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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060624
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/16 20060101AFI20240424BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240424BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20240424BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H05K1/16 B
H01F17/00 B
H01F30/10 D
H01F27/28 104
H01F27/28 176
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032133
(22)【出願日】2024-03-04
(62)【分割の表示】P 2021045546の分割
【原出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】田原 博光
(57)【要約】
【課題】
多層基板の熱抵抗を低減する技術を提供する。
【解決手段】
本発明の多層基板は、導体が配線された複数の基板と、第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子が添加された絶縁材料と、を含み、積層された複数の基板において、それぞれ隣り合う2枚の基板間には、これらの2枚の基板における導体の間隔に略一致する第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子が、隣り合う2枚の基板に配線された導体とそれぞれ接触するように配置された積層構造をなす。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の系統及び第2の系統からなる冗長構成を備える電源装置であって、
前記第1の系統には、第1の絶縁トランス及び第1の平滑用インダクタを備え、
前記第2の系統には、第2の絶縁トランス及び第2の平滑用インダクタを備え、
前記第1の絶縁トランスと前記第2の絶縁トランスと前記第1の平滑用インダクタと前記第2の平滑用インダクタは四角形状の多層基板の各辺上に配置され、
前記第1の絶縁トランスと前記第2の絶縁トランスは前記多層基板の向かい合う第1の辺と第2の辺に配置され、
前記第1の平滑用インダクタと前記第2の平滑用インダクタは前記多層基板の向かい合う第3の辺と第4の辺に配置される、
電源装置。
【請求項2】
前記多層基板は、
導体が配線された複数の基板と、
第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子と、
前記第1の粒径よりも小さい第2の粒径を持つ第2の絶縁粒子が添加された絶縁材料と、
を含み、
積層された前記複数の基板において、それぞれ隣り合う2枚の基板間には、該2枚の基板における前記導体の間隔に略一致する前記第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子が、該隣り合う2枚の基板に配線された導体とそれぞれ接触するように配置された積層構造をなし、
前記第2の絶縁粒子が占める体積の割合が前記第1の絶縁粒子が占める体積の割合よりも高い、又は、前記第2の絶縁粒子が占める質量の割合が前記第1の絶縁粒子が占める質量の割合よりも高い、
請求項1に記載された電源装置。
【請求項3】
前記第1の絶縁粒子の材料はセラミックスである、請求項2に記載された電源装置。
【請求項4】
前記導体と熱結合されたブロックを備える、請求項2又は3に記載された電源装置。
【請求項5】
前記導体が巻線体を構成する、請求項2乃至4のいずれか1項に記載された電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層基板、集積型磁性デバイス、電源装置及び多層基板の製造方法に関し、特に、複数の磁性デバイスを形成可能な多層基板及びその製造方法、並びに当該多層基板が用いられた集積型磁性デバイス及び電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高信頼度が要求されるシステムの故障率を低下させるために、システムのハードウエアを冗長構成とする手法が採用されている。例えば、電源装置を、2系統以上の電源回路を持つ冗長構成とすることで、一部の系統の電源回路が停止した場合でも、稼働可能な系統の電源回路を用いてシステムに電力を供給できる。これにより、当該システムの信頼性を向上させることができる。
