(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060489
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】微多孔膜捲回体、微多孔膜捲回体の製造方法、および二次電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C08J9/00 A CER
C08J9/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167892
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519311259
【氏名又は名称】東レバッテリーセパレータフィルム韓国有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 高志
(72)【発明者】
【氏名】窪田 隆
(72)【発明者】
【氏名】李 丹
(72)【発明者】
【氏名】イ ソク ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】春本 亘祐
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA18
4F074AG20
4F074CA02
4F074CB34
4F074CC28Z
4F074DA09
4F074DA22
4F074DA23
4F074DA49
(57)【要約】
【課題】経時弛みが改善された微多孔膜捲回体を提供する。
【解決手段】微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、前記微多孔膜捲回体から巻き出された前記微多孔膜の、55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率が0.90%以下であり、前記微多孔膜捲回体の両端部から10mmを除いた微多孔膜捲回体の幅方向の硬度の標準偏差が38mN未満である、微多孔膜捲回体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、
前記微多孔膜捲回体から巻き出された前記微多孔膜の、55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率が0.90%以下であり、
前記微多孔膜捲回体の両端部から10mmを除いた微多孔膜捲回体の幅方向の硬度の標準偏差が38mN未満である、微多孔膜捲回体。
【請求項2】
前記微多孔膜捲回体の最表層から前記巻き芯の外周表面までの直径方向の距離をLとしたとき、微多孔膜捲回体の最表層から0、L/5、2L/5、3L/5、4L/5の距離における微多孔膜捲回体の幅方向の平均硬度をそれぞれH(0)、H(L/5)、H(2L/5)、H(3L/5)、H(4L/5)としてプロットしたとき、これら5点の捲回体幅方向の平均硬度の回帰直線から求められる決定係数が0.95以上である、請求項1に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項3】
前記微多孔膜の厚さが3μm以上12μm以下である、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体を有する二次電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池用セパレータを有する二次電池。
【請求項6】
以下の工程(1)~(5)を含む、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
(1)微多孔膜用樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、樹脂溶液を調製する工程。
(2)前記工程(1)で得られた樹脂溶液を押出し、冷却してゲル状シートを形成する工程。
(3)前記工程(2)で得られたゲル状シートを湿式延伸および乾式延伸する工程。
(4)前記工程(3)で得られた延伸後のシートを、幅方向の緩和率8%以上30%以下で熱処理をして微多孔膜を形成し微多孔膜捲回体の中間体を得る工程。
(5)前記工程(4)で得られた微多孔膜捲回体の中間体をスリット工程にて裁断し、裁断した微多孔膜に20N/m以上100N/m以下の接圧を付与しながら、巻取張力10N/m以上18N/m以下で微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻き取り、微多孔膜捲回体を得る工程。
【請求項7】
前記微多孔膜の長さが1,000m以上10,000m以下である、請求項6に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
【請求項8】
