(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060632
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】画像処理装置、印刷システムおよび画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 15/50 20110101AFI20240425BHJP
H04N 1/60 20060101ALI20240425BHJP
G06T 19/00 20110101ALI20240425BHJP
【FI】
G06T15/50
H04N1/60 830
H04N1/60 160
G06T19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168004
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
【テーマコード(参考)】
5B050
5B080
5C079
【Fターム(参考)】
5B050AA09
5B050BA09
5B050BA18
5B050BA20
5B050CA00
5B050EA09
5B050EA26
5B050FA02
5B050FA05
5B050FA12
5B050FA13
5B080AA13
5B080BA01
5B080BA02
5B080BA03
5B080BA05
5B080CA04
5B080FA01
5B080FA14
5B080GA02
5B080GA22
5B080GA23
5C079JA25
5C079KA18
5C079LA31
5C079LB01
5C079MA04
5C079MA17
5C079PA03
5C079PA05
(57)【要約】
【課題】画像が印刷される印刷媒体の見え方を精度よく再現し、利用者が印刷に先立って、印刷物の状態を確認しやすくする。
【解決手段】第1の色空間で表現された画像データを、色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換して、変換済みの画像データを生成する。印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられ、印刷媒体の見え方に関与するパラメーターについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行ない、設定がなされたパラメーターを用いて、入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の物理ベースレンダリングを行ない、印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を、レンダリングの際のパラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理装置であって、
第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する色変換部と、
前記印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つであって、前記印刷媒体の見え方に関与するパラメーターについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう適用設定部と、
前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成するレンダリング実行部と、
前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する表示部と、
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
前記パラメーターは、前記仮想空間において前記印刷媒体を照明する照明条件、前記印刷媒体を観察する観察条件、前記印刷媒体の質感に関与する質感条件のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記パラメーターについて前記適用に関する前記設定の異なるレンダリング画像を切り換えて表示する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記パラメーターについて前記適用に関する前記設定の異なる複数の前記レンダリング画像を並置して表示する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記レンダリング実行部は、前記パラメーターのうち、前記適用に関する設定がなされてないパラメーターについては、複数の前記レンダリング画像を生成する際、同一のパラメーターを用いる、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記表示部は、複数の前記レンダリング画像のうちの1つについて表示の態様を変更した場合、前記変更された表示の態様に、他のレンダリング画像の表示を変更する、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記表示部は、前記レンダリング画像の表示の際に、前記適用された設定の情報を表示する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記レンダリング実行部は、第1シェーダーと第2シェーダーとを備え、前記パラメーターの適用に関する第1の設定に対応する前記物理ベースレンダリングを前記第1シェーダーで行ない、前記第1の設定とは異なる第2の設定に対応する前記物理ベースレンダリングを前記第2シェーダーで行なう、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記入力画像が印刷される際の発色に関与するパラメーターを含む印刷プロファイルを取得する印刷プロファイル取得部と、
前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、印刷媒体上での見え方を表現する第2の色空間での表現に変換する際に、前記印刷プロファイルを適用するか否かを設定する適否設定部と、
前記印刷プロファイルの適否の設定に従って色変換を行ない、変換済み画像デ
ータを生成する色変換部と、
を、更に備え、
前記色変換部は、前記印刷プロファイルを適用した変換済み画像データと、前記印刷プロファイルを適用しない変換済み画像データとを、前記適否設定部の設定に従って、前記レンダリング実行部による前記物理ベースレンダリングの対象とする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記表示部は、前記印刷プロファイルを適用した変換済み画像に対応するレンダリング画像と、前記印刷プロファイルを適用しない変換済み画像に対応するレンダリング画像とを、個別にあるいは並置して表示する、請求項9に記載の画像処理装置。
【請求項11】
第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを用意する画像データ準備装置と、
前記画像データ準備装置が準備した画像データを取得して画像処理を行なう請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記画像データを印刷する印刷装置と、
を備えた印刷システム。
【請求項12】
画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムであって、
第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する第1の機能と、
前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する第2の機能と、
前記印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう第3の機能と、
前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成する第4の機能と、
前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する第5の機能と、
をコンピューターにより実現する画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷媒体がどのように見えるかを表示し得る画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターや印刷機を用いて印刷する前に、印刷媒体のプレビューを表示することは従来から行なわれている。印刷媒体のプレビューを、実際の印刷媒体の見え方に近づけるためには、光源の色味など、種々の条件を考慮して、印刷媒体の再現性を高める必要がある。例えば、下記特許文献1では、モニタ、プリンター、照明の補正のオン/オフを切り換えられるようにし、これらの条件を切り換えた状態のプレビューを並べて表示したり、切り換えて表示したりする例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、モニタの補正もオン・オフ可能とされており、正しい色の表示がどれか分かりにくいという問題があった。また、見え方に関して考慮されているのは、媒体の色味に応じて表示装置の色温度を補正する程度であり、実際の印刷物の見え方の再現としては、不十分であった。このため、例えばデザイナーが印刷に先立って、印刷物の状態を確認するといった要望には応えられなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の態様として実現することが可能である。
(1)本開示の第1の態様は、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理装置としての形態である。この画像処理装置は、第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する色変換部と、前記印刷媒体を3次元(以下、3D)オブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つであって前記印刷媒体の見え方に関与するパラメーターについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう適用設定部と、前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成するレンダリング実行部と、前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する表示部と、を備える。
【0006】
(2)本開示の第2の態様は、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムとしての構成である。この画像処理プログラムは、第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する第1の機能と、前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する第2の機能と、前記印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう第3の機能と、前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成する第4の機能と、前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する第5の機能と、をコンピューターにより実現する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施形態のレンダリング実行部の論理構成を示す説明図。
