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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060647
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】微細化繊維状セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/10 20060101AFI20240425BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20240425BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240425BHJP
   D21H 17/14 20060101ALI20240425BHJP
   D21H 17/65 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C08B3/10
C08B5/00
D21H11/18
D21H17/14
D21H17/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168031
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】322008427
【氏名又は名称】トーコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】垂井 泰郎
(72)【発明者】
【氏名】垂井 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】垂井 睦
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA25
4C090BA27
4C090BB63
4C090BB64
4C090BB65
4C090BB71
4C090BB76
4C090BB94
4C090BD19
4C090BD24
4C090CA38
4C090DA10
4C090DA31
4L055AF09
4L055AF46
4L055AG06
4L055AG08
4L055AG10
4L055AG34
4L055BB03
4L055FA22
(57)【要約】
【課題】加減圧機能や加熱式蒸留還流機能等を有するような高価な装置や、多大な反応時間を必要とせず、比較的簡便な方法で微細化繊維状セルロースを提供すること。
【解決手段】
本発明として、例えば、セルロースを含有する固体の繊維原料と、カルボン酸、リン酸、もしくはスルホン酸等のオキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものとを、溶媒を媒体とせずに加熱下で反応させる工程を含むことを特徴とする、微細化繊維状セルロースの製造方法を挙げることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有する固体の繊維原料と、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものとを、溶媒を媒体とせずに加熱下で反応させる工程を含むことを特徴とする、微細化繊維状セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記オキソ酸またはその塩が、カルボン酸、リン酸、もしくはスルホン酸、またはそれらの塩である、請求項1に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸が疎水性カルボン酸である、請求項2に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記疎水性カルボン酸が、芳香族カルボン酸または長鎖アルキルカルボン酸である、請求項3に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、微細化繊維状セルロース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体または変性セルロースの分野に属する。本発明は、効率よく微細化繊維状セルロースを製造する方法、およびこの方法により製造される微細化繊維状セルロースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細化繊維状セルロースの一種であるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)やセルロースナノクリスタル(以下、「CNC」とも称する。)は、一般に、セルロースを含む植物等を原料とする素材として知られている。原料に化学的・機械的処理等を施して得られる直径数~数十ナノメートルの繊維状物質であって、高い比表面積を有しており、軽量でありながら高強度、高弾性率、増粘効果、大比表面積、低線熱膨張係数を持つ素材として、様々な基盤素材への活用が期待される素材である(例えば、非特許文献1)。
【0003】
中でもCNFは、フィルター部材、高ガスバリア包装部材、エレクトロニクスデバイス、食品、医薬、化粧品、ヘルスケア等、様々な分野において利用が見込まれている。特に、高強度材料(自動車部品、家電製品筐体)や高機能材料(住宅建材、内装材)への活用は、軽量化や高効率化等によるエネルギー消費の削減に繋がると考えられており、有望である。
また、植物由来でカーボンニュートラルであることから従来素材(プラスチック等)の代替によるCO2削減への貢献、高いリサイクル性を有することから多くの微CNF含有材料でリサイクル性の向上による循環経済の実現への貢献、原料を国内の間伐材等の森林資源から調達することによる森林保全やCO2吸収源対策への貢献等、様々な環境側面の効果が期待されるとともに、地域産業の創出としても期待されている素材である。
【0004】
