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  • 特開-車室天井用表皮材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060637
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】車室天井用表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20240425BHJP
   D04B 21/02 20060101ALI20240425BHJP
   D06C 11/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B60R13/02 A
D04B21/02
D06C11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168015
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522296099
【氏名又は名称】ハクサン染工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三渕 哲寛
(72)【発明者】
【氏名】小西 大
【テーマコード(参考)】
3B154
3D023
4L002
【Fターム(参考)】
3B154AB03
3B154AB24
3B154BA25
3B154BB47
3B154CA39
3B154DA21
3D023BA01
3D023BB02
3D023BD01
3D023BE06
3D023BE13
3D023BE17
3D023BE31
4L002AA07
4L002CA00
4L002CA01
4L002CB03
4L002DA01
4L002EA00
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】表皮へのダメージを抑制しつつ起毛層の形成を可能とする。
【解決手段】車室天井用表皮材の製造方法は、経編工程と熱処理工程を備える。経編工程では、ビーム36から筬L1に糸38を供給し、第一針40と第二針42との間を筬L1が移動して第一針40及び第二針42に順次ループを形成する。熱処理工程では、経編工程により形成された表皮材10が熱処理される。ここで経編工程では、ビーム36から筬L1に糸38を供給する供給速度V1を、第一針40と第二針42との間を筬L1が移動する移動速度V2よりも早くすることで表面が起毛される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸が巻回されたビームから筬に糸を供給し、
第一針と第二針との間を前記筬が移動して前記第一針及び前記第二針に順次ループを形成する、
経編工程と、
前記経編工程により形成された表皮材を熱処理する熱処理工程と、
を備える、車室天井用表皮材の製造方法であって、
前記経編工程では、前記ビームから前記筬に糸を供給する供給速度を、前記第一針と前記第二針との間を前記筬が移動する移動速度よりも早くすることで前記表皮材の表面を起毛させる、
車室天井用表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、車室天井に貼着される表皮材の製造方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、織物からなる表皮材と、表皮材の裏面に積層されたウレタンフォームを備える複合表皮材が開示される。また特許文献2には、車室の天井にも設けられた基材層にウレタン層を介さずに接着させる天井材用布帛が開示される。この布帛は、接着面である裏面を起毛させることで、クッション性の向上が図られる。例えば針布起毛により布帛の裏面に起毛層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-220593号公報
【特許文献2】特開2005-68577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、起毛の形成に当たり、針布起毛では表皮が針に引っ掻かれるため、起毛形成面がダメージを受ける。その結果、表皮の伸縮性を示すモジュラス特性が、起毛が形成されていな場合と比べて低下するおそれがある。
【0005】
そこで本明細書では、表皮へのダメージを抑制しつつ起毛層の形成が可能な、車室天井用表皮材の製造方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される、車室天井用表皮材の製造方法は、経編工程と熱処理工程を備える。経編工程では、糸が巻回されたビームから筬に糸を供給し、第一針と第二針との間を筬が移動して第一針及び第二針に順次ループを形成する。このときに、ビームから筬に糸を供給する供給速度を、第一針と第二針との間を筬が移動する移動速度よりも早くすることで表皮材の表面が起毛される。熱処理工程では、経編工程により形成された表皮材が熱処理される。
【0007】
上記構成によれば、第一針及び第二針間を移動する筬の移動速度よりも当該筬への糸の供給速度が速いことから、第一針及び第二針間で糸が弛み、それによって表皮材の表面に起毛が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本明細書に開示される車室天井用表皮材の製造方法によれば、表皮へのダメージを抑制しつつ起毛層の形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る車室天井用表皮材の構造を例示する断面図である。
図2】糸の供給速度V1と筬L1の移動速度V2とを説明する図である。
図3】経編工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1図3を用いて、本実施形態に係る、車室天井用表皮材の製造方法が説明される。図1には、本実施形態に係る製造方法にて製造される、車室天井用の表皮材10の断面構造が例示される。
【0011】
表皮材10は車室の天井基材20に接着される。天井基材20は例えばルーフライニングであってよい。天井基材20は例えば樹脂から構成される。
【0012】
表皮材10は、車室内に露出される露出表面14及びそれと対向して天井基材20に接着される接着表面16を備える。接着表面16には起毛18が形成される。この起毛18の形成方法は後述される。
