(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060549
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】金属製スキャンボディ
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022178458
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】田中 良樹
(72)【発明者】
【氏名】西澤 正祥
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159AA51
(57)【要約】
【課題】スクリューを通すための貫通穴を有する金属製のスキャンボディにおいて、貫通穴の内面における鏡面反射を防ぎ、安定しており、かつ正確性の高いスキャンデータが得られる金属製スキャンボディの提供。
【解決手段】歯科用インプラントやインプラントアナログと連結可能な連結部(1)と、
口腔内あるいは口腔外のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得されるスキャン領域(3)と、
歯科用インプラントやインプラントアナログとの締結に用いるスクリューを通すための貫通穴(4)と、
前記スキャン領域(3)の周面に長手方向に沿って付与された少なくとも1つのカット面(5)を有し、
先端部(7)が前記貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状であり、前記先端部(7)における天面(10)の内周の内接円と外周の外接円の直径差が0.5mm以下であることを特徴とするスキャンボディ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントの位置情報の取得に用いる金属製スキャンボディであって、
歯科用インプラントやインプラントアナログと連結可能な連結部(1)と、
口腔内あるいは口腔外のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得されるスキャン領域(3)と、
歯科用インプラントやインプラントアナログとの締結に用いるスクリューを通すための貫通穴(4)と、
前記スキャン領域(3)の周面に長手方向に沿って付与された少なくとも1つのカット面(5)を有し、
先端部(7)が前記貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状であり、前記先端部(7)における天面(10)の内周の内接円と外周の外接円の直径差が0.5mm以下であることを特徴とするスキャンボディ。
【請求項2】
前記カット面(5)は長手方向に平行な平面(8)と、曲面(9)で構成される請求項1に記載のスキャンボディ。
【請求項3】
チタン合金製からなる請求項1に記載のスキャンボディ。
【請求項4】
前記スキャン領域(3)はブラスト処理が行われている請求項1に記載のスキャンボディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に埋入された歯科用インプラントや技工作業用の模型に固定されたインプラントアナログの位置情報を歯科用スキャナにて取得するためのスキャンボディに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、スキャンボディ(スキャン用治具)が記載されている。スキャン領域は、頂上面と、形状の異なる複数のスキャン輪郭部分や側面を有している。スキャンボディの材質はスキャン性に優れ、口腔内で再使用するためのオートクレーブ滅菌が可能なPEEKが主流である。しかしながら、PEEKはX線造影性がなくデンタルX線でインプラントとの連結状態を確認出来ないことから、金属製、特に生体適合性に優れたチタン合金製のスキャンボディの需要も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5944651号
【特許文献2】特許6208905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリューを通すための貫通穴を有する金属製のスキャンボディは、光学スキャンを行う際、レーザ光が貫通穴の内面にて鏡面反射し、貫通穴を有する天面のデータが不安定となる課題がある。スキャンデータは電子的なライブラリに登録されている原データと比較され、その結果によって歯科用インプラントやインプラントアナログの位置情報を決定するが、天面のデータが欠損したスキャンデータから決定される位置情報は正確性に欠ける。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
歯科用インプラントの位置情報の取得に用いる金属製スキャンボディであって、
歯科用インプラントやインプラントアナログと連結可能な連結部(1)と、
口腔内あるいは口腔外のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得されるスキャン領域(3)と、
歯科用インプラントやインプラントアナログとの締結に用いるスクリューを通すための貫通穴(4)と、
前記スキャン領域(3)の周面に長手方向に沿って付与された少なくとも1つのカット面(5)を有し、
先端部(7)が前記貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状であり、前記先端部(7)における天面(10)の内周の内接円と外周の外接円の直径差が0.5mm以下であることを特徴とするスキャンボディに関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、スクリューを通すための貫通穴(4)を有する金属製のスキャンボディにおいて、貫通穴(4)を有する先端部(7)を貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状とすることで、先端部(7)のスキャンデータを貫通穴(4)近傍まで取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るスキャンボディの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す本発明に係るスキャンボディの側面図である。
【
図3】
図1とは異なる本発明に係るスキャンボディの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す本発明に係るスキャンボディの側面図である。
【
図5】先端部にテーパー部を有しないスキャンボディの一例を示す斜視図である。
【
図6】
図5に示すスキャンボディのスキャン領域の外観図である。
【
図7】
図1に示す本発明に係るスキャンボディのスキャン領域の外観図である。
【
図8】
図5に示すスキャンボディを口腔外のスキャンプロセスによって取得したスキャンデータである。
【
図9】
