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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060498
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240424BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01L29/78 652F
H01L29/78 652T
H01L29/78 652S
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 657D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167906
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(57)【要約】
【課題】バイポーラ劣化を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供すること。
【解決手段】活性領域40のn-型ドリフト領域2に、正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとが<1-100>方向に交互に繰り返し隣接して配置される。活性領域40のうち正孔注入領域2aが配置された部分は、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れる有効領域41aである。活性領域40のうち正孔非注入領域2bが配置された部分は、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れない無効領域41bである。活性領域40の無効領域41bのp++型コンタクト領域6は、層間絶縁膜11によってソース電極12と電気的に絶縁されている。活性領域40の無効領域41bのp型ベース領域4およびp+型領域21,22は、電気的に浮遊している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板の内部に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に設けられた第2導電型の第2半導体領域と、
前記半導体基板の第1主面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体領域と、
前記半導体基板の第1主面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型の第4半導体領域と、
前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体領域に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、を有し、前記半導体基板の第1主面に平行な方向に隣接して配置された複数のセルと、
前記第4半導体領域、前記第3半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の第2主面に設けられた第2電極と、
複数の前記セルのうちの一部の第1セルを含み、前記第2電極に対して正の電圧が前記第1電極に印加されたときに正孔が注入される第1領域と、
複数の前記セルのうちの前記第1セルを除く第2セルを含み、前記第2電極に対して正の電圧が前記第1電極に印加されたときに正孔が注入されない第2領域と、
を備え、
前記半導体基板の第1主面は、<11-20>方向に所定のオフ角を有する(0001)面であり、
前記第1領域と前記第2領域とが<1-100>方向に交互に繰り返し隣接して配置されていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備え、
前記第1電極は、
前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域に接し、
前記層間絶縁膜によって前記第2セルの前記第4半導体領域と電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第1電極は、前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第3半導体領域に接することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第4半導体領域は、前記第1セルのみに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備え、
前記第1電極は、
前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域および前記第3半導体領域に接し、
前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第3半導体領域のみに接することを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備え、
前記第1電極は、
前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域および前記第3半導体領域に接し、
前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第2半導体領域および前記第3半導体領域に接することを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記第2半導体領域の不純物濃度は、1×1018/cm3以下であることを特徴とする請求項6に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型高濃度領域を備え、
前記第2セルの前記第2導電型高濃度領域は電気的に浮遊していることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い複数の第2導電型高濃度領域を備え、
互いに隣り合う前記第1セルと前記第2セルとは、複数の前記第2導電型高濃度領域のうち、当該第1セルと当該第2セルとの間の第1の第2導電型高濃度領域と、当該第2セルの前記トレンチの底面に対向する第2の第2導電型高濃度領域と、前記第1の第2導電型高濃度領域と前記第2の第2導電型高濃度領域との間の前記第1半導体領域と、で形成される寄生抵抗を介して接続されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記第2領域の幅は、<1-100>方向および<11-20>方向ともに前記第1半導体領域の厚さの2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項11】
前記第2領域の前記第1半導体領域の正孔密度は、1×1015/cm3未満であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)は、半導体基板にボディダイオード(BD:Body Diode)を内蔵する。MOSFETのボディダイオードは、p++型コンタクト領域およびp型ベース領域とn-型ドリフト領域およびn+型ドレイン領域とのpn接合で形成される寄生のpin(p-intrinsic-n)ダイオードである。
【0003】
炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた従来の炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図16は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図17は、従来の炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。図16には、図17の切断線AA-AA’における断面構造を示す。図17には、p型ベース領域104、p++型コンタクト領域106およびp+型領域121,122のレイアウトを示し、n+型ソース領域105を図示省略する。
【0004】
図16,17に示す従来の炭化珪素半導体装置110は、炭化珪素からなる半導体基板130のおもて面(p型エピタキシャル層133側の主面)側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。半導体基板130は、炭化珪素からなるn+型出発基板131上にn-型ドリフト領域102およびp型ベース領域104となる各エピタキシャル層132,133を順にエピタキシャル成長させてなる。n+型出発基板131のおもて面は、<11-20>方向に所定のオフ角を有する(0001)面である。
【0005】
+型出発基板131は、n+型ドレイン領域101である。n-型エピタキシャル層132のうち、n-型エピタキシャル層132にイオン注入により形成されるp+型領域121,122およびn型電流拡散領域103を除く部分がn-型ドリフト領域102である。p型エピタキシャル層133のうち、p型エピタキシャル層133にイオン注入により形成されるn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106を除く部分がp型ベース領域104である。
【0006】
トレンチゲート構造は、p型ベース領域104、n+型ソース領域105、p++型コンタクト領域106、ゲートトレンチ107、ゲート絶縁膜108およびゲート電極109で構成される。p++型コンタクト領域106、p型ベース領域104および後述するp+型領域121,122と、後述するn型電流拡散領域103、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101と、のpn接合134によって、SiC-MOSFETのボディダイオード120が形成される。
【0007】
ゲートトレンチ107は、半導体基板130のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に延在する。互いに隣り合うゲートトレンチ107間(メサ部)に、p型ベース領域104、n+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106が選択的に設けられている。p型ベース領域104およびn+型ソース領域105は、ゲートトレンチ107の側壁でゲート絶縁膜108に接し、第1方向Xにゲートトレンチ107と同じ長さで途切れることなく延在する。
【0008】
+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106は、半導体基板130のおもて面とp型ベース領域104との間に、p型ベース領域104に接してそれぞれ選択的に設けられ、半導体基板130のおもて面でソース電極112にオーミック接触する。p++型コンタクト領域106は、ゲートトレンチ107から離れて設けられ、半導体基板130のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域105に隣接する。p++型コンタクト領域106は、各メサ部において第1方向Xに所定ピッチで点在する。
【0009】
p型ベース領域104とn-型ドリフト領域102との間において、ゲートトレンチ107の底面よりもn+型ドレイン領域101側に深い位置に、p+型領域121,122およびn型電流拡散領域103がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域103は、n-型ドリフト領域102、p型ベース領域104およびp+型領域121,122の間に、これらの領域に接して設けられている。n型電流拡散領域103は、ゲートトレンチ107まで達してゲート絶縁膜108に接する。
【0010】
+型領域121,122は、ソース電極112の電位に固定されており、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置110)のオフ時に空乏化して(もしくはn型電流拡散領域103を空乏化させて、またはその両方)、ゲートトレンチ107の底面のゲート絶縁膜108にかかる電界を緩和させる機能を有する。p+型領域121,122は、第1方向Xにゲートトレンチ107と同じ長さで直線状に途切れることなく延在する。
【0011】
+型領域121は、p型ベース領域104と離れて設けられ、深さ方向Zにゲートトレンチ107の底面に対向する。p+型領域121は、図示省略する部分でp+型領域122または他のp+型領域を介してソース電極112に電気的に接続されている。p+型領域122は、互いに隣り合うゲートトレンチ107間に、p型ベース領域104に接し、ゲートトレンチ107およびp+型領域121と離れて設けられている。
【0012】
