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特開2024-60563微小粒子、勃起不全の予防薬または治療薬および勃起不全の改善方法
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  • 特開-微小粒子、勃起不全の予防薬または治療薬および勃起不全の改善方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060563
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】微小粒子、勃起不全の予防薬または治療薬および勃起不全の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20240424BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240424BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
A61K35/32
A61K31/7105
A61P15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092010
(22)【出願日】2023-06-03
(62)【分割の表示】P 2022167247の分割
【原出願日】2022-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Journal of Cellular and Molecular Medicine(2022)26(1):195-201、発行年月日 Published online 2021 Nov 29(令和3年11月29日)、発行者名 WILEY。
(71)【出願人】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】DEXONファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230113697
【弁護士】
【氏名又は名称】菅原 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
【課題】勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる、新規な微小粒子の提供。
【解決手段】一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含み、一酸化窒素の産生促進剤である、微小粒子;勃起不全の予防薬または治療薬;勃起不全の改善方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む、勃起不全の治療薬であって、
前記微小粒子が一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含み、
前記微小粒子が一酸化窒素の産生促進剤であり、
前記微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子であり、
勃起不全を発症した対象に投与する用途であり、
前記対象が70歳未満の国際勃起機能スコアIIEF-5が10未満であるヒト患者であり、
前記勃起不全の治療薬が前記微小粒子を1.0×10個/mL以上2×10個/mL以下含む、勃起不全の治療薬。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の勃起不全の治療薬。
【請求項3】
前記微小粒子が前記一酸化窒素の産生を制御するmiRNAとして一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含み、
前記微小粒子が一酸化窒素合成酵素の発現促進剤である、請求項1に記載の勃起不全の治療薬。
【請求項4】
前記微小粒子が前記一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとして、下記NOS関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、請求項3に記載の勃起不全の治療薬;
NOS関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3p。
【請求項5】
前記微小粒子が、前記歯髄由来幹細胞の培養上清から前記エクソソームを除いた成分を含まない、請求項1に記載の勃起不全の治療薬。
【請求項6】
前記微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、前記一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含む、請求項1に記載の勃起不全の治療薬。
【請求項7】
勃起不全を発症した対象に投与する用途であり、前記対象の国際勃起機能スコアIIEF-5が10以下である、請求項1に記載の勃起不全の治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子、勃起不全の予防薬または治療薬および勃起不全の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
勃起不全(ED)は加齢とともに増加することが広く知られている。生活習慣病の多様化や社会的ストレスの増大により、40歳以上の日本人男性の3人に1人がEDであると推定されている。EDの原因の80%以上に器質的病因があり、その中で最も一般的なのは血管原性障害であり、動脈流入障害および静脈流出の異常が関与する可能性がある(海綿体の体静脈閉塞)。
ホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE5I)がEDの経口薬として知られているが、まれに心筋梗塞の深刻な副作用がある。そのため、新しい治療法の開発が検討されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ヒト臍帯血幹細胞は、重度の2型糖尿病の男性の陰茎に投与すると、勃起機能に有益な効果があることが記載されている。
【0004】
一方、マイクロRNA(miRNA)の研究が進み、一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)に関連するmiRNAの機能や対象遺伝子がわかってきている(非特許文献2~5参照)。
【0005】
非特許文献2には、miR-16は誘導型一酸化窒素合成酵素(NOS2またはiNOS)活性を促進し、抗腫瘍性微小環境の維持に必要なNO産生を増加させることが記載されている。
【0006】
非特許文献3には、iNOSがmiR-155の導入より強く誘導されたが、miR-155の抑制により軽減されたことに基づいて、miR-155はiNOSを上昇させることが記載されている。
【0007】
非特許文献4には、miR-101の過剰発現によるNrf2核集積は、HO-1誘発、VEGF発現、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)由来のNO産生を伴って増加することが記載されている。
【0008】
非特許文献5には、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてmiR-455-3pを過剰発現させるとeNOSのタンパク質量が増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Exp Clin Transplant. (2010) 8(2):150-160
【非特許文献2】Int. J. Mol. Sci. (2021) 22(12): 6264
