(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060702
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】手袋
(51)【国際特許分類】
A41D 19/00 20060101AFI20240425BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A41D19/00 M
A41D19/015 510Z
A41D19/015 110
A41D19/00 P
A41D19/015 210A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168126
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】591161900
【氏名又は名称】ショーワグローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】米光 豊成
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AA10
3B033AA27
3B033AA30
3B033AA31
3B033AB02
3B033AB04
3B033AB06
3B033AB10
3B033AB14
3B033AC01
3B033AC04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】体積抵抗値が一定の範囲に収まり易く、かつ耐久性に優れた手袋を提供する。
【解決手段】手袋1の本体部10aが、掌部分の少なくとも一部に、導電糸を含む帯状の導電部分20と、導電糸を含まない帯状の非導電部分30との繰返構造を有し、本体部10が、その表面に、導電部分20を凹部、非導電部分を凸部とする凹凸を有し、導電部分20が、導電糸及び導電糸によりカバーリングされた芯糸を有する導電性複合糸により構成され、導電糸が本体部10aの表面及び裏面に跨って配置されており、芯糸の伸長率が3%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製の糸を編成した手袋本体を備え、
上記手袋本体が、本体部と、5本の有底筒状の指収容部と、筒状の裾部とを有し、
上記本体部が、着用者の掌及び手の甲を覆うよう袋状に形成され、上記5本の指収容部が、着用者の第1指乃至第5指をそれぞれ覆うよう上記本体部から延設され、上記裾部が、上記5本の指収容部とは反対方向に延設されている手袋であって、
上記本体部が、掌部分の少なくとも一部に、導電糸を含む帯状の導電部分と、導電糸を含まない帯状の非導電部分との繰返構造を有し、
上記本体部が、その表面に、上記導電部分を凹部、上記非導電部分を凸部とする凹凸を有し、
上記導電部分が、上記導電糸及び上記導電糸によりカバーリングされた芯糸を有する導電性複合糸により構成され、
上記導電糸が上記本体部の表面及び裏面に跨って配置されており、
上記芯糸の伸長率が3%以下である手袋。
【請求項2】
上記芯糸の伸長率が、上記導電糸の伸長率より低い請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
上記非導電部分を構成する非導電糸の上記導電性複合糸に対する繊度の比が、1.08倍以上である請求項1又は請求項2に記載の手袋。
【請求項4】
上記非導電糸の伸長率が、上記導電性複合糸の伸長率より大きい請求項1又は請求項2に記載の手袋。
【請求項5】
上記芯糸が、耐切創糸である請求項1又は請求項2に記載の手袋。
【請求項6】
上記非導電糸が、耐切創糸と添糸とにより構成され、
上記添糸が、スパンデックスの芯糸をカバーリングしたシングルカバードヤーンである請求項5に記載の手袋。
【請求項7】
上記本体部の繰返構造の一部又は全部を被覆し、樹脂製又はゴム製である導電性被膜を備える請求項1又は請求項2に記載の手袋。
【請求項8】
上記本体部の表面の上記導電性被膜で被覆される領域に、スパンデックスの芯糸をナイロン繊維でカバーリングした糸がプレーティング編みで配置されている請求項7に記載の手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
作業用手袋として、帯電を除去するものが知られている(例えば実公昭57-161899号公報参照)。このような作業用手袋は、導電性を有しており、可燃性あるいは爆発性を伴う雰囲気下での作業の危険性を低減したり、握持対象物としての電子機器の静電破壊を抑止したりすることができる。
【0003】
一方、手袋の抵抗値が下がりすぎると、例えば作業者が感電するおそれや、電子機器を握持した場合においては電気的な短絡故障を発生させるおそれが生じる。このため、上記作業用手袋では、非導電性繊維に導電性繊維を混用し、全体として所望の電気抵抗値(体積抵抗値)となるように導電性繊維の量が調整された、いわゆる制電手袋とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の制電手袋では、導電性繊維の含有量は0.01質量%~5質量%程度とされている。この含有量は、手袋の表面積の比率に相当すると考えられるので、手袋の表面のうち、導電性を示す部分は5%以下ということになる。このような場合、比較的少量の導電性繊維に摩耗が生じると、手袋の導電性が大きく変動したり、局所的に導電性を示さなくなったりするおそれがある。このため、制電手袋において導電性機能を維持し、耐久性を確保するためには、導電糸の摩耗を防止することが重要である。
【0006】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものであり、体積抵抗値が一定の範囲に収まり易く、かつ耐久性に優れた手袋の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る手袋は、繊維製の糸を編成した手袋本体を備え、上記手袋本体が、本体部と、5本の有底筒状の指収容部と、筒状の裾部とを有し、上記本体部が、着用者の掌及び手の甲を覆うよう袋状に形成され、上記5本の指収容部が、着用者の第1指乃至第5指をそれぞれ覆うよう上記本体部から延設され、上記裾部が、上記5本の指収容部とは反対方向に延設されている手袋であって、上記本体部が、掌部分の少なくとも一部に、導電糸を含む帯状の導電部分と、導電糸を含まない帯状の非導電部分との繰返構造を有し、上記本体部が、その表面に、上記導電部分を凹部、上記非導電部分を凸部とする凹凸を有し、上記導電部分が、上記導電糸及び上記導電糸によりカバーリングされた芯糸を有する導電性複合糸により構成され、上記導電糸が上記本体部の表面及び裏面に跨って配置されており、上記芯糸の伸長率が3%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の手袋は、体積抵抗値が一定の範囲に収まり易く、かつ耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る手袋を掌側から見た模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の繰返構造部分を拡大した模式的平面図である。
