く、耐久性能に優れていることを示す。
【0072】
【0073】
テストの結果、実施例の空気入りタイヤは、比較例に対して、耐久性能に優れており、耐久性能が向上していることが確認された。
【0074】
[付記]
本発明は、次のとおりである。
【0075】
[本発明1]
トレッド部から一対のサイドウォール部を経て一対のビード部に至るカーカスを有する空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、複数のカーカスコードが配列された少なくとも1枚のカーカスプライを含み、
前記複数のカーカスコードのそれぞれは、少なくとも1本のコアコードで構成されたコアと、前記コアの周囲に配された複数本のシースとで構成され、
前記少なくとも1本のコアコードは、長径d1と短径d2とを有する偏平形状の断面を有し、
前記少なくとも1本のコアコードの偏平率d2/d1と、タイヤ子午線断面における前記サイドウォール部の外表面から前記カーカスコードの中心までの最短距離L1(mm)との積(d2/d1×L1)が、5.6(mm)以下である、
空気入りタイヤ。
【0076】
[本発明2]
前記少なくとも1本のコアコードの前記偏平率d2/d1が、70%以下である、本発明1に記載の空気入りタイヤ。
【0077】
[本発明3]
前記少なくとも1本のコアコードの前記短径d2が、0.15mm以上0.42mm以下である、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【0078】
[本発明4]
前記コアを構成する前記少なくとも1本のコアコードは、1本以上3本以下のスチール単線からなる無撚りのスチールコードを含む、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0079】
[本発明5]
前記複数本のシースは、5本以上12本以下の断面円形状のスチールコードを含む、本発明1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0080】
[本発明6]
前記カーカスプライの厚さTが、前記カーカスコードの短径D2の250%以上400%以下である、本発明1ないし5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0081】
[本発明7]
前記カーカスプライの前記カーカスコードの長手方向に直交する断面において、互いに隣接する一対の前記カーカスコードの中心間距離L2が、前記カーカスコードの長径D1の170%以下である、本発明1ないし6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0082】
[本発明8]
前記カーカスコードの長手方向に直交する断面において、前記コアコードの長径方向が、前記カーカスコードの配列方向に対して30°以内である、本発明1ないし7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。