【0003】
複数の系統を持つ冗長構成を備えた電源装置において、電力の処理がバランス状態にあると、それぞれの電源系統で用いられる電力デバイスの電力損失は、それぞれの電源系統でほぼ均等である。その結果、電力デバイスの温度上昇は低く抑えられる。ここで、バランス状態とは、全ての電源系統が正常に稼働しかつ全ての電源系統の取扱う電力が均等となる状態である。
【0004】
本発明に関連して、特許文献1は、コイル及び絶縁シートからなるコイル構造体を記載している。特許文献2は、多層基板によってコイルが形成された絶縁型コンバータを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/208332号
【特許文献2】国際公開第2017/221476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の電源系統を備える電源装置において、電源系統の一部が停止すると、残存して稼働する電源系統によって電力を負荷に供給する必要がある。このような場合には、電源系統あたりの取扱い電力が上昇するため、残存する電源系統の電力デバイスの温度が上昇する。このため、電力デバイスの温度上昇が各デバイスの許容限界に近づくことによる電源装置全体の取扱い電力の制限や、或いは電力デバイスの大型化といった問題が生じる恐れがある。特に、海洋中や宇宙空間で用いられる電源装置では、電力デバイスの冷却手段が制限される。電力デバイスの温度上昇はシステムの信頼度を低下させる要因となるため、電力デバイスの温度上昇の抑制が課題となる。
【0007】
また、電源回路で用いられる磁性デバイスでは、磁性デバイスの主体である巻線体において、取扱い電力の増加に対して発生損失が電流の2乗に比例して増加する。さらに、効率的な磁気回路を構成するために、磁性デバイスは磁性体と巻線体とを用いた複雑な立体構造となることが多い。このような観点からも、磁性デバイスには効率的な放熱が可能であることが望まれる。
【0008】
図15は、巻線体として用いられる一般的な多層基板900の断面を示す図である。多層基板900は、導体911を持つ基板901及び導体912を持つ基板902からなる。導体911及び912は、それぞれ、基板901及び基板902の上に形成された電気配線である。基板901と基板902との間には、ガラス繊維921及び熱硬化性樹脂931が存在する。ガラス繊維921は導体911と導体912との間の、絶縁耐力を担保する。熱硬化性樹脂931は基板901と基板902とを接着する。
【0009】
図15の構成で用いられるガラス繊維921と熱硬化性樹脂931とのいずれの材料も金属と比べて熱抵抗が比較的高い。このため、多層基板900には、熱抵抗が高く、多層基板900を用いて構成された磁性デバイスの温度上昇の抑制が困難であるという課題があった。
(発明の目的)
本発明は、多層基板の熱抵抗を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多層基板は、
導体が配線された複数の基板と、
第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子が添加された絶縁材料と、を含み、
積層された前記複数の基板において、それぞれ隣り合う2枚の基板間には、該2枚の基板における前記導体の間隔に略一致する前記第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子が、該隣り合う2枚の基板に配線された導体とそれぞれ接触するように配置された積層構造をなす。
【0011】
本発明の多層基板の製造方法は、
導体が配線された複数の基板からなる多層基板の製造方法であって、
積層された前記複数の基板の前記導体の間隔に基づいて第1の粒径を持つ第1の絶縁粒子を選択し、
前記第1の絶縁粒子を絶縁材料に添加し、
前記絶縁材料によって前記複数の基板を積層する、
手順を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、多層基板の熱抵抗を低減する技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態の多層基板100の断面図の例である。
図2】多層基板の製造手順の例を示すフローチャートである。
図3】多層基板100Aの断面図の例を示す図である。
図4】電源装置800の構成例を示す図である。
図5】トランスT1の端子配置の例を示す図である。
図6】トランスT2の端子配置の例を示す図である。
図7】コイルL1の端子配置の例を示す図である。
図8】コイルL2の端子配置の例を示す図である。
図9】多層基板251の上面図の例である。
