IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電動圧縮機 図1
  • 特開-電動圧縮機 図2
  • 特開-電動圧縮機 図3
  • 特開-電動圧縮機 図4
  • 特開-電動圧縮機 図5
  • 特開-電動圧縮機 図6
  • 特開-電動圧縮機 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060651
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240425BHJP
   F04C 27/00 20060101ALI20240425BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240425BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240425BHJP
【FI】
F04B39/00 104Z
F04C27/00
F04C29/00 T
F04B39/00 106A
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168045
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】冠城 美早子
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
5H770
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB07
3H003AC03
3H003BC00
3H003CD01
3H003CF02
3H129AA02
3H129AA18
3H129AB03
3H129BB16
3H129CC27
5H770AA21
5H770BA05
5H770PA11
5H770QA01
5H770QA28
5H770QA31
5H770QA37
(57)【要約】
【課題】ハーメチックプレートを隔壁のインバータ収容部側に取り付ける場合のシール性を改善することができる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】ハーメチックピン53は、ハーメチックプレート52が端壁7A(隔壁)に取り付けられた状態で、当該端壁7A(隔壁)に形成された貫通孔73を通過し、インバータ収容部13からモータ室12に渡って設けられ、各ハーメチックピン53のモータ室12側に位置する部分の周囲には、個別のインシュレータ66がそれぞれ取り付けられると共に、複数本のハーメチックピン53及び貫通孔73の周囲を囲繞するように、ハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)との間にシール材76が介設されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが内蔵されたモータ室と、前記モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、前記モータ室と前記インバータ収容部との隔壁と、該隔壁の前記インバータ収容部側に取り付けられたハーメチックプレートと、該ハーメチックプレートを貫通して当該ハーメチックプレートに取り付けられた複数本のハーメチックピンを備えた電動圧縮機において、
前記ハーメチックピンは、前記ハーメチックプレートが前記隔壁に取り付けられた状態で、当該隔壁に形成された貫通孔を通過し、前記インバータ収容部から前記モータ室に渡って設けられ、各ハーメチックピンの前記モータ室側に位置する部分の周囲には、個別のインシュレータがそれぞれ取り付けられると共に、
前記複数本のハーメチックピン及び前記貫通孔の周囲を囲繞するように、前記ハーメチックプレートと前記隔壁との間にシール材が介設されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記ハーメチックピンは、前記ハーメチックプレートに形成された透孔にガラスを介して取り付けられていると共に、
前記インシュレータは、前記ガラスよりも前記モータ室側となる前記ハーメチックピンの周囲に圧接して取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記ハーメチックプレートの前記モータ室側となる面の前記透孔周囲には、前記各ハーメチックピンに取り付けられたインシュレータに対応する凹部がそれぞれ形成され、前記各凹部内には、前記各インシュレータと前記ハーメチックプレートとの間に位置する絶縁レジンが塗布されていることを特徴とする請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記ハーメチックプレートの前記モータ室側となる面とは反対側の面の前記透孔周囲には凸部がそれぞれ形成され、各凸部を覆うかたちでシリコン部材が塗布されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーメチックピンを有するハーメチックプレートを、モータ室とインバータ収容部との隔壁に取り付けて成る電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば電動車両の空気調和装置に用いられる冷媒圧縮機としては、ハウジングに形成されたインバータ収容部にインバータを取り付けたインバータ一体型の電動圧縮機が用いられている。この場合、ハウジングのモータ室にはモータが収容され、モータ室とインバータ収容部との隔壁には、ハーメチックプレートが設けられる。そして、このハーメチックプレートの三本のハーメチックピンにより、インバータの回路基板とモータを電気的に接続するものであった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ハーメチックピンは絶縁のため、ガラス(ガイシ)を介してハーメチックプレートに取り付けられるが、特許文献1では隔壁のモータ室側にハーメチックプレートを取り付けていたため、モータからの高電圧コネクタとハーメチックピンとの接続部を絶縁するためのインシュレータ(密封部材)をガラスに取り付けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5944169号公報