【
図4】画像が印刷された印刷媒体の表示例を模式的に示す説明図。
【
図5】光源や視点と3Dオブジェクトの面の角度等の関係を示す説明図。
【
図6】画像が形成される印刷媒体の面の光源に対する角度の変化により印刷媒体の表示が変化する様子を模式的に示す説明図。
【
図7】画像表示処理ルーチンを示すフローチャート。
【
図8A】レンダリング実行部の内部構成の一例を示す説明図。
【
図8B】第1ピクセルシェーダーが行なう処理の一例を示す説明図。
【
図8C】第2ピクセルシェーダーが行なう処理の一例を示す説明図。
【
図9】処理結果を比較するための表示の一例を示す説明図。
【
図10】質感パラメーターの適用の有無による画像表示結果の違いを示す説明図。
【
図11】処理結果を比較するための表示の他の例を示す説明図。
【
図12】表示されている画像の変更や追加を行なう場合の質感パラメーターの選択の様子を示す説明図。
【
図13】処理結果を比較するための表示の他の例を示す説明図。
【
図14】第2実施形態において、印刷プロファイルと質感パラメーターとの設定を行なう場合の画像表示処理ルーチンを示すフローチャート。
【
図15】第2実施形態において印刷プロファイルを用いる場合と用いない場合を含む処理の流れを説明する説明図。
【
図16A】画像表示処理ルーチンの要部の詳細を示す説明図。
【
図16B】印刷プロファイルと質感パラメーターとのオン・オフの組合わせにより得られる画像を比較して示す説明図。
【
図17】複数の画像を扱う手法の一例を示す説明図。
【
図18】第3実施形態としての印刷システムの概略構成図。
【
図19】印刷結果の見え方の他の印刷媒体の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A1)ハードウェア構成:
本実施形態の画像処理装置100の概略構成を、
図1に示す。この画像処理装置100は、所定の印刷媒体に画像が印刷された様子をプレビューするための画像処理を行なう。画像処理装置100は、画像処理を行なうだけでなく、その処理結果を、プレビュー画像として表示する。画像処理装置100は、図示するように、主に色変換を行なうカラーマネージメントシステム111、印刷媒体のレンダリングを実行するレンダリング実行部121、色変換に用いる各種プロファイルを記憶するプロファイル記憶部136、レンダリング処理に用いる各種パラメーターを記憶するパラメーター記憶部137、レンダリング実行部121の実行結果である画像を記憶する画像メモリー139、外部のサイト200とインターネットなどのネットワークNWを介してデータをやり取りする通信部141、利用者の操作UOPを受け付ける選択部145、およびプレビュー画像を表示する画像表示部151を備える。なお、後述する各処理を行なうプログラムは、画像処理装置100の図示しないメモリーに保存されており、CPUまたはGPUが、メモリーに保存されたプログラムを実行することにより、画像処理装置100の各機能が実現される。
【0009】
カラーマネージメントシステムは、以下、簡略のためにCMSと略記することがある。CMS111は、印刷しようとする入力画像(以下、原画像という)を表わす画像データORGを取得可能である。画像データORGの取得は、画像データORGを作成した画像形成装置から有線または無線通信により受け取るものとしてもよいし、画像データORGをファイルの形式で保存するメモリーカードから読み込むものとしてもよい。もとよりネットワークを介して取得するものとしてもよい。あるいは、この画像処理装置100内で画像データORGを作成するものとしてもよい。画像処理装置100内で画像データORGを作成した場合、印刷の際には、その画像データORGを外部の印刷装置に、通信等により出力するようにすればよい。
【0010】
CMS111は、印刷プレビューの対象となる原画像を、印刷媒体上に表現される物体色に色変換する。変換された画像データを、マネージド画像データMGPと呼ぶ。CMS処理の詳細は後述する。マネージド画像データMGPは、3Dオブジェクトである印刷媒体のテクスチャーとして設定される。CMS111には、入力プロファイルIP、メディアプロファイルMP、共通色空間プロファイルCPなどが、プロファイル記憶部136を介して入力される。プロファイル記憶部136は、画像の色変換に用いる色変換プロファイルの取得および設定の少なくとも一方を行なう色変換プロファイル部に相当する。入力プロファイルIPは、RGBデータなど、機器に依存する入力側の表色系から、機器に依存しない表色系であるL* a* b* (以下、単にLabと略記する)などへの変換を行なうために用いられる。メディアプロファイルMPは、プリンターなどの特定の印刷装置で、特定の印刷媒体に、特定の印刷解像度などの印刷条件で、印刷したときの色再現性を表すプロファイルであり、機器非依存の表色系と機器依存の表色系との間で、色彩値を変換するプロファイルである。メディアプロファイルMPには、印刷媒体以外の、印刷装置の印刷設定などの情報も含んでいる。このため、印刷装置(プリンター)×印刷媒体×印刷設定のすべての組み合わせを網羅しようとすると、メディアプロファイルMPの種類が多くなってしまうため、印刷条件の依存性が小さい場合や、プロファイル数を増やしたくない場合は、メディアプロファイルMPは、印刷装置(プリンター)×印刷媒体の組み合わせとして構成する。
【0011】
印刷媒体(メディア)上の画像の色彩には、印刷装置の特性と印刷媒体自体の特性とが関与するため、メディアプロファイルMPは、以下、印刷プロファイルMPと呼ぶことがある。プロファイル記憶部136に記憶された印刷プロファイルMPのうち、いずれの印刷プロファイルMPを用いるか、あるいはCMS111において印刷プロファイルMPを用いないといった設定は、選択部145を介して、利用者の操作UOPにより行なわれる。上述したように、印刷プロファイルMPは、印刷装置×印刷媒体の数だけあり得るので、使用頻度の高いものを、プロファイル記憶部136に記憶しておき、必要に応じて選択し、CMS111に参照させればよい。印刷プロファイルMPとして、使用頻度が低いなど通常使用しないものは、外部のサイト200に保存しておき、必要な場合に通信部141を介して取得するようにしてもよい。
【0012】
画像データORGに入力プロファイルIPを適用し、更に印刷プロファイルMPを適用すると、特定の印刷条件で印刷された場合の、つまり印刷装置や印刷媒体に依存した色彩値が得られる。この画像の色彩値に対して、印刷プロファイルMPを機器依存の表色系から機器非依存の表色系に変換するよう適用し、更に共通色空間プロファイルCPを適用すると、レンダリングする際に用いられる第2色空間(ここではsRGB色空間)での表現に変換される。印刷プロファイルMPを用いて、一度印刷装置や印刷媒体などの特性に依存した色彩値に変換しているので、画像データORGは、実際に印刷可能な色彩値の範囲に色変換される。共通色空間プロファイルCPは、画像データを、レンダリングの際に用いられる色空間の色彩値に変換するために用いられる。共通色空間としては、sRGB色空間が代表的であるが、AdobeRGB、Display-P3などを用いてもよい。
【0013】
CMS111は、以上説明したように、各プロファイルを利用して、機器に依存した表色系である第1色空間で表現された画像データORGを、レンダリングの際に用いられる第2色空間であるsRGB色空間で表現された画像データ(マネージド画像データ)MGPに変換する。ここで、変換後の画像データは、sRGB色空間の色彩値に限られず、レンダリング実行部121が扱える色空間で表現されたものであれば、どのような色空間で表現されたものであってもよい。例えば、レンダリング実行部121がLabやXYZ色空間の色彩値や分光反射率などによってレンダリング可能な構成を採用していれば、レンダリング実行部121内で行なうライティング処理(後述)内で、あるいはレンダリング実行部121に後置されたポスト処理部(後述)で、画像表示部151に表示する際に用いられる色彩値に変換すればよい。
【0014】
プロファイル記憶部136は、入力プロファイルIP、メディアプロファイルMP、共通色空間プロファイルCPなどを取り込んで記憶し、パラメーター記憶部137は、第1データFDや第2データSDを取り込んで記憶する。第1データFDや第2データSDは、画像を印刷する印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングして表示するために必要なパラメーターである。特に、第1データFDは、印刷媒体の仮想空間における光源下の形態に関与するデータであり、印刷媒体の3Dオブジェクト情報や印刷媒体を見ている位置などのカメラ情報、照明の位置や色合いなどの照明情報、更には印刷媒体の置かれた背景の情報を示す背景情報などが含まれる。また、第2データSDは、印刷媒体の表面における画像形成に関与するデータであり、例えば、印刷媒体の表面の質感などを表わすデータなどを含む。これらの第1データFDや第2データSDは、パラメーター記憶部137に記憶され、レンダリング実行部121におけるレンダリングの際に利用される。
【0015】
第1データFDや第2データSDは、使用頻度が所定以上の代表的なデータについては、パラメーター記憶部137に不揮発的に記憶しておき、必要に応じて選択し、レンダリング実行部121に参照させればよい。印刷媒体として、使用頻度が低いなど通常使用しないようなもの、例えば布生地や缶、プラスチックシートなど特殊な素材を用いる場合の質感データなどは、外部のサイト200に保存しておき、必要な場合に通信部141を介して取得するようにしてもよい。照明情報などの第1データFDは、レンダリングに際して利用者が個別に指定してもよいが、代表的なカメラアングルや光源について、予めパラメーター記憶部137に保存しておき、利用するものとしてもよい。カメラアングルは、対象である印刷媒体を見ている位置や方向のことであり、仮想空間を見ている利用者の仮想的な視点の位置と視線の方向に相当する。このため、カメラを視点や視線の方向であるとして、「視点」あるいは「ビュー」として説明することがある。
【0016】
画像表示部151は、レンダリング実行部121によりレンダリングされ、画像メモリー139に保存された印刷媒体の画像を、背景などと共に表示する。画像表示部151は、表示用の画像データを、レンダリング実行部121に設けられた画像メモリー139から読み出して表示を行なう。画像表示部151は、画像処理装置100に設けてもよいが、画像処理装置100とは分離して設けてもよい。なお、画像処理装置100は、専用機として実現してもよいが、コンピューターにおいてアプリケーションプログラムを実行させることで実現してもよい。もとより、コンピューターには、タブレットや携帯電話のような端末も含まれる。レンダリング実行部121の処理には、かなりのリソースと演算能力が必要になるため、レンダリング実行部121のみを高速処理可能なCPUや専用のGPUにより実行させるようにし、レンダリング実行部121を専用のハードウェアにより実現したり、ネットワーク上の別のサイトにおいて、画像処理装置100を構成してもよい。
