(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060659
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】高分子分散剤、セルロースファイバー樹脂組成物、及びその検査方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20240425BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240425BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240425BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L23/00
C08L101/12
C08F265/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168061
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BB001
4J002BP033
4J002FD012
4J002FD203
4J002GC00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J026HA01
4J026HA11
4J026HA22
4J026HA32
4J026HA38
4J026HA43
4J026HB01
4J026HB11
4J026HB22
4J026HB32
4J026HB38
4J026HB45
(57)【要約】 (修正有)
【課題】疎水性媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーを効果的に分散させることができ、その分散状態を容易に観察可能な高分子分散剤を提供する。
【解決手段】セルロースファイバーをオレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散させるために用いる高分子分散剤であり、下記一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-2)を有するB鎖を含むA-Bブロックコポリマーである。
(R
1はCH
2CH
2等を示し、R
2は炭素数2~18のアルキレン基等を示し、R
3~R
6は水素原子等を示し、R
7及びR
8は水素原子等を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースファイバーをオレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散させるために用いる高分子分散剤であって、
下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである高分子分散剤。
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、A鎖及びB鎖を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
前記A鎖が、炭素数1~18のアルキルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(A-1)を有し、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.5未満である。
[要件(3)]:
前記B鎖が、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピロメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び2,3-ヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-1)と、下記一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-2)と、を有し、前記構成単位(B-1)の含有量が80~99.5質量%であり、前記構成単位(B-2)の含有量が0.5~5質量%であり、数平均分子量が3,000~10,000である。
(前記一般式(1)中、R
1は、CH
2CH
2又はCH
2CH
2OCH
2CH
2を示し、R
2は、炭素数2~18のアルキレン基又はシクロアルキレン基を示し、R
3~R
6は、相互に独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基を示し、R
7及びR
8は、相互に独立に、水素原子又はメチル基を示す)
【請求項2】
前記蛍光色素メタクリレートが、下記式(1A)で表される請求項1に記載の高分子分散剤。
【請求項3】
オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び前記熱可塑性樹脂中に前記セルロースファイバーを分散させる、請求項1又は2に記載の高分子分散剤を含有し、
前記セルロースファイバーの含有量が、1~30質量%であり、
前記高分子分散剤の含有量が、前記セルロースファイバー100質量部に対して、10~100質量部であるセルロースファイバー樹脂組成物。
【請求項4】
セルロースファイバー樹脂組成物に可視光線又は紫外線を照射して発生させた蛍光により、前記セルロースファイバー樹脂組成物中における前記セルロースファイバーの分散状態を確認する工程を有し、
前記セルロースファイバー樹脂組成物が、オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び前記熱可塑性樹脂中に前記セルロースファイバーを分散させる、請求項1又は2に記載の高分子分散剤を含有するセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子分散剤、セルロースファイバー樹脂組成物、及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースはすべての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積がある。また、セルロースは植樹によって再生可能な資源であることから、有効活用が望まれている。そして、近年、熱可塑性樹脂中に分散状態で含有させるフィラーとして、バイオマス材料であるセルロースファイバーを用いることが検討されている。なかでも、セルロースファイバーを解繊処理して得られるセルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)が軽量かつ高強度な材料として注目されており、CNFを用いた様々な材料が開発されている。
【0003】
例えば、樹脂等のマトリックス中にCNFをフィラーとして分散状態で含有させることで、機械的強度を向上させたCNF補強材料が開発されている。CNFは水酸基を豊富に有するので、親水性であるとともに極性が強い。このため、CNFには、疎水性で極性の弱いオレフィン系の熱可塑性樹脂との相溶性に劣るといった側面がある。そこで、化学処理によるCNFの表面改質や官能基導入等によって、オレフィン系の熱可塑性樹脂との相溶性を向上させることが検討されている。
【0004】
例えば、バクテリアセルロースの水酸基をアセチル基やメタクリロイル基等の官能基で化学修飾した強化材にマトリックス材料を含浸させた繊維強化複合材料が提案されている(特許文献1)。しかし、バクテリアセルロースを利用する点、及びマトリックス材料を含浸させて複合材料を製造する点において、さほど工業化に適しているとはいえない。
【0005】
また、その表面にポリメタクリル酸メチルやポリスチレン等の樹脂をグラフトして疎水性を高めたセルロースファイバーを、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレン等のマトリックスに含有させた繊維強化複合材料が提案されている(特許文献2)。しかし、グラフトしたポリメタクリル酸メチル等の樹脂はオレフィン系の熱可塑性樹脂と相溶しにくい。このため、オレフィン系の熱可塑性樹脂をマトリックスとして用いる場合に十分な補強効果が得られるか否か定かではない。
