(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060638
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240425BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168017
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 征汰
(72)【発明者】
【氏名】高見 親法
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA20
5H770CA02
5H770DA01
5H770DA14
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA13
5H770EA23
5H770HA02Z
5H770JA06Z
5H770JA09X
5H770JA13Z
5H770JA16Y
5H770LB02
(57)【要約】
【課題】最大出力電力を低下させず、かつ、一次巻線に流れる電流が小さい場合でもゼロボルトスイッチングが実現できる電源装置を提供する。
【解決手段】電源装置において、スイッチング素子TR1~TR4を有するインバータ回路2と、制御回路5とを備えた。スイッチング素子TR1,TR3が直列接続され、スイッチング素子TR2,TR4が直列接続され、スイッチング素子TR1,TR2が同じ極性側に接続されている。制御回路5は、駆動信号P1,P4と、駆動信号P1を半周期ずらした駆動信号P3と、駆動信号P4を半周期ずらした駆動信号P2とを生成し、駆動信号P1と駆動信号P4との位相差を調整することで出力電流制御を行い、駆動信号P1と駆動信号P4の発振周波数を、インバータ回路2の電流が小さいほど高くする。駆動信号P1~P4は、それぞれスイッチング素子TR1~TR4に入力される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ2個のスイッチング素子が直列接続された第1アームおよび第2アームを有するインバータ回路と、
前記第1アームの第1スイッチング素子に入力される第1駆動信号と、前記第2アームにおいて前記第1スイッチング素子と同じ極性側に接続された第2スイッチング素子に入力される第2駆動信号と、前記第1アームの第3スイッチング素子に入力される3駆動信号と、前記第2アームにおいて前記第3スイッチング素子と同じ極性側に接続された第4スイッチング素子に入力される第4駆動信号とを生成する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1駆動信号を半周期ずらした信号を前記第3駆動信号として生成し、
前記第4駆動信号を半周期ずらした信号を前記第2駆動信号として生成し、
前記第1駆動信号のパルスの立ち上がりタイミングと前記第4駆動信号のパルスの立ち上がりタイミングとの位相差を調整することで出力電流制御を行い、
前記第1駆動信号及び前記第4駆動信号の発振周波数を、前記インバータ回路の電流設定値が小さいほど高く設定する、
電源装置。
【請求項2】
前記インバータ回路の電流を検出する電流センサを備え、前記制御回路は、前記電流センサの検出値が小さいほど前記発振周波数を高く設定する、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記電流センサは、前記インバータ回路に具備されている、
請求項2に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路が直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換し、トランスが高周波電圧を変圧し、整流回路が整流して出力する電源装置が知られている。また、単相フルブリッジ型のインバータ回路の制御方法として、位相シフト制御が知られている。特許文献1には、位相シフト制御によって制御される電源装置が開示されている。位相シフト制御では、インバータ回路の一方のアームのハイサイドスイッチング素子と他方のアームのローサイドスイッチング素子とでオン期間に位相差を設け、位相差によって出力を調整する。
【0003】
図2は、位相シフト制御を説明するための図である。
図2に示す期間Aでは、スイッチング素子TR1,TR4がオンになっており、スイッチング素子TR1,TR4を介して、トランス3の一次巻線31に直流電源1が供給する電流が流れる。期間Bでは、スイッチング素子TR1がオフになるが、トランス3の一次巻線31の漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーによって、スイッチング素子TR3の還流ダイオードおよびスイッチング素子TR4を介して、一次巻線31に電流が流れ続ける。期間Cでは、スイッチング素子TR3がオンになる。スイッチング素子TR3がオンに切り替わるとき、還流ダイオードに電流が流れているので、スイッチング素子TR3のドレイン-ソース間の電圧は「0」である。したがって、ゼロボルトスイッチングとなる。