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特開2024-6070トロリ線の断面形状の測定方法及び測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006070
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】トロリ線の断面形状の測定方法及び測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/25 20060101AFI20240110BHJP
   B61D 15/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01B11/25 H
B61D15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106622
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】平良 優介
(72)【発明者】
【氏名】松村 周
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA12
2F065AA17
2F065AA51
2F065AA58
2F065BB12
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF09
2F065HH05
2F065HH12
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ24
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】 より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できる測定方法及び測定システムの提供。
【解決手段】 トロリ線の断面形状の測定方法は、軌道の延びる方向に対し略垂直な鉛直平面内において光軸を上方に向けてトロリ線にスリット状にレーザ光束を与える照射ステップと、鉛直平面でのトロリ線の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する撮像ステップと、を含み、照射ステップはトロリ線の摩耗部及びトロリ線の側部のV溝部へ向けてレーザ光束を与え、撮像ステップは摩耗部及びV溝部のそれぞれに対応する輝線を撮像する。測定システムは、照射装置、撮像装置及び解析装置を含み、照射装置はトロリ線の摩耗部及びトロリ線の側部のV溝部へ向けてレーザ光束を与えるように配置され、撮像装置は摩耗部及びV溝部のそれぞれに対応する輝線を撮像するように配置されている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状の測定方法であって、
前記軌道の延びる方向に対し略垂直な鉛直平面内において光軸を上方に向けて前記トロリ線にスリット状にレーザ光束を与える照射ステップと、
前記鉛直平面での前記トロリ線の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する撮像ステップと、を含み、
前記照射ステップは前記トロリ線の摩耗部及び前記トロリ線の側部のV溝部へ向けて前記レーザ光束を与え、前記撮像ステップは前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を撮像することを特徴とするトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項2】
前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線は独立し離間して撮像されることを特徴とする請求項1記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項3】
前記撮像ステップは、前記トロリ線の前記切断面における円弧部と前記V溝部との交点を撮像することを特徴とする請求項2記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項4】
前記トロリ線の摩耗量を画像解析により求める算出ステップを更に含み、前記算出ステップは前記切断面において前記摩耗部の両端及び前記交点から前記トロリ線の中心を求めるステップを含むことを特徴とする請求項3記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項5】
前記画像解析は、前記輝線に対応させて、既知のトロリ線断面線を重ね合わせる比較ステップを含むことを特徴とする請求項4記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項6】
