(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060601
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】圧電素子、圧電超音波モータ、光学部材駆動装置、カメラ装置、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H10N 30/05 20230101AFI20240424BHJP
H02N 2/04 20060101ALI20240424BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240424BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240424BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240424BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20240424BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20240424BHJP
【FI】
H10N30/05
H02N2/04
H10N30/06
H10N30/87
H10N30/20
G02B7/04 E
G03B30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179021
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】202211281590.0
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】316006783
【氏名又は名称】新思考電機有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤津 政宏
(72)【発明者】
【氏名】和出 達貴
【テーマコード(参考)】
2H044
5H681
【Fターム(参考)】
2H044BE05
5H681AA12
5H681BB02
5H681BB13
5H681BC01
5H681DD23
5H681DD39
(57)【要約】
【課題】1層の圧電層の厚さが薄くなっても電極層間での短絡・断線が発生しにくく、動作が安定した圧電素子、圧電超音波モータ、光学部材駆動装置、カメラ装置、及び電子機器を提供する。
【解決手段】圧電素子73aは、複数層の圧電層73yと、電極層と、2つの電極層を電気的に接続するスルーホール電極と、を備える。電極層は、上面73s及び偶数番目の境界面73uに形成される第1及び第2電極層73e、73fと、奇数番目の境界面73u及び下面73tに形成される共通電極層73hと、を有する。スルーホール電極は、第1及び第2スルーホール電極TH1、TH2と、共通電極層73hの間を接続する第3スルーホール電極TH3と、を有する。第2電極層73fは、離隔部73jを間にして第1電極層73eとは反対側に離隔して配置される。第3スルーホール電極TH3は離隔部73jの位置に配置される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数層の圧電層と、上面、下面、及び前記圧電層間の各境界面に配置された電極層と、異なる面に設けられた2つの前記電極層を電気的に接続するスルーホール電極と、を備え、
前記電極層は、前記上面及び前記上面側から偶数番目の前記境界面に形成される第1電極層及び第2電極層と、前記上面側から奇数番目の前記境界面及び前記下面に形成される共通電極層と、を有し、
前記スルーホール電極は、前記第1電極層の間を接続する第1スルーホール電極と、前記第2電極層の間を接続する第2スルーホール電極と、前記共通電極層の間を接続する第3スルーホール電極と、を有し、
各面において、前記第1電極層は所定の方向における一方側に配置され、前記第2電極層は、離隔部を間にして前記第1電極層とは反対側の他方側に離隔して配置され、
前記共通電極層は、前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極及びその周囲の位置を除いてほぼ各面全体に配置され、前記第3スルーホール電極は前記離隔部の位置に配置される圧電素子。
【請求項2】