前記微多孔膜の幅が200mm以上800mm以下である、請求項6に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜捲回体、微多孔膜捲回体の製造方法、および二次電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、ろ過膜、電池用セパレータや電解コンデンサー用セパレータなどの種々の分野に用いられる。特に、リチウムイオン電池用セパレータとしては、耐薬品性、機械強度に優れ、シャットダウン特性を有するポリオレフィン微多孔膜が用いられている。
【0003】
このようなポリオレフィン微多孔膜は、一般に製膜装置で連続的に製膜されて一旦中間製品として巻き取られる。その後、スリット工程で決められた幅に裁断し所定の長さの捲回体として供給される。近年、さらに機能を付与するため、ポリオレフィン微多孔膜に耐熱層や多孔質層等の機能層をコーティングにより積層するのが一般的である。そのコーティング工程において、基材であるポリオレフィン微多孔膜に弛みがあると、シワが発生して均一に塗布されなかったり、微多孔膜が破れる等の問題が発生する場合がある。特に、微多孔膜捲回体が例えば1か月以上の長期間にわたり保存状態にあると、巻き状態で微多孔膜の長手方向の収縮が起こり、微多孔膜端部と中央部の伸び量に差が生じた場合、伸び量の大きい端部に弛みが発生する。
【0004】
特許文献1には、ポリプロピレンフィルムを円筒状の巻き芯に巻いてなる捲回体の硬度を制御することで加工性に優れたポリプロピレンフィルムが得られることについて記載されている。
特許文献2には、弛みが改善されたポリエチレン微多孔膜捲回体の製造方法として、微多孔膜捲回体から切り出した微多孔膜の伸び量と弛みとの関係について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/034182号
【特許文献2】特開2022-53624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術は無孔フィルムに関する技術であり、熱収縮の大きい微多孔膜の弛みや長期保管後の弛みを改善するものではない。
また、特許文献2に捲回された微多孔膜の長手方向(MD)の伸び量を比較的小さい特定範囲内とすることで、微多孔膜を巻き出した際の弛みを低減できることが記載されているが、微多孔膜捲回体の硬度については記載も示唆もされていない。
【0007】
そこで本発明は、微多孔膜捲回体の硬度を特定範囲内に調整することで、微多孔膜を巻き出した際の弛みを低減し、長期保管後の弛みが改善された微多孔膜捲回体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、微多孔膜捲回体の硬度を特定範囲内とすることで、微多孔膜を巻き出した際の弛みが低減され、長期保管後の弛みも良好な微多孔膜捲回体を見出した。
本発明は、以下の[1]~[8]に関する。
[1]微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、前記微多孔膜捲回体から巻き出された前記微多孔膜の、55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率が0.90%以下であり、前記微多孔膜捲回体の両端部から10mmを除いた微多孔膜捲回体の幅方向の硬度の標準偏差が38mN未満である、微多孔膜捲回体。
[2]前記微多孔膜捲回体の最表層から前記巻き芯の外周表面までの直径方向の距離をLとしたとき、微多孔膜捲回体の最表層から0、L/5、2L/5、3L/5、4L/5の距離における微多孔膜捲回体の幅方向の平均硬度をそれぞれH(0)、H(L/5)、H(2L/5)、H(3L/5)、H(4L/5)としてプロットしたとき、これら5点の捲回体幅方向の平均硬度の回帰直線から求められる決定係数が0.95以上である、[1]に記載の微多孔膜捲回体。
[3]前記微多孔膜の厚さが3μm以上12μm以下である、[1]または[2]に記載の微多孔膜捲回体。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を有する二次電池用セパレータ。
[5][4]に記載の二次電池用セパレータを有する二次電池。
[6]以下の工程(1)~(5)を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
(1)微多孔膜用樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、樹脂溶液を調製する工程。
(2)前記工程(1)で得られた樹脂溶液を押出し、冷却してゲル状シートを形成する工程。
(3)前記工程(2)で得られたゲル状シートを湿式延伸および乾式延伸する工程。
(4)前記工程(3)で得られた延伸後のシートを、幅方向の緩和率8%以上30%以下で熱処理をして微多孔膜を形成し微多孔膜捲回体の中間体を得る工程。