【特許文献2】特許第7013402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1のようにハーメチックプレートを隔壁のモータ室側に取り付けると、モータ室内が過密となる。そこで、ハーメチックプレートを隔壁のインバータ収容部側に取り付けることが考えられるが、モータ室は圧力が高く、インバータ収容部は大気圧となるため、差圧による冷媒漏れを防止するため、ハーメチックプレートと隔壁の間をOリング等のシール材によりシールしなければならない。
【0006】
このとき、例えば特許文献2のように三本のハーメチックピンに対して一体化されたインシュレータ(断熱体)を使用すると、それらの周囲を囲繞するシール材(Oリング)の大きさが大きくなってしまう。
【0007】
図7を用いて具体的に説明する。図7は一体化されたインシュレータを用いた場合のハーメチックプレートとシール材の位置関係を示す図である。この図において、100は従来のハーメチックプレート、53はハーメチックピンであり、図示しないガラスを介して三本のハーメチックピン53が並んで取り付けられている。101はゴム製のインシュレータであり、三本のハーメチックピン53に渡って取り付けられるように一体的に成形されたものである。102はこれら三本のハーメチックピン53やインシュレータ101の周囲を囲繞するOリングから成るシール材である。
【0008】
このシール材102より内側となるハーメチックプレート100のモータ室側の面(シール材102より内側となる領域)に、モータ室内の圧力が加わることになるが、図7のように一体化されたインシュレータ101を用いた場合、どうしてもシール材102が大きくなってしまい、そのため、ハーメチックプレート100に圧力が加わる面積(図7に示す受圧面積B)が大きくなる。そのため、ハーメチックプレート100が変形し、モータ室内の圧力が漏れてしまう。また、シール材102が大きくなると当該シール材102自体を透過する漏れも多くなるという問題が生じる。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、ハーメチックプレートを隔壁のインバータ収容部側に取り付ける場合のシール性を改善することができる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動圧縮機は、モータが内蔵されたモータ室と、モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、モータ室とインバータ収容部との隔壁と、この隔壁のインバータ収容部側に取り付けられたハーメチックプレートと、このハーメチックプレートを貫通して当該ハーメチックプレートに取り付けられた複数本のハーメチックピンを備えたものであって、ハーメチックピンは、ハーメチックプレートが隔壁に取り付けられた状態で、当該隔壁に形成された貫通孔を通過し、インバータ収容部からモータ室に渡って設けられ、各ハーメチックピンのモータ室側に位置する部分の周囲には、個別のインシュレータがそれぞれ取り付けられると共に、複数本のハーメチックピン及び貫通孔の周囲を囲繞するように、ハーメチックプレートと隔壁との間にシール材が介設されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明の電動圧縮機は、上記発明においてハーメチックピンは、ハーメチックプレートに形成された透孔にガラスを介して取り付けられていると共に、インシュレータは、ガラスよりもモータ室側となるハーメチックピンの周囲に圧接して取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明の電動圧縮機は、上記発明においてハーメチックプレートのモータ室側となる面の透孔周囲には、各ハーメチックピンに取り付けられたインシュレータに対応する凹部がそれぞれ形成され、各凹部内には、各インシュレータとハーメチックプレートとの間に位置する絶縁レジンが塗布されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明の電動圧縮機は、請求項2又は請求項3においてハーメチックプレートのモータ室側となる面とは反対側の面の透孔周囲には凸部がそれぞれ形成され、各凸部を覆うかたちでシリコン部材が塗布されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータが内蔵されたモータ室と、モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、モータ室とインバータ収容部との隔壁と、この隔壁のインバータ収容部側に取り付けられたハーメチックプレートと、このハーメチックプレートを貫通して当該ハーメチックプレートに取り付けられた複数本のハーメチックピンを備えた電動圧縮機において、ハーメチックピンが、ハーメチックプレートが隔壁に取り付けられた状態で、当該隔壁に形成された貫通孔を通過し、インバータ収容部からモータ室に渡って設けられており、各ハーメチックピンのモータ室側に位置する部分の周囲に、それぞれ個別にインシュレータを取り付け、更に、複数本のハーメチックピン及び貫通孔の周囲を囲繞するように、ハーメチックプレートと隔壁との間にシール材を介設したので、ハーメチックプレートを隔壁のインバータ収容部側に取り付ける際にハーメチックプレートと隔壁間をシールするシール材の位置を内側に寄せ、その大きさを縮小することができるようになる。
【0015】
これにより、モータ室側の圧力を受けるハーメチックプレートの受圧面積を縮小し、ハーメチックプレートの変形を抑制することができるようになる。また、シール材自体を透過する漏れも少なくすることができるようになるので、総じてハーメチックプレートと隔壁間のシール性を著しく改善することができるようになる。
【0016】
ここで、ハーメチックピンはハーメチックプレートに形成された透孔にガラスを介して取り付けられるが、この場合、請求項2の発明の如くインシュレータを、ガラスよりもモータ室側となるハーメチックピンの周囲に圧接して取り付けることで、シール材をより一相内側に寄せてハーメチックプレートの受圧面積の縮小を図ることが可能となる。
【0017】
