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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060519
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】匂いセンサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167944
(22)【出願日】2022-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和04年06月04日 https://www.bookpark.ne.jp/cm/ieej/detail/IEEJ-20220607E00701-009-PDF/ を通じて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和04年06月08日 一般社団法人電気学会主催の「電気学会E部門総合研究会」の「ケミカルセンサ研究会」において文書をもって発表
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中本 高道
(72)【発明者】
【氏名】ゴン ナンスィン
(57)【要約】
【課題】高精度に匂いの識別が可能な匂いセンサシステムを提供する。
【解決手段】匂いセンサシステムは、センサ部10と、解析部20とからなる。センサ部10は、水晶振動子12と水晶振動子12上に塗布される粘弾性効果を有する感応膜13とからなる水晶振動子ガスセンサ11を有する。解析部20は、センサ部10の水晶振動子ガスセンサ11の水晶振動子12の基本波及びその奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜13への吸着による共振抵抗の変化を検出することで、センサ部10に入力される匂いを識別する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中で匂いを識別する匂いセンサシステムであって、該匂いセンサシステムは、
水晶振動子と水晶振動子上に塗布される粘弾性効果を有する感応膜とからなる水晶振動子ガスセンサを有し、識別すべき匂いが入力されるセンサ部と、
前記センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波及びその奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振抵抗の変化を検出することで、センサ部に入力される匂いを識別する解析部と、
を具備することを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の匂いセンサシステムにおいて、
前記センサ部は、複数の水晶振動子ガスセンサを有するアレイセンサからなり、各水晶振動子ガスセンサの感応膜は、それぞれ異なる種類であり、
前記解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の各感応膜への吸着による共振抵抗の変化をそれぞれ検出することで、入力される混合臭を識別する、
ことを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の匂いセンサシステムにおいて、前記解析部は、さらに、センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波及び奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振周波数の変化も検出することで、入力される匂いを識別することを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項4】
気相中で匂いを識別する匂いセンサシステムであって、該匂いセンサシステムは、
水晶振動子と水晶振動子上に塗布される粘弾性効果を有する感応膜とからなり、識別すべき匂いが入力される水晶振動子ガスセンサを有するセンサ部と、
前記センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振周波数の変化と共振抵抗の変化とを検出することで、入力される匂いを識別する解析部と、
を具備することを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の匂いセンサシステムにおいて、
前記センサ部は、複数の水晶振動子ガスセンサを有するアレイセンサからなり、各水晶振動子ガスセンサの感応膜は、それぞれ異なる種類であり、
前記解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の各感応膜への吸着による共振周波数の変化と共振抵抗の変化とをそれぞれ検出することで、入力される混合臭を識別する、
ことを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項6】
請求項2又は請求項5に記載の匂いセンサシステムにおいて、
前記解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の調合比を求め、