【非特許文献3】Biochem Biophys Res Commun. (2018) 503(2): 452-458
【非特許文献4】Antioxid. Redox Signal. (2014) 21(18): 2469-2482
【非特許文献5】Sci. Rep. (2017) 7: 44807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、miRNAについて記載がなかった。
非特許文献1~4には一酸化窒素(NO)および一酸化窒素合成酵素(NOS)に関連するmiRNAの機能や対象遺伝子などが記載されているものの、勃起不全の治療薬としてこれらのmiRNAを投与する手段は明記されていなかった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御(抑制や阻害など)できる、新規な微小粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定のマイクロRNAを含む微小粒子が、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御(抑制や阻害など)できることを見出した。
【0013】
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
[1] 一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含み、
一酸化窒素の産生促進剤である、微小粒子。
[2] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の微小粒子。
[3] 一酸化窒素の産生を制御するmiRNAとして一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含み、
一酸化窒素合成酵素の発現促進剤である、[1]に記載の微小粒子。
[4] 一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとして、下記NOS関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、[3]に記載の微小粒子;
NOS関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3p。
[5] 微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子である、[1]に記載の微小粒子。
[6] 微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清からエクソソームを除いた成分を含まない、[5]に記載の微小粒子。
[7] 微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含む、[1]に記載の微小粒子。
[8] 勃起不全を発症した対象に投与する用途であり、対象の国際勃起機能スコアIIEF-5が10以下である、[1]に記載の微小粒子。
[9] [1]~[8]のいずれか一項に記載の微小粒子を含む、勃起不全の予防薬または治療薬。
[10-0] 有効量の[1]~[8]のいずれか一項に記載の微小粒子を、勃起不全を発症した対象に投与することを含む、勃起不全の改善方法。
[10] 有効量の[1]~[8]のいずれか一項に記載の微小粒子を、勃起不全を発症したヒト以外の動物に投与することを含む、勃起不全の改善方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる、新規な微小粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の微小粒子)に発現するmiRNAの発現量を示したヒートマップである。
図2図2(A)は、治療前(pre)および治療終了後(3rd)のIIEF-5値について、患者42名の平均値を示したグラフである。図2(B)は、治療前(pre)および治療終了後(post)のRigidity値について、患者42名の平均値を示したグラフである。図2(C)は、治療前(pre)および治療終了後(post)のGrade値について、患者42名の平均値を示したグラフである。
図3図3は、治療前のIIEF-5値に基づくED重症度と、IIEF-5値の改善率の関係を示した棒グラフ;および治療前のIIEF-5値に基づくED重症度と、年齢の関係を示した折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
[微小粒子]
本発明の微小粒子は、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含み、一酸化窒素の産生促進剤である。
本発明の微小粒子は、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる。その結果、本発明の微小粒子は、勃起不全を改善できることが好ましく、予防または治療できることがより好ましい。
以下、本発明の微小粒子の好ましい態様を説明する。
【0018】
<一酸化窒素>
一酸化窒素は、体内で生成され、主に血管拡張作用を有する。一酸化窒素は、細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP(cGMP)を合成させることにより、シグナル伝達に関与する。
血管内皮は、一酸化窒素をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。一酸化窒素は、陰茎の勃起でも働いている。一酸化窒素は陰茎の海綿体の血管内皮から放出されてcGMPが生成され、その後に陰茎海綿体平滑筋の弛緩をもたらして血管が拡張され、勃起を促進する。
【0019】
(一酸化窒素合成酵素)
生体内では、一酸化窒素合成酵素(NOS)によって、アルギニンと酸素から一酸化窒素が合成される。
一酸化窒素合成酵素は、信号伝達に使う一酸化窒素を低濃度で産生するための神経性NOS(nNOS)および内皮性NOS(eNOS)と、病原菌に対抗するための誘導性NOS(NOS2またはiNOS)の3種類がある。
【0020】
<勃起不全>
勃起不全とは、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、および/または維持できない状態が、持続または再発することをいう(ED診療ガイドライン第3版、編集 日本性機能学会/日本泌尿器科学会)。
ED診療ガイドライン第3版によれば、EDは、器質性、心因性、混合性の3つに分類される。
勃起不全のリスクファクターとして、加齢、糖尿病、肥満/運動不足、心血管疾患/高血圧、喫煙、テストステロン低下、慢性腎臓病/下部尿路症状、神経疾患、手術/外傷、うつなど精神的因子、薬物、睡眠時無呼吸症候群の12の因子が日本人では挙げられる。日本人以外では、さらに脂質異常症もリスクファクターとなりうる。
【0021】
(EDの発生機序)
EDのリスクファクターは様々であり、それに対応してEDの発生機序も多様である。
一般的なEDの発生機序は、局所の一酸化窒素の産生が低下することで、海綿体平滑筋の弛緩が障害されることによる。また、主なリスクファクターに関するEDの発生機序は以下のとおりである。
糖尿病による勃起不全の発生のメカニズムは、血管障害、神経障害、糖尿病に起因する生殖腺不全(hypogonadism)、陰茎局所の感染やペロニー病の発生といった要因、精神心理的要因により、局所の一酸化窒素の産生が低下することで海綿体平滑筋の弛緩が障害され、EDが起こる。
高血圧患者がEDを合併する理由として、血圧の恒常性と勃起機能の両者の維持に不可欠な神経・血行動態・生理活性物質などのバランスが崩れることなどが知られている。