ソース電極112は、層間絶縁膜111のコンタクトホールにおいて半導体基板130のおもて面でn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106にオーミック接触して、n+型ソース領域105、p++型コンタクト領域106、p型ベース領域104およびp+型領域121,122に電気的に接続されている。ドレイン電極113は、半導体基板130の裏面(n+型出発基板131側の主面)の全面に設けられて、n+型ドレイン領域101に電気的に接続されている。
【0013】
上述した従来の炭化珪素半導体装置110では、通常動作時、ソース電極112に対して正の電圧Vdsがドレイン電極113に印加(ドレイン・ソース間が順バイアス)され、p++型コンタクト領域106、p型ベース領域104およびp+型領域121,122と、n型電流拡散領域103、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101と、のpn接合134が逆バイアスされる。この状態で、ゲート電圧Vgsがゲート閾値電圧Vth未満であると、SiC-MOSFETはオフ状態を維持する。
【0014】
一方、ドレイン・ソース間が順バイアスされた状態でゲート閾値電圧Vth以上のゲート電圧Vgsが印加されると、p型ベース領域104の、ゲートトレンチ107の側壁に沿った部分にチャネル(n型の反転層)が形成される。それによって、n+型ドレイン領域101からn-型ドリフト領域102、n型電流拡散領域103およびチャネルを通ってn+型ソース領域105へ向かうドリフト電流(正孔電流)Idsが流れ、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置110)がオンする。
【0015】
また、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中や、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされる。このため、p++型コンタクト領域106、p型ベース領域104およびp+型領域121,122と、n型電流拡散領域103、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101と、のpn接合134が順バイアスされてボディダイオード120が導通し、ボディダイオード120に順方向電流Ifが流れる。
【0016】
従来の縦型SiC-MOSFETとして、複数の単位セル(素子の機能単位)のうちの一部の単位セルに、ボディダイオードの導通時にソース電極からn-型ドリフト領域への正孔の注入を制限する正孔注入制限領域を配置した装置が提案されている(例えば、下記特許文献1,2参照。)。下記特許文献1では、n+型ソース領域およびp++型コンタクト領域を設けないp型ベース領域を正孔注入制限領域としている。
【0017】
下記特許文献2では、p型ベース領域に代えて、ショットキー障壁を形成するp型領域を配置して正孔注入制限領域としている。下記特許文献1,2では、エピタキシャル成長の出発基板のおもて面を(0001)面とし、エピタキシャル層のステップフロー成長方向である<11-20>方向に沿って正孔注入制限領域を配置することで、エピタキシャル層のステップフロー成長方向と直交する方向への積層欠陥の拡張を抑制している。
【0018】
また、従来の別の縦型SiC-MOSFETとして、半導体基板の中央から端部へ向かうにつれてp++型コンタクト領域の表面積を小さくすることで、半導体基板の表面積に対するボディダイオードの表面積を小さくした装置が提案されている(例えば、下記特許文献3参照。)。下記特許文献3では、ボディダイオードの表面積を小さくして、ボディダイオードの順方向電圧を高くすることで、ボディダイオードを導通しにくくしている。
【0019】
また、従来のトレンチゲート構造の縦型SiC-MOSFETとして、互いに隣り合うゲートトレンチ間(メサ部)に配置されたゲート絶縁膜にかかる電界を緩和するp+型領域を一定間隔で間引いた装置が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。下記特許文献4では、電界緩和用のp+型領域を配置しないメサ部に、さらにp++型コンタクト領域およびコンタクトホールも配置しないことで、セルピッチを小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2013-232574号公報
【特許文献2】特開2017-168561号公報
【特許文献3】特開2020-021916号公報
【特許文献4】特許第6919159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上述した従来の炭化珪素半導体装置110(図16,17参照)では、ボディダイオード120が導通(順方向通電)すると、オン電圧Vonの増加や順方向電圧Vfの増加などのいわゆるバイポーラ劣化(ボディダイオード120による順方向通電劣化)が起きる。SiC-MOSFETのバイポーラ劣化の要因について説明する。図13は、図16の等価回路を示す回路図である。図13の破線で囲む部分が図16,17の炭化珪素半導体装置110(半導体基板130)に相当する。
【0022】
図14は、従来の炭化珪素半導体装置のバイポーラ劣化について説明する説明図である。図14には、図16の半導体基板130の一部(p+型領域122近傍におけるn-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101)を拡大して示す。図14(a)はボディダイオード120の導通時の状態であり、図14(b)はボディダイオード120の導通により積層欠陥141(太線)が<1-100>方向に拡張142した状態である。図15は、図14(b)の半導体基板全体をおもて面側から見た状態を示す平面図である。
【0023】
ボディダイオード120はMOSFETのドレイン・ソース間に逆並列に接続される(図13,16)。ボディダイオード120の順方向電流Ifは、p++型コンタクト領域106からp型ベース領域104に流れ込み、p型ベース領域104を横方向(半導体基板130のおもて面に平行な方向)に拡散する。このため、p型ベース領域104からp+型領域121,122を介して活性領域151におけるn-型ドリフト領域102の全域に正孔(hole:「h」と図示)136が注入135される(図14(a))。
【0024】
-型ドリフト領域102に注入135された正孔136はn-型ドリフト領域102内で電子(electron:「e」と図示)137と再結合し、この再結合によって炭化珪素のバンドギャップに近い光等のエネルギーが放出される。このエネルギーを受けて半導体基板130の基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)140がn-型エピタキシャル層132内を(0001)面に沿って成長し、積層欠陥(SF:Stacking Fault)141となる。
【0025】
BPD140はn+型出発基板131に多く存在し、一般的に、n+型出発基板131のBPD140は、n-型エピタキシャル層132との界面138からn-型ドリフト領域102(n-型エピタキシャル層132)内へ(0001)面に沿って<11-20>方向にオフ角(通常4度程度)に応じた角度で成長していき積層欠陥141となり、p+型領域121,122との界面近傍まで成長する。そして、積層欠陥141は、さらにn-型ドリフト領域102内を<1-100>方向に拡張142する(図14(b)および図15のハッチング部分)。
【0026】
上述したようにn-型ドリフト領域102のほぼ全域に正孔136が注入135されることで、活性領域151におけるn-型ドリフト領域102の全域に臨界濃度1×1015/cm3以上で正孔が存在する。このため、活性領域151の全域にわたってn+型出発基板131内の多くのBPD140がn-型ドリフト領域102内に成長して積層欠陥141に変換され、これらの積層欠陥141がn-型ドリフト領域102内を<1-100>方向に活性領域151とエッジ終端領域152との境界まで拡張142する。
【0027】
積層欠陥141は、電子の流れ(電子電流)に対して抵抗成分となる。このため、積層欠陥141が活性領域151におけるn-型ドリフト領域102に増大および拡張するほど、SiC-MOSFETがオン時やボディダイオード120の導通時に電子の流れ(ドリフト電流Idsと逆向きの流れ、順方向電流Ifと逆向きの流れ)の抵抗成分となり、導通損失が大きくなる。これによって、バイポーラ劣化(オン電圧Vonの増加や順方向電圧Vfの増加)が起きる。
【0028】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するため、バイポーラ劣化を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基板の内部に、第1導電型の第1半導体領域が設けられている。前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に、第2導電型の第2半導体領域が設けられている。前記半導体基板の第1主面と前記第2半導体領域との間に、第1導電型の第3半導体領域が選択的に設けられている。前記半導体基板の第1主面と前記第2半導体領域との間に、第2導電型の第4半導体領域が選択的に設けられている。前記第4半導体領域は、前記第2半導体領域よりも不純物濃度が高い。
【0030】
トレンチは、前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第1半導体領域に達する。前記トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。セルは、前記第1半導体領域、前記第2半導体領域、前記第3半導体領域、前記第4半導体領域、前記トレンチおよび前記ゲート電極を有し、前記半導体基板の第1主面に平行な方向に隣接して複数配置されている。第1電極は、前記第4半導体領域、前記第3半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続されている。第2電極は、前記半導体基板の第2主面に設けられている。
【0031】
第1領域は、複数の前記セルのうちの一部の第1セルを含む。前記第1領域には、前記第2電極に対して正の電圧が前記第1電極に印加されたときに正孔が注入される。第2領域は、複数の前記セルのうちの前記第1セルを除く第2セルを含む。前記第2領域には、前記第2電極に対して正の電圧が前記第1電極に印加されたときに正孔が注入されない。前記半導体基板の第1主面は、<11-20>方向に所定のオフ角を有する(0001)面である。前記第1領域と前記第2領域とが<1-100>方向に交互に繰り返し隣接して配置されている。
【0032】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備える。前記第1電極は、前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域に接し、前記層間絶縁膜によって前記第2セルの前記第4半導体領域と電気的に絶縁されていることを特徴とする。
【0033】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1電極は、前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第3半導体領域に接することを特徴とする。
【0034】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第4半導体領域は、前記第1セルのみに設けられていることを特徴とする。
【0035】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備える。前記第1電極は、前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域および前記第3半導体領域に接し、前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第3半導体領域のみに接することを特徴とする。
【0036】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記半導体基板の第1主面に設けられ、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を備える。前記第1電極は、前記層間絶縁膜の第1コンタクトホールを介して前記第1セルの前記第4半導体領域および前記第3半導体領域に接し、前記層間絶縁膜の第2コンタクトホールを介して前記第2セルの前記第2半導体領域および前記第3半導体領域に接することを特徴とする。
