(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060700
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】PTP用の包装シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240425BHJP
B32B 37/24 20060101ALI20240425BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B37/24
B32B15/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168123
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】511069932
【氏名又は名称】昭北ラミネート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】中島 朱音
(72)【発明者】
【氏名】森野 映介
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AB02
3E086AC07
3E086AD07
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA29
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB55
3E086BB61
3E086BB74
3E086CA28
3E086DA07
3E086DA08
4F100AB10A
4F100AB33A
4F100AK01B
4F100AK36B
4F100AK53B
4F100AL05B
4F100BA02
4F100CA02B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ082
4F100EJ08B
4F100EJ422
4F100EJ862
4F100GB18
4F100JJ03B
4F100YY002
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】所定量のバイオマス樹脂を含有した耐熱コート層を有し、十分な実用性を備え、且つ製造しやすいPTP用の包装シート及びその製造方法を提供する
【解決手段】石油由来樹脂にバイオマス樹脂を配合したもの主剤とし、バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%の範囲に設定された固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤30xを準備する耐熱コート剤準備工程KK1を備える。アルミニウム箔22の第一面22a側に、耐熱コート層30の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の耐熱コート剤30xを塗布する耐熱コート剤塗布工程KK2を備える。耐熱コート剤30xを加熱して揮発性溶剤を揮発させるとともに、固形成分を熱硬化させて耐熱コート層30を形成する耐熱コート剤加熱工程KK3を備える。耐熱コート剤加熱工程KK3における加熱条件は、従来の耐熱コート剤42xを使用した時と同様の条件に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層とを備え、前記アルミニウム箔の第二面側が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シートの製造方法において、
石油由来樹脂にバイオマス樹脂を配合したもの主剤とし、前記バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%の範囲に設定された固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤を準備する耐熱コート剤準備工程と、
前記アルミニウム箔の前記第一面側に、前記耐熱コート層の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の前記耐熱コート剤を塗布する耐熱コート剤塗布工程と、
前記耐熱コート剤を加熱して前記揮発性溶剤を揮発させるとともに、前記固形成分を熱硬化させて前記耐熱コート層を形成する耐熱コート剤加熱工程とを備え、
前記耐熱コート剤加熱工程における加熱温度及び加熱時間を、前記石油由来樹脂を主剤とし前記バイオマス樹脂を含有しない固形成分に、前記揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤を使用した時と同様の条件に設定することを特徴とするPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項2】
前記石油由来樹脂は、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合したものである請求項1記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項3】
前記石油由来樹脂は、少なくともエポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含むものである請求項1記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項4】