微細化繊維状セルロースの生産方法としては、これまでに木質バイオマスからリグニンを除去しつつ、効率よく微細化繊維状セルロースを生産する方法が提供されている(例えば、CNFの生産方法として特許文献1)。特許文献1に記載のCNFの生産方法によれば、ポリカルボン酸を薬剤または薬液として用いることで、CNFを効率よく生産しつつ、リグニンについては、変性を抑制しながら可溶化して抽出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-140403号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】環境省「脱炭素・循環経済の実現に向けたセルロースナノファイバー利活用ガイドライン」、[online]、2021年、[2022年6月1日検索]、インターネット(URL:https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/cnf /guideline_main.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のCNFの生産方法では、木質バイオマス原料とポリカルボン酸との反応の際に溶媒(特に水)を用いている。そのため、加減圧機能、加熱式蒸留還流機能、さらには攪拌機能を有するような、比較的高価な反応装置等が必要となり、反応時間も比較的長くなるという問題が生じ得る。
【0008】
本発明は、高価な装置や多大な反応時間を必要とせず、比較的簡便な方法で微細化繊維状セルロースを提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、固体の繊維原料と固体の酸またはその塩とを、水等の溶媒を加えることなく加熱下で反応させることで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
本発明として、例えば、以下の態様を挙げることができる。
[1]セルロースを含有する固体の繊維原料と、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものとを、溶媒を媒体とせずに加熱下で反応させる工程を含むことを特徴とする、微細化繊維状セルロースの製造方法。
[2]オキソ酸またはその塩が、カルボン酸、リン酸、もしくはスルホン酸、またはそれらの塩である、上記[1]に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
[3]カルボン酸が疎水性カルボン酸である、上記[2]に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
[4]疎水性カルボン酸が、芳香族カルボン酸または長鎖アルキルカルボン酸である、上記[3]に記載の微細化繊維状セルロースの製造方法。
【0010】
[5]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、微細化繊維状セルロース。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、媒体としての溶媒を使用しないため、溶媒の蒸発に要するエネルギーを節約でき、反応時間を短縮することができる。また、反応には比較的簡易な装置を用いることができ、当初から乾燥した原料を用いるのであれば工程中に水蒸気等の発生が無いので、密閉型の装置や水等を嫌う装置を用いることもできる。さらには、セルロースへの疎水基の装飾をより簡便な方法で行い、微細化繊維状セルロースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】繊維原料として乾燥おからを用い、フリーマイクロミキサー(FMM)で二次解繊を行い作製した、本発明に係る微細化繊維状セルロースの一態様を表す(走査型電子顕微鏡(SEM)写真)。
図2】繊維原料として乾燥おからを用い、グラインダー法で二次解繊を行い作製した、本発明に係る微細化繊維状セルロースの他の一態様を表す(SEM写真)。
図3】本発明に係る微細化繊維状セルロースへの電導度滴定結果を示す。横軸は滴定量(mL)、右縦軸は電導度(μS/cm)、左縦軸はpHをそれぞれ表す。
図4】未処理パルプおよび本発明に係る微細化繊維状セルロースについての赤外反射スペクトルである。横軸は波数(cm-1)、縦軸はlog(1/R)をそれぞれ表す(R:反射率)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
1 本発明に係る微細化繊維状セルロース
本発明に係る微細化繊維状セルロース(以下、「本発明微細化繊維状セルロース」という。)は、原料として、セルロースを含有する固体の繊維原料と、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものとを用い、当該繊維原料と当該オキソ酸またはその塩とを、溶媒を媒体とせずに加熱下で反応させる工程(反応工程、あるいは1次解繊工程)を経て製造されることを特徴とする。即ち、本発明微細化繊維状セルロースは、後述する本発明に係る製造方法により製造することができる。
【0014】
ここで、「微細化繊維状セルロース」とは、セルロースから主としてなる繊維状物質、または当該繊維状物質を含有する組成物のことをいう。当該繊維状物質の繊維径(直径)または繊維幅は、概ねサブミクロン(数百nm)程度以下のサイズであれば特に制限はなく、1000nm以上(数千nm程度)のものから数nm程度以下のもの(シングルナノセルロースを含む。)まで広く含まれる。本発明微細化繊維状セルロースに含まれる繊維状物質は、繊維径または繊維幅が特に限定されるものではなく、1000nmより大きくてもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きい繊維状セルロースと、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースが混在していてもよい。例えば、透明性に優れた微細化繊維状セルロースの水分散体を作成する場合、微細化繊維状セルロースの繊維径または繊維幅は特に限定されないが、例えば、1~1000nmの範囲内であることが適当である。中でも、1~100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3~50nmの範囲内であり、さらに好ましくは3nm~10nmの範囲内である。
【0015】
また「オキソ酸」とは、分子内構造として酸素原子と他原子(例:C、N、P、S等)との化学結合を含み、さらにその酸素原子の全部または一部が水素原子と結合し、酸として機能し得る化合物のことをいう。オキソ酸は無機酸に限られず、当該定義に該当する限り有機酸も含まれるものとする。
【0016】
またここで「常温」とは、温度が15℃~25℃程度の範囲内であることをいい、「常温で固体」であるとは、常温かつ大気圧程度の圧力下で固体状態を呈するものであることをいう。
【0017】