【
図4】
図4は、導電性複合糸の構成を示す模式的側面図である。
【
図5】
図5は、
図1とは異なる実施形態に係る手袋を掌側から見た模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5の手袋を手の甲側から見た模式的斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例における手袋を掌側から見た模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0011】
本発明の一態様に係る手袋は、繊維製の糸を編成した手袋本体を備え、上記手袋本体が、本体部と、5本の有底筒状の指収容部と、筒状の裾部とを有し、上記本体部が、着用者の掌及び手の甲を覆うよう袋状に形成され、上記5本の指収容部が、着用者の第1指乃至第5指をそれぞれ覆うよう上記本体部から延設され、上記裾部が、上記5本の指収容部とは反対方向に延設されている手袋であって、上記本体部が、掌部分の少なくとも一部に、導電糸を含む帯状の導電部分と、導電糸を含まない帯状の非導電部分との繰返構造を有し、上記本体部が、その表面に、上記導電部分を凹部、上記非導電部分を凸部とする凹凸を有し、上記導電部分が、上記導電糸及び上記導電糸によりカバーリングされた芯糸を有する導電性複合糸により構成され、上記導電糸が上記本体部の表面及び裏面に跨って配置されており、上記芯糸の伸長率が3%以下である。
【0012】
当該手袋は、凸部に位置し、上記導電部分を挟むように配置される非導電部分に対し、導電部分が凹部に位置するため、導電部分は握持対象物へ強く接することがない。従って、当該手袋は、導電糸の摩耗を防止することができる。さらに、当該手袋は、導電糸が本体部の表面及び裏面に跨って配置されているので、当該手袋の表裏面間の導電性を示す体積抵抗値を一定の範囲に収め易い。
【0013】
上記芯糸の伸長率が、上記導電糸の伸長率より低いとよい。このように上記芯糸の伸長率を上記導電糸の伸長率より低くすることで、導電糸の握持対象物への接触を維持しつつ、導電糸が手袋の最表面を超えて飛び出すことを、より確実に抑止できる。
【0014】
上記非導電部分を構成する非導電糸の上記導電性複合糸に対する繊度の比としては、1.08倍以上が好ましい。このように上記繊度の比を上記下限以上とすることで、導電部分を凹部、非導電部分を凸部とする凹凸を容易に付与することができる。
【0015】
上記非導電糸の伸長率が、上記導電性複合糸の伸長率より大きいとよい。このように非導電糸に導電性複合糸より大きい伸長率を付与すると、非導電部分の凸部を形成し易くすることができる。
【0016】
上記芯糸が、耐切創糸であるとよい。このように上記芯糸を耐切創糸とすることで、帯電のみならず切創からも作業者を防護することができる。
【0017】
上記非導電糸が、耐切創糸と添糸とにより構成され、上記添糸が、スパンデックスの芯糸をカバーリングしたシングルカバードヤーンであるとよい。このようにスパンデックスの芯糸をカバーリングしたシングルカバードヤーンを添糸とすることで、耐切創糸がスパンデックスの収縮の力を受けて蛇行して配置される。この蛇行は当該手袋の厚さ方向に生じるため、非導電部分が厚くなり、耐切創性を向上させることができる。
【0018】
上記本体部の繰返構造の一部又は全部を被覆し、樹脂製又はゴム製である導電性被膜を備えるとよい。このように上記本体部の繰返構造の一部又は全部を被覆し、樹脂製又はゴム製である導電性被膜を備えることで、滑り止め性能を付与するとともに当該手袋の耐久性を向上させることができる。
【0019】
上記本体部の表面で、上記導電性被膜で被覆される領域に、スパンデックスの芯糸をナイロン繊維でカバーリングした糸がプレーティング編みで配置されているとよい。このように上記本体部の表面で、上記導電性被膜で被覆される領域に、スパンデックスの芯糸をナイロン繊維でカバーリングした糸をプレーティング編みで配置することで、導電性被膜との密着性が向上し、体積抵抗値の制御性と当該手袋の耐久性とを高められる。
【0020】
ここで、糸(繊維)の「伸長率」とは、60cmの糸に0.075gの錘をつるした状態で20cm間隔の印をつけ、6gの錘に付け替えたときにその印が示す間隔を読み取り、伸長した割合を下記式で計算したものである。なお、伸長率の異なる糸を組み合わせて使用する場合、編成状態に近い状態を作るために、測定前に以下の作業を行う。それぞれの糸に20gの錘をつるした状態で、それぞれの端部を寄せ集めてひとまとまりとし、1本の糸と見立てて0.075gの錘をセットする。その後20gの錘を取り外して測定を開始する。
[伸長率]=([6gの錘時の間隔(cm)]-20)/20×100 (%)
【0021】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の各実施形態に係る手袋について適宜図面を参照しつつ説明する。
【0022】
〔第1実施形態〕
図1に示す手袋1は、繊維製の糸を編成した手袋本体10を備える。
【0023】
手袋本体10は、本体部10aと、5本の有底筒状の指収容部10bと、筒状の裾部10cとを有する。本体部10aは、着用者の掌及び手の甲を覆うよう袋状に形成されている。5本の指収容部10bは、着用者の第1指乃至第5指をそれぞれ覆うよう本体部10aから延設されている。裾部10cは、5本の指収容部10bとは反対方向に延設されている。
【0024】
<繰返構造>
本体部10aは、掌部分の少なくとも一部に、
図2及び
図3に示すように、導電糸21を含む帯状の導電部分20と、導電糸21を含まない帯状の非導電部分30との繰返構造40を有している。また、本体部10aは、
図3に示すように、その表面に、導電部分20を凹部20a、非導電部分30を凸部30aとする凹凸を有している。
【0025】