前記耐熱コート剤加熱工程では、前記耐熱コート剤塗布工程で塗工された前記耐熱コート剤を、150~250℃、5.8~7.6秒の範囲内の特定の条件で加熱する請求項1乃至3のいずれか記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項5】
基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層とを備え、前記アルミニウム箔の第二面側が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シートにおいて、
前記耐熱コート層は、石油由来樹脂にバイオマス樹脂を配合したものを主剤とし、前記バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%の範囲に設定されていることを特徴とするPTP用の包装シート。
【請求項6】
前記石油由来樹脂は、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合したものである請求項5記載のPTP用の包装シート。
【請求項7】
前記石油由来樹脂は、少なくともエポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含むものである請求項5記載のPTP用の包装シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTP(press through package)は、
図7に示すPTP包装体10のように、樹脂製の容器シート12に形成された収容部12a内に小形の固形物14を入れ、包装シート16を容器シート12の平面部12bに貼着することによって収容部12aを閉鎖する包装形態で、薬用の錠剤やカプセル等の固形物を包装する用途に広く用いられている。
【0003】
開封する時、収容された固形物14を収容部12aの外側から包装シート16内面側へ強く押し当て、包装シート16を突き破って取り出すことができるようにするため、包装シート16の基材は、一般に薄いアルミニウム箔が使用される。また、包装シート16を容器シート12に貼着する時は、包装シート16の一方の面に設けたヒートシール層を容器シート12の平面部12bに当接させ、包装シート16の他方の面に設けた耐熱コート層の側から加熱・加圧して溶着させる方法が用いられる。
【0004】
例えば、本願出願人らによる特許文献1の
図3に開示されているように、基材であるアルミニウム箔(アルミニウム基材2)と、アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層(耐熱被覆層4’)とを備え、アルミニウム箔の第二面側が相手方の容器シート(容器12)に熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シート(積層体1’)があった。この包装シートは、耐熱コート層が、エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含んだ耐熱被覆層用インキ組成物を用いて形成される。つまり、ブロックイソシアネート硬化剤を用いることで、包装シートを形成する工程で熱硬化させる時や包装シートを容器シートに熱接着する時、ホルムアルデヒドが発生するのを防止し、PTP包装体内の固形物(医薬品等)へのホルムアルデヒドの影響をなくすことができる。
【0005】
また、近年、プラスチックごみの削減や二酸化炭素の排出量の削減が大きな課題になっており、様々な産業分野で石油由来樹脂を植物等の生物由来のバイオマス樹脂に置き換える試みが行われている。バイオマス樹脂の利用は、PTP用の包装シートの分野でも検討されつつあり、例えば特許文献2(段落0020等)に、医薬品用包装材PTPシート等のラミネート加工製品にバイオポリウレタン樹脂を適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-2922号公報
【特許文献2】特開2019-172977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、PTP用の包装シートの耐熱コート層に使用される石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えることを考えた。しかし、バイオマス樹脂の配合比を単純に大きくすると耐熱コート層の特定の性能が低下することが予想され、バイオマス樹脂の配合比をどこまで大きくできるかよく分かっていなかった。また、バイオマス樹脂の配合比を大きくした時、製造条件や製造設備の変更が必要かどうかも不明であった。
【0008】
特許文献1のPTP用の包装シートは、耐熱コート層にバイオマス樹脂を含有させることは全く考慮されていない。また、特許文献2は、PTP用の包装シートにバイオマス樹脂が適用できることを示唆しているだけで、包装シートに使用した時の性能や製造方法に関する事柄は全く記載されていない。
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、所定量のバイオマス樹脂を含有した耐熱コート層を有し、十分な実用性を備え、且つ製造しやすいPTP用の包装シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層とを備え、前記アルミニウム箔の第二面側が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シートの製造方法であって、
