(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060709
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】スピーカ変位計測システム及び音響システム
(51)【国際特許分類】
H04R 9/04 20060101AFI20240425BHJP
H04R 3/04 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H04R9/04 104Z
H04R3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168143
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】江上 勝彦
【テーマコード(参考)】
5D012
5D220
【Fターム(参考)】
5D012BC06
5D220AA41
(57)【要約】
【課題】変位計測の精度を担保できる「スピーカ変位計測システム及び音響システム」を提供する。
【解決手段】スピーカ2のボイスコイルボビン204に変位検出用磁石211を固定し、変位検出用磁石211の近くに、磁気角度センサ3をセンサ可動機構6によって移動可能に保持し、磁気角度センサ3で検出した、スピーカ2の自身の磁気回路と変位検出用磁石211の磁気ベクトルの合成ベクトルの角度からスピーカ2の振動系の変位を計測する。応答変位が既知のテスト信号をスピーカ2に出力して計測した変位-磁気角度特性に、目標とする変位-磁気角度特性からのずれがあれば、センサ可動機構6によって目標とする変位-磁気角度特性が得られることが推定される配置に磁気角度センサ3を移動する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカの振動系の変位を検出するスピーカ変位計測システムであって、
スピーカの振動系に固定された変位検出用磁石と、
作用する磁束の角度を検出し、磁気角度として出力する磁気角度センサと、
前記磁気角度センサを、前記スピーカの自身の磁気回路の磁束と前記変位検出用磁石の磁束とを合成した磁束が作用する位置に保持する、前記スピーカの非振動系に対して固定されたセンサ可動機構とを有し、
前記センサ可動機構は、保持した前記磁気角度センサを移動して、当該磁気角度センサの、前記スピーカの非振動系に対する配置を変更可能であることを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項2】
請求項1記載のスピーカ変位計測システムであって、
前記センサ可動機構は、少なくとも、前記スピーカの非振動系に対して固定された直交する3軸の各軸方向に、保持した前記磁気角度センサを移動可能であることを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項3】
請求項2記載のスピーカ変位計測システムであって、
前記センサ可動機構は、少なくとも前記3軸のうちの1軸まわりに、保持した前記磁気角度センサを回転移動可能であることを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のスピーカ変位計測システムであって、
前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を有し、
前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、
前記センサ配置調整手段は、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、計測した変位-磁気角度特性が、複数の異なる変位に対応する磁気角度が存在することを示す場合に、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整することを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項5】
請求項1、2または3記載のスピーカ変位計測システムであって、
前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を有し、
前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、
前記センサ配置調整手段は、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、計測した変位-磁気角度特性と、予め定めた所定の変位-磁気角度特性との相関が所定のしきい値より小さい場合に、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整することを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項6】
請求項1、2または3記載のスピーカ変位計測システムであって、
前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を有し、
前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、
前記センサ配置調整手段は、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、