本発明微細化繊維状セルロースは、原料として繊維原料、およびオキソ酸またはその塩を用いて製造されるが、後述の任意成分を含んでいてもよい。
【0018】
1.1 繊維原料
本発明微細化繊維状セルロースは、セルロースを含有する固体の繊維原料から製造される。かかる繊維原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されないが、例えば、パルプ、おから、糠、野菜・果物の搾りかすを挙げることができる。この中、パルプ、おからが好ましい。また、当該繊維原料は、乾燥状態のものが好ましい。
【0019】
上記パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプ等が挙げられる。
【0020】
この中、木材パルプとしては、例えば、化学パルプ、半化学パルプ、機械パルプを挙げることができる。
【0021】
化学パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等が挙げられる。
【0022】
半化学パルプとしては、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)、リファイナリーグランドパルプ(RGP)等が挙げられる。
【0023】
機械パルプとしては、粉砕パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等が挙げられる。
【0024】
上記非木材パルプとしては、例えば、綿系パルプ(コットンリンター、コットンリント等)、麻、麦わら、バガス、ケナフ、ヨシを挙げることができる。
【0025】
上記脱墨パルプとしては、例えば、古紙由来の脱墨パルプを挙げることができる。
【0026】
セルロースを含有する他の繊維原料としては、例えば、海産物(海藻、ホヤ類等)由来のセルロース、バクテリアセルロースを挙げることができる。なお、セルロースを含有する繊維原料に代えて、直鎖型含窒素多糖類(キチン、キトサン等)を含有する繊維原料を用いて製造することもできる。
【0027】
当該繊維原料は、上記の1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
1.2 オキソ酸またはその塩
本発明微細化繊維状セルロースは、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものと上記繊維原料とを加熱下で反応させる、1次解繊工程(反応工程)を経て製造される。オキソ酸またはその塩により、繊維原料中のセルロースのヒドロキシ基にイオン性の官能基が導入され、当該官能基同士の電気二重層斥力により微細化が促進され得る。
【0029】
当該オキソ酸としては、遊離体の酸またはその塩が常温で固体であって、セルロースのヒドロキシ基にイオン性官能基を導入し得るものであれば特に限定されないが、例えば、カルボン酸、リン酸、スルホン酸を挙げることができる。
【0030】
原料としてのカルボン酸は、常温で固体であって、原料のセルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を導入し得るものであれば特に制限はないが、例えば、ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等)、無水カルボン酸、疎水性カルボン酸を挙げることができる。
【0031】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、酒石酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタル酸等が挙げられる。
【0032】
トリカルボン酸としては、クエン酸、アコニット酸等が挙げられる。
【0033】
テトラカルボン酸としては、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0034】
無水カルボン酸としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等が挙げられる。
【0035】
疎水性カルボン酸としては、芳香族カルボン酸(安息香酸、アジピン酸、テレフタル酸、サリチル酸等)、長鎖アルキルカルボン酸が挙げられる。
【0036】
これらの中、カルボン酸としては、クエン酸、安息香酸、長鎖アルキルカルボン酸が好ましい。カルボン酸またはその塩は、上記の1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を併用してもよい。
【0037】
原料としてのリン酸は、常温で固体であって、原料セルロースのヒドロキシ基にリンオキソ酸基を導入し得るものであれば特に制限はないが、例えば、ホスホン酸、無水リン酸(五酸化二リン)、ピロリン酸、ポリリン酸を挙げることができる。リン酸またはその塩は、1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を併用してもよい。
【0038】
原料としてのスルホン酸は、常温で固体であって、原料セルロースのヒドロキシ基にスルホン基を導入(スルホアルキル化)し得るものであれば特に制限はないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を挙げることができる。これらの中、p-トルエンスルホン酸が好ましい。スルホン酸またはその塩は、1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を併用してもよい。
【0039】
原料としてのオキソ酸の塩としては、オキソ酸の種類などにより異なるものの、無機塩であっても有機塩であってもよく、具体的には、例えば、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;有機塩を挙げることができる。なお、当該オキソ酸の塩は、それ自身が常温で固体であればよく、その遊離体のオキソ酸が常温で固体か否かは問わない。
【0040】
また、上記カルボン酸、リン酸、スルホン酸等の異なる種類のオキソ酸またはその塩を2種以上併用してもよい。
【0041】
1.3 その他の任意成分
本発明微細化繊維状セルロースは、所望により、上述した必須成分以外の任意成分を配合して製造してもよく、当該任意成分を含むことができる。かかる任意成分としては、例えば、有機添加物、無機添加物、親水性高分子、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、セメント、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、pH調整剤を挙げることができる。
