(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060615
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】植物性機能性材料
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20240424BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240424BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240424BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240424BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240424BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240424BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20240424BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240424BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240424BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240424BHJP
B01J 13/12 20060101ALI20240424BHJP
B01J 13/02 20060101ALI20240424BHJP
C08J 3/02 20060101ALI20240424BHJP
A23J 3/22 20060101ALI20240424BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240424BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20240424BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20240424BHJP
C07K 1/14 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
A23J3/14
A23L5/00 C
A61K9/70
A61K9/16
A61K9/48
A61K9/06
A61K9/52
A61L27/22
A61L27/52
A61K47/42
B01J13/12
B01J13/02
C08J3/02 CFG
A23J3/22
A23J3/16 501
A23L5/00 D
A23L5/00 A
A23L5/00 B
A23L5/00 M
C08L89/00
C12M3/00 Z
C07K1/14
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205332
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2021553095の分割
【原出願日】2019-06-05
(31)【優先権主張番号】1903090.7
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Food Future Conference,Cambridge UKにて、「All-natural plant-based microcapsules for food applications(日本語訳:食用のための完全天然の植物ベースのマイクロカプセル)」について公開
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ロドリゲス・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】トゥオマス・ノールズ
(72)【発明者】
【氏名】アヴィアド・レヴィン
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 彩花
(57)【要約】 (修正有)
【課題】植物性材料(plant based materials)、その製造のための方法、及び前記植物性材料を取り込んだ生物材料を提供する。
【解決手段】植物性材料を生産する方法であって、a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及びb)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程を含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性材料を生産する方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
c)植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料を形成する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゾル-ゲル転移前、前記転移中、又は前記転移後に植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料が形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
植物性タンパク質ヒドロゲルが構造化材料に成形されるか、又はマイクロ流体デバイスを使用して植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料が形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
構造化材料、例えば、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜を生産するために使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