【0037】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2半導体領域の不純物濃度は、1×1018/cm3以下であることを特徴とする。
【0038】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型高濃度領域を備える。前記第2セルの前記第2導電型高濃度領域は電気的に浮遊していることを特徴とする。
【0039】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の前記第2主面側に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い複数の第2導電型高濃度領域を備える。互いに隣り合う前記第1セルと前記第2セルとは、複数の前記第2導電型高濃度領域のうち、当該第1セルと当該第2セルとの間の第1の第2導電型高濃度領域と、当該第2セルの前記トレンチの底面に対向する第2の第2導電型高濃度領域と、前記第1の第2導電型高濃度領域と前記第2の第2導電型高濃度領域との間の前記第1半導体領域と、で形成される寄生抵抗を介して接続されていることを特徴とする。
【0040】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2領域の幅は、<1-100>方向および<11-20>方向ともに前記第1半導体領域の厚さの2倍以上であることを特徴とする。
【0041】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2領域の前記第1半導体領域の正孔密度は、1×1015/cm3未満であることを特徴とする。
【0042】
上述した発明によれば、積層欠陥の<1-100>方向への成長および拡張を第1領域と第2領域との境界で止めることができ、第1半導体領域の全体にわたって積層欠陥が拡張しない。
【発明の効果】
【0043】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置によれば、バイポーラ劣化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図2図1の切断線A1-A1’における断面構造を示す断面図である。
図3図1の切断線B1-B1’における断面構造を示す断面図である。
図4図2の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図5】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図6】実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)の切断線C1-C1‘における平面図である。
図7】実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の構造の例を示す断面図である。
図8】実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の構造の例を示す断面図である。
図9】実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図10図9の切断線A2-A2’における断面構造の例を示す断面図である。
図11図9の切断線A2-A2’における断面構造の例を示す断面図である。
図12】実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図13図16の等価回路を示す回路図である。
図14】従来の炭化珪素半導体装置のバイポーラ劣化について説明する説明図である。
図15図14(b)の半導体基板全体をおもて面側から見た状態を示す平面図である。
図16】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図17】従来の炭化珪素半導体装置の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数を表している。
【0046】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図1は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。図1には、正孔注入領域2aおよび正孔非注入領域2bのレイアウトを示す。図2,3は、それぞれ図1の切断線A1-A1’および切断線B1-B1’における断面構造を示す断面図である。図1~3には、正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとの境界を破線で示す。図4は、図2の一部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。図4には、p型ベース領域4、p++型コンタクト領域6およびp+型領域21,22のレイアウトを示し、n+型ソース領域5を図示省略する。
【0047】
図1~4に示す実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10は、活性領域40において、炭化珪素からなる半導体基板30のおもて面側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。図1に示すように、半導体基板30のおもて面は、<11-20>方向に所定角度(例えば4度程度)のオフ角を有する(0001)面である。活性領域40は、炭化珪素半導体装置10(SiC-MOSFET)のオン時に半導体基板30のおもて面に垂直な方向に主電流(ドリフト電流Ids)が流れる領域である。活性領域40には、SiC-MOSFETの同一構造の複数の単位セル(素子の機能単位)が隣接して配置される。
【0048】
活性領域40は、例えば5mm四方程度の略矩形状の平面形状を有し、半導体基板30の略中央(チップ中央)に設けられる。活性領域40の第1部分41において、半導体基板30のおもて面の略全域にソース電極12(図2参照)が配置される。活性領域40の第1部分41は、例えばチップ中央部を開口した略矩形状の平面形状を有し、活性領域40のほぼ全域を占める。活性領域40の第1部分41におけるn-型ドリフト領域2は、ドレイン・ソース間の逆バイアス時(後述するpn接合34の順バイアス時)に正孔が注入される正孔注入領域2aと、ドレイン・ソース間の逆バイアス時に正孔が注入されない正孔非注入領域2bと、で構成される。
【0049】
活性領域40の第1部分41のn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとは、<1-100>方向に交互に繰り返し隣接して配置され、<11-20>方向にストライプ状に延在する。活性領域40の第1部分41を除く第2部分42には、半導体基板30のおもて面上に絶縁層(フィールド酸化膜14)を介してゲート電極9およびゲートパッド15(図3参照)が配置される。フィールド酸化膜14に代えて層間絶縁膜11としてもよい。活性領域40の第2部分42は、例えば、略矩形状の平面形状を有し、チップ中央に配置されて周囲を第1部分41に囲まれている。活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2は、正孔非注入領域2bである。
【0050】
エッジ終端領域43は、活性領域40と半導体基板30の端部(チップ端部)との間の領域であり、活性領域40の周囲を略矩形状に囲む。エッジ終端領域43は、半導体基板30のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する機能を有する。耐圧とは、炭化珪素半導体装置10が使用電圧で誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。エッジ終端領域43には、例えば、フィールドリミッティングリング(FLR:Field Limiting Ring)や接合終端拡張(JTE:Junction Termination Extension)構造等の一般的な耐圧構造(不図示)が配置される。
【0051】
図2,3に示すように、半導体基板30は、炭化珪素からなるn+型出発基板(エピタキシャル成長の出発基板)31のおもて面上にn-型ドリフト領域(第1半導体領域)2およびp型ベース領域(第2半導体領域)4となる各エピタキシャル層32,33を順にエピタキシャル成長させてなる。半導体基板30は、p型エピタキシャル層33側の第1主面をおもて面とし、n+型出発基板31側の第2主面(n+型出発基板31の裏面)を裏面とする。半導体基板30のおもて面および裏面には、それぞれn+型出発基板31のおもて面および裏面と同じ結晶面が露出される。
【0052】
+型出発基板31は、n+型ドレイン領域1である。トレンチゲート構造は、p型ベース領域4、n+型ソース領域(第3半導体領域)5、p++型コンタクト領域(第4半導体領域)6、ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成され、活性領域40の第1部分41に配置される。ゲートトレンチ7は、半導体基板30のおもて面から深さ方向Zにp型エピタキシャル層33を貫通してn-型エピタキシャル層32に達し、後述するn型電流拡散領域3(n型電流拡散領域3を設けない場合はn-型ドリフト領域2)の内部で終端する。
【0053】
ゲートトレンチ7は、活性領域40の第1部分41の全域にわたって半導体基板30のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に延在している。ゲートトレンチ7の長手方向(第1方向X)は<11-20>方向であり、ゲートトレンチ7の短手方向(半導体基板30のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Y)は<1-100>方向である。ゲートトレンチ7の長手方向の端部は、エッジ終端領域43に達するか、またはエッジ終端領域43内で終端している。図1には、活性領域40の第1部分41の全域に設けられた複数のゲートトレンチ7のうちの4つのゲートトレンチ7を実線で示す。
【0054】
ゲートトレンチ7の内部に、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9(図4にはトレンチゲートと図示)が設けられている。p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面とn-型ドリフト領域2との間において、すべての互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)に配置される。互いに隣り合うメサ部の第2方向Yの略中心間の部分で1つの単位セルが構成される。p型ベース領域4は、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さ(長手方向の長さ)で直線状に途切れることなく延在し、第2方向Yに互いに隣り合う両ゲートトレンチ7の側壁まで達する。
【0055】
活性領域40の第1部分41の後述する無効領域(第2領域)41bのp型ベース領域4は、電気的に浮遊(フローティング)している。活性領域40の第1部分41のうち無効領域41bを除く後述する有効領域(第1領域)41aのp型ベース領域4は、ソース電極12に電気的に接続される。活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp型ベース領域4は、各メサ部から活性領域40とエッジ終端領域43の耐圧構造との間に延在して連結され、活性領域40の周囲を囲む(不図示)。また、p型ベース領域4は、活性領域40の第2部分42の全域に延在する(図3参照)。
【0056】
+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、p型エピタキシャル層33の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。p型エピタキシャル層33のうち、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6および後述するp++型コンタクト領域25を除く部分がp型ベース領域4である。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面とp型ベース領域4との間に、p型ベース領域4に接して設けられている。同一のメサ部に設けられたn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は第2方向Yに隣接する。
【0057】