繰返構造40は、
図1に示すように、掌部分全体を覆うように設けられていることが好ましい。掌部分で握持対象物を保持する場合が多いが、掌部分のいずれの場所が握持対象物に当接しても、電子部品を保護することができる。また、繰返構造40は、手の甲を覆っていてもよい。手の甲側にも繰返構造40を設けることで、手の甲部においても安全性を向上させることができる。
【0026】
隣合う導電部分20と非導電部分30とのコース数比の下限としては、1:2であり、1:3がより好ましい。一方、上記コース数比の上限としては、1:5であり、1:4がより好ましい。上記コース数比が上記下限未満であると、凸部30aを構成する非導電部分30の幅が相対的に狭く、その変形により凹部20aを構成する導電部分20が握持対象物へ強く接する場合が生じ得る。このため、導電糸21の摩耗防止効果が低下するおそれがある。逆に、上記コース数比が上記上限を超えると、繰返構造40の体積抵抗値が高くなり過ぎ、作業者が帯電し易くなるおそれがある。
【0027】
導電部分20のコース数としては、1コース以上3コース以下が好ましく、1コース以上2コース以下がより好ましく、1コースがさらに好ましい。このように導電部分20のコース数を上記範囲内とすると、非導電部分30に挟まれる導電部分20の幅が限られるため、導電糸21の摩耗防止効果を高め易い。
【0028】
繰返構造40におけるEN61340-2-3で規定される体積抵抗値の下限としては、3.5×103Ωが好ましく、1.0×104Ωがより好ましい。一方、上記体積抵抗値の上限としては、1.0×108Ωが好ましく、1.0×107Ωがより好ましい。上記体積抵抗値が上記下限未満であると、握持対象物が握持された際に電気的な短絡故障を発生させるおそれがある。逆に、上記体積抵抗値が上記上限を超えると、作業者が帯電し易くなるおそれがある。また、上記体積抵抗値が1.0×108Ωを超えると、EN16350の規格を満たさなくなる。なお、「体積抵抗値」及び「表面抵抗値」は、EN規格であるEN61340-2-3:2016 8に従って測定されるが、測定試料は、導電性が要求されている掌部分の繰返構造の中央部から切り出されるものとする。
【0029】
繰返構造40におけるEN61340-2-3で規定される表面抵抗値の下限としては、3.5×103Ωが好ましく、1.0×104Ωがより好ましい。上記表面抵抗値の上限としては、1.0×108Ωが好ましく、1.0×107Ωがより好ましい。このように表面抵抗値を上記範囲内とすることで、電子部品の保護性能を維持しつつ、防爆性能をさらに高め、かつタッチパネルの操作性を高めることができる。
【0030】
ここで、「体積抵抗値」及び「表面抵抗値」は、EN規格であるEN61340-2-3:2016 8に従って測定されるが、測定試料は、導電性や防爆性が要求されている掌部分の繰返構造40の中央部から切り出されるものとする。
【0031】
(導電部分)
導電部分20は、
図4に示す導電性複合糸22により構成されている。導電性複合糸22は、導電糸21と芯糸23とを有し、芯糸23は、導電糸21によりカバーリングされている。このように導電糸21が芯糸23をカバーリングする構成とすることで、導電糸21の偏在が避けられ、どの方向からでも作業者の手や握持物に導電糸21が接触しやすくなる。このため、導電性を確保し易い。
【0032】
導電糸21は、本体部10aの表面及び裏面に跨って配置されている。つまり、導電性複合糸22は、本体部10aの表面と裏面との間を往復するように編成されており、本体部10aの表面と裏面との間を電気的に短絡する導通経路が存在している。当該手袋1では、導電糸21が凹部20aに配置されることとなるため、これを挟む非導電部分30(凸部30a)よりも低い位置に導電糸21が位置する。当該手袋1を着用して握持対象物を握持すると、凸部30aの変形により、凹部20aも握持対象物へ接触することになるが、強く接するわけではないため、例えば凹凸の高さを適切にとることで、握持対象物との間に適度の接触抵抗を生じさせることができる。当該手袋1では、この適度の接触抵抗と上記導通経路とにより、繰返構造40における体積抵抗値が一定の範囲に制御されている。
【0033】
導電糸21としては、カーボン複合有機繊維、金属酸化物複合有機繊維、金属化合物複合有機繊維、金属メッキの有機繊維等の導電繊維を含む糸を挙げることができ、例えば株式会社クラレ製クラカーボ(登録商標)、株式会社セーレン製ベクトロン(登録商標)、日本蚕毛染色株式会社製サンダーロン(登録商標)、ミツフジ株式会社製AGposs(登録商標)等を用いることができる。
【0034】
これらの繊維からなる糸の繊度の下限としては、10dtexが好ましく、20dtexがより好ましい。一方、上記糸の繊度の上限としては、50dtexが好ましく、40dtexがより好ましい。上記糸の繊度を上記範囲内とすることで、繰返構造40の導電性を確保するとともに、当該手袋1の強度を維持し、かつ長期に渡り導電性を維持することができる。上記糸の繊度が上記下限未満であると、導電糸21の耐久性が低下するおそれがある。逆に、上記糸の繊度が上記上限を超えると、編成後の当該手袋1が硬くなるおそれや、当該手袋1の製造コストが高くなり過ぎるおそれがある。
【0035】
導電糸21の伸長率の上限としては、10%が好ましく、5%がより好ましい。導電糸21の伸長率を上記上限以下とすることで、導電糸21が手袋1の最表面を超えて飛び出すことを、より確実に抑止できる。従って、導電糸21の切断を防止できるので、当該手袋1の耐久性を向上させることができる。また、導電糸21の伸長率の下限は、理論限界の0%でも良いが、好ましくは1%である。
【0036】
芯糸23は、耐切創糸であるとよい。このように芯糸23を耐切創糸とすることで、帯電のみならず切創からも作業者を防護することができる。耐切創性能が得られる限り、複数の耐切創糸と非耐切創糸とを組み合わせた複合糸とすることもできる。このような非耐切創糸としては、吸湿を目的とした綿糸、マイクロファイバー等を挙げることができる。
【0037】
上記耐切創糸としては、超高分子量ポリエチレン糸、高延伸ポリエチレン糸、液晶ポリエステル糸、アラミド糸、ガラス繊維糸、ガラス繊維複合糸、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)糸のほか、ポリエチレン繊維やポリエステル繊維などの有機繊維中にガラス繊維や炭素繊維、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素など高硬度フィラーを分散させた高硬度フィラー含有有機繊維からなる糸等を用いることができる。上記糸は単独の糸又はそれらの組み合わせとしてもよい。
