IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

特開2024-60499フレッシュコンクリートの性状評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060499
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】フレッシュコンクリートの性状評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240424BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167907
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
(72)【発明者】
【氏名】梁 俊
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 剛
(57)【要約】
【課題】分離抵抗性を簡易的かつ定量的に評価できるフレッシュコンクリートの性状評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、前記スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色する第一工程と、前記スランプコーンを引き上げた後に、前記コンクリート試料に対してスランプフローが基準径に達するまで振動を与える第二工程と、スランプフローが前記基準径に達した前記コンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する第三工程と、前記要素の測定値が分離抵抗性の適正範囲に属するか否かに基づいて、前記コンクリート試料の分離抵抗性を評価する第四工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、前記スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色する第一工程と、
前記スランプコーンを引き上げた後に、前記コンクリート試料に対してスランプフローが基準径に達するまで振動を与える第二工程と、
スランプフローが前記基準径に達した前記コンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する第三工程と、
前記要素の測定値が分離抵抗性の適正範囲に属するか否かに基づいて、前記コンクリート試料の分離抵抗性を評価する第四工程と、
を含むことを特徴とするフレッシュコンクリートの性状評価方法。
【請求項2】
前記要素は、前記着色面の直径であることを特徴とする請求項1に記載のフレッシュコンクリートの性状評価方法。
【請求項3】
前記要素は、前記着色面の最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレッシュコンクリートの性状評価方法。
【請求項4】
前記分離抵抗性の適正範囲は、スランプ値ごとに規定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレッシュコンクリートの性状評価方法。
【請求項5】
複数のコンクリート試料について、スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、前記スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色し、スランプコーンを引き上げた後に、分離の有無を確認しながらコンクリート試料に対して振動を与えて、分離が発生していない最大のスランプフロー(Flast)を測定しつつ、スランプフローが基準径に達したコンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する事前準備第一工程と、
前記Flastと締固め完了時のスランプフロー(F)とに基づいて分離抵抗パラメータであるSa(=Flast/F×100)を算出するとともに、分離抵抗性が適正と判定された標準試料が示すSaの所定範囲を決定する事前準備第二工程と、
前記Saと前記要素の測定値とを用いて、線形回帰により、スランプ値ごとに、前記Saと前記要素との関係式を求める事前準備第三工程と、
前記事前準備第二工程において決定した前記標準試料が示すSaの所定範囲と前記事前準備第三工程で求めた前記関係式とを用いて、スランプ値ごとに、コンクリート試料の分離抵抗性が適正となる前記要素の範囲を特定する事前準備第四工程と、