また、請求項3の発明の如くハーメチックプレートのモータ室側となる面の透孔周囲に各ハーメチックピンに取り付けられたインシュレータに対応する凹部をそれぞれ形成し、各インシュレータとハーメチックプレートとの間に位置する絶縁レジンを各凹部内に塗布するようにすれば、ハーメチックピンがハーメチックプレートを貫通するモータ室側の部分のシール性と絶縁性を一相改善することができるようになる。
【0018】
更に、請求項4の発明の如くハーメチックプレートのモータ室側となる面とは反対側の面の透孔周囲に凸部をそれぞれ形成し、各凸部を覆うかたちでシリコン部材を塗布するようにすれば、インバータ収容部側のハーメチックピン周辺の絶縁性とシール性を改善することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機の概略断面図である。
図2図1の電動圧縮機のハーメチックプレート部分の詳細断面図である。
図3図2のハーメチックプレートの拡大断面図である。
図4図2のハーメチックプレートをインバータ収容部側から見た平面図である。
図5図4においてハーメチックプレートを取り外した状態の隔壁の平面図である。
図6図5に示したシール材とハーメチックプレートとの位置関係を説明するハーメチックプレートの一面側から見た平面図である。
図7】一体化されたインシュレータを用いた場合のハーメチックプレートとシール材の位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機1の概略断面図である。
【0021】
実施例の電動圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、モータ2(三相の電動モータ)と、このモータ2を運転するためのインバータ3と、モータ2によって駆動される圧縮機構としてのスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール式電動圧縮機である。
【0022】
実施例の電動圧縮機1は、モータ2やセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7A(本発明における隔壁)に取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0023】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例の電動圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0024】
ステータハウジング7内にはモータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。そして、この端壁7Aがモータ室12と後述するインバータ収容部13とを区画する隔壁となる。モータ室12の他端面は開口しており、この開口にはモータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0025】
センターケーシング6は、モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0026】
また、センターケーシング6にはモータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0027】
モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ29から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ29が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ29に固定されている。
【0028】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート20が形成されており、吸入ポート20から吸入された冷媒は、ステータハウジング7内のモータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート30より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0029】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0030】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧縮室34を形成する。
【0031】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、モータ2のロータ29と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0032】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧縮室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0033】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。また、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に摺動可能に当接する摺接シールであり、この摺接シール41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0034】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータであり、スクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離する。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回し、このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート30に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0035】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(スクロール圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0036】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧縮室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧縮室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0037】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ3が収容されるインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。この蓋部材15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0038】
