(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060704
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ボイラの運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/10 20230101AFI20240425BHJP
F22B 37/56 20060101ALI20240425BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20240425BHJP
C23F 11/18 20060101ALI20240425BHJP
C23F 14/02 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C02F5/10 610Z
F22B37/56 Z
C02F5/00 620C
C02F5/10 620B
C23F11/18 101
C23F14/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168129
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】二宮 隆
(72)【発明者】
【氏名】徳見 亜衣
(72)【発明者】
【氏名】中野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽介
(72)【発明者】
【氏名】松友 伸司
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA03
4K062BA10
4K062BA14
4K062BC09
4K062CA03
4K062FA06
(57)【要約】
【課題】ケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物とを併用することで、ボイラでのスケールの生成を抑えるとともに、ボイラでの全面腐食および孔食の両方の腐食を抑える。
【解決手段】軟水化装置16において軟化水され、脱酸素装置17において脱酸素処理された補給水を給水タンク11に貯留し、給水タンク11から給水経路13を通じてボイラ20へ給水する。ボイラ20は、給水経路13からの給水をボイラ水として貯留し、このボイラ水を水管を通じて加熱することで蒸気を生成する。この際、給水経路13からボイラ20への給水に対して薬剤供給装置40からpH調整剤、ケイ酸ナトリウムおよび質量平均分子量が2,000~40,000のポリアクリル酸ナトリウムを含む水処理剤を添加することでボイラ水のpHをアルカリ性領域に制御するとともに、ボイラ水においてケイ酸ナトリウムと質量平均分子量が上記範囲内のポリアクリル酸系化合物とを併存させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水を加熱することで蒸気を生成するボイラの運転方法であって、
前記ボイラ水のpHをアルカリ性領域に制御するとともに、前記ボイラ水において、ケイ酸系化合物の存在環境下において質量平均分子量が2,000~40,000のポリアクリル酸系化合物を併存させる、
ボイラの運転方法。
【請求項2】
前記ケイ酸系化合物は、前記ボイラへの給水に含まれる天然成分に由来のものである、請求項1に記載のボイラの運転方法。
【請求項3】
前記ボイラへの給水にケイ酸系化合物および前記ポリアクリル酸系化合物を含む薬剤を添加する、請求項1に記載のボイラの運転方法。
【請求項4】
前記給水への前記薬剤の供給量を調整するとともに前記ボイラ水の濃縮倍率を調整することで、前記ボイラ水のpHをアルカリ性領域に維持するとともに、前記ボイラ水におけるケイ酸系化合物濃度およびポリアクリル酸系化合物濃度をそれぞれ二酸化ケイ素換算濃度で100~600mg/Lおよび塩換算濃度で1~500mg/Lの目標濃度に制御する、請求項3に記載のボイラの運転方法。
【請求項5】
前記給水として軟化水を用い、前記給水について電気伝導率に対する酸消費量(pH4.8)の比(酸消費量(pH4.8)/電気伝導率)が前記ボイラの腐食発生傾向を示すときに前記ボイラ水の前記ケイ酸系化合物濃度および前記ポリアクリル酸系化合物濃度をそれぞれ前記目標濃度に制御する、請求項4に記載のボイラの運転方法。
【請求項6】
ケイ酸系化合物と、