植物タンパク質が、ダイズ、エンドウ、イネ、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシゼイン、又はソルガムから得られる、好ましくは植物タンパク質が、ダイズタンパク質、エンドウタンパク質、ジャガイモタンパク質、及び/又はイネタンパク質から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1の共溶媒が有機酸、好ましくは酢酸及び/又はα-ヒドロキシ酸であり、α-ヒドロキシ酸が、好ましくはグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、及び/又は酒石酸から選択することができ、特に好ましい有機酸が酢酸及び/又は乳酸である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第2の又は更なる共溶媒が水性緩衝液であり、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2-プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、ヘキサノール、t-ブタノール、酢酸エチル、又はヘキサフルオロイソプロパノール、特に好ましくは水及び/又はエタノール、更に特に好ましくは水から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
溶媒系が、約20~80%v/v、好ましくは約20~60%v/v、約25~55%v/v、約30~50%v/v、約20%、約30%、約40%、約50%、又は約60%v/v、最も好ましくは約30~50%v/vの共溶媒比を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
機械的剪断、好ましくは1種又は複数種の植物性タンパク質と溶媒系とを含む前記タンパク質溶液の超音波処理を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
タンパク質溶液が、1種又は複数種の植物性タンパク質のゾル-ゲル温度を超える第1の温度に加熱され、次いで1種又は複数種の植物性タンパク質のゾル-ゲル温度未満の第2の温度に低下されて、ヒドロゲルを形成する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を使用して形成される植物性ヒドロゲル。
【請求項13】
フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜である、植物性構造化材料。
【請求項14】
熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される植物性構造化材料であって、任意選択で、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜であり得る、植物性構造化材料。
【請求項15】
植物性熱可逆性ヒドロゲル。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に定義の植物性材料と、1種又は複数種の更なるバイオポリマー、例えばタンパク質及び/又は多糖とを含む複合材料。
【請求項17】
請求項12に記載の植物性材料、請求項13若しくは14に記載の植物性構造化材料、請求項15に記載の植物性熱可逆性ヒドロゲル、又は請求項16に記載の複合材料を取り込んだ、食品、化粧品、医薬品、医療機器、又は生物材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性材料(plant based materials)、その製造のための方法、及び本発明の植物性材料を取り込んだ生物材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の合成ポリマーは、優れた機械的及び化学的特性を呈し、過去60年の間幅広く使用されている。しかしながら、これらのポリマーは生分解性ではなく、環境中に蓄積するおそれがあり、経済的損害を引き起こし、食物連鎖及び大気を通じてヒトの健康に影響を及ぼす可能性が高い。
【0003】
高レベルの機能性並びに高度の生分解性及び生物適合性を呈する材料の開発は、包装から医薬品に及ぶ範囲における材料性能の改善に関する社会的必要性を満たす重要な目的である。
【0004】
自己組織化はそのような材料の製作に対する魅力的な手段として現れたが、今日まで活用されているビルディングブロックの大半は合成起源である。
【0005】
新たな機能性材料を生成するためのビルディングブロックとして役割を果たし得る様々な種類のバイオポリマーのうち、タンパク質は、機能的構造に自己組織化する能力を考慮すると、興味深い候補である。
【0006】
現在、これらの材料の商業的用途のための使用は高度に可溶性の動物由来タンパク質に制限されている。食料品に一般的に使用される動物性タンパク質、例えば乳清タンパク質は、良好な生物適合性、生分解性、両親媒性、並びに機能特性、例えば、水溶性、乳化能、及び泡沫化能を呈する。しかしながら、環境に対するより小さい影響という理由だけでなく、より低いアレルゲン性及び費用の削減という理由からも、動物由来タンパク質を植物性タンパク質に置き換える要求は高まっている。
【0007】
ヒドロゲルが多様な実験条件下においてダイズ及びエンドウタンパク質から得ることができる、植物性タンパク質由来の自己組織化材料の形成が報告されている。しかしながら、構造化植物性材料(structured plant-based materials)から得られる機械的特性は全般的に、動物由来材料から得られる機械的特性と比較して低く、植物タンパク質は、少なくとも部分的には植物タンパク質に固有の水に対する低い溶解性のために、加工することがより困難である。
【0008】
したがって、今日まで、植物性タンパク質は生物材料として成功裏に利用されておらず、再生可能且つ費用対効果の高い原料由来の構造化タンパク質材料を環境的に持続可能な方法を用いて生成することは依然として課題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tran, T. M.、Cater, S. & Abate, A. R. Coaxial flow focusing in poly(dimethylsiloxane) microfluidic devices. Biomicrofluidics 8、1~7頁(2014)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様においては、植物性材料を生産する方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法が提供される。
【0011】
更なる実施形態では、方法は、
c)植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料(structured material)を形成する工程
を含む。
【0012】
植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料を形成する工程は、構造化材料、例えば、ゲル、フィルム、マイクロゲル、マイクロカプセル等の形成を可能にする。好ましい実施形態では、タンパク質ヒドロゲルは、成形によって特定の形状に形成され得る。更に好ましい実施形態では、タンパク質ヒドロゲルは、マイクロ流体デバイスを使用して特定の形状に形成され得る。
【0013】