を前記第一工程の前に含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレッシュコンクリートの性状評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートの性状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレッシュコンクリートのワーカビリティーは、コンクリートのコンシステンシーと分離抵抗性により定められる。
従来、コンクリートのワーカビリティーはスランプ試験により評価されている。
スランプ試験はコンクリートのコンシステンシーを評価する試験であるが、混和剤の種類が少なく、川砂、川砂利を使用した時代では、コンクリートのワーカビリティーをある程度評価することができた。
【0003】
ところが、近年では、フライアッシュやスラグ細骨材など、コンクリート用の材料が多様化しており、同一のスランプ値が得られたコンクリートであっても、骨材間の噛み合わせや、材料の分離抵抗性などに違いが現れる場合が多く存在するため、スランプ試験だけではワーカビリティーを正確に把握できないおそれがある。
【0004】
コンクリートのワーカビリティーを正確に把握するためには、スランプ試験のほかに、コンクリートの分離抵抗性も評価する必要がある。コンクリートの粘性はコンクリートの分離抵抗性に大きく影響するので、コンクリートの粘性を評価することでコンクリートの分離抵抗性をある程度は評価することができる。
例えば、非特許文献1には、J-リング内でスランプ試験を実施し、その後、加振してリング内外の粗骨材を洗い出しし、粗骨材の質量変化に基づいて分離抵抗性を評価する方法が開示されている。
また、非特許文献2には、コンクリート試料を所定の高さから、ふるい上に試料を落下させ、ふるいを通過したモルタル量を測定した後、所定の方法で突き棒により衝撃を与え、同様にふるいを通過したモルタル量を測定し、それぞれの測定結果からモルタル採取率を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NEXCO試験方法第7編 トンネル関係試験方法 平成29年7月 「試験法733 中流動覆工コンクリートの加振変形および充填性試験」
【非特許文献2】EN12350-11:2010 TESTING FRESH CONCRETE-PART 11:SELF-COMPACTING CONCRETE-SIEVE SEGREGATION TEST
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法は、充填時の分離抵抗性しか評価できず、一方、非特許文献2に記載の方法は、土木分野でよく使用されるコンクリートへの適用が難しい。
そして、非特許文献1、2に記載のいずれの方法も、専用の装置が必要となるとともに、評価を行うまでの作業工程数が多くなってしまう。
【0007】
このように、従来公知の方法では、フレッシュコンクリートの分離抵抗性を評価するにあたり、作業が煩雑になってしまうという問題が存在していた。
また、本発明者らは、現場における作業者がフレッシュコンクリートの分離抵抗性の判断を適切に実施できるように、分離抵抗性の定量的な評価方法を創出したいと考えた。
【0008】
そこで、本発明は、分離抵抗性を簡易的かつ定量的に評価できるフレッシュコンクリートの性状評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、前記スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色する第一工程と、前記スランプコーンを引き上げた後に、前記コンクリート試料に対してスランプフローが基準径に達するまで振動を与える第二工程と、スランプフローが前記基準径に達した前記コンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する第三工程と、前記要素の測定値が分離抵抗性の適正範囲に属するか否かに基づいて、前記コンクリート試料の分離抵抗性を評価する第四工程と、を含むことを特徴とする。
本発明によれば、スランプフローが基準値に達したコンクリート試料の着色面の平面形状に相関する要素を測定し、その測定値が適正範囲に属するか否かを判断するだけで、分離抵抗性を評価することができる。よって、本発明によれば、数値を用いて定量的に分離抵抗性を評価することができるため、経験の浅い作業者でも適切な評価が可能となる。
また、本発明によれば、スランプ試験とともに実施が可能であるため評価に必要となる作業工程数も大幅には増加せず、かつ、専用の装置なども必要ないことから、作業者が現場(フィールド)において簡易的に分離抵抗性を評価することができる。
【0010】
本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、前記要素が、前記着色面の直径であるのが好ましい。また、本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、前記要素が、前記着色面の最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値であるのが好ましい。