【0006】
ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系の熱可塑性樹脂は、脂肪族炭化水素系の樹脂として広く利用されている。オレフィン系の熱可塑性樹脂は、他の樹脂と比較して低密度であるとともに軽量である。このため、オレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーやCNFを良好な分散状態で分散させることができれば、軽量かつ高強度な複合材料を得ることができる。しかし、前述の通り、セルロースファイバー等は多数の水酸基を有するために親水性が高く、脂肪族炭化水素系の樹脂等の疎水性媒体中に分散させることは困難である。また、CNFを化学変性処理して疎水化した場合であっても、オレフィン系の疎水性媒体中への分散性を十分に高めることは困難であった。
【0007】
これに対して、化学変性処理することなく、高分子分散剤を用いてポリエチレン等の樹脂中へのセルロースファイバー等の分散性を高めたセルロース組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-51266号公報
【特許文献2】特許第5188765号公報
【特許文献3】特許第5825653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、セルロースファイバーやCNFは高分子分散剤で処理した場合であっても著しく凝集しやすく、樹脂中に分散させるのに多大なエネルギーや時間を要する場合があった。また、混合及び混練時の熱によって、セルロースファイバー等に吸着した高分子分散剤が外れてしまうことがある。高分子分散剤が外れたセルロースファイバー等は水素結合によって再度強く凝集するので、マトリックスとなるオレフィン系の熱可塑性樹脂の全体に拡散した状態で分散させることができず、十分に補強された複合材を得ることは困難であった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、疎水性媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーを効果的に分散させることができるとともに、熱可塑性樹脂中におけるセルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能な高分子分散剤を提供する。
【0011】
また、本発明の課題とするところは、疎水性媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーが良好な分散状態で分散されているとともに、セルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能なセルロースファイバー樹脂組成物を提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、オレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散したセルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能なセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下に示す高分子分散剤が提供される。
[1]セルロースファイバーをオレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散させるために用いる高分子分散剤であって、下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである高分子分散剤。
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、A鎖及びB鎖を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
前記A鎖が、炭素数1~18のアルキルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(A-1)を有し、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.5未満である。
[要件(3)]:
前記B鎖が、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピロメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び2,3-ヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-1)と、下記一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-2)と、を有し、前記構成単位(B-1)の含有量が80~99.5質量%であり、前記構成単位(B-2)の含有量が0.5~5質量%であり、数平均分子量が3,000~10,000である。
【0013】
(前記一般式(1)中、R
1は、CH
2CH
2又はCH
2CH
2OCH
2CH
2を示し、R
2は、炭素数2~18のアルキレン基又はシクロアルキレン基を示し、R
3~R
6は、相互に独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基を示し、R
7及びR
8は、相互に独立に、水素原子又はメチル基を示す)
【0014】
[2]前記蛍光色素メタクリレートが、下記式(1A)で表される前記[1]に記載の高分子分散剤。
【0015】
【0016】
また、本発明によれば、以下に示すセルロースファイバー樹脂組成物が提供される。
[3]オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び前記熱可塑性樹脂中に前記セルロースファイバーを分散させる、前記[1]又は[2]に記載の高分子分散剤を含有し、前記セルロースファイバーの含有量が、1~30質量%であり、前記高分子分散剤の含有量が、前記セルロースファイバー100質量部に対して、10~100質量部であるセルロースファイバー樹脂組成物。
【0017】
さらに、本発明によれば、以下に示すセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法が提供される。
[4]セルロースファイバー樹脂組成物に可視光線又は紫外線を照射して発生させた蛍光により、前記セルロースファイバー樹脂組成物中における前記セルロースファイバーの分散状態を確認する工程を有し、前記セルロースファイバー樹脂組成物が、オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び前記熱可塑性樹脂中に前記セルロースファイバーを分散させる、前記[1]又は[2]に記載の高分子分散剤を含有するセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、疎水性媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーを効果的に分散させることができるとともに、熱可塑性樹脂中におけるセルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能な高分子分散剤を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、疎水性媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーが良好な分散状態で分散されているとともに、セルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能なセルロースファイバー樹脂組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、オレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散したセルロースファイバーの分散状態を容易に観察することが可能なセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法を提供することができる。