期間Dでは、スイッチング素子TR4がオフになるが、スイッチング素子TR2の還流ダイオード、直流電源1の平滑コンデンサ、およびスイッチング素子TR3の還流ダイオードを介して、一次巻線31に電流が流れ続ける。期間Eでは、スイッチング素子TR2がオンになっており、スイッチング素子TR2,TR3を介して、一次巻線31に期間Aとは逆向きの電流が流れる。スイッチング素子TR2がオンに切り替わるとき、還流ダイオードに電流が流れている場合、スイッチング素子TR2のドレイン-ソース間の電圧は「0」である。したがって、ゼロボルトスイッチングとなる。以下、上記期間B,C,Dのハイサイドとローサイドとを反対にした状態になって、期間Aに戻る。このように、位相シフト制御では、各スイッチング素子TR1~TR4がオンに切り替わるときに、ゼロボルトスイッチングが実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランス3の一次巻線31の漏れインダクタンスが小さく、かつ、一次巻線31に流れる電流が小さい場合、一次巻線31の漏れインダクタンスに蓄えられるエネルギーは少ない。スイッチング素子TR1がオフしてからスイッチング素子TR3がオンに切り替わるまでに、漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーが消費されてしまうと、スイッチング素子TR3の還流ダイオードに電流が流れておらず、スイッチング素子TR3をゼロボルトスイッチングが実現できない。トランス3の一次巻線31にコイルを直列接続して漏れインダクタンスを大きくすれば、ゼロボルトスイッチングを実現できる。しかし、漏れインダクタンスが大きくなると、漏れインダクタンスに蓄えられるエネルギーが多くなる代わりに、二次側に伝達されるエネルギーが減少する。つまり、漏れインダクタンスを大きくしたことで、電源装置の最大出力電力が低下する。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、最大出力電力を低下させず、かつ、一次巻線に流れる電流が小さい場合でもゼロボルトスイッチングが実現できる電源装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
それぞれ2個のスイッチング素子が直列接続された第1アームおよび第2アームを有するインバータ回路と、
前記第1アームの第1スイッチング素子に入力される第1駆動信号と、前記第2アームにおいて前記第1スイッチング素子と同じ極性側に接続された第2スイッチング素子に入力される第2駆動信号と、前記第1アームの第3スイッチング素子に入力される3駆動信号と、前記第2アームにおいて前記第3スイッチング素子と同じ極性側に接続された第4スイッチング素子に入力される第4駆動信号とを生成する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記第1駆動信号を半周期ずらした信号を前記第3駆動信号として生成し、
前記第4駆動信号を半周期ずらした信号を前記第2駆動信号として生成し、
前記第1駆動信号のパルスの立ち上がりタイミングと前記第4駆動信号のパルスの立ち上がりタイミングとの位相差を調整することで出力電流制御を行い、
前記第1駆動信号及び前記第4駆動信号の発振周波数を、前記インバータ回路の電流設定値が小さいほど高く設定する、
電源装置である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記インバータ回路の電流を検出する電流センサを備え、前記制御回路は、前記電流センサの検出値が小さいほど前記発振周波数を高く設定する、
請求項1に記載の電源装置である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記電流センサは、前記インバータ回路部に具備されている、
請求項2に記載の電源装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、電源装置の出力電流が小さいほど発振周波数Fを高くすることにより、デッドタイムtdは短くなる。したがって、電源装置の出力電流が小さく、トランス3の一次巻線の漏れインダクタンスに蓄えられるエネルギーが少ない場合に、デッドタイムtd(
図2の期間B参照)が短くすることができる。これにより、本発明に係る電源装置は、デッドタイムtd期間中にトランス3の漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーが消費されてしまうことを防いで、ゼロボルトスイッチングを実現する。また、トランス3の一次巻線31の漏れインダクタンスは増加させないので、本発明に係る電源装置は、最大出力電力を低下させない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【
図2】各スイッチング素子に入力される各駆動信号の一例を示す波形図である。
【
図3】第2実施形態に係る溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る電源装置を溶接電源装置として用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図であり、溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【0015】