【0013】
接着表面16に起毛18が形成されることで、起毛18の無い場合と比較して、天井基材20への接着性が向上する。例えば起毛18の間に接着剤が入り込むことでいわゆるアンカー効果が得られる。また、起毛18の形成により表皮材10の膜厚が増加することから、その分、表皮材の触感が向上する。加えて、起毛18による表皮材10の膜厚増加により、接着剤の露出表面14への浸み出しが抑制される。
【0014】
図2図3には、表皮材10の製造工程が例示される。表皮材10の製造工程には、後述されるように経編工程と熱処理工程が含まれる。
【0015】
表皮材10はニット製品であって、経編により製造される。例えば図3を参照して、表皮材10は筬L1~L4により編まれた、経編トリコット生地から構成される。また例えば筬L1-L4により編まれる糸として、いずれもポリエステル等の合成繊維が用いられる。
【0016】
図3では、経編工程における、表皮材10の編成図(組織図)が例示される。例えばこの編成図では、JIS L0200(編組織の表示方法)に準拠して、針がドットで示される。なお図3において横方向はコース方向、縦方向はウェール方向を示す。また針に形成されるループについて、開き目は半円状に示され、閉じ目は円(全円)で示される。
【0017】
筬L1は4-5/1-0との振り幅にて往復移動する。つまり4と5の間の針及び1と0の間の針に閉じ目のループが形成される。以下適宜、4-5の針は第一針40(図2参照)と記載され、1-0の針は第二針42と記載される。つまり筬L1は第一針40及び第二針42に順次ループを形成する。
【0018】
また、筬L1において、第一針40と第二針42との間の糸が波線で例示されるように弛むように編まれる。後述するように、この弛みの形成によって表皮材10(図1参照)の接着表面16に起毛18が形成される。この起毛18の形成方法の詳細は後述される。
【0019】
図3を参照して、筬L2の振り幅は1-0/3-4に定められる。なお1-0の針及び3-4の針において閉じ目のループが形成される。筬L3の振り幅は1-0/1-2/3‐2/1-2に定められる。なお1-0/1-2/3‐2/1-2の順に、閉じ目/開き目/開き目/閉じ目のループが形成される。さらに筬L4の振り幅は3-2/1‐2/1-0/1-2に定められる。なお3-2/1‐2/1-0/1-2の順に、開き目/閉じ目/閉じ目/開き目のループが形成される。
【0020】
図2には表皮材10を編む経編機の概要が例示される。なおこの経編機は例えばトリコット編み機であってよい。また図2にはコース方向軸C、ウェール方向軸W、及び高さ方向Uからなる直交座標軸が示される。
【0021】
図2では説明の都合上、単一の筬L1のみ示されるが、筬L1に対してウェール軸W方向に沿って、筬L2-L4が整列される。また図2において、筬L1には一本のガイド32のみ示されているが、筬L1の長手方向に複数本のガイド32が設けられる。
【0022】
さらに図2では、説明を簡略するために、針として第一針40(4-5の針)及び第二針42(1-0の針)のみが示される。
【0023】
筬L1の下端にはガイド32が下方に延設される。ガイド32の下端にはガイド孔34が穿孔される。このガイド孔34に糸38が挿入される。糸38はビーム36に巻回されており、図示しない繰り出し機によってビーム36からガイド32に糸38が供給される。この供給速度V1はランナー速度とも呼ばれる。
【0024】
筬L1は、図示しない回転移動機構及び直線移動機構によって動作制御される。上述のように、筬L1は第一針40でループを形成した後に第二針42に移動して当該第二針42にてループを形成する。これにより第一針40及び第二針42に編目44,46が形成される。
【0025】
ここで、本実施形態に係る表皮材10の製造方法では、筬L1が第一針40にてループ形成後、第二針42に移動する際の移動速度V2が、供給速度V1よりも遅くなるように設定される(V1 > V2)。言い換えると、糸38の供給速度V1が、筬L1の移動速度V2よりも早くなるように設定される。例えば糸38の供給速度V1は、通常設定値に対して約16%増加させて良い。例えばV1/V2の値は、1.458以上1.815以下に設定される。なお例えば筬L2-L4の移動速度はV2に設定され、糸38の供給速度は通常設定値(V1÷1.16)に設定される。
【0026】
筬L1に対して上記の様な速度設定(V1,V2)とすることで、図3に例示されるように、第一針40(4-5の針)から第二針42(1-0)までの間の糸38が波線で示されるように弛んだ状態となる。この糸38の弛みによって、表皮材10(図1参照)の表面には起毛18が形成される。なお図1では接着表面16にのみ起毛18が示されているが、表皮本体12の両面から起毛18が形成される。つまり露出表面14にも起毛18が形成される。
【0027】
上述したように、起毛形成に当たり針布起毛では表皮が針に引っ掻かれるため、起毛形成面がダメージを受ける。その結果、表皮の伸縮性を示すモジュラス特性が、起毛が形成されていな場合と比べて低下するおそれがある。また針により糸が引っ張り出されるため、その分表皮の密度が下がって、接着剤が接着面から露出面に浸みだすおそれがある。
【0028】
これに対して本実施形態に係る、表皮材10の製造方法によれば、起毛18分の糸38が経編工程で供給されるため、表皮材10が編み上がった時点で表皮材10の表面に起毛18が形成される。これにより、針布起毛と比較して高いモジュラス特性(伸縮性)を表皮材10が備えることが可能になる。
【0029】
天井基材20(図1)がルーフライニングである場合に、意匠的な凹凸が設けられる場合があるが、表皮材10が高いモジュラス特性を備えることで、天井基材20の形状に追従して表皮材10が伸縮して天井基材20に接着される。
【0030】
経編工程後、表皮材10は熱処理工程に移される。熱処理工程では、図示しない熱処理機によって表皮材10が熱処理される。このようないわゆるヒートセットを行うことで、寸法安定性が得られる。例えば加熱処理された表皮材10は、加熱処理温度以下における収縮が抑制される。例えば加熱処理前の表皮材10の生地幅に対する、加熱処理後の表皮材10の生地幅の比率を示す巾比は、1.00以上1.11以下となる。
【符号の説明】
【0031】
10 表皮材、14 露出表面、16 接着表面、18 起毛、20 天井基材、32 ガイド、36 ビーム、38 糸、40 第一針、42 第二針、L1-L4 筬。
図1
図2
図3