【0042】
有機添加物としては、例えば、デンプン(トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、アルファ化デンプン、変性アルファ化デンプン、タピオカデンプン、コムギデンプン等)、セルロース(微結晶セルロース、粉末セルロース等)、デキストレート類、デキストリン、ブドウ糖、果糖、ラクチトール、無水乳糖、乳糖、マルチトール、マルトデキストリン、マルトース、マンニトール、ソルビトール、精製白糖、圧縮糖を挙げることができる。
【0043】
無機添加物としては、例えば、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、過リン酸石灰、重化リン酸石灰、熔成リン肥、焼成リン肥、生石灰、消石灰、石灰窒素、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、ベントナイト、カーボンブラック、カオリンを挙げることができる。
【0044】
親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体を挙げることができる。
【0045】
熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂が挙げられる。
【0046】
2 本発明に係る製造方法
本発明に係る製造方法(以下、「本発明製造方法」という。)は、本発明微細化繊維状セルロースを含む微細化繊維状セルロースを製造する方法であって、セルロースを含有する固体の繊維原料と、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものとを、溶媒(水や有機溶媒等)を媒体とせずに加熱下で反応させる工程(反応工程、あるいは1次解繊工程)を含むことを特徴とする。本発明製造方法は当該工程以外に、洗浄工程、塩基処理工程(漂白工程、カチオン添加工程)、2次解繊工程を含み得る。
【0047】
2.1 反応工程(1次解繊工程)
反応工程(1次解繊工程)は、オキソ酸またはその塩であって常温で固体であるものと、上記繊維原料とを加熱下で反応させる工程である。当該工程において、繊維原料中のセルロースのヒドロキシ基にイオン性の官能基が導入され得る。イオン性官能基導入後の繊維原料では、セルロース分子中の官能基同士に電気二重層斥力が発生し、微細化が促進され得る。
【0048】
本工程において用い得るオキソ酸またはその塩は、常温で固体であって、セルロースのヒドロキシ基にイオン性官能基を導入し得るものであれば特に限定されないが、例えば、前記した、カルボン酸、リン酸、スルホン酸、またはそれらの塩を挙げることができる。
【0049】
本工程におけるオキソ酸またはその塩と繊維原料との反応では、水等の溶媒を媒体として用いないため、水媒体下・高圧下で反応を行う必要がなく、安価な設備で行うことが可能となる。用い得る装置としては、開放型であれば、業務用回転釜、ロータリークッカー等の業務用調理器具が挙げられる。特に、水を使用しないことから水蒸気の発生が低減されるので、密閉型のニーダーミキサー、バンバリーミキサー、2軸混錬押出機等の、温度管理と撹拌ができ且つ不活性ガスを注入し材料の酸化を防ぐことのできる装置を使うことができる。特開2016-176052(P2016-176052A)特開2016-176052(P2016-176052A)
【0050】
なお、本発明製造方法においては、水等の溶媒を何ら媒体として用いずに1次解繊を行うが、1次解繊で従来用いられている水以外の溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等)、プロトン性アミド系溶媒(ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド等)、非プロトン性極性溶媒(DMAc、DMF、NMP、DMSO、アセトン等)、エーテル系溶媒(THF等)を挙げることができる。本工程においては、これらの溶媒を用いることなく、オキソ酸またはその塩と繊維原料とを反応させることができる。
【0051】
反応工程(1次解繊工程)は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上の反応工程を行うことにより、繊維原料中のセルロースに対してより多くのイオン性官能基を導入することができる。また、反応工程(1次解繊工程)を複数回行う場合、用いるオキソ酸またはその塩は、各工程で同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。例えば、1回目の反応工程においてはカルボン酸(例:クエン酸、安息香酸、長鎖アルキルカルボン酸)またはその塩を用い、2回目の反応工程においてはスルホン酸(例:p-トルエンスルホン酸)やリン酸(例:二リン酸)等を用いることとしてもよい。
【0052】
2.1.1 カルボン酸による1次解繊工程
反応工程(1次解繊工程)は、カルボン酸によるものとすることができる。カルボン酸による1次解繊工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、カルボン酸またはその塩、即ち、カルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその塩、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体を処理し、セルロースにカルボキシ基を導入する工程である。
【0053】
本工程において用い得るカルボン酸またはその塩は、常温で固体であって、原料のセルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を導入し得るものであれば特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等)またはその塩、無水カルボン酸、疎水性カルボン酸またはその塩を挙げることができる。
【0054】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、酒石酸、イタコン酸、シトラコン酸を挙げることができる。
【0055】
トリカルボン酸としては、例えば、クエン酸、アコニット酸を挙げることができる。
【0056】
テトラカルボン酸としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸を挙げることができる。