【0038】
芯糸23の形態は、フィラメント糸、紡績糸のいずれの形態であってもよい。芯糸23がフィラメント糸の場合、ストレート形状であっても、捲縮が加えられていてもよい。ストレート形状の場合、繊維同士がばらけるのを防止するため、さらにインターレース加工がなされていてもよい。ここで、伸縮性のある糸が縮んだとき、構成する繊維は屈曲しながら縮むことになる。すなわち、糸はそれを構成する繊維そのものの体積よりも非常に過大な空間を占めることになる。芯糸23の伸縮を抑えることで芯糸23の占めるこの空間の体積を抑える観点からは、フィラメント糸、紡績糸のいずれの糸も使用可能であるが、これらの中でも、柔軟性の観点からフィラメント糸が好ましく、強度の観点からストレート形状のフィラメント糸がより好ましい。なお、芯糸23の占める空間の体積を抑える目的は、導電性複合糸22に占める導電糸21の体積が相対的に少なくなり、導電性が低下することを抑止する点、及び導電糸21が外に広がることで摩耗しやすくなることを抑止する点にある。
【0039】
芯糸23の伸長率の上限としては、3%であり、1.5%がより好ましい。芯糸23の伸長率を上記上限以下とすることで、芯糸23の伸びが抑えられる。従って、芯糸23に巻かれ、芯糸23より伸縮性のある導電糸21の切断を防止できるので、当該手袋1の耐久性を向上させることができる。なお、芯糸23の伸長率の下限は、特に限定されず、理論限界である0%であってもよい。
【0040】
芯糸23の伸長率は、導電糸21の伸長率より低いことが好ましい。このように芯糸23の伸長率を導電糸21の伸長率より低くすることで、導電糸21の握持対象物への接触を維持しつつ、導電糸21が当該手袋1の最表面を超えて飛び出すことを、より確実に抑止できる。
【0041】
芯糸23に超高分子量ポリエチレン糸、アラミド糸などの有機繊維や高硬度フィラー含有有機繊維からなる糸を用いる場合、その繊度の下限としては、強度の観点から50dtexが好ましく、100dtexがより好ましい。一方、上記繊度の上限としては、当該手袋1の触感の観点から600dtexが好ましく、500dtexがより好ましく、350dtexがさらに好ましい。
【0042】
芯糸23にガラス繊維糸を用いる場合、その繊度の下限としては、強度の観点から50dtexが好ましい。一方、上記繊度の上限としては、当該手袋1の触感の観点から250dtexが好ましく、200dtexがより好ましい。
【0043】
芯糸23が耐切創糸である場合、芯糸23の繊度の下限としては、耐切創性の確実な付与の観点から50dtexが好ましく、100dtexがより好ましく、150dtexがさらに好ましい。一方、芯糸23の繊度の上限としては、当該手袋1の触感の観点から600dtexが好ましく、500dtexがより好ましく、350dtexがさらに好ましい。
【0044】
導電性複合糸22において、芯糸23の単位長当たりの導電糸21の巻数の下限としては、100回/mが好ましく、150回/mがより好ましい。一方、上記巻数の上限としては、500回/mが好ましく、450回/mがより好ましい。上記巻数が上記下限未満であると、導電糸21が偏在し易くなるおそれがある。逆に、上記巻数が上記上限を超えると、当該手袋1の柔軟性が低下するおそれがある。
【0045】
導電性複合糸22の繊度の下限としては、60dtexが好ましく、120dtexがより好ましく、160dtexがさらに好ましく、200dtexが特に好ましい。一方、導電性複合糸22の繊度の上限としては、650dtexが好ましく、600dtexがより好ましく、500dtexがさらに好ましく、400dtexが特に好ましい。導電性複合糸22の繊度が上記下限未満であると、導電性と強度との両立が困難となるおそれがある。逆に、導電性複合糸22の繊度が上記上限を超えると、当該手袋1の柔軟性が低下するおそれがある。なお、導電性複合糸22の芯糸23に耐切創糸を用いる場合、耐切創性を確保する観点から導電性複合糸22の繊度は、120dtex以上であることが好ましい。
【0046】
導電性複合糸22の伸長率の上限としては、3%が好ましく、1.5%がより好ましい。芯糸23の伸長率を上記上限以下とすることで、掌部分における導電性複合糸22の占める空間の体積が抑え易くなる。従って、導電性複合糸22の摩耗が抑えられるとともに接触抵抗が制御され、繰返構造40における体積抵抗値が一定の範囲になるよう容易に制御することができる。なお、導電性複合糸22の伸長率の下限は、特に限定されず、理論限界である0%であってもよい。
【0047】
(非導電部分)
非導電部分30は、非導電糸31で構成されている。
【0048】
手袋本体10が平編みで編まれている場合、非導電糸31は導電性複合糸22よりも嵩高い糸、つまり非導電糸31の繊度が導電性複合糸22の繊度より大きい、又は非導電糸31のみに嵩高加工がなされた糸が含まれているとよい。これにより非導電部分30が凸部30aとして形成される。このように非導電部分30を凸部30aとすることで、凹部20aに位置する導電糸21よりも作業者の手や握持物に強く接触することになる。この構成により、当該手袋1は導電糸21の摩耗を防ぎ、導電性を長期間確保することができる。
【0049】
非導電部分30を構成する非導電糸31の導電性複合糸22に対する繊度の比の下限としては、1.08倍が好ましく、1.13倍がより好ましい。一方、上記繊度の比の上限としては、1.8倍が好ましく、1.6倍がより好ましい。上記繊度の比が上記下限未満であると、手袋本体10の凹凸が不足し、導電糸21の摩耗防止効果が低下するおそれがある。逆に、上記繊度の比が上記上限を超えると、凹凸が深くなり過ぎ、導電糸21と握持物との接触が十分に確保できず、導電性が不十分となるおそれがある。
【0050】
非導電糸31の伸長率の下限としては、10%が好ましく、20%がより好ましい。非導電糸31の伸長率の上限としては、400%が好ましく、300%がより好ましい。非導電糸31の伸長率を上記範囲内とすることで、導電糸21の摩耗が抑えられるとともに接触抵抗が制御され、繰返構造40における体積抵抗値を一定の範囲に制御し易くなる。非導電糸31の伸長率が上記下限未満であると、掌部分における非導電糸31の占める空間の体積が小さく、凸部を形成し難くなり、導電糸21と握持対象物との接触が増えて体積抵抗値を制御し難くなるとともに、導電糸21の摩耗が増えて耐久性が低下し易くなるおそれがある。逆に、導電糸31の伸長率が上限を超えると、非導電糸31の占める空間の体積が大きくなり過ぎて、手袋本体10の凹凸が深くなりすぎ、導電糸21と握持対象物との接触が十分に確保できず、導電性が不十分となるおそれがある。
