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特開2024-60719歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレート及びその製造方法並びにポリウレタン系複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060719
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレート及びその製造方法並びにポリウレタン系複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20240425BHJP
   A61K 6/893 20200101ALI20240425BHJP
【FI】
C08F290/14
A61K6/893
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168170
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
【テーマコード(参考)】
4C089
4J127
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BD01
4C089BE10
4J127AA03
4J127AA04
4J127BB041
4J127BB131
4J127BB221
4J127BC031
4J127BC131
4J127BD451
4J127BE261
4J127BE26Y
4J127BF631
4J127BF63Y
4J127BG051
4J127BG05Y
4J127BG101
4J127BG10Y
4J127BG171
4J127BG17X
4J127BG281
4J127BG28Y
4J127CB281
4J127CC131
4J127EA03
4J127FA45
(57)【要約】
【課題】GMA及びCHPMを含まないポリウレタン系複合材料及びグリセロールモノメタクリレートを製造すること。
【解決手段】GMA及びCHPMを含まないグリセロールモノメタクリレートであって、GCMS分析に基づいて、グリセロールモノメタクリレートに帰属されるピークの面積をSとし、第1不純物に帰属されるピーク面積をSとし、第2不純物に帰属されるピークの面積をSとしたときに、式:(S+S)/Sで定義される前記不純物1及び2の合計含有率が、0.10以下である、ことを特徴とする前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートの製造方法、及び、該グリセロールモノメタクリレートを用いることを特徴としたポリウレタン系複合材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルメタクリレート及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレートを含まない歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートであって、
夫々GCMS分析に基づいて、グリセロールモノメタクリレートとグリセリンとのマイケル付加体であると同定される第1不純物と、グリセロールモノメタクリレート同士のマイケル付加体であると同定される第2不純物と、を含んでいてもよく、
前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートをガスクロマトグラフィー質量分析したときに得られるトータルイオンクロマトグラムにおいて、
グリセロールモノメタクリレートに帰属されるピーク:Pの面積をSとし、
前記第1不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとし、
前記第2不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとしたときに、
式:(S+S)/Sで定義される前記不純物1及び2の合計含有率が、0.10以下である、ことを特徴とする前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレート。
【請求項2】
メタクリル酸、グリセリン、グリセロールジメタクリレート、及び、グリセロールトリメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を不純物としてさらに含んでいてもよく、グリセロールモノメタクリレート100質量部に対するこれら不純物の合計量が10質量部以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを製造する方法であって、
グリセリンと、メタクリル酸と、を酸触媒の存在下、40~80℃の温度で反応させて、(i)反応目的物であるグリセロールモノメタクリレート、(ii)グリセロールジメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい反応副生成物、(iii)未反応原料化合物であるグリセリン及びメタクリル酸、並びに(iv)酸触媒を含む反応液を得る反応工程;
前記反応液と塩基性水溶液とを混合して前記酸触媒を中和処理すると共に両液の混合水溶液からなる1次処理液を得る酸触媒処理工程;
非水溶性非極性有機溶媒を用いて、前記1次処理液からグリセロールジメタクリレートを前記非水溶性非極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより除去して、グリセロールジメタクリレートが除去された水溶液からなる2次処理液を得る副生成物除去工程;
非水溶性極性有機溶媒を用いて、前記2次処理液からグリセロールモノメタクリレートを該非水溶性極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより、前記グリセロールモノメタクリレート並びに不可避的に同時抽出されるグリセリン及びメタクリル酸を含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい3次処理液を得る目的物抽出工程;並びに
前記3次処理液から前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを分離する分離工程;
を含むことを特徴とする歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記分離工程が、
前記3次処理液、又は該3次処理液から前記酸触媒及びメタクリル酸を吸着除去して得られた溶液と、水と、を接触させてから両者を分離することにより、前記3次処理液からグリセリン並びに前記3次処理液が前記第1不純物及び/又は前記第2不純物を含む場合におけるこれら化合物を水中に選択的に抽出することにより除去して4次処理液を得る水処理工程;並びに
前記4次処理液から溶媒を除去して前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを回収する工程;
を含む、請求項3に記載の歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートの製造方法。
【請求項5】
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(A1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(A1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(A2)とを混合して前記ジオール化合物(A1)と該ジイソシアネート化合物(A2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(A1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(A2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物中の前記ポリウレタン成分(A)におけるラジカル重合性基と、前記重合性単量体(B)と、をラジカル重合させて前記第2原料組成物を硬化させてポリウレタン系複合材料を得る硬化工程、
を含むポリウレタン系複合材料の製造方法において、
前記ジオール化合物(A1)として、請求項1に記載の歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを使用する、
