(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060490
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】微多孔膜捲回体、微多孔膜捲回体の製造方法、および二次電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C08J9/00 A CER
C08J9/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167893
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519311259
【氏名又は名称】東レバッテリーセパレータフィルム韓国有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山崎 高志
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健人
(72)【発明者】
【氏名】イ ソク ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直樹
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA16
4F074AG20
4F074CA03
4F074CB34
4F074CC22X
4F074CC28Z
4F074CC29Z
4F074DA10
4F074DA22
4F074DA23
4F074DA49
(57)【要約】
【課題】微多孔膜の捲回体がシワや巻きずれなく良好な巻き姿であり、長期保管後でも繰り出した微多孔膜が良好な平面性を有する微多孔膜捲回体とその製造方法を提供する。
【解決手段】微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、前記巻き芯の重量が3.5kg以下であり、前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間の熱処理後に測定される長手方向収縮率、幅方向収縮率が、下記の(a)および(b)の要件を満たす微多孔膜捲回体。
(a)長手方向収縮率が0.25%以上1.00%以下であること。
(b)1/2長手方向収縮率と幅方向収縮率との和が0.10%以下であること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、
前記巻き芯の重量が3.5kg以下であり、
前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間の熱処理後に測定される長手方向収縮率、幅方向収縮率が、下記の(a)および(b)の要件を満たす微多孔膜捲回体。
(a)長手方向収縮率が0.25%以上1.00%以下であること。
(b)1/2長手方向収縮率と幅方向収縮率との和が0.10%以下であること。
【請求項2】
前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間の熱処理後に測定される幅方向収縮率が-0.55%以上0.05%以下である、請求項1に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項3】
前記巻き芯の外径が100mm以上400mm以下である、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項4】
前記微多孔膜の膜厚が2μm以上10μm以下であり、透気抵抗度が20sec/100cm3以上300sec/100cm3以下であり、引張破断強度における幅方向強度が100MPa以上400MPa以下である、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項5】
前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の105℃1時間の熱処理後に測定される幅方向収縮率が0%以上10%以下である、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項6】
前記微多孔膜のゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により測定される重量平均分子量が30×105以上200×105以下である、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体を有する二次電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項7に記載の二次電池用セパレータを有する二次電池。
【請求項9】
以下の工程(1)~(5)を含む、請求項1または2に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
(1)微多孔膜用樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、樹脂溶液を調製する工程。
(2)前記工程(1)で得られた樹脂溶液を押出し、冷却してゲル状シートを形成する工程。
(3)前記工程(2)で得られたゲル状シートを湿式延伸および乾式延伸する工程。ここで、湿式延伸の長手方向延伸倍率と乾式延伸の長手方向延伸倍率との積αが4.0~7.0倍であり、湿式延伸の幅方向延伸倍率と乾式延伸の幅方向延伸倍率との積βが、前記積αより大きい延伸倍率である。
(4)前記工程(3)で得られた延伸後のシートを、幅方向緩和率8%以上で熱緩和処理して微多孔膜を形成し微多孔膜中間製品捲回体を得る工程。
(5)前記工程(4)で得られた微多孔膜中間製品捲回体をスリット工程にて裁断し、裁断した後にタッチロールを用いて接圧20N/m以上140N/m以下および巻取張力10N/m以上30N/m以下で微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻き取り、微多孔膜捲回体を得る工程。
【請求項10】