着色面の平面形状に相関する要素として着色面の直径を使用することによって、分離抵抗性の評価において、十分な正確性の確保と優れた作業効率との両立を図ることができる。
また、本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、前記分離抵抗性の適正範囲が、スランプ値ごとに規定されるのが好ましい。
本発明によれば、スランプ値ごとに規定された分離抵抗性の適正範囲を評価基準とすることで、非常に適切な評価を実施することができる。
【0011】
本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、複数のコンクリート試料について、スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、前記スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色し、スランプコーンを引き上げた後に、分離の有無を確認しながらコンクリート試料に対して振動を与えて、分離が発生していない最大のスランプフロー(Flast)を測定しつつ、スランプフローが基準径に達したコンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する事前準備第一工程と、前記Flastと締固め完了時のスランプフロー(F)とに基づいて分離抵抗パラメータであるSa(=Flast/F×100)を算出するとともに、分離抵抗性が適正と判定された標準試料が示すSaの所定範囲を決定する事前準備第二工程と、前記Saと前記要素の測定値とを用いて、線形回帰により、スランプ値ごとに、前記Saと前記要素との関係式を求める事前準備第三工程と、前記事前準備第二工程において決定した前記標準試料が示すSaの所定範囲と前記事前準備第三工程で求めた前記関係式とを用いて、スランプ値ごとに、コンクリート試料の分離抵抗性が適正となる前記要素の範囲を特定する事前準備第四工程と、を前記第一工程の前に含むのが好ましい。
本発明によれば、事前準備第一工程~事前準備第四工程を含むことによって、コンクリート試料の分離抵抗性の適正範囲を適切に特定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法によれば、分離抵抗性を簡易的かつ定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法の各工程におけるコンクリート試料の斜視図であって、第一工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図1B】本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法の各工程におけるコンクリート試料の斜視図であって、第二工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図1C】本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法の各工程におけるコンクリート試料の斜視図であって、第二工程~第三工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図2A】実施例での目標スランプ値が8cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図2B】実施例での目標スランプ値が12cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図2C】実施例での目標スランプ値が15cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図3】実施例での着色面の直径の上限値とスランプ値との関係、および、実施例での着色面の直径の下限値とスランプ値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法について説明する。
[フレッシュコンクリートの性状評価方法]
本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、スランプ試験を行うフレッシュコンクリート(コンクリート試料)に対して実施する性状評価方法であって、第一工程と、第二工程と、第三工程と、第四工程とを含む。
また、本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、第四工程で使用する「分離抵抗性の適正範囲」を事前に特定しておくために、事前準備第一工程と、事前準備第二工程と、事前準備第三工程と、事前準備第四工程とを、第一工程の前に含んでもよい。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0015】