さらに、匂いセンサシステムは、解析部により求められる調合比に基づき複数種類の匂いの調合臭を生成可能な調合臭生成部を有する、
ことを特徴とする匂いセンサシステム。
【請求項7】
請求項6に記載の匂いセンサシステムにおいて、前記調合臭生成部により生成される調合臭がセンサ部に入力され、入力される調合臭と識別すべき複数種類の匂いの混合臭との差異が無くなるような調合比となるように、調合臭生成部がフィードバック制御されることを特徴とする匂いセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は匂いを識別する匂いセンサシステムに関し、特に、水晶振動子ガスセンサを用いる匂いセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
匂いの品質管理や検査等のために用いられる匂いを識別するセンサとして、水晶振動子ガスセンサが知られている。水晶振動子ガスセンサは、水晶振動子と感応膜を用いたものである。水晶振動子は、周波数安定度が優れるものである。水晶板の上下に電極を設け、電極に発振回路から水晶振動子の共振周波数近傍の周波数の電圧を印加することで、水晶振動子が振動する。この電極に、有機膜等の感応膜を塗布したものが、水晶振動子ガスセンサである。気相中で匂いを識別する際、感応膜に匂い分子が吸着すると、質量負荷効果により水晶振動子の共振周波数が減少する。この匂い分子の吸着による周波数変化は、感応膜の種類に依存したパターン情報である。このパターン情報は、匂いの種類に応じて変化する。そこで、このパターン情報を解析すれば、匂いを識別することが可能となる。そして、異なる種類の感応膜を用いたセンサアレイを用いて混合臭を識別できるようにした匂いセンサシステムも知られている(例えば非特許文献1)。
【0003】
また、溶液中に水晶振動子ガスセンサを浸漬させ溶液に匂い分子を注入し溶液の粘弾性の変化を計測することで匂いを識別する液相系の匂いセンサにおいて、共振周波数の変化だけでなく、感応膜の粘弾性効果による共振抵抗の変化を用いて匂いを識別できるようにした匂いセンサも知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-121651号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】井手純一ら「水晶振動子ガスセンサを用いた匂いセンサの開発」日本音響学会誌51巻1号、1995年、pp.66-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、匂いの種類は多岐にわたるため、従来技術による匂いセンサでは、識別できない匂いも多かった。特に混合臭に対して、混合されている複数種類の匂いを識別しようとした場合には、十分に識別できる能力を有していなかった。また、液相中で匂いを識別しようとした場合には、溶液が音響負荷となるため、匂い分子の吸着以外に化学物質注入に伴う溶液自体の粘弾性の影響も受けてしまう。したがって、匂い分子以外の影響もパターン情報に含まれてしまうため、気相系の匂いセンサと比べて液相系の匂いセンサは精度が低くならざるを得なかった。このため、気相系の匂いセンサにおいて、より多くのパターン情報を用いて高精度に匂いを識別可能な匂いセンサシステムの開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、高精度に匂いの識別が可能な匂いセンサシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、気相中で匂いを識別する本発明による匂いセンサシステムは、水晶振動子と水晶振動子上に塗布される粘弾性効果を有する感応膜とからなる水晶振動子ガスセンサを有し、識別すべき匂いが入力されるセンサ部と、センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波及びその奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振抵抗の変化を検出することで、センサ部に入力される匂いを識別する解析部と、を具備するものである。
【0009】
ここで、センサ部は、複数の水晶振動子ガスセンサを有するアレイセンサからなり、各水晶振動子ガスセンサの感応膜は、それぞれ異なる種類であり、解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の各感応膜への吸着による共振抵抗の変化をそれぞれ検出することで、入力される混合臭を識別する、ものであっても良い。
【0010】
また、解析部は、さらに、センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波及び奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振周波数の変化も検出することで、入力される匂いを識別するものであっても良い。
【0011】
さらに、気相中で匂いを識別する本発明による匂いセンサシステムは、水晶振動子と水晶振動子上に塗布される粘弾性効果を有する感応膜とからなり、識別すべき匂いが入力される水晶振動子ガスセンサを有するセンサ部と、センサ部の水晶振動子ガスセンサの水晶振動子の基本波における、識別すべき匂いの感応膜への吸着による共振周波数の変化と共振抵抗の変化とを検出することで、入力される匂いを識別する解析部と、を具備するものであっても良い。