前記微多孔膜の幅が200mm以上800mm以下である、請求項9に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜捲回体、微多孔膜捲回体の製造方法、および二次電池用セパレータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、ろ過膜、透析膜などのフィルター、電池用や電解コンデンサー用のセパレータなどの種々の分野に用いられる。これらの中でも、ポリオレフィンを主成分とするポリオレフィン微多孔膜は、耐薬品性、絶縁性、機械的強度などに優れ、シャットダウン特性を有するため、近年、二次電池用セパレータとして広く用いられている。
【0003】
一方、二次電池、例えばリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、パーソナルコンピュータ、携帯電話などに用いる電池として広く使用されている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動用電源としても期待されている。
【0004】
リチウムイオン電池用のセパレータとしては、オーブン試験などにおいて優れた結果を示すなど、異常発熱時の安全性が強く要求されるため、近年、ポリエチレン微多孔膜による安全機能とさらなる耐熱性を付与するため、ポリオレフィン微多孔膜を基材として耐熱層を塗布したセパレータが用いられている。
【0005】
耐熱層の塗布はポリオレフィン微多孔膜の捲回体を一度作成した後にシワや平面性の検査を得て合格品のみが保管され、塗布を行う工程へ出荷される。
【0006】
しかし、近年ポリオレフィン微多孔膜の薄膜化等による強度不足から塗布工程が困難化しており、たとえば長期保管後の捲回体では微小な寸法変化や巻き締まり等で微多孔膜の平面性や加工性が悪化し塗工時に不良が発生することが懸念される。したがって、長期保管後でも微多孔膜の平面性や加工性が良好なポリオレフィン微多孔膜の捲回体が求められている。
【0007】
特許文献1~3には微多孔膜の平面性の改善や保管時の低温域での熱収縮特性の改善に関する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-013879号公報
【特許文献2】国際公開第2013/099539号
【特許文献3】国際公開第2015/190487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3に示されているのは、巻き芯に捲回される前の微多孔膜の熱収縮率の改善についてのみであり、捲回体の状態から巻き出した後の微多孔膜の均一な平面性や長期寸法安定性を改善する技術は十分に開示されていない。微多孔膜捲回体は、通常、微多孔膜中間体からスリット工程を得て得られるが、スリット工程で不均一な伸びを受けた捲回体は残留応力が時間とともに蓄積し、巻き返したときに微多孔膜の平面性が悪化し、塗工時の不良となる可能性がある。
【0010】
そのため、スリット工程では微多孔膜を変形させないよう低張力で捲回体を得る必要があるが、エア噛み起因でシワや巻きずれが発生しやすくなる問題がある。
【0011】
本発明は、微多孔膜の捲回体がシワや巻きずれなく良好な巻き姿であり、長期保管後でも巻き出した微多孔膜において良好な平面性を有する微多孔膜捲回体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]微多孔膜が、円筒状の巻き芯に捲回された微多孔膜捲回体であって、前記巻き芯の重量が3.5kg以下であり、前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間の熱処理後に測定される長手方向収縮率、幅方向収縮率が、下記の(a)および(b)の要件を満たす微多孔膜捲回体。
(a)長手方向収縮率が0.25%以上1.00%以下であること。
(b)1/2長手方向収縮率と幅方向収縮率との和が0.10%以下であること。
[2]前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間の熱処理後に測定される幅方向収縮率が-0.55%以上0.05%以下である、[1]に記載の微多孔膜捲回体。
[3]前記巻き芯の外径が100mm以上400mm以下である、[1]または[2]に記載の微多孔膜捲回体。
[4]前記微多孔膜の膜厚が2μm以上10μm以下であり、透気抵抗度が20sec/100cm3以上300sec/100cm3以下であり、引張破断強度における幅方向強度が100MPa以上400MPa以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体。
[5]前記微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の105℃1時間の熱処理後に測定される幅方向収縮率が0%以上10%以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体。
[6]前記微多孔膜のゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により測定される重量平均分子量が30×105以上200×105以下である、[1]から[5]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を有する二次電池用セパレータ。
[8][7]に記載の二次電池用セパレータを有する二次電池。
[9]以下の工程(1)~(5)を含む、[1]から[6]のいずれかに記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
(1)微多孔膜用樹脂組成物と成膜用溶剤とを溶融混練し、樹脂溶液を調製する工程。
(2)前記工程(1)で得られた樹脂溶液を押出し、冷却してゲル状シートを形成する工程。
(3)前記工程(2)で得られたゲル状シートを湿式延伸および乾式延伸する工程。ここで、湿式延伸の長手方向延伸倍率と乾式延伸の長手方向延伸倍率との積αが4.0~7.0倍であり、湿式延伸の幅方向延伸倍率と乾式延伸の幅方向延伸倍率との積βが、前記積αより大きい延伸倍率である。
(4)前記工程(3)で得られた延伸後のシートを、幅方向緩和率8%以上で熱緩和処理して微多孔膜を形成し微多孔膜中間製品捲回体を得る工程。
(5)前記工程(4)で得られた微多孔膜中間製品捲回体をスリット工程にて裁断し、裁断した後にタッチロールを用いて接圧20N/m以上140N/m以下および巻取張力10N/m以上30N/m以下で微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻き取り、微多孔膜捲回体を得る工程。