【0051】
また、非導電糸31の伸長率は、導電性複合糸22の伸長率より大きいとよい。これにより、非導電糸31で編まれた非導電部分30の縮みは、導電性複合糸22で編まれた導電部分20よりも大きくなり、結果として非導電部分30は導電部分20より嵩高く形成できる。このため、非導電部分30の凸部30aを形成し易くすることができる。
【0052】
非導電糸31の素材としては、綿繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、高延伸ポリエチレン繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維、ポリウレタン弾性繊維、天然ゴム繊維のほか、ポリエチレン繊維やポリエステル繊維などの有機繊維中にガラス繊維や炭素繊維、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素など高硬度フィラーを分散させた高硬度フィラー含有有機繊維及びそれらの複合繊維等が挙げられる。
【0053】
非導電糸31は、発塵を防止する観点からフィラメント糸であることが好ましい。また、非導電糸31は、編成後の当該手袋1にフィット性を付与する観点から弾性糸であることが好ましい。
【0054】
導電性複合糸22の芯糸23が耐切創糸である場合、非導電糸31も耐切創糸であることが好ましい。このように非導電糸31も耐切創糸とすることで均一な耐切創性を付与することができる。また、凸部30aに耐切創糸が含まれることとなるため、凸部30aの耐摩耗性が向上し、凸部30aにより保護される凹部20aに位置する導電糸21の耐摩耗性も向上する。このため、当該手袋1の導電性を長期間にわたって維持することができる。上記耐切創糸としては、芯糸23で挙げた各種の耐切創糸を用いることができる。
【0055】
非導電糸31は、上記耐切創糸に加えて添糸を用いたものであってもよい。上記添糸により非導電部分30の体積を確保し、凸部30aを形成し易くすることができる。特に上記添糸にポリエステル糸やナイロン糸、綿糸等の汎用糸を使用することで、耐切創性を付与しつつ、かつ当該手袋1のコストを下げることができる。
【0056】
非導電糸31の上記耐切創糸と上記添糸とは、引き揃えて編まれていてもよく、プレーティング編みがなされていてもよく、撚糸として用意されて平編みされていてもよい。
【0057】
非導電糸31の上記添糸には弾性糸を用いることが好ましい。上記弾性糸としては、天然ゴム繊維やポリウレタン繊維(スパンデックス)を素材とする芯糸をナイロン繊維やポリエステル繊維などでカバーリングしたシングルカバードヤーン(SCY)が挙げられる。このようにスパンデックスの芯糸をカバーリングしたシングルカバードヤーンを添糸とすることで、耐切創糸がスパンデックスの収縮の力を受けて蛇行して配置される。この蛇行は当該手袋2の厚さ方向に生じるため、非導電部分30が厚くなり、耐切創性を向上させることができる。また、非導電糸31及び導電性複合糸22に用いられる耐切創糸は、伸縮性が低いため、少なくとも導電部分20では、非導電部分30でスパンデックスを含む部分よりも編み目が開き易く、通気性を確保し易い。このため、得られる手袋1は、厚みに対して通気性が高い手袋となる。
【0058】
非導電糸31の上記添糸がスパンデックスをカバーリングしたSCYである場合、そのスパンデックスの繊度の下限としては、10dtexが好ましく、20dtexがより好ましい。一方、上記スパンデックスの繊度の上限としては、78dtexが好ましく、56dtexがより好ましく、35dtexがさらに好ましい。上記スパンデックスの繊度を上記範囲内とすることで、非導電部分30を嵩高くできるとともに、当該手袋1に適度なフィット感を与えることができる。上記スパンデックスのカバーリングに用いられる糸は、捲縮加工が施されたナイロン繊維又はポリエステル繊維の捲縮糸が好ましく、上記捲縮糸の繊度としては、50dtex以上156dtex以下が好ましい。これにより編み加工性が高まり、非導電部分30をより嵩高くできる。また、SCYの製造時のドラフトは、2.0以上4.5以下が好ましく、カバーリングに用いられる糸の単位長当たりの巻数は、200回/m以上700回/m以下が好ましい。
【0059】
<指収容部及び裾部>
指収容部10b及び裾部10cは、導電部分20のみあるいは非導電部分30のみとしてもよく、本体部10aと同様に繰返構造40としてもよい。指収容部10bと裾部10cとで異なる構造とすることも可能である。例えばタッチパネルを使用する作業現場向けである場合には、指収容部10bを導電部分20として編んでもよい。
【0060】
指収容部10b及び裾部10cは、導電部分20や非導電部分30と同様の構成を採用できる。また、編成にあたって、伸縮性を付与するために天然ゴム、ポリウレタン等を素材とする弾性糸を併せて使用してもよい。指収容部10b及び裾部10cに使用する糸は用途に合わせて適宜選定される。
【0061】
<手袋の製造方法>
当該手袋1は、用意工程と、編成工程と、裏返工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0062】
(用意工程)
上記用意工程では、導電性複合糸22と非導電糸31とを用意する。
【0063】
ここでは、導電性複合糸22の芯糸23として耐切創糸が用いられ、非導電糸31として耐切創糸と添糸とを用いる場合を例に取り説明を続けるが、導電性複合糸22及び非導電糸31が上述の組み合わせに限定されることを意味するものではない。上述した他の糸を用いることもできる。
【0064】
(編成工程)
上記編成工程では、上記用意工程で用意した糸を用いて横編機で手袋本体10を編成する。
【0065】
手袋本体10の編成に用いる編機としては、既存の横編機を使用することができる。上記編機としては、例えば島精機製の横編機SFG-iやコンピューター横編機SWG等を挙げることができる。
【0066】
編機のゲージ数の下限としては、13が好ましく、18がより好ましい。一方、編機のゲージ数の上限としては、26が好ましい。
【0067】