本発明は、植物性タンパク質由来の機能性材料を製造する新規の方法を同定した。共溶媒混合物を利用することによって、再生可能な植物タンパク質原料由来の構造的に堅牢な材料の形成を可能にする、ゾル-ゲル転移に対する制御を発揮することが可能である。方法は、ヒドロゲル、フィルム、マイクロカプセル、マイクロゲル、マイクロスケールスポンジ等を含む多くの構造化材料の作出を可能にする。構造化材料は、構造化材料を人体との接触に好適にするクロスリンカーも任意の他の有害材料も必要とせず、確実に形成することができる。材料はまた、再生可能な原料に由来し、したがって合成類似体よりも環境に対する影響を低減する。
【0014】
更なる態様では、溶液中の植物性タンパク質の特性を改変してゾル-ゲル条件を制御し、それによって植物性材料を形成するための、共溶媒混合物の使用が提供される。
【0015】
複数種の混和性共溶媒であって、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、混和性共溶媒を含む溶媒系を選択することによって、ゾル-ゲル条件を制御することが可能である。
【0016】
第1の共溶媒の第2の共溶媒に対する比は、約20~80%v/v、約20~60%v/v、約25~55%v/v、約30~50%v/v、約20%、約30%、約40%、約50%、又は約60%v/v、最も好ましくは約30~50%v/vまで変動し得る。そのような比は機能的に有用な材料をもたらす。
【0017】
溶媒系は、1種若しくは複数種の第1の共溶媒及び/又は1種若しくは複数種の第2の共溶媒を含有し得る。
【0018】
植物性材料は初めて、大規模に実現可能な方法を使用して確実に且つ再現性よく形成することができる。ゾル-ゲル条件を制御することが可能となることによって、結果として得られる材料の特性を調整すること、及び/又は有用な生物材料の生産を可能にする製造プロセスを調整することが可能となる。
【0019】
本発明の方法は、熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される植物性構造化材料の形成を可能にする。植物性構造化材料は、植物性タンパク質超分子構造であってもよく、凝集して絡み合った植物性タンパク質超分子構造の3次元ネットワークであってもよい。
【0020】
熱可逆性冷却固化ゲル化法は、植物性タンパク質分子が所望の構成に加工することができる液体溶液を形成する温度を超える温度に加熱された後に、液体溶液を冷却して、非共有結合性分子間相互作用によって保持される自己組織化タンパク質凝集体のネットワークを形成するゾル-ゲル転移を可能にすることができる方法と考えることができる。したがって、本発明のゲル化法は共有結合性化学架橋を必要とせず、したがって可逆性である。
【0021】
したがって、更なる態様では、熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される植物性構造化材料であって、任意選択で、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場(bioscaffold)、生体支持体(bio-support)、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜であり得る、植物性構造化材料が提供される。
【0022】
更なる態様では、植物性熱可逆性ゲルが提供される。
【0023】
更なる態様では、植物性熱可逆性ヒドロゲルが提供される。
【0024】
更なる態様では、本発明の植物性材料と、1種又は複数種の更なるバイオポリマー、例えば、タンパク質、多糖等とを含む複合材料が提供される。
【0025】
更なる態様では、本発明の方法に従って作製される材料が提供される。
【0026】
本発明の植物性材料及びそれを製造するための方法は、ゾル-ゲル転移の精密な制御を可能にし、それによって、今日まで動物由来タンパク質を使用する場合のみ成功裏に製造されていた生物材料を形成するための植物性タンパク質の使用を開拓する。好適な生物材料としては、フィルム、マイクロビーズ、マイクロカプセル、足場、ゲル、スポンジ等が挙げられる。
【0027】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むマイクロビーズが提供される。
【0028】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むマイクロカプセルが提供される。
【0029】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含む硬カプセルが提供される。
【0030】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むスポンジ又はマイクロスケールスポンジが提供される。
【0031】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むフィルム、好ましくは薄膜が提供される。
【0032】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むナノパターン又はマイクロパターンフィルムが提供される。
【0033】
更なる態様では、本発明の植物性ヒドロゲルを含む生体足場が提供される。
【0034】
更なる態様では、本発明の植物性ヒドロゲルを含む機能性被膜が提供される。
【0035】
更なる態様では、本発明の植物性材料を取り込んだ、食材、化粧品、医薬品、又は医療機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】種々の酢酸/DI水共溶媒比下で形成したダイズタンパク質単離物(SPI)ヒドロゲルを示す図である。
【
図2】30%v/v共溶媒比を使用して生産したヒドロゲルのSEM(走査型電子顕微鏡検査)画像である。
【
図3】
図3aは、SPIヒドロゲルのレオロジー特性をH2O:酢酸共溶媒比の関数として示すグラフである。
図3bは、様々な濃度で調製したSPIヒドロゲルの剪断減粘挙動を示すグラフである。
【
図4】FTIRスペクトルにおけるアミドIバンドから算出した、様々なH2O:酢酸共溶媒比下でのSPIヒドロゲル二次構造の構造変化を示すグラフである。
【
図5】酢酸の量を増加した場合にタンパク質加水分解の程度の増加を示すSDS-PAGE電気泳動図である。
【
図6】本発明のヒドロゲルを使用して形成したマイクロビーズを示す図である。
図6aはマイクロビーズ形成の概略図を示す図であり、
図6bは水性溶液(pH=2)に懸濁された安定したマイクロビーズを示す図であり、
図6cは50μm Tht水性溶液に懸濁されたTht染色マイクロビーズを示す図であり、
図6dは超臨界点乾燥によって調製したマイクロビーズのSEM画像であり、
図6eはマイクロビーズの表面のゲルネットワークのSEM画像である。
【
図7】
図7aは、親油性コアと親水性コアとの両方を有するコアシェルマイクロカプセルを生成するために使用した多層3Dマイクロ流体液滴生成装置の概略図である。