質量平均分子量が2,000~40,000のポリアクリル酸系化合物と、
を含むボイラ用水処理剤。
【請求項7】
二酸化ケイ素換算での前記ケイ酸系化合物の含有量(X質量%)に対する塩換算での前記ポリアクリル酸系化合物の含有量(Y質量%)の量比(Y/X)が0.001~500に設定されている、請求項6に記載のボイラ用水処理剤。
【請求項8】
エチレンジアミン四酢酸およびそのアルカリ金属塩の合計含有量が1質量%未満である、請求項6または7に記載のボイラ用水処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの運転方法、特に、ボイラ水を加熱することで蒸気を生成するボイラの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器等の負荷装置へ蒸気を供給するための一般的なボイラ装置は、ボイラへの給水をボイラ水として加熱することで蒸気を生成し、この蒸気を蒸気経路を通じて負荷装置へ供給する。ボイラは、内部が高温高圧の環境にあることから、蒸気を生成する水管の伝熱面において、給水中の各種溶存成分の影響によりスケールが付着したり、腐食が生じたりする。伝熱面に付着したスケールは、熱伝導を妨げることからボイラの運転効率を損なう原因となる。また、伝熱面の腐食は、進行すると水管を破損することから、ボイラの安定的・継続的な運転の阻害原因となる。
【0003】
そこで、ボイラ装置の運転では、通常、ボイラへの給水からスケールの原因となるカルシウムイオンやマグネシウムイオンを除去するとともに腐食の原因となる溶存酸素を除去し、併せて給水に対して水処理剤を添加することでボイラにおけるスケール生成および腐食の進行を抑制している。
【0004】
給水へ添加する水処理剤として、特許文献1、2に記載のように、シリカやケイ酸塩のようなケイ酸系化合物とスケール抑制剤とを併用したものが知られている。ケイ酸系化合物は、伝熱面に皮膜を形成し、その皮膜によって腐食を抑えるものである。スケール抑制剤は、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤やポリアクリル酸系化合物等の水溶性ポリマーであり、キレート剤はボイラ水においてカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをキレート化することでスケールの生成を抑えるものであるのに対し、水溶性ポリマーはボイラ水においてカルシウムイオンおよびマグネシウムイオン由来のスケール物質を分散させ、スケールの結晶核の成長を抑えることでスケールの生成を抑えるものである。
【0005】
ところで、ボイラの伝熱面に生じる腐食は、伝熱面の全体に均一に進行する全面腐食と、伝熱面の厚さ方向へ局部的に孔状に進行する孔食とが知られている。全面腐食は、伝熱面の全体に微視的なアノードとカソードとの対が発生し、その短絡電池により進行するものであるのに対し、孔食は、伝熱面の局所に巨視的なアノードとカソードとが発生し、その短絡電池により進行するものである。特許文献1、2によると、それらにおいて用いられるケイ酸系化合物は、孔食の抑制に効果が認められるが、全面腐食の抑制効果を期待できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-18487号公報
【特許文献2】特開2003-160889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物とを併用することで、ボイラでのスケールの生成を抑えるとともに、ボイラでの全面腐食および孔食の両方の腐食を抑えようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボイラ水を加熱することで蒸気を生成するボイラの運転方法に関するものである。この運転方法は、ボイラ水のpHをアルカリ性領域に制御するとともに、ボイラ水において、ケイ酸系化合物の存在環境下において質量平均分子量が2,000~40,000のポリアクリル酸系化合物を併存させる。
【0009】
本発明の運転方法の一形態において、ケイ酸系化合物は、ボイラへの給水に含まれる天然成分に由来のものである。
【0010】
本発明の運転方法の他の形態では、ボイラへの給水にケイ酸系化合物および上記ポリアクリル酸系化合物を含む薬剤を添加する。
【0011】