図10】磁性体281の上面図及び側面図の例である。
図11】集積型磁性デバイス201の上面図の例である。
図12】多層基板251に備えられるブロック301の上面図及び側面図の例である。
図13】ブロック301を備えた集積型磁性デバイス201の底面図及び側面図の例である。
図14】第3の実施形態の集積型磁性デバイス830の構成例を示す図である。
図15】一般的な多層基板900の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。実施形態及び図面では既出の要素には同一の参照符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
多層基板を用いた磁性デバイスは、巻線体と、巻線体のコアとして用いられる磁性体とを組み合わせて構成される。巻線体は、表面に導体が配線された基板を接着剤によって積層することで製造される。接着剤は、対向する基板同士の間を絶縁する材料(絶縁材料)である。代表的な導体の材料は銅である。銅は電気抵抗及び熱抵抗が共に低く、比較的安価である。代表的な絶縁材料は熱硬化性樹脂である。なお、本願において、「多層基板」は、「積層基板」と称することもできる。
【0016】
本実施形態では、磁性デバイスで用いられる多層基板について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の多層基板100の断面図の例である。多層基板100は、2層の基板101及び102が、対向する導体111及び112を持つ2層の多層基板である。導体111及び112は、それぞれ、基板101及び基板102の上に形成される。基板101及び102の材料は、例えばガラスエポキシ樹脂である。導体111及び112は、例えば、ぞれぞれ、基板101及び102上に形成された銅のプリント配線である。基板101及び102の両面に導体が配線されていてもよい。導体111及び112は、多層基板100上の導体が巻線体を構成するように、適宜、基板間のスルーホール等で接続される。多層基板を用いて巻線体を構成する基本的な構造は公知であるため、多層基板における巻線体の配線についての説明は省略する。また、巻線体を用いた磁性デバイスの形態の例については第2の実施形態以降で説明する。
【0017】
多層基板100では、基板101と基板102とが積層される際に、粒径が異なる2種類のセラミックス粒子121及び122が添加された熱硬化性樹脂131が接着剤として用いられる。セラミックス粒子121の粒径dはセラミックス粒子122の粒径Dよりも小さい。粒径は、粒子の平均直径である。粒径が小さいセラミックス粒子121は、基板101と基板102との間に充填される熱硬化性樹脂131の流動性と充填性とを大きく損なわないように添加される。粒径dは、例えば1μm以下である。
【0018】
また、セラミックス粒子121よりも粒径が大きいセラミックス粒子122が導体111と導体112との間に充填されることにより、導体111と導体112との間の最小距離が担保される。例えば、粒径Dのセラミックス粒子122を熱硬化性樹脂131に添加することで、導体111と導体112との間にセラミックス粒子122が充填される。従って、セラミックス粒子122を熱硬化性樹脂131に添加することによって、導体111と導体112との間の距離をD以上とすることができる。すなわち、セラミックス粒子122の粒径Dは、導体111と導体112との間の最小間隔が担保されるように設定されてもよい。また、粒径Dは、導体111と導体112との間の絶縁に必要とされる間隔以上であってもよい。粒径Dは、多層基板100における導体111と112の間隔と略一致するように選択されてもよい。粒径Dを大きくすることで、導体111と導体112との間の距離も大きくなり、絶縁性能も向上する。一方、粒径Dが大きくなると基板101と基板102との間の間隔(すなわち、熱硬化性樹脂131の層の厚さ)が大きくなり、多層基板100の熱抵抗が増大する。従って、セラミックス粒子122の粒径Dは、基板間の絶縁性能を担保できる範囲で、小さくすることが好ましい。
【0019】
このように、多層基板100で用いられる熱硬化性樹脂131には、粒径が異なるセラミックス粒子121及び122が添加される。セラミックス粒子121及び122が添加された熱硬化性樹脂131は、絶縁材料の一例である。このような熱硬化性樹脂131を用いて基板を積層することで、粒径の小さいセラミックス粒子121によって熱硬化性樹脂131の流動性及び充填性が確保される。同時に、粒径の大きいセラミックス粒子によって基板間の絶縁距離が確保(すなわち、絶縁性能が担保)される。
【0020】