+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、活性領域40の第1部分41の有効領域41aにおいて層間絶縁膜11のコンタクトホール(第1コンタクトホール)11aを介してソース電極12にオーミック接触し、活性領域40の第1部分41の無効領域41bにおいて層間絶縁膜11によってソース電極12と電気的に絶縁されている。n+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7の側壁でゲート絶縁膜8に接する。n+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7に隣接して設けられ、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さで途切れることなく延在する(不図示)。
【0058】
++型コンタクト領域6は、メサ部の第2方向Yの略中心にゲートトレンチ7から離れて設けられ、第1方向Xに所定ピッチで点在する(図4参照)。p++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域5に隣接し、n+型ソース領域5に周囲を囲まれている。したがって、半導体基板30のおもて面側から見て、p++型コンタクト領域6はメサ部に島状に配置され、n+型ソース領域5はp++型コンタクト領域6の周囲を囲む梯子状(格子状)に配置される。p++型コンタクト領域6を島状に配置することで、セルピッチを縮小することができる。
【0059】
p型ベース領域4とn-型ドリフト領域2との間において、ゲートトレンチ7の底面よりもn+型ドレイン領域1側(半導体基板30の裏面側)に深い位置に、p+型領域(第2導電型高濃度領域)21,22およびn型電流拡散領域3がそれぞれ選択的に設けられている。p+型領域21,22およびn型電流拡散領域3は、n-型エピタキシャル層32の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。p+型領域21,22は、SiC-MOSFETのオフ時に空乏化して(もしくはn型電流拡散領域3を空乏化させて、またはその両方)、ゲート絶縁膜8にかかる電界を緩和させる機能を有する。
【0060】
+型領域21,22は、n+型ドレイン領域1側にn型電流拡散領域3と同じ深さ位置で終端し、下面(n+型ドレイン領域1側の面)でn-型ドリフト領域2に接する。p+型領域21,22は、n型電流拡散領域3よりもn+型ソース領域5側(半導体基板30のおもて面側)に浅い位置で終端してもよい。この場合、p+型領域21,22とn-型ドリフト領域2との間にn型電流拡散領域3が介在し、+型領域21,22は深さ方向Zにn型電流拡散領域3を介してn-型ドリフト領域2に対向する。p+型領域21,22は、第1方向Xにゲートトレンチ7と略同じ長さで直線状に途切れることなく延在する。
【0061】
+型領域21,22は、活性領域40の第1部分41の有効領域41aにおいてp型ベース領域4のうちの活性領域40の周囲を囲む外周部(不図示)に直接接続または電気的に接続され、活性領域40の第1部分41の無効領域41bおいて当該p型ベース領域4の外周部と離れてチップ中央側で終端している。したがって、活性領域40の第1部分41の有効領域41aに配置されたp+型領域21,22は、ソース電極12の電位に固定されている。活性領域40の第1部分41の無効領域41bに配置されたp+型領域21,22は、ソース電極12の電位に固定されておらず、電気的に浮遊している。
【0062】
活性領域40の第1部分41の有効領域41aに配置されたp+型領域21,22同士は、活性領域40の外周以外の部分で電気的に接続されてもよい。活性領域40の第1部分41の有効領域41aに配置されたp+型領域21,22は、下面でn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aに接する。活性領域40の第1部分41の無効領域41bに配置されたp+型領域21,22同士は電気的に接続されて同電位に固定されることが好ましいが、個々に電気的に浮遊していてもよい。活性領域40の第1部分41の無効領域41bに配置されたp+型領域21,22は、下面でn-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bに接する。
【0063】
+型領域21は、p型ベース領域4と離れて設けられ、深さ方向Zにゲートトレンチ7の底面に対向する。p+型領域21は、ゲートトレンチ7の底面でゲート絶縁膜8に接してもよいし、ゲートトレンチ7から離れていてもよい。p+型領域22は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)に、ゲートトレンチ7およびp+型領域21と離れて設けられている。p+型領域22は、メサ部の第2方向Yの略中心に設けられ、深さ方向Zにp++型コンタクト領域6に対向する。p+型領域22は、上面(n+型ソース領域5側の面)でp型ベース領域4に接する。
【0064】
+型領域21,22同士を活性領域40の外周以外の部分で電気的に接続する場合、例えば、互いに隣り合うp+型領域21,22間に、第2方向Yにp+型領域21からp+型領域22まで達して当該p+型領域21,22同士を連結するp+型連結部(不図示)を選択的に設ければよい。具体的には、例えば、電気的に接続されるすべてのp+型領域21,22を含む領域(すなわち有効領域41aもしくは無効領域41b)に、半導体基板30のおもて面側から見てマトリクス状(島状)に複数のp+型連結部が配置される。p+型領域21とp+型領域22とは、第2方向Yに対向して設けられた当該複数のp+型連結部が第1方向Xに例えば等間隔で設けられ繋げられる。
【0065】
+型領域22の第2方向Yの幅は、互いに隣り合うp+型領域21,22間のJFET(Junction FET)部の第2方向Yの幅に応じて適宜設定され、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅以上であってもよいし、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅よりも狭くてもよい。p+型領域22は、n+型ドレイン領域1側の部分(下部)とn+型ソース領域5側の部分(上部)とが略同じ不純物濃度であってもよいし、n+型ドレイン領域1側の部分とn+型ソース領域5側の部分とを異なる不純物濃度で積層した2層構造であってもよい。
【0066】
n型電流拡散領域3は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(CSL:Current Spreading Layer)である。n型電流拡散領域3は、p+型領域21,22に隣接し、上面でp型ベース領域4に接し、下面でn-型ドリフト領域2に接する。また、n型電流拡散領域3は、第2方向Yにゲートトレンチ7まで達してゲート絶縁膜8に接する。n型電流拡散領域3は設けられていなくてもよい。この場合、n型電流拡散領域3に代えて、n-型ドリフト領域2がp型ベース領域4まで達し、第2方向Yにゲートトレンチ7まで達してゲート絶縁膜8に接する。
【0067】
-型エピタキシャル層32のうち、p+型領域21,22、n型電流拡散領域3および後述するp+型領域23を除く部分がn-型ドリフト領域2である。p++型コンタクト領域6、p型ベース領域4およびp+型領域21,22と、n型電流拡散領域3、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34でSiC-MOSFETのボディダイオード20が形成される。ボディダイオード20の順方向電流Ifは、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp++型コンタクト領域6からpn接合34を通ってn+型ドレイン領域1へ向かう経路で流れる。
【0068】
上述したように活性領域40の第1部分41におけるn-型ドリフト領域2は、<1-100>方向に交互に繰り返し配置された正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとで構成される。この正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとの繰り返しパターンの最もエッジ終端領域43側は例えば正孔注入領域2aである。活性領域40の第1部分41のうち正孔注入領域2aが配置された部分は、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れる有効領域41aである。活性領域40の第1部分41のうち正孔非注入領域2bが配置された部分は、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れない無効領域41bである。
【0069】
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、n-型ドリフト領域2のうち、ソース電極12の電位に固定されたp+型領域21,22の直下(n+型ドレイン領域1側)の領域である。n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、活性領域40の第1部分41の互いに隣り合う無効領域41b間(もしくはエッジ終端領域43の<11-20>方向に平行な1辺と、<1-100>方向に当該エッジ終端領域43に最も近い無効領域41bと、の間)のp+型領域21,22およびn型電流拡散領域3との接触面を上底とし、n+型ドレイン領域1との接触面を下底とする錐台(切頭錐体)状をなす。
【0070】
-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、側面(錐体面:図2,3のn-型ドリフト領域2内の斜めの破線)が半導体基板30のおもて面に対して所定角度θ(例えば45度程度)をなし、n+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって幅が広くなっている。n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aは、ドレイン・ソース間の逆バイアス時にボディダイオード20の順方向電流Ifが流れ込んで正孔が注入される領域である。n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aには、ドレイン・ソース間の逆バイアス時に正孔が注入され、臨界濃度(正孔密度)1×1015/cm3以上で正孔が存在する。
【0071】
活性領域40の第1部分41におけるn-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bは、n-型ドリフト領域2のうち、ソース電極12の電位に固定されていないp+型領域21,22の直下の領域であり、上面で当該p+型領域21,22およびn型電流拡散領域3に接し、下面でn+型ドレイン領域1に接する。活性領域40の第1部分41におけるn-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bは、側面が半導体基板30のおもて面に対して所定角度θ(例えば45度程度)をなして、n+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって幅を狭くした逆錐台状をなす。
【0072】
活性領域40の第1部分41の無効領域41bは、活性領域40の第1部分41のうち、層間絶縁膜11で全域を覆われた隣接するメサ部(または1つのメサ部)と、当該メサ部の直下のn-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、で構成される。活性領域40の第1部分41の無効領域41bにおいては、p++型コンタクト領域6がソース電極12と電気的に絶縁され、かつp+型領域21,22がソース電極12の電位に固定されていないことで、n-型ドリフト領域2にボディダイオード20の順方向電流Ifが流れ込まないため、n-型ドリフト領域2は正孔非注入領域2bとなる。n-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bの正孔密度は1×1015/cm3未満である。
【0073】
具体的には、活性領域40の第1部分41の無効領域41bは、層間絶縁膜11によって全域を覆われた隣接するメサ部のうち、当該メサ部を形成する互いに隣り合う2つ以上のゲートトレンチ7の最も有効領域41a側の両ゲートトレンチ7の直下のp+型領域21間の部分である。活性領域40の第1部分41の無効領域41bのメサ部を形成するゲートトレンチ7のうち、最も有効領域41a側のゲートトレンチ7の直下のp+型領域21は、ソース電極12の電位に固定されている。活性領域40の第1部分41の無効領域41bは、n+型ソース領域5が層間絶縁膜11によってソース電極12と電気的に絶縁されてSiC-MOSFETとして機能しない。
【0074】