【0020】
本発明のセルロースファィバー樹脂組成物は、オレフィン系の熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーが良好な分散状態で分散しているため、セルロースファイバーのフィラーとしての補強効果が有効に発揮されている。このため、本発明のセルロースファイバー樹脂組成物を用いることで、強度及び靭性等に優れた成形物を製造することができる。また、セルロースファイバーの分散状態を容易に確認することができるため、品質検査精度を向上させることができるとともに、強度向上の機構解明等の技術面にも応用可能である。さらに、蛍光を発することから、セキュリティー用途及び偽造防止用途としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す偏光顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図5】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図6】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図7】実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1の表面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図8】実施例2のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【
図9】実施例3のセルロースファイバー樹脂組成物-1の切断面の微構造を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<高分子分散剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。分散媒体であるオレフィン系の熱可塑性樹脂との相溶性を有する部位を持った高分子分散剤でセルロースファイバーやセルロースナノファイバー(以下、これらを纏めて、単に「セルロースファイバー」とも記す)を処理することで、セルロースファイバーをオレフィン系熱可塑性樹脂に分散させることは可能である。しかし、セルロースファイバーに対する高分子分散剤の吸着性が高くないと、高温条件下での混錬分散処理によって高分子分散剤がセルロースファイバーから脱離してセルロースファイバーが凝集してしまい、熱可塑性樹脂中への分散性が不良となる。したがって、セルロースファイバーに強く吸着するとともに、高温条件下で分散処理してもセルロースファイバーから脱離しにくくするために、高分子分散剤中のセルロースファイバーに吸着する部位が、熱可塑性樹脂との相溶性が高くない(非相溶性である)ことが重要である。
【0023】
このように、高分子分散剤は、セルロースファイバーに吸着する部位と、熱可塑性樹脂との相溶性を示す部位とを有することが必要であるとの推測の下、本発明者らは、本発明の構成を見出した。すなわち、本発明の高分子分散剤の一実施形態は、セルロースファイバーをオレフィン系の熱可塑性樹脂中に分散させるために用いる高分子分散剤である。そして、本実施形態の高分子分散剤は、下記要件(1)~(3)を満たすポリマーである。
【0024】
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、A鎖及びB鎖を含むA-Bブロックコポリマーである。
[要件(2)]:
A鎖が、炭素数1~18のアルキルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(A-1)を有し、数平均分子量が3,000~10,000であり、分子量分布が1.5未満である。
[要件(3)]:
B鎖が、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピロメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び2,3-ヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-1)と、一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-1)と、を有し、構成単位(B-1)の含有量が80~99.5質量%であり、構成単位(B-2)の含有量が0.5~5質量%であり、数平均分子量が3,000~10,000である。
【0025】
(前記一般式(1)中、R
1は、CH
2CH
2又はCH
2CH
2OCH
2CH
2を示し、R
2は、炭素数2~18のアルキレン基又はシクロアルキレン基を示し、R
3~R
6は、相互に独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基を示し、R
7及びR
8は、相互に独立に、水素原子又はメチル基を示す)
【0026】
(要件(1))
本実施形態の高分子分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上、好ましくは100質量%である、A鎖及びB鎖を含むA-Bブロックコポリマーである。本実施形態の高分子分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位のみで実質的に構成されたポリマーであることから、ガラス転移温度が比較的高くなるように設計することができる。また、本実施形態の高分子分散剤を製造するための重合方法では、メタクリル酸系モノマーを用いることが適しており、特殊なブロック構造を容易に形成することができる。メタクリル酸系モノマー以外のその他のモノマーとしては、スチレン系モノマー、アクリレート系モノマー、ビニルアルカン酸エステルモノマー、及びビニルアミド系モノマー等を用いることができる。なお、本実施形態の高分子分散剤は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が実質的に100質量%のA-Bブロックコポリマーであることが好ましい。
【0027】
(要件(2))
A-Bブロックコポリマーは、熱可塑性樹脂と相溶しやすい部位であるA鎖と、セルロースファイバーに吸着するが熱可塑性樹脂と相溶しにくい部位であるB鎖と、を有する。A鎖は、炭素数1~18のアルキルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(A-1)を有する。炭素数1~18のアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、及びオクタデシルメタクリレート等を挙げることができる。構成単位(A-1)を有するA鎖は、オレフィン系の熱可塑性樹脂との相溶性を示す。
【0028】
A鎖の数平均分子量(Mn)は3,000~10,000、好ましくは3,500~9,500である。本明細書におけるポリマーの数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)やジメチルホルムアミド(DMF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算又はポリメチルメタクリレート換算の値である。A鎖の数平均分子量が3,000未満であると、熱可塑性樹脂との相溶性が低下するとともに、立体障害によりセルロースファイバーの分散安定性を維持することが困難になる場合がある。一方、A鎖の数平均分子量が10,000超であると、熱可塑性樹脂との相溶性がかえって低下するとともに、A-Bブロックコポリマーの性質によって熱可塑性樹脂の特性が損なわれる場合がある。
【0029】
A鎖の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)、以下、「PDI」とも記す)は、1.5未満、好ましくは1.05~1.3である。即ち、A鎖は、分子量が比較的揃ったポリマー鎖である。分子量分布が広い(PDIの値が大きすぎる)と、前述の数平均分子量の範囲外の分子鎖を多く含む場合があるので、熱可塑性樹脂との相溶性が低下したり、熱可塑性樹脂の特性が損なわれたりする場合がある。
【0030】