【0017】
(A2)色変換処理:
CMS111が行なう色変換処理について、
図2を用いて説明する。図は、原画像データORGを、CMS111によって、レンダリング処理を行なうための共通色空間の色彩データに変換される処理を示すフローチャートである。色変換処理が開始されると、まず原画像データORGと入力プロファイルIPとを入力して、機器に依存する表色系(例えばRGB表色系)で表わされた原画像データORGを、機器に依存しない表色系(例えばLabまたはXYZ表色系)の色彩データに変換する処理を行なう(ステップS110)。次に、メディアプロファイルMPが用意されているかを判断し(ステップS120)、メディアプロファイルMPがあれば、これを適用して、印刷条件として、印刷装置(プリンター)×印刷媒体の組み合わせを考慮して、印刷により表現可能な色彩の範囲への色変換を行なう(ステップS130)。メディアプロファイルMPが無ければ、ステップS130の処理は行なわない。その後、共通色空間プロファイルCPを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間である共通色空間の色彩値(ステップS150)。本実施形態では、共通色空間として、sRGBを用いている。こうして得られたマネージド画像データMGPを、3Dオブジェクトのテクスチャーであるアルベドカラーに設定し(ステップS160)、本処理ルーチンを終了する。
【0018】
ステップS130において、メディアプロファイルの色変換のレンダリングインテントを絶対的(Absolute)にすれば、印刷媒体そのものの色(地色)を反映できる。なお、ステップS150での色変換の対象となる画像の色彩値がsRGB色空間の色域外の場合、sRGB色空間内の値に近似してもよいが、sRGBの色域外の値を取りうるように扱ってもよい。画像データのRGB値は、一般には、各色8ビット、つまり値0~255の整数で格納するが、これに代えて、画素値を値0.0~1.0の浮動小数点として表わすものとすれば、sRGBの色域外の値を、負の値や1.0を超える値にして取り扱うことができる。
【0019】
CMS111による色変換は、
図2に示した構成に限らず、他の構成により行なうことも可能である。例えば、共通色空間であるsRGBに対する画像表示部151の表示色のずれを補正するための補正データDPDが用意されている場合には、
図2におけるメディアプロファイルMPによる色変換(ステップS130)の後に、表示装置補正データDPDを用いた色変換処理を行なう、といった構成としてもよい。
【0020】
こうした表示装置補正データDPDと共通色空間プロファイルCPとを予め合成した合成補正データSPDを用意しておき、共通色空間プロファイルCPによる色変換(ステップS150)に代えて、合成補正データSPDによる色変換を行なうものとしてもよい。なお、画像表示部151の表示色のずれに対する補正は、CMS111で行なう代わりに、後述する
図3に示したレンダーバックエンド後のポスト処理部PSTで行なってもよい。
【0021】
(A3)レンダリング処理:
レンダリング実行部121は、3Dオブジェクトである印刷媒体を後述する照明モデルを用いてレンダリングし、CMS111が出力するマネージド画像データMGPを反映させて、原画像データORGが印刷された印刷媒体が、仮想空間においてどのように見えるかを計算する。レンダリング実行部121は、レンダリング処理した結果を画像メモリー139に保存し、更にこれを画像表示部151に表示する。レンダリング実行部121の構成例を、
図3に示した。このレンダリング実行部121は、物理ベースのレンダリング処理を行なう代表的な構成を示しており、他の構成を採用することも可能である。本実施形態のレンダリング実行部121は、頂点パイプラインVPLとピクセルパイプラインPPLとを含むパイプライン構成を採用しており、物理ベースレンダリングを高速に実行する。頂点パイプラインVPLは、頂点シェーダーVSと、ジオメトリシェーダーGSとを含む。なお、ジオメトリシェーダーGSを用いない構成も可能である。
【0022】
頂点シェーダーVSは、3Dオブジェクトである印刷媒体の頂点の印刷媒体上の座標を、レンダリングする3次元空間の座標に変換する。座標変換は、網羅的には、レンダリング対象とのモデル(ここでは印刷媒体)の座標→ワールド座標→ビュー(カメラ)座標→クリップ座標といった座標変換を含むが、ビュー座標への変換などは、ジオメトリシェーダーGSで行なわれる。頂点シェーダーVSは、この他、陰影処理、テクスチャー座標(UV)の算出、などを行う。これらの処理に際して、頂点シェーダーVSやジオメトリシェーダーGSは、第1記憶部131に記憶された3Dオブジェクトや、カメラ情報CMR、照明情報LGT、更には背景情報BGDなどを参照する。
【0023】
3Dオブジェクト情報TOIは、3Dオブジェクトとしての印刷媒体の形状等に関する情報である。現実の印刷媒体は、フラットな面ではないので、基本的には、微小なポリゴンの集合として扱うが、印刷媒体の表面を微小なポリゴンで表現すると、ポリゴンの数が膨大なものとなる。このため、法線マップやハイトマップといったテクスチャーにより、印刷媒体の表面を扱うことも現実的である。法線マップやハイトマップといったテクスチャーは、後述する質感パラメーターとして与えられる。カメラ情報CMRは、印刷媒体に対してどの位置や方向にカメラが設置されているかという仮想的な情報である。照明情報LGTは、印刷媒体が置かれた仮想空間における光源の位置や角度、強さ、色温度などの仮想的な情報の少なくとも1つを含む。なお、光源は複数設定することも可能であり、この場合は、複数の光源の影響を別々に演算し、3Dオブジェクト上で重ね合わせればよい。
【0024】
背景情報BGDは、無くてもよいが、仮想空間において3Dオブジェクトとしての印刷媒体が置かれた背景に関する情報である。背景情報BGDには、仮想空間に配置された壁、床や、家具などの物体の情報を含み、これらの物体は、レンダリング実行部121で印刷媒体と同様にレンダリングの対象となる。また、照明がこれらの背景物に当たって印刷媒体を照らすので、照明の情報の一部としても扱われる。こうした各種情報を用いてレンダリングを行なうことで、立体的なプレビューが可能となる。頂点シェーダーVSで計算された頂点情報はジオメトリシェーダーGSに渡される。
【0025】
ジオメトリシェーダーGSは、オブジェクト内の頂点の集合を加工するために使用される。ジオメトリシェーダーGSにより、実行時に頂点数を増減させたり、3Dオブジェクトを構成するプリミティブの種類を変更したりすることが可能となる。頂点数の増減の一例は、カリング処理である。カリング処理では、カメラの位置や方向から、カメラに映らない頂点を処理対象から除外する。ジオメトリシェーダーGSは、ポイント、ライン、トライアングルといった既存のプリミティブから新しいプリミティブを生成するといった処理も行なう。ジオメトリシェーダーGSは、頂点シェーダーVSから、プリミティブ全体または隣接したプリミティブの情報を持つプリミティブを入力する。ジオメトリシェーダーGSは、入力したプリミティブを処理し、ラスタライズされるプリミティブを出力する。
【0026】
頂点パイプラインVPLの出力、具体的にはジオメトリシェーダーGSが処理したプリミティブは、ラスタライザーRRZによりラスタライズされ、ピクセル単位のデータにされ、ピクセルパイプラインPPLに渡される。ピクセルパイプラインPPLは、本実施形態では、ピクセルシェーダーPSとレンダーバックエンドRBEとを備える。
【0027】
ピクセルシェーダーPSは、ラスタライズされたピクセルを操作するものであり、端的に言えば、ピクセル毎の色彩を算出する。頂点シェーダーVSやジオメトリシェーダーGSから入力された情報を元に、テクスチャーを合成する処理や表面色を適用する処理を行なう。ピクセルシェーダーPSは、画像データORGを各種プロファイルに基づいてCMS111で変換したマネージド画像データMGPを、3Dオブジェクトとしての印刷媒体上にマッピングする。このとき、ピクセルシェーダーPSに備えられたライティング処理機能が、物体の光の反射モデルと、上述した照明情報LGTと、第2記憶部132に記憶された第2データSDの1つである質感パラメーターTXTと、に基づいて、ライティング処理を行ない、マネージド画像データMGPのマッピングを行なう。ライティング処理に用いる反射モデルは、現実世界での照光現象をシミュレートするための数学的モデルの演算式の1つである。本実施形態で用いた反射モデルについては、後で詳しく説明する。
【0028】
ピクセルを操作する処理は、出力解像度が高い場合など、ラスタライズ後のピクセル数が多くなると、高負荷になり、処理に時間を要する。このため、頂点単位の処理と比較すると、処理に時間を要し、パイプライン処理の効率が不十分なものになる場合がある。本実施形態では、ピクセルシェーダーPSの処理プログラムを、高い並列処理性能を持つGPUでの実行に最適化することで、質感の表現を含む高度なエフェクトを短時間で実現している。
【0029】
ピクセルシェーダーPSの処理により得られたピクセル情報は、更に、レンダーバックエンドRBEにより、表示用の画像メモリー139に描き込みむか否かの判断がなされる。レンダーバックエンドRBEが、ピクセルのデータを画像メモリー139に描き込んで差し支えないと判断されて始めて、ピクセルのデータは、描画されるものとして保存される。描き込みの判断に使用するテストとしては、公知の「アルファテスト」「深度テスト」「ステンシルテスト」などがある。レンダーバックエンドRBEはこうしたテストのうち、設定されたテストを実行し、ピクセルのデータを画像メモリー139に書き込む。
【0030】
以上の処理によりレンダリングのパイプライン処理は終了し、次にポスト処理部PSTにより画像メモリー139に保存されたデータに対して、見た目の改善を図る処理が行なわれる。こうした処理としては、例えば画像の不要なエッジを除去して滑らかにするアンチエイリアス処理などがある。他にも、アンビエントオクルージョン、スクリーンスペースリフレクション、被写界深度などの処理があり、必要なポスト処理を行なうように、ポスト処理部PSTを構成すればよい。
【0031】
レンダリング実行部121が以上の処理を行なうことにより、レンダリングが終了し、その結果は、レンダリング画像RRDとして出力される。実際には、画像メモリー139に書き込まれたデータを、画像表示部151の表示サイクルに合わせて読み出すことで、レンダリング画像RRDとして、表示される。レンダリング画像RRDの一例を、
図4に例示した。この例では、画像表示部151には、仮想空間に置かれた3Dオブジェクトとしての印刷媒体PLbと、光源LGと、背景の1つとして存在する家具等の背景オブジェクトBobとが表示されている。
【0032】
仮想空間に置かれた印刷媒体PLbと光源LGや視点(カメラ)VPとの関係を、
図5に例示した。光源LGや視点VPと印刷媒体PLbとの関係は仮想空間VSP内において3次元だが、図は仮想空間VSPをx-z平面で示す。xは、以下に説明する各ベクトルの集まった点の座標である。レンダリングの対象である印刷媒体PLbの所定の座標xに対して、これを照明レンダリングの対象である印刷媒体PLbの所定の座標xに対して、これを照明する光源LGや視点VPの位置関係を例示する。図には、座標xから光源LGに向かう光源方向ベクトルωlと座標xから視点VPに向かう視点方向ベクトルωvと両者のハーフベクトルHVが示されている。また、符号Npは、印刷媒体PLbが完全な平面PLpであると仮定した場合の法線ベクトルを、符号Nbは、完全な平面ではない実際の印刷媒体PLbの座標xでの法線ベクトルを、それぞれ示している。なお、