活性領域40の第1部分41の無効領域41bの幅L1,L2は、n-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bの上面の幅であり、<1-100>方向および<11-20>方向ともにn-型ドリフト領域2の厚さdの2倍以上程度である(L1≧2d、L2≧2d)。無効領域41bの<1-100>方向の幅L1は、無効領域41bのメサ部を形成するゲートトレンチ7のうち、最も有効領域41a側の両ゲートトレンチ7の直下のp+型領域21間の間隔に相当し、例えば30μm程度である。無効領域41bの<11-20>方向の幅L2は、活性領域40の<11-20>方向の幅に相当し、例えば5mm程度である。n-型ドリフト領域2の厚さdとは、n型電流拡散領域3(n型電流拡散領域3を設けない場合はp+型領域21,22)からn+型ドレイン領域1までの深さ方向Zの長さであり、例えば10μm程度である。
【0075】
活性領域40の第2部分42において半導体基板30のおもて面とn-型ドリフト領域2との間の全域に、p型ベース領域24が設けられている。p型ベース領域24は、活性領域40の第1部分41のp型ベース領域4と同時に形成されるが第1部分41からゲートトレンチ7によって分離されている。p型ベース領域24とn-型ドリフト領域2との間の全域に、これらの領域に接してp+型領域23が設けられている。p+型領域23は、例えばp+型領域21,22と同時にn-型エピタキシャル層32の内部にイオン注入により形成され、かつp+型領域21,22と分離された拡散領域である。p+型領域23は、深さ方向Zに、活性領域40の第2部分42に隣り合うゲートトレンチ7の底面に対向する。
【0076】
半導体基板30のおもて面とp型ベース領域24との間に、p型ベース領域24に接して複数のp++型コンタクト領域25が選択的に設けられている。p++型コンタクト領域25は、例えばp++型コンタクト領域6と同時にp型エピタキシャル層33の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。具体的には、活性領域40の第2部分42において半導体基板30のおもて面に、活性領域40の第1部分41からソース電極12が延在して終端している。半導体基板30のおもて面とp型ベース領域24との間には、深さ方向Zにソース電極12の端部(延在部)に対向するp++型コンタクト領域25と、深さ方向Zにゲートパッド15に対向するp++型コンタクト領域25と、が互いに離れて設けられている。
【0077】
ソース電極12の直下のp++型コンタクト領域25は、活性領域40の第1部分41と第2部分42との境界近傍に配置され、層間絶縁膜11のコンタクトホール11bを介してソース電極12にオーミック接触する。ゲートパッド15の直下のp++型コンタクト領域25は、p型ベース領域24を介してソース電極12に電気的に接続されており、ソース電極12に直接接続されていない。ゲートパッド15の直下のp++型コンタクト領域25は、活性領域40の第2部分42の略中央に配置されて深さ方向Zにゲートパッド15の全面に対向し、活性領域40の第2部分42の面積(表面積)の大半を占める。p+型領域23、p型ベース領域24およびp++型コンタクト領域25は、活性領域40の第2部分42に隣り合うゲートトレンチ7までの間に形成される。
【0078】
++型コンタクト領域25、p型ベース領域24およびp+型領域23は、ソース電極12の電位に固定され、活性領域40の第2部分42における半導体基板30のおもて面の面内での電界を均一にする機能を有する。p++型コンタクト領域25、p型ベース領域24およびp+型領域23がソース電極12の電位に固定されていても、ドレイン・ソース間の逆バイアス時、活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2には正孔が注入されない。このため、活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2の全域が正孔非注入領域2bとなる(図1,3参照)。
【0079】
活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2には正孔が注入されない理由は、次の通りである。活性領域40の第2部分42の大半を覆うゲートパッド15の直下には、ソース電極12に接するp++型コンタクト領域25が存在せず、p型ベース領域24およびp+型領域23から、ソース電極12に接するp++型コンタクト領域25までの距離が長くなる。このため、活性領域40の第2部分42においては、活性領域40の第1部分41に比べてp型ベース領域24およびp+型領域23の拡散抵抗が大きくなり、電圧降下が大きくなる。その結果、活性領域40の第2部分42のゲートパッド15直下の後述するpn接合35が順バイアスとならないため、活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2に正孔が注入されない。
【0080】
活性領域40の第2部分42の正孔非注入領域2bは、活性領域40の第1部分41の正孔注入領域2aまたは正孔非注入領域2bに隣接するか、その両方に隣接する(図1参照)。活性領域40の第1,2部分41,42の正孔非注入領域2bには、ドレイン・ソース間の逆バイアス時に正孔が注入されないことで、正孔が存在しないか、または正孔がほぼ存在しない。活性領域40の第2部分42の配置は、ゲートパッド15の配置に応じて適宜設定可能である。活性領域40の第2部分42は、例えば活性領域40とエッジ終端領域43との境界近傍に配置されてもよい。
【0081】
活性領域40の第2部分42の正孔非注入領域2bは、第2部分42に隣接するゲートトレンチ7間のソース電極12と接するp++型コンタクト領域25の内側(活性領域40の第2部分42の中央側)においてp+型領域23に接する上面を有し、下面でn+型ドレイン領域1に接する。活性領域40の第2部分42の正孔非注入領域2bは、側面(錐体面:図3のn-型ドリフト領域2内の斜めの破線)が半導体基板30(図3ではn+型出発基板31の上面で角度θを図示)のおもて面に対して所定角度θ(例えば45度程度)をなして、n+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって幅を狭くした逆錐台状をなす。活性領域40の第2部分42は、SiC-MOSFETとして機能しない。
【0082】
層間絶縁膜11は、半導体基板30のおもて面の全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。層間絶縁膜11は、活性領域40の第1部分41の有効領域41aと第2部分42とにそれぞれコンタクトホール11a,11bを有する。層間絶縁膜11は、活性領域40の第1部分41の無効領域41bにおいて、半導体基板30のおもて面の全面を覆う。コンタクトホール11aには、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6が露出される。コンタクトホール11bには、活性領域40の第2部分42のp++型コンタクト領域25が露出される。
【0083】
ソース電極(第1電極)12は、層間絶縁膜11上にコンタクトホール11a,11bを埋め込むように設けられている。ソース電極12は、コンタクトホール11aを介して活性領域40の第1部分41の有効領域41aのn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6にオーミック接触し、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6、p型ベース領域4およびp+型領域21,22に電気的に接続される。ソース電極12は、活性領域40の第2部分42に延在して、コンタクトホール11bを介して一部のp++型コンタクト領域25にオーミック接触し、p型ベース領域24、p+型領域23およびすべてのp++型コンタクト領域25に電気的に接続される。
【0084】
活性領域40の第2部分42において、半導体基板30のおもて面にフィールド酸化膜14が設けられ、半導体基板30のおもて面上にフィールド酸化膜14を介してゲート電極9およびゲートパッド15がこの順に積層されている。フィールド酸化膜14上のゲート電極9は、活性領域40の第1部分41のゲートトレンチ7内から延在するゲート電極9の延在部である。ゲートパッド15の全面が、深さ方向Zにフィールド酸化膜14を介してp++型コンタクト領域25、p型ベース領域24およびp+型領域23に対向する。このゲートパッド15下のp++型コンタクト領域25は、ソース電極12に直接接続されない。ドレイン電極(第2電極)13は、半導体基板30の裏面の全面に設けられ、n+型ドレイン領域1(n+型出発基板31)に電気的に接続される。
【0085】
実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(SiC-MOSFET)の動作について説明する。SiC-MOSFETの通常動作時、ソース電極12に対して正の電圧Vdsがドレイン電極13に印加(ドレイン・ソース間が順バイアス)され、p++型コンタクト領域6、p型ベース領域4およびp+型領域21,22と、n型電流拡散領域3、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34が逆バイアスされる。この状態で、ゲート電極9への印加電圧Vgsがゲート閾値電圧Vth未満であると、SiC-MOSFETはオフ状態を維持する。
【0086】
一方、ドレイン・ソース間が順バイアスされた状態でゲート電極9にゲート閾値電圧Vth以上のゲート電圧Vgsが印加されると、活性領域40の第1部分41の有効領域41aにおいてp型ベース領域4の、ゲートトレンチ7の側壁に沿った部分にチャネル(n型の反転層)が形成される。それによって、活性領域40の第1部分41の有効領域41aにおいてn+型ドレイン領域1からn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a、n型電流拡散領域3およびチャネルを通ってn+型ソース領域5へ向かうドリフト電流Idsが流れ、SiC-MOSFETがオンする。
【0087】
また、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中や、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされる。ドレイン・ソース間が逆バイアスされることで、p++型コンタクト領域6、p型ベース領域4およびp+型領域21,22と、n型電流拡散領域3、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合34が順バイアスされてボディダイオード20が導通し、当該ボディダイオード20に順方向電流Ifが流れる。これによって、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp++型コンタクト領域6からp型ベース領域4およびp+型領域21,22を通ってn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aに正孔が注入される。
【0088】
具体的には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされると、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp++型コンタクト領域6に正孔が注入され、当該p++型コンタクト領域6からp型ベース領域4、p+型領域21,22およびn-型ドリフト領域2(正孔注入領域2a)を通ってn+型ドレイン領域1へ向かう経路でボディダイオード20の順方向電流Ifが流れる。n-型ドリフト領域2(正孔注入領域2a)へ流れ込んだ順方向電流Ifは、n-型ドリフト領域2内を半導体基板30のおもて面に対して所定角度θの広がり角度で下方(n+型ドレイン領域1側)へ向かって流れ、横方向(半導体基板30のおもて面に平行な方向)に拡散されない。
【0089】
活性領域40の第1部分41の無効領域41bのp++型コンタクト領域6はソース電極12と電気的に絶縁されているため、当該p++型コンタクト領域6からp型ベース領域4およびp+型領域21,22に正孔は注入されない。活性領域40の第1部分41の無効領域41bのp+型領域21,22は電気的に浮遊しているため、当該p+型領域21,22およびn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)に活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp+型領域21,22からボディダイオード20の順方向電流Ifは流れ込まない。すなわち、活性領域40の第1部分41の無効領域41bにおけるn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)に正孔は注入されない。
