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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060566
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/18 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
G01N27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111146
(22)【出願日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2022167731
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】海田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】乾 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】松尾 裕
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AB09
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA05
2G060BB02
2G060BB05
2G060HB06
2G060HC01
2G060HC15
2G060HC26
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】負のドリフトをリアルタイムにキャンセル可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ1は、COガスの濃度に応じたガス検出信号Vco2_1を生成するセンサ部10と、ガス検出信号Vco2_1に基づいてCOの濃度を示す出力信号OUTを生成する制御回路20とを備える。制御回路20は、センサ部から出力されるガス検出信号Vco2_1のレベルが、COガスの濃度が平常時の濃度である場合におけるガス検出信号のレベルに相当するリファレンス値を下回っている場合、ガス検出信号Vco2_1が示す測定対象ガスの濃度よりも高くなるよう出力信号OUTを補正する。これにより、負のドリフトをリアルタイムにキャンセルすることが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスの濃度に応じたガス検出信号を生成するセンサ部と、
前記ガス検出信号に基づいて前記測定対象ガスの濃度を示す出力信号を生成する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルが、前記測定対象ガスの濃度が平常時の濃度である場合における前記ガス検出信号のレベルに相当するリファレンス値を下回っている場合、前記ガス検出信号が示す前記測定対象ガスの濃度よりも高くなるよう前記出力信号を補正する、ガスセンサ。
【請求項2】
前記制御回路は、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルが、前記リファレンス値以上の値から前記リファレンス値を下回る値に変化した場合、前記平常時の濃度の値を示すよう前記出力信号を補正する、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記制御回路は、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルが前記リファレンス値を下回っている期間において、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルの変化が前記測定対象ガスの濃度の上昇を示している場合、上昇分を前記出力信号に反映させる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記制御回路は、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルが前記リファレンス値を下回っている期間において、前記センサ部から出力される前記ガス検出信号のレベルの変化が前記測定対象ガスの濃度の低下を示している場合、前記平常時の濃度を下回らない範囲で、低下分を前記出力信号に反映させる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記制御回路は、前記ガス検出信号を取り込む度に、前記リファレンス値の算出動作を行う、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記制御回路は、環境温度に応じた前記リファレンス値の算出動作を行う、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記測定対象ガスはCOガスであり、前記平常時の濃度は平常時における大気中のCOガスの濃度である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直列接続された2つのサーミスタの接続点に現れる信号のレベルに基づいて、測定対象ガスの濃度を算出するガスセンサが開示されている。特許文献1に記載されたガスセンサにおいては、2つのサーミスタを互いに異なる温度に加熱することによって1回目の出力値を取得した後、2つのサーミスタを互いに同じ温度に加熱することによって2回目の出力値を取得し、2回目の出力値に基づいて1回目の出力値を補正することにより、経時変化によって生じるドリフトの影響をキャンセルしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-156293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたガスセンサにおいては、測定の度にサーミスタを複数回に亘って加熱する必要があるため、消費電力が大きくなるという問題があった。
【0005】