【0012】
ここで、センサ部は、複数の水晶振動子ガスセンサを有するアレイセンサからなり、各水晶振動子ガスセンサの感応膜は、それぞれ異なる種類であり、解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の各感応膜への吸着による共振周波数の変化と共振抵抗の変化とをそれぞれ検出することで、入力される混合臭を識別する、ものであっても良い。
【0013】
また、解析部は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の調合比を求め、さらに、匂いセンサシステムは、解析部により求められる調合比に基づき複数種類の匂いの調合臭を生成可能な調合臭生成部を有する、ものであっても良い。
【0014】
また、調合臭生成部により生成される調合臭がセンサ部に入力され、入力される調合臭と識別すべき複数種類の匂いの混合臭との差異が無くなるような調合比となるように、調合臭生成部がフィードバック制御されるものであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の匂いセンサシステムには、高精度に匂いの識別が可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の匂いセンサシステムの構成を説明するための概略ブロック図である。
図2図2は、本発明の匂いセンサシステムのセンサ部に用いられる水晶振動子ガスセンサの一例を説明するための概略図である。
図3図3は、本発明の匂いセンサシステムのセンサ部として用いられるアレイセンサの一例を説明するための概略図である。
図4図4は、本発明の匂いセンサシステムにより得られる3種類の匂いに対する変化パターン情報の一例を示すスパイダーチャートである
図5図5は、本発明の匂いセンサシステムが調合臭を生成可能に構成される例を説明するための概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の匂いセンサシステムは、匂いを識別するものである。図1は、本発明の匂いセンサシステムの構成を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、本発明の匂いセンサシステムは、センサ部10と、解析部20とからなる。センサ部10は、水晶振動子ガスセンサを有するものである。センサ部10には、識別すべき匂いが入力される。
【0018】
図2を用いて水晶振動子ガスセンサの詳細を説明する。図2は、本発明の匂いセンサシステムのセンサ部に用いられる水晶振動子ガスセンサの一例を説明するための概略図である。図示の通り、水晶振動子ガスセンサ11は、水晶振動子12と、感応膜13とから主に構成されている。水晶振動子12は、例えばATカットの水晶片を用いたものであれば良い。感応膜13は、水晶振動子12上に塗布され粘弾性効果を有するものである。図示の通り、感応膜13は、より具体的には水晶振動子12の上下に設けられる電極14上に塗布されるものである。なお、感応膜13は、上下の電極14の片側のみに塗布されるものであっても良い。そして、電極14には発振回路15が接続されている。発振回路15は、水晶振動子12の共振周波数近傍の周波数の電圧を印加する。これにより、水晶振動子12が振動する。発振回路15としては、LC発振回路だけでなく、ネットワークアナライザ等も利用可能である。
【0019】
感応膜13としては、例えばTCP(Tricresyl Phosphate)や[Cmim][TfN](1-alkyl-3-methylimidazolium bis[(trifluoro-methyl)sulfonyl]imide)、Apiezon-L(Petrolatum Hydrocarbon)、PPE(Poly Phenyl Ether)等の有機膜が利用可能である。
【0020】
本発明の匂いセンサシステムのセンサ部10で用いられる水晶振動子ガスセンサ11の基本的な構造は従来の水晶振動子ガスセンサと同様であり、従来の又は今後開発されるべきあらゆる水晶振動子ガスセンサが適用可能である。
【0021】
このように構成される水晶振動子ガスセンサ11の感応膜13に、気相中で識別すべき匂いが入力されると、感応膜13に匂いが吸着し、感応膜13の粘弾性効果に基づく共振抵抗が変化する。以下に説明する解析部20では、この共振抵抗の変化を検出することで、入力される匂いを識別している。
【0022】
解析部20は、センサ部10に入力される匂いを識別するものである。解析部20は、識別すべき匂いの感応膜13への吸着による共振抵抗の変化を検出する。解析部20は、例えばベクトルネットワークアナライザ等により実現すれば良い。ここで、本発明の匂いセンサシステムの特徴とするところは、解析部20では、水晶振動子12の基本波及びその奇数次高調波における共振抵抗の変化を検出している点である。即ち、基本波における共振抵抗の変化だけでなく、基本波の奇数次高調波における共振抵抗の変化も検出することで、パターン情報の情報量を増加させている。基本波における共振抵抗の変化パターンが、匂いの種類によっては変わらないものだと、匂いの識別はできなくなる。しかしながら、基本波で変わらなかった変化パターンが奇数次高調波では異なる変化パターンとなる場合があることが分かった。したがって、基本波だけでなく、例えば3次高調波、5次高調波、7次高調波、9次高調波、11次高調波といった6つの周波数に対応する共振抵抗の変化を検出すれば、6つの変化パターン情報を用いることが可能となる。このように、本発明の匂いセンサシステムでは、基本波だけでなくその奇数次高調波における共振抵抗の変化も検出することで、これまで識別できなかった匂いまで高精度に識別が可能となった。