【0090】
活性領域40の第2部分42において、p++型コンタクト領域25、p型ベース領域24およびp+型領域23と、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合35で形成されるボディダイオードは導通しない。このため、活性領域40の第2部分42におけるn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)に正孔は注入されない。したがって、活性領域40の第1部分41の無効領域41bおよび第2部分42のn-型ドリフト領域2は正孔非注入領域2bとなる。活性領域40の第1部分41の有効領域41aのn-型ドリフト領域2は正孔注入領域2aとなり、臨界濃度1×1015/cm3以上で正孔が存在する。
【0091】
そして、n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a内でのみ正孔と電子との再結合が起きる。この再結合によって炭化珪素のバンドギャップに近い光等のエネルギーが放出され、当該再結合によるエネルギーを受けて、半導体基板30の基底面転位がn-型ドリフト領域2の正孔注入領域2a内を(0001)面に沿って<11-20>方向にオフ角に応じた角度で成長していき積層欠陥となり、p+型領域21,22との界面近傍まで成長する。そして、積層欠陥は、さらに正孔注入領域2a内を<1-100>方向に拡張する。<1-100>方向に正孔注入領域2aに隣接する正孔非注入領域2bには正孔が存在しないため、積層欠陥の拡張は正孔注入領域2aと正孔非注入領域2bとの境界で止まる。
【0092】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、n-型ドリフト領域に<1-100>方向に正孔非注入領域(正孔が注入されない領域)を挟んで正孔注入領域(正孔が注入される領域)が分離して配置されるように、活性領域にSiC-MOSFETのボディダイオードの順方向電流が流れない無効領域を配置する。活性領域の無効領域は、メサ部(ゲートトレンチ間)を層間絶縁膜で覆って、当該メサ部に配置されたp++型コンタクト領域を層間絶縁膜によってソース電極と電気的に絶縁することで容易に形成可能である。ゲート絶縁膜にかかる電界緩和用のp+型領域は、活性領域の無効領域においてはソース電極の電位に固定せずに電気的に浮遊させる。
【0093】
活性領域の無効領域においては、ソース電極と電気的に絶縁されたp++型コンタクト領域に正孔が注入されないとともに、電気的に浮遊した電界緩和用のp+型領域にボディダイオードの順方向電流は流れ込まない。活性領域のうち無効領域を除く有効領域においてn-型ドリフト領域に流れ込んだボディダイオードの順方向電流は、n-型ドリフト領域内を所定の広がり角度で下方へ向かって流れ、横方向に拡散しない。このため、活性領域の無効領域におけるn-型ドリフト領域にボディダイオードの順方向電流は流れ込まない。したがって、活性領域に所定パターンで無効領域を配置することで、n-型ドリフト領域に局所的に正孔非注入領域を形成することができる。
【0094】
これによって、n-型ドリフト領域の正孔注入領域内でのみ積層欠陥が成長および拡張するため、積層欠陥の拡張を正孔注入領域と正孔非注入領域との境界で止めることができ、活性領域のn-型ドリフト領域の全体にわたって積層欠陥が拡張しない。したがって、従来構造(図16,17参照)と比べて、活性領域のn-型ドリフト領域において電子の流れに対して抵抗成分となる積層欠陥を少なくすることができ、導通損失を抑制することができるため、バイポーラ劣化を抑制することができる。また、活性領域の無効領域の配置をパターン化することで、オン電圧Vonの増加や順方向電圧Vfの増加などのいわゆるバイポーラ劣化(ボディダイオードによる順方向通電劣化)を抑制することができる。
【0095】
また、一般的に、スクリーニング検査では、積層欠陥を<1-100>方向に完全に拡張させて半導体チップ(半導体基板)のバイポーラ劣化不良の有無を判定する。従来構造では、活性領域のn-型ドリフト領域の全域に正孔が注入されて、活性領域のn-型ドリフト領域の全体に積層欠陥が成長および拡張するため、活性領域の<11-20>方向に平行な一組の対辺間にわたってn-型ドリフト領域の全体に積層欠陥を完全に拡張させる必要があり、スクリーニング時間が長くなる。一方、実施の形態1によれば、n-型ドリフト領域の<1-100>方向に互いに隣り合う無効領域間にわたって当該無効領域間に挟まれた正孔注入領域の全体に積層欠陥を拡張させればよいため、従来構造と比べてスクリーニング時間を短縮することができ、検査コストを低減させることができる。
【0096】
(実施の形態2)
実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図5は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置50を半導体基板30のおもて面側から見たレイアウトは図1の符号41bを符号51に変えたものである。図5には、図1の切断線A1-A1’における断面構造を示す。実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置50が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(図2参照)と異なる点は、活性領域40の第1部分41の無効領域51のn+型ソース領域5をソース電極12と電気的に接続した点である。
【0097】
実施の形態2においては、活性領域40の第1部分41の無効領域51において、p++型コンタクト領域6は層間絶縁膜11によって完全に覆われ、n+型ソース領域5は層間絶縁膜11のコンタクトホール(第2コンタクトホール)11cに露出されている。ソース電極12は、活性領域40の第1部分41の無効領域51において、コンタクトホール11cを介してn+型ソース領域5にオーミック接触し、層間絶縁膜11によってp++型コンタクト領域6と電気的に絶縁されている。活性領域40の第1部分41の無効領域51の各メサ部においてn+型ソース領域5とソース電極12との接触面積が大きいほど好ましいが、n+型ソース領域5の少なくとも一部がソース電極12にオーミック接触すればよい。
【0098】
活性領域40の第1部分41の無効領域51において、実施の形態1と同様に、p++型コンタクト領域6がソース電極12と電気的に絶縁され、かつp+型領域21,22は電気的に浮遊していることで、n-型ドリフト領域2にボディダイオード20の順方向電流Ifが流れ込まない。このため、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、活性領域40の第1部分41の無効領域51におけるn-型ドリフト領域2は正孔非注入領域2bとなる。一方、活性領域40の第1部分41の無効領域51においてn+型ソース領域5がソース電極12と電気的に接続されることで、活性領域40の第1部分41の全域がSiC-MOSFETとして機能する。
【0099】
活性領域40の第1部分41の全域がSiC-MOSFETとして機能するため、SiC-MOSFETがオン状態のとき、すべてのゲートトレンチ7の側壁に沿った部分にチャネルが形成される。それによって、活性領域40の第1部分41においてn+型ドレイン領域1からn-型ドリフト領域2(正孔注入領域2aおよび正孔非注入領域2b)、n型電流拡散領域3およびチャネルを通ってn+型ソース領域5へ向かうドリフト電流Idsが流れ、炭化珪素半導体装置50(SiC-MOSFET)がオンする。SiC-MOSFETのオフ動作や、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時の動作は実施の形態1と同様である。
【0100】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2によれば、活性領域の第1部分の無効領域においてn+型ソース領域がソース電極と電気的に接続されることで、活性領域の第1部分の全体をSiC-MOSFETとして機能させることができる。
【0101】
(実施の形態3)
実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図6は、実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す図であり、(a)は図1の切断線A1-A1’における断面構造を示す断面図であり、(b)は(a)の切断線C1-C1‘における断面構造を示す平面図である。実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置60を半導体基板30のおもて面側から見たレイアウトは図1の符号41b,L1をそれぞれ符号61,L11に変えたものである。実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置60が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(図2参照)と異なる点は、活性領域40の第1部分41の無効領域61のp+型領域21,22が所定抵抗値の抵抗成分(寄生抵抗Rb)を有してソース電極12に電気的に接続されている点である。
【0102】
実施の形態3においては、活性領域40の第1部分41のすべての隣接する単位セル(すなわち互いに隣り合うp+型領域21,22)同士が、寄生抵抗Rbを介して電気的に接続される。つまり、図6の(b)の平面図に示すように、p+型領域21とp+型領域22とは部分的に接続されており(ハッチング部分)、n型電流拡散領域3が第1方向Xに所定のピッチLpで分散して配置される。この場合、第1方向Xに互いに隣り合うn型
電流拡散領域3間のp+型領域(第2方向Yに互いに隣り合うp+型領域21,22同士のp+型連結部)の第1方向Xの幅Wpを適宜設定することで所定抵抗値の寄生抵抗Rb
が形成される。
【0103】
寄生抵抗Rbの抵抗値は、第1方向Xに互いに隣り合うn型電流拡散領域3間のp+
領域の第1方向Xの幅Wpを適宜変えて設定しているが、この第1方向Xの幅Wpの部分
(p+型連結部)でp+型領域21,22の不純物濃度を部分的に低くして寄生抵抗Rbの抵抗値を変えてもよいし、n型電流拡散領域3の配置のピッチLpを長くして寄生抵抗Rbの抵抗値を変えてもよい。この寄生抵抗Rbにより、横方向に単位セル間に電流が流れた時に電圧降下を大きくすることができ、隣接する単位セルで積極的にpn接合34が順バイアスされないようにすることができる。
【0104】
具体的には、ドレイン・ソース間が逆バイアスされると、ソース電極12に電気的に接続されたp++型コンタクト領域6の直下の部分でpn接合34が最も高電位となる。このため、活性領域40の第1部分41の有効領域41aに形成される寄生抵抗Rbは、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp+型領域(第1の第2導電型高濃度領域)22およびp+型領域(第2の第2導電型高濃度領域)21の拡散抵抗で形成される。活性領域40の第1部分41の無効領域61に形成される寄生抵抗Rbは、活性領域40の第1部分41の無効領域61のp+型領域22,21の拡散抵抗で形成される。
【0105】
活性領域40の第1部分41の有効領域41aと無効領域61との間(互いに隣り合う有効領域41aの単位セル(第1セル)と無効領域61の単位セル(第2セル)との間)に形成される寄生抵抗Rbは、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34(34b)に印加される順方向電圧VfがSiCの内蔵電位Vbiを超えない程度に高抵抗に設定される。具体的には、ドレイン電極13に対して正の電圧Vsdがソース電極12に印加されると(ドレイン・ソース間の逆バイアス時)、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのpn接合34(34a)には、ソース電極12に電気的に接続されたp++型コンタクト領域6の直下の部分に、ソース電極12への印加電圧Vsdとほぼ同じ順方向電圧Vfが印加される。
【0106】
一方、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bには、活性領域40の第1部分41の有効領域41aの最も無効領域61側の単位セル(第1セル)と、活性領域40の第1部分41の有効領域41aと無効領域61との間に形成された寄生抵抗Rbと、を介して順方向電圧Vfが印加される。このため、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bに印加される順方向電圧Vfは、ソース電極12への印加電圧Vsdよりも当該寄生電流Ibによる寄生抵抗Rbでの電圧降下分だけ低くなる(=[ソース電極12への印加電圧Vsd]-[電流Ibの電流値×寄生抵抗Rbの抵抗値])。