予め設定された、複数の磁気角度センサの配置について、磁気角度センサの配置と変位-磁気角度特性との対応が登録された配置毎特性情報に従って、前記配置毎特性情報に対応が登録された変位-磁気角度特性のうちの、計測した変位-磁気角度特性と最も相関が大きい変位-磁気角度特性との対応が前記配置毎特性情報に登録されている磁気角度センサの配置を現在の磁気角度センサの配置として推定し、
予め定めた所定のセンサの配置に対する、推定した現在の磁気角度センサの配置のずれが解消されるように、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整することを特徴とするスピーカ変位計測システム。
【請求項7】
請求項1、2または3記載のスピーカ変位計測システムを備えた音響システムであって、
前記スピーカと、音を出力する音源装置と、前記磁気角度センサが出力する磁気角度を前記スピーカの振動系の変位に換算する変位換算手段と、当該変位換算手段が換算した変位を参照して、前記音源装置が出力する音を、前記スピーカの出力歪みが軽減されるように補正して前記スピーカに出力する信号補正手段とを有することを特徴とする音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカの振動系の変位を計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
また、スピーカの振動系の変位を計測する技術としては、スピーカの振動板の変位を検出する静電容量式のセンサや光学式のセンサを設け、センサで検出した振動に応じて、出力歪みが解消されるようにスピーカの駆動を制御するモーショナルフィードバックの技術が知られている(たとえば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-228214号公報
【特許文献2】特開2010-124026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピーカの振動系の変位を計測する構成としては、スピーカの振動系に固定した変位検出用の磁石と、スピーカの非振動系に固定した磁気角度センサを用い、磁気角度センサで、スピーカ自体の磁気回路の発生する磁束ベクトルと、変位検出用の磁石の発生する磁束ベクトルの合成ベクトルの磁気角度を検出する構成が考えられる。
【0005】
振動系の変位に伴う変位検出用の磁石の変位によって、磁気角度センサから見た変位検出用の磁石が発生する磁束ベクトルは変化するので、振動系の変位に伴って磁気角度センサで検出される磁気角度は変化し、変位-磁気角度特性にしたがって、磁気角度を変位に換算することにより振動系の変位を計測することができる。
【0006】
一方、この構成によれば、スピーカ自体の磁気回路と変位検出用の磁石と磁気角度センサとの位置や向きの関係が異なると、変位-磁気角度特性が異なるものとなる。
このため、製造公差(製造誤差)が大きい場合には、実際の変位-磁気角度特性が想定した変位-磁気角度特性から乖離してしまい、振動系の変位を精度よく計測することができなくなる。また、経年変化によって、上述した位置や向きの関係が変化してしまった場合にも、実際の変位-磁気角度特性が変化してしまい、振動系の変位を精度よく計測することができなくなる。
【0007】
そこで、本発明は、スピーカの振動系の変位計測の精度を担保できるスピーカ変位計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、スピーカの振動系の変位を検出するスピーカ変位計測システムに、スピーカの振動系に固定された変位検出用磁石と、作用する磁束の角度を検出し、磁気角度として出力する磁気角度センサと、前記磁気角度センサを、前記スピーカの自身の磁気回路の磁束と前記変位検出用磁石の磁束とを合成した磁束が作用する位置に保持する、前記スピーカの非振動系に対して固定されたセンサ可動機構とを設けたものである。ここで、前記センサ可動機構は、保持した前記磁気角度センサを移動して、当該磁気角度センサの、前記スピーカの非振動系に対する配置を変更することができる。
【0009】
ここで、このようなスピーカ変位計測システムは、前記センサ可動機構を、少なくとも、前記スピーカの非振動系に対して固定された直交する3軸の各軸方向に、保持した前記磁気角度センサを移動可能なものとして構成してよい。
また、前記センサ可動機構を、さらに、少なくとも前記3軸のうちの1軸まわりに、保持した前記磁気角度センサを回転移動可能なものとして構成してよい。
また、以上のスピーカ変位計測システムに、前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を設け、前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、前記センサ配置調整手段において、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、計測した変位-磁気角度特性が、複数の異なる変位に対応する磁気角度が存在することを示す場合に、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整するようにしてもよい。
【0010】