この形態に係る運転方法では、例えば、給水への上記薬剤の供給量を調整するとともにボイラ水の濃縮倍率を調整することで、ボイラ水のpHをアルカリ性領域に維持するとともに、ボイラ水におけるケイ酸系化合物濃度および上記ポリアクリル酸系化合物濃度をそれぞれ二酸化ケイ素換算濃度で100~600mg/Lおよび塩換算濃度で1~500mg/Lの目標濃度に制御する。好ましくは、給水として軟化水を用い、給水について電気伝導率に対する酸消費量(pH4.8)の比(酸消費量(pH4.8)/電気伝導率)がボイラの腐食発生傾向を示すときにボイラ水のケイ酸系化合物濃度およびポリアクリル酸系化合物濃度をそれぞれ上記目標濃度に制御する。
【0012】
他の観点に係る本発明は、ボイラ用の水処理剤に関するものであり、この水処理剤は、ケイ酸系化合物と、質量平均分子量が2,000~40,000のポリアクリル酸系化合物とを含む。
【0013】
本発明のボイラ用水処理剤は、例えば、二酸化ケイ素換算でのケイ酸系化合物の含有量(X質量%)に対する塩換算でのポリアクリル酸系化合物の含有量(Y質量%)の量比(Y/X)が0.001~500に設定されている。
【0014】
本発明のボイラ用水処理剤として好ましいものは、エチレンジアミン四酢酸塩およびそのアルカリ金属塩の合計含有量が1質量%未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るボイラの運転方法は、ボイラ水のpHをアルカリ性領域に維持するとともに、ケイ酸系化合物の存在環境下において質量平均分子量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物を併存させていることから、ボイラでのスケールの生成を抑えるとともに、ボイラでの全面腐食および孔食の両方の腐食を抑えることができる。
【0016】
本発明のボイラ用水処理剤は、ケイ酸系化合物と、質量平均分子量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物とを含むものであることから、本発明に係るボイラの運転方法において用いることで、ボイラでのスケールの生成を抑えるとともに、ボイラでの全面腐食および孔食の両方の腐食を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る運転方法を実施可能なボイラ装置の一形態の概略図。
【
図2】表1に示す結果に基づき、実験例2~17および19~33についてポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量と最大孔食深さとの関係を表したグラフ。
【
図3】表1に示す結果に基づき、実験例2~17および19~33についてポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量と腐食速度との関係を表したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、本発明に係るボイラの運転方法を実施可能なボイラ装置の一形態を説明する。
図1において、ボイラ装置1は、熱交換器、蒸気釜、リボイラ若しくはオートクレーブ等の蒸気使用設備である負荷装置2に対して蒸気を供給するためのものであり、給水装置10、ボイラ20、復水配管30および薬剤供給装置40を主に備えている。
【0019】
給水装置10は、ボイラ20においてボイラ水として用いられる給水を供給するためのものであり、給水を貯留するための給水タンク11と、給水として用いられる補給水を給水タンク11へ供給するための補給経路12とを主に備えている。給水タンク11は、その底部からボイラ20へ延びる給水経路13を有している。給水経路13は、ボイラ20に連絡しており、給水タンク11内に貯留された給水をボイラ20へ送り出すための給水ポンプ14を有している。
【0020】
補給経路12は、注水路15を有している。注水路15は、水道水、工業用水若しくは地下水等の水源から供給される原水が貯留されている原水タンク(図示せず)から給水タンク11へ補給水を供給するためのものであり、給水タンク11へ向けて軟水化装置16および脱酸素装置17をこの順に有している。
【0021】
軟水化装置16は、原水タンクからの補給水をナトリウム型陽イオン交換樹脂により処理し、補給水に含まれる硬度成分であるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンに置換して軟化水に変換するためのものである。
【0022】