次に、図2図6を更に参照しながら、実施例の電動圧縮機1のハーメチックプレート52周辺の構造について説明する。尚、図2以降ではインバータケース8側を上として電動圧縮機1を立てた状態で示す。図2は電動圧縮機1のハーメチックプレート52部分の詳細断面図、図3はハーメチックプレート52の拡大断面図である。実施例のインバータ3は、一枚の回路基板51に制御回路が実装され、図示しないスイッチング素子や平滑コンデンサ等が接続されて構成されるものである。
【0039】
ここで、ハーメチックプレート52は、インバータ3からモータ2のステータ25に給電する導電性のハーメチックピン53を備えており、ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)のインバータ収容部13側に取り付けられている。図2図3に係るハーメチックプレート52の詳細構造を示す。
【0040】
この場合、ハーメチックピン53は、モータ2の各相(三相)に対応して三本取り付けられている。ハーメチックプレート52は金属板をプレス加工して横長の板状に成形されており、長手方向の中央部には各ハーメチックピン53を取り付けるための円形の透孔63が三箇所並んで形成され、長手方向の両端部には後述するボルト77を挿通させるためのボルト挿通孔72がそれぞれ形成されている。
【0041】
また、ハーメチックプレート52の一面(ハーメチックプレート52が後述する如く隔壁10Aに取り付けられたときにモータ室12側となる面)は平坦面とされ、この一面の各透孔63周囲には、円環状の凹部67がそれぞれ形成されている。また、ハーメチックプレート52の他面(ハーメチックプレート52が後述する如く隔壁10Aに取り付けられたときにモータ室12側となる面とは反対側の面)の各透孔63の周囲には、円柱状の凸部69がそれぞれ形成されている。
【0042】
また、各透孔63内面には円柱状のガラス(ガイシ)64がそれぞれ嵌め込まれており、各ハーメチックピン53はその長手方向の中途部が、このガラス64の内側にそれぞれ嵌合されている。即ち、各ハーメチックピン53はガラス64を介してハーメチックプレート52の透孔63に取り付けられ、この状態でハーメチックプレート52の一面と他面の双方から突出したかたちとなる。
【0043】
また、ガラス64よりもハーメチックプレート52の一面側となる各ハーメチックピン53の周囲(ハーメチックプレート52が後述する如く隔壁10Aに取り付けられたときにガラス64よりもモータ室12側となる各ハーメチックピン53の周囲)には、実施例ではゴム製のインシュレータ66が圧接して取り付けられている。この場合、インシュレータ66はそれぞれ独立して三つ用意され、ハーメチックプレート52が後述する如く隔壁10Aに取り付けられたときにモータ室12側に位置する部分の各ハーメチックピン53の周囲に個別に取り付けられる。
【0044】
また、各インシュレータ66がハーメチックピン53に取り付けられた状態で、ハーメチックプレート52の各凹部67は各ハーメチックピン53にそれぞれ対応する。このとき、各凹部67内には絶縁レジン68を予め塗布しておく。そして、インシュレータ66をハーメチックピン53に取り付けたときに、絶縁レジン68がインシュレータ66とハーメチックプレート52の間に位置するようにする。これにより、各インシュレータ66は絶縁レジン68に密着するので、インシュレータ66とハーメチックプレート52の間の絶縁とシールが成され、インシュレータ66の位置決めも成されることになる。
【0045】
更に、ハーメチックプレート52の他面には、シリコン部材71が塗布されている。このシリコン部材71は、図4に示す如くハーメチックプレート52の各透孔63の周囲に形成された凸部69を全て覆うかたちで塗布されており、これにより、ハーメチックプレート52の他面側における各ハーメチックピン53の絶縁と補強が成される。また、凸部69が形成されていることで、シリコン部材71とハーメチックプレート52のとの接触面積が増えるので、シリコン部材71はより安定的にハーメチックプレート52に固着されている。
【0046】
一方、ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)に対応するインバータケース8のケース本体10の底壁10Aには、開口54が形成されている(図1)。そして、この開口54内に位置することになる端壁7A(隔壁)には、図5に示す如く貫通孔73が三箇所並んで形成されており、更にこの三つの貫通孔73が並んだ線上における端壁7A(隔壁)の外面(インバータ収容部13側となるステータハウジング7の外面)には、ボルト孔78が二箇所凹陥形成されている。このとき、各ボルト孔78は三つの貫通孔73の両側方にそれぞれ位置する(図5)。
【0047】
更に、三つの貫通孔73と各ボルト孔78の間に位置する部分の端壁7A(隔壁)の外面(インバータ収容部13側となるステータハウジング7の外面)には、長円形状の溝74が形成されており、三つの貫通孔73を囲繞するかたちとされている。そして、この溝74内にはOリングから成るシール材76が配置される。
【0048】
以上の構成で、ハーメチックプレート52をステータハウジング7の端壁7A(隔壁)に取り付ける際には、先ず、溝74内にシール材76を配置する。次に、図3の如くハーメチックピン53やインシュレータ66等が取り付けられ、組み立てられたハーメチックプレート52の一面側を端壁7A(隔壁)側とした状態で、各ハーメチックピン53及びインシュレータ66を各貫通孔73内にそれぞれ挿入する。尚、各貫通孔73は各ハーメチックピン53の位置にそれぞれ対応して予め形成しておく。