編まれた手袋本体10の単位長さ当りのコース数の下限としては、30コース/インチが好ましく、40コース/インチがより好ましい。一方、上記単位長さ当りのコース数の上限としては、60コース/インチが好ましく、55コース/インチがより好ましい。上記単位長さ当りのコース数を上記下限以上とすることで、隣り合う導電部分20の間隔を狭めることができ、防爆機能を安定化させることができる。また、上記単位長さ当りのコース数を上記上限以下とすることで、編み目が詰まりすぎることが防止され、手袋本体10に伸縮性を付与することができ、手の曲げ伸ばしに対して当該手袋1がフィットしやすくなる。
【0068】
例えば上記編機としてSFG-iを用いる場合、手袋本体10の編成に使用できる糸供給フィーダーとして主糸用フィーダー、添糸用フィーダー、2色転換用フィーダー(color yarn feeder)があり、それぞれに例えば非導電糸31の耐切創糸、非導電糸31の添糸、導電性複合糸22を供給する。なお、各糸に対するフィーダーは、上述の組み合わせに限定されず、本願発明の要件を満たす範囲で適宜選択することができる。
【0069】
非導電部分30は、非導電糸31により編成される。ここでは、耐切創糸と添糸がプレーティング編みにて編成される。すなわち非導電糸31の耐切創糸が表目側に配置され、非導電糸31の添糸が裏目側に配置される。編まれた手袋2は表裏反転して使用されるため、上記添糸が当該手袋1の表側に配置される。このとき、上記添糸にスパンデックスのSCYが用いられている場合、SCYを含んで編成された編み生地が上記添糸により圧縮され、上記耐切創糸の密度が高まるとともに非導電部分30の厚みが増し、耐切創性が向上する。
【0070】
導電部分20は、導電性複合糸22により編成される。
【0071】
また、編成途中に非導電糸31の耐切創糸及び添糸と、導電性複合糸22とを切り替えることで、非導電部分30と導電部分20とを交互に形成することができる。具体的には、主糸用フィーダー、添糸用フィーダーで非導電部分30を編成していたところ、この両フィーダーを止めて、2色転換用フィーダーを用いて導電部分20を編成することで実施できる。
【0072】
(裏返工程)
上記裏返工程では、上記編成工程後の手袋本体10を裏返す。これにより目的の手袋1を得ることができる。
【0073】
<利点>
当該手袋1は、凸部30aに位置し、導電部分20を挟むように配置される非導電部分30に対し、導電部分20が凹部20aに位置するため、導電部分20は握持対象物へ強く接することがない。従って、当該手袋1は、導電糸21の摩耗を防止することができる。さらに、当該手袋1は、導電糸21が本体部10aの表面及び裏面に跨って配置されているので、当該手袋1の表裏面間の導電性を示す体積抵抗値を一定の範囲に収め易い。
【0074】
また、当該手袋1では、伸長率が低い芯糸23に導電糸21が巻かれることで、導電糸21が手袋1の最表面を超えて飛び出すことを抑止できる。このため、より確実に導電部分20が握持対象物へ強く接することを抑止できるので、導電糸21の摩耗防止効果を高められる。さらに、当該手袋1は、導電部分20が直接的に握持対象物へ強く接することがないことと相まって、体積抵抗値の制御性が高められている。
【0075】
〔第2実施形態〕
図5及び
図6に示す手袋2は、繊維製の糸を編成した手袋本体10と、導電性被膜50とを備え、手袋本体10が、本体部10aと、5本の有底筒状の指収容部10bと、筒状の裾部10cとを有し、本体部10aが、着用者の掌及び手の甲を覆うよう袋状に形成され、5本の指収容部10bが、着用者の第1指乃至第5指をそれぞれ覆うよう本体部10aから延設され、裾部10cが、5本の指収容部10bとは反対方向に延設されている手袋であって、本体部10aが、掌部分の少なくとも一部に、導電糸21を含む帯状の導電部分20と、導電糸21を含まない帯状の非導電部分30との繰返構造40を有し、本体部10aが、その表面に、導電部分20を凹部20a、非導電部分30を凸部30aとする凹凸を有し、導電部分20が、導電糸21及び導電糸21によりカバーリングされた芯糸23を有する導電性複合糸22により構成され、導電糸21が本体部10aの表面及び裏面に跨って配置されており、芯糸23の伸長率が3%以下である。
【0076】
当該手袋2は、導電性被膜50を備える点以外は、第1実施形態の手袋1と同様であるため、同一番号を付して説明を省略する。なお、当該手袋2では、本体部10a、指収容部10b及び裾部10cに繰返構造40が設けられている。
【0077】
<導電性被膜>
導電性被膜50は、本体部10aの繰返構造40の一部又は全部を被覆し、樹脂製又はゴム製である。
図5及び
図6に示す手袋2では、本体部10a及び指収容部10bの掌側の全部と、指収容部10bの手の甲側の一部が導電性被膜50により被覆されている。
【0078】
導電性被膜50が樹脂製である場合、その主成分となる樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、例えばポリウレタン、ポリ塩化ビニル及びその混合物等を挙げることができる。なお、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0079】
導電性被膜50がゴム製である場合、その主成分となるゴムとしては、公知のゴムを用いることができ、例えば天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、スチレンイソプレンブロック共重合体、シリコーンゴム、及びその変性体、またそれらの混合物等を挙げることができる。中でも汎用性と手袋本体10の繊維への密着性、柔軟性及び耐摩耗性の観点から天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(変性体含む)及びクロロプレンゴムが好ましい。
【0080】
また、導電性被膜50には、導電性を付与するため導電性フィラーが添加されていることが好ましい。上記導電性フィラーとしては、公知のものを用いることができ、例えば大塚化学製デントールWK―500Bやライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製のケッチェンブラックEC300J等を挙げることができる。
【0081】
導電性被膜50は、各種配合剤を含んでいてもよい。上記配合剤としては、乳化剤や界面活性剤等の安定化剤、硫黄等の加硫剤、酸化亜鉛やジエチルジチオカルバミン酸亜鉛等の加硫促進剤、ジグリシジルエーテルやポリグリシジルエーテル、ポリカルボジイミド、ブロックイソシアネート、オキサゾリン基含有重合体、シランカップリング剤等の架橋剤、水酸化カリウムやアンモニア等のpH調整剤、ポリアクリル酸やカルボキシメチルセルロース等の増粘剤、顔料、酸化防止剤等などが挙げられる。