[10]前記微多孔膜の幅が200mm以上800mm以下である、[9]に記載の微多孔膜捲回体を製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微多孔膜の捲回体がシワなく良好な巻き姿であり、長期保管後でも繰り出した微多孔膜において良好な平面性を有する微多孔膜捲回体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例で用いた微多孔膜捲回体の微多孔膜の弛みの測定装置、及び測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の微多孔膜捲回体について詳細に説明する。なお、本発明は以下説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本発明において、微多孔膜面内で製膜方向に平行な方向を製膜方向、長手方向あるいはMD(Machine Direction)と称し、微多孔膜面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD(Transverse Direction)と称する。
【0016】
<微多孔膜捲回体>
本発明の微多孔膜捲回体は、微多孔膜を円筒状の巻き芯に巻いてなる捲回体である。微多孔膜を構成する樹脂は、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜は、耐薬品性、絶縁性、機械的強度などに優れ、シャットダウン特性を有するため、二次電池用セパレータとして有用である。
【0017】
[1]ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン微多孔膜に用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンを主成分とするのが好ましい。シャットダウン機能を保持し、透過性を向上させる為には、ポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、ポリエチレンの割合が50質量%以上であるのが好ましく、ポリプロピレンを組み合わせても良い。
【0018】
ポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。α-オレフィンとしてはプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン、酢酸ビニル、メタク捲回体酸メチル、スチレン等が挙げられる。
【0019】
ここで、ポリエチレンの種類としては、密度が0.94g/cm3を超える高密度ポリエチレン、密度が0.93~0.94g/cm3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm3未満の低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられるが、高い突刺強度および低い熱収縮には、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0020】
高密度ポリエチレンの重量平均分子量(以下、Mwという)は好ましくは1×105以上、より好ましくは2×105以上であり、また、好ましくは8×105以下、より好ましくはMwが7×105以下である。Mwが上記範囲であれば、製膜の安定性と最終的に得られるフィルムを薄膜化することができる。
【0021】
超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンは上記と同じでよい。超高分子量ポリエチレンを添加することによって、最終的に得られるフィルムの溶融時の粘りを強くすることができ、塗布基材として用いた場合、高温時の形状保持特性に優れる。
【0022】
超高分子量ポリエチレンのMwとしては、1×106以上4×106未満であることが好ましい。Mwが1×106以上4×106未満の超高分子量ポリエチレンを使用することで、上記特性を維持でき、製膜の安定性に優れる。
【0023】
ポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単重合体、プロピレンと他のα-オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体(プロピレン共重合体)、あるいはこれらから選ばれる2種以上の混合物のいずれでも良いが、プロピレンの単重合体を単独で用いることがより好ましい。プロピレン共重合体としてはランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれも用いることができる。プロピレン共重合体中のα-オレフィンとしては、炭素数が8以下であるα-オレフィンが好ましい。炭素数が8以下のα-オレフィンとして、エチレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン及びこれらの組合せ等が挙げられる。プロピレンの共重合体中のジオレフィンとしては、炭素数4~14のジオレフィンが好ましい。炭素数4~14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等が挙げられる。プロピレン共重合体中の他のα-オレフィン及びジオレフィンの含有率は、プロピレン共重合体を100mol%として10mol%未満であることが好ましい。ポリプロピレンのMwは1×106以上が好ましく、1.2×106以上がより好ましく、1.5×106以上4×106未満が特に好ましい。またポリプロピレンの融点は、155~170℃が好ましく、160℃~165℃がより好ましい。なお、融点は後述する走査型示差熱量計(DSC)により測定される値である。ポリプロピレンの含有率は、ポリオレフィン微多孔膜100質量%に対して、好ましくは0質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。
【0024】
ポリエチレンにポリプロピレンを添加すると、ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合に良好なシャットダウン機能を有し、メルトダウン温度を向上させることができる。ポリプロピレンの種類は、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα-エチレンとの共重合体成分を含有することができ、当該他のα-エチレンとしては、エチレンが好ましい。ただし、ポリプロピレンを添加すると、ポリエチレン単独使用に比べて、突刺強度が低下しやすいために、ポリオレフィン樹脂中0~10質量%が好ましい。