【0023】
なお、本発明の匂いセンサシステムは、共振抵抗の変化のみを検出するだけでなく、共振周波数の変化を検出するように構成しても良い。即ち、解析部20は、さらに、センサ部10の水晶振動子ガスセンサ11の水晶振動子12の基本波及び奇数次高調波における、識別すべき匂いの感応膜13への吸着による共振周波数の変化も検出することで、入力される匂いを識別するように構成されても良い。具体的には、例えば上述のように6つの共振抵抗の変化パターン情報に、さらに6つの周波数に対応する共振周波数の変化パターン情報も加えた12個の変化パターン情報を用いることが可能となる。このように、より多くの変化パターン情報を用いてさらに高精度に匂いを識別することが可能となる。
【0024】
次に、センサ部10として複数の水晶振動子ガスセンサ11を有するアレイセンサを用いたものについて説明する。図3は、本発明の匂いセンサシステムのセンサ部として用いられるアレイセンサの一例を説明するための概略図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。この例は、入力される識別すべき匂いが、複数種類の匂いの混合臭からなるものに対応可能なものである。
【0025】
図3に示される通り、センサ部10は、複数の水晶振動子ガスセンサ11~11を有するアレイセンサからなるものであっても良い。各水晶振動子ガスセンサ11~11に塗布された感応膜13~13は、それぞれ異なる種類である。即ち、アレイセンサは、感応膜の種類毎のパターン情報が得られるように構成されているものである。なお、図示例では一例として4種類の水晶振動子ガスセンサを用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、より多くの又は少ない種類のセンサを用いても良い。
【0026】
このような複数の水晶振動子ガスセンサ11~11を有するアレイセンサからなるセンサ部10に対して、複数種類の匂いの混合臭を識別するために入力する。解析部20は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の各感応膜13~13への吸着による共振抵抗の変化をそれぞれ検出することで、入力される混合臭を識別する。各水晶振動子ガスセンサ11~11では、基本波及びその奇数次高調波における共振抵抗の変化パターン情報がそれぞれ異なるものとなる。例えば、上述のように6つの共振抵抗の変化パターン情報と6つの共振周波数の変化パターン情報を、それぞれ4つの水晶振動子ガスセンサ11~11から得るようにすると、合計48個の変化パターン情報を用いて匂いを解析することが可能となる。したがって、入力される識別すべき匂いが、複数種類の匂いの混合臭であっても、高精度に匂いを識別することが可能となる。
【0027】
図4を用いて匂いに対する変化パターン情報について具体的に説明する。図4は、本発明の匂いセンサシステムにより得られる3種類の匂いに対する変化パターン情報の一例を示すスパイダーチャートであり、図4(a)が1-ヘキサノールに対するもの、図4(b)が1-ブタノールに対するもの、図4(c)がイソ酪酸ブチルに対するものである。スパイダーチャートの左側が共振抵抗の変化パターン情報(R1~R411)であり、右側が共振周波数の変化パターン情報(F1~F411)である。また、4種類の水晶振動子ガスセンサを用いた。そして、基本波、3次高調波、5次高調波、7次高調波、9次高調波、11次高調波の6つの周波数に対する共振抵抗の変化と共振周波数の変化を検出した。ここで、4種類の水晶振動子ガスセンサのそれぞれの感応膜としては、1:TCP、2:[Cmim][TfN]、3:Apiezon-L、4:PPEを用いた。例えば図中、「R1」は感応膜がTCPで3次高調波の抵抗変化を、「F4」は感応膜がPPEで7次高調波の周波数変化をそれぞれ意味する。
【0028】
図4から分かる通り、3種類の匂いに対して得られるスパイダーチャートは、それぞれ大きく異なることが分かる。例えば従来技術のように基本波のみの共振周波数の変化を検出していただけでは、識別できなかったものが、本発明の匂いセンサシステムによれば、高精度に識別が可能となる。しかも、図示のように48個の変化パターン情報を用いなくとも、例えばスパイダーチャートの6時から7時半の方向(R1~R111)の変化パターン情報のみを用いても、3種類の匂いに対して十分に識別可能であることが分かる。
【0029】
なお、図4からは、入力される識別すべき匂いの種類によっては、基本波における共振周波数の変化と共振抵抗の変化とを解析部20で検出することで、入力される匂いを識別ことができることも分かる。即ち、種々の変化パターン情報を組み合わせて匂いを識別することも可能である。