【0082】
導電性被膜50は、非発泡のコーティング層、発泡のコーティング層あるいはこれらの積層物として構成することができる。
【0083】
導電性被膜50は、手袋本体10の厚み方向の一部に浸透していてもよいが、少なくとも手袋本体10より外側に位置する。手袋本体10の外側に位置する導電性被膜50の厚みが当該手袋2の体積抵抗値に大きく関与すると考えられ、その厚みは、0.01mm以上1.0mm以下が好ましい。上記厚みを上記範囲内とすることで、導電性被膜50の耐久性と手袋2の柔軟性とを容易に確保することができる。
【0084】
当該手袋2の導電性被膜50が積層されている繰返構造40におけるEN61340-2-3で規定される体積抵抗値の下限としては、3.5×103Ωが好ましく、1.0×104Ωがより好ましい。一方、上記体積抵抗値の上限としては、1.0×108Ωが好ましく、1.0×107Ωがより好ましい。上記体積抵抗値が上記下限未満であると、握持対象物が握持された際に電気的な短絡故障を発生させるおそれがある。逆に、上記体積抵抗値が上記上限を超えると、作業者が帯電し易くなるおそれがある。
【0085】
当該手袋2の導電性被膜50が積層されている繰返構造40におけるEN61340-2-3で規定される表面抵抗値の下限としては、3.5×103Ωが好ましく、1.0×104Ωがより好ましい。上記表面抵抗値の上限としては、1.0×108Ωが好ましく、1.0×107Ωがより好ましい。このように表面抵抗値を上記範囲内とすることで、電子部品の保護性能を維持しつつ、防爆性能をさらに高め、かつタッチパネルの操作性を高めることができる。
【0086】
本体部10aの表面で、導電性被膜50で被覆される領域に、スパンデックスの芯糸をナイロン繊維でカバーリングした糸がプレーティング編みで配置されているとよい。このように本体部10aの表面で、導電性被膜50で被覆される領域に、スパンデックスの芯糸をナイロン繊維でカバーリングした糸をプレーティング編みで配置することで、導電性被膜50との密着性が向上し、体積抵抗値の制御性と当該手袋2の耐久性とを高められる。また、スパンデックスの収縮の力により導電部分20で編み目が開き易く、導電性被膜50が手袋内面に浸透し易い。このため、導電部分20を構成する導電糸21が導電性被膜50で覆われやすくなり、導電糸21の摩耗防止効果を高めることができる。
【0087】
<手袋の製造方法>
当該手袋2は、用意工程と、編成工程と、裏返工程と、コンパウンド準備工程と、積層工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0088】
(用意工程、編成工程、裏返工程)
上記用意工程では、導電性複合糸22と非導電糸31とを用意する。上記編成工程では、上記用意工程で用意した糸を用いて横編機で手袋本体10を編成する。上記裏返工程では、上記編成工程後の手袋本体10を裏返す。これらの各工程は、第1実施形態の手袋1の製造方法と同様に行うことができるので、詳細説明を省略する。
【0089】
(コンパウンド準備工程)
上記コンパウンド準備工程では、導電性被膜50を形成するための被膜原料コンパウンドを準備する。上記コンパウンド準備工程は、上記積層工程の前であれば、他の工程との前後は問わない。例えば上記用意工程と同時に行ってもよい。
【0090】
上記被膜原料コンパウンドは、ラテックス、樹脂溶液又は樹脂ゾルとして用意され、導電性を付与するために例えば導電性フィラーが添加されている。
【0091】
被膜原料コンパウンドの主成分がラテックスの場合、天然ゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、スチレンイソプレンブロック共重合体、シリコーンゴム、アクリルゴム等のラテックスを挙げることができる。中でも汎用性と手袋本体10の繊維への密着性、柔軟性及び耐摩耗性の観点から天然ゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム及びクロロプレンゴムラテックスが好ましい。
【0092】
また、主成分が樹脂である場合、樹脂溶液としては、ポリウレタン溶液、シリコーンゴム溶液等が挙げられ、樹脂ゾルとしては、ポリ塩化ビニルゾル等を挙げることができる。
【0093】
上記被膜原料コンパウンドは、導電性被膜50を形成するためのゴム又は樹脂組成物に加えて、上述した各種配合剤を配合することができる。また、導電性被膜50を多孔質とする場合は、化学発泡剤や熱膨張性マイクロカプセルのほか、原料を機械的に発泡させるため、起泡剤や泡安定剤を加えることができる。
【0094】
(積層工程)
上記積層工程では、手袋本体10の所望の箇所に導電性被膜50を積層する。
【0095】
導電性被膜50は、手袋本体10を手型に被せた後に、(1)加熱した手袋本体10に熱凝固性の高いラテックスコンパウンドを反応させる方法、(2)手袋本体10を硝酸カルシウムメタノール溶液等の凝固剤に浸漬した後にラテックス原料コンパウンドに反応させる方法、(3)手袋本体10をポリウレタンのジメチルフォルムアミド溶液に浸漬し、続いて水中でポリウレタンを析出させる方法、(4)手袋本体10に撥油加工を行い、ポリ塩化ビニルゾルに浸漬する方法の4つの方法のいずれかを用いて、被膜原料コンパウンドを手袋本体10に塗布した後、加熱により導電性被膜50を形成することができる。この場合、導電性被膜50が手袋本体10と直接接している部分については、手袋本体10の平均厚さの10%以上70%以下の範囲で浸透していることが、剥離防止、柔軟性維持及び導電性付与の観点から好ましい。
【0096】
導電性被膜50を積層した後、加硫や架橋などにより導電性被膜50の強度を高めるためにさらに加熱硬化させ、手型から取り外すことで当該手袋2を得ることができる。なお、導電性被膜50を積層してから加熱硬化させた当該手袋2を取り外した後までのいずれかのタイミングにおいて、当該手袋2から余分な凝固剤や乳化剤、加硫促進剤等を取り除くために当該手袋2を水洗する水洗工程を設けてもよい。
【0097】
また、導電性被膜50の表面には既知の滑止め加工を施してもよい。滑止性を付与する方法としては、粒子により導電性被膜50の外面に凹凸を付ける方法、導電性被膜50を発泡層とする方法、導電性被膜50のさらに外面に導電性の発泡層を設ける方法、導電性被膜50の形成時に加熱前の導電性被膜50に対し潮解性粒子を塗布し加熱後に除去することで凹形状を形成する方法、導電性被膜50の形成時に溶剤で膨潤させて凹凸模様を付ける方法、プレス加工により凹凸を付ける方法等を挙げることができる。
【0098】