前記第3スルーホール電極は積層方向から見たときに素子全体の中央部に設けられている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極とは積層方向から見たときに素子全体の中央部を中心にして点対称の位置に設けられている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極とは積層方向から見たときに素子全体の端部に設けられている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電層数は奇数である請求項1に記載の圧電素子。
【請求項6】
駆動軸と、
前記駆動軸が挿通される貫通孔を有する柱状体と、
前記柱状体の側面部に設けられ前記柱状体を介して前記駆動軸を駆動する請求項1に記載の圧電素子と、を備え、
前記所定の方向は前記駆動軸の軸方向に平行な方向である圧電超音波モータ。
【請求項7】
前記柱状体は直方体であり、前記駆動軸は前記直方体の2つの底面部の間を貫く前記貫通孔に挿通され、前記圧電素子は、前記直方体の4つの各側面部に設けられている請求項6に記載の圧電超音波モータ。
【請求項8】
前記各圧電素子の前記共通電極層は、前記柱状体に電気的に接続され、前記各圧電素子の前記第1電極層には同じ周波数、同じ位相、同じ高さの電圧が印加され、前記第2電極層には前記第1電極層に印加される電圧に対して同じ周波数、位相差90度、同じ高さの電圧が印加される請求項7に記載の圧電超音波モータ。
【請求項9】
光学部材を支持するためにキャリアと、
前記キャリアを駆動する請求項6に記載の圧電超音波モータと、を備える光学部材駆動装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光学部材駆動装置を備えたカメラ装置。
【請求項11】
請求項10に記載のカメラ装置を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、この圧電素子を用いた圧電超音波モータ、圧電超音波モータを利用した光学部材駆動装置、カメラ装置、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
IT産業の発展に伴い、スマートフォン等に実装するための超小型カメラモジュールに関する需要が高まっている。カメラモジュールでは、レンズ体等の光学部材の駆動機構として、ボイスコイルモータや圧電超音波モータが使用され得る。この圧電超音波モータは、応答速度が速く、逆駆動防止機能及び高い移送分解能を有する、という利点がある。このため、圧電超音波モータは、超小型カメラモジュール等の光学部材の駆動ユニットとして期待されている。
【0003】
特許文献1に記載の圧電超音波モータは、ローターと、弾性体と、圧電素子と、を有する。圧電素子は、第1外部電極と第1内部電極を有する第1積層内部圧電体と、第2外部電極と第2内部電極を有する第2積層内部圧電体と、内部接地電極及び外部接地電極と、を有する。この圧電超音波モータでは、第1内部電極-内部接地電極間及び第2内部電極-内部接地電極間に交流電圧を印加することにより圧電素子と弾性体が変形し、ローターを回転駆動する。この圧電超音波モータによれば、電極間の圧電層を薄くすることにより、必要な駆動力を得るために各電極間に印加する電圧を低くすることができる。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009-0026891号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された圧電超音波モータでは、圧電素子の外面に設けた各外部電極から各内部電極に交流電圧を印加する、という給電形態を採っていた。しかし、この給電形態は、1層の圧電層の厚さが薄くなるほど電極層間の短絡・断線が発生し易く動作が不安定になる場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、1層の圧電層の厚さが薄くなっても電極層間での短絡・断線が発生しにくく、動作が安定した圧電素子、この圧電素子を用いた圧電超音波モータ、圧電超音波モータを利用した光学部材駆動装置、カメラ装置、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の好適な態様である圧電素子は、積層された複数層の圧電層と、上面、下面、及び前記圧電層間の各境界面に配置された電極層と、異なる面に設けられた2つの前記電極層を電気的に接続するスルーホール電極と、を備え、前記電極層は、前記上面及び前記上面側から偶数番目の前記境界面に形成される第1電極層及び第2電極層と、前記上面側から奇数番目の前記境界面及び前記下面に形成される共通電極層と、を有し、前記スルーホール電極は、前記第1電極層の間を接続する第1スルーホール電極と、前記第2電極層の間を接続する第2スルーホール電極と、前記共通電極層の間を接続する第3スルーホール電極と、を有し、各面において、前記第1電極層は所定の方向における一方側に配置され、前記第2電極層は、離隔部を間にして前記第1電極層とは反対側の他方側に離隔して配置され、前記共通電極層は、前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極及びその周囲の位置を除いてほぼ各面全体に配置され、前記第3スルーホール電極は前記離隔部の位置に配置されることを特徴とする。