図1に示す本発明に係るスキャンボディを口腔外のスキャンプロセスによって取得したスキャンデータである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、貫通穴(4)を有する先端部(7)を貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状とすることで上記課題を解決する。貫通穴(4)の中心軸(12)に垂直な平面ほど鏡面反射の影響を受ける。貫通穴(4)の中心軸に垂直な天面(10)の面積を小さくすることで先端部(7)のスキャンデータを貫通穴(4)近傍まで取得することが可能となる。
【0009】
本発明のスキャンボディは、先端部(7)において、天面(10)の面積が少ないことが望ましく、先端部(7)における天面(10)の内周の内接円と外周の外接円の直径差は0.5mm以下である。取得が不安定な天面(10)の面積を小さくすることでスキャンデータの正確性が向上し、スキャンデータを用いて得られる歯科用インプラントやインプラントアナログの位置情報の正確性も当然向上する。
【0010】
図1~4は本発明のスキャンボディの一例である。本発明のスキャンボディは単一構造の金属製、特にチタン合金製から形成される。スキャンボディは歯科用インプラントやインプラントアナログの位置情報を取得するため用いられる。スキャンボディは患者の口腔内で歯科用インプラントに締結され、口腔内のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得されるか、口腔外にて作業模型上でインプラントアナログに締結され、口腔外のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得される。取得されたスキャンデータは電子的なライブラリに登録されている原データと比較され、その結果によって歯科用インプラントやインプラントアナログの位置情報を決定する。
【0011】
本発明のスキャンボディは歯科用インプラントやインプラントアナログと連結可能な連結部(1)と口腔内あるいは口腔外のスキャンプロセスによってスキャンデータとして取得されるスキャン領域(3)を有する。連結部(1)とスキャン領域(3)を接続する移行領域(2)があってもよい。スキャンデータの正確性の面から、スキャン領域(3)は先端部(7)から連結部(1)あるいは移行領域(2)への長手方向に対してアンダーカットがないことが望ましく、移行領域(2)の外接円の直径はスキャン領域(3)外周の外接円の直径と同等以下であることが望ましい。
【0012】
本発明のスキャンボディは段付きの貫通穴(4)を有する。貫通穴(4)は歯科用インプラントやインプラントアナログにスキャンボディを締結するためのスクリューを収容するために用いられる。
【0013】
スキャン領域(3)は先端部(7)に貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)を有する先細り形状である。テーパーの角度は貫通穴(4)の中心軸(12)に対して20度から70度であることが望ましい。より好ましくは、貫通穴(4)の中心軸(12)に対して25度から45度である。テーパー部(6)の長手方向の長さは1mmから3mmが好ましい。
【0014】
スキャン領域(3)の長手方向の長さは任意であるが、5mmから10mmであれば好ましく、特に好ましくは6mmから8mmである。また、移行領域(2)を有する場合、移行領域(2)の長手方向の長さは1mmから5mmであれば好ましく、特に好ましくは2mmから4mmである。連結部(1)の長手方向の長さは1.5mmから5mmであれば好ましく、特に好ましくは2mmから4mmである。
【0015】
本発明のスキャンボディは、インプラントの位置情報を一意に正確に取得する必要があるため、スキャン領域(3)の周囲には長手方向に沿って付与されたカット面(5)を有し、長手方向に回転対称でない。カット面(5)は長手方向に平行な平面(8)と曲面(9)で構成され、前記平面(8)と前記曲面(9)の接続部(11)において、前記平面(8)と前記曲面(9)の接線方向は一致していることが望ましい。角度を有する面と面の接続部は、口腔内あるいは口腔外のスキャンプロセスによって丸みの帯びたスキャンデータとなり、実際の形状と差異が生じるため、ライブラリに登録された原データとの比較において正確性が欠ける。前記接続部(11)において、前記平面(8)と前記曲面(9)の接線方向を一致させることで、カット面のスキャンデータの正確性が向上する。前記平面(8)の長手方向の長さはテーパー部(6)の長手方向の長さよりも長いことが望ましい。カット面(5)は、長手方向に傾斜した平面であってもよいし、2つ以上であってもよい。カット面(5)が2つ以上ある場合、各カット面(5)の長手方向の長さは異なってもよい。いずれの場合においても、カット面(5)を有することにより、長手方向に回転対称でない。
【0016】
カット面(5)の数は任意であるが、好ましくは1つである。
【0017】
カット面(5)の長手方向に平行な平面(8)と曲面(9)の長手方向の長さは任意であるが、好ましい長さは、長手方向に平行な平面(8)が2mmから4mmであり、曲面(9)は0.5mmから1.5mmである。
カット面(5)の幅(半径方向の長さ)は任意であるが、スキャン領域(3)の最大径に対して5%から35%が好ましい。
【0018】
カット面(5)にて回転方向の位置を一意に決定することは、スキャンボディの形状を比較的小さくすることを可能にする。スキャンボディの形状を小さくすることで、スキャンボディの締結や口腔内のスキャンプロセスが容易となる。
【0019】
カット面(5)を除くスキャン領域(3)及び移行部(2)の半径方向の外形状は円形であり、歯科用インプラントやインプラントアナログの中心軸と同軸であることが望ましい。歯科用インプラントやインプラントアナログの中心軸と同軸にすることで電子的なライブラリに登録されている原データと比較において正確性が向上する。
【0020】
本発明のスキャンボディは、金属材料から形成される。好ましくは、生体適合性に優れたチタン合金製から形成される。
【0021】
スキャン領域(3)はスキャナのレーザ光の鏡面反射を防止するため、ブラスト処置が行われていることが望ましい。連結部(1)とスキャン領域(3)とを接続する移行部(2)がある場合、移行部(2)はブラスト処理がされていてもされていなくてもよい。
【実施例0022】
図5は本発明のスキャンボディが有するテーパー部のない金属製のスキャンボディの一例である。
図8は
図5のスキャンボディを口腔外にて作業模型上でインプラントアナログに締結し、口腔外のスキャンプロセス(光学スキャン)によって取得したスキャンデータである。前述の通り、レーザ光が貫通穴(4)の内面にて鏡面反射し、天面(10)のデータが取得されていないことが確認される。取得されたデータが不十分であるため、スキャンデータを用いて得られるインプラントアナログの位置情報は正確性に欠くこととなる。
図9は
図1に示す本発明のスキャンボディを同様の条件で光学スキャンを行い取得したスキャンデータである。貫通穴(4)の中心軸(12)に対して一定の角度で傾斜したテーパー部(6)はスキャンデータとして取得されており、取得が不安定な天面(10)の面積を小さくすることで先端部のスキャンデータを貫通穴(4)近傍まで取得することが可能となる。カット面(5)を付与することで長手方向に回転対称でないため、スキャンボディの位置を一意に決定することができる。データの欠陥が少ないスキャンデータはより正確なインプラントアナログの位置情報の取得を可能とする。