<利点>
当該手袋2は、凸部30aに位置し、導電部分20を挟むように配置される非導電部分30に対し、導電部分20が凹部20aに位置するため、導電部分20は握持対象物へ強く接することがない。従って、当該手袋2は、導電糸21の摩耗を防止することができる。さらに、当該手袋2は、導電糸21が本体部10aの表面及び裏面に跨って配置されているので、当該手袋2の表裏面間の導電性を示す体積抵抗値を一定の範囲に収め易い。
【0099】
当該手袋2では、導電性被膜50を備えているので、表面から摩耗を受けた場合、本体部10aは凸部30aから先に摩耗を受けることとなるので、凹部20aは最後まで摩耗を受け難い。従って、導電糸21の摩耗防止効果が高められている。
【0100】
また、導電性被膜50が本体部10aの繰返構造40の一部又は全部を被覆することで、滑り止め性能を付与するとともに当該手袋2の耐久性を向上させることができる。
【0101】
導電性被膜50が本体部10aの繰返構造40の一部を被覆する場合、被覆されていない繰返構造40については、伸長率が低い芯糸23に導電糸21が巻かれることで、導電糸21が手袋1の最表面を超えて飛び出すことを抑止できる。このため、より確実に導電部分20が握持対象物へ強く接することを抑止できるので、導電糸21の摩耗防止効果を高められる。さらに、導電部分20が直接的に握持対象物へ強く接することがないことと相まって、体積抵抗値の制御性を高めることができる。
【0102】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0103】
上記実施形態では、手袋の製造方法として、導電部分に導電性複合糸のみを用いる場合を説明したが、例えばスパンデックスでカバーリングしたシングルカバードヤーン(SCY)を添糸として、引き揃えて編んでもよい。
【実施例0104】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
<用意工程>
以下の糸を用意した。
【0106】
(導電性複合糸)
導電性複合糸として、280dtexの耐切創糸(DSM社製3GX20-280、伸長率0%)を芯糸とし、22dtexの導電糸(株式会社クラレ製クラカーボ、伸長率2.0%)で、200回/mでカバーリングを行った導電性複合糸(伸長率0%)を用意した。
【0107】
(非導電糸)
非導電糸として、280dtexの耐切創糸(DSM社製3GX20-280)の単糸と、その添糸を用意した。上記添糸は、22dtexのスパンデックスを芯糸とし、77dtexウーリーナイロンの単糸を用いて、ドラフト3.0、400回/mでカバーリングを行ったシングルカバードヤーン(伸長率220%)とした。非導電糸(上記単糸と上記添糸を合わせたもの)の伸長率は219%であった。
【0108】
<編成>
18G横編機(島精機製SFG-i)を用いて、主糸用フィーダーに上記非導電糸の耐切創糸を供給し、添糸用フィーダーに上記非導電糸の添糸を供給し、2色転換用フィーダーに上記導電性複合糸を供給して、手袋本体を編成した。
【0109】
図7に示すように、実施例における手袋2の手袋本体10では、本体部10a、指収容部10b及び裾部10cを繰返構造40で編成した。具体的には、本体部10aでは、2色転換用フィーダーを1コース動かしたのち、主糸用フィーダー及び添糸用フィーダーを3コース動かす繰り返し動作にて編成した。裾部10cでは、上記繰り返し動作に加え、さらに裾部10cのフィット性を向上させるため弾性糸(芯糸として330dtexのスパンデックスに83dtexのポリエステル糸をカバーリングした糸)を3コースに1コースの割合でインレイ編で編成した。なお、掌部分の単位長さ当りのコース数は、42コース/インチとした。
【0110】
編成後の手袋本体10を裏返して目的の手袋を得た。
【0111】
この手袋3の掌部分及び手の甲部分の抵抗値をEN61340-2-3に準拠して測定したところ、表面抵抗値は2.1×104Ω及び3.9×104Ωであり、体積抵抗値は1.8×104Ω及び2.5×104Ωであった。また、EN388の規格に準拠して測定されるカットレベルはCであった。
【0112】
<樹脂コート>
手袋3に樹脂製の導電性被膜を積層し、
図5及び
図6に示す構成の手袋を、以下の手順で作製した。
【0113】
まず、ポリウレタン樹脂溶液(DIC社製クリスボン8366HV)に、樹脂成分が10質量%になるようにジメチルホルムアミド(DMF)を加えて調整した後、樹脂成分100質量部に対して、導電性フィラー(大塚化学製デントールWK―500B)を35質量部になるように加えた被膜原料コンパウンドを用意した。
【0114】
上述の手袋3を手型に被せ、その手型の掌部分を上記被膜原料コンパウンドに浸漬し、引き上げた後、水の中に1時間投入した。さらに、上記手型を引き上げた後、120℃のオーブンで30分加熱した。上記手型を冷やした後、手袋から手型のみを引き抜いて目的の手袋を得た。
【0115】
この手袋の掌部分及び手の甲部分の抵抗値をEN61340-2-3に準拠して測定したところ、表面抵抗値は3.1×104Ω及び5.8×104Ωであり、体積抵抗値は4.5×104Ω及び4.3×104Ωであった。また、EN388の規格に準拠して測定される掌部分の耐摩耗性のレベルは4であった。
【0116】
<ゴムコート>
手袋3にゴム製の導電性被膜を積層し、
図5及び
図6に示す構成の手袋を、以下の手順で作製した。
【0117】
NBRラテックス(日本ゼオン製Lx550)に、ゴム成分100質量部に対して、有効成分としてメチルセルロース0.4質量部、ケッチェンブラックの分散体であるライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製EC300Jを3.8質量部、酸化亜鉛を2質量部、水酸化カルシウムを0.5質量部加えて、よく溶解させ、被膜原料コンパウンドを用意した。
【0118】
上述の手袋3を手型に被せ、その手型の掌部分を1質量%硝酸カルシウムのメタノール溶液に浸漬したのち、上記被膜原料コンパウンドに浸漬し、引き上げた後、70℃のオーブンで30分、120℃のオーブンで40分加熱した。上記手型を冷やしたのち、手袋から手型のみを引き抜いて目的の手袋を得た。
【0119】
この手袋の掌部分及び手の甲部分の抵抗値をEN61340-2-3に準拠して測定したところ、表面抵抗値は9.4×105Ω及び8.1×104Ωであり、体積抵抗値は7.2×106Ω及び9.1×104Ωであった。また、EN388の規格に準拠して測定される掌部分の耐摩耗性のレベルは4であった。