本開示においては、ドリフトの影響をキャンセル可能な改良されたガスセンサについて説明される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によるガスセンサは、測定対象ガスの濃度に応じたガス検出信号を生成するセンサ部と、ガス検出信号に基づいて測定対象ガスの濃度を示す出力信号を生成する制御回路とを備え、制御回路は、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルが、測定対象ガスの濃度が平常時の濃度である場合におけるガス検出信号のレベルに相当するリファレンス値を下回っている場合、ガス検出信号が示す測定対象ガスの濃度よりも高くなるよう出力信号を補正する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、負のドリフトをリアルタイムにキャンセル可能なガスセンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示に係る技術の一実施形態によるガスセンサ1の構成を示す回路図である。
図2図2は、制御回路25による出力信号OUTの演算動作を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、環境温度とリファレンス値Vref1の関係を示すグラフである。
図4図4は、制御回路25による出力信号OUTの補正動作の具体例を説明するためのグラフである。
図5図5は、ガスセンサ1の効果を説明するための実測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る技術の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示に係る技術の一実施形態によるガスセンサ1の構成を示す回路図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態によるガスセンサ1は、センサ部10と制御回路20を備えている。特に限定されるものではないが、本実施形態によるガスセンサ1は、雰囲気中におけるCOガスの濃度を検出するものである。
【0012】
センサ部10は、測定対象ガスであるCOガスの濃度を測定するための熱伝導式のガスセンサであり、サーミスタRd1~Rd3、固定抵抗R1及びヒータ抵抗MH1,MH2を含んでいる。サーミスタRd1~Rd3は、例えば、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる検出素子である。サーミスタRd1,Rd2は、いずれもCOガスの濃度を検出するものであるが、後述するように動作温度が互いに異なっている。また、サーミスタRd3は、環境温度を検出する温度センサとして機能する。
【0013】
図1に示すように、サーミスタRd1とサーミスタRd2は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。サーミスタRd1はヒータ抵抗MH1によって例えば300℃に加熱され、サーミスタRd2はヒータ抵抗MH2によって例えば150℃加熱される。サーミスタRd1は、300℃に加熱された場合に所定の抵抗値となるよう設計されている一方、サーミスタRd2は、150℃に加熱された場合に所定の抵抗値となるよう設計されている。サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点には、ガス検出信号Vco2_1が現れる。
【0014】
検知素子であるサーミスタRd2を150℃に加熱した状態で測定雰囲気中にCOガスが存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd2の放熱特性が変化する。かかる変化は、サーミスタRd2の抵抗値の変化となって現れる。一方、リファレンス素子であるサーミスタRd1を300℃に加熱した状態で測定雰囲気中にCOガスが存在しても、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性はほとんど変化しない。このため、300℃に加熱されたサーミスタRd1のCOガスの濃度による抵抗値の変化は、150℃に加熱されたサーミスタRd2のCOガスの濃度による抵抗値の変化よりも十分に小さい。300℃に加熱されたサーミスタRd1のCOガスの濃度による抵抗値の変化は、ほとんど無くても構わない。サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点に現れるガス検出信号Vco2_1は、制御回路20に供給される。
【0015】
サーミスタRd3と固定抵抗R1は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。固定抵抗R1とサーミスタRd3の接続点には、温度検出信号Vtemp_1が現れる。温度検出信号Vtemp_1は、制御回路20に入力される。
【0016】
制御回路20は、アンプ21,22、ADコンバータ(ADC)23、DAコンバータ(DAC)24及び制御回路25を備えている。アンプ21は、温度検出信号Vtemp_1を増幅することによって温度検出信号Vtemp_2を生成する。アンプ22は、ガス検出信号Vco2_1を増幅することによってガス検出信号Vco2_2を生成する。温度検出信号Vtemp_2及びガス検出信号Vco2_2は、ADコンバータ23に入力される。ADコンバータ23は、温度検出信号Vtemp_2及びガス検出信号Vco2_2をAD変換することによって、デジタル値である温度検出値Vtemp_adc及びガス検出値Vco2_adcを生成する。温度検出値Vtemp_adc及びガス検出値Vco2_adcは、制御回路25に供給される。後述するように、制御回路25は、ガス検出値Vco2_adcに基づく演算及び補正を行うことにより、COガスの濃度を示す出力信号OUTを生成する。一方、DAコンバータ24は、制御回路25から供給されるデジタル値をDA変換することによって、ヒータ電圧Vmh1,Vmh2を生成する。ヒータ電圧Vmh1,Vmh2はそれぞれヒータ抵抗MH1,MH2に印加され、これによりサーミスタRd1,Rd2が加熱される。
【0017】
次に、制御回路25による出力信号OUTの演算動作について説明する。
【0018】
図2は、制御回路25による出力信号OUTの演算動作を説明するためのフローチャートである。