ことを特徴とするポリウレタン系複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレート及びその製造方法並びにポリウレタン系複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造体などの歯科用修復物(或いは歯科用補綴物)の作製においては、口腔内の撮影画像等から、コンピュータ支援設計(CAD:COMPUTER AIDED DESIGN)及びコンピュータ支援製造(CAM:COMPUTER AIDED MANUFACTURING)技術によるCAD/CAM装置を用いて、歯科切削加工用ブランクに切削加工を施して歯科用修復物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科切削加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。なお、歯科切削加工用ブランクには、前記被切削体を切削加工機に固定するための保持ピンが接合されることも多く、このような形態においては保持ピンと一体化したものを歯科切削加工用ブランクと呼ぶこともある。
【0003】
歯科切削加工用ブランクの被切削体を構成する歯科切削加工用材料としては、作業性(切削加工性)の高さ、高審美性、強度等の点から、シリカ等の無機充填材が、メタクリレート樹脂などの樹脂マトリックス中に分散した複合材料からなるハイブリッドレジン(以下、「HR」と略記することもある。)が用いられることが多い。
【0004】
このようなハイブリッドレジン系の歯科切削加工用材料は、主に歯冠部で適用されており、大臼歯冠やブリッジとして使用される場合、より高強度が求められる。このような要求に応え得る歯科切削加工用材料として、「架橋構造を有するポリウレタン樹脂と無機充填材との複合材料」である「ポリウレタン系複合材料」が提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1)と、ジイソシアネート化合物(a2)と、分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)および前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B)と、を含む重付加反応性原料組成物(以下、「第1原料組成物」ともいう。)中において、前記ジオール化合物(a1)と前記ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成する重付加反応工程と、前記ポリウレタン成分(A)と、前記重合性単量体(B)と、ラジカル重合開始剤(C)と、充填材(D)と、を含むラジカル重合性原料組成物(以下、「第2原料組成物」ともいう。)を調製するラジカル重合性原料組成物調製工程と、前記重付加反応工程および前記ラジカル重合性原料組成物調製工程を完了した後に、前記ラジカル重合性原料組成物を用いてラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料を形成するラジカル重合工程とを含む方法により得られる硬化体は、樹脂マトリックス部が高強度なポリウレタン系樹脂からなるばかりでなく架橋構造を有するため上記「ポリウレタン系複合材料」に該当し、強度及び耐水性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/153446号パンフレット
【特許文献2】特公平04-10465号公報
【特許文献3】国際公開第2015/168771号パンフレット
【特許文献4】特許第6555847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1では、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)としては、ラジカル重合性として(メタ)アクリレート基を有し、2つのOH間に介在する2価の有機残基の主鎖を構成する原子数が2~4である化合物を使用することが好ましいとされ、実施例においてはグリセロールモノメタクリレート(以下、「GLM」と略記することもある。)が使用されている。
【0008】
そこで、本発明者らが、ラジカル重合性ジオール化合物として工業的に入手可能なグリセロールモノメタクリレート(GLM)を用いて前記複合材料を製造してみたところ、微量ではあるが、人体に対して有害な物質が該複合材料から検出されることが明らかとなった。すなわち、発がん性や変異原性が指摘されているグリシジルメタクリレート(以下、「GMA」と略記することもある。)や生殖毒性や変異原性が指摘されている3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下、「CHPM」と略記することもある。)が抽出されることが判明した。また、これら化合物の混入経路を突き止めるため、本発明者らがグリセロールモノメタクリレート(GLM)について分析を行ったところ、GMA及びCHPMが不純物として含まれていることが判明した。GLMの合成方法の1つに、GMAを水和反応でエポキシを開環して合成する方法があり(特許文献2参照)、また、GMAは一般にエピクロロヒドリンとメタクリル酸を用いて合成されることから、上記方法で製造されたGLMに、GMA製造時に副生したCHPM及び未反応のGMAが残留したものと考えられる。
【0009】
微量であってもGMAやCHPMを含む可能性のある材料を口腔内で使用する歯科用途に用いることには問題がある。そこで、本発明は、このような化合物を含むことのないグリセロールモノメタクリレート(GLM)の製造方法を提供し、延いては、GMAやCHPMを含むことのない前記ポリウレタン系複合材料を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、グリシジルメタクリレート及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレートを含まない歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートであって、
夫々GCMS分析に基づいて、グリセロールモノメタクリレートとグリセリンとのマイケル付加体であると同定される第1不純物と、グリセロールモノメタクリレートとグリセリンとのマイケル付加体であると同定される第2不純物と、を含んでいてもよく、
前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートをガスクロマトグラフィー質量分析(CCMS分析)したときに得られるトータルイオンクロマトグラムにおいて、
グリセロールモノメタクリレートに帰属されるピーク:Pの面積をSとし、
前記第1不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとし、
前記第2不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとしときに、
式:(S+S)/Sで定義される前記不純物1及び2の合計含有率が、0.10以下である、ことを特徴とする前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートである。
【0011】
上記形態の前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートで(以下、「本発明のGLM」ともいう。)は、メタクリル酸、グリセリン、グリセロールジメタクリレート、及び、グリセロールトリメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を不純物としてさらに含んでいてもよく、グリセロールモノメタクリレート100質量部に対するこれら不純物の合計量が10質量部以下である、ことが好ましい。
【0012】
本発明の第二の形態は、本発明のGLMを製造する方法であって、
グリセリンと、メタクリル酸と、を酸触媒の存在下、40~70℃の温度で反応させて、(i)反応目的物であるグリセロールモノメタクリレート、(ii)グリセロールジメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい反応副生成物、(iii)未反応原料化合物であるグリセリン及びメタクリル酸、並びに(iv)酸触媒を含む反応液を得る反応工程;