(要件(3))
B鎖は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピロメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び2,3-ヒドロキシプロピルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-1)を有する。B鎖は、水酸基を有するメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位であることから、セルロースファイバーの水酸基と水素結合して吸着しうるポリマーブロックである。B鎖中の構成単位(B-1)の含有量は80~99.5質量%である。B鎖中の構成単位(B-1)の含有量が80質量%未満であると、B鎖が熱可塑性樹脂と相溶しやすくなることがあり、セルロースファイバーを熱可塑性樹脂中に分散させる熱混錬時に高分子分散剤がセルロースファイバーから脱離しやすくなる。
【0031】
B鎖は、下記一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-2)をさらに有する。
【0032】
(前記一般式(1)中、R
1は、CH
2CH
2又はCH
2CH
2OCH
2CH
2を示し、R
2は、炭素数2~18のアルキレン基又はシクロアルキレン基を示し、R
3~R
6は、相互に独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基を示し、R
7及びR
8は、相互に独立に、水素原子又はメチル基を示す)
【0033】
B鎖を構成単位(B-1)のみで構成すると、セルロースファイバーとの吸着が水素結合だけになるため、吸着性が不足する。そこで、一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートを用いることで、セルロースを染色しうる蛍光色素の骨格をA-Bブロックコポリマーに導入することができる。蛍光色素の骨格でセルロースファイバーを染色すると、セルロースファイバーとB鎖との親和性を高め、セルロースファイバーへのB鎖の吸着性を向上させることができる。さらに、イオン性を示す高極性の蛍光色素骨格を導入することで、B鎖の熱可塑性樹脂との相溶性をさらに低減させることができる。
【0034】
一般式(1)中の蛍光色素の骨格は、キサンテン染料やローダミン等の色素骨格である。より具体的には、ローダミン6GやローダミンB等の蛍光色素の骨格である。蛍光染料の対イオンとしては、通常、ハロゲン化物イオンが用いられる。これに対して、本実施形態の高分子分散剤であるA-BブロックコポリマーのB鎖に導入する構成単位(B-1)では、耐熱性及び疎水性付与等の観点から、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)イオンを対イオンとする。さらに、TFSIイオンを対イオンとすることで、重合時に用いる有機溶剤に対する蛍光色素メタクリレートの溶解性が向上し、構成単位(B-1)の導入効率を向上させることができる。
【0035】
蛍光色素メタクリレートは、下記式(1A)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
【0037】
式(1A)で表される化合物の蛍光色素の骨格は、ローダミン6Gである。このため、原材料の入手、合成、及び精製等が容易である。また、特定波長の波長を吸収して蛍光を発するので、後述する本発明の検査方法に適している。この蛍光色素は、テトラヒドロフランを溶媒とした場合に極大波長526nmに吸収を有する。そして、400~560nmの波長光を照射することで、550nmの蛍光を発するので、所定の検出装置を用いることで蛍光を効率よく確認することができる。
【0038】
蛍光色素メタクリレートは、従来公知の方法で合成することができる。例えば、エタノール中、ローダミン6Gと、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びデカンジアミン等のジアミン類とを反応させて、第1級アミンを導入する。精製後、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート又はメタクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネートを反応させてメタクリレートとする。次いで、塩酸酸性条件下、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いてイオン交換することで、一般式(1)で表される蛍光色素メタクリレートを得ることができる。
【0039】
B鎖中の構成単位(B-2)の含有量は0.5~5質量%、好ましくは1~3質量%である。B鎖中の構成単位(B-2)の含有量が0.5質量%未満であると、セルロースファイバーへの吸着性が不十分になる。一方、B鎖中の構成単位(B-2)の含有量が5質量%超であると、B鎖の溶解性が低下するとともに、蛍光が強くなりすぎることがある。また、蛍光色素メタクリレートは分子量が大きいので、重合率が低下しやすく、残存しやすくなることがある。
【0040】
B鎖の数平均分子量(Mn)は3,000~10,000、好ましくは5,000~9,000である。B鎖の数平均分子量は、A-Bブロックコポリマー全体の数平均分子量から、A鎖の数平均分子量を引いた値である。B鎖の数平均分子量が3,000未満であると、セルロースファイバーへの吸着性が不足し、熱可塑性樹脂中におけるセルロースファイバーの分散性が低下する。一方、B鎖の数平均分子量が10,000超であると、熱可塑性樹脂と相溶性を有しない部分が大きくなりすぎてしまい、A鎖があったとしても、A-Bブロックコポリマー全体として熱可塑性樹脂と馴染みにくくなる場合がある。なお、B鎖の数平均分子量は、A鎖の数平均分子量とほぼ同等であるか、又はA鎖の数平均分子量よりも大きいことが好ましい。
【0041】
(高分子分散剤の製造方法)
高分子分散剤はA-Bブロックコポリマーであるため、例えば、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、及びリビングラジカル重合法等の重合法によって製造することができる。なかでも、リビングラジカル重合法は、新規設備や高純度の原料を必要とせず、特殊な重合条件も必要としないために好ましい。リビングラジカル重合法としては、ニトロキサイド化合物を使用するニトロキサイド法;銅等の金属錯体の酸化還元を利用する原子移動ラジカル重合法;ジチオエステルやジチオカーボネートを使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法;有機テルルを使用するTERP法;ヨウ素化合物を開始化合物とするヨウ素移動重合法;有機触媒を使用する可逆的移動触媒重合法(RTCP法);可逆的触媒媒介重合法(RCMP法);等がある。なかでも、官能基を保護する必要がなく、汎用の市販材料を使用することができるとともに、従来公知の設備や重合条件でブロックコポリマーを製造しうる、RTCP法やRCMP法が好ましい。RTCP法及びRCMP法においては、通常、第3級のラジカルとなるメタクリレートをモノマーとして用いることがリビング性及びブロック効率の観点で好ましい。したがって、メタクリレート系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含むA-Bブロックコポリマーである本実施形態の高分子分散剤を製造する方法として、RTCP法及びRCMP法は好適である。
【0042】
A鎖とB鎖のいずれを先に重合してもよい。なかでも、A鎖を先に重合することが、オレフィン系の熱可塑性樹脂との相溶性を高めやすいために好ましい。
【0043】
溶液重合によってA-Bブロックコポリマーを重合することが好ましい。溶液重合の場合、有機溶剤を用いて重合して得られた溶液のまま、セルロースファイバー樹脂組成物を製造してもよい。また、得られた溶液中の有機溶剤を揮発させて、固体のA-Bブロックコポリマーを取り出してもよく、貧溶剤に析出させた後、ろ過及び乾燥して固体のA-Bブロックコポリマーを取り出してもよい。さらに、貧溶剤に析出させた後、ろ過及び水で洗浄して、A-Bブロックコポリマーの水ペーストを得ることもできる。