喫煙による勃起不全の発生のメカニズムは、血管内皮障害、陰茎への血流障害、交感神経刺激などである。
慢性腎臓病によるED発生の機序としては、血流障害、神経障害、ホルモンの異常、腎性貧血、内因性NO合成阻害物質(asymmetrical dimethylarginine;ADMA)の蓄積、薬剤性、うつなどの多因子が考えられている。
EDと下部尿路症状の両者に共通する発生機序として、交感神経系の過活動、骨盤内血管床の虚血、NOS/NOの低下、Rhoキナーゼのup-regulationの可能性が示唆されている。
手術/外傷によるED発生の機序としては、海綿体神経の損傷が主な原因と考えられている。神経自体を手術によって損傷しなくても、手術中の熱、局所の虚血や炎症が神経へダメージを与える。
【0022】
(EDの治療方法)
(1)PDE5I
ホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE5I)がEDの経口薬として知られている。PDE5は一酸化窒素の細胞内セカンドメッセンジャーであるcyclic GMP(cGMP)を分解する酵素であり、陰茎海綿体に豊富に存在する。PDE5Iは、PDE5の作用を競合的に阻害し、陰茎海綿体平滑筋細胞内のcGMP濃度を高めることで陰茎海綿体平滑筋の弛緩をもたらし、勃起を促進する。例えば、シルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)などが知られている。
なお、テストステロン低値症例では、PDE5IにTRT(テストステロン補充療法)を併用する治療法も知られている。
【0023】
(2)陰圧式勃起補助具
陰圧式勃起補助具(vacuum erection device:VED)は陰茎に陰圧をかけて陰茎内に血液を吸引した後、陰茎基部にゴムバンドを巻いて血液を滞留させ、擬似勃起状態を起こす。
【0024】
(3)プロスタグランジンE1の海綿体注射
プロスタグランジンE1(PGE1)の陰茎海綿体内への注射を行う。2015年のEAUガイドラインとICSMガイドラインともにPDE5I無効の場合または禁忌の場合の第二選択治療に推奨されている。PGE1に反応の悪い症例は血管性因子の存在が推定され、特に糖尿病、メタボリック症候群では反応が悪い。一方、神経性EDはPGE1の勃起反応が良好であり、脊髄損傷、前立腺全摘後は高い有効率を示す。
【0025】
(4)低強度体外衝撃波療法
低強度体外衝撃波療法(LI-ESWT)はEAUガイドラインではVEDと並んでPDE5阻害薬無効や効果低下例の第一選択治療に採用されている。治療メカニズムは、低強度体外衝撃波により血管新生が促進され、血管内皮機能および血流動態改善が期待される点にある。この観点からLI-ESWTの適応は血管性EDである。
【0026】
(5)間葉系幹細胞由来の成分
ヒト臍帯血幹細胞は、重度の2型糖尿病の男性の陰茎に投与すると、勃起機能に有益な効果がある(Exp Clin Transplant. (2010) 8(2):150-160)。この文献には、AD治療のメカニズムの詳細は記載されていない。
一方、本発明の微小粒子は、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含み、一酸化窒素の産生促進剤である。本発明の微小粒子は、NO産生を促進できるため、陰茎海綿体平滑筋の弛緩をもたらし、勃起を促進し、勃起不全の改善に用いられる。
本発明の微小粒子の好ましい態様では、一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとして、NOS関連miRNA群を含むため、一酸化窒素合成酵素の発現を高めてNO産生を高めることができる。
なお、本発明の微小粒子は、一酸化窒素合成酵素の発現促進とは別の作用機序である、血管内皮細胞を修復する作用機序によって海綿体の血管拡張作用を回復させてもよい。本発明の微小粒子は、血管内皮細胞の修復と、NOS関連miRNA群による一酸化窒素合成酵素の発現促進との相乗効果により、血管内皮からのNO産生を顕著に促進させてもよい。
【0027】
<微小粒子の詳細>
本発明の微小粒子の有効成分であるmiRNAは、微小粒子に含まれる。
本発明の微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞等の間葉系幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞等から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落するものである。微小粒子は、歯髄由来幹細胞等の培養上清に含まれることが好ましく、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子であることがより好ましい。ただし、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、必ずしも歯髄由来幹細胞の培養上清から取得する必要がない。例えば、歯髄由来幹細胞の内部の微小粒子を任意の方法で単離したものであっても、歯髄由来幹細胞の培養上清から単離できる微小粒子と同じものであれば、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子と言える。
歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子は、培養上清に含まれた状態で用いてもよく、または培養上清から精製した状態で用いてもよい。微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞などのいずれの幹細胞に由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0028】
(miRNA)
本発明では、微小粒子が一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含む。
本発明において、miRNA(MicroRNAs)は、例えば21~25塩基(ヌクレオチド)のRNA分子である。miRNAは、標的遺伝子(target;ターゲット)mRNAの分解または解読段階における抑制により遺伝子発現を調節できる。
本発明において、miRNAとは、例えば、一本鎖(一量体)でもよいし、二本鎖(二量体)であってもよい。また、本発明において、miRNAは、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0029】
なお、has-miR-16-5pなどの本明細書に記載のmiRNAの配列は公知のデータベース(例えば、miRBase database)にアクセッション番号と関連づけられて登録されており、当業者であれば配列を一義的に定めることができる。例えば、has-miR-16-5pのアクセッション番号はMI0000070であり、miRBase databaseに配列が登録されている。以下、各miRNAのアクセッション番号は省略する。
ただし、本明細書におけるmiRNAは、has-miR-16-5pなどの成熟型miRNAに対して1~5個程度の塩基が異なるバリアントも含む。また、本明細書における各miRNAは、各miRNA(例えばhas-miR-16-5p)の塩基配列と同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、それらの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。「同一性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。アライメントは、例えば、BLAST等の任意のアルゴリズムの利用により行うことができる。同一性は、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または約99%である。同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列において、点変異、欠失および/または付加を有してもよい。前記点変異等の塩基数は、例えば、1~5個、1~3個、1~2個、または1個である。また、相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、特開2017-184642号公報の[0028]に記載の条件を挙げることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0030】