前記反応液と塩基性水溶液とを混合して前記酸触媒を中和処理すると共に両液の混合水溶液からなる1次処理液を得る酸触媒処理工程;
非水溶性非極性有機溶媒を用いて、前記1次処理液からグリセロールジメタクリレートを前記非水溶性非極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより除去して、グリセロールジメタクリレートが除去された水溶液からなる2次処理液を得る副生成物除去工程;
非水溶性極性有機溶媒を用いて、前記2次処理液からグリセロールモノメタクリレートを該非水溶性極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより、前記グリセロールモノメタクリレート並びに不可避的に同時抽出されるグリセリン及びメタクリル酸を含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい3次処理液を得る目的物抽出工程;並びに
前記3次処理液から前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを分離する分離工程;
を含むことを特徴とする歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートの製造方法である。
【0013】
上記形態の製造方法(以下、「本発明のGLM製法」ともいう。)においては、前記分離工程が、
前記3次処理液、又は該3次処理液から前記酸触媒及びメタクリル酸を吸着除去して得られた溶液と、水と、を接触させてから両者を分離することにより、前記3次処理液からグリセリン並びに前記3次処理液が前記第1不純物及び/又は前記第2不純物を含む場合におけるこれら化合物を水中に選択的に抽出することにより除去して4次処理液を得る水処理工程;並びに
前記4次処理液から溶媒を除去して前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを回収する工程;
を含む、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の第三の形態は、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(A1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(A1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(A2)とを混合して前記ジオール化合物(A1)と該ジイソシアネート化合物(A2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(A1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(A2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物中の前記ポリウレタン成分(A)におけるラジカル重合性基と、前記重合性単量体(B)と、をラジカル重合させて前記第2原料組成物を硬化させてポリウレタン系複合材料を得る硬化工程、
を含むポリウレタン系複合材料の製造方法において、
前記ジオール化合物(A1)として、本発明のGLMを使用する、ことを特徴とするポリウレタン系複合材料の製造方法(以下、「本発明のポリウレタン系複合材料製造方法」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のGLMは、生殖毒性や変異原性が懸念される、CHPMやGMAを含まないため歯科用ポリウレタン系樹脂原料として好適に使用できるばかりでなく、グリセロールモノメタクリレートとグリセリンとのマイケル付加体であると同定される第1不純物及びグリセロールモノメタクリレート同士のマイケル付加体であると同定される第2不純物を含まないか又は含んでいてもその量が少ない。このため、本発明のGLMとジイソシアネート化合物(A2)とを重付加反応させて得たポリウレタン成分(A)が重合性単量体(B)と混合された状態であっても液状を保ち、成形型への充填などの操作性を良好とすることができる。また、本発明のGLM製法によれば、本発明のGLMを効率よく製造することが可能となり、延いてはCHPMやGMAを含まないポリウレタン系複合材料を効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本図は、後述する比較例1で得られた精製GLMについて、後述する「本GCMS測定条件」でGCMS分析を行ったときに得られたトータルイオンクロマトグラムであり、本発明のGLMに含まれ得る各成分に由来するピークを説明するためのものである。なお、トータルイオンクロマトグラムの横軸は保持時間(rt:分)を表し縦軸は強度(au)を表している。また、トータルイオンクロマトグラムにピークとして表れているBHTは重合禁止剤として配合したものであり、p―キシレンは定量分析のための内部標準として加えた化合物である。さらに「*」を付した4つのピークは、ブランク試料を測定したときにも検出される夾雑ピーク(所謂ブランクピーク)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
グリシジルメタクリレート(GMA)を使用しないグリセロールモノメタクリレート(GLM)の合成方法としては、グリセリンとメタクリル酸とのエステル化反応が知られている(たとえば、特許文献3参照)。しかしながら、上記エステル化反応においてはグリセリン分子中の1つの水酸基のみを選択的にエステル化することは困難である。
【0018】
本発明者等は、上記エステル化反応により得られた反応液から比較的高純度のGLMを効率的に得ることが可能な精製法を見出すと共に、該方法を採用して得られるグリセロールモノメタクリレート(GLM)を用いて前記特許文献1に記載された方法に従って得られたポリウレタン系複合材料からは、生殖毒性や変異原性が懸念される、CHPMやGMAが検出されないことを確認し、既に提案している(特願2022-011931号)。
【0019】
本発明者等は、前記ポリウレタン系複合材料からなる歯科切削加工用ブランクの被切削体を得るために前記第2原料組成物を成形型内に充填して前記ラジカル重合工程を行うことを試みたところ、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)として上記方法で製造したGLMを用いた場合には、(特許文献2で得られるGLMを用いたときには見られなかった現象として)第2原料組成物の型への充填が困難となる場合があることが判明した。そこで、上記操作性悪化の原因を探るため、GLM、重合性単量体(B)およびジイソシアネート化合物(A2)のみを混合し重付加反応を行い、得られたポリウレタン成分について調べてみると、溶媒に不溶な部分が存在することが確認された。前記方法で得られるGLMには、(特許文献2で得られるGLMには含まれない)不純物として、原料として使用したグリセリンとGLMとのマイケル付加体と同定される化合物やGLM同士のマイケル付加体と同定される化合物が含まれており、これら化合物の含有量が多いと第2原料組成物中のポリウレタン成分(A)の流動性が低下し、第2原料組成物の操作性が悪くなることから上記マイケル付加体が上記不溶部の形成に寄与しているものと考えられる。なお、GLMについては、所定の割合で異性体が存在することが知られており(特許文献4参照。)、上記マイケル付加体の種類も多くなっている。
【0020】
本発明者等は、GLM中のマイケル付加体を低減させることができれば、ポリウレタン成分(A)中の不溶部成分を低減でき、第2原料組成物の操作性が改善されるのではないかと考え、検討を行ったところ、(1)恐らく反応の活性化エネルギーの関係によると思われるが、合成時の温度を低下させることでマイケル付加体の生成を抑制できること、及び(2)得られたGLMを用いたポリウレタン成分(A)では、不溶部成分は低減され、第2原料組成物の操作性(型への充填性)が改善されきること、を見出し、本発明を完成したものである。
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値X及びYを用いた「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0022】
1.本発明のGLM