【0107】
活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bに印加される順方向電圧VfがSiCの内蔵電位Vbiを超えると、無効領域61のn-型ドリフト領域2に正孔が注入される。このため、少なくとも活性領域40の第1部分41の有効領域41aと無効領域61との間に形成される寄生抵抗Rbは、無効領域61のpn接合34bに印加される順方向電圧VfがSiCの内蔵電位Vbiを超えない程度に高抵抗に設定される。これによって、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bで形成されるボディダイオード20が導通しないため、活性領域40の第1部分41の無効領域61におけるn-型ドリフト領域2は正孔非注入領域2bとなる。
【0108】
また、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bに印加される順方向電圧Vfは、無効領域61の互いに隣り合うp+型領域22,21間に形成される寄生抵抗Rbでの電圧降下によって、活性領域40の第1部分41の有効領域41aから離れるほど低くなる。互いに隣り合うp+型領域22,21間に形成される寄生抵抗Rbの抵抗値は、例えば第1方向Xに互いに隣り合うn型電流拡散領域3間に設けられて第1方向
Xに周期的に存在するp+型領域(p+型連結部)のピッチ(=ピッチLp)や第1方向
Xの幅Wp、その不純物濃度によって適宜設定可能である。活性領域40の第1,2部分
41,42(図3参照)間に形成される寄生抵抗は、互いに隣り合うp+型領域21,22間に形成される寄生抵抗と同様に設定される。
【0109】
活性領域40の第1部分41の無効領域61は、層間絶縁膜11で全域を覆われた隣接するメサ部(または1つのメサ部)のうち、当該メサ部を形成する互いに隣り合う2つ以上のゲートトレンチ7の最も有効領域41a側の両ゲートトレンチ7の直下のp+型領域21の有効領域41a側の端部間の部分である。すなわち、実施の形態3において、活性領域40の第1部分41の無効領域61は、活性領域40の第1部分41の無効領域61のメサ部を形成するゲートトレンチ7のうち、最も有効領域41a側のゲートトレンチ7を含む。活性領域40の第1部分41の無効領域61は、n+型ソース領域5が層間絶縁膜11によってソース電極12と電気的に絶縁されてSiC-MOSFETとして機能しない。
【0110】
活性領域40の第1部分41の無効領域61の幅L11,L2は、実施の形態1と同様に、n-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bの上面の幅であり、<1-100>方向および<11-20>方向ともにn-型ドリフト領域2の厚さdの2倍以上程度である(L11≧2d、L2≧2d)。無効領域61の<1-100>方向の幅L11は、無効領域61のメサ部を形成するゲートトレンチ7のうち、最も有効領域41a側の両ゲートトレンチ7の直下のp+型領域21の有効領域41a側の端部間の間隔に相当する。無効領域61の<11-20>方向の幅L2は、実施の形態1と同様に、活性領域40の<11-20>方向の幅に相当する。
【0111】
炭化珪素半導体装置60(SiC-MOSFET)のオン・オフ動作は実施の形態1と同様である。SiC-MOSFETのドレイン・ソース間が逆バイアスされるSiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中やSiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時、活性領域40の第1部分41の有効領域41aにおける動作は実施の形態1と同様である。活性領域40の第1部分41の無効領域61においては、ドレイン・ソース間の逆バイアス時、実施の形態1と同様に、p++型コンタクト領域6がソース電極12と電気的に絶縁されているため、当該p++型コンタクト領域6からp型ベース領域4およびp+型領域21,22に正孔は注入されない。
【0112】
活性領域40の第1部分41のすべてのp+型領域21,22が電気的に接続されているが、ドレイン・ソース間の逆バイアス時、互いに隣り合うp+型領域22,21間に形成される寄生抵抗Rbでの電圧降下によって、活性領域40の第1部分41の無効領域61のpn接合34bに印加される順方向電圧VfがSiCの内蔵電位Vbi未満となり、当該pn接合34bで形成されるボディダイオード20は導通しない。したがって、実施の形態1と同様に、活性領域40の第1部分41の無効領域61におけるn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)にボディダイオード20の順方向電流Ifは流れない。
【0113】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、ゲート絶縁膜の電界緩和用のp+型領域の活性領域の無効領域の部分と有効領域の部分とが寄生抵抗Rbで形成される所定抵抗値の抵抗成分を介して接続されることで、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0114】
(実施の形態4)
実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図7,8は、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置の構造の例を示す断面図である。実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置70を半導体基板30のおもて面側から見たレイアウトは図1の符号41bを符号71に変えたものである。図7,8には、図1の切断線A1-A1’における断面構造を示す。実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置70が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(図2参照)と異なる点は、活性領域40の第1部分41の無効領域71に、ソース電極12とのオーミック接触部となるp++型コンタクト領域(図2の符号6に相当)を設けない点である。
【0115】
実施の形態4においては、図7に示すように、活性領域40の第1部分41の無効領域71の互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)において、半導体基板30のおもて面とp型ベース領域4との間の全域にn+型ソース領域5が配置されてもよい。この場合、ソース電極12は、活性領域40の第1部分41の無効領域71において、層間絶縁膜11のコンタクトホール(第2コンタクトホール)11dを介してn+型ソース領域5にオーミック接触する。このため、実施の形態2と同様に、活性領域40の第1部分41の全域がSiC-MOSFETとして機能する。活性領域40の第1部分41の無効領域71のp型ベース領域4およびp+型領域21,22は、実施の形態1と同様に電気的に浮遊している。
【0116】
図8に示すように、活性領域40の第1部分41の無効領域71においてメサ部の第2方向Yの略中心に、半導体基板30のおもて面までp型ベース領域4を延在させてもよい。この場合、ソース電極12は、活性領域40の第1部分41の無効領域71において、層間絶縁膜11のコンタクトホール11dを介して、p型ベース領域4にショットキー接触するとともに、n+型ソース領域5にオーミック接触する。p型ベース領域4がソース電極12の電位に固定されるため、活性領域40の第1部分41の無効領域71がSiC-MOSFETとして安定動作する。p型ベース領域4の不純物濃度は、例えば1×1018/cm3以下程度であり、例えば3.5×1015/cm3程度である。
【0117】
このように、活性領域40の第1部分41の無効領域71のp型ベース領域4およびp+型領域21,22は、電気的に浮遊しているか(図7)、またはソース電極12とp型ベース領域4とのショットキー接触で形成される空乏層容量Cに応じた抵抗成分rcを介してソース電極12に電気的に接続される(図8)。このため、ドレイン・ソース間の逆バイアス時、活性領域40の第1部分41の無効領域71のp型ベース領域4に正孔は注入されない。
【0118】
また、活性領域40の第1部分41の無効領域71のp+型領域21,22は、実施の形態1と同様に、活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp+型領域21,22に連結されていない(図7,8)。このため、ドレイン・ソース間の逆バイアス時、活性領域40の第1部分41の無効領域71のp+型領域21,22に活性領域40の第1部分41の有効領域41aのp+型領域21,22からボディダイオード20の順方向電流Ifは流れ込まない。したがって、活性領域40の第1部分41の無効領域71におけるn-型ドリフト領域2は正孔非注入領域2bとなる。
【0119】
上述したように活性領域40の第1部分41の全域がSiC-MOSFETとして機能するため、SiC-MOSFETがオン状態のとき、すべてのゲートトレンチ7の側壁に沿った部分にチャネルが形成される。それによって、活性領域40の第1部分41においてn+型ドレイン領域1からn-型ドリフト領域2(正孔注入領域2aおよび正孔非注入領域2b)、n型電流拡散領域3およびチャネルを通ってn+型ソース領域5へ向かうドリフト電流Idsが流れ、炭化珪素半導体装置70(SiC-MOSFET)がオンする。SiC-MOSFETのオフ動作や、SiC-MOSFETの同期整流時のデッドタイム中、SiC-MOSFETによる負荷側へのエネルギー回生時の動作は実施の形態1と同様である。
【0120】
実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置70に実施の形態3(図6参照)を適用して、活性領域40の第1部分41の隣接する単位セル(互いに隣り合うp+型領域21,22)同士を寄生抵抗Rbで形成される所定抵抗値の抵抗成分を介して電気的に接続してもよい。上述したように、実施の形態4においても、ドレイン・ソース間の逆バイアス時に活性領域40の第1部分41の無効領域71のp型ベース領域4およびp+型領域21,22に正孔が注入されない。このため、実施の形態3と同様に寄生抵抗Rbでの電圧降下によって活性領域40の第1部分41の無効領域71のpn接合34で形成されるボディダイオード20が導通しない。
【0121】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、活性領域の第1部分の無効領域において、ソース電極とのオーミック接触部となるp++型コンタクト領域を設けず、かつソース電極と半導体基板のおもて面とを電気的に接続した場合においても、実施の形態1~3と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態4によれば、活性領域の第1部分の無効領域においてn+型ソース領域がソース電極と電気的に接続されることで、活性領域の第1部分の全体をSiC-MOSFETとして機能させることができる。
【0122】
(実施の形態5)
実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図9は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。図9には、活性領域40の第1部分41の全域に設けられた複数のゲートトレンチ7のうちの4つのゲートトレンチ7を実線で示す。図10,11は、図9の切断線A2-A2’における断面構造の例を示す断面図である。図9の切断線A2-A2’は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間(メサ部)の第2方向Yの略中心を通り、かつ<1-100>方向に平行な切断線である。図9の切断線B2-B2’における断面構造は図3の奥行方向(ゲートトレンチ7の長手方向)を<1-100>とし、横方向(ゲートトレンチ7の短手方向)を<11-20>としたものと同様である。
【0123】
実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置80が実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(図1参照)と異なる点は、ゲートトレンチ7の長手方向(第1方向X)を<1-100>方向とし、短手方向(第2方向Y)を<11-20>方向とした点である。すなわち、実施の形態5においては、活性領域40の第1部分41の有効領域81a(n-型ドリフト領域2が正孔注入領域2aとなる部分)および活性領域40の第1部分41の無効領域81b(n-型ドリフト領域2が正孔非注入領域2bとなる部分)がストライプ状に延在する方向(すなわち<11-20>方向)と、ゲートトレンチ7がストライプ状に延在する第1方向X(すなわち<1-100>方向)と、が直交している。