(第一工程)
第一工程では、スランプ試験におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色する。
図1Aは、第一工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図1Aを用いて第一工程を説明すると、スランプ試験においてスランプコーン2を引き上げる前、スランプコーン2に詰められたコンクリート試料1は、スランプコーン2の上端部から円形の上面5が露出する。第一工程では、このコンクリート試料1の円形の上面5の全体を着色する。
着色方法については、作業者が確認可能な色を付けることができれば特に限定されないが、例えば、フェノールフタレイン溶液をコンクリート試料1の上面5に噴霧するという方法で実施すればよい。コンクリート試料1に噴霧されたフェノールフタレイン溶液は、コンクリートのアルカリ性に反応して赤紫色に変色する。
なお、スランプ試験で使用するスランプコーン2の寸法は、上端内径10cm、下端内径20cm、高さ30cmである。
【0016】
(第一工程と第二工程との間)
本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法は、スランプ試験を並行して実施することとなる。
具体的には、第一工程と第二工程との間(スランプコーンの引き上げ後であってコンクリート試料に振動を与える前)に、コンクリート試料1のスランプ値を測定する。
スランプ試験におけるスランプ値の測定方法については、JISA1101:2020に記載の方法で実施すればよい。
なお、後記する第四工程で「分離抵抗性の適正範囲」を特定するためのスランプ値は、スランプ試験の測定値を用いてもよいが、コンクリート試料の成分組成から予測できる目標値(目標スランプ値)を用いてもよい。
【0017】
(第二工程)
第二工程では、スランプコーンを引き上げた後に、コンクリート試料に対してスランプフローが基準径に達するまで振動を与える。
図1Bは、第二工程でのコンクリート試料の斜視図であり、図1Cは、第二工程~第三工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図1B、1Cを用いて第二工程を説明すると、コンクリート試料1が載置されたスランプ板3を、木槌4によって叩くことにより振動を与える。そして、第二工程では、コンクリート試料1のスランプフローが基準径Dとなるまで、コンクリート試料1に振動を与える。
このとき、コンクリート試料1の上下方向の中心線が偏らないように(傾倒しないように)、コンクリート試料1の周囲のスランプ板3をまんべんなく叩くのが好ましい。
なお、基準径Dは、詳細には47cmである。また、スランプフローは、円形に広がったコンクリート試料1の直径であり、詳細にはコンクリート試料1の最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値である。
【0018】
(第三工程)
第三工程では、スランプフローが基準径に達したコンクリート試料について、着色面の平面形状に相関する要素を測定する。
図1Cは、第二工程~第三工程でのコンクリート試料の斜視図である。
図1Cを用いて第三工程を説明すると、スランプフローが基準径Dとなったコンクリート試料1の着色面5(上面5)の平面形状に相関する要素を、測定機器を用いて測定する。
ここで、「着色面の平面形状に相関する要素」とは、着色面5の平面形状を特定できる要素であって、具体的には、着色面5の直径、円周、面積である。
着色面の平面形状に相関する要素について、着色面5の円周、又は、面積とすると、非常に正確な評価を行えるものの、優れた作業効率の観点や十分な正確性の確保の観点に基づくと、着色面5の直径とするのが好ましい。
そして、着色面5の円周、又は、面積は、公知の画像測定器や面積測定器などで測定することができ、着色面5の直径は、ノギスや巻き尺などの公知のスケールで簡易に測定することができる。
また、着色面5の直径は、詳細には、着色面5の最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値である。なお、着色面5の外縁が途切れている場合は、残存する着色部分を包含するとともに出来る限り小さくなるように外縁を描き(又は、外縁を想定し)、当該外縁の最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値を算出すればよい。
【0019】
(第四工程)
第四工程では、着色面の平面形状に相関する要素の測定値が分離抵抗性の適正範囲に属するか否かに基づいて、コンクリート試料の分離抵抗性を評価する。