本発明のGLMは、グリシジルメタクリレート(GMA)及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(CHPM)を含まないため、歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートとして好適に使用することができる。例えば特許文献1に記載されているポリウレタン系複合材料を製造する際の原料となるラジカル重合性ジオール化合物(a1)として好適に使用することができる。なお、GMA、CHPMの分析は、たとえば、HPLC(高速液体クロマトグラフ)分析で次のような条件で行うことができる。
【0023】
[HPLC測定条件]
検出器:フォトダイオードアレイ検出器210nm (PDA検出器)
カラム:INERTSIL ODS―2(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
展開溶媒:アセトニトリル/1wt%リン酸水溶液=50/50
流速:1ml/min.
上記条件(「本HPLC測定条件」ともいう。)でHPLC分析を行った場合、GMAはリテンションタイム:約6.1分に、CHPMはリテンションタイム:約5.6分に、夫々ピークが検出されるので、これらのピークが検出されないことにより、GMA及びCHPMを含まないことを確認することができる。
【0024】
本発明のGLMは、上記特徴に加えて、さらに、グリセリンとGLMとのマイケル付加体と同定される化合物からなる不純物1やGLM同士のマイケル付加体と同定される化合物からなる不純物2の量が少ないことを特徴としている。具体的には、本発明のGLMをGCMS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)したときに得られるトータルイオンクロマトグラムにおいて、
GLMに帰属されるピーク:Pの面積をSとし、前記第1不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとし、前記第2不純物に帰属されるピーク:Pの面積をSとしたときに、式:(S+S)/Sで定義される前記不順物1及び2の合計含有率が、0.10以下である、ことを特徴としている。
【0025】
上記含有率が0.10を超える場合には、例えば特許文献1に記載されているポリウレタン系複合材料を製造する際の原料として用いた場合に、前記第2原料組成物の型への充填が困難となる。前記第2原料組成物の操作性の観点から、上記含有率は、0.05以下であることが好ましく、0である(不純物1及び2を含まない、又はピークP及Pが検出されない)ことが最も好ましい。
【0026】
本発明のGLMにおけるGLMは通常、異性体(2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート)および1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート)の混合物からなる。特許文献4でも記載されるようにGLMの異性体の割合は平衡状態で、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが90質量部、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが10質量部となることが知られており、本発明で得られるGLMにおいても2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート:1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの質量比は、ほぼ90:10となっている。
【0027】
また、本発明のGLMのGCMS分析は、たとえば、次のような条件で行うことができる。
【0028】
[GCMS測定条件]
イオン化法:電子イオン化法 (EI)
カラム:AGILENT J&W DB-1ms(アジレント・テクノロジー社製)
カラム温度:40~250℃
上記条件(「本GCMS測定条件」ともいう。)でGCMS分析を行った場合に得られるトータルイオンクロマトグラムにおいて、図1に示されるように、GLMは保持時間(リテンションタイム):10.1~10.5分あたりにピークが検出される。このとき、GLMが異性体の混合物であることに起因して、GLMに帰属されるピークは、夫々の異性体によるピーク:P01とP02の2つ現れ、前記面積をSはこれらピーク面積の和となる。
【0029】
また、上記トータルイオンクロマトグラムにおいて、図1に示されるように、不純物1のピークP及び不純物2のピークPは、夫々リテンションタイム(rt):約18分(P)及び約20~21分(P)に現れる。ただし、これらピークについても図1及び図2に示されるように、ピークP並びにピークPは夫々が、近接した2つの(図1においてrt=18.2分に現れる)ピークP11及び(図1においてrt=18.3分に現れる)ピークP12並びに(図1においてrt=20.7分に現れる)ピークP21及び(図1においてrt=20.8分に現れる)ピークP22として現れる。
【0030】
ここで、ピークP(すなわちピークP11及びピークP12)ついては、ピークP11及びピークP12の何れについてもGCMS分析のマススペクトルデータにおいて、m/z:161、193及び205が確認されるピークであり、製造条件を勘案して下記(a1)~(a4)に示す構造を有する化合物に由来するものであると同定している。また、ピークP(すなわちピークP21及びピークP22)については、ピークP21及びピークP22の何れについてもGCMS分析のマススペクトルデータにおいて、m/z:229及び280が確認されるピークであり、製造条件を勘案して下記(b1)~(b4)に示す構造を有する化合物に由来するものであると同定している。但し、ピークPを構成するピークP11及びピークP12の各ピークが(a1)~(a4)で示される化合物の何れによるものであるのかまでは特定できず、ピークPを構成するピークP21及びピークP22の各ピークについても(b1)~(b4)で示される化合物の何れによるものであるのかまでは特定できていない。
【0031】
このように、Sは、m/z:161、193及び205が確認されるピークPであるピークP11及びピークP12の総ピーク面積を表すものであり、Sはm/z:229及び280が確認されるピークPであるピークP21及びピークP22の総ピーク面積を表すものであるともいえる。
【0032】
【化1】
【0033】
下記反応式に示されるように、上記式(a1)~(a4)で示される化合物は、GLM(異性体を含む)とグリセリンのマイケル付加体であり、上記式(b1)~(b4)で示される化合物は、GLM(異性体を含む)同士のマイケル付加体である。これら化合物は、何れも分子内にヒドロキシ基を(GLMの2個よりも1又は2個多い)3~4つ有しているため、ジイソシアネート化合物(a2)と重付加反応させて得られるポリウレタン成分(A)が架橋構造を有することにより、型への充填操作性が低下すると考えられる。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
本発明のGLMは、メタクリル酸、グリセリン、グリセロールジメタクリレート、及び、グリセロールトリメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を不純物としてさらに含んでいてもよい。但し、この場合、メタクリル酸、グリセリン、グリセロールジメタクリレート、及び、グリセロールトリメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を不純物としてさらに含んでいてもよく、グリセロールモノメタクリレート100質量部に対するこれら不純物の合計量が10質量部以下である、ことが好ましい。
【0037】
なお、前記本GCMS測定条件にてGCMS分析を行った場合、メタクリル酸はリテンションタイム:約3.5に、グリセリンはリテンションタイム:約6.3分に、グリセロールジメタクリレートはリテンションタイム:約13.8分に、グリセロールトリメタクリレートリテンションタイム:約16.6分に、それぞれピークが現れる。また、これら化合物については標準物質が入手できるので、予め検量線を作成しておき、該検量線に基づいて含有量を定量することが可能である。
【0038】
2.本発明のGLMの製法
本発明のGLM製法は、下記の反応工程、酸触媒処理工程、副生成物除去工程、目的物抽出工程及び分離工程を有する。
【0039】