【0019】
まず、制御回路25は、ガス検出値Vco2_adcを取り込む(ステップ41)とともに、リファレンス値Vref1を算出する(ステップ42)。リファレンス値Vref1とは、測定対象ガスの濃度が平常時の濃度である場合における、ガス検出信号Vco2_2をAD変換したレベルに相当する。言い換えれば、測定対象ガスの濃度が平常時の濃度である場合において、本来、制御回路25に入力されるべきガス検出値Vco2_adcの値がリファレンス値Vref1である。本実施形態においては測定対象ガスがCOガスであり、平常時における大気中のCOガスの濃度は約400ppmである。リファレンス値Vref1が示すCOガスの濃度(例えば400ppm)は、リミット値CO2_limitとして制御回路25内のメモリ31に記録される。
【0020】
図3に示すように、リファレンス値Vref1は環境温度によって異なる場合がある。このため、より高精度な測定を行う場合、制御回路25は、温度検出値Vtemp_adcに基づき、現在の環境温度に応じたリファレンス値Vref1を算出する。尚、ステップ41とステップ42の実行順序は逆であっても構わない。ここで、ガス検出値Vco2_adcを取り込む度にステップ42を毎回実行する必要はなく、ステップ41とステップ42を異なる周期で、或いは、非同期に実行しても構わない。さらに、環境温度に応じたリファレンス値Vref1の算出を行うことも必須ではなく、リファレンス値Vref1の環境温度による変化が小さい場合には、環境温度とは無関係なリファレンス値Vref1を用いても構わない。この場合、制御回路25内のメモリにあらかじめ定められたリファレンス値Vref1を保存しておき、ステップ42において、メモリからリファレンス値Vref1を読み出しても構わない。さらに、制御回路25は、経時変化に起因するリファレンス値Vref1のドリフトを校正する校正動作を定期的に実行しても構わない。リファレンス値Vref1をメモリに保存する場合であっても、メモリに保存されたリファレンス値Vref1を校正動作によって随時更新しても構わない。
【0021】
次に、制御回路25は、ガス検出値Vco2_adcとリファレンス値Vref1の差分値CO2_valを算出し(ステップ43)、差分値CO2_valに感度係数CO2_senを乗じることによってガス濃度値CO2_Dataを算出する(ステップ44)。ガス濃度値CO2_Dataは、COガスの補正される前の濃度に相当する。
【0022】
次に、制御回路25は、算出したガス濃度値CO2_Dataとメモリ31に記録されているリミット値CO2_limitを比較する(ステップ51)。その結果、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limit以上であれば(ステップ51:N)、メモリ33に保持される差分値CO2_dif及びメモリ34に保持されるしきい値CO2_threshをゼロにリセットし(ステップ52)、メモリ32に記録されるバッファ値CO2_bufをリミット値CO2_limitで上書きする(ステップ53)とともに、ガス濃度値CO2_Dataを出力信号OUTとして出力する(ステップ60)。尚、ステップ52,53,60の実行順序は任意である。
【0023】
これに対し、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitを下回っている場合(ステップ51:Y)には、メモリ33に保持されている差分値CO2_difに、ガス濃度値CO2_Dataとバッファ値CO2_bufの差分を加算し、これをメモリ33に上書きする(ステップ54)とともに、メモリ32に保存されるバッファ値CO2_bufをガス濃度値CO2_Dataで上書きする(ステップ55)。ここで、リミット値CO2_limitは、平常時における大気中のCOガスの濃度(例えば400ppm)を示しており、通常の環境では、これを下回ることは考えられない。つまり、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitを下回っている場合(ステップ51:Y)は、サーミスタRd1,Rd2に生じている負のドリフトにより、ガス検出信号Vco2_1が異常値を示していることを意味する。
【0024】
次に、制御回路25は、メモリ33に保持された差分値CO2_difがメモリ34に保持されたしきい値CO2_thresh以下であるか否かを判断し(ステップ56)、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh以下であれば(ステップ56:Y)、メモリ34に保持されるしきい値CO2_threshを差分値CO2_difで上書きし(ステップ57)、リミット値CO2_limitをそのままガス濃度値CO2_Data2とする(ステップ58)とともに、ガス濃度値CO2_Data2を出力信号OUTとして出力する(ステップ60)。これに対し、差分値CO2_difがしきい値CO2_threshを超えていれば(ステップ56:N)、差分値CO2_difとしきい値CO2_threshの差をリミット値CO2_limitに加算した値をガス濃度値CO2_Data2とし(ステップ59)、出力信号OUTとして出力する(ステップ60)。
【0025】
このように、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitを下回っている場合、制御回路25は、補正されたガス濃度値CO2_Data2を生成する。これにより、出力信号OUTは、ガス検出信号Vco2_1が示すCOガスの濃度よりも高くなるようを補正される。
【0026】
次に、制御回路25による出力信号OUTの補正動作の具体例について説明する。
【0027】
図4は、制御回路25による出力信号OUTの補正動作の具体例を説明するためのグラフである。図4に示す例では、メモリ31に保持されるリミット値CO2_limitが400ppmに設定されている。メモリ32に保持されるバッファ値CO2_bufの初期値は、リミット値CO2_limitと同じ400ppmである。また、メモリ33,34に保持される差分値CO2_dif及びしきい値CO2_threshの初期値は、いずれも0ppmである。
【0028】