図7bは、水性溶液に懸濁された親油性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
【
図8】可溶性有効成分(リボフラビン)の懸濁液を含有する親水性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
【
図9】
図9aは、水性溶液中のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
図9bは、SGF(模擬胃液)中の60分後のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
図9cは、SIF(模擬腸液)中の120分後のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
【
図10】
図10aは、1%(w/w)HMPペクチン中のリボフラビン溶液で構成されるコアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
図10bは、模擬条件下でのリボフラビンの累積放出を示す、HPLC分析によって生じる2段階in vitro消化性研究の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11aは、芳香油担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジの分布を示す図である。
図11bは、タンパク質マイクロゲルシェルが容易に観察可能である、より高い倍率(20倍)での単一の香料担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジを示す図である。
【
図12】安定したタンパク質フィルムを生成する一例の概略図である。
【
図13】
図13aは、本発明に従って作製したフィルムの応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図13bは、ヤング率を示すグラフである。
図13cは、伸長破断%を示すグラフである。
【
図14a】非マイクロパターン対照サンプルと比較して水滴の接触角を有意に増加させる(99°)、ダイズタンパク質フィルム表面への等間隔マイクロピラーアレイのマイクロパターニングを示す図である。
【
図14b】ダイズタンパク質フィルムをDVDディスクに注入することによって得た等間隔ナノチャネルアレイのナノパターニングを示す図である。ダイズタンパク質フィルムのナノ構造化モチーフは光子特性(ミー散乱)を呈する。
【
図15】ダイズタンパク質フィルム被膜を厚紙基材に作製する概略的なプロセスを示す図である。ダイズタンパク質フィルム被覆基材は、被覆されていない対照サンプルと比較した場合、吸水量の50%の減少を示す。
【
図16】
図16aは、2mlエッペンドルフチューブ基材の周囲への3次元ヒドロゲル薄層の形成を示す図である。
図16bは、成形した3次元ヒドロゲルを乾燥させ、基材から取り外した後に得たダイズタンパク質硬カプセルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の特徴は本発明の全ての態様に適用される。
【0038】
いかなる好適な植物性タンパク質も本発明に使用することができる。好適な植物原料としては、ダイズ、エンドウ、イネ、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシゼイン、ソルガム等が挙げられる。特定の植物タンパク質としては、ダイズタンパク質及びエンドウタンパク質が挙げられる。
【0039】
植物由来タンパク質の特徴は、植物由来タンパク質に固有の水に対する不十分な溶解性である。今日まで、このことは生物材料を生成することにおける植物由来タンパク質の使用を限定していた。しかしながら、本発明はそのようなタンパク質に関連するこれまでの限定を克服している。
【0040】
本発明の方法では、材料は植物性タンパク質を溶媒系に添加することによって形成され、溶媒系は本明細書で定義される2種以上の混和性共溶媒を含む。
【0041】
第1の共溶媒は植物性タンパク質の溶解性を増加させる。第1の共溶媒は可溶化共溶媒と考えることができる。1種又は複数種の可溶化共溶媒が存在してもよく、可溶化共溶媒は植物性タンパク質を完全に可溶化しても部分的に可溶化してもよい。
【0042】
可溶化共溶媒の例は有機酸である。有機酸とは、酸性特性を有する有機化合物である。好適な有機酸としては酢酸又はα-ヒドロキシ酸が挙げられる。好適なα-ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、及び酒石酸が挙げられる。好ましい有機酸は酢酸及び乳酸である。有機酸を使用することは、植物タンパク質の可溶化を可能にし、タンパク質の穏やかな加水分解も可能にする。例えば、理論に拘束されることを望むものではないが、有機酸への植物性タンパク質の溶解は、i)タンパク質のプロトン化、及びii)疎水性相互作用の減少に寄与する陰イオン溶媒和層の存在のために可能である。初めに有機酸に溶解されると、植物性タンパク質のプロトン化は、その非溶媒、例えば水中の植物性タンパク質を安定化するのに役立ち得る。
【0043】
好ましい実施形態では、第1の共溶媒は有機酸である。
【0044】
第2の共溶媒は、第1の共溶媒と比較して減少した植物性タンパク質の溶解性を有する。第2の共溶媒は脱可溶化(de-solubilising)共溶媒と考えることができる。1種又は複数種の脱可溶化共溶媒が存在してもよい。
【0045】
脱可溶化性の第2の共溶媒の例は水性緩衝溶液である。更なる実施形態では、第2の共溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2-プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、ヘキサノール、t-ブタノール、酢酸エチル、又はヘキサフルオロイソプロパノールであり得る。特に好ましい実施形態では、第2の共溶媒は水及びエタノールである。更に特に好ましい実施形態では、第2の共溶媒は水である。
【0046】
好ましい実施形態では、溶媒系における植物性タンパク質の濃度は25~200mg/ml、好ましくは50~150mg/mlである。有機酸の比は、タンパク質濃度に応じて、例えばタンパク質濃度の増加に伴うより高い有機酸比を使用して変動させてもよい。
【0047】
好ましい実施形態では、タンパク質加水分解の程度は、結果として得られるヒドロゲルの特性を改変するために制御される。例えば、形成中に存在する酸濃度を増加させることは、タンパク質加水分解の程度を増加させることになる。より高度のタンパク質加水分解は、硬質性がより低いヒドロゲルの形成をもたらす。
【0048】