反応工程: グリセリンと、メタクリル酸と、を酸触媒の存在下、40~80℃の温度で反応させて、(i)反応目的物であるグリセロールモノメタクリレート、(ii)グリセロールジメタクリレート、グリセロールトリメタクリレートを含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい反応副生成物、(iii)未反応原料化合物であるグリセリン及びメタクリル酸、並びに(iv)酸触媒を含む反応液を得る工程。
【0040】
酸触媒処理工程: 前記反応液と塩基性水溶液混合して前記酸触媒を中和処理すると共に両液の混合水溶液からなる1次処理液を得る工程。
【0041】
副生成物除去工程: 非水溶性非極性有機溶媒を用いて、前記1次処理液からグリセロールジメタクリレートを前記非水溶性非極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより除去して、グリセロールジメタクリレートが除去された水溶液からなる2次処理液を得る工程。
【0042】
目的物抽出工程: 非水溶性極性有機溶媒を用いて、前記2次処理液からグリセロールモノメタクリレートを該非水溶性極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより、前記グリセロールモノメタクリレート並びに不可避的に同時抽出されるグリセリン及びメタクリル酸を含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい3次処理液を得る工程。
【0043】
分離工程: 前記3次処理液から前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを分離する工程。
【0044】
以下に、各工程等について詳しく説明する。
【0045】
(1)反応工程
反応工程では、グリセリンと、メタクリル酸と、を酸触媒の存在下に反応させて、(i)反応目的物であるグリセロールモノメタクリレート、(ii)グリセロールジメタクリレート、グリセロールトリメタクリレート、前記第1不純物及び前記第2不純物を含む反応副生成物、(iii)未反応原料化合物であるグリセリン及びメタクリル酸、並びに(iv)酸触媒を含む反応液を得る。このとき、反応温度を、40~80℃とすることが重要である。反応温度が40℃未満である場合には、十分な転化率を得ることができず、反応温度が80℃を超えると前記第1不純物及び前記第2不純物の副生量が増え、後述する目的物抽出工程においてこれら不純物の混入が増えてしまい、本発明のGLMを得ることが困難となる。これら不純物の副生量を低減するという観点及び効率性の観点から、反応温度は、50~70℃とすることが好ましい。
【0046】
反応原料として用いるグリセリン及びメタクリル酸としては、何れについても、たとえば純度90質量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。
【0047】
酸触媒としてはエステル化反応、具体的にはグリセリンとメタクリル酸との脱水縮合反応を触媒する酸であれば特に限定されず、例えば硫酸、硝酸、p-トルエンスルホン酸などが好適に使用できる。
【0048】
上記エステル化反応は、グリセリン、メタクリル酸及び酸触媒を含む混合物を加熱することにより行うことができる。このとき、グリセリンとメタクリル酸の量比は、メタクリル酸基準の転化率(反応率)とジエステル体、トリエステル体などの副生成物の生成を抑制するという観点から、メタクリル酸1モルに対してグリセリンを1.1~10モルと、グリセリンを過剰に添加することが好ましい。一方で、グリセリンを過剰に添加し過ぎた際は、グリセリンを原料としたマイケル付加体の生成が促進されるため、マイケル付加体の生成を抑制するという観点も含め、特に1.5~5.0モルの範囲とすることが好ましい。また、酸触媒の量は、通常、メタクリル酸1.0モルに対し0.001モル~0.2モルであり、好ましくは、0.005~0.1モルである。反応は、無溶媒下で行うことが好まく、10~60時間程度反応させることが好ましい。前記反応は、グリセリンとメタクリル酸を溶解することができる溶媒を添加し反応を行うこともできるが、無溶媒でも反応は進行する。ただし、溶媒を添加すると、反応系内に溶媒を含むことになるため、後述する1次処理液、2次処理液、の体積が増加することにより、使用する非水溶性非極性有機溶媒、非水溶性極性有機溶媒の使用量が増加する。そのため、単離工程で使用する有機溶媒使用量の観点から、無溶媒で行うことが好ましい。
【0049】
また、使用する原料及び得られる目的物がメタクリル基を含むため、反応中の重合を防ぐ目的で重合禁止剤を追加して前記反応をおこなうことが好ましい。重合禁止剤としては、通常、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン等が用いられる。これらの重合禁止剤は、通常メタクリル酸100質量部に対して、0.01~10質量部、好ましくは、0.05~5質量部加えられる。
【0050】
このようにして反応を行った場合のメタクリル酸基準の転化率(反応率)は通常、60~80%程度であり、反応目的物、反応副生成物、未反応原料化合物であるグリセリン及びメタクリル酸、並びに酸触媒を含む反応液が得られる。
【0051】
本発明者らが反応条件の検討を行った結果、反応温度を40~80℃とした場合でも、メタクリル酸基準の転化率(反応率)が80%を超えてなお反応を進行させた際には、(マイケル付加体である)前記不純物1及び/又は2の生成を確認した。これら不純物の生成を抑制するという観点から、メタクリル酸基準の転化率(反応率)は、60~80%とすることが好ましい。なお、40~80℃とし上記転化率を60~80%とした場合でもとジエステル体、トリエステル体は副生する。ジエステル体であるグリセロールジメタクリレートの生成量は通常、GLM100質量部に対し0.1質量部~20質量部程度であり、トリエステル体であるグリセロールトリメタクリレートの生成量は、通常、GLM100質量部に対し0.01質量部~2質量部程度である。
【0052】
たとえば、グリセリン2モルに対してメタクリル酸1モルを反応温度60℃、反応時間24時間で反応させてメタクリル酸基準の転化率(反応率)が約70%となるように反応を行った場合の反応液(以下、「標準反応液」ともいう。)は、GLM:100質量部に対して、グリセリン:100質量部程度、メタクリル酸:20質量部程度、グリセロールジメタクリレート等の副生物:2質量部程度を含むものとなり、不純物1及び2は未検出となる。
【0053】
前記反応液及び後述する各処理液中の各成分の量は、前記本GCMS測定条件でGCMS分析することにより確認することができる。
【0054】
なお、メタクリル酸、グリセロールモノメタクリレート(GLM)及び副生成物、グリセロールジメタクリレート、及び、グリセロールトリメタクリレートは、前記本HPLC測定条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定に基づき定量することもできる。
【0055】
(2)酸触媒処理工程
酸触媒処理工程では、前記反応液と塩基性水溶液を混合して、酸性物質である、前記酸触媒及びメタクリル酸を中和処理して塩として失活させるとともに両液の混合水溶液からなる1次処理液を得る。得られる1次処理液は、pH6~9になるように塩基性水溶液を添加することが好ましい。pHが9を超える塩基性水溶液を添加した際は1次処理液に含まれるGLMが加水分解してしまうため、9以下であることが好ましい。また、pHを6以上にすることで反応液に含まれるメタクリル酸、酸触媒の十分な量を中和することができる。メタクリル酸、酸触媒の中和及びGLMの分解を防ぐという観点から、pHは7~8がより好ましい。pHは一般的に使用されるpH試験紙を使用し測定すればよい。この時、酸触媒及びメタクリル酸は全てが中和され塩になることは無く、残存酸触媒及びメタクリル酸が1次処理液には含まれることとなる。塩基性水溶液は後述する量、濃度、体積を適宜添加すればよい。
【0056】