【0044】
重合時に用いた有機溶剤を揮発させる場合、沸点の低い(例えば、150℃以下)有機溶剤を用いることが好ましい。貧溶剤に析出させる場合の貧溶剤としては、水を用いることが好ましく、重合用の有機溶剤としては水溶性の有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤としては、グリコール系溶剤やアミド系溶剤が好ましい。有機溶剤の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチルピロリドン、及び3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。
【0045】
<セルロースファイバー樹脂組成物>
本発明のセルロースファイバー樹脂組成物の一実施形態は、オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーを分散させる、前述の高分子分散剤を含有する。
【0046】
(熱可塑性樹脂)
オレフィン系の熱可塑性樹脂(以下、単に「熱可塑性樹脂」とも記す)としては、従来公知のオレフィン(ポリオレフィン)系の熱可塑性樹脂を用いることができる。ポリオレフィンは、通常、不飽和炭化水素系モノマーの重合物であり、低極性の炭化水素系ポリマーである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリヘキセン、ポリα-オレフィン、ポリシクロオレフィン、これらを構成するモノマーを使用したランダム構造やブロック構造の共重合体等を挙げることができる。植物由来の原料を使用したバイオポリエチレン等を用いることも好ましい。さらに、これらのポリオレフィンを構成するモノマーを共重合成分として含むポリマーであってもよい。例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、及びスチレン・ブタジエン共重合体等を挙げることができる。さらに、ポリオレフィンを化学変性したポリオレフィン、例えば、ポリプロピレンの無水マレイン酸グラフト化物等を用いることができる。
【0047】
(セルロースファイバー)
セルロースファイバーとしては、従来公知のセルロースファイバーを用いることができる。例えば、その平均繊維径が5nm~1,000μmであり、平均繊維長が100nm~10,000μmである、ナノサイズ径の繊維であるセルロースナノファイバーからミクロンサイズのセルロースファイバーを用いることができる。また、パルプを解繊してセルロースファイバーを製造するともに、製造したセルロースファイバーをそのまま熱可塑性樹脂中に分散させてもよい。すなわち、セルロースファイバーとしてパルプ自体を用いることもできる。
【0048】
セルロースファイバーの原料となるパルプ(植物繊維)としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、及び布等の天然植物原料から得られる天然セルロース;紙、レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等を挙げることができる。木材としては、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を挙げることができる。紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等を挙げることができる。パルプの主成分であるリグノセルロースは、主としてセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成されるとともに、各々が結合して植物繊維を形成している。リグノセルロースを含む植物繊維を機械処理や化学処理してヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることでパルプを得ることができる。また、必要に応じて漂白処理したり、脱リグニン量を調整したりすることで、得られるパルプのリグニン量を制御することができる。
【0049】
パルプとしては、植物繊維を機械処理又は化学処理して得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP);これらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプなどを挙げることができる。なかでも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、通常、0~40質量%、好ましくは0~10質量%である。パルプ中のリグニン含有量は、Klason法により測定することができる。
【0050】
セルロースファイバーとして、ミクロンサイズの径を有するセルロースファイバーを用いることができる。平均繊維径が0.3~50μm、平均繊維長が5~2,000μm、平均アスペクト比が2~100の粒子、毛玉状、綿状のセルロースファイバーを用いることができる。このようなセルロースファイバーは、工業的、産業的に容易に得られるセルロースファイバーであり、セルロースナノファイバーのように特殊な解繊工程や処理工程を経ない安価な材料である。
【0051】
さらに、セルロースファイバーとして、その平均繊維径が4~500nmのナノセルロースを用いることもできる。このようなナノセルロースを用いることで、熱可塑性樹脂中にナノサイズのレベルでフィラーとして機能するセルロースを分散させることが可能であり、セルロースファイバーの高度な強度及び補強効果を十分に発揮させることができる。
【0052】
ナノセルロースは、木材パルプ等のセルロースを含む材料をナノサイズのレベルにまで解きほぐして(解繊処理して)得ることができる。植物の細胞壁中では、幅4nm程度のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。ナノセルロースは、セルロースミクロフィブリル、又はセルロースミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースファイバーである。
【0053】
ナノセルロースのうち、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロースを機械的解繊等することで得られるナノサイズの径の繊維である。CNFの繊維幅は4~500nm程度であり、繊維長は1μm程度以上である。CNFの比表面積は、70~300m2/gであることが好ましく、70~250m2/gであることがさらに好ましく、100~200m2/gであることが特に好ましい。比表面積の大きいCNFを熱可塑性樹脂中に分散させると、熱可塑性樹脂との接触面積を大きくすることができ、強度が向上した樹脂組成物とすることができる。なお、CNFの比表面積が極端に大きいと、樹脂組成物中で凝集しやすくなり、樹脂組成物の強度がやや不足することがある。CNFの繊維径は、通常4~500nm、好ましくは4~300nm、さらに好ましくは4~100nmである。CNFを含むセルロースファイバーの繊維径の平均値(平均繊維径、平均繊維長、平均結晶幅、平均結晶長)は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの50本以上について測定した値の平均値である。
【0054】
ナノセルロースは、比表面積が大きく、鋼鉄に比して軽量であるとともに強度も高い。ナノセルロースは、ガラスに比して低熱膨張であり、熱変形が小さい。ナノセルロースとしては、セルロースI型結晶を有するとともに、その結晶化度が50%以上であるものが好ましく、55%以上であるものがさらに好ましく、60%以上であるものが特に好ましい。ナノセルロースのセルロースI型の結晶化度は、通常95%以下であり、好ましくは90%以下である。
【0055】
セルロースファイバーとして、表面処理されているセルロースファイバーを用いてもよい。具体的には、その表面の水酸基が化学修飾されたセルロースファイバーを用いることができる。より具体的には、有機化合物等を用いてエステル化、エーテル化、及びカルボキシ化等されたセルロースファイバーを用いることができる。エステル化したセルロースファイバーは、セルロースファイバーの水酸基にドデセニルコハク酸無水物等の無水物を反応させて得られるエステル化物である。エーテル化したセルロースファイバーは、フルオロセイン基等がセルロースファイバーにエーテル結合したエーテル化物である。カルボキル化したセルロースファイバーは、セルロースファイバーの水酸基がTEMPOで酸化されてカルボキシ基となったカルボキシ化物である。