(5)前記工程(4)で得られた微多孔膜捲回体の中間体をスリット工程にて裁断し、裁断した微多孔膜に20N/m以上100N/m以下の接圧を付与しながら、巻取張力10N/m以上18N/m以下で微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻き取り、微多孔膜捲回体を得る工程。
[7]前記微多孔膜の長さが1,000m以上10,000m以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
[8]フィルム幅が200mm以上800mm以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広幅長尺の微多孔膜捲回体から巻出した微多孔膜の弛みならびに、微多孔膜捲回体を長期間保管した後に微多孔膜捲回体から巻出した微多孔膜の弛みを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、微多孔膜捲回体の微多孔膜の弛みの測定装置、及び測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本発明において、微多孔膜面内で製膜方向に平行な方向を製膜方向、長手方向あるいはMD(Machine Direction)と称し、微多孔膜面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD(Transverse Direction)と称する。
【0012】
<微多孔膜捲回体>
本発明の微多孔膜捲回体は、微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻いてなる捲回体であり、上記捲回体から巻き出された上記微多孔膜の、55℃1時間熱処理後のMD収縮率が0.90%以下であり、好ましくは0.88%以下である。MD収縮率が0.90%を超えると、微多孔膜捲回体を保管した際に生じるMD収縮が過剰に生じることで微多孔膜捲回体の形状が変化し、経時弛みが悪化する場合がある。55℃1時間熱処理後のMD収縮率を0.90%以下とするには、後述する通り、微多孔膜製膜時のTD緩和を8%以上30%以下とすることで達成できる。また、微多孔膜捲回時のスリット条件を特定の条件とすることでも達成できる。
なお、捲回体から微多孔膜を巻き出す条件としては、5周分以上巻き出すこととし、また、巻き出された微多孔膜の幅方向の中心部で測定する。
【0013】
本発明の微多孔膜捲回体は、捲回体の端部から10mmを除く幅方向の硬度の標準偏差が38mN未満であり、好ましくは36mN未満である。幅方向の硬度の標準偏差が38mNを超えると、巻き締まりが幅方向で不均等になり、シワが生じ易くなるため、微多孔膜捲回体の形状が崩れ易くなり経時弛みの悪化につながる場合がある。幅方向の硬度の標準偏差を38mN未満とするには、後述する通り、微多孔膜捲回時のスリット条件を特定の条件とすることで達成できる。
【0014】
本発明の微多孔膜捲回体は、捲回体最表層から巻き芯の外周表面まで直径方向の距離をLとしたとき、捲回体最表層から0、L/5、2L/5、3L/5、4L/5の距離における捲回体幅方向平均硬度をそれぞれH(0)、H(L/5)、H(2L/5)、H(3L/5)、H(4L/5)としてプロットしたとき、これら5点の捲回体幅方向平均硬度の回帰直線から求めた決定係数が0.95以上であることが好ましく、0.97以上であることが更に好ましい。かかる決定係数は、微多孔膜捲回体の最表層から内層までの硬度の傾きの直線性の指標であり、0.95以上であれば、内層における外層からの巻き締まりが均等になり、内層微多孔膜の潰れに伴う変形がないため、内層でのシワが生じにくくなる。その結果、微多孔膜捲回体の形状が崩れにくくなるため経時弛みが改善された微多孔膜捲回体が得られる。上記条件を達成するためには、後述する通り、微多孔膜捲回時のスリット工程を特定の条件とすることで達成できる。
【0015】
本発明の微多孔膜捲回体において、微多孔膜の厚さは3μm以上12μm以下であることが好ましく、3.2μm以上9.0μm以下であることがより好ましく、3.4μm以上8.0μm以下であることが更に好ましい。微多孔膜の厚さが上記好ましい範囲の場合、機械強度や耐電圧特性に優れ、製膜および加工時にフィルム破断が生じにくい。微多孔膜の厚さを上記の範囲内とするためには、ゲル状シートを形成する際に樹脂の吐出量を調整し、延伸条件や熱処理条件を調整することで適宜設定することができる。微多孔膜の厚さが薄くなるほど製膜時のフィルム破断が生じやすくなるため、後述する通り微多孔膜製膜時のキャスト工程、延伸工程、熱処理工程を特定の条件とすることで安定して製膜することが可能となる。
【0016】
以下、微多孔膜を構成する各樹脂成分等について説明する。
本発明の微多孔膜捲回体における微多孔膜を構成する樹脂は、ポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
【0017】
(i)ポリエチレン
微多孔膜のポリエチレンの種類は、高密度ポリエチレン(密度が0.920g/m3以上0.970g/m3以下をいう)が好ましく、その重量平均分子量(Mw)が1×104以上1×106未満であることが好ましい。