1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成するために、物理的刺激をタンパク質/溶媒系混合物に加えて、タンパク質の溶解を可能にすることが必要である場合がある。好適な物理的刺激としては、超音波処理、撹拌、高剪断混合、又は他の物理的技法が挙げられる。好ましい技法は超音波処理である。
【0049】
一実施形態では、溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、又は30分を超える期間、超音波処理に供される。好ましい超音波処理時間期間は約30分である。
【0050】
タンパク質溶液は、液体溶液がタンパク質のゾル-ゲル転移超に保持されるように加熱される。溶媒系を改変することによって(例えば、有機酸の選択候補からの選択、有機酸の更なる溶媒に対する比、又は更なる手段を介して)、タンパク質のゾル-ゲル転移温度を変更することが可能である。条件の適切な選択により、タンパク質のゾル-ゲル転移を慎重に制御し、それによってヒドロゲルの形成を制御することが可能となる。
【0051】
一実施形態では、タンパク質溶液は約70℃又は70℃を超える温度に加熱される。更なる実施形態では、タンパク質は、約75℃若しくは75℃を超える温度、約80℃若しくは80℃を超える温度、約85℃若しくは85℃を超える温度、又は約90℃に加熱される。好ましい実施形態では、タンパク質は85℃に加熱される。
【0052】
タンパク質溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、45分、又は1時間の時間期間、昇温で保持され得る。好ましい時間期間は、タンパク質が完全に可溶化することを可能にする少なくとも30分である。タンパク質溶液をより長い期間昇温で保持することが可能である。このことは、タンパク質溶液をより長期間液体形態に保持することが必要である商業的なバッチ法又は流体加工工程における使用の場合に有用であり得る。
【0053】
タンパク質溶液をタンパク質のゾル-ゲル転移温度を超える温度に加熱した後、タンパク質溶液の温度は、ヒドロゲルの形成を容易にするゾル-ゲル転移温度未満の第2の温度に低下させることができる。第2の温度は室温であり得る。タンパク質溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、又は約30分の時間期間、降温で保持され得る。特定の低下時間期間は約5分である。しかしながら、本発明の方法は、タンパク質が長い期間溶液に留まることを可能にする。したがって、必要に応じて、タンパク質溶液は、タンパク質を液体形態に保持するために必要とされる限り、ゾル-ゲル転移温度を超える温度に保つことができる。これは数時間、数日、又はそれ以上であり得る。また、反応は可逆性であるため、溶液は例えば、ヒドロゲルが形成し得る低温(例えば室温)に保たれるが、その後ゾル-ゲル転移温度を超える温度に加熱して、溶液を更なる加工のために液体状態に戻してもよい。この方法では、タンパク質ヒドロゲルは、長時間安定のままであるため、数時間、数日、数週間、数か月、又は数年保存され得る。
【0054】
特定の温度は、タンパク質原料の特性、使用される溶媒条件、及びしたがってゾル-ゲル転移温度に依存し得る。或いは、昇温及び降温は比較的固定されていてもよく(例えば約85℃、次いで約室温)、共溶媒混合物条件は、選択された植物性タンパク質に好適なゾル-ゲル転移温度を保証するように調整される。
【0055】
したがって、一実施形態では、植物性材料を形成するための方法であって、以下を含む方法が提供される:
a)1種又は複数種の植物性タンパク質と溶媒系とを含むタンパク質溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、
b)タンパク質溶液をある期間機械的撹拌、例えば超音波処理に供する工程、
c)タンパク質溶液の温度をある期間ゾル-ゲル転移温度を超える第1の昇温に上昇させる工程。前記温度上昇は、b)の機械的撹拌によって引き起こされても、外部熱源由来であってもよい、
d)タンパク質溶液の温度を植物性タンパク質がヒドロゲルに自己凝集するようなゾル-ゲル転移温度未満に低下させる工程、及び、任意選択で
e)ヒドロゲルを、画定された形状、例えばマイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロスケールスポンジ、フィルム等に形成する工程。形成工程は成形工程、すなわちヒドロゲルを画定された形状に成形する工程であってもよい。形成工程はマイクロ流体デバイスを使用してもよい。
【0056】
タンパク質溶液は、所望の最終形状に合致させる間、工程c)の昇温で保持され得る。例えば、マイクロ流体デバイスでは、タンパク質溶液は昇温c)でデバイスのリザーバー内に保持され得るが、溶液がデバイスから排出される場合、溶液の温度が低下し、それによってマイクロゲル又はマイクロカプセルシェルを形成する。或いは、タンパク質溶液は好適な型において形作られる間昇温で保持され得、その後、温度が低下されて、タンパク質がヒドロゲルを形成することを可能にする。
【0057】
理論に拘束されることを望むものではないが、植物タンパク質が溶媒系に添加される場合、植物タンパク質は不溶性コロイドタンパク質凝集体の高度に粘性の分散体を形成すると考えられる。
【0058】
更に、機械的撹拌、例えば超音波処理の適用は、大きなコロイドタンパク質凝集体を破壊してより小さな凝集体にし、タンパク質分子間相互作用を破壊すると考えられる。
【0059】
更に、共溶媒系の存在下のタンパク質溶液をゾル-ゲル温度を超える温度に加熱する場合、植物タンパク質は部分的にアンフォールドされ、結果として、初めはタンパク質天然構造の内部に埋もれていた疎水性アミノ酸の露出を生じると考えられる。部分的にアンフォールドすると、共溶媒がアンフォールドされたタンパク質分子と相互作用することができる。例えば、有機酸は、アミノ酸残基をプロトン化するより多くの機会を有し、疎水性相互作用を安定化する陰イオン塩架橋の形成を可能にする。また、昇温で加熱する場合、タンパク質間の非共有結合性分子間接触が破壊される。
【0060】
更に、タンパク質溶液をゾル-ゲル温度未満に冷却する場合、タンパク質間の非共有結合性分子間接触が可能となり、したがって、植物タンパク質分子の、超分子凝集体のネットワークへの自己組織化を促進すると考えられる。
【0061】
本発明の方法は、植物タンパク質が凝集して、特にβ鎖間の分子間水素結合相互作用によって保持される超分子構造になることを可能にすると考えられる。
【0062】
本発明の方法は、高レベルのβシート分子間相互作用が存在する材料が形成されることを可能にする。これは、これまでに作製されたことのない新規の材料をもたらす。
【0063】
本発明は、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜を含む植物性構造化材料を提供する。
【0064】
本発明の材料は好都合な機械的特性を有する。例えば、温度変化時にゲルから液体へ可逆的に変化する能力は、好都合な製造能力を与える。
【0065】