本発明では、微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAを含むことが好ましい。以下、微小粒子が含むmiRNAの好ましい態様を説明する。
【0031】
本発明では、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAとして一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。この場合、本発明の微小粒子は、一酸化窒素合成酵素の発現促進剤であることが好ましい。
【0032】
一酸化窒素の産生を制御するmiRNA、特に一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAは勃起不全の治療薬として有効である。NO産生やNOS発現に関するmiRNAとして、以下のmiRNAが知られている。
Antioxid. Redox Signal. (2014) 21(18): 2469-2482によれば、miR-101の過剰発現によるNrf2核集積は、HO-1誘発、VEGF発現、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)由来のNO産生を伴って増加する。
Int. J. Mol. Sci. (2021) 22(12): 6264によれば、miR-155は、食道腺癌細胞(EAC)のFGF-2を負に標的化し、腫瘍関連マクロファージ(TAM)のNOS2を促進することにより、増殖、遊走、浸潤、血管新生を制御する。また、Biochem Biophys Res Commun. (2018) 503(2): 452-458によれば、TNF-α、IL-12、iNOSがmiR-155の導入より強く誘導され、miR-155の抑制により軽減される。すなわち、miR-155はiNOSを上昇させる。
Int. J. Mol. Sci. (2021) 22(12): 6264によれば、miR-16は誘導型一酸化窒素合成酵素(NOS2またはiNOS)活性を促進し、抗腫瘍性微小環境の維持に必要なNO産生を増加させる。また、miR-16はPD-L1を標的として免疫抑制を減少させる。
Sci. Rep. (2017) 7: 44807によれば、H2SはmiR-455-3pの発現を促進することによりeNOSの安定性を制御する。また、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてmiR-455-3pを過剰発現させるとeNOSのタンパク質量が増加し、逆にmiR-455-3pを阻害するとeNOSのタンパク質量が減少する。
これらのNO産生やNOS発現に関するmiRNA(miR-101、miR-155、miR-16およびmiR-455-3p)は、勃起不全の治療薬として有効である。
【0033】
これらのNO産生やNOS発現に関するmiRNA(miR-101、miR-155、miR-16およびmiR-455-3p)のうち、本発明の微小粒子は、一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAとして、下記NOS関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含むことがより好ましい。
NOS関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3p。
この場合、微小粒子がhas-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3pのうち少なくとも1種類を含むことが好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5pのうち少なくとも1種類を含むことがより好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、has-miR-16-5pのうち少なくとも1種類を含むことが特に好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5pおよびhas-miR-16-5pをすべて含むことがより特に好ましい。
【0034】
微小粒子は一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAのうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、4.0以上含むことが好ましく、6.0以上含むことがより好ましく、8.0以上含むことが特に好ましく、10.0以上含むことがより特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-101-3p、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3pをいずれも4.0以上含むことが好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3pをいずれも6.0以上含むことがより好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5pをいずれも8.0以上含むことが特に好ましく、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、has-miR-16-5pをいずれも10.0以上を含むことがより特に好ましい。
微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、has-miR-155-5pおよびhas-miR-16-5pをいずれも12.0以上含むことがさらに好ましく、has-miR-16-5pを14.0以上含むことがよりさらに好ましい。
【0035】
本発明の微小粒子は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、NOS関連miRNA群(好ましくはhas-miR-101-5p、has-miR-155-5p、has-miR-16-5pのいずれか1種類;より好ましくはhas-miR-16-5p)の発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の微小粒子は一酸化窒素の産生促進剤であり、任意の細胞内(好ましくは陰茎の血管内皮細胞内)における一酸化窒素の産生を通常の(未処理の細胞の場合の)1.2倍以下に促進できることが好ましく、2.0倍以上に促進できることがより好ましく、2.5倍以上に促進できることが特に好ましい。
本発明の微小粒子が一酸化窒素合成酵素の発現促進剤である場合、任意の細胞内(好ましくは陰茎の血管内皮細胞内)における一酸化窒素合成酵素の遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)1.2倍以下に促進できることが好ましく、2.0倍以上に促進できることがより好ましく、2.5倍以上に促進できることが特に好ましい。
【0037】
(miRNAの種類)