【0049】
そして、各ボルト挿通孔72にボルト77を挿通し、端壁7A(隔壁)の各ボルト孔78にそれぞれ螺合させることで、ハーメチックプレート52を端壁7A(隔壁)に取り付ける。そして、インバータケース8はその後ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)に取り付けられる。即ち、ハーメチックプレート52は端壁7A(隔壁)のインバータ収容部13側に取り付けられる。
【0050】
この状態で、シール材76は三本のハーメチックピン53及び三箇所の貫通孔73の周囲を囲繞するようにハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)との間に介設され、ハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)の双方に密接し、それらの間をシールする。また、インバータケース8がステータハウジング7の端壁7Aに取り付けられた状態で、ハーメチックプレート52とハーメチックピン53は、インバータケース8の開口54内に位置してインバータ収容部13内に臨む。
【0051】
そして、各ハーメチックピン53は各貫通孔73を通過し、インバータ収容部13からモータ室12に渡って設けられたかたちとなり、インシュレータ66が取り付けられた部分の各ハーメチックピン53はモータ室12内に突出し、反対側の部分はインバータ収容部13内において起立する。
【0052】
このように設けられた各ハーメチックピン53のモータ室12側の先端部には、モータ2のステータ25のコイルに接続された高電圧コネクタ62が電気的に接続される(図1)。このとき、各インシュレータ66の一部は図2に示す如く高電圧コネクタ62内に入り、各ハーメチックピン53を相互に絶縁する。
【0053】
また、回路基板51はその後インバータ収容部13内に取り付けられるが、このとき、各ハーメチックピン53のインバータ収容部13側の先端部に対応する位置の回路基板51には、パワーバスケットと称される金属製のプレスフィット端子56を三個取り付けておく(図1)。そして、回路基板51がインバータ収容部13内に取り付けられるとき、各ハーメチックピン53のインバータ収容部13側の先端部が各プレスフィット端子56内にそれぞれ進入し、当該プレスフィット端子56に圧接(プレスフィット)される。これにより、各ハーメチックピン53は回路基板51に電気的に接続され、ハーメチックピン53を介して回路基板51とモータ2が接続されることになる。
【0054】
以上詳述した如く、本発明では各ハーメチックピン53のモータ室12側に位置する部分の周囲に、それぞれ個別にインシュレータ66を取り付け、更に、三本のハーメチックピン53及び端壁7A(隔壁)の三つの貫通孔73の周囲を囲繞するように、ハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)との間にシール材74を介設したので、ハーメチックプレート52を端壁7A(隔壁)のインバータ収容部13側に取り付ける際に、ハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)間をシールするシール材76の位置を、一体化されたインシュレータを用いた場合(図7)に比して図6に示すように内側に寄せ、その大きさを縮小することができるようになる。
【0055】
これにより、貫通孔73を介してモータ室12側の圧力を受けるハーメチックプレート52の受圧面積(ハーメチックプレート52の一面に圧力が加わる面積。図6のAで示す領域)を縮小し、ハーメチックプレート52の変形を抑制することができるようになる。また、シール材76自体を透過する漏れも少なくすることができるようになるので、総じてハーメチックプレート52と端壁7A(隔壁)間のシール性を著しく改善することができるようになる。
【0056】
また、実施例ではインシュレータ66を、ガラス64よりもモータ室12側となるハーメチックピン66の周囲に圧接して取り付けているので、シール材76をより一相内側に寄せてハーメチックプレート52の受圧面積Aの縮小を図ることが可能となる。
【0057】
また、実施例ではハーメチックプレート52のモータ室12側となる面の透孔63周囲に各ハーメチックピン53に取り付けられたインシュレータ66に対応する凹部67をそれぞれ形成し、各インシュレータ66とハーメチックプレート52との間に位置する絶縁レジン68を各凹部67内に塗布しているので、ハーメチックピン53がハーメチックプレート52を貫通するモータ室12側の部分のシール性と絶縁性を一相改善することができるようになる。
【0058】
更に、実施例ではハーメチックプレート52のモータ室12側となる面とは反対側の面の透孔63周囲に凸部69をそれぞれ形成し、各凸部69を覆うかたちでシリコン部材71を塗布しているので、インバータ収容部13側のハーメチックピン66周辺の絶縁性とシール性も改善することができるようになる。
【0059】
尚、実施例ではハーメチックピン53が三本設けられる構造で説明したが、それに限らず、モータ2の相が更に多い場合には、それに応じて更に多くのハーメチックピンが設けられることになる。また、実施例で示した各部材の具体的形状は、それに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。更に、実施例ではスクロール式電動圧縮機で本発明を説明したが、それに限らず、ロータリ式等の各形式の電動圧縮機に本発明は有効である。
【符号の説明】
【0060】
1 電動圧縮機
2 モータ
3 インバータ
4 スクロール圧縮機構
7 ステータハウジング
7A 端壁(隔壁)
8 インバータケース
11 ハウジング
12 モータ室
13 インバータ収容部
51 回路基板
52 ハーメチックプレート
53 ハーメチックピン
56 プレスフィット端子
62 高電圧コネクタ
63 透孔
64 ガラス
66 インシュレータ
67 凹部
68 絶縁レジン
69 凸部
71 シリコン部材
73 貫通孔
76 シール材
77 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7