【0025】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(以下Mwという)は1×105以上であるのが好ましい。Mwが1×105以上であれば延伸時に破断が起こりにくいため好ましい。
【0026】
その他、ポリオレフィン微多孔膜には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、さらにはブロッキング防止剤や充填材等の各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリエチレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量を適宜選択することは微多孔膜の特性の調整又は増強として重要である。
【0027】
[2]ポリオレフィン微多孔膜の製造方法
次に、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法を具体的に説明するが、この態様に限定されるものではない。
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、以下の(a)~(f)の工程を含む。
(a)ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してポリオレフィン溶液を調製する工程
(b)工程(a)にて得られたポリオレフィン溶液を押出機より押し出して押出物を形成し、冷却してゲル状シートを成形する工程
(c)工程(b)にて得られたゲルシートを延伸(湿式延伸)し、延伸膜を得る工程
(d)工程(c)にて得られた延伸膜から可塑剤を抽出および乾燥し、微多孔膜を得る工程。
(e)工程(d)にて得られた微多孔膜を延伸(乾式延伸)し、熱緩和および熱固定する工程。
(f)工程(e)にて得られたフィルムを中間体として巻き取る工程
【0028】
(a)ポリオレフィン溶液を調製する工程
ポリオレフィン樹脂を、可塑剤に加熱溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。可塑剤としては、ポリエチレンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されない。比較的高倍率の延伸を可能とするために、溶剤は室温で液体であるのが好ましい。液体溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合はポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100重量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂10~50重量%が好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有量は、さらに好ましくは15重量%以上である。ポリオレフィン樹脂の含有量はさらに好ましくは40重量%以下であり、より好ましくは35重量%以下である。上記範囲であれば、成形加工性が安定し、微多孔膜の厚み方向の収縮が大きくなるのを防ぐことができる。
【0030】
ポリオレフィン溶液の均一な溶融混練は、特に限定されないが、高濃度のポリオレフィン溶液を調製したい場合、押出機、特に二軸押出機中で行うことが好ましい。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤等の各種添加材をポリオレフィン溶液に添加してもよい。特にポリエチレンの酸化を防止するために酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0031】
押出機中では、ポリオレフィン樹脂が完全に溶融する温度で、ポリオレフィン溶液を均一に混合する。溶融混練温度は、使用するポリオレフィン樹脂によって異なるが、下限は(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)が好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+20℃)である。溶融混練温度の上限は(ポリオレフィン樹脂の融点+120℃)とするのが好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+100℃)である。樹脂の劣化を抑制する観点から溶融混練温度は低い方が好ましいが、上述の温度よりも低いとダイから押出された押出物に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破膜等を引き起こす原因となる場合がある。
【0032】
(b)押出物の形成およびゲル状シートの成形
押出機で溶融混練したポリオレフィン溶液を直接に、あるいはさらに別の押出機を介して、ダイから押出して、微多孔膜の厚みが3~30μmになるように成形して押出物を得る。
得られた押出物を冷却することによりゲル状シートが得られ、冷却により、溶剤によって分離されたポリエチレンのミクロ相を固定化することができる。冷却工程においてゲル状シートを結晶化終了温度以下まで冷却するのが好ましい。
【0033】
押出物の冷却方法としては、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法、キャスティングドラム等を用いる方法等があるが、目的とする冷却速度および冷却速度差を得るためには、キャスティングドラムを用いる方法が好ましい。また、キャスティングドラムを用いた上で冷風や冷却水その他冷却媒体、冷媒で冷却したロールなどを併用することもできる。
【0034】
ポリオレフィン微多孔膜は、単層に限定されるものではなく、さらにいくつかの微多孔膜(層)を積層した積層体にしてもよい。追加して積層される層には、上述したようにポリエチレンの他に、本発明の効果を損なわない程度にそれぞれ所望の樹脂を含んでいてもよい。
【0035】
膜を積層体とする方法としては、従来の方法を用いることができるが、例えば、所望の樹脂を必要に応じて調製し、これらの樹脂を別々に押出機に供給して所望の温度で溶融させ、ポリマー管あるいはダイ内で合流させて、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状ダイから押出しを行う等して、積層体を形成する方法がある。