【0018】
また、微多孔膜には、重量平均分子量(Mw)が1×106以上の超高分子量ポリエチレンを含むことが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有するエチレン・α-オレフィン共重合体を用いることができる。
ポリエチレンの含有量は、例えば、ポリオレフィン樹脂全体100質量%に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0019】
(ii)ポリプロピレン
微多孔膜に含まれるポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体(プロピレン共重合体)、あるいはこれらの混合物のいずれでも良いが、機械強度及び貫通孔径の微小化、高融点化等の観点から、プロピレンの単独重合体を用いることが好ましい。
微多孔膜にポリプロピレンを含む場合の含有量は、ポリオレフィン樹脂全体100質量%に対して、好ましくは2質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上10質量%以下である。上記範囲とすることで、微多孔膜の機械強度と耐熱性を両立することができる。
【0020】
(iii)その他の樹脂成分
ポリオレフィン樹脂は、必要に応じて、前記ポリプロピレン及びポリエチレン以外のその他の樹脂成分を含むことができ、例えば、耐熱性樹脂が好適に用いられる。
その他の樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂全体100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上10質量%以下である。上記範囲とすることで、微多孔膜の機械強度と機能を両立することができる。
【0021】
微多孔膜としての重量平均分子量(Mw)は0.8×106以上3.0×106以下が好ましく、より好ましくは1.0×106以上2.4×106以下となるよう上記樹脂成分を配合し混錬、製膜する。上記範囲とすることで、微多孔膜として十分な機械強度を有し、かつMD収縮に優れた微多孔膜を得ることができる。
【0022】
<微多孔膜の製造方法>
微多孔膜の製造方法は、(1)微多孔膜用の樹脂組成物に成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、樹脂溶液を調製する工程、(2)樹脂溶液をダイリップより押し出した後、冷却してゲル状シートを形成する工程、(3)ゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程(一次延伸工程)、(4)成膜用溶剤の除去、乾燥する工程、及び(5)乾燥した膜を再び少なくとも一軸方向に延伸する工程(二次延伸工程)を含む。更に(1)~(5)の工程の後、必要に応じて(6)熱処理工程、(7)巻取、(8)エージング工程、を設けてもよい。
【0023】
(1)樹脂溶液の調製工程
樹脂組成物に適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、樹脂溶液を調製する。樹脂溶液には必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、無機充填材等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0024】
(2)ゲル状シートの形成工程
樹脂溶液を押出機から直接に又は別の押出機を介してダイからシート状に押し出し成形体を冷却することによりゲル状シートを形成する。
【0025】
(3)一次延伸工程(湿式延伸)
次に、得られたゲル状シートを二軸方向に延伸する。同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状シートは、加熱後、所定の倍率で延伸すればよく、強度の観点から、延伸面倍率は25倍以上が好ましい。
一次延伸の温度は樹脂の融点+10℃以下にするのが好ましく、結晶分散温度から融点未満の範囲内にするのがより好ましい。この延伸温度を融点+10℃超にすると、樹脂が溶融し、延伸による分子鎖の配向ができない恐れがある。一方、結晶分散温度未満では樹脂の軟化が不十分で、延伸により破膜しやすく、高倍率の延伸ができない恐れがある。樹脂としてポリエチレンを用いる場合、その結晶分散温度は、一般的に90~100℃である。よって微多孔膜が主にポリエチレンからなる場合、延伸温度を通常90~140℃の範囲内とし、好ましくは100~130℃の範囲内とする。
【0026】
(4)成膜用溶剤の除去、乾燥
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。第1及び第2のポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成し、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。成膜用溶剤を除去した微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。