塩基性水溶液としては、塩基性化合物を用いた水溶液が特に制限なく使用できる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどが好適に用いられる。塩基性水溶液の濃度は、中和処理による副生成物の生成を避けるという観点から0.1~30質量%、特に1.0~10質量%とすることが好ましい。使用する塩基性水溶液の量は、作業性、及び、目的物抽出工程におけるグリセリン、メタクリル酸の残存率の観点から、反応液の体積(容積)の1.0~5.0倍、特に2.5~3.5倍程度使用することが好ましい。反応液と塩基性水溶液の混合は、通常、室温下で、0.1~1.0時間程度、撹拌すればよい。なお、1次処理液は、反応液と塩基性水溶液を混合して得られる水溶液であるので、反応液に含まれる成分は、酸触媒及びメタクリル酸が中和処理されて塩等に変化する以外は、そのまま1次処理液に含まれることになる。そのため1次処理液にはメタクリル酸のみではなく、メタクリル酸塩も1次処理液には含まれる。ただし、上記HPLC測定条件で分析する場合には、メタクリル酸は展開溶媒にリン酸を含む条件で測定を行っているため、HPLC測定ではメタクリル酸塩もメタクリル酸として換算している。そのため、1次処理液と、後述する2次処理液にはメタクリル酸及びメタクリル酸塩も含まれているものとなる。したがって、標準反応液を用いた場合に得られる1次処理液(以下、「標準1次処理液」ともいう。)のGLMに対する各成分の量も変わることは無い。
【0057】
(3)副生成物除去工程
副生成物除去工程では、前記1次処理液と非水溶性非極性有機溶媒を混合して、1次処理液から副生成物を非水溶性非極性有機溶媒中に選択的に抽出することにより除去して、副生成物が除去された水溶液からなる2次処理液を得る。
【0058】
非水溶性非極性有機溶媒としては、比誘電率(測定温度)が1.8(25℃)~2.4(25℃)であり、水層と分離する有機溶媒であれば特に制限されず、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族系炭化水素類、n-へキサンやヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等の有機溶媒が使用できる。前記副生成物である、グリセロールジメタクリレート、グリセロールトリメタクリレートに対する溶解性が高く、且つ目的物であるグリセロールモノメタクリレートに対する溶解性が低く、また、水層(該水層は塩化ナトリウムを添加し、飽和食塩水溶液にしたものであってもよい)との分離性が良いという理由から、芳香族系炭化水素類を使用することが好適である。
【0059】
抽出操作は、1次処理液と非水溶性非極性有機溶媒とを室温下で、0.01~1.0時間程度、撹拌してから分離し、水層を回収することにより好適に行うことができる。このとき使用する非水溶性非極性有機溶媒の1回で使用する量はGLMの残存率を高め、効率よく副生成物を除去するために1次処理液の体積(容量)の10倍以下であることが好ましい。これは、目的物であるGLMと副生成物であるグリセロールジメタクリレートの溶解性が似ており、使用する非水溶性非極性有機溶媒の量が1次処理液の体積(容量)の10倍を超えて使用するとグリセロールジメタクリレートのみならず、GLMも同時に除去されてしまうためである。そのため1次処理液の体積(容量)の0.1~10倍、特に0.1~5.0倍程度使用することが好ましい。また、抽出回数は、1回でも良いが副生成物の除去率を高めるために1回目の抽出操作で分離された水層にさらに非水溶性非極性有機溶媒を加えて抽出を行う操作を繰り返すことが好ましい。このような抽出操作を繰り返すことにより副生成物の除去率は向上するが、GLMの回収率は徐々に低下するので、抽出回数は、15回以下、特に10回以下とすることが好ましい。
【0060】
例えば、前記標準1次処理液を用いて、1次処理液の体積(容量)の0.35倍の非水溶性非極性有機溶媒で5回程度抽出を行った場合、GLMの残存率(2次処理液に含まれる量の1次処理液に含まれる量に対する割合)は約90%程度であり、得られる2次処理液(以下、「標準2次処理液」ともいう。)に含まれる各成分の量比は、GLM100質量部に対して、グリセリン:100質量部、メタクリル酸:20質量部程度、グリセロールジメタクリレート等の副生物:0.1質量部、程度となる。また、前記第1不純物及び前記第2不純物は未検出となる。
【0061】
(4)目的物抽出工程
目的物抽出工程では、前記2次処理液と非水溶性極性有機溶媒を用いて、前記2次処理液からグリセロールモノメタクリレートを該非水溶性極性有機溶媒中に選択的に抽出して、前記グリセロールモノメタクリレート並びに不可避的に同時抽出されるグリセリン及びメタクリル酸を含み、前記第1不純物及び前記第2不純物を含んでいてもよい3次処理液を得る。
【0062】
前記3次処理液を得る目的物抽出工程で用いる非水溶性極性有機溶媒としては、比誘電率(測定温度)が3.8(25℃)~9.5(25℃)であり、水層と分離する有機溶媒であれば特に制限されず、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、等のエーテル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒が使用できる。目的物であるグリセロールモノメタクリレートに対する溶解性が高く且つグリセリン及びメタクリル酸に対する溶解性が低く、水層(飽和食塩水溶液)との分離性が良いという理由から、エステル類を使用することが好適である。
【0063】
抽出操作は、2次処理液と非水溶性極性有機溶媒とを、室温下で、0.01~1.0時間程度撹拌してから分離させ、有機層を回収することにより行うことができる。このとき、使用する非水溶性極性有機溶媒の1回の抽出で使用する量は特に制限はされないが、作業性及び、目的物抽出工程におけるグリセリン、メタクリル酸の残存率の観点から、2次処理液の体積(容量)の0.1~5.0倍、特に0.5倍~2.5倍使用することが好ましい。また、GLMの回収率を高くするために、抽出で分離された水層に再び新たな非水溶性極性有機溶媒を加えて抽出操作を行い、分離回収した有機層を抽出操作で分離回収した有機層を合わせるという操作を繰り返してもよい。ただし、複数回の抽出を行った場合、グリセリン及びメタクリル酸の抽出量が増加するため、抽出回数は、通常5回以下でよいが、3回以下、特に1回とすることが好ましい。
【0064】
グリセリンはGLMよりも水に対する親和性が高いため、非水溶性極性有機溶媒を用いた抽出により抽出液中のこれらの量を減らすことができる。また、酸触媒及びメタクリル酸を中和し生成した酸触媒塩およびメタクリル酸塩も水溶性が高いものである場合には、大部分が水層に残り、除去されることになる。例えば、前記標準2次処理液を用いて3回程度抽出を行った場合、GLMの残存率(3次処理液に含まれる量の1次処理液に含まれる量に対する割合)は約80%程度であり、得られる3次処理液(以下、「標準3次処理液」ともいう。)に含まれる各成分の量比は、GLM100質量部に対してグリセリン:3質量部、メタクリル酸:3質量部程度、グリセロールジメタクリレート等の副生物:0.1質量部、程度となる。また、GCMS分析を行うと前記第1不純物及び前記第2不純物は未検出となる。
【0065】
(5)分離工程
分離工程では、前記3次処理液から前記歯科用ポリウレタン系樹脂原料用グリセロールモノメタクリレートを分離する。該分離工程、下記溶媒分離工程、又は下記水処理工程及び下記溶媒分離工程を含むことが好ましい。
【0066】
(5―1)水処理工程
水処理工程では、前記3次処理液と水を混合して、前記3次処理液からグリセリン並びに前記3次処理液が前記第1不純物及び/又は前記第2不純物を含む場合におけるこれら化合物を水中に選択的に抽出することにより除去して4次処理液を得る。
【0067】
用いる水としては、前記3次処理液と分離する水であれば特に制限されず、例えば、水道水、純水、超純水、蒸留水等の水が使用できる。
【0068】
抽出操作は、3次処理液と水とを室温下で、0.01~1.0時間程度、撹拌してから分離し、有機層を回収することにより好適に行うことができる。このとき使用する水の1回で使用する量はGLMの残存率を高め、効率よくグリセリンを除去するために3次処理液の体積(容量)の1倍以下であることが好ましい。これは、目的物であるGLMとグリセリンの溶解性が似ており、使用する水の量が3次処理液の体積(容量)の1倍を超えて使用するとグリセリンのみならず、GLMも同時に除去されてしまうためである。そのため3次処理液の体積(容量)の0.01~1倍、特に0.05~0.5倍程度使用することが好ましい。また、抽出回数は、1回でも良いがグリセリンの除去率を高めるために1回目の抽出操作で分離された有機層にさらに水を加えて抽出を行う操作を繰り返しても良い。このような抽出操作を繰り返すことにより副生成物の除去率は向上するが、GLMの回収率は徐々に低下するので、抽出回数は、5回以下、特に3回以下とすることが好ましい。例えば、前記標準3次処理液を用いて1回程度抽出を行った場合、GLMの残存率(4次処理液に含まれる量の1次処理液に含まれる量に対する割合)は約70%程度であり、得られる4次処理液(以下、「標準4次処理液」ともいう。)に含まれる各成分の量比は、GLM100質量部に対してグリセリン:1.5質量部、メタクリル酸:3質量部程度、グリセロールジメタクリレート等の副生物:0.1質量部、程度となる。また、GCMS分析を行うと前記第1不純物及び前記第2不純物は未検出となる。