ここで、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子には、約2600種類のsmall RNAが含まれる。このうちの約1800種類がmiRNAである。これらのmiRNAのうち、含有量が多いmiRNAは180~200種類である。歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子における含有量が多いmiRNAは、脳神経疾患や勃起不全に治療に関連するマイクロRNAが多い点が特徴であり、従来知られておらず、本発明者が新たに見出した知見である。この特徴は、その他の間葉系幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAの種類とは大きく異なる。例えば、脂肪由来幹細胞の微小粒子や臍帯由来幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAには、脳神経疾患や勃起不全に治療に関連するマイクロRNAはほとんど含まれない。
【0038】
微小粒子は、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できるマイクロRNA(以下、勃起不全関連マイクロRNAともいう)として2種類以上を含むことが好ましく、3種類以上を含むことがより好ましく、4種類以上を含むことがより好ましく、5種類以上を含むことが特に好ましく、6種類以上を含むことがより特に好ましい。
【0039】
(微小粒子の種類)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明に用いられる微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0040】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0041】
(微小粒子の含有量)
微小粒子組成物における、微小粒子の含有量は特に制限はない。微小粒子組成物は、微小粒子を0.5×10個以上含むことが好ましく、1.0×10個以上含むことがより好ましく、2.0×10個以上含むことが特に好ましく、2.5×10個以上含むことがより特に好ましく、1.0×10個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、微小粒子組成物における、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。微小粒子組成物は、微小粒子を1.0×10個/mL以上含むことが好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがより好ましく、4.0×10個/mL以上含むことが特に好ましく、5.0×10個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。
本発明の微小粒子の好ましい態様は、微小粒子をこのように多量または高濃度で含むことにより、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAまたは勃起不全の治療に用いられるmiRNAの量を高く維持できる。
【0042】
<その他の成分>
微小粒子組成物は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞の培養上清それ自体または微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への微小粒子の投与を促進することである。
【0043】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0044】
微小粒子組成物は、従来公知の勃起不全の治療薬の有効成分を含んでいてもよい。当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0045】
一方、微小粒子組成物は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞を含まないことが好ましい。
また、微小粒子組成物は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、微小粒子組成物は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、微小粒子組成物は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、微小粒子組成物は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
微小粒子組成物は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
<微小粒子の製造方法>
微小粒子の製造方法は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清を調製し、続けて歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、本発明の微小粒子を調製してもよい。
【0047】
(歯髄由来幹細胞等の培養上清の調製方法)
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
歯髄由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の微小粒子を投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0049】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くの一酸化窒素の産生を制御するmiRNAが含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0050】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-[(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-[(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0051】
本発明の微小粒子を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清や、それに由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞等以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞等以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
微小粒子組成物は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0052】
歯髄由来幹細胞またはこの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞を培養して得られる培養液である。例えば歯髄由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0053】
歯髄由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0054】
なお、「歯髄由来幹細胞等の培養上清」は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞を含まず、歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0055】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を得ることができる。