まず、時刻t0~t4の期間においては、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppm以上であることから(ステップ51:N)、検出されたガス濃度値CO2_Dataは補正されることなく、そのまま出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。この期間においては、バッファ値CO2_bufは400ppmを維持し、差分値CO2_dif及びしきい値CO2_threshはいずれも0ppmを維持する。
【0029】
次に、時刻t5においては、ガス濃度値CO2_Dataが330ppmを示し、リミット値CO2_limitである400ppmを下回っている(ステップ51:Y)。これにより、差分値CO2_difが-70ppm(=330ppm-400ppm)に更新される(ステップ54)とともに、バッファ値CO2_bufが330ppmに更新される(ステップ55)。ここでは、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh(=0ppm)以下であることから(ステップ56:Y)、しきい値CO2_threshが差分値CO2_difで上書きされる(ステップ57)とともに、ガス濃度値CO2_Data2がリミット値CO2_limitである400ppmに補正され(ステップ58)、出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。このように、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppmを下回ると、実際に検出されたCOガスの濃度よりも高くなるよう出力信号OUTが補正される。
【0030】
次に、時刻t6においては、ガス濃度値CO2_Dataが280ppmを示し、リミット値CO2_limitである400ppmを下回っている(ステップ51:Y)。これにより、差分値CO2_difが-120ppm(=-70ppm+280ppm-330ppm)に更新される(ステップ54)とともに、バッファ値CO2_bufが280ppmに更新される(ステップ55)。ここでは、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh(=-70ppm)以下であることから(ステップ56:Y)、しきい値CO2_threshが差分値CO2_difで上書きされる(ステップ57)とともに、ガス濃度値CO2_Data2がリミット値CO2_limitである400ppmに補正され(ステップ58)、出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。
【0031】
次に、時刻t7においては、ガス濃度値CO2_Dataが280ppmを示し、リミット値CO2_limitである400ppmを下回っている(ステップ51:Y)。これにより、差分値CO2_difが-120ppm(=-120ppm+280ppm-280ppm)に更新される(ステップ54)とともに、バッファ値CO2_bufが280ppmに更新される(ステップ55)。ここでは、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh(=-120ppm)以下であることから(ステップ56:Y)、しきい値CO2_threshが差分値CO2_difで上書きされる(ステップ57)とともに、ガス濃度値CO2_Data2がリミット値CO2_limitである400ppmに補正され(ステップ58)、出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。
【0032】
このように、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppm以上から400ppmを下回る値に変化した場合(時刻t4→t5)、出力信号OUTがリミット値CO2_limitである400ppmに補正される。また、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppmを下回った後、COガスの濃度がさらに低下しても(時刻t5→t6)、この低下分は出力信号OUTに反映されず、出力信号OUTがリミット値CO2_limitである400ppmに固定される。
【0033】
次に、時刻t8においては、ガス濃度値CO2_Dataが300ppmを示し、リミット値CO2_limitである400ppmを下回っている(ステップ51:Y)。これにより、差分値CO2_difが-100ppm(=-120ppm+300ppm-280ppm)に更新される(ステップ54)とともに、バッファ値CO2_bufが300ppmに更新される(ステップ55)。ここでは、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh(=-120ppm)を超えていることから(ステップ56:N)、差分値CO2_difとしきい値CO2_threshの差(=20ppm)をリミット値CO2_limitに加算した値がガス濃度値CO2_Data2となり(ステップ59)、出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。この場合、出力信号OUTは420ppmを示す。このように、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppmを下回っている期間において、ガス検出信号Vco2_1のレベルの変化がCOガスの濃度の上昇を示している場合(時刻t7→t8)、上昇分(この場合20ppm)が出力信号OUTに反映される。
【0034】
時刻t9,t10においても同様である。つまり、時刻t9,t10においては、ガス濃度値CO2_Dataがそれぞれ320ppm、340ppmを示し、いずれもリミット値CO2_limitである400ppmを下回っているものの、ガス検出信号Vco2_1のレベルの変化がCOガスの濃度の上昇を示していることから、上昇分(時刻t9,t10のいずれにおいても20ppm)が出力信号OUTに反映される。これにより、時刻t9における出力信号OUTは440ppmを示し、時刻t10における出力信号OUTは460ppmを示す。