石油由来樹脂にバイオマス樹脂を配合したもの主剤とし、前記バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%の範囲に設定された固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤を準備する耐熱コート剤準備工程と、
前記アルミニウム箔の前記第一面側に、前記耐熱コート層の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の前記耐熱コート剤を塗布する耐熱コート剤塗布工程と、
前記耐熱コート剤を加熱して前記揮発性溶剤を揮発させるとともに、前記固形成分を熱硬化させて前記耐熱コート層を形成する耐熱コート剤加熱工程とを備え、
前記耐熱コート剤加熱工程における加熱温度及び加熱時間を、前記石油由来樹脂を主剤とし前記バイオマス樹脂を含有しない固形成分に、前記揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤を使用した時と同様の条件に設定するPTP用の包装シートの製造方法である。
【0011】
前記石油由来樹脂は、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合したものである。あるいは、前記石油由来樹脂は、少なくともエポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含むものである。また、前記耐熱コート剤加熱工程では、前記耐熱コート剤塗布工程で塗工された前記耐熱コート剤を、150~250℃、5.8~7.6秒の範囲内の特定の条件で加熱することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層とを備え、前記アルミニウム箔の第二面側が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となるPTP用の包装シートであって、
前記耐熱コート層は、石油由来樹脂にバイオマス樹脂を配合したものを主剤とし、前記バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%の範囲に設定されているPTP用の包装シートである。
【0013】
前記石油由来樹脂は、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合したものである。あるいは、前記石油由来樹脂は、少なくともエポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のPTP用の包装シート及びその製造方法によれば、従来の耐熱コート層の主剤に使用されている石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えつつ、耐熱コート層に求められる性能を満足させることができる。しかも、バイオマス樹脂を含有した耐熱コート層を、従来の耐熱コート層と同様の製造条件で形成することができ、環境負荷の低減に貢献できるPTP用の包装シートを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のPTP用の包装シートの一実施形態の構造を示す拡大断面図(a)、製造途中の包装シートの構造を示す拡大断面図(b)である。
【
図2】
図1(a)の包装シートの一般的な製造方法の流れと、本発明のPTP用の包装シートの製造方法の一実施形態との関係を示すフローチャートである。
【
図3】包装シート製造装置の一例を示す模式図である。
【
図4】試作した包装シートの耐熱コート層に対して行った耐熱性試験の結果を示すグラフである。
【
図5】試作した包装シートの耐熱コート層に対して行った耐溶剤性試験の結果を示すグラフである。
【
図6】試作した包装シートの耐熱コート層に対して行った耐摩擦性試験の結果を示すグラフである。
【
図7】一般的なPTP包装体の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のPTP用の包装シート及びその製造方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。まず、この実施形態の包装シート18の構造、包装シート18の製造フロー(工程K11,K12(1)~K19(1),K12(2),K13(2),K18(2),K19(2))、及び製造フローの中の工程K11以外の工程を順に実行する包装シート製造装置20の構成について、
図1~
図3を基に簡単に説明する。
【0017】
包装シート18は、1枚の連続シートとして製造され、ロールに巻き取った状態でPTP包装体の組み立て工場に出荷される。包装シート18は、
図1(a)に示すように、基材であるアルミニウム箔22を有し、アルミニウム箔22の第一面22a側に、第一面22aを覆う白濁色印刷層24と、白濁色印刷層24の外面に設けた情報表示用の第一及び第二印刷層26,28と、白濁色印刷層24、第一印刷層24及び第二印刷層28の外面を覆う耐熱コート層30とが順に積層されている。また、アルミニウム箔22の第二面22b側に、情報表示用の第三印刷層32と、第二面22b及び第三印刷層32の外面を覆うヒートシール層34とが順に積層されている。
【0018】
アルミニウム箔22は、収容部12a内の固形物14を取り出すときに破れやすいように、10~30μm程度の厚さの硬質又は軟質のアルミニウム材が使用される。アルミニウム箔22は、
図2の中の部材準備工程K11で準備され、
図3に示すように、ロールに巻かれた状態で包装シート製造装置20の巻き出し機34にセットされる。
【0019】