【0056】
セルロースファイバーは、乾燥物、水ペースト、及び有機溶剤を含有するペーストのいずれであってもよい。水ペーストの場合、セルロースファイバー同士が凝集しにくく、分散性が良好である。例えば、セルロースファイバーの水ペーストを熱可塑性樹脂と溶融混合するとともに、水を除去することで、セルロースファイバーを熱可塑性樹脂中に分散させることができる。
【0057】
セルロースファイバー樹脂組成物中のセルロースファイバーの含有量は、樹脂組成物全体を基準として、1~30質量%であり、好ましくは5~20質量%である。セルロースファイバーの含有量が1質量%未満であると、セルロースファイバーによる補強効果が発揮されなくなる場合がある。一方、セルロースファイバーの含有量が30質量%超であると、セルロースファイバーが十分に分散されず、ブツが生じたり、凝集物が多く発生したりする場合がある。
【0058】
セルロースファイバー樹脂組成物中の高分子分散剤の含有量は、セルロースファイバー100質量部に対して、10~100質量部であり、好ましくは10~50質量部である。高分子分散剤の含有量が、セルロースファイバー100質量部に対して10質量部未満であると、高分子分散剤の分散剤としての機能が十分に発揮されない場合がある。一方、高分子分散剤の含有量が、セルロースファイバー100質量部に対して100質量部超であると、高分子分散剤の量が多くなりすぎてしまい、高分子分散剤のポリマーとしての性質が出てしまい、セルロースファィバー樹脂組成物の物性が低下する場合がある。
【0059】
(添加剤)
セルロースファイバー樹脂組成物には、各種の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、酸化防止剤、核剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、蛍光増白剤、フィラー、無機充填剤、発泡剤、発泡助剤、可塑剤、架橋剤、相溶化剤、帯電防止剤、難燃剤、及び顔料等を挙げることができる。
【0060】
(セルロースファイバー樹脂組成物の製造方法)
固形のセルロースファイバー、高分子分散剤、及び熱可塑性樹脂をタンブラーミキサーやバンバリーミキサー等で予備混合した後、ニーダー、多軸混錬機、及び三本ロール等の分散機で混錬することで、セルロースファイバーを熱可塑性樹脂中に分散させて、目的とするセルロース樹脂組成物を得ることができる。加工温度は、熱可塑性樹脂の加工温度に応じて設定すればよく、例えば、100~200℃で混錬することができる。高分子分散剤は、固形の場合にはそのまま使用すればよい。一方、高分子分散剤を水ペーストや溶液の状態で用いる場合、水や有機溶剤を除去しながら十分に混錬する。高分子分散剤は、蛍光色素が結合したポリマーであるため、上記の加工温度で混錬しても実質的にブリードや溶出することがない。また、蛍光色素は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを対イオンとすることから、上記の加工温度で混錬しても蛍光色素が実質的に劣化せず、耐熱性に優れている。
【0061】
通常、固形のセルロースファイバーは凝集しているため、熱可塑性樹脂中に分散させるには多くの時間及びエネルギーを要する場合がある。このため、パルプを水に浸漬させて調製した水ペースト、水懸濁液、又は水スラリーを、ディスパー、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸混錬機、二軸混錬機、多軸混練機、及びビーズミル等を使用して機械的に摩砕又は叩解し、水性媒体中でパルプをセルロースファイバー化して、セルロースファイバー水混合物を得ることが好ましい。乾燥物である粉状、綿状、又は毛玉状等の形状のセルロースファイバーを用いる場合は、ディスパーや分散機等でセルロースファイバーを混合及び撹拌し、セルロースファイバーの形状をほぐして水中に分散させて、セルロースファイバー水混合物を得ることができる。さらに、分散機等を使用して得られたセルロースファイバー水混合物を分散処理し、セルロースファイバーをナノレベルまで解繊することで、ナノ化されたセルロースファイバー水混合物得ることができる。
【0062】
セルロースファイバー水混合物、高分子分散剤、及び熱可塑性樹脂を加熱条件下で混錬し、水や有機溶剤を除去しつつセルロースファイバーを分散させることで、セルロースファイバー樹脂組成物を得ることができる。例えば、まず、セルロースファイバー水混合物に、好ましくは粉状の熱可塑性樹脂をセルロースファイバーが10~50質量%となるように添加した後、ろ過して不揮発分60~80質量%に調整する。次いで、高分子分散剤の溶液を添加した後、乾燥させて、セルロースファイバー、高分子分散剤、及び熱可塑性樹脂を含有するプレ組成物を得る。その後、得られたプレ組成物に、熱可塑性樹脂及び必要に応じて用いられる尿素等の分散助剤を添加するとともに、揮発分を除去しつつ混錬機を使用して分散処理することで、目的とするセルロースファイバー樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
(セルロースファイバー樹脂組成物の使用)
従来公知の成形方法によってセルロースファイバー樹脂組成物を成形することで、目的に応じた成形物を得ることができる。成形方法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧空成形法、回転成形法、及びフィルム成形法等を挙げることができる。セルロースファイバー樹脂組成物は、例えば、自動車、家電、電子部材、ディスプレイ材料、建築物、容器、フィルム、電池、トレイ等の構成材料として有用である。また、本実施形態のセルロースファイバー樹脂組成物は蛍光を発することから、偽造防止、セキュリティー用途、意匠用途、潜在画像表現等に使用することができる。
【0064】
<セルロースファイバー樹脂組成物の検査方法>
本発明のセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法は、セルロースファイバー樹脂組成物に可視光線又は紫外線を照射して発生させた蛍光により、セルロースファイバー樹脂組成物中におけるセルロースファイバーの分散状態を確認する工程を有する。そして、このセルロースファイバー樹脂組成物が、オレフィン系の熱可塑性樹脂、セルロースファイバー、及び熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーを分散させる前述の高分子分散剤を含有する。
【0065】
前述の高分子分散剤は、蛍光色素メタクリレートに由来する構成単位(B-2)を有するB鎖を含むA-Bブロックコポリマーであり、このB鎖はセルロースファイバーに吸着する部位(ポリマーブロック)である。このような高分子分散剤がセルロースファイバーに吸着しているので、セルロースファイバー樹脂組成物に可視光線又は紫外線を照射すると蛍光が発せられる。発生した蛍光を観察することで、熱可塑性樹脂中にセルロースファイバーがどのように分散しているか確認することができる。
【0066】
例えば、セルロースファイバー樹脂組成物をフィルム状又はペレット状に成形した成形物に、可視光線又は紫外線を照射する装置を使用して可視光線又は紫外線を照射し、発生した蛍光を観察する。紫外線を照射する装置としては、例えば、254nm、350~400nm等の波長の紫外線を発光する光源、ブラックライト、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDライト等を挙げることができる。また、ハンディータイプの装置を用いることも好ましい。
【0067】