【0008】
この態様において、前記第3スルーホール電極は積層方向から見たときに素子全体の中央部に設けられていてもよい。
【0009】
また、前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極とは積層方向から見たときに素子全体の中央部を中心にして点対称の位置に設けられていてもよい。
【0010】
また、前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極とは積層方向から見たときに素子全体の端部に設けられていてもよい。
【0011】
また、前記圧電層数は奇数であってもよい。
【0012】
本発明の別の好適な態様である圧電超音波モータは、駆動軸と、前記駆動軸が挿通される貫通孔を有する柱状体と、前記柱状体の側面部に設けられ前記柱状体を介して前記駆動軸を駆動する上記圧電素子と、を備え、前記所定の方向は前記駆動軸の軸方向に平行な方向であることを特徴とする。
【0013】
この態様において、前記柱状体は直方体であり、前記駆動軸は前記直方体の2つの底面部の間を貫く前記貫通孔に挿通され、前記圧電素子は、前記直方体の4つの各側面部に設けられていてもよい。
【0014】
また、前記各圧電素子の前記共通電極層は、前記柱状体に電気的に接続され、前記各圧電素子の前記第1電極層には同じ周波数、同じ位相、同じ高さの電圧が印加され、前記第2電極層には前記第1電極層に印加される電圧に対して同じ周波数、位相差90度、同じ高さの電圧が印加されてもよい。
【0015】
本発明の別の好適な態様である光学部材駆動装置は、光学部材を支持するためにキャリアと、前記キャリアを駆動する上記圧電超音波モータと、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の別の好適な態様であるカメラ装置は、上記光学部材駆動装置を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の別の好適な態様である電子機器は、上記カメラ装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による圧電素子は、積層された複数層の圧電層と、上面、下面、及び前記圧電層間の各境界面に配置された電極層と、異なる面に設けられた2つの前記電極層を電気的に接続するスルーホール電極と、を備え、前記電極層は、前記上面及び前記上面側から偶数番目の前記境界面に形成される第1電極層及び第2電極層と、前記上面側から奇数番目の前記境界面及び前記下面に形成される共通電極層と、を有し、前記スルーホール電極は、前記第1電極層の間を接続する第1スルーホール電極と、前記第2電極層の間を接続する第2スルーホール電極と、前記共通電極層の間を接続する第3スルーホール電極と、を有し、各面において、前記第1電極層は所定の方向における一方側に配置され、前記第2電極層は、離隔部を間にして前記第1電極層とは反対側の他方側に離隔して配置され、前記共通電極層は、前記第1スルーホール電極と前記第2スルーホール電極及びその周囲の位置を除いてほぼ各面全体に配置され、前記第3スルーホール電極は前記離隔部の位置に配置される。よって、各電極層は、個別のスルーホール電極によって層間が電気的に接続されており、1層の圧電層の厚さが薄くなっても電極層間での短絡・断線が発生し難い。従って、動作が安定した圧電素子、この圧電素子を用いた圧電超音波モータ、この圧電超音波モータを利用した光学部材駆動装置、カメラ装置及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態である圧電超音波モータ100を利用した光学部材駆動装置5を含むカメラ装置8が搭載されたスマートフォン9の正面図である。
【
図3】ケース10を取り除いた光学部材駆動装置5の斜視図である。
【
図4】光学部材駆動装置5のキャリア20及びベース30の側面図である。
【
図5】光学部材駆動装置5の圧電超音波モータ100の斜視図である。