図4では、視点VP(カメラ)は、印刷媒体PLbのほぼ正面に存在するものとして、印刷媒体PLbのレンダリング結果が例示されている。
【0033】
本実施形態の画像処理装置100では、仮想空間における印刷媒体の位置や角度を自由に変更して、印刷媒体上の画像共々、その見え方を確認できる。画像処理装置100は、画像表示部151に表示された画像に対して、利用者が図示しないポインティングデバイスを操作すると、レンダリング実行部121によるレンダリング処理を改めて行ない、その処理結果を画像表示部151に表示するという一連の処理を繰り返している。ここでポインティングデバイスは、3Dマウスやトラッキングボールなどでもよいし、画像表示部151に設けられたマルチタッチパネルを指やタッチペンで操作するタイプのものであってもよい。例えば、画像表示部151の表面にマルチタッチパネルを設けた場合には、印刷媒体PLbや光源LGを指等で直接移動するようにしてもよいし、二本指を使って、印刷媒体PLbを回転したり、光源LGと印刷媒体PLbとの距離を3次元的に変更したりするようにしてもよい。
【0034】
こうした仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、レンダリング実行部121がその都度レンダリング処理を行ない、そのレンダリング画像RRDを画像表示部151に表示する。こうした表示の一例を、
図6に示した。図示するように、仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、画像が印刷された印刷媒体はその都度、物理ベースレンダリングされて、画像が印刷された実際の印刷媒体が、実空間の中で見える状態に近い態様で示される。
【0035】
以上、画像データORGが印刷されたる印刷媒体の表示の概要を説明した。本実施形態の画像処理装置100では、CMS111が画像データORGを色変換する際、印刷プロファイルMPを用いた色変換の結果をレンダリングして得られた画像を、画像表示部151に表示する。
【0036】
本実施形態では、印刷媒体上に印刷される画像の色彩をカラーマネージメントシステム(CMS)により実際に印刷される画像の色彩に変換していることや、レンダリングの際のライティング処理において、画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトして扱っていることに加えて、印刷媒体の表面の質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮しているため、画像表示部151に表示された印刷媒体の再現性は高い。
【0037】
以下、この点を、
[1]画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトして扱う点、
[2]質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮している点、
として順次説明する。
【0038】
[1]について
仮想空間において3Dオブジェクトがどのように見えるかは、オブジェクト各部における反射光の双方向反射率分布関数(BRDF:Bidirectional Reflectance Distribution Function)と輝度とを用いて表わすことができる。双方向反射率分布関数BRDFとは、ある特定の角度から光を入射した時の反射光の角度分布特性を示す。輝度は、オブジェクトの明るさである。両者を併せて照明モデルとも言う。本実施形態で採用した反射モデルの一例を以下に示す。BRDFは、関数f(x,ωl,ωv)として、また、輝度は関数L(x,ωv)として、以下の式(1)(2)として表わすことができる。
f(x,ωl,ωv)=kD/π+kS*(F*D*V) …(1)
L(x,ωv)=f(x,ωl,ωv)*E⊥(x)*n・ωl …(2)
x:面内の座標, ωv:視点方向ベクトル,ωl:光源方向ベクトル
kD:拡散反射能(Diffuse Albedo), kS:鏡面反射能(Specular Albedo)
F:フレネル項, D:法線分布関数, V:幾何減衰項
E⊥(x):座標xに垂直に入射する照度, n:法線ベクトル
【0039】
BRDFの第1項、kD/πは拡散反射成分であり、ランバートモデルである。第2項は、鏡面反射成分であり、Cook-Torranceモデルである。式(1)において、kd/πのことを拡散反射項、kS*(F*D*V)のことを鏡面反射項と呼ぶことがある。フレネル項F,法線分布関数D,幾何減衰項Vについては、モデルや算出方法は公知のものなので、説明は省略する。BRDFとしては、3Dオブジェクト表面の反射特性やレンダリングの目的に応じた関数を用いればよい。例えば、ディスニー原則BRDF(Disney Principled BRDF)などを用いてもよい。なお、本実施形態では、光の反射を表す関数としてBRDFが用いられている。光の反射を表す関数として双方向散乱面反射率分布関数(BSSRDF:Bidirectional Scattering Surface Reflectance Distribution Function)を用いてもよい。
【0040】
上記式(1)(2)から分かるように、上記反射モデルの計算には法線ベクトルn、光源方向ベクトルωl、視点方向ベクトルωvが必要になる。印刷媒体は、レンダリング処理の対象としては、複数の微小なポリゴンによって構成された3Dオブジェクトとして扱うが、印刷媒体表面の微小な凹凸を反映する法線ベクトルnは、ポリゴンの法線Npと後述する法線マップとから算出する。従って、頂点パイプラインVPLでは、ポリゴンの法線Npと、法線マップの参照位置を決めるUV座標とを算出し、光源方向ベクトルωlおよび視点方向ベクトルωv共々、ピクセルパイプラインPPLに入力する。ピクセルパイプラインPPLでは、ピクセルシェーダーPSが、質感パラメーターの1つとして与えられる法線マップをUV座標を用いて参照し、参照した法線マップの値とポリゴンの法線Npとから、法線ベクトルnを演算する。
【0041】
本実施形態では、上述したように、画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトとして扱い、上記式(1)(2)により物理ベースレンダリングを行なう。なお、光源方向ベクトルωl、視点方向ベクトルωvは、
図6に示したように、利用者がポインティングデバイスを用いて、仮想空間内の印刷媒体PLbや光源LGの位置や角度などを変更すると、その都度、演算される。
【0042】
[2]について:
本実施形態では、質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮している。質感パラメーターTXTとしては、以下のものがあり得るが、全てを考慮する必要はなく、以下に挙げるパラメーターのうち、少なくとも1つ、例えば滑らかさを考慮すればよい。
・滑らかさS(smoothness)または粗さR(roughness):
3Dオブジェクトの表面の滑らかさを示すパラメーターである。滑らかさSは、一般的には値0.0~1.0の範囲で指定する。滑らかさSは、上述した式(1)BRDFの法線分布関数D、幾何減衰項Vに影響を与える。この値が大きいと、鏡面反射が強くなり、光沢感を呈する。滑らかさSの代わりに粗さRを用いてもよい。両者は、S=1.0-R、として変換可能である。なお、滑らかさは平滑度と、粗さは粗度と、呼ぶことがある。
【0043】
・金属性M(metallic):
3Dオブジェクトの表面が金属的である程度を示す。表面の金属性が高い場合に金属性Mの値は大きくなる。金属性Mが大きいと、物体表面は、周囲からの光を反射しやすく、周囲の景色を写した反射となって、オブジェクト自体の色が隠されやすくなる。金属性Mは、フレネル項Fに影響を与える。
フレネル項Fは、Schlick近似を用いれば、次式(3)として表わすことができる。
F(ωl,h)=F0+(1-F0)(1-ωl・h)5 …(3)
ここで、hは視点方向ベクトルωvと光源方向ベクトルωlとのハーフベクトル、F0 は垂直入射時の鏡面反射率である。鏡面反射率F0 は、鏡面反射光の色(specularColor)として直接指定するか、金属性Mを用いて、線形補間(ここでは、lerp関数と表示する)の式(4)により与えればよい。
F0 =lerp(0.04,tC,M) …(4)
ここで、tCは、3Dオブジェクトのテクスチャーの色(albedoColor)である。なお、式(4)における値0.04は、非金属における一般的な値を示すRGBそれぞれの値を代表的に示したものである。テクスチャーの色tCも同様である。
【0044】
・法線マップ(Normal Map):
法線マップには、印刷媒体の表面の微小な凹凸面の法線ベクトルが表されている。3Dオブジェクトに法線マップを対応付ける(貼り付ける)ことにより、印刷媒体の表面の微小な凹凸面の法線ベクトルを3Dオブジェクトに付与することができる。法線マップは、BRDFのフレネル項F、法線分布関数D、幾何減衰項Vに影響を与え得る。
【0045】
・その他の質感パラメーター:
質感パラメーターとして機能し得るパラメーターには、この他、鏡面反射色(specularColor)や、印刷媒体表面のクリアコート層の有無や、その厚さ、あるいは透明度などを示すクリアコート層パラメーター、などがある。
【0046】
以上説明したように、
[1]画像が印刷される印刷媒体を3Dオブジェクトして扱い、
[2]質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮する、
ことにより、本実施形態の画像処理装置100では、画像が印刷された印刷媒体の見え方を、画像表示部151に高い自由度かつ高い再現性で表示する。この場合、質感パラメーターを変更すると、画像の見え方は変化する。例えば、
図4に例示したように、印刷媒体に正対する方向から見たときには、印刷媒体表面の質感、印刷媒体の表面の細かな凹凸から生じるざらざら感が現れ、
図6に例示したように、印刷媒体を回転させて、印刷媒体を斜め方向から見たときには、印刷媒体の表面に光源LGによる照明が映り込み、その結果生じるハイライト部HLTが現れる。こうした表示の変化は、画像が印刷された印刷媒体の見え方に影響を与える。なお、照明光は、スポットライトのように、印刷媒体に直接向けられた照明によるものに限る必要はなく、太陽光や間接照明・間接光といったものも含まれる。
【0047】
以上の処理を行なう画像処理装置100において実行される画像表示処理ルーチンについて、
図7のフローチャートを用いて説明する。この処理は、利用者が、所望の印刷媒体上に印刷しようとする画像がどのように見えるかを比較しようとする際に開始される。図示の処理が開始されると、まず印刷仕様とする画像データORGを取得する処理を行なう(ステップS210)。画像データORGは、既に説明した様に、様々な方法で取得できる。
【0048】
次に、取得した画像データORGに対応する入力プロファイルIPや共通色空間プロファイルCPなどの各種プロファイルを、プロファイル記憶部136から取得し(ステップS220)、印刷プロファイルMPを適用した色変換処理を行なう(ステップS230)。
【0049】