【0069】
(5-2)溶媒除去工程
溶媒除去工程では、上記目的物抽出工程で得られた3次処理液、もしくは上記水処理工程で得られた4次処理液から溶媒を留去する。溶媒留去は、重合を防ぐため、15~100℃の範囲で行うことが好ましい。圧力は、温度によるが、0.1KPaから50KPaで行うことができる。また、溶媒留去の際には、事前に重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の添加量は、反応工程で使用したメタクリル酸100質量部に対して、0.001~1.0質量部が好ましく、0.01~0.5質量部がより好ましい。
【0070】
3.本発明のポリウレタン系複合材料の製造方法
前記したように、本発明のGLMは、特許文献1に示されるポリウレタン系複合材料の製造方法におけるジオール化合物(A1)として好適に使用することができる。そこで、上記ポリウレタン系複合材料の製造方法において本発明のGLMを用いた、本発明の複合材製法について説明する。
【0071】
本発明の複合材製法は、下記第1原料組成物調製工程、第2原料組成物調製工程、及び硬化工程を含む。
【0072】
第1原料組成物調製工程: 1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(A1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(A1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する工程
第2原料組成物調製工程: 前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(A2)とを混合して前記ジオール化合物(A1)と該ジイソシアネート化合物(A2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(A1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(A2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する工程
硬化工程: 前記第2原料組成物中の前記ポリウレタン成分(A)におけるラジカル重合性基と、前記重合性単量体(B)と、をラジカル重合させて前記第2原料組成物を硬化させてポリウレタン系複合材料を得る工程。
【0073】
そして、前記ジオール化合物(A1)として、本発明のGLMを使用することを特徴とし、そのことにより、得られるポリウレタン系複合材料は、有害性が懸念されるCHPMとGMAを含まないものとなり、さらには、マイケル付加体の含有量を低減させることにより、第2原料組成物の操作性が改善され、容易に成型することができるという効果を奏するものである。
【0074】
本発明のポリウレタン系複合材料の製造方法は、上記特徴点以外は特許文献1に示されるポリウレタン系複合材料の製造方法と特に変わる点はなく、重合性単量体(B)、ジイソシアネート化合物(A2)、ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)としては、特許文献1で使用できるとされているものが特に制限なく使用できる。例えば、重合性単量体(B)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が、ジイソシアネート化合物(A2)としては、m-キシリレンジイソシアナートが、ラジカル重合開始剤(C)としては、t-ブチルパーオキシラウレートが、充填材(D)としてはシリカ-ジルコニアが、好適に使用できる。
【0075】
また、第1原料組成物調製工程、第2原料組成物調製工程及び硬化工程の各条件や手順等も特許文献1に開示されている条件や手順がそのまま採用でき、例えば、配合比に関しては、ラジカル重合性ジオール化合物(A1):GLMに対するジイソシアネート化合物(A2)のモル比:A2/A1モル比を1.0とし、(A1)、(A2)及び(B)の合計質量に対する(B)の質量の割合が20~80質量%程度とし、(A1)、(A2)、(B)、(C)及び(D)に占める(D)の割合を60~85質量%程度とするのが好適である。
【0076】
そして、本発明のポリウレタン系複合材料の製造方法で製造されるポリウレタン系複合材料は、歯科切削加工用材料用の歯科用ポリウレタン系複合材料として好適に使用することができる。
【実施例0077】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0078】
1.GLMの製造例と得られたGLMの評価
実施例1
(1)反応工程: 冷却管、温度計、撹拌機を備えたナスフラスコに、グリセリン66.3g(0.72モル)、メタクリル酸31.4g(0.36モル)、酸触媒としてのp-トルエンスルホン酸一水和物1.44g(0.0076モル)、重合禁止剤としてのジブチルヒドロキシトルエン0.40g(0.0018モル)を仕込み、オイルバスで加熱し撹拌しながら60℃に昇温した。その後24時間反応を行った。反応終了後ナスフラスコをオイルバスから外し室温に冷却して反応液を得た。
【0079】
(2)酸触媒処理工程: 上記反応液に塩基性水溶液である3.3質量%炭酸カリウム水溶液270mlを添加し、室温で10分間撹拌することで中和を行い、1次処理液を得た。pHを確認すると、7.8であった。1次処理液についての分析結果から、前記反応におけるメタクリル酸ベースの転化率は70%であることが確認された。また1次処理液(及び前記反応液)中には目的物であるグリセロールモノメタクリレート(GLM)の他に、GLM:100質量部に対して、100質量部のグリセリン、20質量部のメタリル酸及び2質量部の副生成物(具体的には、グリセロールジメタクリレート(GDMA):1.5質量部及びグリセロールトリメタクリレート(GTMA):0.5質量部)を含むことが確認され、GMA及びCHPM並びに前記不純物1及び2は検出されなかった。なお、分析は、「1.本発明のGLM」の項で説明した本GCMS測定条件及び本HPLC測定条件でのGCMS分析及びHPLC分析(必要に応じて検量線を用いた定量分析)により行った。
【0080】
(3)副生成物除去工程: 得られた1次処理液に、非水溶性非極性有機溶媒であるトルエンを180ml加え、撹拌した。その後、トルエンを捨て、水層を回収した。この操作を合計5回行い、2次処理液を得た。得られた2次処理液を分析したところ、GLMの他に、GLM:100質量部に対して、100質量部のグリセリン、20質量部のメタリル酸、0.1質量部のグリセロールジメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを含むことが確認された。
【0081】
(4)目的物抽出工程: 回収した2次処理液に非水溶性極性有機溶媒である酢酸エチル360ml加え撹拌した。その後、酢酸エチルを回収した。残った水層に再び酢酸エチルを360ml加え撹拌し、同様の操作を合計3回行い、3次処理液を得た。得られた3次処理液の分析を行うと、GLM:100質量部に対して3質量部のグリセリン、3質量部のメタクリル酸、0.1質量部のグリセロールジメタクリレートを含むことが確認され、GMA及びCHPM並びに前記不純物1及び2は検出されなかった。
【0082】
(5)水処理工程: 得られた3次処理液に水270ml加え撹拌した。その後、酢酸エチルを回収した。得られた4次処理液の分析を行うと、GLM:100質量部に対して1.5質量部のグリセリン、3質量部のメタクリル酸、0.1質量部のグリセロールジメタクリレートを含むことが確認され、GMA及びCHPM並びに前記不純物1及び2は検出されなかった。
【0083】
(6)溶媒除去工程: 得られた4次処理液に重合禁止剤であるジブチルヒドロキシトルエンを0.03g添加してから25℃、6KPaの減圧度で酢酸エチルを留去し、精製グリセロールモノメタクリレートを得た。分析の結果、GMA及びCHPM並びに前記不純物1及び2は検出されなかった。これら分析結果を表1にまとめる。なお、表中の「↑」は「同上」を意味する。
【0084】
実施例2