また、以上のスピーカ変位計測システムに、前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を設け、前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、前記センサ配置調整手段において、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、計測した変位-磁気角度特性と、予め定めた所定の変位-磁気角度特性との相関が所定のしきい値より小さい場合に、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整するようにしてもよい。
【0011】
また、以上のスピーカ変位計測システムに、前記センサ可動機構を制御して、前記磁気角度センサの配置を調整するセンサ配置調整手段を設け、前記スピーカの振動系の変位と磁気角度との対応関係の特性を変位-磁気角度特性として、前記センサ配置調整手段において、所定のテスト信号をスピーカに出力し、予め設定された、テスト信号に対する応答として期待できる前記スピーカの振動系の変位と、当該テスト信号の出力中に前記磁気角度センサが出力した磁気角度との対応関係の特性を示す変位-磁気角度特性を計測し、予め設定された、複数の磁気角度センサの配置について、磁気角度センサの配置と変位-磁気角度特性との対応が登録された配置毎特性情報に従って、前記配置毎特性情報に対応が登録された変位-磁気角度特性のうちの、計測した変位-磁気角度特性と最も相関が大きい変位-磁気角度特性との対応が前記配置毎特性情報に登録されている磁気角度センサの配置を現在の磁気角度センサの配置として推定し、予め定めた所定のセンサの配置に対する、推定した現在の磁気角度センサの配置のずれが解消されるように、前記センサ可動機構を制御して前記磁気角度センサの配置を調整するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明は、併せて、以上のスピーカ変位計測システムを備えた音響システムを提供する。この音響システムには、前記スピーカと、音を出力する音源装置と、前記磁気角度センサが出力する磁気角度を前記スピーカの振動系の変位に換算する変位換算手段と、当該変位換算手段が換算した変位を参照して、前記音源装置が出力する音を、前記スピーカの出力歪みが軽減されるように補正して前記スピーカに出力する信号補正手段とを設ける。
【0013】
以上のようなスピーカ変位計測システムや音響システムによれば、製造公差(製造誤差)や経年変化により、磁気角度センサの配置が、想定した変位-磁気角度特性が得られない配置となってしまっても、センサ可動機構によって、磁気角度センサの配置を、想定した変位-磁気角度特性が得られる配置に調整することができ、これによって、磁気角度センサを用いた、スピーカの振動系の変位計測の精度を担保できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、スピーカの振動系の変位計測の精度を担保できるスピーカ変位計測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る音響システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスピーカの構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に本発明の実施形態に係るセンサ可動機構の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るリファレンスデータと特性データセットの内容を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る変位-磁気角度特性の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るセンサ配置調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る音響システムの構成を示す。
図示するように、音響システムは、音源装置1、スピーカ2、磁気角度センサ3、信号補正部4、アンプ5、センサ可動機構6、変位変換部7、センサ配置調整部8、記憶部9を備えている。
そして、記憶部9には、リファレンスデータ、特性データセット、テスト信号変位データが記憶されている。
ただし、変位変換部7、信号補正部4、センサ配置調整部8などは、プロセッサがプログラムを実行することにより具現化される機能部として設けられていてよい。
図2aに、スピーカ2の構成を示す。
図示するように、スピーカ2は、ヨーク201、磁石202、トッププレート203、ボイスコイルボビン204、ボイスコイル205、フレーム206、ダンパ207、振動板208、エッジ209、ダストキャップ210、変位検出用磁石211を有する。
今、図における上方をフロントスピーカの前方、下方をフロントスピーカの後方として、ヨーク201は、中央部に前方に突出した中空の凸部2011を有し、当該凸部2011の外周部に環状の磁石202が設けられており、磁石202の上には環状のトッププレート203が設けられている。そして、このトッププレート203は、鉄等の導電性を有する部材によって構成される。そして、これらヨーク201、磁石202、トッププレート203によって磁気回路220が形成される。
【0017】