その後、レンダリング処理を行なう(ステップS240)。このレンダリング処理は、ステップS230において色変換した画像データについて行なわれるが、その際、質感パラメーターTXTを適用しないレンダリングと質感パラメーターTXTを適用したレンダリングとが行なわれ、その結果得られた画像データA,Bが画像メモリー139に保存される(ステップS250)。こうした2つのレンダリング処理の詳細については、後で説明する。質感パラメーターTXTを適用しなかった画像データAと適用した画像データBとを保存した後、表示設定を行なう(ステップS260)。表示設定とは、画像データA,Bの表示の仕方を設定するものであり、利用者の操作UOPにより行なわれる。その後、利用者の操作UOPに従う画像の表示処理が行なわれる(ステップS270)。表示処理の後、利用者による何らかの操作があったかを判別し(ステップS280)、表示の変更を指示する操作があれば、設定変更処理を行ない(ステップS290)、その後、再度の表示処理を行なう。他方、終了を指示する操作があれば、「END」に抜けて、本画像表示処理ルーチンを終了する。
【0050】
上述したステップS240のレンダリング処理の詳細について説明する。本実施形態では、ピクセルパイプラインPPLは、
図8Aに示したように、2つのピクセルシェーダーPS1,PS2を備える。第1ピクセルシェーダーPS1は質感パラメーターTXTを適用しないレンダリング処理を行ない、第2ピクセルシェーダーPS2は質感パラメーターTXTを適用したレンダリング処理を行なうように構成されている。
図8Bに例示する処理は、第2ピクセルシェーダーPS2が行なう処理であって、上述したレンダリング処理のうち、
[2]質感パラメーターTXTを用いて、印刷媒体の表面の質感を考慮する、
という処理に対応する部分を示す。第2ピクセルシェーダーPS2は、以下に説明する処理を高速に実行できるように、内部構成が最適化されている。
【0051】
第2ピクセルシェーダーPS2は、テクスチャーサンプリングの処理を行なう(処理S241)。この処理は、頂点パイプラインVPLで算出されたUV座標を基に、マネージド画像データMGPから印刷媒体に印刷される画像の色彩を、また質感パラメーターの一つである法線マップから印刷媒体表面の凹凸の法線を、それぞれ読み取る処理である。テクスチャーサンプリングの処理を終えると、次に、照明計算を行なう(処理243)。照明計算では、光源LGと印刷媒体との位置関係を表わすWorld座標を基に、照明情報LGTや背景情報BGDを用いて、照明の色・強度などの算出を行なう。
【0052】
以上の処理を行なった後、物理ベースレンダリングの計算を行なう。第2ピクセルシェーダーPS2は、質感パラメーターを適用する場合の計算を行なうので、テクスチャーサンプリングの処理(処理S241)や照明計算(処理S243)で算出した値と、質感パラメーター(ここでは滑らかさ、金属性)を基に、物理ベースレンダリングを行ない、カメラ方向である視点VPの方向にしたがって、3Dオブジェクトとしての印刷媒体上に印刷された画像の色や見え方を算出する(処理S248)。質感パラメーターの一つである法線マップも用いられているので、印刷媒体表面の凹凸も質感として処理されている。このレンダリングの結果は、画像データBとして生成される(処理S249)。
【0053】
次に、第1ピクセルシェーダーPS1が行なう処理、つまり質感パラメーターTXTを適用しないレンダリング処理について、
図8Cを用いて説明する。第1ピクセルシェーダーPS1は、テクスチャーサンプリングの処理(処理S242)を行なう。テクスチャーサンプリングの処理S242は、第2ピクセルシェーダーPS2が行なう処理S241に対応しているが、第1ピクセルシェーダーPS1では、法線マップから印刷媒体表面の凹凸の法線を読み取る処理は行なわない。第1ピクセルシェーダーPS1は、こうしたテクスチャーサンプリングの処理(処理242)において頂点パイプラインVPLで算出されたUV座標を基に、マネージド画像データMGPから印刷媒体に印刷される画像の色を読み取る。その上で、カメラ方向である視点VPの方向にしたがって、3Dオブジェクトとしての印刷媒体上に印刷された画像の見え方を算出し、質感パラメーターを適用しない画像データAを生成する(処理S244)。したがって、レンダリング処理(ステップS240)が行なわれると、第2ピクセルシェーダーPS2によって、質感パラメーターを適用した画像Bを示す画像データBが、他方、第1ピクセルシェーダーPS1によって、質感パラメーターを適用しない画像Aを示す画像データAとが生成されることになる。後述するように、画像Aや画像Bは、比較のために、切り換えてまたは並置して表示するので、仮想空間内における3Dオブジェクトとしての印刷媒体と視点であるカメラや光源との位置関係や、カメラや光源に対する印刷媒体の表面の角度は、両ピクセルシェーダーPSの演算処理に際して同一としている。
【0054】
こうして生成された画像データA,Bは、
図7に示した表示設定(ステップS260)にしたがい、画像表示部画像表示部151に表示される(ステップS270)。ステップS270による表示の一例を、
図9に示した。この例では、画像表示部151には、質感パラメーターTXTを適用せずに色変換とレンダリング処理とを行なった画像Aと、質感パラメーターTXTを適用して色変換とレンダリング処理とを行なった画像Bとが並べて表示されている。また、画像表示部151には、この他、光源LGの位置や方向を示す光源の表示や、表示の変更を指示する変更ボタン30と表示の終了を指示する終了ボタン20なども表示される。
図9では、図示の都合上、画像表示部151の枠外にカメラマークCMa,CMbを表示しているが、実際のカメラマークCMa,CMbは、画像表示部151に表示されている。このカメラマークCMa,CMbを操作することで、物理ベースレンダリングの処理における視点の方向を変更でき、画像A,画像Bの見え方を同期して変更できる。物理ベースレンダリングを行なっている仮想空間内では、
図9の下段に示した様に、光源LGと3Dオブジェクトとしての印刷媒体との位置関係、更には印刷媒体と視点VPとの位置関係や視点VPの方向は、同一である。もとより、カメラマークCMa,CMbを個別に操作できるようにし、視点VPの方向を個別に変更可能としてもよいが、視点VPの方向を同期させた場合には、同期させない場合よりも、質感パラメーターTXTの適否による画像A,画像Bの見え方の違いを認識しやすい。
【0055】
画像表示部151に画像A、画像Bが表示されている状態で、変更ボタン30A,30Bのいずれかが操作されると、
図7のステップS290の処理が行なわれ、表示設定が変更される。変更ボタン30A,30Bは質感パラメーターTXTの設定を変更するためのボタンである。変更ボタン30A,30Bをそれぞれを操作することで、画像A,Bを他の画像Cに変更する処理を行なう。他の画像Cは、例えば質感パラメーターTXTの異なる印刷媒体について予めレンダリング処理を行なっておいた画像でもよいし、質感パラメーターTXTを新たに設定し、再度レンダリング処理を行なって生成した画像でもよい。前者の場合には、表示すべき画像A,B,Cは既に生成されているので、
図7に実線で示したように、ステップS290の表示設定変更処理のあと、ステップS270の処理を行なえば足りる。他方、後者の場合のように、変更ボタンの操作より、新たな質感パラメーターTXTの指定がなされる場合には、図示破線のように、ステップS240のレンダリング処理に戻って、新たに設定された質感パラメーターTXTを適用したレンダリング処理以下の処理を行なう。
【0056】
以上説明した画像処理装置100による画像表示処理が行なわれると、質感パラメーターTXTを適用してレンダリング処理を行なった画像Bを、質感パラメーターTXTを適用していない場合の画像Aと並べて観察できるので、質感パラメーターTXTを適用することによって画像が印刷された印刷媒体がどのように見えるかを、容易に理解できる。また、質感パラメーターTXTを用いない場合の印刷媒体上の画像の見え方と比較できるので、質感パラメーターTXTの意義を理解できる。この結果、利用者が、画像データORGを最終的に印刷する場合、試し刷りを行なわなくても、印刷媒体の質感と実際の見え方への影響を容易に把握でき、所望の印刷物を得るまでの時間を短縮でき、また印刷物の無駄を抑制できる。
【0057】
上記実施形態では、ピクセルシェーダーPSは2つ設けたが、質感パラメーターTXTの異なる条件でレンダリング処理を行なうピクセルシェーダーを別途設けるなど、ピクセルシェーダーを3以上とすることも差し支えない。また、本実施形態では、第1ピクセルシェーダーPS1では、照明処理(
図8Bの処理S243)を行なわなかったが、照明処理を行なって、質感パラメーターTXTを用いたレンダリング処理(処理S245)を行なわない構成としてもよい。質感パラメーターTXTは全てを適用しないという設定としてもよいが、一部、例えば法線マップは適用する、といった設定とすることも差し支えない。更に、本実施形態では、質感パラメーターTXTを適用するか否かで、専用のピクセルシェーダーを用意したが、単一のピクセルシェーダーPSに、質感パラメーターTXTを適用するレンダリング処理と質感パラメーターTXTを適用しないレンダリング処理とを順次、あるいは時分割により行なわせ、その結果を保存するものとしてもよい。
【0058】
実際のレンダリング画像A,Bの一例を
図10に示した。レンダリング画像Aは、質感パラメーターTXTを適用せずにレンダリング処理を行なった画像である。また、レンダリング画像Bは、質感パラメーターTXTを適用してレンダリング処理を行なった画像である。質感パラメーターTXTを適用したレンダリング画像では、領域ARBとして示した辺りでは、照明の映り込みがあり、また印刷媒体の凹凸が見えている。この他、全体的に照明光が暗いため、映り込みがある場所とそうでない場所とで、明暗差が大きい。一方、質感パラメーターTXTをオフとしてレンダリングした画像Aでは、照明計算も行なっていないので、領域ARAには光源の映り込みが見えず、また法線マップを適用していないことから、印刷媒体表面の凹凸は現れていない。照明計算が行なわれなければ、印刷媒体全体としては、照明による明暗差はない。
【0059】
上記の例では、質感パラメーターTXTを直接指定してレンダリング処理に用いているが、質感パラメーターTXTは印刷媒体の種類、例えば普通紙や写真用紙、マット処理した用紙、光沢紙、あるいはプラスチックのシート、アルミ蒸着紙などに応じていることから、質感パラメーターTXTを印刷媒体により間接的に設定するものとしてもよい。この例を、
図11に示した。なお、印刷装置によっては、インクを吐出する前に、プライマーを吐出して印刷媒体の表面のインクの密着性を高める処理をするものも存在する。こうした場合には、印刷装置と印刷媒体との組み合わせに応じて、質感パラメーターTXTを設定するものとしてもよい。
【0060】
図11では、画像A,画像B,画像Cの3つの画像が表示されている。各画像A,B,Cの下には、それぞれの質感パラメーターTXTを変更して画像を変更するための変更ボタン30A,30B,30Cが、各図の右上には、光源LGを示すマークが、表示される。画像表示部151の画面右上には終了ボタン20が、画面右端には、画像を追加する追加ボタン31が、それぞれ表示されている。また、画像表示部151の枠外に表示されたカメラマークCMa~CMcは、印刷媒体に対する観察条件が同じであることを示しているが、
図9の例と同様、視点VPを変更するために用いてもよい。この場合、カメラマークCMa~CMcは画像表示部151に表示され、そのいずれを操作しても、各画像を見る視点を一斉に変更できる。表示されている3つの画像のうち、画像Aは、