【0036】
(c)ゲルシートの延伸(湿式延伸)
本発明では得られたゲル状シートを機械方向(MD)および機械方向と直角な方向(TD)の延伸をする。延伸はゲル状シートを加熱し、通常のテンター法、ロール法、もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で行う。延伸倍率は、いずれの方向でも3倍以上延伸することが好ましく、さらに好ましくは4倍以上で行うことが好ましい。上限はいずれの方位においても8倍以下が好ましく、6倍以下がさらに好ましい。MDとTDを総合した面積倍率では、15倍以上が好ましく、さらに好ましくは20倍以上である。上限は60倍以下であり、さらに好ましくは40倍以下である。MDとTDの延伸倍率比は同程度であることが好ましく、延伸倍率比MD/TDは0.9~1.1の範囲が好ましい。上記範囲内のとき、最終フィルムの物性が良好な透過性と良好な熱収縮率を維持し、MD×TDの面内配向バランスがよく、どの方位においても破れにくくなる。
【0037】
延伸温度はポリオレフィン樹脂の融点以下にするのが好ましく、より好ましくは、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)~(ポリオレフィン樹脂の融点Tm)の範囲である。延伸温度がゲル状シートの融点以下であると、ポリオレフィン樹脂の溶融が防がれ、延伸によって分子鎖を効率的に配向させることが可能となる。また、延伸温度がポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上であれば、ポリオレフィン樹脂の軟化が十分であり、延伸張力が低いために、製膜性が良好となり、延伸時に破膜しにくく高倍率での延伸が可能となる。
【0038】
具体的には、ポリエチレン樹脂の場合は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、縦延伸温度は好ましくは80℃以上である。ポリエチレン樹脂を用いた場合の縦延伸温度の上限は好ましくは130℃以下であり、より好ましくは125℃以下であり、最も好ましくは120℃以下である。結晶分散温度TcdはASTM D 4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。または、結晶分散温度TcdはNMRから求める場合もある。
【0039】
以上のような延伸によりゲル状シートに形成された高次構造に開裂が起こり、結晶相が微細化し、多数のフィブ捲回体が形成される。フィブ捲回体は三次元的に不規則に連結した網目構造を形成し、表面の凹凸の緻密な構造を得ることができる。
【0040】
(d)延伸膜からの可塑剤の抽出(洗浄)
次に、ゲル状シート中に残留する溶剤を、洗浄溶剤を用いて抽出・除去、すなわち洗浄する。ポリオレフィン相と溶媒相とは分離しているので、溶剤の除去により微多孔膜が得られる。洗浄溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン、C6F14、C7F16等の鎖状フルオロカーボン、C5H3F7等の環状ハイドロフルオロカーボン、C4F9OCH3、C4F9OC2H5等のハイドロフルオロエーテル、C4F9OCF3、C4F9OC2F5等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶剤が挙げられる。これらの洗浄溶剤は低い表面張力(例えば、25℃で24mN/m以下)を有する。低い表面張力の洗浄溶剤を用いることにより、微多孔を形成する網状構造が洗浄後に乾燥時に気-液界面の表面張力により収縮するのが抑制され、もって高い空孔率および透過性を有する微多孔膜が得られる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィン樹脂の溶解に用いた溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。
【0041】
洗浄方法は、ゲル状シートを洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、ゲル状シートに洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組み合わせによる方法等により行うことができる。洗浄温度は15~30℃でよく、必要に応じて80℃以下に加熱する。この時、溶剤の洗浄効果を高める観点、得られる微多孔膜の物性の横方向および/または縦方向の微多孔膜物性が不均一にならないようにする観点、微多孔膜の機械的物性および電気的物性を向上させる観点から、ゲル状シートが洗浄溶剤に浸漬している時間は長ければ長い方が良い。
【0042】
上述のような洗浄は、洗浄後のゲル状シート、すなわち微多孔膜中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行うのが好ましい。
【0043】
(e)微多孔膜の乾燥
洗浄後、洗浄溶剤を乾燥して除去する。乾燥の方法は特に限定されないが、加熱乾燥法、風乾法等により乾燥する。乾燥温度は、ポリエチレン組成物の結晶分散温度Tcd以下であることが好ましく、特に、(Tcd-5℃)以下であることが好ましい。乾燥は、微多孔膜の乾燥重量を100重量%として、残存洗浄溶剤が5重量%以下になるまで行うのが好ましく、3重量%以下になるまで行うのがより好ましい。乾燥が不十分であると、後の熱処理で微多孔膜の空孔率が低下し、透過性が悪化する。
【0044】
(f)乾燥フィルムの再延伸(乾式延伸)
必要に応じて、乾燥された延伸フィルムを再延伸(乾式延伸と呼ぶこともある)することができる。再延伸は、長手方向及び/又は幅方向において1方向で実施しても、両方向で実施しても良い。再延伸時の延伸倍率は長手方向には1.1~1.8倍が好ましく、さらに好ましくは1.1~1.6倍である。また、幅方向については1.1~2.5倍が好ましく、さらに好ましくは1.2~2.0倍である。また、二軸方向に再延伸する場合には、長手方向と幅方向を同時に延伸しても、別々に延伸してもよい。また別々に延伸する場合は長手方向と幅方向のどちらを先に延伸してもよい。再延伸時の温度については、Tm以下の温度、例えば、Tcd-30℃~Tmの範囲で行われることが好ましい。なお、ここでのTm、Tcdは押出物に用いられる5重量部以上混合されているポリエチレンの中で融点が最も低いポリエチレンでの値である。具体的には70℃~135℃の範囲が好ましく、さらには120℃~132℃、特に128℃~132℃が好ましい。また、再延伸は後述する熱固定処理工程と同時に行ってもよい。