白濁色印刷層24は、メジウムと白色顔料を含むインキとを混合した塗工樹脂である液状の白濁色印刷剤24xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts12でアルミニウム箔22の第一面22aに塗布し(白濁色印刷剤塗布工程K12(1))、加熱炉Kr13で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K13(1))、後段の加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(1))。メジウムは、例えば、主剤である塩化ビニル樹脂に分子架橋促進用のアミノ樹脂を配合した固形分を、適量のシンナー等の溶剤で希釈したものを用いる。白色顔料を含むインキは、メジウムの固形分と同様の組成に白色顔料となる酸化チタン等を配合した固形分を、適量のシンナー等の溶剤で希釈したものを用いる。
【0020】
第一印刷層26は、塩化ビニル樹脂等の主剤に適宜の色の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合して液状にした第一印刷インキ26xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts14で白濁色印刷剤24xの外面に塗布し(第一印刷インキ塗布工程K14(1))、加熱炉Kr15で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K15(1))、後段の加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(1))。
【0021】
第二印刷層28は、第一印刷インキ26xと同様の主剤に異なる色の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合して液状にした第二印刷インキ28xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts16で白濁色印刷剤24xの外面に塗布し(第二印刷インキ塗布工程K16(1))、加熱炉Kr17で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K17(1))、後段の加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(1))。
【0022】
耐熱コート層30は、所定の石油由来樹脂に所定量のバイオマス樹脂を配合したものを主剤とする固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤30xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts18で白濁印刷剤24x、第一印刷インキ26x及び第二印刷インキ28xの外面に塗布し(耐熱コート剤塗布工程K18(1))、加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(1))。耐熱コート剤30xの固形成分については、後で詳しく説明する。
【0023】
また、耐熱コート層30は透明又は半透明とし、第一及び第二印刷層26,28の情報表示を外から視認できるようにする。白濁色印刷層24は、第一及び第二印刷層26,28を見た時に、アルミニウム箔22の光沢面の反射を抑え、第一及び第二印刷層26,28の視認性を向上させる働きをする層であり、濁った白色でもよいし純粋な白色でも良い。
【0024】
本加熱工程K19(1)が行われると、半製品の包装シート18hが加熱炉Kr19から搬出され、外観検査装置38による検査を受けて巻き取り機36に巻き取られる。包装シート18hの構造は
図1(b)に示す通りで、アルミニウム箔22の第二面側22bに第三印刷層32及びヒートシール層34を設ける工程は、巻き取られた包装シート18hを改めて巻き出し機34にセットして行う。
【0025】
第三印刷層32は、第一及び第二印刷インキ26x,28xと同様の主剤に所定の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合して液状にした第三印刷インキ32xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts12でアルミニウム箔22の第二面22bに塗布し(第三印刷インキ塗布工程K12(2))、加熱炉Kr13で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K13(2))、後段の加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(2))。
【0026】
ヒートシール層34は、ポリ塩化ビニル樹脂とポリエステル系樹脂との混合物、ポリ塩化ビニル樹脂とアクリル系樹脂との混合物、又はポリプロピレン樹脂を主剤とする液状のヒートシール剤34xを準備し(部材準備工程K11)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts18でアルミニウム箔22の第二面22b及び第三印刷インキ32xの外面に塗布し(ヒートシール剤塗布工程K18(2))、後段の加熱炉Kr19で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K19(2))。
【0027】