一実施形態では、本発明に従って生産されるヒドロゲルは、10rad/sにおいて、500Paを超える、1000Paを超える、2500Paを超える、3000Paを超える、4000Paを超える貯蔵弾性率(G')を有する。
【0066】
一実施形態では、ヒドロゲルは、剪断速度を増加させる場合に粘度が減少する剪断減粘挙動を呈する。
【0067】
したがって、本発明に従って形成されるヒドロゲルは、以前の植物性ヒドロゲルには見られなかった特有の特性を有する。これらとしては、市販の原料由来の高濃度(すなわち5%~15%w/w)の植物性タンパク質からヒドロゲルを形成する能力、及びそのような高濃度タンパク質溶液を熱変性時に液体状態に保ち、十分に画定した物体に成形することを可能にする能力が挙げられる。
【0068】
本発明の材料の特徴は、植物タンパク質がヒドロゲルを自己形成することができるために架橋剤を提供する必要がないことである。したがって、本発明の一実施形態では、架橋剤を含有しないか又は実質的に含有しない植物タンパク質材料(例えばヒドロゲル)が提供される。
【0069】
しかしながら、代替的な実施形態では、本発明のヒドロゲルは架橋剤を含んでもよい。好適な架橋剤としては、微生物トランスグルタミナーゼ、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキサール、フェノール化合物、エポキシ化合物、ゲニピン、又はジアルデヒドデンプンが挙げられる。
【0070】
ヒドロゲルの多孔質ネットワークのため、ヒドロゲル内の溶媒混合物は、ヒドロゲルの機械的安定性を損なうことなく別の溶媒混合物と交換することができる。溶媒交換プロセスは、有機酸をヒドロゲル多孔質ネットワークから除去するために実施され得る。
【0071】
本発明の一実施形態では、方法は、植物性タンパク質ヒドロゲルが形成された溶媒系を代替溶媒系と交換する工程を含む。更なる実施形態では、これは溶媒交換プロセスを使用して実施される。この工程は、ヒドロゲルの形成後に実行され得るが、ヒドロゲルから構造化材料が形成された後(例えば本発明の方法の工程b)又はc)の後)に実行されてもよい。好ましい実施形態では、水性緩衝液がヒドロゲル多孔質ネットワーク内の有機酸共溶媒混合物に取って代わるために使用される。
【0072】
一実施形態では、ヒドロゲル内の溶媒混合物を、乾燥材料、例えば、薄膜、マイクロ構造化/ナノ構造化薄膜、又はマイクロビーズを生成するために蒸発させる。更なる実施形態では、溶媒系における1種又は複数種の共溶媒は揮発性溶媒である。好ましい実施形態では、第1の共溶媒は揮発性有機酸、例えば酢酸である。好ましい実施形態では、第2の又は更なる共溶媒は揮発性アルコール、例えばエタノールである。更に好ましい実施形態では、第1の共溶媒と第2の又は更なる共溶媒との両方は揮発性溶媒である。
【0073】
一実施形態では、本発明の材料は1種又は複数種の可塑剤を取り込んでいてもよい。考えられる可塑剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、脂肪酸、グルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、エタノールアミン、尿素、トリエタノールアミン;植物油、レシチン、ワックス、及びアミノ酸が挙げられる。
【0074】
取り込まれる可塑剤の量は、フィルム等の材料の使途に依存し得る。一実施形態では、組成物は、約1%の可塑剤、約2%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、又はそれ以上を含み得る。更なる実施形態では、ヒドロゲルは約5~50%の間の可塑剤、約10~50%、約20~40%、約15~35%、又は約20%の可塑剤を含み得る。
【0075】
可塑剤を添加することは材料の機械的特性に影響を与え得る。典型的には、可塑剤を添加することは材料の弾性を高め得るが、反対に、これは典型的には、結果として得られる材料の強度を低下させる。
【0076】
本発明のヒドロゲルは、多様な有用な植物性生物材料の形成を可能にする。植物性材料を使用することは、これまで使用されていた動物又は石油化学原料に対していくつかの利点を有する。第1に、植物原料は再生可能であり、環境的に効率的な方法で効率的に得ることができる。第2に、植物原料は生分解性であり、したがって他のプラスチックに対する環境に優しい代替原料である。第3に、動物由来タンパク質と対照的に、植物性タンパク質は、動物由来タンパク質をヒトに導入しないという有意な利点を有する。このことは、動物に由来する材料は有害な要素が存在しないことを保証する厳格な点検及びプロセス(例えばプリオンを除去する等)を受けなければならないという薬理学的及び薬学的観点から、更に製品がベジタリアン/ビーガンに好適であるために、良い影響を及ぼす。
【0077】
植物性タンパク質はヒト(又は他の動物)の食事に天然に存在するため、本発明に従って作製される生物材料は、多糖(例えばアルギン酸又はキトサン)等の他のバイオポリマーと比較して高度の消化性を呈する。このことは、生物材料を医薬品、食品、及び/又は化粧品使用に特に好適にする。
【0078】
一実施形態では、本発明のヒドロゲルはフィルム、例えば薄膜を形成するために使用することができる。植物タンパク質由来フィルムは、食品包装用途のため又は埋込型デバイスを含む医療機器との使用のための生分解性可撓性フィルムを形成することを含む多くの用途を有する。
【0079】
本発明の植物性材料の動物性材料(又はデンプン性/セルロース材料)に対する利点は、植物性材料に固有の水に対する不溶性である。大半のバイオポリマーフィルムは水に容易に溶解し、したがってそれらは単独では食品包装用途に使用不可能となり、合成ポリマーを含む追加の被膜層を必要とする。これらの問題は本発明を用いて克服される。
【0080】
フィルムは、1~1000μm、1~100μm、10~100μm、20~60μm、30~50μm等の典型的な薄さを有し得る。
【0081】
フィルムは、20MPaを超える、50MPaを超える、80MPaを超える、100MPaを超える、200MPaを超える、300MPaを超える、400MPaを超える、500MPaを超える、600MPaを超える、又はそれ以上のヤング率を有し得る。
【0082】
フィルムは、10%を超える、20%を超える、30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超える、90%を超える、100%を超える、又はそれ以上の伸長破断百分率を有し得る。
【0083】
フィルムは、新規の機能特性、例えば超撥水性(蓮の葉効果)又は構造色(ミー散乱に起因する)を与える、100nm~1000μmに及ぶ特徴を有するようにマイクロパターニングすることができる。
【0084】
機能性複合フィルムは、無機ナノ粒子、例えばそれぞれ可撓性電子機器又は抗菌特性を有するフィルムの生成のための金ナノ粒子又は銀ナノ粒子を包埋することによって生産することができる。
【0085】