【0056】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞の種類に応じた歯髄由来幹細胞の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞の培養には、エクソソームなどの微小粒子を多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0057】
本発明でエクソソームなどの微小粒子の調製に用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0058】
(微小粒子の調製)
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製して、微小粒子を調製することができる。
【0059】
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。微小粒子組成物からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、特定の酵素活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0060】
微小粒子組成物の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、微小粒子組成物は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0061】
本発明の微小粒子は、従来の勃起不全の治療薬または予防薬として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の微小粒子をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞の培養上清が、勃起不全の患者からの歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の微小粒子をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する場合、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞の培養上清またはそれに由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の微小粒子を用いた場合は細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、本発明の微小粒子は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0062】
[勃起不全の予防薬または治療薬]
本発明の勃起不全の予防薬または治療薬は、本発明の微小粒子を含む。
本明細書において「予防」とは、疾患(本明細書では勃起不全)の発症を未然に防ぐことをいう。また、本明細書において「治療」とは、発症した疾患における症状の進行を緩和し、抑制し、又は阻止すること、及び症状を改善することをいう。本発明の勃起不全の予防薬または治療薬は、勃起不全の治療薬であることが好ましい。
【0063】
[勃起不全の改善方法]
本発明の勃起不全の改善方法は、有効量の本発明の微小粒子あるいは有効量の本発明の勃起不全の予防薬または治療薬を、勃起不全を発症した対象に投与することを含む。
【0064】
本発明の微小粒子を、勃起不全を発症した対象に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、海綿体内投与、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、海綿体内投与であることがより好ましい。本発明における投与方法は、陰茎海綿体注射(ICI;intracavernous injection)であること特に好ましい。
また、種々の製剤化技法を用い、微小粒子のインビボ分布を変えることができる。インビボ分布を変える多数の方法が当業者に既知である。そのような方法の例には、たとえば、タンパク質、脂質(たとえば、リポソーム)、炭水化物または合成ポリマーのような物質で構成される小胞におけるエクソソームの保護が挙げられる。
勃起不全を発症した対象に投与された本発明の微小粒子は対象の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1か月当たり1回以上とすることができ、1か月当たり1~10回であることが好ましく、1か月当たり2~6回であることがより好ましく、1か月当たり4回(1週間当たり1回)であることが特に好ましい。投与間隔は、1時間~2週間であることが好ましく、1日間~10日間であることがより好ましく、6日間~8日間(約1週間)であることが特に好ましい。ただし、投与対象の生物種や投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
本発明の微小粒子は、微小粒子を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、勃起不全を発症した対象に投与する用途であることが好ましい。投与対象がヒトである場合は、治療有効期間は1~10週間であることが好ましく、2~8週間であることがより好ましく、3~6週間であることが特に好ましい。治療有効期間は初期に3~4週間と設定し、治療効果判定における改善率が低い場合は6~8週間に延期することが好ましい。
2.0×10個/mlの濃度の歯髄由来幹細胞の培養上清を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり0.1~5mlであることが好ましく、0.3~3mlであることがより好ましく、0.5~1mlであることがより特に好ましい。投与対象がヒトである場合は、1人当たり0.1~10mlであることが好ましく、0.5~5mlであることがより好ましく、1~3mlであることがより特に好ましい。
0.1×10個/μgの濃度の微小粒子を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり1~50μgであることが好ましく、3~30μgであることがより好ましく、5~25μgであることがより特に好ましい。投与対象がヒトである場合は、1人当たり1~100μgであることが好ましく、5~50μgであることがより好ましく、10~30μgであることがより特に好ましい。
その他の動物への体重当たりの投与量の好ましい範囲は、モデルマウスへの体重(約25g)当たりの投与量から比例関係を用いて計算することができる。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
【0065】
本発明の微小粒子を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の微小粒子を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
【0066】
本発明の微小粒子は、従来公知の勃起不全の治療薬と併用してもよい。具体的には、例えば従来公知のPDE5Iなどと併用してもよい。
【実施例0067】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0068】
[実施例1]
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製して、培養上清を分取した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