すなわち、このような構造によれば、粒径の大きいセラミックス粒子121によって基板間の絶縁距離が略均一に確保されるので、多層基板100の製造工程において基板間の離間距離を厳格に調整する工程を省略することができる。換言すれば、多層基板100によれば、製造工程において基板間の位置決めを容易にすることができるので、生産性向上という効果を享受することができる。
【0021】
多層基板100の製造時には、セラミックス粒子121及び122の粒径が、熱硬化性樹脂131の流動性及び充填性、並びに多層基板100の絶縁性能に応じて選択される。セラミックス粒子122の添加量は、多層基板100の全体において導体111と導体112との間にセラミックス粒子122が充分に充填される程度であることが好ましい。また、熱硬化性樹脂131の流動性及び充填性を確保するために、熱硬化性樹脂131においてセラミックス粒子121が占める体積又は質量の割合は、セラミックス粒子122が占める体積又は質量の割合よりも大きくてもよい。
【0022】
セラミックス粒子121の添加量を増加させることで、より多くの熱硬化性樹脂131をセラミックス粒子121に置き換えることができる。これによって、多層基板100の熱抵抗をさらに低下させることができるとともに、多層基板100の熱膨張率も低下させることができる。熱抵抗の低下は多層基板100の放熱能力の拡大に寄与する。さらに、多層基板100の熱膨張率の低下によって、多層基板100に搭載される比較的熱膨張率が小さい部品と多層基板100との熱膨張率差を低減できる。例えば、多層基板100を用いた磁性デバイスにセラミックスの一種であるフェライトコアが用いられる場合に、フェライトコアと多層基板100との熱膨張率差が低減される。熱膨張率差の低減により、フェライトコアの搭載時に多層基板100との間隙のマージンを小さくできる。また、フェライトコアと多層基板100との接触部分に加わる温度変化による応力を小さくできる。その結果、温度変化によるこれらの部品間の干渉による悪影響を回避しつつ、多層基板100を用いた磁性デバイスの小型化や信頼性の向上が可能となる。
【0023】
セラミックス粒子121及び122が添加された熱硬化性樹脂131を用いて基板101と基板102とが接着される。粒径の大きいセラミックス粒子122により、導体111と導体112との距離は、基板101と基板102とを接着するのみで容易かつ確実に制御できる。また、セラミックス粒子122によって、基板間の距離を絶縁に必要な最低限の値とすることができる。その結果、セラミックス粒子121及び122を含む熱硬化性樹脂131が多層基板100の全体に占める体積及び質量の割合も低減され、そして多層基板100の熱抵抗も低減される。例えば、複数の巻線体を含む多層基板100を用いて構成された磁性デバイスは、一部の巻線体のみが磁性デバイスとして動作している場合でも、その巻線体からの熱を多層基板100の全体で効率よく放熱できるため、巻線体の温度上昇を抑制できる。これは、磁性デバイスの信頼性の向上に貢献する。
【0024】
(第1の実施形態の他の構成)
熱抵抗が小さいという多層基板100の効果は、以下の要素を備える多層基板によっても実現される。図1の対応する要素の参照符号を括弧内に示す。すなわち、多層基板(100)は、導体(111及び112)が配線された複数の基板(101及び102)と、第1の粒径(D)を持つ第1の絶縁粒子(122)が添加された絶縁材料(131)と、を含む。多層基板(100)は、積層された複数の基板において、それぞれ隣り合う2枚の基板(101及び102)間には、第1の絶縁粒子(122)が、隣り合う2枚の基板に配線された導体(111及び112)とそれぞれ接触するように配置された積層構造をなす。ここで、第1の絶縁粒子(122)は、これらの2枚の基板における導体(111及び112)の間隔に略一致する第1の粒径(D)を持つ。
【0025】
このような多層基板は、積層される基板の導体間の間隔に略一致する第1の粒径の絶縁粒子(122)が絶縁材料(131)に添加されているため、基板101と基板102とを積層するのみで、基板(101及び102)の間を所定の間隔で積層できる。このような構成により、絶縁材料の厚さが小さい(すなわち、熱抵抗の低い)多層基板(100)を容易に製造できる。従って、多層基板100に搭載された部品の一部が発熱した場合でも、発熱した部品及びその周辺の局所的な温度上昇を回避できる。
【0026】
図2は、上述した他の構成における多層基板の製造方法の例を示すフローチャートである。まず、積層された複数の基板の導体(111、112)の間隔に基づいて、第1の粒径(D)を持つ第1の絶縁粒子(122)が選択される(図2のステップS01)。そして、第1の絶縁粒子(122)が絶縁材料(131)に添加される(ステップS02)。最後に、絶縁材料(131)によって複数の基板(101、102)が積層される。
【0027】
(第1の実施形態の変形例)