脱酸素装置17は、軟水化装置16において処理された補給水中の溶存酸素を除去するためのものであり、分離膜を用いて溶存酸素を除去する形式のもの、処理水を減圧環境下において溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、処理水を加熱して溶存酸素を除去する形式のものなどの各種の形式のものが用いられる。
【0023】
ボイラ20は、起立した多数の水管(図示省略)を内部に有しており、給水経路13からの給水を底部にボイラ水として貯留し、このボイラ水を水管の伝熱面を通じて加熱することで蒸気を生成する。水管は、炭素鋼、鋳鉄、銅または銅合金等の中性水溶液中において自然には不動態化しない金属を用いて形成されている。また、ボイラ20は、ボイラ水を廃棄するためのブロー経路21を有しており、このブロー経路21はボイラ水の廃棄量を調節するための制御弁22を有している。さらに、ボイラ20の上部は、負荷装置2に連絡する蒸気供給配管23が延びている。
【0024】
復水配管30は、負荷装置2から給水タンク11へ延びており、スチームトラップ31を有している。スチームトラップ31は、蒸気と凝縮水とを分離するためのものである。
【0025】
薬剤供給装置40は、給水タンク11からボイラ20へ供給される給水中へ水処理剤を供給するためのものであり、水処理剤を貯留するための薬剤タンク41、薬剤タンク41から給水経路13へ延びる供給路42および供給路42に設けられた供給ポンプ43を有している。供給ポンプ43は、薬剤タンク41に貯留された水処理剤を供給路42を通じて給水経路13へ送り出すものであり、水処理剤の供給量を制御可能である。
【0026】
薬剤供給装置40の薬剤タンク41に貯留される水処理剤は、ケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物とを含むもの、好ましくはケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物とを含む水溶液である。この水溶液において用いられる水は、通常、蒸留水やイオン交換水などの精製水である。
【0027】
水処理剤に含まれるケイ酸系化合物は、ケイ酸またはケイ酸塩であり、ボイラ20内の水管等の表面に皮膜を形成し、水管等の腐食を抑制するための成分である。ケイ酸は、[SiOX(OH)4-2X]nの化学式で表されるケイ素化合物であり、通常は無水ケイ酸(SiO2)、オルトケイ酸(H4SiO4)、メタケイ酸(H2SiO3)またはメタ二ケイ酸(H2Si2O5)である。また、ケイ酸塩は、例えば、nSiO2・(n+1)M2Oの化学式で表されるオルトケイ酸塩若しくはその水和物、または、nSiO2・nM2O、nSiO2・(n-1)M2O若しくはnSiO2・(n-2)M2Oの化学式で表されるポリケイ酸塩若しくはその水和物などである。ケイ酸塩の化学式において、nは2よりも大きい整数であり、Mはナトリウムやカリウム等のアルカリ金属やカルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属などの金属元素を示している。金属元素が二価の場合は、Mの分子数が半分になる。水処理剤は、2種類以上のケイ酸系化合物を含むものであってもよい。
【0028】
水処理剤に含まれるポリアクリル酸系化合物は、ボイラ20内においてスケールの生成を抑制するとともに、ケイ酸系化合物との相互作用によりボイラ20内の水管等の全面腐食と局部腐食の両方を抑制するための成分である。ポリアクリル酸系化合物としては、通常、アクリル酸およびメタクリル酸のうちの少なくとも一つに由来のカルボキシル基またはその塩を含む水溶性高分子化合物が用いられる。例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸およびメタクリル酸のうちの少なくとも一つを単量体として用いたコポリマー若しくはターポリマーまたはこれらの塩を用いることができる。塩としては、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩が用いられる。ポリアクリル酸系化合物として好ましいものは、ポリアクリル酸およびその塩である。ポリアクリル酸系化合物は、ケイ酸系化合物との相互作用により防食効果を発揮し得る特定範囲の質量平均分子量のもの、具体的には質量平均分子量が2,000~40,000のもの、好ましくは3,000~20,000のもの、より好ましくは4,000~10,000のものが選択的に用いられる。水処理剤は、2種類以上のポリアクリル酸系化合物を含むものであってもよい。