前記比較ステップは、前記円弧部及び前記交点のそれぞれに対応する前記輝線から既知のトロリ線断面線を重ね合わせることを特徴とする請求項5記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項7】
前記円弧部の前記輝線は、前記V溝部よりも上部の前記円弧部によるものであることを特徴とする請求項6記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項8】
前記画像解析は、残存断面積から等価残存直径を算出するステップを含むことを特徴とする請求項4乃至7のうちの1つに記載のトロリ線の断面形状の測定方法。
【請求項9】
軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状の測定システムであって、
前記軌道の延びる方向に対し略垂直な鉛直平面内において光軸を上方に向けて前記トロリ線にスリット状にレーザ光束を与える照射装置と、
前記鉛直平面での前記トロリ線の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する撮像装置と、
前記トロリ線の摩耗量を画像解析により求める解析装置と、を含み、
前記照射装置は前記トロリ線の摩耗部及び前記トロリ線の側部のV溝部へ向けて前記レーザ光束を与えるように配置され、前記撮像装置は前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を撮像するように配置されていることを特徴とするトロリ線の断面形状の測定システム。
【請求項10】
前記撮像装置は、前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を独立し離間して撮像されるように配置されていることを特徴とする請求項9記載のトロリ線の断面形状の測定システム。
【請求項11】
前記照射装置は前記鉄道車両の天井部において前記トロリ線の側方に位置するように配置されていることを特徴とする請求項10記載のトロリ線の断面形状の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状の測定方法及び測定装置に関し、特に、撮像装置で撮像した画像からトロリ線の断面形状を測定する測定方法及び測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状を測定する方法として、光源からスリット状の光を照射しこれを撮像装置で撮像して画像解析によって断面形状を測定する、いわゆる「光切断法」による方法が知られている。かかる方法では、車両天井に光源と撮像装置とを設置し、走行する車両上からトロリ線の断面形状を測定し、その摩耗状態などを判断できる。
【0003】
例えば、特許文献1では、光切断法により得られるトロリ線の断面形状を既知の新品トロリ線の断面形状と重ね合わせる画像解析によって、該トロリ線の摩耗量を測定する方法を開示している。詳細には、トロリ線直下の光源からスリット状の光を照射して撮像されるトロリ線断面の輪郭線の一部から、画像解析によって摩耗領域と円弧領域とを識別する。そして、円弧領域に含まれる2点の座標位置からこの円弧領域を含むように新品トロリ線と同じ直径の仮想円を重ね合わせて、該仮想円の上端位置から仮想円中心を通って摩耗領域に至る線分の長さによってトロリ線の残存直径を求め、摩耗状態を判断するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-164068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記したような光切断法では、トロリ線の円弧領域と摩耗領域とを識別して摩耗状態を判断しているが、摩耗領域が水平線に対して全体的又は部分的に傾斜していると、摩耗領域の一部が円弧領域と誤認識され易くなってしまう。また、摩耗領域が大きく拡がると円弧領域が小さくなって、円弧領域の識別が難しくなってしまう。これらの結果としてトロリ線の断面形状の認識が不正確となってしまう。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できる測定方法及び測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による測定方法は、軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状の測定方法であって、前記軌道の延びる方向に対し略垂直な鉛直平面内において光軸を上方に向けて前記トロリ線にスリット状にレーザ光束を与える照射ステップと、前記鉛直平面での前記トロリ線の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する撮像ステップと、を含み、前記照射ステップは前記トロリ線の摩耗部及び前記トロリ線の側部のV溝部へ向けて前記レーザ光束を与え、前記撮像ステップは前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を撮像することを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、非摩耗部であるV溝部を基準に摩耗量を測定できて、特に、摩耗が進行した場合であっても、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【0009】