図3は、多層基板100Aの断面図の例を示す図である。多層基板100Aでは、多層基板100の基板101及び102に加えて基板103及び104が積層されている。基板101と基板102との間、基板102と基板103との間、基板103と基板104との間には、ぞれぞれ、図1で説明したセラミックス粒子121及び122が添加された熱硬化性樹脂131が充填されている。このように、図1の多層基板100の構造は、より層数の多い多層基板100Aにも適用できる。基板を多層化することにより、巻線体の巻数を増加させることができる。多層基板100Aの層数はさらに多くてもよい。
【0028】
(第2の実施形態)
本実施形態では、2系統(すなわち、「1+1」)の冗長構成を備える電源装置に用いられる集積型磁性デバイスについて説明する。
【0029】
図4は、本実施形態の集積型磁性デバイスが用いられる電源装置800の構成例を示す図である。電源装置800は、2台の電源回路801及び802を備える。電源回路801及び802は、入力された直流電圧Vinを変圧して直流電圧Voutを出力する。例えば、Vin=57V、Vout=12Vである。Voutは、図示されない負荷に供給される。
【0030】
通常は電源回路801及び802は同時に動作する。そして、電源回路801及び802の一方が故障した場合には、他方の電源回路のみが動作する。例えば、電源回路801が故障した場合は、電源回路801は直流電圧Voutの出力を停止し、電源回路802のみが直流電圧Voutを出力する。このように、電源装置800は、2系統の電源回路(電源回路801及び電源回路802)による「1+1」冗長構成を備える。
【0031】
電源回路801は、内部に絶縁トランスT1及び平滑用インダクタL1を1個ずつ備える。電源回路802の構成は電源回路801と同一であり、電源回路802は絶縁トランスT2及び平滑用インダクタL2を1個ずつ備える。以下では、絶縁トランスT1及び絶縁トランスT2をそれぞれトランスT1及びトランスT2と記載する。また、平滑用インダクタL1及び平滑用インダクタL2をそれぞれコイルL1及びコイルL2と記載する。後述する集積型磁性デバイス201は、電源装置800で用いられるトランスT1及びT2、並びに、コイルL1及びL2の4個の磁性デバイスが集積化された電気部品である。図4では、破線で囲まれた4個の磁性デバイスが、1個の集積型磁性デバイス201に含まれる。
【0032】
図5図8は、それぞれ、トランスT1及びT2、並びにコイルL1及びL2の端子配置の例を示す図である。図9は、集積型磁性デバイス201で用いられる多層基板251の上面図の例である。トランスT1及びT2、並びにコイルL1及びL2はいずれも6個の端子を持つ。多層基板251は、これらを集積化するために、図9に示すように、24個の端子252を備える。
【0033】
図9を参照すると、1枚の多層基板251には、トランスT1及びT2にそれぞれ対応する巻線体211及び212と、コイルL1及びL2にそれぞれ対応する巻線体213及び214とが形成されている。巻線体211-214は、多層基板251の、楕円形の破線で囲まれた範囲内に形成される。巻線体211-214の中央部には、多層基板251を貫通する長円形の孔253が開けられている。後述するように、これらの4個の孔253に磁性体が挿入されることで、巻線体211-214は独立した磁性デバイス(すなわち、トランス又はコイル)として所定の機能を発揮する。孔253に挿入された磁性体は、それぞれの磁性デバイスの長手方向の磁路として用いられる。
【0034】
図10は、巻線体211-214と組み合わせて用いられる磁性体281の上面図及び側面図の例である。磁性体281は、巻線体211-214のコアとして用いられる。磁性体281の材料は、例えばフェライトである。磁性体281は、巻線体211-214を表及び裏から挟み込むように、多層基板251に装着される。1個の孔253には、磁性体281の長円形の凸部282が多層基板251の表及び裏から1個ずつ挿入される。
【0035】
図11は、集積型磁性デバイス201の上面図の例である。多層基板251に4組の磁性体281が装着されることで、多層基板251は集積型磁性デバイス201として機能する。磁性体281と多層基板251との固定手段は特に限定されず、例えば接着剤を用いてもよい。
【0036】
多層基板251における基板の積層構造は、第1の実施形態の図1及び図3で例示した多層基板100又は100Aと同様である。すなわち、多層基板251は、粒径の異なるセラミックス粒子121及び122が添加された熱硬化性樹脂131を用いて、紙面に垂直な方向に基板が積層された2層以上の多層基板である。1個の多層基板251には、既知の配線手法により、導体を用いて巻線体211-214が構成されている。多層基板251は、トランスT1及びT2、コイルL1及びL2のそれぞれの仕様に基づいて算出された数の基板を積層して製造される。第1の実施形態の多層基板100及び100Aと同様に、多層基板251に集積された4個の巻線体211-214の間は、低い熱抵抗で結合される。