【0029】
水処理剤は、ケイ酸系化合物およびポリアクリル酸系化合物の他に、pH調整剤や脱酸素剤等の他の成分を含んでいてもよい。pH調整剤は、ボイラ水のpHをアルカリ性領域に調整することでボイラ20内での腐食を抑えるものであり、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が用いられる。pH調整剤は、2種以上のものが併用されてもよい。脱酸素剤は、ボイラ水中の溶存酸素を除去することでボイラ20内の腐食を抑えるものであり、例えば、アスコルビン酸若しくはその塩、タンニン、糖類型脱酸素剤、エリソルビン酸若しくはその塩または亜硫酸塩などが用いられる。脱酸素剤は、2種以上のものが併用されてもよい。
【0030】
なお、ボイラ水用の一般的な水処理剤は、スケール抑制剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはそのアルカリ金属塩を含むことが多いが、これらはボイラ20内の腐食を助長する可能性がある。そこで、この実施の形態において用いられる水処理剤は、EDTAおよびそのアルカリ金属塩を実質的に含有しないもの、例えば、これらの合計含有量を1質量%未満に制御したものが好ましい。
【0031】
水処理剤において、ケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物との含有量は、ボイラ水においてケイ酸系化合物濃度およびポリアクリル酸系化合物濃度を後記する目標濃度に制御しやすいことから、二酸化ケイ素換算でのケイ酸系化合物の含有量(X質量%)と塩換算でのポリアクリル酸系化合物の含有量(Y質量%)との量比(Y/X)が0.001~500になるよう設定するのが好ましく、0.1~50になるよう設定するのがより好ましい。ここで、塩換算でのポリアクリル酸系化合物の含有量は、ポリアクリル酸系化合物をその分子中の全カルボキシル基がナトリウム塩を形成している塩とみなして換算した含有量である。
【0032】
次に、上述のボイラ装置1の運転方法を説明する。
蒸気ボイラ装置1の運転では、先ず、原水タンク(図示省略)から注水路15を通じて給水タンク11へ補給水を供給し、この補給水をボイラ給水として給水タンク11に貯留する。
【0033】
この際、原水タンクからの補給水は、先ず、軟水化装置16において処理され、硬度成分が除去されることで軟化水になる。軟水化装置16において軟化水となった補給水は、次に、脱酸素装置17において脱酸素処理される。これにより、補給水は、蒸気ボイラ20において水管等の腐食を促進する溶存酸素が除去される。以上の結果、給水タンク11には脱酸素処理された軟化水が給水として貯留されることになる。
【0034】
給水タンク11に補給水が貯留された状態で給水ポンプ14を作動させると、給水タンク11に貯留された給水は、給水経路13を通じてボイラ20へ供給される。ボイラ20へ供給された給水はボイラ水として貯留され、このボイラ水は水管を通じて加熱されながら水管内を上昇し、蒸気になる。そして、水管において生成した蒸気は、蒸気供給配管23を通じて負荷装置2へ供給される。このような蒸気の生成に従い、ボイラ水の濃縮が進行する。
【0035】
負荷装置2へ供給された蒸気は、負荷装置2を通過して復水配管30へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ31において蒸気と凝縮水とが分離されて高温の復水になる。このようにして生成した復水は、復水配管30を通じて給水タンク11に回収され、給水として再利用される。この際、給水タンク11に貯留された給水は、高温の復水により加熱されるので、ボイラ20での加熱負担が軽減される。
【0036】
ボイラ装置1は、上述のような運転中において、制御弁22を調節してブロー経路21からのボイラ水の廃棄量を制御するとともに給水ポンプ14の制御により給水タンク11からボイラ20への給水の供給量を調節することでボイラ水の濃縮倍率を制御し、これによってボイラ水の酸消費量(pH4.8)を調整することでボイラ水のpHを腐食が生じにくいアルカリ性領域、好ましくはpHを11~12.5に維持する。
【0037】