【0069】
<エクソソームの調製>
得られた歯髄由来幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、-80℃で保管した。
歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームを含む組成物を、実施例1の微小粒子組成物サンプルとした。
【0070】
実施例1の微小粒子組成物に含まれる微小粒子の平均粒径、濃度を評価した。
実施例1の微小粒子組成物に含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
実施例1の微小粒子組成物は1.0×10個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、具体的には2.0×10個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた実施例1の微小粒子組成物の成分を公知の方法で分析した。その結果、実施例1の微小粒子組成物は、歯髄由来幹細胞の幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、実施例1の微小粒子組成物の有効成分であることがわかった。
【0071】
[試験例1]:エクソソームで発現するマイクロRNA
実施例1の微小粒子組成物に含まれるsmall RNAを次世代シーケンシング(NGS)解析により解析した。NGS解析により、実施例1の微小粒子組成物(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNAが1787個同定された。得られた結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
[試験例2]:疾患に関わるマイクロRNAの探索
疾患に関わるマイクロRNAを探索した。疾患に関連するmiRNAの抽出はIMOTA(Interactive Multi-Omics-Tissue Atlas)を用いた。IMOTAは、各組織や細胞におけるmiRNAやmRNA、タンパク質の相互作用や発現量について調べることができる対話型のマルチオミクスアトラスである(Nucleic Acids Research, Volume 46, Issue D1, 4 January 2018, Pages D770-D775, "IMOTA: an interactive multi-omics tissue atlas for the analysis of human miRNA-target interactions")。ここでは、勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子を制御するマイクロRNAが含まれているか、または、治療薬のターゲットとなるタンパク質および/または遺伝子を制御しているマイクロRNAが含まれているかを探索した。この試験例2では、勃起不全に関わるタンパク質として、一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを探索した。
【0074】
一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記NOS関連miRNA群(6種類)であった。
NOS関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、has-miR-101-5p、has-miR-155-5p、hsa-miR-16-2-3p、has-miR-16-5p、hsa-miR-455-3p。
hsa-miR-101-3pの発現量は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして11.84であった。これは、表1に示した実施例1の微小粒子組成物(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNA総数である1787個のマイクロRNAのうち54番目であった。
hsa-miR-101-5pの発現量は、リードカウント数のLog2Ratioとして5.13であり、実施例1の微小粒子組成物に含まれるmiRNAのうち601番目であった。
hsa-miR-155-5pの発現量は、リードカウント数のLog2Ratioとして12.17であり、実施例1の微小粒子組成物に含まれるmiRNAのうち44番目であった。
hsa-miR-16-2-3pの発現量は、リードカウント数のLog2Ratioとして8.49であり、実施例1の微小粒子組成物に含まれるmiRNAのうち162番目であった。
hsa-miR-16-5pの発現量は、リードカウント数のLog2Ratioとして17.69であり、実施例1の微小粒子組成物に含まれるmiRNAのうち1番目であった。
hsa-miR-455-3pの発現量は、リードカウント数のLog2Ratioとして7.73であり、実施例1の微小粒子組成物に含まれるmiRNAのうち196番目であった。
そのため、本発明の微小粒子は、一酸化窒素合成酵素の発現制御剤として用いられることがわかった。
【0075】
上記NOS関連miRNA群に含まれる6種類のmiRNAの発現量を比較した結果を図1のヒートマップに示す。ヒートマップの濃度は、リードカウント値のlog ratioで示したものである。
【0076】
図1より、本発明の微小粒子は、勃起不全の改善に関するmiRNAとして、一酸化窒素の産生を制御するmiRNA(一酸化窒素合成酵素の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNA)を高濃度で含むことがわかった。そのため、本発明の微小粒子は、一酸化窒素合成酵素の発現を制御して一酸化窒素の産生を制御でき、すなわち勃起不全に関連するタンパク質および/または遺伝子の発現を制御できる。その結果、本発明の微小粒子は、勃起不全の改善、予防または治療に有用である。
【0077】
[試験例3]:勃起不全の治療
本発明の微小粒子を含む、実施例1で調製した培養上清を、治療対象である勃起不全の患者42名に投与して、評価を行った。なお、これらの患者は、PDE5Iなど他の薬でED治療を受けていない。
実施例1で調製した培養上清は、患者の陰茎に直接注射されて、投与された。具体的には、小さな柔らかいヘアバンドを陰茎の根元に緩く取り付け、2mlの培養上清を、極細針を使用して左右の海綿体にそれぞれ1回ずつ直接注入された。各患者には、1週間隔で合計3回の培養上清の注射による投与を行った。
【0078】
治療前(pre)および治療開始後の患者に対して、IIEF-5、RigidityおよびGradeの治療効果判定方法を用いて、治療効果の評価を行った。
【0079】
(1)国際勃起機能スコアIIEF-5(日本語版):勃起機能問診票の1種類であり、問診結果に基づいて、患者のIIEF-5値を導出する。なお、IIEF-5は、EDのスクリーニングやED治療効果判定に一般的に使用される。
なお、IIEF-5値によって、EDの重症度を判定することもできる。
重症ED: 5~7
中等症ED: 8~11
軽症~中等症ED: 12~16
軽症ED: 17~21
EDではない: 22~25
【0080】
(2)Rigidity:勃起機能問診票の1種類であり、20歳のときの自分の勃起硬度を100%とした場合の、現在の自分の勃起硬度の値の比率をパーセントで評価した値(問診結果)を、Rigidity値として導出する。
【0081】
(3)Grade:IIEF-5より簡便な勃起機能問診票の1種類であり、以下の勃起の硬さスケール(日本語版Erection Hardness Score;EHS)に基づき、Grade値を導出する。
あなたは自分の勃起硬度をどのように評価しますか?