なかでも、紫外線を照射する装置として、蛍光顕微鏡を使用することが好ましい。蛍光顕微鏡には、通常、光源から特定の波長域の光を通す蛍光フィルターである「励起フィルター」、及び試料から発せられた蛍光のなかから観察に必要な光を透過させる「吸収フィルター」が装着されている。そして、微細なセルロースファイバーの分散度合い、配向、及び分布等を顕微鏡によって観察することができる。また、ディスク型蛍光顕微鏡、共焦点レーザースキャン蛍光顕微鏡、超解像顕微鏡、及び走査型X線蛍光顕微鏡等の装置を使用することもできる。
【0068】
これらの装置を使用して、セルロースファイバー樹脂組成物中のセルロースファイバーの分散状態を観察することができる。蛍光色素は、単分子の状態で組成物中に含まれているのではなく、ポリマーの構成単位中に含まれているので、観察中にブリートアウトすることがなく、セルロースファイバーの分散状態を明確に観察することができる。セルロースファイバーの形状や、セルロースファイバーの熱可塑性樹脂中での分散度、分布、及び配向度合等を明確に観察できるので、組成物中におけるセルロースファイバーの補強効果や品質確認等の検査に有用である。また、本実施形態のセルロース樹脂組成物の検査方法は、セルロースファイバー組成物の製品としての信頼性の向上及び品質安定化に寄与するとともに、セルロース樹脂組成物の品質を検査する方法として有用である。さらに、本実施形態のセルロースファイバー樹脂組成物の検査方法は、セキュリティー分野や偽造防止分野での活用が大いに期待される。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0070】
<蛍光色素メタクリレートの製造>
(製造例1)
ローダミン6G 47部、エタノール400部、及びエチレンジアミン107.1を反応容器に入れた。室温(25℃)条件下で撹拌して6時間反応させた後、イオン交換水400部を添加し、生成した赤色の析出物をろ過して得た。得られた析出物を洗浄した後、40℃で24時間真空乾燥して、ピンク色で粉末状の化合物1 34.5部を得た。得られた化合物1のNMR及びIRを測定し、下記式(1-a)で表される構造を有することを確認した
【0071】
【0072】
得られた化合物1 35.4部及びトルエン531部を反応容器に入れ、40℃に加熱して撹拌し、懸濁状態とした。メタクリロイルオキシエチルイソシアネート14.2部及びトルエン14.2部の混合液を2時間かけて滴下した後、40℃で2時間反応させた。IRを測定してイソシアネートの消滅を確認した後、生成した析出物をろ過して得た。得られた析出物を酢酸エチルで洗浄した後、乾燥して、下記式(1-b)で表される化合物2 46.0部を得た。
【0073】
【0074】
得られた化合物2 46部及びエタノール700部を反応容器に入れ、3.5%希塩酸300部を添加して撹拌した。リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド27部及び水100部の混合物を徐々に添加し、2時間撹拌した。得られた溶液を撹拌しながら大量の水に添加した。析出した赤色の粉末をろ過、洗浄、及び乾燥して、蛍光色素メタクリレート(RHM-1)52.9部を得た。得られたRHM-1のNMR及びIRを測定するとともに、HPLCで分析し、下記式(1A)で表される構造を有することを確認した。
【0075】
【0076】
(比較製造例1)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いなかったこと以外は、前述の製造例1と同様にして、蛍光色素メタクリレート(RHM-2)を得た。得られたRHM-2のNMR及びIRを測定し、下記式(2)で表される構造を有することを確認した。
【0077】
【0078】
<高分子分散剤の合成>
(実施合成例1)
3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(商品名「エクアミドM」、KJケミカル社製(エクアミドM)107.6部、ヨウ素1.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フイルム和光純薬社製)(V-70)3.7部、ジフェニルメタン(DPM)0.2部、及びメチルメタクリレート(MMA)48.1部を反応容器に入れた。窒素を流しながら撹拌して45℃に昇温し、4.5時間重合してA鎖を形成した。反応液の一部をサンプリングし、水分計を使用して測定した固形分は32.8%であり、固形分から算出した重合転化率は約100%であった。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した数平均分子量(Mn)は3,900、PDI(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.28、ピークトップ分子量(PT)は5,700であった。
【0079】
V-70 1.6部を反応容器内に添加した。2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)52.1部及びRHM-1 1.0部からなるモノマー溶液をさらに添加し、40℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の固形分は49.8%であり、ほぼ定量的に目的物が得られたことを確認した。A-BブロックコポリマーのMnは8,600、PDIは1.53、PTは14,000であった。A-Bブロックコポリマー全体のMnから、A鎖のMnを引いて算出したB鎖のMnは4,700であった。また、B鎖のPTは8,300であった。
【0080】
メタノール水溶液(水/メタノール=2/1)2,000部をビーカーに入れた。高速撹拌機(ディスパー)を使用してメタノール水溶液を1,500rpmで撹拌しながら、得られたポリマー溶液100部を少しずつ投入して固体を析出させた。ポリマー溶液のすべてを投入した後、1,500rpmで30分間撹拌して析出した固体を微粒子化した。ヌッチェを使用して微粒子を減圧ろ過した後、水1Lで3回洗浄し、ポリマー水ペーストを得た。得られたポリマー水ペーストを60℃の乾燥機で24時間乾燥させて、高分子分散剤FP-1を得た。得られた高分子分散剤FP-1の固形分は99.7%であった。
【0081】
(実施合成例2~6、比較合成例1、2)
表1及び2に示す組成としたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、高分子分散剤FP-2~6、HFP-1、及びHFP-2を得た。得られた高分子分散剤の物性を表1及び2に示す。また、表中の略号の意味を以下に示す。
・FA512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート
・LMA:ラウリルメタクリレート
・TBCHMA:4-tert-ブチルシクロヘキシルメタクリレート
・FA513M:ジシクロペンタニルメタクリレート
・HBMA:4-ヒドロキシブチルメタクリレート
・HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
・GLMA:2,3-ヒドロキシプロピルメタクリレート
【0082】
【0083】
【0084】
<セルロースファイバー樹脂組成物の製造(1)>
(実施例1)
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、リファイナー処理済み、固形分25%)100部をエタノール1,000部に添加した。ディスパーで撹拌した後、ろ過して、パルプのエタノールペーストを得た。得られたペーストをエタノール1,000部に添加して解膠した後、ポリエチレン(商品名「フロービーズHE3040」、住友精化社製)(PE)53.3部をさらに添加した。撹拌後にろ過して、パルプとPEのエタノールペーストを得た。得られたペーストに、高分子分散剤FP-1 5部をTHF100部に溶解させて得た溶液を添加した。混合した後、60℃で減圧乾燥して、パルプ/FP-1/PE=25/5/53.3であり、パルプ分30%であるプレ混合物を得た。
【0085】
得られたプレ混合物83.3部、PE 163部、及び尿素10.4部を小型混合機に入れて混合し、混練前組成物を得た。二軸押出機を使用して得られた混練前組成物を140℃で混練するとともに、ストランド状に吐出して冷却し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状のセルロースファイバー樹脂組成物-1を得た。