更なる実施形態では、本発明のヒドロゲルはマイクロビーズを形成するために使用することができる。植物性原料由来のマイクロビーズを形成することは、現在のプラスチック製マイクロビーズに関する環境問題を克服する。マイクロビーズは典型的には、最大寸法において1ミリメートル未満の直径を有する固体粒子である。
【0086】
一実施形態では、本発明のマイクロビーズは、最大寸法において1mm未満、900μm未満、800μm未満、700μm未満、600μm未満、500μm未満、400μm未満、300μm未満、200μm未満、又は100μm未満のサイズを有する。
【0087】
更なる実施形態では、本発明のヒドロゲルはマイクロカプセルを形成するために使用することができる。マイクロカプセルは、多様な物質を封入するために使用することができ、化粧品、食品使用、家庭用品使用、農業用化学薬品使用、及び医薬品使用における用途を含む様々な産業用途を見出すことができる。
【0088】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、標準的な合成ポリマーマイクロカプセル化シェル材料に対する完全に生分解性の代替材料を提供する。
【0089】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、植物性材料がマイクロ流体的に組織化することを特有な様式で可能にする。
【0090】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、例えば不都合な保存条件に対して優れた安定性を実現し、有効成分、例えば、食品使用におけるビタミン、必須脂肪酸、若しくは酸化防止剤、又は小分子と大分子との両方を含む医薬活性剤を保存するためのより安全な食品又は医薬品グレードの溶液となる。
【0091】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルはまた、高い再現性、すなわち複雑な構造(コアシェル)を生成する能力を保証するマイクロ流体技術を使用して生成することができる、及び/又は穏やかな加工に関する条件を使用して作製し、それによって、封入する活性剤を保護することができるという利点を有し得る。
【0092】
堅牢なマイクロカプセルもまた、クロスリンカー又は任意の他の有害物質の非存在下において、タンパク質凝集体の自己組織化を制御することによって植物性タンパク質から生成することができる。
【0093】
一実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、内側疎水性組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、内側親水性組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、生きた生物の組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、粉末組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、水中油型、油中水型、油中水中油型、又は水中油中水型エマルション等を封入し得る。
【0094】
本発明の植物性ヒドロゲルはマイクロカプセルシェルを形成することができる。一実施形態では、シェルは、約100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、20μm、25μm、30μm、30μm、35μm、40μm、又は50μm等の厚さを有し得る。更なる厚さとしては、10nm~50000μmの間、10μm~100μmの間、10μm~50μmの間、10μm~10μmの間等が挙げられる。
【0095】
本発明の植物性マイクロカプセルは、ビタミン、必須脂肪酸、酸化防止剤、小分子、親水性小分子、疎水性小分子、タンパク質、抗体、抗体-薬物コンジュゲート、香料、及び他の大分子を含む、栄養補助食品、化粧品、医薬品、又は農業用化学薬品に好適な任意の活性剤を封入し得る。
【0096】
封入される好適な薬剤としては、
エラストマー配合物、ゴム配合物、塗料配合物、コーティング剤配合物、接着剤配合物、又は封止剤配合物の重合のためのクロスリンカー、ハードナー、有機触媒、及び金属系触媒(例えば、プラチナ、パラジウム、チタン、モリブデン、銅、又は亜鉛の有機錯体及び無機錯体);
インク、パーソナルケア製品、エラストマー配合物、ゴム配合物、塗料配合物、コーティング剤配合物、接着剤配合物、封止剤配合物、又は紙配合物のための色素、着色剤、顔料;
洗剤、家庭掃除用品、パーソナルケア製品、テキスタイル(いわゆるスマートテキスタイル)、コーティング剤配合物のための香料。本発明に有用な香料は、国際香粧品香料協会(IFRA)によって公開及び更新されている標準品のリストに属する化合物のいずれかである;
食料及び食料品のための芳香物質、香味料、ビタミン、アミノ酸、タンパク質、必須脂質、プロバイオティクス、酸化防止剤、保存料;
洗剤及びパーソナルケア製品のための柔軟剤及びコンディショナー;
パーソナルケア製品、テキスタイル(いわゆるスマートテキスタイル)のための生理活性化合物、例えば、酵素、ビタミン、タンパク質、野菜抽出物、保湿剤、消毒剤、抗菌剤、サンスクリーン剤、薬物。これらの化合物としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、パラアミノ安息香酸、アルファヒドロキシ酸、樟脳、セラミド、エラグ酸、グリセリン、グリシン、グリコール酸、ヒアルロン酸、ヒドロキノン、イソプロピル、イソステアリン酸、パルミチン酸イソプロピル、オキシベンゾン、パンテノール、プロリン、レチノール、パルミチン酸レチニル、サリチル酸、ソルビン酸、ソルビトール、トリクロサン、チロシンが挙げられるが、これらに限定されない;並びに
農業用化学薬品のための肥料、除草剤、殺虫剤、農薬、殺真菌剤、忌避剤、及び殺菌剤
から選択される1つ又は複数の薬剤が挙げられる。
【0097】
本発明の植物性マイクロカプセルは、診断及びハイスループットスクリーニングにおいても有用であり得る。
【0098】
本発明の植物性ヒドロゲルは、マイクロゲル又はマイクロスケールスポンジを製造することにおいても有用であり得る。マイクロゲルとはマイクロスケールヒドロゲルである。マイクロスケールスポンジは、物質、例えば有効成分を担持するマイクロゲルと考えることができる。
【0099】
本発明の植物性ヒドロゲルは、生体足場及び生体支持体を製造することにおいても有用であり得る。そのような材料は、in vitroとin vivoとの両方において細胞及び組織を成長させるのに有用であり得る。ヒドロゲルは、医療機器及び埋込剤を被覆することにおいても有用であり得る。
【0100】
本発明の植物性タンパク質は、タンパク質の特性を変化させるために官能基付加及び/又は誘導体化され得る。
【0101】
次に、本発明は以下の非限定的な例を参照して記載される。
【0102】