図9と同様、質感パラメーターTXTを適用せずにレンダリング処理した場合の画像である。画像Bは、印刷装置Pbにおいて普通紙を用いるものとしてレンダリング処理した場合の画像である。画像Cは、印刷装置Pcにおいてマット処理された写真用紙を用いるものとしてレンダリング処理した場合の画像である。
【0061】
この例では、合計3つの画像が表示され、質感パラメーターTXTを適用しない場合と適用した場合の比較だけでなく、異なる質感パラメーターTXTを適用した場合の比較も簡単に行なうことができる。また、変更ボタン30A,30B,30Cまたは追加ボタン31を押すと、
図12に示したダイアローグボックスDLGSが表示され、新たに適用とする質感パラメーターTXTを選択できるので、既存の画像を修正したり、新たな画像を追加することも容易である。
【0062】
図12に示した例では、各種印刷媒体を、質感パラメーターTXTのうち、滑らかさSと金属性Mとの組み合わせとして規定している。この例では、滑らかさSと金属性Mとを、概ね小中大の三区分とし、普通紙、マット処理された写真用紙、ファイン紙、フラスチックシート、光沢のある写真用紙、アルミ蒸着シート1、アルミ蒸着シート2を分類している。普通紙は、滑らかさS=0.1であり、金属性M=0.0、である。これに対して、マット処理された写真用紙は、滑らかさS=0.3、金属性M=0.0である。他の用紙も、図示のように、滑らかさSと金属性Mとが組み合わせて設定されている。したがって、これらの印刷媒体が選択されれば、滑らかさSと金属性Mとが決定される。このダイアローグボックスDLGSにおいて、塗り潰した丸(●)は、既に選択された印刷媒体であることを示しており、単なる丸(○)は、選択されていない印刷媒体を示している。
【0063】
画像表示部151に、
図11のように画像A,B,Cが表示された状態で、いずれかの変更ボタン30A,30B,30Cがクリックされると、
図12に示した設定画面が表示される。利用者が、印刷媒体のいずれかを選択すると、質感パラメーターTXT、ここでは滑らかさSと金属性Mとの値を変更する処理が行なわれ(ステップS290)、レンダリング処理(ステップS240)から、処理を再度行なう。この結果、クリックした変更ボタンの画像が、選択した印刷媒体に対応する質感パラメーターTXTを用いてレンダリング処理された画像に変更される。したがって、様々な種類の印刷媒体を指定した場合、印刷される画像がどのように見えるかを、簡単に切り換えて、かつ仮想空間において物理ベースレンダリングした状態で確認できる。このため、試し刷りなどをしなくても、利用者は、所望の画像が、使用が想定される印刷媒体の種類において、どのように印刷されてどのように見えるかを視認でき、資源や工数の無駄を抑制できる。
【0064】
質感パラメーターTXTを変更した場合の画像の見え方は、
図9や
図11に示したように、質感パラメーターTXTを適用した場合と適用しない場合とを並置したり、異なる質感パラメーターTXTを適用した場合を並置したりしてもよいが、
図13に例示するように、同じ場所において画像を切り換えるような態様で表示してもよい。この例では、画像表示部151には表示切換ボタン32が表示されており、この表示切換ボタン32を操作する度に、質感パラメーターTXTを用いない場合の画像Aと、用いた場合の画像Bとが、交互に、同じ場所に切り換えて表示される。なお、適用する質感パラメーターTXTを変更する場合には、質感パラメーターTXTが適用されている画像Bが表示されているときに、変更ボタンを表示するものとし、その変更ボタンを操作すると、
図12に示した設定画面が表示されるようにすればよい。もとより、質感パラメーターTXTを記録したファイルを選択する画面を表示し、利用者がファイル直接選択するようにしてもよい。
【0065】
B.第2実施形態:
次に画像表示装置100の第2実施形態について説明する。第2実施形態の画像表示装置100は、第1実施形態と同様のハードウェア構成を備え、色変換処理やレンダリング処理の概要は同一である。第2実施形態における画像表示処理ルーチンを
図14に示すが、この処理は、第1実施形態の処理と対応している。ただし、第1実施形態のスッテプS230,S250,S260,S270,S290の各処理が、第2実施形態では、ステップS235,S255,S265,S275,S295とされ、処理内容が若干相違する。ステップS235では、印刷プロファイルを用いない色変換が追加されている。また、ステップS255~S295では、印刷プロファイルおよび質感パラメーターの変更とその結果の画像表示を行なう内容となっている。
【0066】
まず、本実施形態における色変換処理(ステップS235)について、
図15を用いて説明する。図示するように、画像データORGは、入力プロファイルIPを用いて、デバイス非依存の色彩値に変換される。この色彩値を、印刷プロファイルMPを用いて色変換し、得られた色彩値を共通色空間プロファイルCPを用いた色変換に供する。同様に、印刷プロファイルMPを用いた色変換を行なわなかった画像データも共通色空間プロファイルCPを用いて色変換に供され、共に、レンダリング実行部121によるレンダリング処理を受ける。そのレンダリング画像のデータが、画像メモリー139に記憶される。
【0067】
レンダリング実行部121では、印刷プロファイルMPを用いて色変換した画像データと印刷プロファイルMPを用いずに色変換した画像データとのそれぞれに対して、更に質感パラメーターTXTを適用したレンダリングと質感パラメーターTXTを適用しないレンダリングとが行なわれる。この結果、
図15に示したように、画像メモリー139には、両者を組み合わせた4つの画像G1~G4のデータが記憶される。レンダリング実行部121内のピクセルパイプラインPPLでは、ピクセルシェーダーPSは1つしか設けられていない場合には、レンダリング処理は、各ルートの画像データについて順次行なわれ、その結果が画像メモリー139に記憶される。ピクセルシェーダーPSが複数個、例えば4つ設けられていれば、同時に並列的にレンダリング処理を行なえばよい。
【0068】
画像メモリー139にデータが記憶された画像G1~G4のいずれを画像表示部151に実際に表示するかは、利用者の操作UOPにより設定される。利用者の操作UOPによる設定にしたがって、いずれかの、あるいは複数の画像データが読み出され、画像表示部151に表示される。利用者の操作UOPによる画像表示の処理の詳細を、
図16Aに示した。
図16Aは、
図15に示した処理の要部であるステップS255~S295の処理を示す。
【0069】
図示するように、ステップS255では、4種類の画像G1~G4が画像メモリー139に保存される。これらの画像G1~G4は、
図16Aに表TBLとして示したように、印刷プロファイルMPの適用のオン・オフと、質感パラメーターTXTの適用のオン・オフとを組み合わせた場合の各画像である。具体的には、
・画像G1は、印刷プロファイルMPと質感パラメーターTXTとを共に適用した場合に得られる画像であり、実際の印刷結果に最も近いことから、ここでは、リアルビューと呼ぶ。
・画像G2は、印刷プロファイルMPを適用せず、質感パラメーターTXTを適用した場合に得られる画像であり、質感のみを反映した画像である。
・画像G3は、印刷プロファイルMPを適用し、質感パラメーターTXTを適用しない場合に得られる画像であり、印刷プロファイルにより、実際の画像の色彩が再現されている画像である。
・画像G4は、印刷プロファイルMPと質感パラメーターTXTとを共に適用しない場合に得られる画像であり、印刷装置や印刷媒体の相違や、印刷媒体の表面の質感などを考慮しない原画像である。
【0070】
画像処理装置100は、利用者により印刷プロファイルや質感パラメーターが設定されていれば、これらのオン・オフを組み合わせて、色変換処理(ステップS230)と物理ベースレンダリング(ステップS240)とを行ない、オン・オフを組み合わせた4種類の画像G1からG4を画像メモリー139に保存する。次に、利用者による表示設定を受け付ける(ステップS265)。この処理では、画像表示部151に、
図16Aに示した表TBLに対応する表示設定用ダイアローグボックスを表示し、印刷プロファイルMPと質感パラメーターTXTとのオン・オフの組み合わせを利用者が選択することで、表示設定を行なう。
【0071】
この表示設定を受けて、画像表示部151に画像G1~G4のいずれかを表示する処理を行なう(ステップS275)。具体的には、印刷プロファイルMPのオン・オフと質感パラメーターTXTのオン・オフとの組み合わせに応じて、いずれかの画像G1~G4を表示する。この表示は、
図9に示した表示と同じように、印刷プロファイルMPおよび質感パラメーターTXTが共にオフの原画像の表示(画像G4)と、共にオンのリアルビュー(画像G1)とを表示するものであってもよいし、
図11に示した表示と同様に、3以上の画像、例えば画像G1,G2,G4を表示するものであってもよい。このとき、
図9や
図11と同様に、変更ボタンや追加ボタンを併せて表示し、ステップS295の処理として、例えば画像G2と共に表示された変更ボタンを操作して、画像G3への変更を指示したり、追加ボタンを操作して、画像G3の追加を指示したりすることも差し支えない。この変更指示を受けて、再度ステップS275の表示処理を行なうことで、画像G2が画像G3に変更され、あるいは画像G3が追加されて、全て画像G1~G4が表示される。なお、予め色変換され物理ベースレンダリングされた画像G1~G4の中で表示を切り換える場合、
図14に実線で示したように、ステップS295の表示設定変更処理のあと、ステップS275の処理を行なえば足りる。他方、変更ボタンの操作より、新たな印刷プロファイルの指定がなされた場合には、
図14に示した破線のように、ステップS235の色変換に戻って、または新たな質感パラメーターの指定がなされたりした場合には、ステップS240のレンダリング処理に戻って、各ステップ以下の処理を行なうことは、第1実施形態(
図7)の場合と同様である。
【0072】
画像を表示する処理(ステップS275)により画像表示部151に表示される画像の一例を、
図16Bに示した。図示するように、画像G1は、印刷プロファイルMPおよび質感パラメーターTXTが共にオンの画像(リアルビュー)であり、画像G2は、印刷プロファイルMPがオフで質感パラメーターTXTがオンの画像(質感のみ反映された画像)であり、画像G3は、印刷プロファイルMPがオンで質感パラメーターTXTがオフの画像(色彩のみ反映された画像)であり、画像G4は、印刷プロファイルMPおよび質感パラメーターTXTが共にオフの画像(原画像に対応する画像)である。図示するように、質感パラメーターTXTが考慮されている場合には、印刷媒体の表面での光源の光がかぶった見え方などが再現される。また、印刷プロファイルMPが適用されている場合には、印刷媒体による発色の違いが表現される。
【0073】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する上、更に仮想空間における3Dオブジェクトとして印刷媒体をレンダリングし、印刷媒体上の画像を、印刷プロファイルと質感パラメーターとを組み合わせた様々な態様で、その見え方を利用者に示すことができる。このため、質感パラメーターTXTの適用・不適用のみならず、印刷プロファイルを適用する・適用しないで見え方がどのように変わるかを理解できる。また、結果的に印刷プロファイルと質感パラメーターの両方を適用したリアルビューにより、選択した印刷媒体に印刷した画像のリアルな見え方を仮想空間における3次元表示により確認できる。例えば