溶接電源装置は、溶接加工物7に電力を供給し溶接を行う。
図1に示すように、溶接電源装置は、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、制御回路5、ドライブ回路6、および、電流センサ8を備えている。
【0016】
直流電源1は、直流電圧を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電圧を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1の構成は限定されず、インバータ回路2に直流電圧を出力するものであればよい。
【0017】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を高周波電圧に変換して、トランス3に出力する。インバータ回路2は、単相フルブリッジ型のインバータであり、4個のスイッチング素子TR1~TR4を備えている。本実施形態では、スイッチング素子TR1~TR4としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子TR1~TR4はMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。
【0018】
スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とは、スイッチング素子TR1のソース端子とスイッチング素子TR3のドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子TR1のドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子TR3のソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とは、スイッチング素子TR2のソース端子とスイッチング素子TR4のドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子TR2のドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子TR4のソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とで形成されているブリッジ構造を第1アーム21とし、スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とで形成されているブリッジ構造を第2アーム22とする。第1アーム21のスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3との接続点には出力ラインC1が接続され、第2アーム22のスイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4との接続点には出力ラインC2が接続されている。
【0019】
各スイッチング素子TR1~TR4には、それぞれ逆並列に還流ダイオードが接続されている。また、各スイッチング素子TR1~TR4のドレイン端子とソース端子との間には、それぞれスナバコンデンサが接続されている。各スイッチング素子TR1~TR4のゲート端子には、ドライブ回路6から出力される駆動信号P1~P4(後述)がそれぞれ入力される。各スイッチング素子TR1~TR4は、それぞれ駆動信号P1~P4に基づいて、オンとオフとを切り替えられる。これにより、直流電圧が高周波電圧に変換される。なお、インバータ回路2の構成は限定されない。
【0020】
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流回路4に出力する。トランス3は、一次巻線31および二次巻線32を備えている。一次巻線31の一方の入力端子は出力ラインC1に接続され、他方の入力端子は出力ラインC2に接続されている。また、二次巻線32の一方の出力端子は整流回路4の一方の入力端子に接続され、他方の出力端子は整流回路4の他方の入力端子に接続されている。二次巻線32には、2つの出力端子とは別にセンタータップが設けられている。一次巻線31および二次巻線32は、それぞれ図示しないコアに巻回されており、互いに磁気結合可能である。なお、トランス3の構成は限定されない。
【0021】
整流回路4は、トランス3のセンタータップを用いた両波整流回路であり、トランス3が出力する高周波電流を整流して、直流電流として出力する。整流回路4は、2個の整流用ダイオード41,42と、直流リアクトル43とを備えている。整流用ダイオード41,42は、トランス3の二次巻線32の各出力端子に、それぞれアノード端子が接続されて、それぞれのカソード端子が互いに接続されている。直流リアクトル43は、整流用ダイオード41,42のカソード端子側での接続点と、溶接電源装置の出力端子aとの間に直列接続されており、出力電流を安定させる。トランス3のセンタタップは、溶接電源装置の出力端子bに接続されている。整流回路4が出力する直流電流が、溶接電流として溶接加工物7に流れる。なお、整流回路4の構成は限定されない。