【0057】
無水カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物を挙げることができる。
【0058】
疎水性カルボン酸としては、例えば、芳香族カルボン酸(安息香酸、アジピン酸、テレフタル酸、サリチル酸等)、長鎖アルキルカルボン酸を挙げることができる。
【0059】
上記カルボン酸の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なお、当該カルボン酸塩は、それ自身が常温で固体であればよく、その遊離体のオキソ酸が常温で固体か否かは問わない。
【0060】
上記の中、クエン酸、安息香酸、長鎖アルキルカルボン酸、またはこれらの塩が好ましい。カルボン酸またはその塩は、上記の1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を同時に併用してもよい。
【0061】
繊維原料に対するカルボン酸またはその塩の使用量については、繊維原料の微細化(ナノファイバー化)を容易にし、微細化繊維状セルロースの分散安定性をより高めることができる範囲内であれば、特に制限はない。具体的には、繊維状セルロースに対するカルボン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが適当である。中でも、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するカルボン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり3.00mmol/g以下であることが適当である。中でも、2.00mmol/g以下であることが好ましく、1.50mmol/g以下であることがより好ましく、1.20mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。
【0062】
カルボン酸による1次解繊工程における加熱温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、カルボキシ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが適当である。例えば、100℃~200℃の範囲内であることが適当であり、100℃~150℃の範囲内であることが好ましく、120℃~140℃の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
カルボン酸による反応工程における加熱時間は、例えば、繊維原料から実質的に水分が除かれてから5分間~24時間の範囲内であることが適当である。中でも、5分間~12時間の範囲内であることが好ましく、5分間~1時間の範囲内であることがより好ましい。
【0064】
加熱する設備による違いはあるが、加熱温度と加熱時間とを適切な範囲内とすることにより、カルボキシ基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を洗浄・除去してもよい。
【0065】
なお、カルボン酸の酸性度が低く反応速度が遅いときあるいは反応性が悪いときは、反応促進のために任意の量(適量)の酸触媒を添加しても良い。当該酸触媒として、例えば、p-トルエンスルホン酸を挙げることができる。酸触媒は、固体酸触媒の態様とすることができる。また、酸触媒としてルイス酸触媒を用いてもよい。
【0066】
カルボン酸として無水カルボン酸を使用する場合、反応速度が遅いときあるいは反応性が悪いときは、反応促進のために任意の量(適量)の塩基触媒を添加しても良い。当該塩基触媒として、例えば、炭酸カリウムを挙げることができる。塩基触媒は、固体塩基触媒の態様とすることができる。
【0067】
2.1.2 リン酸による1次解繊工程
反応工程(1次解繊工程)は、リン酸によるものであってもよい。リン酸による1次解繊工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸またはその塩、即ち、リン酸由来の基を有する化合物もしくはその塩、またはリン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体を処理し、セルロースにリンオキソ酸基を導入する工程である。
【0068】
本工程において用い得るリン酸またはその塩は、常温で固体であって、原料セルロースのヒドロキシ基にリンオキソ酸基を導入し得るものであれば特に制限はないが、例えば、ホスホン酸、無水リン酸(五酸化二リン)、ピロリン酸、ポリリン酸を挙げることができる。
【0069】
リン酸塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なお、当該リン酸塩は、それ自身が常温で固体であればよく、その遊離体のオキソ酸が常温で固体か否かは問わない。
【0070】
リン酸またはその塩は、1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を同時に併用してもよい。
【0071】
繊維原料に対するリン酸またはその塩の使用量については、繊維原料の微細化(ナノファイバー化)を容易にし、微細化繊維状セルロースの分散安定性をより高めることができる範囲内であれば、特に制限はない。具体的には、繊維状セルロースに対するリン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが適当である。中でも、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するリン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり3.00mmol/g以下であることが適当である。中でも、2.00mmol/g以下であることが好ましく、1.50mmol/g以下であることがより好ましく、1.20mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。
【0072】
リン酸による1次解繊工程における加熱温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが適当である。例えば、100℃~200℃の範囲内であることが適当であり、100℃~150℃の範囲内であることが好ましく、120℃~140℃の範囲内であることがより好ましい。
【0073】