例えば、第四工程では、第三工程で測定したコンクリート試料の「着色面の平面形状に相関する要素:着色面の直径」がDmmでありスランプ値が8cmであった場合、事前に準備したデータから、スランプ値が8cmにおける「分離抵抗性の適正範囲:着色面の直径の適正範囲(mm)」としてD8min~D8maxを特定する。そして、評価対象であるコンクリート試料のDがD8min~D8maxの範囲に属する場合に、分離抵抗性が適正であると評価し、DがD8min~D8maxの範囲に属しない場合に、コンクリート試料は分離抵抗性が不適正であると評価(厳密には、DがD8min未満の場合を分離抵抗性不足と評価し、DがD8maxを超える場合を粘性過大と評価)する。
そして、第四工程で使用する「分離抵抗性の適正範囲」については、スランプ値を代入することによって「分離抵抗性の適正範囲」が算出できるような数式を準備してもよいし、主要なスランプ値ごとに「分離抵抗性の適正範囲」を設定してもよい。
なお、第四工程で使用する「分離抵抗性の適正範囲」は、後記する事前準備第一工程~事前準備第四工程で設定することとなる。
【0020】
(事前準備第一工程)
事前準備第一工程では、まず、複数のコンクリート試料について、スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体を着色する処理を施し、スランプコーンを引き上げる。その後、分離の有無を確認しながらコンクリート試料に対して振動を与えて、分離が発生していない最大のスランプフロー(Flast)を測定するとともに、スランプフローが基準径(47cm)に達した際に、着色面の平面形状に相関する要素を測定する。
分離の有無は、目視で判断すればよい。本実施形態では、着色面の円形の外縁が半分以上残っている場合を「分離していない」と判断し、着色面の円形の外縁が半分未満となっている場合を「分離した」と判断した。
事前準備第一工程~事前準備第四工程で使用する「複数のコンクリート試料」とは、2つ以上(好ましくは3つ以上)のスランプ値において、それぞれ、2つ以上(好ましくは3つ以上)の配合の異なるコンクリート試料であって、例えば、3つのスランプ値において、それぞれ4つの異なる配合のコンクリート試料(配合は異なるがスランプ値は同じ試料)を使用する場合は、12(=3×4)のコンクリート試料を準備することとなる。そして、同一のスランプ値であって異なる配合のコンクリート試料を作製する際は、細骨材率や単位水量などを調整し、粘性が高い試料、分離しやすい試料、及び、分離抵抗性が適切な試料をそれぞれ作製するように配合を調整する。なお、「同一のスランプ値」とは、所定の幅(±1cm、±1.5cmなど)を有する概念であり、例えば、8cmのスランプ値のコンクリート試料を準備する場合、スランプ値(目標値、又は、測定値)が8±1cmや8±1.5cmの範囲に該当するものを準備すればよい。
コンクリート試料に対する振動の付与方法は、第二工程で示した方法と同じであり、着色面の平面形状に相関する要素の測定方法は、第三工程で示した方法と同じである。
【0021】
(事前準備第一工程と事前準備第二工程との間)
そして、「分離抵抗性の適正範囲」を設定する際にも、複数のコンクリート試料に対し、スランプ試験を並行して実施することとなる。
具体的には、スランプコーンの引き上げ後であって各コンクリート試料に振動を与える前に、各コンクリート試料のスランプ値を測定する。
なお、後記する事前準備第三工程、事前準備第四工程で使用するスランプ値は、スランプ試験での測定値を用いてもよいが、各コンクリート試料の成分組成から予測できる目標値(目標スランプ値)を用いてもよい。
【0022】
(事前準備第二工程)
事前準備第二工程では、複数のコンクリート試料について、事前準備第一工程で測定したFlastと締固め完了時のスランプフローであるFとに基づいて分離抵抗パラメータであるSa(=Flast/F×100)を算出する。そして、分離抵抗性が適正と判定された「標準試料が示すSaの所定範囲」を決定する。
ここで、「締固め完了時のスランプフローであるF」とは、具体的には、47cmであって、本発明者らが「コンクリートの分離抵抗性の簡易な定量評価方法の開発」(梁俊,丸屋剛,坂本淳,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,2012)で示した値である。
また、分離抵抗性が適正と判定できる標準試料は、スランプフローが47cmとなる時点で分離が発生せず、かつ、スランプフローが50cmを超えた時点で分離が発生することから、「標準試料が示すSaの所定範囲」とは、具体的には、100~106(≒47/47×100~50/47×100)である。なお、Saが100~106に属するコンクリート試料は、分離抵抗性が適正である(分離抵抗性に優れる)と判断でき、Saが100未満のコンクリート試料は、分離抵抗性不足と判断でき、Saが106を超えるコンクリート試料は、粘性過大と判断できる。