【0022】
電流センサ8は、トランス3のセンタタップと出力端子bとの間の接続線に配置されており、溶接電源装置の出力電流を検出して、溶接電流信号Ioとして制御回路5に出力する。なお、電流センサ8の配置位置は限定されず、溶接電源装置の出力電流を検出できればよい。
【0023】
制御回路5は、インバータ回路2を制御する構成であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路5は、インバータ回路2を制御するための駆動信号P1~P4を生成して、ドライブ回路6に出力する。制御回路5は、出力電流制御を行っており、電流センサ8より入力される溶接電流信号Ioに基づいて、溶接電源装置の出力電流をフィードバック制御する。また、制御回路5は、位相シフト制御に類似する制御を行う。具体的には、制御回路5は、位相シフト制御と同様に、インバータ回路2のスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR4(スイッチング素子TR3とスイッチング素子TR2)でオン期間の位相差を調整することで、出力電流を制御する。制御回路5は、当該位相差を大きくすることで、スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR4(スイッチング素子TR3とスイッチング素子TR2)が同時にオンになる期間を短くして、位相差がない場合(位相差が「0」の場合)より、溶接電源装置の出力電流を小さくする。また、本実施形態では、制御回路5は、駆動信号P1~P4の発振周波数Fを出力電流の目標値である電流設定値Isetに応じて変化させる。制御回路5は、機能構成として、電流設定部51、減算部52、位相差設定部53、周期設定部55および駆動信号生成部54を備えている。
【0024】
電流設定部51は、溶接電源装置の出力電流の目標値である電流設定値Isetを設定する。電流設定部51は、設定された電流設定値Isetを、減算部52及び周期設定部55に出力する。電流設定部51は、作業者によって入力されたり、あらかじめプログラミングされている溶接条件に基づいて、電流設定値Isetを設定する。周期設定部55は、電流設定値Isetの値に基づいて電流設定値Isetが大きければ大きいほど、発振周波数Fを高くする。例えば、電流設定値Isetが最小電流値である場合は120kHzであり、電流設定値Isetが最大電流値である場合は80kHzである。なお、電流設定値Isetの応じて発振周波数Fを連続的に変化させてもよく、また段階的に変化させてもよい。
【0025】
減算部52は、電流センサ8より入力される溶接電流信号Ioと、電流設定部51より入力される電流設定値Isetとの偏差ΔI(=Iset-Io)を算出して、位相差設定部53に出力する。位相差設定部53は、入力される偏差ΔIに基づいて、偏差ΔIを「0」にするための位相差tθを算出して、駆動信号生成部54に出力する。なお、位相差tθの算出方法は限定されない。位相差tθは、偏差ΔIが大きいほど小さくなり、偏差ΔIが小さいほど大きくなる。
【0026】
駆動信号生成部54は、周期設定部55より入力される発振周波数F及び位相差設定部53より入力される位相差tθに基づいて、一周期が始まる前までに駆動信号P1~P4を生成して、ドライブ回路6に出力する。駆動信号P1~P4は、ドライブ回路6で増幅されて、スイッチング素子TR1~TR4にそれぞれ入力される。
【0027】
図2は、各駆動信号P1~P4の一例を示す波形図である。駆動信号P1ないし駆動信号P4は、所定の周期Tで所定のパルス幅Tonを有するパルス信号である。周期Tは、周期設定部55の発振周波数Fにより、T=1/Fにて決定される。パルス幅Tonは、周期Tの時間比率40%程度に固定されており、Ton=1/F×40%にて決定される。駆動信号P1と駆動信号P3とは、位相が半周期(T/2)ずれている。また、駆動信号P1のパルスと駆動信号P3のパルスとの間に設けられたデッドタイムtdも周期Tの時間比率10%程度に固定されており、td=1/F×10%にて決定される。
図2において、各駆動信号P1~P4の最も左側のパルスは、位相差tθ=45°の場合を示している。各駆動信号P1~P4の左から2番目のパルスは、位相差tθ=90°の場合を示している。各駆動信号P1~P4の左から3番目のパルスは、位相差tθ=135°の場合を示している。
【0028】
一方、駆動信号P2は駆動信号P1から、駆動信号P4は駆動信号P3から、それぞれ位相差tθだけシフトした波形である。インバータが出力しない場合は、駆動信号P2および駆動信号P4は、駆動信号P1および駆動信号P3から位相差tθ=180°シフトした波形であり、駆動信号P1と駆動信号P4のTonが重なることはなく、また、駆動信号P3と駆動信号P2のTonが重なることもないので、インバータは出力しない状態となる。インバータが出力する場合は、位相差設定部53より入力される位相差tθに応じて変化する。インバータの出力を増加させる場合は、位相差tθを180°→135°→90°→45°のように位相差が小さくなるように調整することにより、駆動信号P1と駆動信号P4及び駆動信号P3と駆動信号P2のTonの重なり時間を増加させて出力を増加することができる。反対に、インバータの出力を減少させる場合は、位相差tθを45°→90°→135°→180°のように位相差が大きくなるように調整することにより、駆動信号P1と駆動信号P4及び駆動信号P3と駆動信号P2のTonの重なり時間を減少させて出力を減少することができる。