【0124】
活性領域40の第1部分41の無効領域81bは、層間絶縁膜82で覆われ同一メサ部において第1方向Xに互いに隣り合うp++型コンタクト領域6(または1つのp++型コンタクト領域6)と、当該層間絶縁膜82で覆われた部分の直下のn-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、を含む。活性領域40の第1部分41の無効領域81bは、n+型ソース領域5が層間絶縁膜82によってソース電極12と電気的に絶縁されてSiC-MOSFETとして機能しない。層間絶縁膜82は、<1-100>方向にストライプ状に延在するゲート電極9(図2参照)と、<11-20>方向にストライプ状に延在する正孔非注入領域2bに対応する部分と、を覆う格子状の平面形状に配置される。
【0125】
層間絶縁膜82のコンタクトホール82aは、各メサ部において第1方向Xに点在して、n-型ドリフト領域2の正孔注入領域2aに対応する部分を露出する。活性領域40の第1部分41の無効領域81bの幅L21,L22は、実施の形態1と同様に、n-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bの上面の幅であり、<1-100>方向および<11-20>方向ともにn-型ドリフト領域2の厚さdの2倍以上程度である(L21≧2d、L2≧2d)。無効領域81bの<1-100>方向の幅L21は、コンタクトホール82aが第1方向Xに点在する間隔(メサ部上における層間絶縁膜82の第1方向Xの長さ)に相当する。無効領域81bの<11-20>方向の幅L22は、実施の形態1と同様に、活性領域40の<11-20>方向の幅に相当する。
【0126】
図10に示すように、p型ベース領域4およびp+型領域21,22は、n+型ソース領域5まで達するようにn+型ソース領域5側に延在するn-型ドリフト領域2によって、活性領域40の第1部分41の無効領域81bの部分が同一箇所で有効領域81aの部分から分離されている。これによって、p型ベース領域4およびp+型領域21,22は、活性領域40の第1部分41の有効領域81aの部分でソース電極12の電位に固定され、活性領域40の第1部分41の無効領域81bの部分で電気的に浮遊している。すなわち、p型ベース領域4およびp+型領域21,22は、第1方向Xにn-型ドリフト領域2の延在部2cを挟んで点在している。
【0127】
-型ドリフト領域2の延在部2cは、活性領域40の第1部分41の無効領域81b内に位置し、正孔非注入領域2bとなる。n-型ドリフト領域2の延在部2cは、p+型領域21,22による電界緩和効果が損なわれない程度の幅(第1方向Xの幅)L23を有する。このように活性領域40の第1部分41の無効領域81bにおけるp型ベース領域4、p+型領域21,22が電気的に浮遊していることで、実施の形態1と同様に、活性領域40の第1部分41の無効領域81bにおけるp型ベース領域4、p+型領域21,22およびn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)にボディダイオード20の順方向電流Ifが流れ込まない。
【0128】
-型ドリフト領域2の延在部2cによってp型ベース領域4およびp+型領域21,22を局所的に分離する場合、例えばp型ベース領域4はイオン注入によって形成される。すなわち、半導体基板30は、n+型出発基板31のおもて面上にn-型ドリフト領域2となるn-型エピタキシャル層37をエピタキシャル成長させてなる。半導体基板30は、n-型エピタキシャル層37側の第1主面をおもて面とし、n+型出発基板31側の第2主面を裏面とする。n-型エピタキシャル層37のうち、n型電流拡散領域3、p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6、p+型領域21,22、を除く部分が活性領域40の第1部分41のn-型ドリフト領域2である。
【0129】
図11に示すように、p型ベース領域4およびp+型領域21,22は、実施の形態3(図6参照)と同様に寄生抵抗Rbで形成される所定抵抗値の抵抗成分を介して、活性領域40の第1部分41の無効領域81bの部分が有効領域81aの部分と接続されてもよい。実施の形態3と同様に寄生抵抗Rbでの電圧降下によって活性領域40の第1部分41の無効領域81bのpn接合34(34b)で形成されるボディダイオード20が導通しない。このため、活性領域40の第1部分41の無効領域81bにおけるp型ベース領域4、p+型領域21,22およびn-型ドリフト領域2(正孔非注入領域2b)にボディダイオード20の順方向電流Ifは流れない。
【0130】
実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置80に実施の形態2(図5参照)を適用して、活性領域40の第1部分41の無効領域81bのn+型ソース領域5をソース電極12と電気的に接続してもよい。
【0131】
実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置80に実施の形態4(図7,8参照)を適用して、活性領域40の第1部分41の無効領域81bにp++型コンタクト領域6を設けない構成としてもよい。
【0132】
以上、説明したように、実施の形態5によれば、ゲートトレンチが<1-100>方向にストライプ状に延在する場合においても、実施の形態1~4と同様の効果を得ることができる。
【0133】
(実施の形態6)
実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図12は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。実施の形態6にかかる炭化珪素半導体装置90は、活性領域40の第1部分91の無効領域91bのレイアウトが実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(図1参照)と異なる。ここでは、活性領域40の第1部分91における有効領域91aの面積(表面積)に対する無効領域91bの好適な面積比率(=無効領域91bの面積/有効領域91aの面積)について説明する。
【0134】
実施の形態6において、活性領域40の第1部分91は、例えば一部をチップ中央側に凹ませた略矩形状の平面形状を有し、活性領域40のほぼ全域を占める。活性領域40の第2部分92は、例えば、略矩形状の平面形状を有し、活性領域40の第1部分91の一部凹んだ凹部内に配置される。活性領域40の第1部分91には、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れない無効領域91b(正孔非注入領域2b:ハッチング部分)が活性領域40にマトリクス状に配置され、ボディダイオード20の順方向電流Ifが流れる有効領域91a(正孔注入領域2a)が無効領域91bの周囲を囲む格子状に配置されている。
【0135】
活性領域40の第1部分91の全域にわたってゲートトレンチ7がストライプ状に延在する第1方向Xは、実施の形態1~4(図1,2,5~8参照)と同様に<11-20>方向であってもよいし、実施の形態5と同様に<1-100>方向であってもよい(図9~11参照)。活性領域40の第1部分91の無効領域91bの幅L31,L32は、実施の形態1と同様に、n-型ドリフト領域2の正孔非注入領域2bの上面の幅であり、<1-100>方向および<11-20>方向ともにn-型ドリフト領域2の厚さdの2倍以上程度である(L31≧2d、L32≧2d)。
【0136】
-型ドリフト領域2中の積層欠陥の成長および拡張の方向は、<1-100>方向である。このため、活性領域40の第1部分91の無効領域91bの<11-20>方向の幅L32は、活性領域40の第1部分91の無効領域91bの<1-100>方向の幅L31よりも広いことがよい(L32≧L31)。活性領域40の第1部分91の無効領域91bの長手方向(すなわち<11-20>方向)の端部が<1-100>方向に有効領域91aを挟んで他の無効領域91bと対向する幅(<11-20>方向の幅)L33は、n-型ドリフト領域2の厚さdの2倍以上程度である(L33≧2d)。
【0137】
半導体基板30のおもて面は、<11-20>方向にオフ角φを有する(0001)面である。活性領域40の面積(表面積)をS[cm2]とし、n-型ドリフト領域2の厚さd[μm]とし、活性領域40の第1部分91の無効領域91b(正孔非注入領域2b)を<1-100>方向および<11-20>方向ともにW[cm]のピッチで配置した場合に下記(1)式を満たすことがよい。活性領域40の第1部分91の無効領域91bの<1-100>方向および<11-20>方向の個数n,mともに2個以上である(n≧2、m≧2、ただし、n,mは正数)。
【0138】
W≦0.01×(S/d)tanφ ・・・(1)
【0139】
上記(1)式を満たすことで、例えば25℃程度の常温下において、ボディダイオード20のオン電圧Vonの増加が半導体基板30中に成長および拡張した積層欠陥の1個数当たり1%以下となることが発明者により確認されている。例えば、半導体基板30のおもて面のオフ角φが4°であり、活性領域40の面積Sが0.25[cm2]であり、n-型ドリフト領域2の厚さdを10[μm]とした場合、W≦1748[μm]となる。活性領域40の第1部分91の無効領域91bの断面構造として、実施の形態1~5(図2,5~8,10,11)を適用可能である。
【0140】
以上、説明したように、実施の形態6によれば、活性領域の第1部分の無効領域を半導体基板のおもて面側から見てマトリクス状に配置した場合においても、実施の形態1~5と同様の効果を得ることができる。
【0141】
以上において本発明は、上述した各実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した各実施の形態では、n-型ドリフト領域の正孔注入領域の側面が半導体基板のおもて面に対して45度程度の角度をなす場合を例に説明しているが、正孔注入領域の側面が半導体基板のおもて面に対する角度は、p++型コンタクト領域の不純物濃度が低くなるほど広くなる(すなわち正孔の横方向の拡散が小さくなる)と想定されるため、p++型コンタクト領域の不純物濃度に応じて適宜設定される。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としている。
【産業上の利用可能性】
【0142】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0143】
1 n+型ドレイン領域
2 n-型ドリフト領域
2a n-型ドリフト領域の正孔注入領域
2b n-型ドリフト領域の正孔非注入領域
2c n-型ドリフト領域の延在部
3 n型電流拡散領域
4,24 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6,25 p++型コンタクト領域
7 ゲートトレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10,50,60、70,80,90 炭化珪素半導体装置
11,82 層間絶縁膜
11a,11b,11c,11d,82a 層間絶縁膜のコンタクトホール
12 ソース電極
13 ドレイン電極
14 フィールド酸化膜
15 ゲートパッド
20,36 ボディダイオード
21 ゲートトレンチ直下のp+型領域
22 ゲートトレンチ間のp+型領域
23 活性領域の第2部分のp+型領域
30 半導体基板
31 n+型出発基板
32,37 n-型エピタキシャル層
33 p型エピタキシャル層
34,34a,34b,35 pn接合
40 活性領域
41,91 活性領域の第1部分
41a,81a,91a 活性領域の第1部分の有効領域
41b,51,61,71,81b,91b 活性領域の第1部分の無効領域
42,92 活性領域の第2部分
43 エッジ終端領域
C ソース電極とp型ベース領域とのショットキー接触で形成される空乏層容量
Rb 単位セル間の寄生抵抗
L1,L2,L11,L21,L22,L31,L32 活性領域の第1部分の無効領域の幅
L23 n-型ドリフト領域の延在部の幅
L33 活性領域の第1部分の無効領域同士が<1-100>方向に対向する幅
X 半導体基板のおもて面に平行な第1方向
Y 半導体基板のおもて面に平行でかつ第1方向と直交する第2方向
Z 深さ方向
d n-型ドリフト領域の厚さ
r ソース電極とp型ベース領域とのショットキー接触で形成される空乏層容量に応じた抵抗成分
θ 半導体基板のおもて面に対してn-型ドリフト領域の正孔注入領域の側面がなす角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17