【
図6】
図5の圧電超音波モータ100からフェルト75とFPC72を除いた斜視図である。
【
図8】
図7の圧電素子73aのIa-Ib線断面図である。
【
図9A】圧電素子73aの例の1つであり、上面側から偶数番目の境界面73uの上面図である。
【
図9B】
図9Aの圧電素子73aにおける上面側から奇数番目の境界面73uの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施形態である圧電超音波モータ100(以下、単にモータ100と称することがある)を利用した光学部材駆動装置5を含むカメラ装置8は、スマートフォン9の筐体内に収容される。
【0021】
カメラ装置8は、レンズ体6と、画像センサ7と、光学部材としてのレンズ体6を駆動する光学部材駆動装置5とを有する。画像センサ7は、レンズ体6を経由して入射する光を画像信号に変換して出力する。光学部材駆動装置5は、レンズ体6を、その光軸と平行な方向に沿って駆動する。
【0022】
以下、レンズ体6の光軸に平行なZ軸と、相互に直交し、かつ、Z軸と直交するX軸及びY軸とからなるXYZ直交座標系を想定し、光学部材駆動装置5の構成を説明する。また、以下では、レンズ体6から見て被写体の側を+Z側と称し、その反対側(画像センサ7側)を-Z側と称する場合がある。
【0023】
図2に示すように、光学部材駆動装置5は、直方体状のケース10内に、レンズ体6を支持するための孔20aを有するキャリア20を収容している。光学部材駆動装置5の中央を被写体からの光が通過する。
【0024】
図3に示すように、キャリア20はベース30上に配置される。ベース30は、金属の板状部材でXY方向に広がる底面部31と、この底面部31の+Y側の端部において+Z側に直角に折れ曲がった側面部32とを有する。キャリア20は、底面部31の+Z側に配置される。キャリア20は、レンズ体6を収容するための孔20aの周囲に形成された環状部20bと、+Y側に側面部32と対向するように設けられた略直方体形状の連結部20cとを一体化した形状を有する。
【0025】
ベース30の底面部31における側面部32の近くには、主案内軸61及び副案内軸62がX方向に離隔して並んでその基端部が固定され+Z側に向けて立設されている。主案内軸61及び副案内軸62は、X方向に離隔してキャリア20の連結部20cに形成された孔21及び切り欠き部22に各々収容され、キャリア20をZ方向に移動するように案内する。また、キャリア20の孔21の+X側に対応する位置における+Y側の端面には切り欠き部23が形成されており、この切り欠き部23にはモータ100が収容されている。後述するように、モータ100の駆動軸71は、その基端部71bが底面部31に固定され+Z側に向けて立設されている。光学部材駆動装置5は、本実施形態によるモータ100を駆動源として、キャリア20をZ方向に駆動する。
【0026】
ベース30の側面部32の-Y側にはヨーク51及びホールIC52が配置されている。キャリア20における孔21と切り欠き部22の間の位置に対応する、側面部32との対向面には磁石53が配置されている。ホールIC52は、磁石53の磁界を検出することにより、キャリア20のZ方向の位置を検出する。ヨーク51及び磁石53は、相互に吸引し合い、キャリア20が側面部32側に引き寄せられる。これにより、キャリア20の孔21の内壁及び切り欠き部22の内壁が主案内軸61及び副案内軸62に+Y方向の適度な圧力で押し当てられ、キャリア20の姿勢及びZ方向の駆動が安定したものになる。
【0027】
図4に示すように、キャリア20に収容されたモータ100は、Z方向に延びた駆動軸71を有している。駆動軸71は、-Z側にある基端部71bが駆動軸本体部71aよりも小径になっており、この小径部分である基端部71bが、底面部31に形成された孔に挿入され、カシメや溶接のような方法で固定されている。主案内軸61及び副案内軸62も同様構造であり、同様方法で固定されている。また、モータ100では、FPC(Flexible Printed Circuits)72の引き出し部72aが駆動軸71と平行な方向に引き出され、180度湾曲して側面部32の-Y側の面に配置されており、FPC72はさらに装置外部に電気的に接続されている。
【0028】
図5及び
図6に示すように、モータ100は、金属の柱状体74を有する。本実施形態において、柱状体74は、対向する2つの底面部74e及び74fとこの2つの底面部74eと74fの間の領域を囲む側面部74a、74b、74c及び74dを有する四角柱である。また、柱状体74は、2つの底面部74eと74fの間を貫く貫通孔74gを有する。駆動軸71は、柱状体74の貫通孔74gに挿通される。