【0027】
(5)二次延伸工程(乾式延伸)
乾燥後の微多孔膜を、少なくとも幅方向に延伸することが好ましい。微多孔膜の延伸は、加熱しながら上記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよい。本工程における延伸温度は、特に限定されないが、95℃以上130℃以下が好ましい。上記範囲内で再延伸すると、フィルムが十分に保温された状態で延伸されるため、延伸時において破膜しにくく、機械的強度に優れた微多孔膜を得ることができる。
本工程における微多孔膜の一軸方向への延伸倍率は、1.1倍以上2.5倍以下とするのが好ましい。二軸延伸の場合、MD及びTDに各々1.1倍以上2.5倍以下とし、MDとTDでの延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。
【0028】
(6)熱処理工程
乾燥後の微多孔膜は、熱処理を行うことができる。熱処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理または、加熱中に膜をMDやTDに収縮させる熱処理である。熱処理により微多孔膜の結晶が安定化し、ラメラ層が均一化する。熱処理工程における温度は、Tcd(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度)~Tm(ポリオレフィン樹脂の融点)の間が好ましく、さらには(Tm-25)℃以上(Tm-5)℃以下が好ましく、(Tm-20)℃以上、(Tm-5)℃以下が特に好ましい。具体的には、好ましくは105℃~135℃、さらに好ましくは120℃~132℃、より好ましくは122℃~132℃である。
熱処理する際には、TD緩和を8%以上行うとMD収縮が良化し、好適となる。TD緩和は8%以上30%以下とするのが好ましく、10%以上25%以下とするのがより好ましい。熱緩和処理における温度は、Tcd~Tmの間が好ましく、さらには(Tm-25)℃以上(Tm-5)℃以下が好ましく、(Tm-20)℃以上、(Tm-5)℃以下が特に好ましい。具体的には、好ましくは105℃~135℃、より好ましくは120℃~132℃、さらに好ましくは122℃~132℃である。
【0029】
(7)巻取
製膜装置により製膜された微多孔膜は、円筒状の巻き芯に巻き取り、微多孔膜捲回体の中間体を得る。巻き芯に巻き取る際の巻取張力は0.5MPa以上2.0MPa以下の範囲が好ましい。0.5MPaより低い張力で巻き取ると、巻き取り時に捲回体端部のズレが生じたり、フィルムが巻き締まる際に捲回体内部にシワが発生したりする。一方で2.0MPaより強い張力で巻き取ると、捲回体の巻き外部と巻き内部で残留歪みの差が生じやすくなるため、均一な平面性や長期寸法安定性を確保することが難しい。上述のような範囲で巻き取ることにより捲回体の硬度ばらつきを表層から内層まで小さく抑えることができる。そして、弛みは中間体の形状に影響されるため、中間体の形状が良好になるようゲル状シートの厚さ分布を調整することが好ましい。
【0030】
(8)エージング工程
製膜された微多孔膜は、上記熱処理工程により応力緩和が行われているが、特にMDについては、張力をかけて搬送するため応力緩和が難しい。そこで、微多孔膜捲回体を40℃~70℃の温度、24時間以内でエージング処理を実施し、その残留応力を緩和することが好ましい。
【0031】
<微多孔膜捲回体の製造方法>
微多孔膜捲回体は、前記の方法で製造された数m幅の微多孔膜捲回体の中間体を巻き出し、スリット工程にて裁断し、MDに一定の張力をかけて円筒状の巻き芯に捲回し巻き取ることにより製造される。その際、微多孔膜は長手方向にかかる張力によりMDに伸ばされた状態で巻き取られる。スリット工程では微多孔膜を所望の幅にスリットし、場合によっては複数回のスリット工程を経て、製品として供給されるポリオレフィン微多孔膜捲回体が得られる。
【0032】
捲回される微多孔膜の幅や巻き長さは特に限定されず、巻き長さは、1000m以上10000m以下が好ましく、より好ましくは1000m以上4000m以下である。幅は、200mm以上800mm以下が好ましく、より好ましくは300mm以上700mm以下である。コーティング工程での効率化の観点から、より広い幅、より長い巻長での供給が要求されてきており、幅、巻き長さともに前記範囲に限定されない。
【0033】
微多孔膜捲回体の製造はスリット装置に付随する巻取装置によって実施されることが好ましい。スリット装置は公知の装置を用いることができ、一般に、上記製膜装置で巻き取られた中間製品や、またはそれを一旦スリットした中間製品を、巻出装置にセットし、微多孔膜を巻き出しながら公知のスリット刃ユニットにて規定の幅にスリットした後、巻取装置により巻き芯に巻き取られる構造となっている。スリットの諸条件を適切に設定することで、微多孔膜のMD収縮の増加が抑えられて、かつ微多孔膜捲回体の硬度ばらつきが小さく、経時弛みが改善された微多孔膜捲回体が得られる。また、巻き取る際は微多孔膜に所定の接圧を付与しながら巻き取ることが好ましい。