リン酸による反応工程における加熱時間は、例えば、繊維原料から実質的に水分が除かれてから5分間~24時間の範囲内であることが適当である。中でも、5分間~12時間の範囲内であることが好ましく、5分間~1時間の範囲内であることがより好ましい。
【0074】
加熱温度と加熱時間とを適切な範囲内とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を洗浄・除去してもよい。
【0075】
2.1.3 スルホン酸による1次解繊工程
反応工程(1次解繊工程)は、スルホン酸によるものであってもよい。スルホン酸による1次解繊工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、スルホン酸またはその塩、即ち、スルホン酸由来の基を有する化合物もしくはその塩、またはその誘導体を処理し、セルロースにスルホン基を導入する工程(スルホアルキル化する工程)である。
【0076】
上記スルホン酸は、常温で固体であって、原料セルロースのヒドロキシ基にスルホン基を導入(スルホアルキル化)し得るものであれば特に制限はないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を挙げることができる。
【0077】
スルホン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩(2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム等)、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。なお、当該スルホン酸塩は、それ自身が常温で固体であればよく、その遊離体のオキソ酸が常温で固体か否かは問わない。
【0078】
スルホン酸またはその塩は、1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を同時に併用してもよい。
【0079】
繊維原料に対するスルホン酸またはその塩の使用量については、繊維原料の微細化(ナノファイバー化)を容易にし、微細化繊維状セルロースの分散安定性をより高めることができる範囲内であれば、特に制限はない。具体的には、繊維状セルロースに対するスルホン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが適当である。中でも、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するスルホン酸またはその塩の導入量は、例えば、繊維状セルロース1g(質量)あたり3.00mmol/g以下であることが適当である。中でも、2.00mmol/g以下であることが好ましく、1.50mmol/g以下であることがより好ましく、1.20mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。
【0080】
スルホン酸による1次解繊工程における加熱温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、スルホン基を効率的に導入できる温度を選択することが適当である。例えば、100℃~200℃の範囲内であることが適当であり、100℃~150℃の範囲内であることが好ましく、120℃~140℃の範囲内であることがより好ましい。
【0081】
スルホン酸による反応工程における加熱時間は、例えば、繊維原料から実質的に水分が除かれてから5分間~24時間の範囲内であることが適当である。中でも、5分間~12時間の範囲内であることが好ましく、5分間~1時間の範囲内であることがより好ましい。
【0082】
加熱温度と加熱時間とを適切な範囲内とすることにより、スルホン基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を洗浄・除去してもよい。
【0083】
2.2 洗浄工程
本発明製造方法においては、必要に応じて1次解繊工程を経た繊維原料に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば、1次解繊工程を経た繊維原料を水や有機溶媒により洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0084】
2.3 塩基処理工程(漂白工程、カチオン添加工程)
本発明製造方法においては、1次解繊工程より後であって後述する2次解繊工程より前に、繊維原料に対して塩基処理を行うことができる。塩基処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、塩基性溶液中に、1次解繊工程を経た繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。本工程において、繊維原料中のセルロースに導入されているイオン性官能基の対イオンとして、金属カチオン(金属陽イオン)が導入され、セルロース分子同士を静電反発させることができる。これにより、後工程の2次解繊工程において微細化がより促進され得る。また、塩基の作用により繊維原料が漂白され得るため、より白みの良い外観の微細化繊維状セルロースを製造することができる。
【0085】
塩基性溶液に含まれる塩基性化合物は、特に限定されず、無機塩基性化合物であってもよいし、有機塩基性化合物であってもよい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、過炭酸ナトリウムを挙げることができる。中でも、過炭酸ナトリウムが好ましい。
【0086】
また、塩基性溶液の溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、水、アルコール等の極性有機溶媒を含む極性溶媒であることが好ましく、水を含む水系溶媒であることがより好ましい。塩基性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、過炭酸ナトリウム水溶液を挙げることができる。中でも、過炭酸ナトリウム水溶液が好ましい。
【0087】
本工程における塩基性溶液の温度は特に制限されないが、例えば、10℃~40℃の範囲内であることが適当である。中でも、15℃~30℃の範囲内であることが好ましく、20℃~25℃の範囲内であることがより好ましい。
【0088】
本工程において塩基性溶液への繊維原料の浸漬時間は特に制限されないが、例えば、5分間~24時間の範囲内であることが適当である。中でも、1時間~5時間の範囲内であることが好ましく、1時間~3時間の範囲内であることがより好ましい。