【0045】
湿式延伸の長手方向延伸倍率と乾式延伸の長手方向延伸倍率との積αは4.0~7.0倍であり、6.5倍以下であることが好ましい。湿式延伸の幅方向延伸倍率と乾式延伸の幅方向延伸倍率との積βは、積αより大きい延伸倍率であり、積βは積αの1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上がより好ましく、また2.5倍以下が好ましく、さらに好ましくは2.0倍以下である。上記範囲のとき、加工時に用いる場合の不良率が抑制され、高温時の安全物性(熱収縮率、シャットダウン機能、溶融収縮等)に優れ、電池のオーブン試験で良好な結果に貢献できる。
【0046】
(g)熱固定処理
次に、ポリエチレンの結晶を安定化させ、膜中に均一なラメラを形成させると共に熱緩和させることでフィルム中に残存している応力歪を解消するために熱固定処理を行う。熱処理工程における温度は、Tcd(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度)~Tm(ポリオレフィン樹脂の融点)の間が好ましく、さらには(Tm-25)℃以上(Tm-5)℃以下が好ましく、(Tm-20)℃以上、(Tm-5)℃以下が特に好ましい。具体的には、好ましくは105℃~135℃、より好ましくは120℃~132℃、さらに好ましくは122℃~132℃である。
【0047】
(h)熱緩和処理
熱固定処理中又は熱固定処理後に幅方向に熱緩和処理を行う。熱緩和処理における温度は、Tcd~Tmの間が好ましく、さらには(Tm-25)℃以上(Tm-5)℃以下が好ましく、(Tm-20)℃以上、(Tm-5)℃以下が特に好ましい。具体的には、好ましくは105℃~135℃、より好ましくは120℃~132℃、さらに好ましくは122℃~132℃である。熱緩和処理時の幅方向緩和率(弛緩率)は、幅方向8%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは12%以上が好ましい。上限は20%以下が好ましい。
【0048】
(i)巻き取りおよびエージング工程
以上説明した各工程が終了したあと、必要によりクリップが把持された両端部分を切断除去された後に巻き取られ、中間製品を得る。巻取張力は3~10N/mとすることが好ましく、より好ましくは4~8N/mである。
また、中間製品を一定の温度でエージング処理を行うことが好ましい。エージング温度は40~80℃が好ましく、より好ましくは50~70℃であり、時間は10~50時間が好ましく、15~40時間がより好ましい。
【0049】
[3]微多孔膜のスリット工程および巻き取り工程
スリット工程および巻き取り工程は、エージング終了後の中間製品を常温に戻した後にスリット装置に付随する巻取装置によって実施されることが好ましい。スリット装置は公知の装置を用いることができ、一般に、上記製膜装置で巻き取られた中間製品や、またはそれを一旦スリットした中間製品を巻き出しにセットし、公知のスリット刃ユニットにて規定の幅に裁断した後、巻取装置により巻き取られる構造となっている。
【0050】
スリット装置の搬送はフィルムに部分的な伸びが生じにくい制御が好ましく、例えば搬送速度は150m/min以下が好ましく、100m/min以下がより好ましい。搬送速度はロール周速管理されており、速い場合に搬送中の各ロールで速度差が生じやすく、部分的なフィルムの伸びが発生し、経時で部分的な巻き締まりが発生し、平面性が悪化する。搬送速度は生産性の観点で50m/min以上が好ましく、70m/min以上がより好ましい。
【0051】
中間製品をセットし巻き出すロール(以下巻出ロール)は巻出した後のフィルム搬送フィルムに張力をかけられる制御を行うことで製品シワなく搬送させることができる。具体的には次工程の搬送ロールに張力検出を行うことで、一定の張力をかけるよう巻出ロールを制御することで弛まずに搬送させることができシワのない捲回体を得られる。この際の張力の上限は中間製品のフィルム幅1mに対して、50N/m以下が好ましく、より好ましくは30N/m以下が好ましい。下限は5N/m以上が好ましい。上記範囲内の場合、巻き姿がよく平面性の悪化も少ない。
【0052】
スリット後の製品を巻き取るロール(以下、巻取ロール)について、搬送フィルムに対して張力をかけて制御する巻き取りが好ましい。また、巻き取る際は接触させ接圧を加えながら巻き取ることが好ましい(以下、巻取ロールに接触させるロールをタッチロールとも記載する。)。
【0053】
良好な巻き姿と目的の平面性を得るにはタッチロールの接圧と巻取ロールの張力のバランスが重要である。接圧が高すぎる場合に巻取ロールの張力を低くてもシワなく巻くことができるが、巻き終わりの製品ロールは平面性が悪化する。逆にタッチロールの接圧が低すぎる場合、巻取ロールの張力を高めないとシワなく巻き取ることができない。その際、巻き終わりの製品ロールは平面性が悪化する。以上から、タッチロールの接圧は微多孔膜幅1mに対して20N/m以上140N/m以下であり、巻取ロールの張力は微多孔膜幅1mに対して10N/m以上30N/m以下である。タッチロールの接圧はさらに好ましくは20N/m以上120N/m以下であり、巻取ロールの張力はさらに好ましくは12N/m以上25N/m以下である。
【0054】
また、巻取ロールにセットする巻き芯(最終製品の巻き芯)は重量3.5kg以下であり、好ましくは3.0kg以下が好ましい。巻き芯を巻取ロールにセットし、平面性良化のための低張力で製品ロールを巻き取る際に、巻き芯の重量が上記範囲であれば速度制御が行われやすく、部分的な伸びが抑制され経時で巻き締まりによる平面性の悪化を防ぐことができる。
【0055】
巻き芯の強度は巻き締まり等で変形しない程度の強度が必要とされ、例えば0.5kN/100mm以上が好ましく、0.9kN/100mm以上がより好ましい。
【0056】
巻き芯の外径は100mm以上が好ましく、110mm以上がより好ましく、また400mm以下が好ましく、300mm以下がより好ましく、270mm以下がさらに好ましい。捲回体における微多孔膜の巻長は好ましくは300m~3000mであり、より好ましくは400m~2000mであり、さらに好ましくは800m~1500mである。上記範囲内のとき巻き締まりによる平面性の悪化の抑制や加工時の生産性が良く好ましい。
【0057】