【0029】
FPC72は、複数(
図5の例では4つ)のシート状の圧電素子73a、73b、73c及び73dを搭載している。FPC72は、複数の圧電素子73a、73b、73c及び73dを柱状体74の側面部74a、74b、74c及び74dに接触させて柱状体74に圧電素子73a、73b、73c及び73dの外側から巻かれている。FPC72側にある圧電素子73a、73b、73c及び73dそれぞれの上面73sのZ方向における+Z側に第1電極層73eが形成され、-Z側に第2電極層73fが第1電極層73eから離隔して形成されている。第1電極層73e及び第2電極層73fはそれぞれFPC72に電気的に接続される。圧電素子73a、73b、73c及び73dそれぞれの上面73sとは反対側の下面73tにも電極層が形成され、柱状体74に電気的に接続される。また、FPC72は共通端子部72bを有し、柱状体74の底面部74eと電気的に接続される。FPC72は、複数の圧電素子73a、73b、73c及び73dに駆動電力を供給する。
【0030】
また、FPC72は、引き出し部72aから側面部74c、74b、74a、74dの順で柱状体74に巻かれている。FPC72は、4つの側面部74a、74b、74c及び74dのうち、側面部74cと側面部74dの間の角部を除いた各間の角部と対向する各位置に、R部72Rを有する。R部72RのZ方向の幅はその隣接する部分の幅と同程度である。また、柱状体74に巻かれたFPC72の外面が、緩衝材であるフェルト75により覆われている。フェルト75により覆われたモータ100が、キャリア20の切り欠き部23内における-X側、-Y側、及び+X側の内壁に固定されている。
【0031】
圧電素子73a、73b、73c及び73dの各々は同じ構造であり、以後、圧電素子73aについて説明し、圧電素子73b、73c、及び73dについては、圧電素子73aについての説明を援用する。
【0032】
図7に示すように、圧電素子73aは、Z-X方向に平行な四角形の板状をなしている。
図8は、
図7の圧電素子73aのIa-Ib線断面図、すなわち、圧電素子73aの+Z-X側の角と-Z+X側の角を通過する対角線を通り、Y方向に平行な平面により圧電素子73aを切断した断面図である。
【0033】
図7及び
図8に示すように、圧電素子73aはその板厚方向に積層された複数層の圧電層73yを有する。圧電層73yは通常奇数層であり、
図7及び
図8図示の例では、単に説明用として5層とした。圧電素子73aの上面73s、下面73t、及び圧電層73y間の各境界面73uには、電極層が配置されている。各面の電極層の間は圧電層73yを上下に貫通するスルーホール電極により電気的に接続される。スルーホール電極は、圧電層73yの所定の位置に設けたスルーホールの内部に導電体を上下に貫くように設け、圧電層73yの上下に設けた電極層を電気的に接続する。
図7において、各スルーホール電極は各電極層における電気的接続点のみを示している。
【0034】
具体的には、電極層は、第1電極層73eと、第2電極層73fと、共通電極層73hと、を有する。第1電極層73e及び第2電極層73fは、上面73s及び上面73s側から数えて偶数番目(本実施形態では、2番目と4番目)の境界面73uに設けられる。各面において、第1電極層73eは+Z側に配置され、第2電極層73fは離隔部73jを間にして第1電極層73eとは反対側の-Z側に離隔して配置される。また、共通電極層73hは、上面73s側から数えて奇数番目(本実施形態では、1番目と3番目)の境界面73u及び下面73tに設けられる。共通電極層73hは、一部を除いてほぼ各面全体に配置される。従って、圧電素子73aの厚さ方向を見たときに、Z方向の中央部は、電極層が無い離隔部73jと共通電極層73hが交互に設けられている。+Z側は、第1電極層73eと共通電極層73hが圧電層73yを間に挟んで対向して設けられている。-Z側は、第2電極層73fと共通電極層73hが圧電層73yを間に挟んで対向して設けられている。
【0035】
各面の第1電極層73eは、第1スルーホール電極TH1により電気的に接続され、各面の第2電極層73fは、第2スルーホール電極TH2により電気的に接続され、各面の共通電極層73hは、第3スルーホール電極TH3により電気的に接続される。共通電極層73hが配置されている境界面73uは、第1スルーホール電極TH1とその周囲の位置及び第2スルーホール電極TH2とその周囲の位置には共通電極層73hに切り欠き73kが設けられている。これによって、第1スルーホール電極TH1及び第2スルーホール電極TH2は共通電極層73hと接触しない。また、第1電極層73e及び第2電極層73fが配置された境界面73uは、離隔部73jの位置に第3スルーホール電極TH3が設けられている。これによって、第3スルーホール電極TH3は第1電極層73e及び第2電極層73fと接触しない。