【0089】
2.4 2次解繊工程
1次解繊工程を経た繊維原料を2次解繊工程で解繊処理することにより、本発明微細化繊維状セルロースを得ることができる。2次解繊工程においては、例えば、解繊処理装置を用いることができる。用い得る解繊処理装置に特に限定はないが、例えば、乳化分散装置(フリーマイクロミキサー、FMM)、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターを使用することができる。これらの中でも、詰まることなく均一・安定して解繊処理を行う観点からは、乳化分散装置が好ましい。また、シングルナノセルロースまたはそれに近い範囲のサイズにまで高度に解繊する観点からは、数十MPa~100MPa以上の高圧によるホモジナイザーが好ましい。
【0090】
2次解繊工程においては、例えば、1次解繊工程を経た繊維原料を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、極性有機溶媒等が挙げられる。用い得る極性有機溶媒に特に制限はないが、例えば、アルコール(多価アルコールを含む)、ケトン、エーテル、エステル、非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコールが挙げられる。アルコールの中の特に多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)を挙げることができる。エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。エステルとしては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルを挙げることができる。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を挙げることができる。分散媒としては、上記の1種または2種以上を使用することができる。
【実施例0091】
以下に実施例を掲げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
<使用した器具>
ステンレス製片手鍋、撹拌用フライ返し、カセットコンロ、ブフナー漏斗、吸引ろ過ビン、ビニールチューブ、コンプレッサー、木綿さらし布、200mLビーカー、洗浄用プラスチック容器(2L)、2次解繊用フリーマイクロミキサー(FMM、大川原化工機株式会社製)、電子天秤。
【0093】
<使用した薬品>
繊維原料(粉砕乾燥パルプ、乾燥おから)、クエン酸、過炭酸ナトリウム
【0094】
<微細化繊維状セルロースの作製手順>
(手順1:1次解繊)
繊維原料、クエン酸を電子天秤で量り取り、ステンレス製の片手鍋に入れ、(水を用いる場合は、さらに水150gを加えて、)カセットコンロに乗せ加熱する。鍋底が焦げないように常にフライ返しで撹拌しながら、水がなくなるまで加熱する。
水がなくなり溶融したクエン酸が茶褐色に変色し始めるのを確認し、そのまま撹拌しながら加熱し続ける。その後、繊維原料が粒々の状態から粒々が認められなくなるまで加熱し続ける。溶融液が150℃以上になるまでこの状態を保ち、150℃以上になった後、加熱を止め、100℃以下になるまで液を冷ます。
【0095】
(手順2:洗浄)
冷ました液においてクエン酸が固まり固体になったところに、水を適量加え、固まったクエン酸を溶かす。この時、溶けやすいように少し鍋を加熱する。そして、1次解繊されたパルプ、未反応のクエン酸の入った水溶液を吸引ろ過する。ろ取された固体(解繊したパルプ)を、水を入れた洗浄用プラスチック容器に入れ、洗浄する。未反応のクエン酸を水に溶かし出して洗浄し、再度吸引ろ過を行う。この操作を2回繰り返す。
【0096】
(手順3:漂白・1価の陽イオンの添加)
洗浄されたろ物を過炭酸ナトリウム水溶液に入れ、漂白およびNaの添加を行う。十分漂白された水溶液を吸引ろ過し、ろ物を水で洗浄する。この操作を2回繰り返す。
【0097】
(手順4:2次解繊)
さらにろ取したろ物を2~5%に希釈し、FMMにかけ機械的に2次解繊を行う。
【0098】
[参考例1]パルプおよび水を用いた参考例
繊維原料の乾燥パルプを10.0887g、クエン酸を50.0130g、水を150.0376g量り採り、上記の手順に従い、微細化繊維状セルロースを作製した。
【0099】
・カセットコンロ点火後の様子
5分後:水が沸騰してきた。
10分後:表面の水がなくなるがパルプ内部に含まれていた水が徐々に出てきた。
15分後:10分後同様にパルプに含まれていた水が徐々に出てきた。
20分後:同様にパルプに含まれていた水が徐々に出てきた。
25分後:水がなくなり徐々に色が茶色く変色した。この時の温度は92℃であった。
30分後:ほぼ水がなくなった。温度は110℃であった。
35分後:クエン酸が溶融し始めた。温度は120℃であった。
40分後:クエン酸が完全に溶融し、パルプに浸透し、パルプの粒々が見られなくなったので加熱を止め、解繊を終了した。温度は138.5℃であった。
【0100】
この後、洗浄漂白を行い、FMMをかけ、機械的に2次解繊を行い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。
【0101】
[実施例1]乾燥パルプを用いた実施例
繊維原料の乾燥パルプを10.0513g、クエン酸を50.0215g量り採り、上記の手順に従い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。
【0102】
・カセットコンロ点火後の様子
1分後:なべ底の熱くなった所からクエン酸の茶褐色化が見られた。
3分後:溶けたクエン酸とパルプが混ざり始めた。
5分後:溶けたクエン酸とパルプがある程度均一に混ざり始めた。
7分後:パルプの粒々が見られなくなった。この時の温度は140℃であった。
10分後:クエン酸が完全に溶けて、パルプの解繊が進んだ。この時は150℃であった。
11分後:加熱を止め、解繊を終了した。
この後、洗浄漂白を行い、FMMをかけ、機械的に2次解繊を行い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。
【0103】
[参考例2]おからおよび水を用いた参考例
繊維原料の乾燥おからを10.0532g、クエン酸を50.0116g、水を150.6536g量り採り、上記の手順に従い、微細化繊維状セルロースを作製した。