【0035】
次に、時刻t11においては、ガス濃度値CO2_Dataが320ppmを示し、リミット値CO2_limitである400ppmを下回っている(ステップ51:Y)。これにより、差分値CO2_difが-80ppm(=-60ppm+320ppm-340ppm)に更新される(ステップ54)とともに、バッファ値CO2_bufが320ppmに更新される(ステップ55)。ここでは、差分値CO2_difがしきい値CO2_thresh(=-120ppm)を超えていることから(ステップ56:N)、差分値CO2_difとしきい値CO2_threshの差(=40ppm)をリミット値CO2_limitに加算した値がガス濃度値CO2_Data2となり(ステップ59)、出力信号OUTとして出力される(ステップ60)。この場合、出力信号OUTは440ppmを示す。このように、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitである400ppmを下回っている期間において、ガス検出信号Vco2_1のレベルの変化がCOガスの濃度の低下を示している場合(時刻t10→t11)、リミット値CO2_limitを下回らない範囲で、低下分(この場合20ppm)が出力信号OUTに反映される。
【0036】
図5は、本実施形態によるガスセンサ1の効果を説明するための実測値を示すグラフである。
【0037】
図5に示すように、雰囲気中のCOガスの濃度が400ppmで一定であっても、補正を行わない場合、出力信号OUTが示すCOガスの濃度が時間の経過とともに低下し、マイナス値を示してしまう。これに対し、本実施形態によるガスセンサ1は、ガス濃度値CO2_Dataがリミット値CO2_limitを下回った場合に補正を実行することから、サーミスタRd1,Rd2に生じている負のドリフトがリアルタイムに補正され、COガスの正しい濃度値を出力することが可能となる。
【0038】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0039】
例えば、上記実施形態では、測定対象ガスがCOガスである場合を例に説明したが、本発明がこれに限定されるものではない。また、本発明において使用するセンサ部が熱伝導式のセンサであることは必須でなく、接触燃焼式など他の方式のセンサであっても構わない。一例として、測定対象ガスがCOガスである場合には、接触燃焼式のセンサ部を用いることができる。また、平常時におけるCOガスの濃度はほぼゼロであることから、測定対象ガスがCOガスである場合には、メモリ31に保持されるリミット値を0ppmに設定すれば良い。
【0040】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0041】
本開示によるガスセンサは、測定対象ガスの濃度に応じたガス検出信号を生成するセンサ部と、ガス検出信号に基づいて測定対象ガスの濃度を示す出力信号を生成する制御回路とを備え、制御回路は、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルが、測定対象ガスの濃度が平常時の濃度である場合におけるガス検出信号のレベルに相当するリファレンス値を下回っているために雰囲気中の実際の測定対象ガスの濃度値よりも低い値を示している場合、ガス検出信号が示す測定対象ガスの濃度を補正することにより、出力信号が示す測定対象ガスの濃度を雰囲気中の実際の濃度値に近づける。これによれば、負のドリフトをリアルタイムにキャンセルすることが可能となる。
【0042】
上記のガスセンサにおいて、制御回路は、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルが、リファレンス値以上の値からリファレンス値を下回る値に変化した場合、平常時の濃度の値を示すよう出力信号を補正しても構わない。これによれば、出力信号が示す測定対象ガスの濃度が、平常時の濃度を下回ることがない。
【0043】
上記のガスセンサにおいて、制御回路は、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルがリファレンス値を下回っている期間において、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルの変化が測定対象ガスの濃度の上昇を示している場合、上昇分を出力信号に反映させても構わない。これによれば、補正期間中においても、ガス濃度の上昇分がキャンセルされることなく出力信号に反映される。
【0044】
上記のガスセンサにおいて、制御回路は、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルがリファレンス値を下回っている期間において、センサ部から出力されるガス検出信号のレベルの変化が測定対象ガスの濃度の低下を示している場合、平常時の濃度を下回らない範囲で、低下分を出力信号に反映させても構わない。これによれば、補正期間中においても、ガス濃度の低下分がキャンセルされることなく出力信号に反映される。
【0045】
上記のガスセンサにおいて、制御回路は、ガス検出信号を取り込む度にリファレンス値の算出動作を行っても構わない。これによれば、リファレンス値が変化しうる場合であっても、より正確なリファレンス値を用いることが可能となる。
【0046】
上記のガスセンサにおいて、制御回路は、環境温度に応じたリファレンス値の算出動作を行っても構わない。リファレンス値が環境温度によって異なる場合であっても、より正確なリファレンス値を用いることが可能となる。
【0047】
上記のガスセンサにおいて、測定対象ガスはCOガスであり、平常時の濃度は平常時における大気中のCOガスの濃度であっても構わない。これによれば、負のドリフトをリアルタイムにキャンセル可能なCOガスセンサを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 ガスセンサ
10 センサ部
20 制御回路
21,22 アンプ
23 ADコンバータ
24 DAコンバータ
25 制御回路
31~34 メモリ
MH1,MH2 ヒータ抵抗
R1 固定抵抗
Rd1~Rd3 サーミスタ
図1
図2
図3
図4
図5