【0023】
(事前準備第三工程)
事前準備第三工程では、事前準備第二工程で算出した各コンクリート試料の「Sa」と、事前準備第一工程で測定した「着色面の平面形状に相関する要素」とを用いて、線形回帰により、スランプ値ごとに、「Sa」と「着色面の平面形状に相関する要素」との関係式を求める。
例えば、事前準備第三工程では、スランプ値が8cmの配合の異なる複数のコンクリート試料について、「着色面の平面形状に相関する要素:着色面の直径」と「Sa」が、それぞれ、D1mmとSa1、D2mmとSa2、D3mmとSa3という数値が得られた場合、この3組の数値を用い、線形回帰によって、スランプ値8cmにおける関係式「D8=A8×Sa+B8」(D8は目的変数、Saは説明変数、A8とB8は線形回帰によって導かれる実数)を算出する。そして、他のスランプ値(例えば、12cm、15cm)における関係式「D12=A12×Sa+B12」、「D15=A15×Sa+B15」を、同様の方法で算出する。
【0024】
(事前準備第四工程)
事前準備第四工程では、事前準備第二工程において決定した「標準試料が示すSaの所定範囲」と事前準備第三工程で求めた「関係式」とを用いて、スランプ値ごとに、コンクリート試料の分離抵抗性が適正と判断できる「着色面の平面形状に相関する要素」の範囲を特定する。
例えば、事前準備第四工程では、スランプ値8cmにおける関係式「D8=A8×Sa+B8」と標準試料が示すSaの範囲「100~106」に基づき、スランプ値8cmのコンクリート試料の分離抵抗性が適正となる「着色面の直径の最小値」(D8min)と「着色面の直径の最大値」(D8max)とを算出し、適正範囲「D8min~D8max」を特定する。そして、他のスランプ値(例えば、12cm、15cm)に関しても、同様の方法によって、「D12min~D12max」、「D15min~D15max」を特定する。
【0025】
事前準備第四工程では、さらに、各スランプ値と各スランプ値における「着色面の平面形状に相関する要素」の下限値とを用いて、線形回帰により「着色面の平面形状に相関する要素」の上限値の式を算出し、さらに、各スランプ値と各スランプ値における「着色面の平面形状に相関する要素」の上限値とを用いて、線形回帰により「着色面の平面形状に相関する要素の上限値の式を算出してもよい。
例えば、各スランプ値(8cm、12cm、15cm)と各スランプ値における着色面の直径の最小値(D8min、D12min、D15min)の3組の数値を用い、線形回帰によって、両者の関係式「Dmin=a×SL+b」(Dminは目的変数、SLはスランプ値であって説明変数、aとbは直線回帰によって導かれる実数)を算出する。同様に、各スランプ値(8cm、12cm、15cm)と各スランプ値における着色面の直径の最大値(D8max、D12max、D15max)の3組の数値を用い、線形回帰によって、両者の関係式「Dmax=a´×SL+b´」(Dmaxは目的変数、SLはスランプ値であって説明変数、a´とb´は直線回帰によって導かれる実数)を算出する。
なお、「分離抵抗性の適正範囲」は、主要なスランプ値ごとに「着色面の平面形状に相関する要素」の適性範囲が設定されていればよいものの、前記した「Dmin=a×SL+b」や「Dmax=a´×SL+b´」のような関係式を準備しておくことによって、如何なるスランプ値のコンクリート試料であっても正確に評価することができる。
【0026】
(その他)
第一工程~第四工程は、現場で作業者が実施し、事前準備第一工程~事前準備第四工程は、事前に試験室などで実施しておくという態様を想定しているものの、実施場所は特に限定されず、事前準備第一工程~事前準備第四工程も現場で作業者が実施してもよい。
事前準備第二工程で決定した「標準試料が示すSaの所定範囲」である「100~106」は、本発明者らが多くの実験の結果に基づいて決定した範囲であるが、当該範囲は非常に厳格な範囲(合格基準を高く設定した場合の範囲)である。よって、分離抵抗性に関して合格基準を低めに設定しても問題が生じない場合は、前記の「標準試料が示すSaの所定範囲」を少し広い範囲(100~106を中心として上限下限を広げた範囲、例えば、95~111、90~116など)に設定してもよい。
なお、本実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法の対象となるコンクリート試料は、現在使用されている如何なるコンクリート試料でもよく、特に限定されない。
例えば、コンクリート試料は、結合材、細骨材、粗骨材、混和剤、水等を含む。
結合材としては、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント(A~C種)、フライアッシュセメント(A~C種)、シリカセメント(A~C種)、エコセメント等から選択される1種以上を用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、山砂、川砂、海砂、砕砂、硅砂、石灰砂等から選択される1種以上を用いることができる。