【0036】
図示の例では、第1スルーホール電極TH1と第2スルーホール電極TH2は、圧電素子73aの+Z-X側の角部と-Z+X側の角部にあり、第3スルーホール電極TH3は圧電素子73aのZ方向中央かつX方向中央の位置、すなわち、積層方向から見て圧電素子73aの中央部にある。このことから、第1スルーホール電極TH1と第2スルーホール電極TH2とは積層方向から見たときに圧電素子73a全体の中央部を中心にして点対称の位置に設けられている。また、第1スルーホール電極TH1と第2スルーホール電極TH2とは積層方向から見たときに圧電素子73a全体の端部に設けられている。第1スルーホール電極TH1、第2スルーホール電極TH2、及び第3スルーホール電極TH3をこのような配置にすることにより、圧電素子73aの伸縮、変形に与えるスルーホール電極の影響を小さく抑えることができる。各電極層は、個別のスルーホール電極によって層間が電気的に接続されており、1層の圧電層73yの厚さが薄くなっても電極層間での短絡・断線が発生し難い。従って、動作が安定した圧電素子73aを得ることができる。
【0037】
圧電素子73aの下面73tには共通電極層73hが配置されている。この共通電極層73hは、柱状体74を介して共通端子部72bに電気的に接続されている。この共通端子部72bは、FPC72に電気的に接続されている。また、上面73sには、第1電極層73eと第2電極層73fが配置されており、この第1電極層73e及び第2電極層73fは、FPC72に電気的に接続されている。
【0038】
他の圧電素子73b、73c及び73dも、圧電素子73aと同様な構成であり、圧電層73yと、第1電極層73eと、第2電極層73fと、共通電極層73hと、第1スルーホール電極TH1と、第2スルーホール電極TH2と、第3スルーホール電極TH3とを有する。FPC72は、複数の圧電素子73a、73b、73c及び73dに駆動電力を供給する。
【0039】
以上の構成において、圧電素子73a、73b、73c及び73dの各第1電極層73eには、同じ周波数、同じ位相、同じ高さの電圧が印加され、各第2電極層73fには、第1電極層73eに印加される電圧に対して同じ周波数、位相差90度、同じ高さの電圧が印加される。共通電極層73hは接地される。これにより、第1電極層73e及び第2電極層73fに各々対応する位置の圧電素子73a、73b、73c及び73dがその板面方向に伸縮する。柱状体74はそのような伸縮はしないので第1電極層73e及び第2電極層73fに各々対応した圧電素子73a、73b、73c及び73dと柱状体74の貫通孔74gに至るまでの部分は、全体としておわん型とその反転型を繰り返す変形をする。即ち、対応する貫通孔74gの内壁面はそれぞれ全体としておわん型とその反転型を繰り返す変形をする。このように、圧電素子73a、73b、73c及び73dと柱状体74は振動体を構成する。
【0040】
第1電極層73eに印加される電圧と第2電極層73fに印加される電圧は90度の位相差を有しているので、第1電極層73eに対応する位置の貫通孔74gの内壁面の変形と第2電極層73fに対応する位置の貫通孔74gの内壁面の変形も90度の位相差を有している。これによって、貫通孔74gの内壁面は貫通孔74gの軸方向に沿って楕円運動し、柱状体74は駆動軸71に沿って+Z方向又は-Z方向に移動する。この柱状体74の移動方向は、印加電圧の位相差を変えることにより制御可能である。
【0041】
本実施形態では、上述のように柱状体74に対してキャリア20が固定されている。従って、本実施形態によれば、FPC72から圧電素子73a、73b、73c及び73dに駆動電力を供給することにより、キャリア20をZ方向に移動させることができる。
【0042】
本実施形態において、圧電素子73a、73b、73c及び73dは、積層された複数層の圧電層73yと、上面73s、下面73t、及び圧電層73y間の境界面73uに配置された第1電極層73e及び第2電極層73fと、共通電極層73hとにより構成されている。各圧電層73yにおいて第1電極層73e又は第2電極層73fと共通電極層73hとが対向し、電圧が印加される。このため、圧電素子全体の厚さが同じ場合、圧電層73yを積層しない構成に比べ、積層した場合の1層当たりの圧電層73yの厚さが薄く、印加電圧が低くても同じ伸縮量を得ることができる。従って、必要な駆動力を得るために、第1電極層73e及び第2電極層73fと、共通電極層73hとの間に印加する電圧を低くすることができる。