【0030】
以下、本発明の匂いセンサシステムの効果について説明する。以下の表1は、3種類の匂いに対して従来技術と本発明の匂いセンサシステムにおける目標濃度に対する初期濃度と定量濃度の二乗平均平方根誤差(RMSE)を用いて定量性能を評価したものである。
【表1】
表1からも分かる通り、従来技術のように基本波のみの共振周波数の変化を用いて混合臭の濃度定量を行ったところ、定量誤差が14%程度であった。しかしながら、本発明の匂いセンサシステムを用いて上述のように基本波及びその奇数次高調波における共振抵抗と共振周波数の変化パターン情報により混合臭の濃度定量を行ったところ、定量誤差が3.9%程度まで低減した。また、基本波における共振抵抗と共振周波数の変化パターン情報を用いた場合であっても5%程度程度まで減少していることも分かる。即ち、共振抵抗の変化パターン情報を用いることで、より高精度に匂いの識別が可能となっていることが分かる。このように、本発明の匂いセンサシステムによれば、基本波及びその奇数次高調波における共振抵抗の変化パターン情報や、基本波における共振抵抗と共振周波数の変化パターン情報を用いることで、高精度に匂いの識別が可能となる。
【0031】
また、本発明の匂いセンサシステムによれば、複数種類の匂いの混合臭の調合比を求めることも可能となる。即ち、センサ部10の水晶振動子ガスセンサ11は、ガス濃度も検出することが可能であるため、解析部20では、アレイセンサからなるセンサ部10からの変化パターン情報から入力される混合臭の調合比を求めることが可能となる。この調合比を用いて調合臭を生成可能なシステムについて、以下に説明する。
【0032】
図5は、本発明の匂いセンサシステムが調合臭を生成可能に構成される例を説明するための概略ブロック図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、この例は、調合臭生成部30を有している。
【0033】
解析部20は、識別すべき複数種類の匂いの混合臭の調合比を求める。例えば、混合臭が1-ヘキサノールと1-ブタノールとイソ酪酸ブチルの3種類の匂いの混合臭の場合、これらの混合比を求める。
【0034】
一方、調合臭生成部30は、複数種類の匂いの調合臭を生成するものである。例えば、1-ヘキサノールと1-ブタノールとイソ酪酸ブチルの3種類のガス源と、それらを所定の調合比で混合可能なガスブレンダからなるものである。ガスブレンダは、実時間で混合可能なものであれば良い。調合臭生成部30は、解析部20により求められる混合比に基づき、1-ヘキサノールと1-ブタノールとイソ酪酸ブチルをガスブレンダにより混合すれば良い。これにより、センサ部10に入力された混合臭と同じ調合比の調合臭が生成可能となる。
【0035】
さらに、調合臭生成部30により生成された調合臭の変化パターン情報が、センサ部10に入力された混合臭のものと正しく一致するようにフィードバック制御も可能である。即ち、本発明の匂いセンサシステムでは、多入力多出力フィードバック制御を行うことも可能である。図5に示されるように、識別すべき混合臭と、調合臭生成部30により生成される調合臭とを切り替え可能なバルブ40を設ける。バルブ40を用いて、センサ部10に入力する匂いを切り替えることが可能である。このような構成において、まず、識別すべき混合臭がセンサ部10に入力されるようにバルブ40を設定する。そして、解析部20では、識別すべき混合臭の混合比を求める。解析部20は、この混合比を調合比として調合臭生成部30に入力する。調合臭生成部30は、解析部20により求められる調合比に基づき、調合臭を生成する。次にバルブ40を切り替えて調合臭生成部30により生成された調合臭をセンサ部10に入力する。解析部20では、識別すべき混合臭と調合臭に対する変化パターン情報の差が小さくなるような調合比を出力する。そして、識別すべき混合臭と調合臭に対する変化パターン情報の差が小さくなるように、フィードバック制御により逐次調合臭の調合比を更新する。最終的に両者の変化パターン情報が一致したときの調合臭の調合比を、識別すべき混合臭の混合比として出力する。
【0036】
なお、このような多入力多出力フィードバック制御の手法としては、最適制御入力やニューラルネットワークを用いたフィードバック誤差学習も適宜使用可能である。また、このような多入力多出力フィードバック制御を用いて混合臭を記録・再生するシステムを能動匂いセンシングシステムともいう。水晶振動子ガスセンサの応答特性に線形重ね合わせが成り立たず精緻なセンサ応答モデルがなくても、このようなシステムであれば精度良く混合臭の混合比を求めることができる。また、センサ特性がドリフトやエージングの影響を受けて変化しても、このシステムは相対測定法なのでその影響を受けずに混合臭の濃度定量が可能である。このように、本発明の匂いセンサシステムは、匂い記録・再生システムとしても応用可能である。
【0037】
なお、本発明の匂いセンサシステムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
10 センサ部
11 水晶振動子ガスセンサ
12 水晶振動子
13 感応膜
14 電極
15 発振回路
20 解析部
30 調合臭生成部
40 バルブ
図1
図2
図3
図4
図5