図6により例示したように、ポインティングデバイス等を用いて仮想空間内の印刷媒体の位置や方向を変えたり、光源LGの位置や方向を変えたりした場合、それに応じて物理ベースレンダリングが行なわれるから、光源LGの位置と印刷媒体の質感、例えば滑らかさSにより、画像に光源LGの光がかぶって見えるといったリアルな見え方を確認できる。このため、いちいち印刷媒体に実際に印刷してみるといった手間を省くことができる。
【0074】
上述した第1実施形態において
図6で示したように、画像表示部151に表示された印刷媒体は、ポインティングデバイス等を用いて、その位置や角度を変更できる。これは第2実施形態でも同様であり、印刷媒体の位置や角度を変更すると、それに合わせて、再度レンダリング処理を行なうから、画像表示部151上の印刷媒体とその表面に印刷された画像の見え方も変更される。こうした印刷媒体の位置や角度の変更を行なう場合に画像表示部151に複数の画像が表示されていると、1つの画像に対する変更を他の画像に及ぼしてもよいし、及ぼさなくてもよい。例えば、第2実施形態で、画像G4と画像G1とが並置して表示されている場合、
図17の上段に例示したように、1つの画像(ここでは、画像G4)に対応する印刷媒体の角度を変えても、他の画像の表示(印刷媒体の角度)は変更しないようにしてもよいし、下段に例示したように、1つの角度を変更すると、他の画像も同様にその角度を変更して表示するようにしてもよい。
【0075】
こうした表示、特に下段に示した様に、一方の印刷媒体の角度を変えるように回転すると、仮想空間での光源LGや視点VPとの関係が変化する。このため、特に第2実施形態に示したように、印刷プロファイルMPのみならず質感パラメーターTXTも適用して生成された画像では、例えば表面の滑らかさが高いとされた印刷媒体では、印刷媒体の回転により、光源LGの映り込みなどが生じたりする場合もあり得る。
図17に示した例では、質感パラメーターTXTが適用されずレンダリングされた画像G4を回転した結果、質感パラメーターTXTが適用されてレンダリングされた画像G1も回転し、光源LGが映り込んだ領域AR4が見えている。したがって利用者は、質感パラメーターTXTまで加味して物理ベースレンダリングして形成された画像G1が、光源LGの下でどのように見えるかを精度よく再現していることが理解でき、印刷媒体における画像の見え方などを精度よく確認できる。
【0076】
第2実施形態では、質感パラメーターTXTのみならず、印刷プロファイルMPを組み合わせて、仮想空間における印刷媒体の見え方を決定するようにしたが、質感パラメーターTXTを直接指定するのではなく、第1実施形態の
図12に示したように、印刷媒体の種類により指定するようにしてもよい。また質感パラメーターTXTについては、滑らかさSや金属性M、法線マップなどの質感パラメーターを一括して適用するか否か、設定してもよいし、各パラメーターを、一つずつ適用するか否か設定できるようにしてもよい。また、滑らかさSや金属性Mなどは、その値を印刷媒体に合わせて自由に設定できるようにしてもよい。こうした場合、各質感パラメーターについて、スライドバーやダイヤルを表示し、利用者がバーやダイヤルを動かして、その度合いを設定してもよいし、いずれのパラメーターについても値0~1.0の間の数値に指定するものとして、利用者が数値を指定するものとしてもよい。
【0077】
C.第3実施形態:
第3実施形態は、印刷システム300としての形態である。この印刷システム300は、
図18に示したように、上述した画像処理装置100と、画像準備装置310と、印刷装置320とを備える。画像準備装置310は、本実施形態では、利用者が使用するコンピューターであり、第1の色空間で表現された画像のデータである画像データORGを用意する装置である。この画像準備装置310は、画像を作成する機能を有してもよいし、単に画像データを記憶しておき、必要に応じて、画像処理装置100に提供するものであってもよい。画像準備装置310は、画像処理装置100が画像データORGを取得できるように、サイト200と同様、ネットワークNWを介して接続されているが、有線または無線で画像処理装置100に直接接続されていてもよい。
【0078】
印刷装置320は、本実施形態では、画像準備装置310にネットワークNWを介して接続されており、画像準備装置310からの指示を受け、画像準備装置310が出力する画像データORGを印刷媒体PRMに印刷する。印刷システム300の利用者は、印刷装置320による印刷に先立って、画像データORGを画像処理装置100に取得させ、第1実施形態において説明した様に、印刷媒体PRMを3Dオブジェクトとして扱い、かつ質感パラメーターを含む第2データSDを用いたライティング処理を行なって、印刷媒体PRMを、その上に印刷された画像データを含めてレンダリングする。
【0079】
利用者は、このレンダリング結果を画像表示部151上で確認し、必要があれば、視点や光源の位置、あるいは光源の強さやホワイトバランスなどを変更して、印刷媒体PRMの見え方を確認し、その後、画像データORGをネットワークNWを介して、画像準備装置310から印刷装置320に出力して、印刷媒体PRMに画像データORGを印刷する。利用者は、印刷に先立って、印刷媒体PRMにおける画像の見え方を、画像処理装置100による物理ベースのレンダリングにより確認できる。この結果、印刷媒体PRMの表面の滑らかさ(粗さ)などを含めた印刷媒体PRMの種類による質感の違いを確認してから印刷できる。画像表示部151に表示されたレンダリング結果を見て、所望の印刷結果が得られるように、画像データORGの色彩を変更したり、用いる印刷媒体PRMの種類を変えたり、印刷に利用する印刷装置320を変更したり、あるいはそのインクセットを変更したりすることも可能である。
【0080】
こうした印刷装置320と共に画像処理装置100を用いる場合には、印刷装置320により印刷媒体に印刷される画像の印刷媒体上の見え方に影響する印刷条件を設定する印刷条件設定部315を、印刷の指示を行なうコンピューター、例えば本実施形態では、画像準備装置310に備えてもよい。こうすれば、利用者の操作UOPにより、印刷条件、例えば所定の印刷媒体が収容された用紙トレイの選択、利用するインクセットの選択、使用する印刷装置種類の選択、などを受け付けることができる。印刷条件設定部315が受け付けた設定は、画像準備装置310から印刷装置320に送られ、設定された印刷条件から色変換に必要なブロファイルを設定したり、印刷条件に基づいて参照する第1,第2データを定めるようにでき、各種の設定を容易に実現できる。印刷条件設定部315は、これらの条件の他、仮想空間における画像が印刷された印刷媒体の観察状態、仮想空間における印刷媒体に対する照明の情報である照明情報、仮想空間における3Dオブジェクトを特定するオブジェクト特定情報、仮想空間における背景を特定する背景情報などを設定するものとしてもよい。
【0081】
印刷装置320が印刷する印刷媒体は、用紙以外のものであってもよい。例えば生地に印刷する捺染プリンターや缶や瓶などの固形物に印刷する印刷装置であってもよい。また、対象物に直接印刷する構成の他、転写紙のような転写用媒体に印刷を行ない、転写用媒体上に形成されたインクを印刷媒体である生地や固形物に転写する印刷装置の構成も採用可能である。こうした転写型の印刷装置としては、昇華型の印刷装置がある。こうした転写型の構成では、印刷媒体は、転写された最終印刷物である。こうした場合には、印刷媒体である生地や金属、ガラスやプラスチックなどの表面の構造や質感に関与する質感パラメーター等を、印刷媒体の性質に合わせて用意し、画像処理装置100で物理ベースレンダリングを行なえばよい。転写型の印刷装置においても、質感パラメーターは、転写用媒体ではなく、最終印刷物の質感を表わすものを用いる。こうした生地や缶に印刷した場合の画像表示部151での表示例を、
図19に示した。図では理解の便を図って、Tシャツに印刷したオブジェクトOBJtと、缶に印刷したオブジェクトOBJcとを併せて示したが、通常は1つの印刷媒体ずつ表示される。もとよりレンダリング実行部を複数用意し、物理ベースレンダリングの結果を、複数同時に表示するようにしてもよい。
【0082】
D.他の実施形態:
(1)本開示は以下の形態でも実施可能である。その1つは、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理装置としての形態である。この画像処理装置は、第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する色変換部と、前記印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つであって前記印刷媒体の見え方に関与するパラメーターについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう適用設定部と、前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成するレンダリング実行部と、前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する表示部と、を備える。こうすれば、画像処理装置は、画像が印刷される際の見え方に関与するパラメーターの適否や設定の違いを比較可能な態様で表示するので、利用者は、いちいち試し刷りを行なわなくても、画像が印刷された際の見え方と物理ベースレンダリングにおけるパラメーターとの関係を把握することが容易となる。このため、この画像処理装置による画像処理の結果は、所望の印刷結果を得るための参考にできる。
【0083】
この画像処理装置では、色変換と物理ベースレンダリングとを行なうので、画像データに基づいて印刷された印刷媒体がどのように見えるかを精度よく再現できる。例えば、印刷媒体を見る場合の光源の位置や角度、視線に対する印刷媒体表面の角度、印刷媒体それ自体が持っている光沢などの表面の質感など、様々な要素によって、印刷媒体がどのように見えるかを自在に演算できる。印刷媒体上に印刷される画像の様子を条件によって場合分けして用意するといった対応をするのではなく、物理ベースレンダリングにより見え方を表示するので、条件が増えると組み合わせが膨大になって柔軟性に欠けるといった問題は生じない。また、印刷媒体の質感も含めた再現も行なうことも可能となる。つまり、こうした画像処理装置では、印刷媒体を、仮想空間内の3Dオブジェクトとして扱い、これに印刷データが印刷された物として演算するので、様々な視点や種々の角度から、印刷媒体における画像の見え方を求めることができる。これにより色味や画像データの配置の修正を行なう構成を採用することも容易となる。印刷媒体の特性と照明の影響等を考慮してレンダリング画像を見せるようにすれば、印刷しようとする画像と印刷媒体とを組み合わせた際の印象に齟齬が生じることが抑制され、元の画像や印刷条件を調整してトライ&エラーを繰り返すといった作業を減らすことも可能となり、印刷を試行する費用と時間を削減することも可能となる。
【0084】
こうした画像処理装置は、上記の画像処理だけを行なう装置として構成してもよいし、印刷しようとする画像を保存する機能を含む装置として構成してもよい。あるいは、印刷しようとする画像を作成する機能を含む装置や、画像を印刷する装置として構成してもよい。画像処理装置は、GPUを備えたコンピューターにより実現してもよいし、必要な機能を複数のサイトに置き、連携可能とした分散システムとして構成してもよい。分散型のシステムとして構成した場合、端末の処理負荷が軽減されるので、タブレットなどの携帯端末でも上記の画像処理を実行しやすくなり、利用者の利便性がさらに向上する。