材料
- ダイズタンパク質単離物(SPI)(92%タンパク質)はMP Biomedicals社から購入した。
- 酢酸(氷)、及び乳酸(天然、≧85%)、ダイズ油(Glycine max由来のソヤ油)、(-)-リボフラビン、グリセロール、及びPFO(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)は、Sigma Aldrich社から購入した。ペクチンはCargill社の好意により提供された。
- フロリナート(Fluorinert)(FC-40)はFluorochem社から購入した。
- 008-フッ素系界面活性剤はRAN Biotechnologies社から購入した。
【実施例0103】
自立型ヒドロゲルを以下のプロセスに従って調製した。
【0104】
氷酢酸を脱イオン水と様々な比(10%v/v、30%v/v、50%v/v、70%v/v、及び90%v/v)で混合した。ダイズタンパク質単離物を100mg/mlの最終タンパク質濃度でDI水/酢酸溶液に添加した。非可溶性タンパク質の分散体を得た。タンパク質の可溶化のために、混合物を超音波処理に30分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。このプロセスの間、サンプル温度を85℃~90℃に保った。30分後、完全に半透明の液体溶液を得た。サンプルを室温で5分間放冷した。このプロセスの間に、液体サンプルは、バイアル反転後に観察可能な半透明の自立型ヒドロゲルになる。
【0105】
実施例1に従って作製した種々の酢酸/DI水比のヒドロゲルを
図1に示す。
【0106】
自立型ヒドロゲルは10%~70%v/v酢酸/DI水比の場合に見られた。30%v/v以上の溶液の場合に自立型ヒドロゲルを急速に形成した完全に半透明の溶液が生じたことに注目した。ゲルが完全に半透明であったという事実は、ゲルが大きな不溶性凝集体ではなく小さな可溶性凝集構造体、例えばタンパク質冷却固化ゲルにおいて通常見出される構造体で構成されていたことを示唆した。
【0107】
本発明に従って作製したヒドロゲルは安定であり、水とエタノールとの両方における複数回の洗浄工程後にその構造を保持した。
【0108】
走査型電子顕微鏡検査
SEM(走査型電子顕微鏡検査)を、30%v/v共溶媒比を使用して作製したヒドロゲルに関して実行し、
図2に示す。ヒドロゲルマイクロ構造は、微細鎖状タンパク質凝集体の高密度に詰まったネットワークの存在を確認した。図は、ゲルネットワークが酢酸の除去後に依然として損なわれていないことも示す。
【0109】
したがって、熱可逆性の植物性ゲルが初めて調製された。
【0110】
ダイズタンパク質ヒドロゲル及びマイクロゲルを最後の工程において100%無水エタノールを使用してエタノール中で脱水した。サンプルが移行中に乾燥するのを予防するために100%無水エタノールに浸漬してそれを部分的に満たした微孔性試料カプセル(78μm孔径、Agar Scientific社)にサンプルを移行した。次いで、サンプルを、液体CO2を用いた4~5回のフラッシュ洗浄と各フラッシュ洗浄間の少なくとも15分のインキュベーションとを使用するQuorum E3100臨界点乾燥装置を使用して臨界点乾燥した。サンプルを、導電性カーボン粘着パッド(Agar Scientific社)を使用してアルミニウム製SEMスタブに乗せ、Quorum K575Xスパッタコーターを使用して15nmイリジウムで被覆した。サンプルを、2keV及び25~50pAのプローブ電流において運転させたFEI Verios 460走査型電子顕微鏡を使用して検査した。二次電子画像を、フィールドフリーモードのEverhard-Thornley検出器(低分解能)又は完全界浸モードのスルーレンズ検出器(高分解能)のいずれかを使用して獲得した。
【0111】
レオロジー特徴付け
SPIヒドロゲルのレオロジー特性の特徴付けのために、実施例1を介して作製したサンプルをRTで1時間放冷し、次いで4℃で12時間保管した。
【0112】
レオロジー測定を、ARES制御ひずみレオメーターを使用して実施した。試験を、25mm滑面平行平板を使用して20℃の温度で実行した。ひずみ及び周波数掃引を、漸増量の酢酸を含有するSPIヒドロゲルサンプルに関して実行した。ひずみ掃引は、10rad/sの周波数を使用して0.01~100%のひずみまで実行した。周波数掃引は、1%のひずみ(線形粘弾性領域内)を使用して0.1~100rad/sまで実行した。全てのレオロジー測定は温度制御下(20±0.25℃)で実施した。
【0113】
H2O:酢酸共溶媒比の関数としてのSPIヒドロゲルのレオロジー特性を
図3に示す。少量の酢酸(10%v/v)の添加が弱いヒドロゲルの形成をもたらすことが分かり、この原因はタンパク質の不完全な可溶化及びより大きな不溶性凝集体の存在に帰することができた。他方、大量の酢酸もまた弱いヒドロゲルの形成をもたらした(90%v/v)。30~70%v/vの共溶媒比を用いて形成したヒドロゲルはより強いヒドロゲルをもたらし、30及び50%酢酸(v/v)を用いて調製したヒドロゲルは2500Paを超えるG'を示した。
【0114】
FTIR
様々な溶媒比下でのヒドロゲル二次構造の変化を検討した。SPIヒドロゲルの構造分析を、FTIR-Equinox 55分光計(Bruker社)を使用することによって実施した。ヒドロゲルサンプルを、更なる前処理を行わずに使用し、FTIRホルダーに担持させ、50%v/v(DI水/酢酸)基準を減算することによって分析した。大気補正スペクトルを最初のFTIRスペクトルから減算し、二次導関数を更なる分析のために適用した。各FTIR測定をあらゆるサンプル複製物(サンプル1つ当たり平均で9つの複製物)に対して3回繰り返した。機器の感度は5%と検出された。ダイズタンパク質単離物の天然構造の超分子凝集体への変換を解析するために、タンパク質二次構造と厳密に相関するアミドIの振動変化を追跡した。
【0115】
FTIR測定の結果を
図4に示す。SPIヒドロゲルが高含量のαヘリックス(1656cm
-1)分子間平行βシート(1625cm
-1)二次構造を有することは二次導関数分析から明確である。
乳酸を脱イオン水と様々な比(10%v/v、30%v/v、50%v/v、70%v/v、及び90%v/v)で混合した。ダイズタンパク質単離物を100mg/mlの最終タンパク質濃度でDI水/乳酸溶液に添加した。非可溶性タンパク質の分散体を得た。タンパク質の可溶化のために、混合物を超音波処理に30分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。このプロセスの間、サンプル温度を85℃~90℃に保った。30分後、完全に半透明の液体溶液を得た。サンプルを室温で5分間放冷した。
本発明の方法を使用して安定なヒドロゲルが形成可能であることを立証したため、そのようなヒドロゲルの使用をマイクロ流体手法に用いて、別々の一様な顕微鏡物体、例えばマイクロゲル及びマイクロカプセルを形成した。