粗骨材としては、特に限定されず、山砂利、川砂利、海砂利等から選択される1種以上を用いることができる。
混和剤としては、従来公知の材料を使用すればよく、例えば、分離低減剤、減水剤、消泡剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、AE剤、AE減水剤等を用いることができる。
水としては、特に限定されず、水道水、スラッジ水等を用いることができる。
【0027】
(別実施形態)
別実施形態に係るフレッシュコンクリートの性状評価方法として、分離抵抗パラメータであるSaを算出せずに「分離抵抗性の適正範囲」を設定する態様も存在する。
詳細には、事前準備第二工程において、Saを算出することなく、分離抵抗性が適正と判定された標準試料が示すFlastの所定範囲(具体的には47~50cm)を決定する。そして、事前準備第三工程において、各コンクリート試料の「Flast」と「着色面の平面形状に相関する要素」の測定値とを用いて、線形回帰により、スランプ値ごとに、両者の関係式を求める。そして、事前準備第四工程において、標準試料が示すFlastの所定範囲と前記関係式とを用いて、スランプ値ごとに、コンクリート試料の分離抵抗性が適正となる要素(着色面の平面形状に相関する要素)の範囲を特定する。
【実施例0028】
[試験に使用した試料]
表1に示す目標スランプとなるように、表1に示す配合でコンクリート試料1~11を準備した。
なお、表中の各成分などは以下のとおりである。
W(水):上水道水
C(セメント):普通ポルトランドセメント、密度3.16g/cm
S(細骨材):東京都大田区城南島産混合砂、表乾密度2.61g/cm、吸水率2.31%、粗粒率2.60
G(粗骨材):東京都青梅産硬質砂岩砕石、最大寸法20mm、表乾密度2.65g/cm、吸水率0.542%、粗粒率6.51
AE減水剤:リグニンスルホン酸化合物ポリオール複合体(ポゾリスソリューションズ株式会社製、品名マスターポゾリスNo.70)
AE剤:アルキルエーテル系陰イオン界面活性剤(ポゾリスソリューションズ株式会社製、品名マスターエア303A)
W/C:水セメント比
S/a:細骨材率
【0029】
【表1】
【0030】
[試験内容]
各コンクリート試料について、スランプ試験(JISA1101:2020)におけるスランプコーンの引き上げを行う前に、スランプコーンに詰められたコンクリート試料の上面の全体に対してフェノールフタレイン溶液を噴霧して着色した。
そして、スランプコーンを引き上げた後、スランプ値を測定し、その後、コンクリート試料を載せたスランプ板の四隅に振動を与え続けた。そして、表2に示す各スランプフローに達した際に、分離の発生の有無を目視で確認し、分離が発生していない最大のスランプフロー(Flast)を特定した。なお、分離の発生の有無については、着色面の円形の外縁が半分以上残っている場合を「分離していない」と判断し、着色面の円形の外縁が半分未満となっている場合を「分離した」と判断した。
また、各コンクリート試料について、スランプフローが基準径(47cm)に達した際に、着色面の直径(最大直径と当該最大直径に直交する直径との平均値)を測定した。
そして、各コンクリート試料について、測定して得られたFlastとF(47cm)とに基づいて、Sa(=Flast/F×100)を算出した。
これらの結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
図2Aは、目標スランプ値が8cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図2Aに示すように、目標スランプ値が8cmであるコンクリート試料1~4の「着色面の直径」と「Sa」とを用いて、線形回帰により、直線L1として「D8=-1.7519Sa+372.01」(R=0.0723)を算出した。
図2Bは、目標スランプ値が12cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図2Bに示すように、目標スランプ値が12cmであるコンクリート試料5~8の「着色面の直径」と「Sa」とを用いて、線形回帰により、直線L2として「D12=-7.0395Sa+989.6」(R=0.9803)を算出した。
図2Cは、目標スランプ値が15cmの各コンクリート試料について、「Sa」とスランプフローが47cmに達した際の「着色面の直径」との関係を示すグラフである。
図2Cに示すように、目標スランプ値が15cmであるコンクリート試料9~11の「着色面の直径」と「Sa」とを用いて、線形回帰により、直線L3として「D15=-3.7881Sa+664.62」(R=0.9524)を算出した。