本加熱工程K19(2)が行われると、完成品の包装シート18が加熱炉Kr19から搬出され、外観検査装置38による検査を受けて巻き取り機36に巻き取られる。包装シート18は以上のような流れで製造され、ロールに巻かれた状態でPTP包装体10の包装工場等に出荷される。
【0028】
次に、本発明のPTP用包装シートの製造方法の一実施形態について、上述した包装シート18の製造フロー(工程K11,K12(1)~K19(1),K12(2),K13(2),K18(2),K19(2))と対比して説明する。
【0029】
この実施形態の包装シートの製造方法は、
図2の右側の欄に示すように、耐熱コート剤準備工程KK1、耐熱コート剤塗布工程KK2及び耐熱コート剤加熱工程KK3とで構成される。
【0030】
耐熱コート剤準備工程KK1は、所定の石油由来樹脂に所定量のバイオマス樹脂を配合したものを主剤とする固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にした耐熱コート剤30xを準備する工程で、先に説明した部材準備工程K11の中の一部として行う。耐熱コート剤30xは、包装シート18の製造工場で作製して準備してもよいし、耐熱コート剤メーカから購入して準備してもよい。
【0031】
石油由来樹脂は、汎用的な樹脂であるエポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む樹脂を使用する。一般的にはエポキシ樹脂及びメラミン樹脂の混合物が広く使用されているが、メラミン樹脂は、後で加熱された時にホルムアルデヒドが発生させて問題になる場合があるので、ここではメラミン樹脂を含有しない構成としている。
【0032】
バイオマス樹脂の分量については、固形成分全体に対するバイオマス樹脂の配合比を10~25質量%の範囲とすることが重要になる。この数値範囲の意味は、後で説明する。
【0033】
耐熱コート剤塗布工程KK2は、アルミニウム箔22の第一面22a側に、耐熱コート剤30xを塗布する工程で、先に説明した耐熱コート剤塗布工程K18(1)に対応する。耐熱コート剤塗布工程K18(1)における耐熱コート剤30xの塗布量は、揮発性溶剤の混合量に応じて決定され、耐熱コート層30の仕上がり状態の厚みが規定値になるように調節される。
【0034】
耐熱コート剤加熱工程KK3は、耐熱コート剤30xを加熱して揮発性溶剤を揮発させるとともに、固形成分を熱硬化させて耐熱コート層30を形成する工程で、先に説明した本加熱工程K19(1)に対応する。この工程を行う加熱炉Kr19は、3つのゾーンを有した連続炉が使用されており、好ましい加熱条件については後で説明する。
【0035】
次に、耐熱コート剤準備工程KK1で準備する耐熱コート剤30xの、バイオマス樹脂の配合比の数値範囲(10~25質量%)の意味と、耐熱コート剤加熱工程KK3における加熱条件について説明する。
【0036】
まず、本発明の包装シート及びその製造方法を検討する過程で、発明者が実施した性能試験の内容を説明する。発明者は、耐熱コート剤加熱工程KK3における耐熱コート剤30xの加熱条件を、従来の耐熱コート剤40x,42x(バイオマス樹脂を含有しないもの)を使用した時と同じ条件にできれば、量産時に非常に製造しやすいと考えた。そこで、3種類の耐熱コート剤30x,40x,42xを用意し、耐熱コート剤塗布工程KK2及び加熱工程KK3を同じ条件にして耐熱コート層30,40,42の試作を行い、
図1(b)に示す包装シート18hの状態で、耐熱コート層30,40,42の耐熱性、耐溶剤性及び耐摩擦性を評価することにした。
【0037】
従来の耐熱コート剤40xは、エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しない固形成分に、揮発性溶剤を混合した液状にしたもの(一般品)である。また、従来の耐熱コート剤42xは、エポキシ樹脂とブロックイソシアネートとを含む石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しない固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にしたもの(ホルムアルデヒド対策品)である。また、耐熱コート剤30xについては、バイオマス樹脂の分量と性能との関係を評価するため、固形成分全体に対するバイオマス樹脂の配合比を5~30質量%の範囲で変化させた複数のサンプルを用意した。
【0038】
耐熱コート層30,40,42を試作する時は、耐熱コート剤加熱工程KK3を行う加熱炉Kr19として、3つのゾーンを有した連続炉を使用し、第1ゾーンを170±10℃、2.3±0.3秒とし、第2ゾーンを220±10℃、2.2±0.3秒とし、第3ゾーンを240±10℃、2.2±0.3秒とした。この加熱条件は、従来の耐熱コート剤40x及び42xに適した加熱条件であり、耐熱コート剤30x(配合比5~30質量%)も同じ条件で硬化させることができた。
【0039】
図4は、試作した耐熱コート層30,40,42の耐熱性試験結果を示している。耐熱性試験は、各耐熱コート層に対し、包装シートを相手方の容器シートに溶着させる時のヒートシールバーによる加熱及び加圧に相当するストレスを加え、耐熱コート層の変色や変形などの外観の変化を観察し、良否の判定を行った。良否判定の区分は、顕著な異変があった(×)、やや異変があった(△)、ほとんど変化が無かった(○)の3段階とした。
【0040】
図4の上段のグラフは、圧力を0.294MPa、加圧時間を2secに固定し、加熱温度を変化させた時の耐熱性能の変化を示している。