上記した発明において、前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線は独立し離間して撮像されることを特徴としてもよい。また、前記撮像ステップは、前記トロリ線の前記切断面における円弧部と前記V溝部との交点を撮像することを特徴としてもよい。更に、前記トロリ線の摩耗量を画像解析により求める算出ステップを更に含み、前記算出ステップは前記切断面において前記摩耗部の両端及び前記交点から前記トロリ線の中心を求めるステップを含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、非摩耗部であるV溝部を基準に摩耗量を確実且つ精確に測定できて、特に、摩耗が進行した場合であっても、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記画像解析は、前記輝線に対応させて、既知のトロリ線断面線を重ね合わせる比較ステップを含むことを特徴としてもよい。更に、前記比較ステップは、前記円弧部及び前記交点のそれぞれに対応する前記輝線から既知のトロリ線断面線を重ね合わせることを特徴としてもよい。更に、前記円弧部の前記輝線は、前記V溝部よりも上部の前記円弧部によるものであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、非摩耗部であるV溝部を基準に摩耗量を測定できて、特に、摩耗が進行した場合であっても、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記画像解析は、残存断面積から等価残存直径を算出するステップを含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、精確かつ簡便にトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【0012】
本発明による測定システムは、軌道を走行する鉄道車両に電力を供給するトロリ線の断面形状の測定システムであって、前記軌道の延びる方向に対し略垂直な鉛直平面内において光軸を上方に向けて前記トロリ線にスリット状にレーザ光束を与える照射装置と、前記鉛直平面での前記トロリ線の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する撮像装置と、前記トロリ線の摩耗量を画像解析により求める解析装置と、を含み、前記照射装置は前記トロリ線の摩耗部及び前記トロリ線の側部のV溝部へ向けて前記レーザ光束を与えるように配置され、前記撮像装置は前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を撮像するように配置されていることを特徴とする。
【0013】
かかる特徴によれば、非摩耗部であるV溝部を基準に摩耗量を測定できて、特に、摩耗が進行した場合であっても、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【0014】
上記した発明において、前記撮像装置は、前記摩耗部及び前記V溝部のそれぞれに対応する前記輝線を独立し離間して撮像されるように配置されていることを特徴としてもよい。また、前記照射装置は前記鉄道車両の天井部において前記トロリ線の側方に位置するように配置されていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、非摩耗部であるV溝部を基準に摩耗量を確実且つ精確に測定できて、特に、摩耗が進行した場合であっても、より確実且つ精確に光切断法によってトロリ線の断面形状を測定できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明によるトロリ線断面形状の測定システムの実施例の側面図(一部ブロック図)である。
図2】同測定システムの要部の正面図である。
図3】鉛直平面によるトロリ線の切断面を示す断面図である。
図4】同測定システムの他の要部の正面図である。
図5】本発明によるトロリ線断面形状の測定方法の実施例のフロー図である。
図6】同方法の要部のフロー図である。
図7】撮像された輝線に対応する画素を含む画像である。
図8】輝線に対応する画素群から抽出される画素についての説明図である。
図9】鉛直平面でのトロリ線の切断面における周線の図である。
図10】鉛直平面でのトロリ線の切断面における周線の図である。
図11】(a)従来法と(b)本実施例とにおいて既知のトロリ線断面線を重ね合わせた図である。