上記捲回体の微多孔膜フィルム幅は好ましくは200mm~800mmであり、より好ましくは300mm~750mmである。上記範囲内のとき加工時の生産性が高く、不良率が低い。
【0058】
[4]微多孔膜および微多孔膜捲回体の物性
本発明の好ましい実施態様による微多孔質膜および微多孔膜捲回体は、次の物性を有する。
【0059】
(1)膜厚(μm)
微多孔質膜の膜厚は、2μm以上10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。上記範囲内の場合、BSF用途で用いた際に絶縁抵抗を確保できかつ電池の小型化又は高容量化に貢献できる。
【0060】
(2)透気抵抗度(sec/100cm3)
微多孔膜の透気抵抗度(ガーレー値)は、20sec/100cm3以上300sec/100cm3以下が好ましく、250sec/100cm3以下がより好ましい。上記範囲の場合、BSF用途で用いた際に高速充放電等の高性能化に貢献できる。
【0061】
(3)微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の105℃1時間後熱収縮率(%)
捲回体から巻き出された微多孔膜の、105℃1時間の熱処理後の幅方向(MD)熱収縮率は0%以上10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
捲回体から巻き出された微多孔膜の、105℃1時間の熱処理後の長手方向(TD)の熱収縮率は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
上記範囲の場合、BSF用途として用いた場合に電池のオーブン試験で良好な結果に貢献できる。
なお、捲回体から微多孔膜を巻き出す条件としては、5周分以上巻き出すこととし、また、巻き出した微多孔膜の幅方向の中心部で測定する。
【0062】
(4)重量平均分子量(Mw)
微多孔膜のゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は30×105以上200×105以下が好ましく、50×105以上60×105以下がより好ましく、70×105以上120×105以下がさらに好ましい。上記範囲内の場合にBSFとして用いた場合、特に耐熱塗工用基材として用いた場合に高温領域の形状保持特性に優れ、電池のオーブン試験で良好な結果に貢献できる。
【0063】
(5)引張破断強度(MPa)
微多孔膜の引張破断強度は、長手方向強度(MD強度)及び幅方向強度(TD強度)のいずれにおいても100~400MPaであることが好ましく、MD強度はより好ましくは120MPa~300MPaであり、さらに好ましくは140~250MPaである。TD強度は130MPa~350MPaが好ましく、より好ましくは150~300MPaである。上記範囲の場合、加工時に用いる場合の不良率が抑制され、高温時の安全物性(熱収縮率、シャットダウン機能、溶融収縮等)に優れ、電池のオーブン試験で良好な結果に貢献できる。
【0064】
(6)微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の55℃1時間後熱収縮率(%)
微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜の、55℃1時間後熱収縮率は、長手方向(MD)においては0.25%以上1.00%以下であり、0.95%以下が好ましく、0.90%以下がより好ましい。
幅方向(TD)においては-0.55%以上0.05%以下が好ましく、-0.15%以上がより好ましい。
1/2長手方向収縮率と幅方向収縮率との和(1/2MD+TD収縮)においては0.10%以下であり、0.08%以下がより好ましい。1/2MD+TD収縮はまた0.01%以上が好ましい。なお、1/2MD+TD収縮においては、捲回体が得られる工程までにMD弾性変形およぶMD弾性変形に起因するTDポアソン変形した状態での捲回体であるため、捲回体からの解放後のMD弾性変形に起因するTDポアソン変形を除外した際のTD収縮として評価を目的に計算する。ポアソン比は0.5を使用する。上記範囲内のとき、経時の巻き締まりや幅収縮が少なく経時での平面性悪化を防ぐことができる。
なお、捲回体から微多孔膜を巻き出す条件としては、5周分以上巻き出すこととし、また、巻き出した微多孔膜の幅方向の中心部で測定する。
【0065】
本発明の実施形態に係る微多孔膜捲回体を二次電池用セパレータとして用いた場合、耐熱層の塗布工程において優れた加工性を得ることができる。
【実施例0066】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0067】
1.評価方法、分析方法
実施例または比較例の各微多孔膜捲回体から、微多孔膜を5周分以上剥いだ箇所から試料を採取し、分析に用いた。試料サイズは各分析に応じて調整した。
【0068】
(1)膜厚(μm)
微多孔膜試料(95mm×95mm)の中心と、中心からMDに±30mm、TDに±30mmの計5箇所で膜厚を測定し、膜厚の平均値を求めた。測定には超硬球面測定子φ10.5(パーツNo120060)を備えた測定力約0.15Nの接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック)を用いた。
【0069】
(2)透気抵抗度
微多孔膜試料(50mm×50mm)について、JIS P-8117:2009に準拠して、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いて透気抵抗度(sec/100cm3)を測定した。
【0070】
(3)105℃1時間後熱収縮率
微多孔膜試料からダンベルにて長手方向(MD)100mm、幅方向(TD)100mmの正方形に切り出し測定に用いた。(i)23℃での微多孔膜の寸法を測定(幅方向、長手方向)。(ii)105℃1時間の条件に晒し、その後23℃に冷却。(iii)幅方向、長手方向の寸法を測定。幅方向と長手方向の熱収縮率は(iii)の寸法を(i)の寸法で割り、その値を1から引いたものをパーセントで表したものである。
【0071】
(4)重量平均分子量(Mw)
試料および原料の重量平均分子量は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製 GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製 ShodexUT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0ml/分