図4の下段のグラフは、圧力を0.294MPa、加熱温度を260℃に固定し、加熱時間を変化させた時の耐熱性の変化を示している。この2つのグラフから、耐熱コート層30の耐熱性能は、配合比5~30質量%の範囲でほとんど変化しないことが分かる。また、耐熱コート層30の耐熱性能は、従来の耐熱コート剤40xよりも高く、従来の耐熱コート層42と同等であることが分かる。従来の耐熱コート層40は十分な市場実績があるので、耐熱コート層40の耐熱性を合格ラインとすれば、耐熱コート層30の耐熱性は、配合比5~30質量%の範囲で合格と言える。
【0041】
図5は、試作した耐熱コート層30,40,42の耐溶剤性試験結果を示している。耐溶剤性試験は、試作したサンプルとMEK(メチルエチルケトン)を含浸させたペーパーとを学振型摩擦試験機にセットし、耐熱コート層の表面にペーパーを所定圧力で当接させた状態で、サンプル又はペーパーを往復移動させることによってラビングし、耐熱コート層が除去される限界ラビング回数Rk(limit)を評価した。
図5のグラフから、耐熱コート層30は、バイオマス樹脂の配合比が大きいほど限界ラビング回数Rk(limit)が少なくなり、耐溶剤性が低下することが分かる。また、従来の耐熱コート層40は、ラビングを50回行っても除去されなかった。PTP用の包装シートにおける耐溶剤性は、経験的に、限界ラビング回数が10回以上であれば実用性があると分かっているので、耐熱コート層30の耐溶剤性は、配合比5~30質量%の範囲で合格と言える。
【0042】
図6は、試作した耐熱コート層30,40,42の耐摩擦性試験結果を示している。耐摩擦性試験は、同一のサンプル2つを学振型摩擦試験機にセットし、耐熱コート層同士を所定圧力で当接させた状態で、片方のサンプルを往復移動させることによって150回のラビング行い、ラビング前後の表面粗さ(山の頂点密度Spd)の変化率Haを評価した。このグラフから、耐熱コート層30は、バイオマス樹脂の配合比が大きいほど変化率Haが大きくなり、耐摩擦性が低下することが分かる。また、従来の耐熱コート層40は変化率Haが0.8%と非常に小さいことが分かった。
【0043】
その他、意図的に加熱不足の耐熱コート層40(過熱不足品)を製作したところ、変化率Haが12.4%となった(△のプロット)。そして、この過熱不足品を用いて追加の評価を行ったところ、変化率Ha≦12.4%であれば実用性の面で問題ないことが確認された。したがって、変化率Ha=12.4%を耐摩擦性の合格ラインとすれば、耐熱コート層30の耐摩擦性は、配合比5~25質量%の範囲で合格と言える。
【0044】
図4~
図6に示す3つの性能試験結果から、耐熱コート層30は、固形成分全体に対するバイオマス樹脂の配合比が25質量%以下の範囲で全ての性能試験が合格となることが分かった。つまり、耐熱コート剤準備工程KK1で、バイオマス樹脂の配合比が5~25質量%以下に設定された耐熱コート剤30xを準備し、後の耐熱コート剤加熱工程KK3を行うことによって、十分に実用性のある耐熱コート層30(バイオマス樹脂の配合比が5~25質量%の耐熱コート層)を得られることが分かった。ただ、本発明の主目的は、環境負荷の軽減に大きく貢献することであり、配合比が10質量%未満では十分とは言えないので、上記の耐熱コート剤準備工程KK1で準備する耐熱コート剤30xは、バイオマス樹脂の配合比が10~25質量%のものとしている。
【0045】
さらに、上記の試作及び性能試験の後、耐熱コート剤加熱工程KK3の加熱条件を変更して同様の試作を行ったところ、加熱条件が150~250℃、5.8~7.6秒の範囲内の特定の条件であれば、耐熱コート剤30x,40x,42xを良好に硬化させることができ、上記と同様の性能を備えた耐熱コート層30,40,42が得られることが確認された。また、バイオマス樹脂の種類を適宜のものに変更しても、同様の性能を備えた耐熱コート層30,40,42が得られることが確認された。
【0046】
以上説明したように、PTP用の包装シート18及びその製造方法によれば、従来の耐熱コート層42の主剤に使用されている石油由来樹脂(エポキシ樹脂とブロックイソシアネートとを含む石油由来樹脂)の一部をバイオマス樹脂に置き換えつつ、耐熱コート層に求められる性能を満足させることができる。しかも、バイオマス樹脂を含有した耐熱コート層30を、従来の耐熱コート層40,42と同様の製造条件で形成することができ、環境負荷の低減に貢献できるPTP用の包装シート18を容易に得ることができる。
【0047】
次に、PTP用の包装シート18の変形例とその製造方法を説明する。変形例の包装シート18は、上記の耐熱コート層30を耐熱コート層44に置き換えたものであり、
図1(a)に示すように、基本的な構造は同じである。また、耐熱コート剤準備工程KK1(部材準備工程K11)では、
図2に示すように、耐熱コート剤30xに代えて耐熱コート剤44xを準備する。
【0048】
耐熱コート剤44xは、耐熱コート剤30xと同様に、石油由来樹脂に所定量のバイオマス樹脂を配合したものを主剤とする固形成分に、揮発性溶剤を混合して液状にしたものであり、耐熱コート剤30xと異なるのは、石油由来樹脂がエポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合したものであるという点である。
【0049】
耐熱コート剤44xは、メラミン樹脂を含有しているので、包装シートを形成する工程で熱硬化させる時等に少量のホルムアルデヒドが発生するものであるが、ホルムアルデヒドが大きな問題にならない用途では広く使用されている。
【0050】
耐熱コート剤44xを用いた耐熱コート層44は、耐熱コート剤塗布工程KK2及び耐熱コート剤加熱工程KK3を、上記の耐熱コート剤30x,40x,42xを使用した時と同じ条件で行うことで形成することができる。