図12】170mmトロリ線における残存直径の誤差を示す(a)実施例及び(b)比較例のグラフである。
図13】110mmトロリ線における残存直径の誤差を示す(a)実施例及び(b)比較例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるトロリ線の断面形状の測定方法及び測定システムの実施例について説明する。まず、測定システムについて図1乃至図4を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、トロリ線の断面形状の測定システム1は、車両10(鉄道車両)の走行する軌道に沿って配置されたトロリ線20にレーザ光束Lを照射する照射装置2と、トロリ線20に照射されたレーザ光束による輝線を撮像する撮像装置3と、照射装置2の点灯動作を制御する照射制御装置4と、撮像装置3によって得た画像を解析するための解析装置5とを含む。照射装置2及び撮像装置3は車両10上に設置される。ここでは、車両10の天井部12上に設置された取付ベース11上に照射装置2及び撮像装置3を設置した。天井部12上には、さらにパンタグラフ14が備えられ、その集電舟のすり板14aをトロリ線20の下面に接触させて、軌道上を走行する車両10に電力を供給できる。
【0018】
特に、照射装置2は、照射されるレーザ光束の光軸を上方に向けるとともに、軌道の延びる方向に対して略垂直な鉛直平面S内においてスリット状にレーザ光束を与えるようにされる。つまり、照射装置2はレーザ光束の光軸を鉛直平面S内に位置させるように配置される。また、照射装置2は、さらに、トロリ線20の側方に位置するように車両10の左右どちらかの一方側に配置され、光軸Aを内側に傾けるよう配置される。これによって、照射装置2は、トロリ線20の側部へ向けてレーザ光束を投光し、特に、後述するようにトロリ線20のV溝部21(図3参照)の内部まで照射できるようにされることが好ましい。例えば、照射装置2は、光軸を鉛直方向から大きく(30度程度)傾けてトロリ線20に向けて投光できるよう高い位置に配置されることが好ましく、ここでは傾斜した台座13の上に設置されている。なお、照射装置2の複数を並列して配置させ、それぞれの点灯及び消灯を個別に制御するようにしてもよい。
【0019】
図3に示すように、トロリ線20は、断面を略円形とする線材であり、左右の側部に設けられて長手方向に延びる一対のV溝部21を備える。トロリ線20は、固定具16(図1参照)によってV溝部21を挟持されて軌道上に懸架される。トロリ線20の下側部分には、すり板14aとのしゅう動によって略平面となった摩耗部25が形成される。車両10上から上方に投光されたレーザ光束Lはトロリ線20の下方から少なくとも摩耗部25の全幅に照射され、V溝部21よりも下部に続く下側円弧部24の一部に照射される。
【0020】
また、上記したように、照射装置2は、トロリ線20の側部のV溝部21へ向けてレーザ光束を投光できるようにされる。つまり、V溝部21の内部にレーザ光束Lを照射できるようにされる。また、レーザ光束Lのスリット状の拡がりによって、トロリ線20の左右方向の幅の全体を横切るようにされる。このとき、鉛直平面Sによるトロリ線20の切断面においては、少なくとも、V溝部21の内部の上側の辺である上辺22とそのさらに上部の上側円弧部23との境目近傍の部分にレーザ光束Lが照射されることになる。
【0021】
このように鉛直平面S内でスリット状に拡がるレーザ光束Lを照射させることで、鉛直平面Sでトロリ線20を切断した切断面における周線の一部に沿って輝線が形成される。このとき、上記したようにレーザ光束Lは摩耗部25の全幅及びV溝部21に照射されるので、輝線は少なくとも摩耗部25の全幅とV溝部21の上辺22の外側端部とを含む周線の部分に形成されることになる。
【0022】
一方、図1図4を併せて参照すると、撮像装置3は、トロリ線20の上記した周線の一部に形成された輝線をトロリ線20の輪郭線の一部として撮像できるように設置される。そこで、撮像装置3は、輪郭線を前方又は後方から撮像できるよう、鉛直平面Sの前方又は後方斜め下から、鉛直平面S内のトロリ線20を画角Fに含むように設置される。特に、V溝部21の上辺22の外側端部に形成された輝線を撮像できるよう、車両10の左右どちらかの一方側から内側に向ける傾きを有するように画角を定めて設置される。つまり、撮像装置3は、摩耗部25及びV溝部21のそれぞれに対応する輝線を撮像するように配置される。なお、下側からレーザ光束の照射し撮像するため、少なくともV溝部21の下側部分には輝線が形成されず撮像もされない。つまり、摩耗部25及びV溝部21のそれぞれに対応する輝線は、互いに独立し離間して撮像されることになる。
【0023】
再び図1を参照すると、照射制御装置4は、解析装置5からの信号に基づき照射装置2の点灯及び消灯を制御することができる。つまり、照射制御装置4は、解析装置5から受信した点灯信号によって照射装置2を点灯させ、消灯信号によって照射装置2を消灯させるように制御する。照射装置2が複数備えられる場合は、必要に応じて、それぞれの点灯及び消灯を個別に制御することも好ましい。