なお、図2A~2CにおけるSaが100~106の範囲(Sa=100、Sa=106)は、分離抵抗性が適正と判定された標準試料が示すSaの範囲として、「47/47×100~50/47×100」によって算出した範囲である。
【0033】
そして、目標スランプ値が8cmであるコンクリート試料に関する「D8=-1.7519Sa+372.01」と、標準試料が示すSaの範囲である「100~106」とから、上限値197mm(図2AにおけるL1とSa=100との交点)と下限値186mm(図2AにおけるL1とSa=106との交点)を算出した。
また、目標スランプ値が12cmであるコンクリート試料に関する「D12=-7.0395Sa+989.6」と、標準試料が示すSaの範囲である「100~106」とから、上限値286mm(図2BにおけるL2とSa=100との交点)と下限値243mm(図2BにおけるL2とSa=106との交点)を算出した。
また、目標スランプ値が15cmであるコンクリート試料に関する「D15=-3.7881Sa+664.62」と、標準試料が示すSaの範囲である「100~106」とから、上限値286mm(図2CにおけるL3とSa=100との交点)と下限値263mm(図2CにおけるL3とSa=106との交点)を算出した。
これらの結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
図3は、着色面の直径の上限値とスランプ値との関係、および、実施例での着色面の直径の下限値とスランプ値との関係を示すグラフである。
図3に示すように、各スランプ値(8cm、12cm、15cm)と各スランプ値における着色面の直径の最大値(197mm、286mm、286mm)の3組の数値を用い、線形回帰によって、直線L4「Dmax=13.226SL+101.79」(R=0.8188)を算出した。
また、図3に示すように、各スランプ値(8cm、12cm、15cm)と各スランプ値における着色面の直径の最小値(186mm、243mm、263mm)の3組の数値を用い、線形回帰によって、直線L5「Dmin=11.146SL+100.89」(R=0.9635)を算出した。
なお、図3において、直線L4と直線L5とで挟まれる斑点模様の範囲に属する場合、分離抵抗性が適正である(分離抵抗性に優れる)と判断でき、斑点模様の範囲に属さない場合、分離抵抗性が不適正である(詳細には、直線L4よりも上方に位置する場合は分離抵抗性不足、直線L5よりも下方に位置する場合は粘性過大)と判断できる。
【0036】
[評価方法]
例えば、目標スランプ値が15cmであるコンクリート試料9は、「スランプフローが47cmに達した際の着色面の直径」が364mmであり、図3の直線L4と直線L5にSL=15cmを代入して算出される268~300mmの範囲(又は、表3の263~286mmの範囲)の上限値を超えることから、コンクリート試料9は分離抵抗性が不適正(詳細には、分離抵抗性不足)であると判断することができる。
また、目標スランプ値が15cmであるコンクリート試料10は、「スランプフローが47cmに達した際の着色面の直径」が277mmであり、図3の直線L4と直線L5にSL=15cmを代入して算出される268~300mmの範囲(又は、表3の263~286mmの範囲)に属することから、コンクリート試料10は分離抵抗性が適正であると判断することができる。
また、目標スランプ値が15cmであるコンクリート試料11は、「スランプフローが47cmに達した際の着色面の直径」が232mmであり、図3の直線L4と直線L5にSL=15cmを代入して算出される268~300mmの範囲(又は、表3の263~286mmの範囲)の下限値未満となることから、コンクリート試料11は分離抵抗性が不適正(詳細には、粘性過大)であると判断することができる。
【0037】
[結果の検討]
表3、及び、図3に示すように、スランプ値ごとに、コンクリート試料の分離抵抗性が適正となる「着色面の直径」の範囲を事前に特定しておくことで、作業者は、コンクリート試料のスランプフローが基準径(47cm)に達した際の「着色面の直径」を測定するだけで、分離抵抗性を評価することができる。したがって、本発明によると、コンクリート試料の分離抵抗性を簡便かつ迅速に評価できることから、現場(フィールド)での評価が可能であることが確認できた。
また、本発明によると、「着色面の直径」の測定値が、事前に特定した「分離抵抗性の適正範囲」に属するか否かで分離抵抗性を定量的に判断できるため、経験の浅い作業者でも正確な評価が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0038】
1 コンクリート試料
2 スランプコーン
3 スランプ板
4 木槌
5 着色面
スランプフローの基準径
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3