【0034】
(1)巻取張力
巻取装置での巻取張力が小さ過ぎる場合、巻きズレやシワが発生する等の巻姿に不具合が発生する頻度が高くなる。一方、巻取張力が大き過ぎる場合、シワや捲回体の端部が凸状になる耳立ちと呼ばれる外観不具合等が発生する頻度が高くなる。また、過大な張力によりMD伸びが大きくなると、MD収縮が悪化する傾向がある。前述の55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率並びに硬度の標準偏差を達成するためには、巻取張力は10N/m以上18N/m以下の範囲が好ましく、より好ましくは12N/m以上16N/m以下である。
【0035】
(2)巻出張力
巻出装置での巻出張力が小さ過ぎる場合、巻きズレやシワが発生する等の巻姿に不具合が発生する頻度が高くなる。一方、巻出張力が大き過ぎると、過大な張力によりMD伸びが大きくなり、MD収縮が悪化する傾向がある。前述の55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率並びに硬度の標準偏差を達成するためには、巻出張力は20N/m以上40N/m以下の範囲が好ましい。より好ましくは25N/m以上35N/m以下である。
【0036】
(3)接圧
巻取時に微多孔膜に付与される接圧は20N/m以上100N/m以下の範囲が好ましい。より好ましくは30N/m以上80N/m以下である。巻取装置での接圧を下限値以上とすることで、巻きズレやシワが発生する等の巻姿に不具合が発生することを抑制し、好適となる。接圧を上限値以下とすることで、巻締りによるシワの発生や内層硬度が高くなることを抑制し、好適となる。また、上記した微多孔膜捲回体の決定係数を好適とすることができる。
【0037】
これにより、本発明の微多孔膜捲回体を二次電池用セパレータとして用いた場合、多孔層の製造工程において優れた加工性を得ることができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0039】
1.評価方法、分析方法
(1)膜厚(μm)
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜から切り出した試料(95mm×95mm)の中心と中心からMDに±30mm、TDに±30mmの計5箇所で膜厚を測定し、膜厚の平均値を求めた。測定には超硬球面測定子φ10.5(パーツNo120060)を備えた測定力約0.15Nの接触厚み計(株式会社ミツトヨ製“ライトマチック”(登録商標))を用いた。
(2)空孔率(%)
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜から切り出した試料(95mm×95mm)の体積(cm
3)と質量(g)を測定し得られた結果から次式を用いて空孔率(%)を計算した。微多孔膜を構成する樹脂の密度としては0.99g/cm
3を用いた。
空孔率=(1-試料質量/(0.99×試料体積))×100
(3)55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率
55℃1時間熱処理後における微多孔膜のMD収縮率は次のようにして測定する:
(i)微多孔膜捲回体から5周分の微多孔膜を剥がして1時間以上静置した後、50mm角の試験片を切り出し、(ii)周囲温度における微多孔膜の試験片の大きさをMDについて測定し、(iii)微多孔膜の試験片を、荷重をかけずに1時間55℃の温度にて平衡化させ、次いで(iv)微多孔膜の大きさをMDについて測定する。MD収縮率は、測定結果(ii)を測定結果(iv)で除して得られた商を百分率で表すことによって得ることができる。
(4)重量平均分子量(Mw)
微多孔膜の原料となる超高分子量ポリエチレン及び高密度ポリエチレンのMwは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製 GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製 ShodexUT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0ml/分
・試料濃度:0.1wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製 ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
(5)硬度の標準偏差
JIS K 6301:1995の規定による高分子計器株式会社製ゴム硬度計ASKER“TypeC”を用いて微多孔膜捲回体の表面(最表層)を幅方向に捲回体両端10mmを除いて均等に20点測定し、その標準偏差を求めた。なお、硬度計の捲回体と接触する加圧面は、加圧面の辺の長い方をロールの幅方向に平行となるよう測定した。