【0024】
解析装置5は、トロリ線の断面形状の測定システム1のメイン制御部である。解析装置5は、上記したように照射制御装置4に照射装置2の点灯及び消灯に関する信号を必要に応じて送出することができる。解析装置5は、また、撮像装置3の動作を制御するとともに、撮像された画像を収集して図示しない記憶装置に記憶させ、画像解析することができる。画像解析においては、撮像した画像内の輝度の高い画素を抽出し、その分布から鉛直平面S内でトロリ線20の位置を特定する。さらに、特定した位置にある輝線に対応する画素の位置からトロリ線20の断面形状を測定することができる。
【0025】
次に、図5及び図6に合わせて図7乃至図10を参照しつつ、トロリ線20の断面形状の測定方法について説明する。
【0026】
図5に示すように、まず、照射装置2からスリット状にレーザ光束Lを投光させトロリ線20に照射させる(S1:照射ステップ)。ここでは、解析装置5から照射制御装置4に向けて点灯信号を送出して、これを受けた照射制御装置4により照射装置2を点灯させる。これによって、照射装置2から投光されたレーザ光束Lは、鉛直平面Sによるトロリ線20の切断面において、摩耗部25の全幅及びV溝部21と上側円弧部23との境目近傍の部分に照射される。
【0027】
次いで、撮像装置3によって鉛直平面Sによるトロリ線20の切断面における周線の一部に沿って形成された輝線を撮像する(S2:撮像ステップ)。撮像によって得られた画像は解析装置5に転送され、記憶される。
【0028】
得られた画像は、解析装置5によって画像解析される(S3:解析ステップ)。画像解析においては、解析装置5が、所定のアルゴリズムを有するコンピュータプログラムを実行することで予め定められた手順で処理を行う。解析装置5は、画像解析を行うにあたって、まず、得られた画像について、画素毎に輝度を演算処理し、輝度による二次元の画像データに変換する。つまり、輝度の高い画素を明るく、輝度の低い画素を暗く表示し、輝度に基づいた画像データとして、画像解析に供される。なお、解析装置5による演算処理の一部を撮像装置3の内部の演算処理装置によって予め実施させるようにしてもよい。
【0029】
図6に示すように、画像解析(S3)においては、まず、輝度による画像データの画素毎の輝度と座標に基づいて摩耗部25に対応する画素群を抽出する(S11)。例えば、輝度及び位置の近い画素をグループ化し、各グループの領域を得て、ノイズと推察される輝度の小さいグループや領域、及び、画素数の少ないグループや領域を除去する。つまり、トロリ線20に対応するものではないと判断された領域及びグループの画素を除去する。そして、輝度の高い画素の配置や位置に基づいて摩耗部25に対応する画素群を抽出する。
【0030】
図7を併せて参照すると、より具体的には、水平方向に一列に並ぶ配置を有している場合や、画面上においてより下側に位置する場合に摩耗部25に対応する画素群である可能性が高いと判断されるため、このような画素群G1を抽出するのである。
【0031】
次いで、V溝部21に形成された輝線に対応する画素を抽出する(S12)。例えば、摩耗部25に対応する画素群の位置に基づくことで、V溝部21のおよその位置が定まる。この場合においては、摩耗部25に対応する画素群G1の中心を基準として、トロリ線20の直径よりも近い距離で左上の位置と定められる。その範囲内で輝度の高い画素群を抽出し、V溝部21に対応する画素群G2とし定めるのである。
【0032】
さらに図8を併せて参照すると、V溝部21と上側円弧部23との境目の画素を抽出する(S13)。まず、摩耗部25に対応する画素群G1のうちの中央の画素P1を定め、V溝部21に対応する画素群G2のうち、画素P1から最も距離の離れた画素P2を抽出し、V溝部21と上側円弧部23との境目の画素として定める。
【0033】
そして、摩耗部25に対応する画素群G1の左右両端の画素P3及びP4を定め、画素P2と合わせた3画素の位置からトロリ線20の中心の位置に対応する画素PCを決定する(S14)。画素P2、P3及びP4はいずれもトロリ線20の円弧上の点の位置に対応する画素であり、これら3画素の位置を通過する円は一義的に定まるから、かかる円の中心をトロリ線20の中心に対応する画素PCとして決定する。つまり、画素P2、P3及びP4のいずれからも等距離の位置にある画素を画素PCとすることになる。
【0034】
次いで、トロリ線20の摩耗量を算出する(S15:算出ステップ)。ここでは、トロリ線20の摩耗により失われた断面積を摩耗量として算出する。上記した通り、トロリ線20の中心に対応する画素PCが定まっており、これを中心とした円と摩耗部25に対応する輝線による画素の位置から摩耗量を算出できる。なお、このとき、既知のトロリ線断面線を重ね合わせて比較してもよい。例えば、上記した3画素の位置に合わせて既知のトロリ線断面線を重ねて比較する比較ステップを含むことも好ましい。既知のトロリ線断面線を重ねて比較することで、より正確に摩耗量を算出できる。