なお、酸消費量(pH4.8)は、給水に溶けている炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物などのアルカリを所定のpH(ここでは、4.8)に中和するのに要する水素イオンの量(酸の量)を、水素イオン(酸)に相当する炭酸カルシウムの量に換算して、給水1リットルについてのmg数で表したものであり、JIS K 0101に規定された方法に従って測定することができる。
【0038】
また、ボイラ装置1の運転中は、給水経路13内をボイラ20へ流れる給水に対し、適宜、薬剤供給装置40から水処理剤を供給する。これにより、ボイラ水にはケイ酸系化合物とともに質量平均分子量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物が併存した状態になる。この結果、ボイラ20は、水管等において、ポリアクリル酸系化合物がスケールの結晶核の成長を抑えることでスケールの生成が抑えられるとともに、ケイ酸系化合物が水管等の表面に防食皮膜を形成することで、また、ケイ酸系化合物とポリアクリル酸系化合物との相互作用により腐食、特に、全面腐食と局部腐食の両方が抑えられる。
【0039】
ここで、ボイラ水は、スケールの抑制効果並びに全面腐食および局部腐食の両方の防食効果を高める観点から、薬剤供給装置40から給水への水処理剤の供給量を供給ポンプ43の制御により調整するとともに既述の方法により濃縮倍率を調整することで、pHをアルカリ性領域、特に、11~12.5に維持するとともに、ケイ酸系化合物濃度および質量平均分量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物濃度を所定の目標濃度に制御するのが好ましい。具体的には、ケイ酸系化合物濃度は二酸化ケイ素(SiO2)換算濃度として100~600mg/L、特に、200~500mg/Lに制御し、また、質量平均分子量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物濃度は塩換算濃度として1~500mg/L、特に、10~200mg/Lに制御するのが好ましい。ここで、塩換算濃度は、ポリアクリル酸系化合物をその分子中の全カルボキシル基がナトリウム塩を形成している塩とみなして換算した濃度である。
【0040】
給水に対する水処理剤の添加は、給水タンク11からボイラ20に供給する給水の水質がボイラ20の水管等に腐食を発生させやすい傾向にあるときに実行するのが好ましい。この傾向は、例えば、特許第4033667号に記載の水質判定方法に従って評価することができる。具体的には、給水タンク11から給水経路13を通じてボイラ20に対して供給する給水の酸消費量(pH4.8)と電気伝導率とを継続的に測定し、下記の式(1)で示される指数を求める。この指数が2.5以上の場合、給水は水管を腐食させにくい水質のものと判定することができる。一方、当該指数が2.5未満の場合、給水は水管を腐食させやすい傾向の水質のもの、特に、水管に局部腐食である孔食を発生させやすいものと判定することができる。そこで、ボイラ装置1の運転中は、当該指数が2.5未満の場合において、給水に対して薬剤供給装置40から水処理剤を供給し、ボイラ水におけるケイ酸系化合物濃度および質量平均分量が特定範囲のポリアクリル酸系化合物濃度を上述の目標濃度に制御するのが好ましい。
【0041】
【0042】
ここで、酸消費量(pH4.8)は、既述のとおりである。また、電気伝導率は、25℃の給水がもつ電気抵抗率(Ω・m)の逆数に相当するものであってmS/m(ミリジーメンス毎メートル)の単位で表したものであり、酸消費量(pH4.8)と同じく、JIS K 0101に規定された方法に従って測定することができる。
【0043】
上述の実施の形態では、水処理剤としてケイ酸系化合物を含むものを用いているが、ボイラ20への給水が原水に由来のケイ酸系化合物を多く含み、ボイラ水の濃縮倍率を高めることでボイラ水において二酸化ケイ素濃度を高めやすい場合、水処理剤としてケイ酸系化合物の含有量を抑えたものや、ケイ酸系化合物を含まないものを用いることもできる。
【0044】
[実験例]
上述の実施の形態に係るボイラ装置1を運転し、ボイラ20の水管(JIS G 3454に掲載されたSTPG(圧力配管用炭素鋼鋼管)製)の伝熱面における腐食の進行を調べた。ここでは、塩化物イオンおよび硫酸イオンの両者が比較的高濃度であることから腐食性の強い水質と考えられる大阪市近郊の上水を模した試験水を注水路15から給水タンク11へ供給して貯留し、この給水タンク11から給水経路13を通じてボイラ20へ給水した。試験水の水質は以下のとおりである。