【0029】
ここで、周期設定部55は、電流設定値Isetの値に基づいて電流設定値Isetが低ければ低いほど、発振周波数Fを高くするようにされている。したがって、デッドタイムtdも電流設定値Isetが低ければ低いほど短い時間となることが分かる。たとえば、デッドタイムtdが発振周波数Fの10%、パルス幅Tonが発振周波数Fの40%に設定されているとする。電流設定値Isetが最小電流値の時、発振周波数F=120kHzであったとすると、最小電流値の時のデッドタイムtd=は、(1/120kHz)×0.1=0.83μSである。一方、電流設定値Isetが最大電流値の時、発振周波数F=80kHzであったとすると、最大電流値の時のデッドタイムtdは、(1/80kHz)×0.1=1.25μSとなる。以上のとおり、電流設定値Isetが小さくなればなるほど、発振周波数Fを高くすると、デッドタイムtdを短くすることができ、還流ダイオードに電流が流れた状態スイッチング素子をオンでき、ゼロボルトスイッチングを実現できる。なお、電流設定値Isetに対応してエネルギーを消費しない時間内となるデッドタイムtdになるように、発振周波数Fは設定される。
【0030】
本実施形態において、一周期の始まる前までに、駆動信号生成部54は、発振周波数F及び位相差tθに基づいて、一周期毎に駆動信号P1~P4を生成しており、一周期中の駆動信号P1とP4及び駆動信号P3とP2の重なる時間は同じであり、トランス3の一次巻線31の正極側の通電時間と負極側の通電時間とが等しくなるので、トランス3の偏磁を抑制できる効果も奏する。
【0031】
〔第2実施形態〕
図3は、本開示の第2実施形態に係る溶接電源装置を説明するためブロック図である。本実施形態に係る溶接電源装置は、駆動信号生成部54が電流センサ9より入力されるインバータ電流信号Ipに基づい発振周波数Fを調整する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第1実施形態と同様である。
【0032】
本実施形態では、周期設定部55は、電流設定値Isetの代わりに、電流センサ9より入力されるトランス3の一次巻線31に流れるインバータ電流信号Ipに基づいて発振周波数Fを設定する。電流センサ9は、トランス3の一次巻線31に流れる電流を検出するため、インバータ回路部2に具備されている。本実施形態では、周期設定部55は、インバータ電流信号Ipが小さいほど、発振周波数Fが高くなるように動作する。インバータ電流信号Ipの値に応じて発振周波数Fを連続的に変化させてもよく、また段階的に変化させてもよい。
【0033】
本実施形態では、インバータ回路部2に具備され電流センサ9によりトランス3の一次巻線31に流れる電流を検出しており、電流センサ9の検出したインバータ電流信号Ipには、トランス3の一次巻線31に流れる励磁電流分も含まれている。インバータ電流信号Ipとトランス3の漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーが消費する時間は、インバータ電流信号Ipの2乗に略比例する。そのため、インバータ電流信号Ipにより発振周波数Fを調整するほうが第1実施形態の電流設定値Isetにて発振周波数Fを調整するより好ましい。また、電流センサ8の溶接電流信号Ioにより発振周波数Fを調整してもよいが、溶接電流信号Ioにはトランス3の一次巻線31に流れる励磁電流分は含まれておらず、トランス3が偏磁状態では、漏れインダクタンスに蓄えられエネルギーが消費する時間推定は困難であり、インバータ回路部2に具備した電流センサ9によりインバータ電流信号Ipを検出し、発振周波数Fを決定するほうが好ましい。
【0034】
上記第1実施形態及び第2実施形態においては、本発明を溶接電源装置に適用した場合について説明したが、これに限られない。本発明は、インバータ回路で直流電圧を高周波電圧に変換するすべての電源装置に適用可能である。
【0035】
本発明に係る電源装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0036】
1:直流電源
2:インバータ回路
21:第1アーム
22:第2アーム
3:トランス
31:一次巻線
32:二次巻線
4:整流回路
5:制御回路
6:ドライブ回路
7:溶接加工物
8:電流センサ
9:電流センサ
41、42:整流ダイオード
43:直流リアクトル
51:電流設定部
52:減算部
53:位相差設定部
54:駆動信号生成部
55:周期設定部
a,b:出力端子
C1、C2:出力ライン
F:発振周波数
Iset:電流設定値
Io:溶接電流信号
Ip:インバータ電流信号
P1~P4:駆動信号
TR1~TR4:スイッチング素子
tθ:位相差
td:デットタイム
T:周期
Ton:パルス幅
ΔI:偏差