実施例1の(5)水処理工程を行わなかった以外は実施例1と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0085】
実施例3
実施例2の(1)反応工程において、温度を70℃に変更した以外は実施例2と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0086】
実施例4
実施例1の(1)反応工程において、温度を70℃に変更した以外は実施例1と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0087】
実施例5
実施例1の(1)反応工程において、時間を40時間に変更した以外は実施例1と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0088】
実施例6
実施例2の(1)反応工程において、時間を40時間に変更した以外は実施例2と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0089】
比較例1
実施例2の(1)反応工程において、温度を90℃、時間を15時間に変更した以外は実施例2と同様に行った。分析結果を表1に示した。
【0090】
比較例2
特許文献2の実施例1と同様に行った。得られた反応生成物は153gであり、ガスクロマトグラフィーによる純度測定の結果は96%であった。また、HPLC分析の結果より、GMA及びCHPMの含有量は夫々GLM100質量部に対して、GMA:0.08質量部、CHPM:0.40質量部であり、前記不純物1及び2は検出されなかった。
【0091】
【表1】
【0092】
2.GLMを用いたポリウレタン系複合材料の製造例と得られた複合材料の評価
実施例7
(1)第1原料組成物調製工程:
ジオール化合物(A1)として実施例1で得られた精製GLMを用い、該(A1)及び以下に示す(B)、(C)及び(D)の各成分を以下に示す量比で混合して第1原料組成物を調製した。
【0093】
[第1原料組成物調製用原料と組成]
ジオール化合物(A1):GLM 10.63質量部
重合性単量体(B):トリエチレングリコールジメタクリレート:5.79質量部
ラジカル重合開始剤(C):t-ブチルパーオキシラウレート:0.08質量部
充填材(D):シリカ-ジルコニア(平均粒径:0.4μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物):49.70質量部 及び シリカ-チタニア(平均粒径:0.08μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物):21.30質量部。
て以下に示すようにして、第1原料組成物調製工程、第2原料組成物調製工程、及び硬化工程を行い、ポリウレタン系複合材料を製造した。
【0094】
(2)第2原料組成物調製工程:
上記工程で得られた第1原料組成物に、ジイソシアネート化合物(A2)としてm-キシリレンジイソシアネート:12.50質量部を加えて混練した後に、37℃で168時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、第2原料組成物を得た。
【0095】
得られた第2原料組成物の一部サンプリングした第2原料組成物にTHFを加えて遠心分離した上澄み液を濾過してから以下GPC測定条件により、測定することによりポリウレタン成分(A)のポリスチレン換算の数平均分子量を求めたところ、数平均分子量は3338であった。
【0096】
[GPC測定条件]
測定装置:ADVANCED POLYMER CHROMATOGRAPHY(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTM XT 45 1.7μm
ACQUITY APCTM XT 125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5 ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)。
【0097】
第2原料組成物には充填剤が含まれているため、第2原料組成物中のポリウレタン成分(A)について不溶部成分の評価を直接行うことは困難である。例えば、THFを加えて遠心分離を行うと充填剤と共に不溶部成分が沈殿してしまい、不溶部成分の有無を評価することができない。そのため、ポリウレタン成分(A)中に含まれる可能性のある不溶部成分については、充填材を含まない系でのモデル実験により得られたポリウレタン成分(A)について評価を行った。すなわち、第1原料組成物調製工程でジオール化合物(A1)として用いた精製GLM:1.000(g)とジイソシアネート化合物(A2)として用いたm-キシリレンジイソシアネート:1.176(g)を10分間撹拌した後に重合性単量体(B):トリエチレングリコールジメタクリレート:0.545(g)を添加撹拌後、得られた混合物を37℃で168時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行って得られた重付加物について評価を行った。評価は、THF不溶分量を測定することにより行った。具体的には、上記のようにして得られた重付加物にTHF10ml質量部加えて撹拌して得られたTHF溶液を、予め重量(風袋)を測定した濾紙を用いて濾過した後に濾紙を回収し、その後濾紙の重量が一定になるまで乾燥させてから重量を測定し、その値から濾紙の重さ(風袋)を差し引いた値を不溶部成分の重量とした。その結果は、0.0(g)であり、不溶分は含まれていないことが確認された。
また、上記重付加物と前記第2原料組成物に含まれるポリウレタン成分(A)の同質性を確認するため、濾液をTHFでさらに希釈した試料についてGPC測定によりポリスチレン換算の数平均分子量を求めたところ、その値はポリウレタン成分(A)の数平均分子量と同じ3338であった。
【0098】
(3)硬化工程:
前記第2原料組成物調製工程で得られた第2原料組成物を型枠(縦12mm×横18mm×厚さ14mm)内に注入し、120℃で15時間、窒素加圧下(0.35MPa)にてラジカル重合することにより、ポリウレタン系複合材料を得た。このとき、型枠への注入際し、次のようにして操作性の評価を行ったところ、操作性の指標となる最大荷重は5.3kgであった。
【0099】
[操作性の評価]
第2原料組成物を口径9mm、深さ5mmの孔を有する試料台の孔内に充填して、表面を平らにならし、遮光した。次いで、23℃で2分間静置してから、サンレオメーター(株式会社サン科学)を用いて第2原料組成物が充填された孔に口径5mmの感圧棒を120mm/分の速度で第2原料組成物中に深さ2mmまで圧縮進入させた。そしてこの時の最大荷重[Kg]を測定した。なお、最大荷重が10Kg以下であれば、第2原料組成物を型枠に注入して型成型を行うことが可能である。したがって、最大荷重が10Kg以下の場合は、操作性が良好と判断され、10Kgを超える場合は、型枠への注入が困難と判断される。
【0100】
次に、得られたポリウレタン系複合材料2.0gを粉砕し、アセトン50ml加え室温で攪拌を行った。その後抽出液をろ過し、ポリウレタン系複合材料を除去した後に、得られた抽出液を2.0mlまで濃縮した。得られた抽出液を下記に示す測定条件でGCMSにより測定を行い、GMA及びCHPMの検出量の確認を行ったところ、何れの化合物とも検出されなかった。
【0101】
[GCMS測定条件]
測定装置:AGILENT J&WGCMS(アジレントテクノロジー社製)
・カラム:DB―WAX
・インジェクション温度:260℃
・カラム温度:40℃から250℃まで10℃/minで昇温
・検出方法:SIMモード 指定分子量 GMA(69) CHPM(69)。
【0102】
実施例8~12及び比較例3~4
実施例1において第1原料組成物調製工程でジオール化合物(A1)として使用した精製GLMを表2に示す実施例又は比較例で得られた精製GLMに変更する他は実施例1と同様にしてポリウレタン系複合材料の製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
また、ジオール化合物(A1)として使用した精製GLMを表3に示す実施例又は比較例で得られた精製GLMに変更する他は実施例1と同様にして(充填材を含まない)モデル実験を行い、モデル実験で得られた重付加物の評価を行った。結果を表3に示す。なお、表2及び表3中の「↑」は「同上」を意味する。
【0105】
【表3】
図1