【0086】
(実施例2及び3、比較例1~3)
表3に示す種類の高分子分散剤をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、ペレット状のセルロースファイバー樹脂組成物-1~3、-1H、及び-2Hを得た。なお、PE単独(セルロースファイバー及び高分子分散剤を含有しない)を比較例1とした。
【0087】
<評価>
得られたセルロースファイバー樹脂組成物(比較例1についてはPE単独)を160℃でそれぞれ射出成型し、ダンベル片(ダンベル厚:2mm)を作製した。そして、引張試験機(万能試験機、島津製作所社製)を使用し、ISO 527-1/-2に準拠した引張試験を実施した。具体的には、作製したダンベル片について引張速度10mm/minで引張試験を実施し、引張弾性率、引張強度、及び破断伸度を測定及び算出した。結果を表3に示す。
【0088】
【0089】
実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1を用いて作製したダンベルの一部を、ミクロトームを使用して厚さ20μmに切り出した。そして、ホットステージでプレパラートを作製し、ディスク走査型の蛍光顕微鏡(商品名「IX2-DSU」、オリンパス社製、倍率290倍)を使用して観察及び撮影した。撮影した蛍光顕微鏡写真を
図1に示す。
図1に示すように、セルロースファイバーに高分子分散剤が吸着してセルロースファイバーが蛍光発色しており、PE中におけるセルロースファイバーの分散状態(分散度合い)を把握することができた。さらに、
図1より、セルロースファイバーの平均径がナノサイズであること、及びセルロースナノファイバーの平均長が5~10μmであることを確認することができた(実際のカラー写真では、セルロースファイバーの分散状態やサイズ等をより明確に確認することができる)。また、偏光顕微鏡(商品名「BX-53P」、オリンパス社製)を使用して撮影した顕微鏡写真を
図2に示す。
図2に示すように、蛍光発色させていない顕微鏡写真では、セルロースファイバーの分散状態がはっきりとしていない。以上の通り、実施例の高分子分散剤を用いることで、セルロースファィバーの分散状態を明確に確認することができた。
【0090】
また、実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1を用いて作製したダンベルの一部を、ミクロトームを使用して厚さ40μm、60μm、80μm、及び100μmにそれぞれ切り出した。そして、上記と同様にしてプレパラートを作製し、ディスク走査型の蛍光顕微鏡を使用して観察及び撮影した。撮影した蛍光顕微鏡写真を
図3~6に示す。さらに、実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1を用いて作製したダンベルの表面の蛍光顕微鏡写真を
図7に示す。
図3~6に示すように、厚さの異なる試験片を観察することで、セルロースファイバーの分散状態とともに、セルロースファイバーが一部凝集している等の情報を得ることができる。さらに、
図7に示すように、試験片の切断面だけでなく表面を観察するだけでも、セルロースファイバーの分散状態を確認する確認することができる。本実施形態のセルロースファイバー樹脂組成物に用いた蛍光色素は、高分子分散剤であるポリマーに結合しているため、実質的にブリードすることがない。このため、本実施形態の高分子分散剤及びセルロースファイバー樹脂組成物は、例えば、偽造防止やセキュリティー分野での活用が期待される。
【0091】
また、実施例2及び3のセルロースファイバー樹脂組成物-2及び-3をそれぞれ用いて作製したダンベルの一部を、ミクロトームを使用して厚さ20μmに切り出した。そして、上記と同様にしてプレパラートを作製し、ディスク走査型の蛍光顕微鏡を使用して観察及び撮影した。撮影した蛍光顕微鏡写真を
図8及び9に示す。表3に示すように、実施例2及び3のセルロースファイバー樹脂組成物-2及び-3は、実施例1のセルロースファイバー樹脂組成物-1に比して、引張強度が向上している。そして、
図8及び9に示すように、セルロースファイバー樹脂組成物-2及び-3では、セルロースファイバーがより細かく、かつ、配向して分散していることがわかる。これにより、セルロースファイバー樹脂組成物-2及び-3の引張強度が向上したと推測される。なかでも、
図9に示すように、セルロースファイバー樹脂組成物-3ではセルロースファイバーが方向性をもって配向していることが確認され、これにより引張弾性率及び引張強度が向上したと推測される。
【0092】
<セルロースファイバー樹脂組成物の製造(2)>
(実施例4)
セルロースファイバー(商品名「ARBOCEL B400」、レッテンマイヤー社製、平均繊維径20μm、平均繊維長900μm、平均アスペクト比45、綿状)50.0部、及び水4950.0部をバットに入れた。高速撹拌機を使用し、3,000rpmで1時間撹拌した後にろ過して、セルロースファイバーの水ペースト(固形分32.5%)を得た。得られた水ペースト153部をエタノール1,530部に添加した後、高分子分散剤FP-4 5部をTHF 15部に溶解させた溶液をさらに添加した。撹拌混合した後に水中に投入し、生じた析出物をろ過して、水ペースト54.6部を得た。得られた水ペーストの固形分は35.0%であった。得られた水ペーストは、セルロースファイバー100部を高分子分散剤10部で処理した分散剤処理物である。得られた水ペースト50部及びポリプロピレン(商品名「ノバテックPP MA04A」、日本ポリプロ社製)(PP)88.5部を小型のラボニーダーに投入し、水蒸気の発生が無くなるまで160℃で溶融混錬した。その後、110℃の乾燥機で乾燥させて、セルロースファイバー樹脂組成物-4を得た。
【0093】
得られたセルロースファイバー樹脂組成物-4の引張弾性率は2.4GPaであり、引張強度は40.0MPaであった。一方、PP単独の引張弾性率は1.8GPaであり、引張強度は35.0MPaであった。また、実施例1の場合と同様にして蛍光顕微鏡で観察したところ、実施例1の場合と同様に蛍光を発色し、セルロースファイバーの分散状態を確認することができた。
【0094】
<CNFの製造>
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、リファイナー処理済み、固形分25%)100部に水47,100部を添加し、パルプスラリー濃度0.75%の水懸濁液(スラリー)を得た。石臼式摩砕機(商品名「スーパーマスコロイダー」、増幸産業株式会社製」)を使用して、得られた水懸濁液について、2種類の砥石で摩砕する計8パスの機械的解繊処理を行った。次いで、フィルタープレスにより脱水して、セルロースナノファイバー(CNF-1)2,350部を得た。得られたCNF-1は含水状態であり、固形分は15.3%であった。顕微鏡を使用して観察及び測定したCNF-1の平均径は3~8nmであり、平均長さは5~10μmであった。
【0095】
<セルロースファイバー樹脂組成物の製造(3)>
(実施例5及び6)
セルロースファイバーに代えて製造したCNF-1を用いたこと、及び高分子分散剤FP-4に代えて高分子分散剤FP-5及びFP-6をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例4と同様にして、セルロースファイバー樹脂組成物-5及び-6を得た。セルロースファイバー樹脂組成物-5の引張弾性率は2.9GPaであり、引張強度4は2.0MPaであった。セルロースファイバー樹脂組成物-6の引張弾性率は2.4GPaであり、引張強度は39.0MPaであった。また、実施例1の場合と同様にして蛍光顕微鏡で観察したところ、いずれも実施例1の場合と同様に蛍光を発色し、セルロースファイバーの分散状態を確認することができた。
本発明のセルロースファイバー樹脂組成物は、PEやPP等の軽量なオレフィン系の熱可塑性樹脂をベース樹脂として含有するため、例えば、自動車、家電、電子部材、ディスプレイ材料、建築物、容器、フィルム、電池、トレイ、及びスポーツ用品等の軽量で高強度であることが要求される分野に用いられる部材等の構成材料として有用である。また、蛍光を発することから、偽造防止、セキュリティー用途、意匠用途、及び潜在画像表現等に有用である。