【0037】
24個の端子252は、多層基板251の導体に形成された、巻線体211-214の図示されない端子に接続されている。端子252は、トランスT1及びT2、コイルL1及びL2を電源回路801及び802の回路基板に搭載する際に用いられる端子である。図5図8の端子1-24が、それぞれ、図9の24個の端子252のいずれか1個に接続されるように、多層基板251の導体の配線が設計される。端子252と電源回路801及び802の回路基板との間の電気的な接続手段は任意であり、例えば両者の間は銅線で配線される。なお、図5図8の端子1-24をすべて電源回路801及び802と接続する必要はない。電源回路801及び802の機能を実現するために必要とされる端子のみが、端子252を介して電源装置800と接続されてもよい。このように、多層基板251を用いた集積型磁性デバイス201は、2系統の電源回路801及び802で用いられるトランスT1及びT2、並びにコイルL1及びL2の機能を1個の部品で担うことができる。
【0038】
電源回路801及び802が正常に動作している場合は、電源回路801及び802はいずれも負荷に直流電圧Voutを供給する。このため、トランスT1及びT2、並びにコイルL1及びL2の全てにおいて電力が消費される。従って、すべての巻線体は、電力損失の発生によって熱源となる。電源回路801及び802の一方が故障等により停止した場合には、稼働を継続する他方の電源回路によって、電源装置800が供給していた電力が負荷へ供給される。この場合、稼働する電源回路のトランス及びコイルは電源回路2台分の電力を扱うことになるため、集積型磁性デバイス201の発熱も稼働する電源回路のトランス及びコイルに集中する。例えば、電源回路801が停止し、電源回路802のみが稼働する場合には、トランスT1及びコイルL1は発熱せず、トランスT2及びコイルL2の発熱量(すなわち、巻線体213及び214の発熱量)は大きく増加する。このような場合でも、集積型磁性デバイス201は、多層基板251の各層の基板が低い熱抵抗で積層されているため、トランスT2及びコイルL2の発熱を多層基板251の全体に効率よく伝搬させ、集積型磁性デバイス201の全体で放熱できる。その結果、電源回路802のみが稼働している場合でもトランスT2及びコイルL2の近傍のみが発熱することを抑制でき、これらの磁性デバイスの局所的な温度上昇を抑制できる。
【0039】
なお、集積型磁性デバイス201の小型化や磁性デバイス内の熱分布の均一化のためには、巻線体211-214の相互の距離は小さいほどよい。しかし、巻線体同士の距離が小さすぎると、ある巻線体の磁路から漏れた磁束が隣接する他の巻線体の磁路に混入し、それぞれの巻線体の動作に悪影響を及ぼす恐れがある。このような悪影響を回避するためには、隣接する巻線体の磁路が互いに直交するように巻線体を配置することが好ましい。多層基板251においては、隣接する巻線体において、磁性体281によるそれぞれの磁路は直交する。例えば、トランスT1(巻線体211)の磁路と、コイルL1(巻線体212)及びコイルL2(巻線体213)の磁路とは直交する。このような配置により、隣接する磁性デバイスからの漏れ磁束による不要な電力伝搬やノイズの混入を抑制できる。
【0040】
以上説明したように、集積型磁性デバイス201には、電源回路801及び802で用いられるトランスT1及びT2(絶縁トランス)、並びにコイルL1及びL2(平滑用インダクタ)が集積されている。そして、集積型磁性デバイス201の多層基板251を構成する基板は、第1の実施形態で説明したように、低い熱抵抗で積層される。このため、集積型磁性デバイス201は、稼働中の電源回路の磁性デバイスから発生した熱を、集積型磁性デバイス201の全体に低い熱抵抗で伝搬させることができる。その結果、集積型磁性デバイス201の内部で発生した熱は集積型磁性デバイス201全体に低い熱抵抗で拡散され、電源回路で使用されている磁性デバイスの局所的な温度上昇を抑制できる。
【0041】
(第2の実施形態の変形例)
図12は、多層基板251に備えられるブロック301の上面図及び側面図の例である。多層基板251の熱抵抗をさらに低下させるために、多層基板251はブロック301を備えてもよい。ブロック301は略四角形の枠状の金属であり、材質は例えばアルミニウムである。ブロック301は中央部に貫通孔302を持ち、また、磁性体281との接触を回避するための切り欠きを4か所に有する。
【0042】