ボイスコイルボビン204は中空の円筒形状を有し、アンプ5からの信号が印加されるボイスコイル205が外周に巻かれている。また、ヨーク201の凸部2011は、ボイスコイルボビン204がヨーク201に対して前後に移動可能なようにボイスコイルボビン204の中空に後方より挿入されており、ボイスコイル205はヨーク201の凸部2011とトッププレート203との間の、磁気回路220によってトッププレート203の内周端間に発生する磁束が通過する位置に配置されている。
【0018】
振動板208は、おおよそフロントスピーカの前後方向を高さ方向とする円錐台の側面と同様な形状を有し、その外周端部がエッジ209でフレーム206の前端部に連結されている。また、振動板208の内周端部は、ボイスコイルボビン204の前端部に固定されている。
【0019】
このようなスピーカ2の構成において、アンプ5から信号がボイスコイル205に印加されると、磁気回路220から発生する磁束と、ボイスコイル205を流れる信号との電磁作用によって、信号の振幅に応じて、ボイスコイルボビン204が前後に振動する。そして、ボイスコイルボビン204が振動すると、ボイスコイルボビン204に連結されている振動板208が振動し、アンプ5からの信号に応じた音が発生する。
【0020】
変位検出用磁石211は、ボイスコイルボビン204と共に上下動するようにボイスコイルボビン204の外周側に固定されており、磁気回路220から発生する磁束と直交する方向の磁束を発生する。
ヨーク201の凸部2011の中空内には、センサ可動機構6が、ヨーク201に対して固定された形態で配置されている。
また、磁気角度センサ3は、センサ可動機構6によって、ボイスコイルボビン204の内周側の、変位検出用磁石211の近くの位置に、センサ可動機構6によって移動可能に保持されている。
磁気角度センサ3は、
図2bに示すように、磁気回路220から作用する磁束ベクトルVcと、変位検出用磁石211から作用する磁束ベクトルVsの合成ベクトルVの角度のアークタンジェントVs/Vcを磁気角度ωとして検出し出力する。ボイスコイルボビン204の変位に伴う変位検出用磁石211の変位によって、磁気角度センサ3に作用する変位検出用磁石の発生する磁束ベクトルは変化するので、この磁気角度ωは、ボイスコイルボビン204の変位に従った値となる。
【0021】
次に、
図3にセンサ可動機構6の構成例を示す。
以下、X軸方向をスピーカ2の中心軸と直交する中心軸から変位検出用磁石211に向かう方向、Y軸方向をX軸方向とスピーカ2の中心軸の方向とに直交する方向、Z軸方向をスピーカ2の中心軸の方向として説明を行う。
図示するように、センサ可動機構6は、磁気角度センサ3を保持するホルダ61、ホルダ61を支持すると共にホルダ61をX軸まわりに回転移動する回転機構62、回転機構62を支持すると共に回転アクチュエータをZ軸方向に移動するZ方向直動機構63、Z方向直動機構63を支持すると共にZ方向直動機構63をY軸方向に移動するY方向直動機構64、Y方向直動機構64を支持すると共にY方向直動機構64をX軸方向に移動するX方向直動機構65を備えている。回転機構62はサーボモータ等を用いた機構により実現でき、各直動機構はサーボモータとボールネジを組み合わせた機構等より実現できる。
【0022】
そして、このような構成を備えたセンサ可動機構6によれば、ホルダ61に保持した磁気角度センサ3の、X軸方向の位置x、Y軸方向の位置y、Z軸方向の位置z、X軸まわりの回転角θを変更、調整することができる。
図1に戻り、変位変換部7は、磁気角度センサ3から出力される磁気角度を、予め設定された変位換算用の変位-磁気角度特性に従って変位に変換して出力し、信号補正部4は、変位変換部7から出力される変位を参照しつつ、スピーカ2の出力歪みが解消されるように音源装置1から出力される音を補正した上で、アンプ5を介して、スピーカ2に出力する信号補正動作を行う。
【0023】
次に、記憶部9に記憶されるリファレンスデータ、特性データセットについて説明する。
磁気角度センサ3のX軸方向の位置x、Y軸方向の位置y、Z軸方向の位置z、X軸まわりの回転角θの組み合わせ(x、y、z、θ)をセンサ配置と呼ぶこととして、
図4aに示すように、リファレンスデータには、センサ配置(xr、yr、zr、θr)と、変位dxと磁気角度ωの関係を示す変位-磁気角度特性が登録されている。
【0024】
リファレンスデータに登録される変位-磁気角度特性は、実験もしくはシミュレーションによって、様々なセンサ配置に対して求めた変位-磁気角度特性のうち、変位の計測に最も好適な変位-磁気角度特性であり、リファレンスデータに登録されるセンサ配置(xr、yr、zr、θr)は、その最も好適な変位-磁気角度特性が求まったセンサ配置である。
【0025】
なお、リファレンスデータに登録した変位-磁気角度特性が、変位変換部7にも、上述した変位換算用の変位-磁気角度特性として設定される。
ここで、変位の計測に最も好適な変位-磁気角度特性とは、たとえば、
図5の特性Aのように、変位dxの変化に対する磁気角度ωの変化ができるだけ線形であり、変位dxの変化に対する磁気角度ωの変化ができるだけ大きい特性である。
ここで、特性Bのように、変位dxの変化に対する磁気角度ωの変化が小さいと、変位計測を分解能よく計測することができなくなり、磁気角度ωが変化しない変位dxの範囲については変位計測が不能となる。
また、特性Cのように、同じ磁気角度ωに複数の変位dxが対応してしまう変位-磁気角度特性の折返しが存在する場合には、磁気角度ωから変位dxを確定できなくなる。