【0085】
こうしたレンダリング実行部は、既存の各種構成が採用可能である。一般にレンダリングは、3次元のワールド座標を視点から見た座標系に変換する視点変換、3Dオブジェクトからレンダリングに不要な頂点を除くカリング、不可視の座標を除くクリッピング、ラスタライズ、といった複数の要素に分けて実施されてもよい。これらの処理は、専用のGPUでの処理に適した構成とし、3Dオブジェクトの頂点に関する処理を行なう頂点パイプラインやラスタライズされた各ピクセルについての処理を行なうピクセルパイプラインを備えたパイプライン構成により実現してもよい。
【0086】
(2)こうした構成において 前記パラメーターは、前記仮想空間において前記印刷媒体を照明する照明条件、前記印刷媒体を観察する観察条件、前記印刷媒体の質感に関与する質感条件のうちの少なくとも1つを含むものとしてよい。こうすれば、種々の条件を変えた場合の見え方を容易に比較できる。これらの条件は単独で条件を変更してもよいし、組み合わせて変更してもよい。質感条件としては、印刷媒体表面の滑らかさ(あるいは粗さ)や、金属性、法線マップ、鏡面反射色、クリアコート層パラメーターなどがある。これらの条件は、単にオン・オフとして比較してもよいし、例えば滑らかさの程度の異なるものを比較してもよい。比較は、2つの条件に限定する必要はなく、3以上の条件で比較してもよい。また、2以上のパラメーターを組み合わせた条件で比較してもよい。
【0087】
(3)上述した(1)や(2)の構成において、前記表示部は、前記パラメーターについて前記適用に関する前記設定の異なるレンダリング画像を切り換えて表示するものとしてよい。こうすれば、見え方の違いを、いわゆる隔離的観察できる。また、切り換えて表示する場合は、同時に複数のレンダリング画像を扱う必要がなく、処理を簡略にできる場合がある。
【0088】
(4)上述した(1)や(2)の構成において、前記表示部は、前記パラメーターについて前記適用に関する前記設定の異なる複数の前記レンダリング画像を並置して表示するものとしてよい。こうすれば、複数のレンダリング画像を同時に観察できるので、見え方の違いを、いわゆる対比観察できる。また、複数のレンダリング画像を見るのに、画像を切り換える手間を要しない。
【0089】
(5)上述した(1)から(4)の構成において、前記レンダリング実行部は、前記パラメーターのうち、前記適用に関する設定がなされていないパラメーターについては、前記複数のレンダリング画像を生成する際、同一の値や設定を用いるものとしてよい。こうすれば、変更しないパラメーターについて、いちいち設定を行なう必要がない。また、比較する際、適用に関する設定がなされていないパラメーターについて、設定が異なっていないか、確認する手間を省くことができる。なお、適用に関する設定がなされていないパラメーターについては、同一の値や設定を用いることは必ずしも必須ではない。同一の値や同一の設定にしない場合には、パラメーターの値や設定を利用者が確認できるようすれば、利用者はその影響を認識でき、あるいは値や設定を、他と同一に変更するといった対応ができる。
【0090】
(6)上述した(1)から(5)の構成において、前記表示部は、前記複数のレンダリング画像のうちの1つについて表示の態様を変更した場合、前記変更された表示の態様に、他のレンダリング画像の表示を変更するものとしてよい。こうすれば、こうすれば、複数のレンダリング画像の表示の態様を合わせることができ、見え方の比較が容易になる。もとより、複数のレンダリング画像のうちの1つについて表示の態様を変更した場合、変更された表示の態様に、他のレンダリング画像の全てあるいは一部の表示を変更しなくてもよい。
【0091】
(7)上述した(1)から(6)の構成において、前記表示部は、前記レンダリング画像の表示の際に、前記適用された設定の情報を表示するものとしてよい。こうすれば、利用者は、適用された設定がどのようなものかを容易に知ることができる。利用者は、表示されているレンダリング画像がどのような設定が適用されてレンダリング処理されたものであるか、あるいは適用された値がどのようなものであったかを、容易に知得できる。適用された設定の情報の表示は、表示部により、レンダリング画像の近傍に常時表示するものとしてもよいし、ポインティングデバイスにより画像をクリックしたときや、カーソルを画像に重ねたときにポップアップして表示するようにしてもよい。
【0092】
(8)上述した(1)から(7)の構成において、前記レンダリング実行部は、第1シェーダーと第2シェーダーとを備え、前記パラメーターの適用に関する第1の設定に対応する前記物理ベースレンダリングを前記第1シェーダーで行ない、前記第1の設定とは異なる第2の設定に対応する前記物理ベースレンダリングを前記第2シェーダーで行なうものとしてよい。この場合、一方のシェーダーは、質感パラメーターが適用されない場合に用いられるものとして構成しておけば、シェーダー内において、BRDFの計算などがなされないようにしておくことができ、高速にレンダリング処理を実行できる。同様に、特定の質感パラメーターの場合の計算専用のシェーダーを備えることも有効である。例えば第1,第2シェーダーのいずれか一方を、質感パラメーターのうちの滑らかさが所定値以上高い場合を想定して、法線マップやハイトマップのパラメーターとこれを処理するステップを持たない構成とすることができる。滑らかさが高い値に指定された場合に、専用のシェーダーを指定すれば、処理の高速化を図ることができる。第1シェーダーや第2シェーダーは、GPUなどの専用のチップにおいて処理内容の異なるプログラムにより実現される。この場合、第1,シェーダープログラムと第2シェーダープログラムが反映されたGPU内の多数の処理ユニットか、各画素を並列処理することで、第1,第2シェーダーが実現される。もとより、第1シェーダーとして機能するハードウェアとしての第1シェーダー回路や、同様の第2シェーダー回路を用意するという構成を採用してもよい。またシェーダーは、3以上設けてもよい。
【0093】
(9)上述した(1)から(8)の構成において、前記入力画像が印刷される際の発色に関与するパラメーターを含む印刷プロファイルを取得する印刷プロファイル取得部と、前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、印刷媒体上での見え方を表現する第2の色空間での表現に変換する際に、前記印刷プロファイルを適用するか否かを設定する適否設定部と、前記印刷プロファイルの適否の設定に従って色変換を行ない、変換済み画像データを生成する色変換部と、を更に備え、前記色変換部は、前記印刷プロファイルを適用した変換済み画像データと、前記印刷プロファイルを適用しない変換済み画像データとを、前記適否設定部の設定に従って、前記レンダリング実行部による前記物理ベースレンダリングの対象とするものとしてよい。こうすれば、印刷プロファイルを適用した変換済み画像に対応するレンダリング画像と、印刷プロファイルを適用しない変換済み画像に対応するレンダリング画像とを比較することが容易となる。適否設定部は、1つの印刷プロファイルの適否の設定を行なうだけでなく、複数種類の印刷プロファイルを用意し、そのうちのいずれを適用するかを設定するものでもよい。
【0094】
(10)上述した構成において、前記表示部は、前記印刷プロファイルを適用した変換済み画像に対応するレンダリング画像を、前記印刷プロファイルを適用しない変換済み画像に対応するレンダリング画像に、追加してあるいは並置して表示するものとしてよい。こうすれば、印刷プロファイルを適用したか適用していないかという点が相違するレンダリング画像の比較が一層容易となる。このとき、最初から二つの画像を並置して表示してもよいし、一方の画像をまず表示し、追加の指示を受けて、他方の画像を追加して、両者を表示する様にしてもよい。両画像は必ずしも並置して表示する必要はなく、単に切り換えて表示するようにしてもよい。こうすれば表示スペースを節約できる。
【0095】
(11)本開示の他の構成は、印刷システムとしての構成である。この印刷システムは、第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを用意する画像データ準備装置と、前記画像データ準備装置が準備した画像データを取得して画像処理を行なう上述した(1)から(10)のいずれかの画像処理装置と、前記画像データを印刷する印刷装置とを備えるものとしてよい。こうすれば、印刷装置で印刷を行なう際に印刷に先だって、画像が印刷された印刷媒体の見え方が表示部に表示されるので、これを確認してから印刷できる。したがって、印刷しようとした画像と印刷媒体に印刷された画像の印象とに齟齬が生じることが抑制され、元の画像や印刷条件を調整してトライ&エラーを繰り返すといったことが減り、印刷を試行する費用と時間を削減することも可能なる。
【0096】
(12)本開示の他の構成は、画像が印刷された印刷媒体のレンダリング画像を生成する画像処理プログラムとしての構成である。この画像処理プログラムは、第1の色空間で表現された入力画像のデータである画像データを取得する第1の機能と、前記画像データを、予め用意した色変換プロファイルを用いて、レンダリングの際に用いられる第2の色空間での表現に変換する色変換を行ない、変換済み画像データを生成する第2の機能と、前記印刷媒体を3Dオブジェクトとして物理ベースレンダリングする際に用いられるパラメーターのうちの少なくとも1つについて、物理ベースレンダリングへの適用に関する設定を行なう第3の機能と、前記変換済み画像データと前記適用についての設定がなされたパラメーターとを用いて、前記入力画像が印刷された印刷済み印刷媒体の前記物理ベースレンダリングを行ない、前記変換済み画像データが印刷された前記印刷媒体の仮想空間における見え方に対応するレンダリング画像を生成する第4の機能と、前記レンダリング画像を、前記パラメーターの適用の違いを比較可能な態様で表示する第5の機能と、をコンピューターにより実現する。こうすれば、コンピューターを備える装置において、上述した(1)の画像処理装置を容易に構成できる。こうした画像処理プログラムは、磁気記録媒体などの何らかの記録媒体に記録し、これをコンピューターに読み込ませるものとしてもよいし、ネットワークなどを介して外部のサイトなどからダウンロードしてコンピューターで実行可能としても良い。
【0097】
(13)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。あるいは、ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ハードウェアによる構成として、例えばディスクリートな回路構成により実現してもよい。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0098】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
100…画像処理装置、111…カラーマネージメントシステム、121…レンダリング実行部、136…プロファイル記憶部、137…パラメーター記憶部、139…画像メモリー、141…通信部、145…選択部、151…画像表示部、200…サイト、300…印刷システム、310…画像準備装置、315…印刷条件設定部、320…印刷装置