【0104】
・カセットコンロ点火後の様子
5分後:グツグツと煮詰まり始めた。
10分後:見た目の水分がなくなる。乾燥おからが吸収した。
15分後:クエン酸が少し茶色く変色した。
20分後:18分後くらいから水分が全くなくなった様子、クエン酸の変色度合いが大きくなった。 この時の温度は95℃であった。
25分後:乾燥おからの粒々がなくなり、ほぼ解繊しているようすであった。この時の温度は110℃であった。
27分後:加熱を終了した。
この後、洗浄漂白を行い、FMMをかけ、機械的に2次解繊を行い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。
【0105】
[実施例2]乾燥おからを用いた実施例
繊維原料の乾燥おからを9.9280g、クエン酸を50.3704g量り採り、上記の手順に従い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。
【0106】
・カセットコンロ点火後の様子
1分後:なべ底の熱くなった所からクエン酸の茶褐色化が見られた。
3分後:溶けたクエン酸とおからが混ざり始めた。
5分後:溶けたクエン酸とおからがある程度均一に混ざり始めた。
7分後:おからの粒は見られるもののかなり反応が進んでいる様子であった。
この時の温度は132℃であった。
9分後:かなりおからの粒々が見られなくなった。この時は135℃であった。
11分後:クエン酸の色が少し濃くなったがおからの粒は見られた。この時の温度は139℃であった。
13分後:11分頃と大きな差はなかった。この時の温度は141℃であった。
15分後:加熱を止め、解繊を終了した。
この後、洗浄漂白を行い、FMMをかけ、機械的に2次解繊を行い、本発明微細化繊維状セルロースを作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)による当該微細化繊維状セルロースの観察画像を図1に示す。また、2次解繊でグラインダー法を用いた以外は、同様の方法にて作成した微細化繊維状セルロースについてのSEM観察画像を図2に示す。
【0107】
図1および図2から分かる通り、本発明製造方法によれば、セルロースを非常に微細な繊維径にまで解繊することができることが明らかとなった。また、いずれの実施例においても、参考例より短時間で反応が進み、より速やかに微細化繊維状セルロースの製造を行うことができた。
【0108】
・電導度滴定法によるカルボキシル基の定量
本発明微細化繊維状セルロースについて、カルボキシ基(カルボキシル基)の定量を行った。カルボン酸の置換度の計測の為には、一般的に電導度滴定法または中和滴定法が用いられることが多い。今回は電導度滴定法によるカルボキシル基の定量を行った。使用機器および試薬、ならびに試験方法は、以下の通りである。
【0109】
<使用機器>
pHメーター・電導度計付自動滴定装置(平沼産業社製COM-1700M)
<試薬>
0.01Mの塩化ナトリウム水溶液
0.05M規定のNaOH水溶液
【0110】
<試験方法>
(1)乾燥パルプから製造した本発明微細化繊維状セルロースの絶乾で0.2g分を取り、水を適量加える。
(2)塩酸を加えてpHを2.5程度にする。
(3)電導度の値を見ながら、0.01MのNaOH 5mLを添加する。
(4)電導度と自動滴定装置を同時に稼働させる(設定は、15秒ごとに0.025mL添加)。
(5)pHが11になったら終了。
【0111】
電導度滴定の結果を図3に示す。下記(1)~(3)の過程を考慮し、セルロース中のカルボキシル基を中和するのに要したNaOH量、そして本発明微細化繊維状セルロースにおけるカルボキシル基の量を求めるべく、以下の通りデータ解析を行った。
(1)強酸の中和段階:HCl+NaOH(プロトンの中和による電導度の低下)
(2)弱酸の中和段階:セルロースの-COOH+NaOH
(3)中和終了に伴う低速注入のNaOHによる電導度の上昇
【0112】
カルボキシル基量(mol/g)は、(2)の段階で消費された0.05MのNaOHの量をグラフより求めて、以下の様に、濃度と当該量とを掛けてセルロース重量で割ると求まる。
「0.05M × NaOH量mL / セルロース重量g」
【0113】
図3の結果より、本発明微細化繊維状セルロースにおけるカルボキシル基の量は、[NaOHの濃度0.05]×[(2)の滴定量2.5mL]÷[本発明微細化繊維状セルロース量0.2g]で、0.625mmol/gとなった。
【0114】
・赤外分光法による評価
また、官能基の変化を計測するためFT-IR(パーキンエルマー社製フロンティア)を用いて試験を行った。未処理パルプおよび本発明微細化繊維状セルロースの全反射(ATR)スペクトルを図4に示す。本発明微細化繊維状セルロースのスペクトルでは、原料であるパルプのスペクトルと比較して、波数1500cm-1~1750cm-1の領域でカルボキシル基またはその塩に由来する大きなピークが生じており、本発明微細化繊維状セルロースにおいてカルボキシル基が良好に導入されていることが分かる。
【0115】
従来は、溶媒(特に水)の使用が適しているとされるが(例えば、特許文献1の段落0043)、上記実施例のように、水等の溶媒を用いなくても反応が進むことがわかった。これによりクエン酸(ポリカルボン酸)とパルプおよび乾燥おから(木質バイオマス原料)の反応には水は直接関与していないことがわかった。また、水を使用していないので、水の蒸発に要するエネルギーや反応時間を短縮することができる。
また、水を使わないことから植物繊維と疎水性カルボン酸などを同様の方法で反応させることができると考えられ、微細化繊維状セルロースへの疎水基の装飾を簡便な方法で行えると考えられる。
【0116】
以上より、本発明製造方法によれば、簡易な反応装置等を用いながら、溶媒等を用いて製造したものと同等以上の速さと品質で微細化繊維状セルロースを作製できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明製造方法は、媒体としての溶媒(水等)を使用しないため、溶媒の蒸発に要するエネルギーを節約でき、反応時間を短縮することができる。また、反応には比較的簡易な装置を用いることができ、当初から乾燥した原料を用いるのであれば工程中に水蒸気等の発生が無いので、密閉型の装置や水等を嫌う装置を用いることもできる。さらには、原料セルロースへの疎水基の装飾をより簡便な方法で行い、本発明微細化繊維状セルロースを提供することができる。したがって、樹脂素材産業や地域産業において有用である。
図1
図2
図3
図4