【0035】
最後に、算出した摩耗量から得られるトロリ線20の残存断面積を用いて等価残存直径を算出する(S16)。
【0036】
以上のような方法によりトロリ線20の断面形状を測定することができる。特に、非摩耗部であるV溝部21の位置を基準に摩耗量を測定できるので、摩耗量が大きい場合や偏摩耗を生じている場合などであっても精確にトロリ線の断面形状を測定できる。
【0037】
例えば、図9に示すように摩耗の進行により摩耗量が大きくなったトロリ線20において、従来の円弧領域と摩耗領域とを識別する方法では、左右の円弧領域である下側円弧部24が小さくなって識別が困難となってしまう。これに対し、本実施例によれば、摩耗部25の左右端に対応する画素と非摩耗部であるV溝部21に対応する画素を基準とするので、円弧領域の大きさによらずに摩耗量の測定が可能である。
【0038】
なお、図10に示すように、さらに摩耗が進行して摩耗部25がV溝部21にかかるようになると、摩耗部25の両端が円弧上の点ではなくなるため、本実施例でも摩耗量を精確に測定することはできない。しかし、摩耗部25の中心に対応する画素P1とV溝部21及び上側円弧部23の交点に対応する画素P2との距離によって、摩耗部25のV溝部21への進行を判定できる。例えば、下側円弧部24を円周の半周とするトロリ線であれば、画素P1と画素P2との距離がトロリ線20の半径よりも小さくなったときにこのような摩耗状態になったと判定できる。
【0039】
また、図11(a)に示すように、光切断法における従来の方法では、偏摩耗によって生じた偏摩耗部25aと摩耗部25との境界25b近傍を円弧部と判定してしまい、既知のトロリ線断面線29を重ね合わせる位置を正しく特定できない場合があった。その場合、実際の残存直径d1に対して、これより大きな残存直径d2があるものと判定してしまう。
【0040】
これに対し、同図(b)に示すように、本実施例によれば摩耗部25が偏摩耗を生じている場合でも精確にトロリ線20の断面形状を測定できる。本実施例においては、上記したように、非摩耗部であるV溝部21を位置の基準とすることができる。そのため、かかる基準に基づき、既知のトロリ線断面線を正しい位置で重ね合わせることができる。その結果、摩耗部25と既知のトロリ線断面線との間の面積を測定することで、摩耗量を精確に算出することができる。また、かかる摩耗量に応じて精確な残存直径を算出することもできる。
【0041】
次に、従来法と本実施例による方法とによるトロリ線断面形状の測定結果について説明する。ここでは、170mmトロリ線及び110mmトロリ線を測定に用いた。
【0042】
図12に示すように、170mmトロリ線について、画像解析から算出された残存直径と、実測した残存直径の真値との誤差を調査した。実施例(同図(a))は上記した方法によるものであり、比較例(同図(b))は下側円弧部24の左右の円弧領域に基づいて残存直径を算出する特許文献1に記載の方法によるものである。なお、誤差0mmの直線の上下両側の曲線はしゅう動面幅を用いた計測手法においてしゅう動面幅の測定誤差を±0.2mmと仮定した場合(以下しゅう動面幅法と称する)に得られる残存直径に生じる誤差の範囲を示す。
【0043】
比較例においては、しゅう動面幅法と同等程度の精度を確保できるのは、残存直径で11mmまでである。一方、実施例においては、残存直径で8mmまでしゅう動面幅法と同等程度の精度を確保できる。つまり、上記した実施例によれば、しゅう動面幅法と同等程度の精度を確保できる摩耗量の範囲が従来法に比べて広いと言える。
【0044】
図13に示すように、110mmトロリ線について同様に画像解析から算出した残存直径の真値との誤差を調査した。比較例(同図(b))においては、残存直径の小さい場合のデータの記載はないものの、他のいくつかのデータによると、しゅう動面幅法と同等の精度を確保できる残存直径は9.5mmまでとなっている。一方、実施例(同図(a))においては、残存直径で7mmまでしゅう動面幅法と同等程度の精度を確保できる。
【0045】
以上のように、上記した実施例によれば、比較的残存直径が小さくなるまで、精確にトロリ線断面形状を測定することができる。
【0046】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに伴う変形例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0047】
1 測定システム
2 照射装置
3 撮像装置
5 解析装置
20 トロリ線
21 V溝部
23 上側円弧部
24 下側円弧部
25 摩耗部
L レーザ光束
P1~P4 画素
G1、G2 画素群

図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
図12
図13