次に、特性データセットは、
図4bに示すように、異なる複数のセンサ配置(xi、yi、zi、θi)について、実験もしくはシミュレーションによって求めた変位-磁気角度特性と、その変位-磁気角度特性を求めたセンサ配置とが対応づけて登録されている。
次に、
図1のセンサ配置調整部8が行うセンサ配置調整処理について説明する。
センサ配置調整処理は、音響システムの初期設定時に行う他、その後、定期的に、もしくは、人からの指示に従ってセンサ配置調整部8によって行われる。
図6に、このセンサ配置調整処理の手順を示す。
図示するように、この処理では、まず、信号補正部4の信号補正動作を停止し(ステップ602)、信号補正部4に音源装置1から入力する音を、そのままアンプ5を介してスピーカ2に出力させる。
次、音源装置1に、所定のテスト信号を出力させる(ステップ604)。テスト信号は、望ましくは可聴域より低周波数の成分のみを含む音信号とする。
そして、スピーカ2の現在の変位-磁気角度特性を計測する(ステップ606)。この計測は、テスト信号出力中の各時点の磁気角度センサ3から出力された磁気角度ωを取得し、取得した磁気角度ωを、当該時点のテスト信号に対する応答として生じることが推定される変位dxに対して検出された磁気角度ωとして、変位-磁気角度特性を算定することにより行う。
【0026】
ここで、各時点のテスト信号に対する応答として生じることが推定される変位は、予め実験もしくはシミュレーションによってテスト信号に対する変位を算定し、テスト信号変位データとして記憶部9に記憶しておき、ステップ606では、テスト信号変位データに従って、スピーカ2の現在の変位-磁気角度特性を計測する。
【0027】
次に、ステップ606で計測した変位-磁気角度特性に、
図5のCの特性のように同じ磁気角度ωに複数の変位dxが対応してしまう折返しが存在するかどうかを調べ(ステップ608)、折返しが存在すれば、ステップ614に進む。
折返しが存在しない場合には、ステップ606で計測した変位-磁気角度特性と、リファレンスデータの変位-磁気角度特性との相関係数を、たとえば、下記の式1により算出する(ステップ610)。
【数1】
そして、相関係数が、所定のしきい値Th以上であれば(ステップ612)、信号補正部4の信号補正動作を再開し(ステップ620)、今回のセンサ配置調整処理を終了する。
一方、ステップ610で算出した相関係数が、しきい値Th未満であれば(ステップ612)、ステップ614に進む。
ステップ608もしくは612から、ステップ614に進んだならば、特性データセットに各センサ配置に対して登録されている変位-磁気角度特性のうち、ステップ606で計測した変位-磁気角度特性との間の相関係数が最大となる変位-磁気角度特性を探索する(ステップ614)。
【0028】
そして、探索された変位-磁気角度特性と対応づけて特性データセットに登録されているセンサ配置を現在のセンサ配置として推定し、リファレンステータのセンサ配置に対する推定した現在のセンサ配置の差分を求める(ステップ616)。
そして、センサ可動機構6を制御し、求めた差分、磁気角度センサ3を移動する(ステップ618)。
すなわち、リファレンステータのセンサ配置が(xr、yr、zr、θr)であり、ステップ616で現在のセンサ配置として推定したセンサ配置が(xq、yq、zq、θq)であれば、差分として(xr-xq、yr-yq、zr-zq、θr-θq)が求まるので、センサ可動機構6を制御し、磁気角度センサ3をX軸方向にxr-xq移動し、Y軸方向にyr-yq移動し、Z軸方向にzr-zq移動し、X軸まわりにθr-θq回転する。
【0029】
ここで、このステップ618の磁気角度センサ3の移動により、リファレンステータの変位-磁気角度特性と同じ変位-磁気角度特性が得られる配置に磁気角度センサ3のセンサ配置を調整できることが期待できる。
そして、信号補正部4の信号補正動作を再開し(ステップ620)、今回のセンサ配置調整処理を終了する。
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上では、センサ可動機構6を、磁気角度センサ3の、X軸方向の移動、Y軸方向の移動、Z軸方向の移動、X軸まわりの回転移動を行えるものとしたが、センサ可動機構6は、必ずしも、全ての移動を行えるものとしなくてもよい。たとえば、センサ可動機構6は、磁気角度センサ3の、X軸方向の移動、Y軸方向の移動、Z軸方向の移動のみを行うものとしてもよい。また、センサ可動機構6を、磁気角度センサ3の、Y軸まわりの回転移動や、Z軸まわりの回転移動を行えるものとしてもよい。
【0030】
なお、これらの場合には、以上の実施形態におけるセンサ配置として、移動を行える方向の座標や角度の組み合わせを用いる。
【符号の説明】
【0031】
1…音源装置、2…スピーカ、3…磁気角度センサ、4…信号補正部、5…アンプ、6…センサ可動機構、7…変位変換部、8…センサ配置調整部、9…記憶部、61…ホルダ、62…回転機構、63…Z方向直動機構、64…Y方向直動機構、65…X方向直動機構、201…ヨーク、202…磁石、203…トッププレート、204…ボイスコイルボビン、205…ボイスコイル、206…フレーム、207…ダンパ、208…振動板、209…エッジ、210…ダストキャップ、211…変位検出用磁石、220…磁気回路、2011…凸部。