(6)微多孔膜捲回体の内層硬度
JIS K 6301:1995の規定による高分子計器株式会社製ゴム硬度計ASKER“TypeC”を用いて微多孔膜捲回体を幅方向に捲回体両端10mmを除いて均等に20点測定し、その平均値を求めた。捲回体最表層から巻き芯の外周表面までの直径方向の距離をLとしたとき、捲回体最表層から0、L/5、2L/5、3L/5、4L/5の距離における捲回体幅方向平均硬度を測定した。これら5点の捲回体幅方向平均硬度の回帰直線から決定係数を求め、この決定係数を微多孔膜捲回体の内層硬度の指標とした。なお、硬度計の捲回体と接触する加圧面は、加圧面の辺の長い方を捲回体の幅方向に平行となるよう測定した。
(7)弛み
微多孔膜捲回体から微多孔膜を巻き出したときの弛みの測定は、以下に示す方法で実施した。微多孔膜捲回体から微多孔膜を巻き出したときの弛みは、
図1に概略図を示す装置を用いて測定評価した。微多孔膜捲回体aを装置にセットした後、微多孔膜bを巻き出して、1.5m間隔で水平平行に設置された2本のロールc1,c2にかかるようにし、端部に300gの棒状の重りを取り付けて、
図1に示すような状態とした。重りの取り付けは両面テープにて貼り付けることにより実施した。
図1に示す弛み寸法を、定規を用いて、ロール間中央の微多孔膜端面位置(両端部2箇所)で測定を実施した。なお、1.5mのロール間で
図1に示す弛み寸法が最大となるのはロール間中央付近であり、中央の測定値を弛み量とした。また、合格基準は弛み量20mm以下とし、両端部とも20mm以下であれば合格、片側または両端部で20mmを超えた場合は不合格とした。
【0040】
2.実施例及び比較例
(実施例1)
(1)微多孔膜の作製
Mwが2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)18質量%及びMwが5.6×105の高密度ポリエチレン(HDPE:密度0.955g/cm3)82質量%からなるポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。得られた混合物30.0質量部を、上記と別の二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cSt(40℃)]70.0質量部を供給し、溶融混練して調製したポリオレフィン溶液を、二軸押出機からダイに供給し押し出した。押出し成形体を、冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状シートを形成した。
ゲル状シートを、テンター延伸機により115℃でMD及びTDともに5倍に同時二軸延伸(第1の延伸、湿式延伸)した。次いで延伸したゲル状シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
乾燥膜を、バッチ式延伸機を用いて、130℃でTDに1.36倍に延伸(第2の延伸、乾式延伸)した後、128℃でTDに0.896倍の緩和を施した。作製した微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻き取り、60℃でエージング処理を24時間実施し、微多孔膜捲回体の中間体を得た。
(2)微多孔膜捲回体の作製と保管
前記微多孔膜捲回体の中間体をスリッターにより、幅方向3本取りとし、510mm幅1050m巻の微多孔膜捲回体を表1に記載したスリット条件で作製した。作製した微多孔膜捲回体を、防塵のためポリエチレン袋により包装した後、常温常湿(温度20℃~28℃、湿度30%~90%)で保管した。
(3)微多孔膜の評価
前記微多孔膜捲回体を得て1週間以内に一度目の弛み測定を行い、その日を起点に3月後まで毎月弛み測定を実施し、経時弛みのデータとした。55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率は弛み測定で巻き出した微多孔膜を用いて評価した。硬度の標準偏差は弛み測定後の微多孔膜捲回体を用いて評価した。得られた微多孔膜ならびに微多孔膜捲回体の物性を表1に示す。
【0041】
(実施例2~4及び比較例1~4)
実施例2~4、比較例1~4では、表1に記載した条件以外は実施例1と同様の条件により、微多孔膜捲回体を作製した。作成した微多孔膜捲回体の緩和条件やスリット条件等を表1に記載した。
【0042】
【0043】
上記結果より、実施例1~4の微多孔膜捲回体における微多孔膜は、経時弛みがなく、加工性に優れた微多孔膜捲回体が得られた。
比較例1、2においては、微多孔膜の55℃1時間熱処理後の長手方向(MD)収縮率(0か月時点)が本発明の上限を超えており、比較例1、3、4においては、微多孔膜捲回体の幅方向の硬度の標準偏差(0か月時点)が本発明の上限を超えており、これら比較例1~4の微多孔膜捲回体における微多孔膜は、経時弛みが改善されなかった。