・試料濃度:0.1wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製 ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0072】
(5)引張破断強度
MD及びTDに対応する引張破断強度(MPa)はインストロン製の引張試験機、インストロン5543を用いて、ASTM D882に準拠し、下記の条件で測定した。引張破断強度(MPa)は、サンプル破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除すことで求めた。
・サンプル形状:縦100mm×横10mmの矩形
・測定方向:MD(長さ方向)、TD(幅方向)
・チャック間距離:20mm
・引張速度:100mm/min
・グリップ:インストロン製 2702-018 Jaw Faces for Flats(Rubber Coated,50×38mm)
・ロードセル:500N
・チャック圧:0.50MPa
・温度:23℃
【0073】
(6)微多孔膜捲回体における微多孔膜の55℃1時間後熱収縮率
55℃熱処理後の微多孔膜の熱収縮率は次のようにして測定した:(i)微多孔膜捲回体から微多孔膜を5~10周剥がした後に長さ0.5mにカットした試料を常温にて1.0時間静置した。静置した試料を速やかに50mm×50mmの試験片をダンベルにてカットした。(ii)微多孔膜の試験片の大きさを測定した。(iii)微多孔膜の試験片を、荷重をかけずに1時間摂氏55℃の温度にて平衡化させた。(iv)微多孔膜のMDおよびTDの長さを測定した。MD収縮率およびTD収縮率は、測定結果(ii)を測定結果(iv)で除し、得られた商を百分率で表すことによって得た。なお、測定はキーエンス製二次元寸法測定装置(コントローラーはTM3000、ヘッドはTM065)で最小0.001mmまで読み取り収縮測定を行った。
【0074】
(7)微多孔膜捲回体における微多孔膜のシワ
捲回体における微多孔膜のシワの評価は、微多孔膜捲回体から巻き出された微多孔膜を目視および触診して、違和感のないものを〇とし、違和感のある場合は×として評価した。
【0075】
(8)微多孔膜捲回体における微多孔膜の平面性
捲回体における微多孔膜の平面性を弛みにて評価した。弛みの測定は、以下に示す方法で実施した。微多孔膜捲回体から微多孔膜を巻き出したときの弛みは、
図1に概略図を示す装置を用いて測定評価した。微多孔膜捲回体aを巻き出しにセットした後、微多孔膜bを巻き出して1.5m間隔で水平平行に設置された2本のロールc1,c2にかかるようにし、端部に300gの棒状の重りを取り付けて、
図1に示すような状態とした。重りの取り付けは両面テープにて貼り付けることにより実施した。
図1に示す弛み寸法を、定規を用いて、ロール間中央の微多孔膜端面位置(両端部2箇所)で測定を実施した。なお、1.5mのロール間で
図1に示す弛み寸法が最大となるのはロール間中央付近であり、中央の測定値を弛み量とした。評価は同一条件で得た10~20の捲回体でそれぞれ測定を行い、両端部2箇所でもっとも弛み量が大きい値の平均値にて評価を行った。弛み量が16mm以下を〇、17~20mmを△、21mm以上を×として評価を行った。
【0076】
(9)長期保管後の微多孔膜の平面性
長期保管後の微多孔膜の平面性は、検査完了後から常温常湿(温度20℃~28℃、湿度30%~90%)で3カ月経過後の弛み量にて評価を行った。評価は同一条件で得た10~20の捲回体でそれぞれ測定を行い、両端部2箇所で実施の内、もっとも弛み量が大きい値の平均値にて評価を行った。弛み量が16mm以下を〇、17~20mmを△、21mm以上を×として評価を行った。
【0077】
2.ポリエチレン微多孔膜
(膜1)
Mwが2.0×106のポリエチレン(PE1)30質量%及びMwが5.6×105の高密度ポリエチレン(PE2:密度0.955g/cm3)70質量%からなるポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。得られた混合物30.0質量部を、上記と別の二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cSt(40℃)]70.0質量部を供給し、溶融混練して調製したポリオレフィン溶液を、二軸押出機からダイに供給し押し出した。押出し成形体を、冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状シートを形成した。
ゲル状シートを、テンター式延伸機により115℃でMD及びTDともに5倍に同時二軸延伸(湿式延伸)した。次いで延伸したゲル状シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
乾燥膜を、テンター式延伸機を用いて、130℃でTDに1.35倍に延伸(乾式延伸)した後、130℃でTDに3%の緩和を施した。作製した微多孔膜を中間製品用巻き芯に巻き取った中間製品を、60℃で24時間エージング処理を実施し、微多孔膜中間製品捲回体(中間製品)を得た。
【0078】
(膜2~膜3)
表1に記載した条件以外は膜1と同様の条件により、中間製品を作製した。
【0079】
(膜4)
表1に記載した条件以外は膜1と同様の条件により実施し、エージング処理は未実施で中間製品を作製した。
【0080】
(実施例1~2、比較例1~6)
エージング処理完了後に常温に戻した中間製品を
図2に示す概略図のスリッターにより、微多孔膜600mm幅1000m巻の微多孔膜捲回体を、表2に記載したスリット条件で作製した。製品用巻き芯は事前に表層確認として、目視および触診で、凹凸およびキズがないものを使用した。
【0081】
【0082】
【0083】
上記結果より、実施例1および実施例2の微多孔膜捲回体における微多孔膜は、シワがなく長期保管後の平面性も良好であり、加工性に優れた微多孔膜捲回体が得られた。
比較例1、比較例2、比較例3、比較例6においては、55℃1時間の熱処理後の微多孔膜の、(a)長手方向収縮率と、(b)1/2長手方向収縮率と幅方向収縮率との和が本発明の上限を超えており、比較例3および比較例4においては、巻き芯の重量が本発明の上限を超えており、これら比較例1~6の微多孔膜捲回体における微多孔膜は、長期保管後の平面性が不十分であった。