【0051】
図4の耐熱性試験結果のグラフには、耐熱コート層44の試験結果がない。しかし、従来の耐熱コート層40(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しないもの)は、耐熱性が合格レベルである。また、耐熱コート層30(エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、バイオマス樹脂の配合比が高くなっても耐熱性がほとんど変化していない。
【0052】
このことから、耐熱コート層44(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、バイオマス樹脂の配合比が高くなっても耐熱性がほとんど変化せず、耐熱コート層40と同等の耐熱性が得られることが当然に予測できる。したがって、耐熱コート層44の耐熱性は、少なくともバイオマス樹脂の配合比5~25%質量の範囲で合格だと言える。
【0053】
図5の耐溶剤性試験結果のグラフには、耐熱コート層44の試験結果がない。しかし、従来の耐熱コート層40(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しないもの)は、従来の耐熱コート層42(エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しないもの)と比較して、耐溶剤性が格段に優れている。また、耐熱コート層30(エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、バイオマス樹脂の配合比が高くなると耐溶剤性が徐々に低下しているものの、配合比5~25%質量の範囲では合格している。
【0054】
この傾向から見て、耐熱コート層44(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、耐熱コート層30と同様に、バイオマス樹脂の配合比が高くなると耐溶剤性が徐々に低下することが予想される。しかし、低下の傾きは、耐熱コート層30と同じか、又はもっと緩やかになることが経験的に分かっているので、耐熱コート層44の耐溶剤性は、少なくともバイオマス樹脂の配合比5~25%質量の範囲で合格だと言える。
【0055】
図6の耐摩擦性試験結果のグラフには、耐熱コート層44の試験結果がない。しかし、従来の耐熱コート層40(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しないもの)は、従来の耐熱コート層42(エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む石油由来樹脂を主剤としバイオマス樹脂を含有しないもの)と比較して、耐摩擦性がほぼ同等に優れている。また、耐熱コート層30(エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含む石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、バイオマス樹脂の配合比が高くなると耐摩擦性が徐々に低下しているものの、配合比5~25%質量の範囲では合格している。
【0056】
耐熱コート層44(エポキシ樹脂及びメラミン樹脂を混合した石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂に置き換えたもの)は、耐熱コート層30と同様に、バイオマス樹脂の配合比が高くなると耐摩擦性が徐々に低下することが予想される。しかし、低下の傾きは、耐熱コート層30と同じか、又はもっと緩やかになることが経験的に分かっているので、耐熱コート層44の耐摩擦性は、少なくともバイオマス樹脂の配合比5~25%質量の範囲で合格だと言える。
【0057】
このように、変形例の包装シート18(耐熱コート層44)及びその製造方法においても、上記と同様の優れた効果が得られる。
【0058】
なお、本発明のPTP用の包装シート及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の包装シート18は、アルミニウム箔22と耐熱コート層30,44との間に白濁色印刷層24や第一及び第二印刷層26,28を設けているが、必要なければ、これらの一部又は全部を無くしてもよい。反対に、アルミニウム箔22と耐熱コート層30,44との間に別の印刷層を追加することも可能である。
【0059】
また、
図2に示す製造方法は、
図1(a)に示す包装シート18の構成に対応したものであり、包装シート18の構成の一部が変更された場合は、その変更に合わせて工程の一部を変更すればよい。例えば、白濁色印刷層24や第一及び第二印刷層26,28を無くした包装シート18を製造する場合、
図2のフローチャートの中の、白濁色印刷層24や第一及び第二印刷層26,28に関連する工程(工程K12(1)~K17(1))を単純に省略すればよく、その他の工程(工程K11,K18(1),K19(1),K12(2)~K19(2)/工程KK1~KK3)の内容は、ほとんど変更する必要はない。第三印刷層32を無くした包装シート18を製造する場合も同様である。
【符号の説明】
【0060】
10 PTP包装体
12 容器シート
16,18 PTP用の包装シート
20 包装シート製造装置
22 アルミニウム箔
22a 第一面
22b 第二面
30,44 耐熱コート層
30x,44x 耐熱コート剤
KK1 耐熱コート剤準備工程
KK2 耐熱コート剤塗布工程
KK3 耐熱コート剤加熱工程