図13はブロック301を備えた集積型磁性デバイス201の底面図及び側面図の例である。ブロック301は、複数の巻線体211-214の間を熱結合させることで、多層基板251の熱抵抗をさらに低下させる。多層基板251とブロック301とは、巻線体211-214の近傍において接合される。多層基板251とブロック301とは例えばメタルコンポジットにより接合されてもよく、他の手段によって接合されてもよい。多層基板251がブロック301を備えることにより、集積型磁性デバイス201に搭載された磁性デバイスの温度上昇をさらに抑制できる。
【0043】
第2の実施形態及びその変形例では、電源装置800が、電源回路801及び802を備える「1+1」冗長構成である場合について説明した。しかし、集積型磁性デバイス201は、3以上の複数の系統の電源回路で用いられる磁性デバイスを混載してもよい。この場合、1つ以上の系統の電源回路が故障した結果残余の系統の電源回路の磁性デバイスの発熱量が上昇した場合でも、集積型磁性デバイス201は、稼働している系統の磁性デバイスの熱を効率よく放熱できる。
【0044】
集積型磁性デバイス201に搭載される磁性デバイスはトランス及びコイルに限定されず、また、磁性デバイスの個数も4個に限定されない。さらに、多層基板251が磁性デバイス以外の電子デバイスを搭載した場合でも、多層基板251は熱抵抗が低いため、当該電子デバイスの発熱による当該電子デバイスの温度上昇を抑制できる。
【0045】
(第3の実施形態)
図14は、本発明の第3の実施形態の集積型磁性デバイス830の構成例を示す図である。図14は、集積型磁性デバイス830の上面図の例及び上面図のA-A’断面図の例を示す。集積型磁性デバイス830は、1個の多層基板810と2組の磁性体820とを備える。多層基板810は2個の巻線体811及び812を備える。巻線体811及び812は、それぞれ、多層基板810の各層に形成された導体によって形成される。巻線体811及び812は、それぞれ、磁性体820と組み合わされることで、独立した磁性デバイスとして動作する。磁性デバイスは、例えば、トランス又はコイルであるが、これらには限定されない。磁性体820として、巻線体811及び812のそれぞれに、図10に示した磁性体281が2個ずつ用いられてもよい。
【0046】
多層基板810の積層方法は図1又は図3に例示した多層基板100又は100Aと同様であり、絶縁材料を用いて複数の基板を積層することで製造される。絶縁材料は、例えば、多層基板810の基板間における、巻線体を構成する導体の間隔に基づいて選択された粒径の絶縁粒子が添加された樹脂である。
【0047】
このような構成を備える集積型磁性デバイス830は、1枚の多層基板810に複数の磁性デバイスを集積している。また、多層基板810を構成する複数の基板は、巻線体を構成する導体の間隔に基づいて選択された粒径の絶縁粒子が添加された樹脂を用いて積層される。このような樹脂を用いることで熱抵抗が低く絶縁性能が高い多層基板を容易に製造できる。そして、集積型磁性デバイス830は、発生する熱を集積型磁性デバイス830の全体で発散できる。従って、集積型磁性デバイス830は、複数の磁性デバイスのいずれかが動作していない場合でも、動作中の磁性デバイスの温度上昇を抑制できる。
【0048】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態に限定されない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。例えば、各実施形態で例示された多層基板及び集積型磁性デバイスは、電源回路のほか、冗長性を備えた送信機、受信機、コンピュータシステムなどで用いられてもよい。また、各基板の導体は巻線体でなくとも、各実施形態の構成によって、導体からの熱を効率的に放熱できる。
【0049】
また、それぞれの実施形態に記載された構成は、必ずしも互いに排他的なものではない。本発明の作用及び効果は、上述の実施形態の全部又は一部を組み合わせた構成によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
100、100A、251、810 多層基板
101-104 基板
111-112 導体
121-122 セラミックス粒子
131 熱硬化性樹脂
201、830 集積型磁性デバイス
211-214 巻線体
252 端子
253 孔
281、820 磁性体
282 凸部
301 ブロック
302 貫通孔
800 電源装置
801、802 電源回路
811-812 巻線体
900 多層基板
901、902 基板
911、912 導体
921 ガラス繊維
931 熱硬化性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
図12
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