【0045】
(試験水水質)
pH:7.5
電気伝導率:25mS/m
酸消費量(pH4.8):20mgCaCO3/L
二酸化ケイ素濃度:7mgSiO2/L
【0046】
この実験例では、給水経路13に対して薬剤供給装置40を配置し、後記の水処理剤を給水に対して適宜添加した。ボイラ20の運転条件は、運転圧力および濃縮倍率がそれぞれ0.3MPaおよび10倍になるよう設定した。
【0047】
ボイラ装置1の運転において、給水タンク11からボイラ20へ供給する給水の溶存酸素濃度は、試験水を脱酸素装置17において処理することにより、4.0mg/Lとなるように調整した。さらに、ボイラ20への給水に対して薬剤供給装置40から水処理剤を適宜添加するとともに制御弁22の制御によりボイラ水の廃棄量を調節することでボイラ20におけるボイラ水の濃縮倍率を10倍に制御し、ボイラ水の水質を表1に示すように制御した。各実験例において添加した水処理薬剤は、ボイラ水の水質が表1に示すようになるよう水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウムおよびポリアクリル酸ナトリウムの濃度を適宜調整したものである。例えば、酸消費量(pH4.8)の分解に伴うpH上昇のみでボイラ水のpHが十分に上昇しない場合には、水処理薬剤中の水酸化ナトリウム濃度を高めるよう調整した。なお、表1において、実験例1~17の二酸化ケイ素濃度は、二酸化ケイ素濃度が7mgSiO2/Lである試験水がボイラ内で10倍濃縮したことによるものである。
【0048】
運転開始から48時間後にボイラ20の運転を停止し、このボイラ20から評価用の水管を抜き取ってその表面における腐食の進行を局部腐食および全面腐食の両方について評価した。この評価において、局部腐食は伝熱面に生じた各孔食の深さを調べ、その最大深さを求めた。最大深さが大きいほど孔食が進行していることを意味する。また、全面腐食は、mdd(mg/dm2/day)で表される腐食速度を求めた。なお、mddとは、水との接触面の単位表面積(1dm2)における1日当りの水管素地の質量減少量(mg)を表現したものであり、mddが大きいほど腐食速度が高く、全面腐食が進行していることを意味する。
【0049】
評価結果を表1に示す。表1に示した評価結果は、実験例1における最大孔食深さ(μm)および腐食速度(mdd)の結果を100%値とした場合の相対値である。大阪市近郊水の上水を模した試験水を用いてボイラ20を運転いた場合において相対値が50%未満に抑制されている場合、出願人の経験則に照らすと、実用上、十分に腐食が抑制されているものと評価可能である。
【0050】
【0051】
表1の結果をグラフ化したものを
図2、3に示す。
図2によると、ケイ酸ナトリウムの添加によりボイラ水における二酸化ケイ素濃度を高めた実験例19~33については、ポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量と最大孔食深さとに相関関係が認められる。具体的には、ポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量が大きくなるに従って最大孔食深さが小さくなる傾向が認められる。また、
図3によると、ケイ酸ナトリウムの添加によりボイラ水における二酸化ケイ素濃度を高めた実験例19~33については、ポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量と腐食速度とにも相関関係が認められる。具体的には、ポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量が小さくなるに従って腐食速度が遅くなる傾向が認められる。
図2、3の結果に照らすと、ボイラ水において、ケイ酸ナトリウムの添加により二酸化ケイ素濃度を高めるとともに質量平均分子量が概ね2,000~40,000の範囲にあるポリアクリル酸ナトリウムを併存させた場合において、孔食および全面腐食の両方の進行を抑えやすいことがわかる。
【0052】
また、
図2、3によると、ボイラ水における二酸化ケイ素濃度を高めた場合、上述の相関関係に照らして併存させるポリアクリル酸ナトリウムの質量平均分子量を選択することで最大孔食深さおよび腐食速度を制御可能であることから、水管に対する細やかな腐食管理を実現できる可能性がある。