Grade 1:陰茎は大きくなるが、硬くはない。
Grade 2:陰茎は硬いが、挿入に十分なほどではない。
Grade 3:陰茎は挿入には十分硬いが、完全には硬くはない。
Grade 4:陰茎は完全に硬く、硬直している。
【0082】
<治療効果判定方法の比較>
図2(A)は、治療前(pre)および治療終了後(3rd)のIIEF-5値について、患者42名の平均値を示したグラフである。図2(B)は、治療前(pre)および治療終了後(post)のRigidity値について、患者42名の平均値を示したグラフである。図2(C)は、治療前(pre)および治療終了後(post)のGrade値について、患者42名の平均値を示したグラフである。
図2(A)、図2(B)および図2(C)より、治療前後での改善率は、どの治療効果判定方法でも有意な改善結果(P<0.0001)を得られたことがわかった。
【0083】
IIEF-5値の改善率(3rd IIEF-5値/pre IIEF-5値)およびRigidity値の改善率(3rd Rigidity値/pre Rigidity値)の間には有意に正の相関があった(P=0.003)。
IIEF-5値の改善率(3rd IIEF-5値/pre IIEF-5値)およびGrade値の改善率(3rd Grade値/pre Grade値)の間は有意に正の相関があった(P<0.0001)。
以上より、治療効果判定方法の相互には有意に正の相関があることがわかった。
【0084】
<ED重症度ごとの治療効果の比較>
図3は、治療前のIIEF-5値に基づくED重症度と、IIEF-5値の改善率(3rd IIEF-5値/pre IIEF-5値)の関係を示した棒グラフ;および治療前のIIEF-5値に基づくED重症度と、年齢の関係を示した折れ線グラフである。
図3の棒グラフより、治療前のED重症度が高いほど、IIEF-5値の治療前後での改善率が高まる傾向がわかった。すなわち、治療前EDのIIEF-5に基づく重症度分類で、重症度が悪いほど、有意な治療効果が得られた。特に、本発明の微小粒子は、特に国際勃起機能スコアIIEF-5が10以下である対象に投与する用途である場合、有意な治療効果が得られることがわかった。
なお、図3の折れ線グラフより、治療前のED重症度と年齢には有意な相関は認められなかった。
【0085】
<Responder症例を治療前に予測する因子>
IIEF-5値の改善率(3rd IIEF-5値/pre IIEF-5値)が135%(全42症例の中央値)以上の22症例をResponder、135%未満の20症例をNon-Responderと定義して、分析した。得られた結果を下記表2に示す。なお、1stは1回目の培養上清の注射後の患者であり、2ndは2回目の培養上清の注射後の患者であり、3rdは3回目の培養上清の注射後(すなわち治療終了後)の患者である。
下記表2より、ResponderとNon-Responderの2群間で、年齢およびIIEF-5値(pre)に有意差が認められた。
【0086】
【表2】
【0087】
さらに、"年齢<70"および"pre IIEF-5値<10"の2因子で全42種類を次の3群に層別化した。
Score 0("年齢≧70" and "pre IIEF-5値≧10"):12症例中、Responderは1例(8.3%)
Score 1("年齢<70" or "pre IIEF-5値<10"):20症例中、Responderは12例(60.0%)
Score 2("年齢<70" and "pre IIEF-5値<10"):10症例中、Responderは9例(90.0%)
以上より、これら2因子は、治療前の有意な予測因子であることがわかった(p=0.0001)。
なお、Score 2の残り1症例に対し、3回目の培養上清の注射による投与の後、さらに1週間隔で3回の培養上清の注射による延長投与を行った結果、6回投与後のIIEF-5値の改善率(6th IIEF-5値/pre IIEF-5値)は222%となった。すなわち、延長投与により、Score 2では最終的には10症例中、10症例ともResponderとなった。
以上より、本発明の微小粒子は、70歳未満の重症EDの対象、特に70歳未満の国際勃起機能スコアIIEF-5が10以下である対象に投与する用途である場合、有意な治療効果が得られることがわかった。
【0088】
<他の治療効果判定方法における予測因子>
まず、Rigidity値の改善率(Rigidity post/Rigidity pre)が155%(全42症例の中央値)以上の20症例をResponder、155%未満の20症例をNon-Responderと定義して、分析した。得られた結果を下記表3に示す。
下記表3より、ResponderとNon-Responderの2群間で、治療開始前のRigidity値(Rigidity pre)に有意差が認められた。
【0089】
【表3】
【0090】
次に、Grade値の改善率(Grade post/Grade pre)が150%(全42症例の中央値)以上の22症例をResponder、150%未満の19症例をNon-Responderと定義して、分析した。得られた結果を下記表4に示す。
下記表4より、ResponderとNon-Responderの2群間で、治療開始前のGrade値(Grade pre)に有意差が認められた。
【0091】
【表4】
【0092】
以上より、RigidityおよびGradeでは、年齢に関わりなく、治療開始前の値に有意差があることがわかった。本発明の微小粒子は、重症EDの対象、特にRigidity値が40%未満(好ましくは30%未満)またはGrade値が2.0未満である対象に投与する用途である場合、有意な治療効果が得られることがわかった。
【0093】
なお、実施例1で調製した培養上清の代わりに、一酸化窒素の産生を制御するmiRNAに関連するmiRNAをより高濃度で含む実施例1で調製したエクソソームを用いることで、勃起不全をさらに改善できる。
図1
図2
図3