【0043】
また、本実施形態の圧電素子73a、73b、73c及び73dにおいて、各面の第1電極層73eは、圧電層73yを貫通する第1スルーホール電極TH1により互いに電気的に接続される。各面の第2電極層73fは、圧電層73yを貫通する第2スルーホール電極TH2により互いに電気的に接続される。共通電極層73hが配置される境界面73uにおいて、共通電極層73hは、第1スルーホール電極TH1とその周囲の位置及び第2スルーホール電極TH2とその周囲の位置には配置されておらず、切り欠き73kが設けられている。共通電極層73hと第1スルーホール電極TH1及び第2スルーホール電極TH2とは非接触である。また、各面の共通電極層73hは、圧電層73yを貫通する第3スルーホール電極TH3により互いに電気的に接続される。第1電極層73e及び第2電極層73fの配置された境界面73uにおいて、第3スルーホール電極TH3は第1電極層73e及び第2電極層73fの配置されていない離隔部73jに設けられている。第1電極層73e及び第2電極層73fと第3スルーホール電極TH3も非接触である。電極層間を電気的に接続するスルーホール電極が圧電素子73a、73b、73c及び73dの内部に設けてあるので、安定した電気的な接続が確保でき、電極層間の短絡・断線が発生し難い。また、離隔部73jは、単層でも積層でも必要であり、このスペースに第3スルーホール電極TH3を設けることにより、圧電素子73a、73b、73c及び73dの大型化を防ぐことができる。また、第1スルーホール電極TH1及び第2スルーホール電極TH2と合わせて、うまく点対称に配置することができ、ゆがんだ変形を抑えることができる。
【0044】
なお、柱状体74は側面部が4つある四角柱としたが、それに限るものではなく、三角柱や六角柱等でも構わないし、圧電素子等を含めて実現可能であれば、円柱であっても構わない。また、本実施形態において、圧電超音波モータ100は、駆動軸71を固定し、柱状体74が移動するように構成したが、柱状体74を固定し、駆動軸71が移動するようにしてもよい。フェルト75とした緩衝材は、フェルトである必要は無く、圧電超音波モータ100を保持でき、振動体の振動を阻害しないような材質であればよい。
【0045】
圧電素子73a、73b、73c及び73dは、本実施形態の構成に限定されない。例えば第1スルーホール電極TH1と第2スルーホール電極TH2は四角形の圧電素子73aの対角線上にある角部に設けたが、角部ではない辺部に設けても良い。その際、四角形の中心を中心とする点対称に設けることが望ましい。但し、角部に設けた方が変形に与える影響は少ない。
図9A及び
図9Bに示すように、第1スルーホール電極TH1及び第2スルーホール電極TH2も離隔部73jの位置に設けても良い。図示の例では、第1電極層73eの一部を離隔部73j側に拡張し第1スルーホール電極TH1を設け、第2電極層73fの一部を離隔部73j側に拡張し第2スルーホール電極TH2を設けている。共通電極層73hの第1スルーホール電極TH1及び第2スルーホール電極TH2に対応する位置にはそれぞれ切り欠き73kが設けられている。しかし、これらの切り欠き73kは、積層方向から見たときにほぼ離隔部73jと重なり合うので、第1電極層73e及び第2電極層73fと共通電極層73hが重なり合う面積及び形状には影響を及ぼしていない。
【符号の説明】
【0046】
5 光学部材駆動装置;
6 レンズ体;
7 画像センサ;
8 カメラ装置;
9 スマートフォン;
10 ケース;
20 キャリア;
20a,21 孔;
20b 環状部;
20c 連結部;
22,23 切り欠き部;
30 ベース;
31 底面部;
32 側面部;
51 ヨーク;
52 ホールIC;
53 磁石;
61 主案内軸;
62 副案内軸;
71 駆動軸;
71a 駆動軸本体部;
71b 基端部;
72 FPC;
72a 引き出し部;
72b 共通端子部;
72R R部;
73a,73b,73c,73d 圧電素子;
73e 第1電極層;
73f 第2電極層;
73h 共通電極層;
73j 離隔部;
73k 切り欠き;
73s 上面;
73t 下面;
73u 境界面;
73y 圧電層;
74 柱状体;
74a,74b,74c,74d 側面部;
74e,74f 底面部;
74g 貫通孔;
75 フェルト;
100 圧電超音波モータ(モータ);
TH1 第1スルーホール電極;
TH2 第2スルーホール電極;
TH3 第3スルーホール電極