(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060738
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】気体分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/02 20060101AFI20240425BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240425BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/12 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20240425BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/10
B01D71/12
B01D71/38
B01D71/48
B01D71/62
B01D71/70 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168209
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雄太
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
(72)【発明者】
【氏名】岩上 欧史
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB03
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC48X
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65X
4D006NA10
4D006NA46
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB17
4D006PB63
4D006PB64
(57)【要約】
【課題】窒素に対する二酸化炭素の選択分離性および二酸化炭素の透過性が良好な気体分離膜を提供すること。
【解決手段】二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択的に透過させて分離する気体分離膜であって、第1層と、前記第1層の一方の面に設けられ、二酸化炭素分離能を有する化合物で構成されている第2層と、を有し、前記第2層の平均厚さは、前記第1層の平均厚さより薄く、COSMO-RS法で計算される、前記第2層中における窒素の活量係数をγ
2
N2とし、前記第2層中における二酸化炭素の活量係数をγ
2
CO2とし、前記第2層の25℃における分離性能パラメーターをξ
2=ln(γ
2
N2)-ln(γ
2
CO2)とするとき、前記第2層は、0.56<ξ
2を満たすことを特徴とする気体分離膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択的に透過させて分離する気体分離膜であって、
第1層と、
前記第1層の一方の面に設けられ、二酸化炭素分離能を有する化合物で構成されている第2層と、
を有し、
前記第2層の平均厚さは、前記第1層の平均厚さより薄く、
COSMO-RS法で計算される、前記第2層中における窒素の活量係数をγ2
N2とし、前記第2層中における二酸化炭素の活量係数をγ2
CO2とし、前記第2層の25℃における分離性能パラメーターをξ2=ln(γ2
N2)-ln(γ2
CO2)とするとき、
前記第2層は、0.56<ξ2を満たすことを特徴とする気体分離膜。
【請求項2】
COSMO-RS法で計算される、前記第1層中における窒素の活量係数をγ1
N2とし、前記第1層中における二酸化炭素の活量係数をγ1
CO2とし、前記第1層の25℃における分離性能パラメーターをξ1=ln(γ1
N2)-ln(γ1
CO2)とするとき、
前記第1層および前記第2層は、ξ1<ξ2を満たす請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
前記第1層および前記第2層は、0.10≦ξ2-ξ1を満たす請求項2に記載の気体分離膜。
【請求項4】
前記化合物は、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリ乳酸、セルロース、セルロース誘導体、リグニン、またはカップリング剤に由来する構造を含む請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項5】
前記化合物は、ポリジメチルシロキサンが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるポリジメチルシロキサン誘導体を含み、
前記置換基は、アミノ基、シアノ基またはフェニル基である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項6】
前記化合物は、ポリジメチルシロキサンが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるポリジメチルシロキサン誘導体を含み、
前記置換基は、π共役系の環状構造を有する有機化合物に由来する請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項7】
前記化合物は、ポリジメチルシロキサンが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるポリジメチルシロキサン誘導体を含み、
前記置換基は、エステル結合および芳香環を含む請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項8】
前記第2層の平均厚さは、1nm以上100nm以下である請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項9】
前記第1層は、オルガノポリシロキサンを含む請求項1または2に記載の気体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの実現に向けて、大気中の二酸化炭素を取り込んで直接回収する技術が検討されている。この技術には、吸収液や吸着材に二酸化炭素を吸収、吸着させる方法である化学吸収・吸着法、気体分離膜を用いて二酸化炭素を分離する膜分離法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のガスを選択的に透過させるガス選択透過性複合膜が開示されている。このガス選択透過性複合膜は、フィルム状高分子多孔性支持体にシロキサン化合物の薄膜を積層する、薄膜の表面層に非重合性ガスによるプラズマ処理を施す、および、その薄膜上にプラズマ重合膜を堆積する、というプロセスを経て製造されている。また、これらのプロセスにより、薄膜とプラズマ重合膜との接着性が強固なガス選択透過性複合膜が得られること、および、薄膜の厚さは1μmから30μmであること、が開示されている。さらに、このガス選択透過性複合膜を用いて、酸素、水素、ヘリウム等のガスを選択的に透過させ、分離されたガスを回収することが開示されている。そして、このようなガス選択透過性複合膜を用いることで、二酸化炭素の分離も可能になると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガス選択透過性複合膜では、多孔性支持体上に、いずれもオルガノシロキサン化合物で構成された2層の薄膜が積層されている。1層目は、液相成膜法で成膜されたシロキサン化合物薄膜であり、2層目は、プラズマ重合法で成膜されたオルガノシラン化合物の重合物が堆積してなる薄膜である。
【0006】
本発明者が検討を重ねた結果、このような同種の材料が積層された場合、気体の選択分離性を高めにくいことがわかってきた。また、オルガノシロキサン化合物は、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性において改善の余地があることもわかってきた。
【0007】
そこで、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性に優れるとともに、二酸化炭素の透過性に優れる気体分離膜を実現することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択的に透過させて分離する気体分離膜であって、
第1層と、
前記第1層の一方の面に設けられ、二酸化炭素分離能を有する化合物で構成されている第2層と、
を有し、
前記第2層の平均厚さは、前記第1層の平均厚さより薄く、
COSMO-RS法で計算される、前記第2層中における窒素の活量係数をγ2
N2とし、前記第2層中における二酸化炭素の活量係数をγ2
CO2とし、前記第2層の25℃における分離性能パラメーターをξ2=ln(γ2
N2)-ln(γ2
CO2)とするとき、
前記第2層は、0.56<ξ2を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図2】複数の化合物について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図3】表1に示す化合物について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図4】リグニンについて算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図5】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図6】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図7】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図8】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図9】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図10】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図11】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図12】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【
図13】ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の気体分離膜を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.気体分離膜の概要
まず、実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。なお、本願の
図1では、互いに直交する3つの軸としてX軸、Y軸およびZ軸を設定し、それぞれ矢印で示している。
【0012】
図1に示す気体分離膜1は、二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択的に透過させて分離する機能を有する。
図1に示す気体分離膜1は、第1層3と第2層4とを有する複合膜である。
【0013】
第2層4の平均厚さは、第1層3の平均厚さよりも薄くなるように設定されている。これにより、第2層4は、良好な選択分離性を有しつつ、高い気体透過性も有するものとなる。
【0014】
なお、
図1に示す気体分離膜1では、その上方に混合気体が供給される。このため、
図1に示す気体分離膜1の上方を「上流側」という。また、
図1の気体分離膜1では、
図1の上方から下方に向かって二酸化炭素が透過する。そこで、以下の説明では、
図1に示す気体分離膜1の下方を「下流側」という。
【0015】
1.1.第1層
第1層3の形態は、特に限定されず、
図1に示すシート状(平板状)の他、スパイラル状、管状、中空糸状等であってもよい。
【0016】
第1層3の構成材料としては、高分子材料が挙げられる。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0017】
このうち、第1層3の構成材料には、オルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、基本構成単位として、R1SiO3/2で表される単位(T単位)、R2R3SiO2/2で表される単位(D単位)、および、R4R5R6SiO1/2で表される単位(M単位)を、少なくとも含んでいる。なお、各単位中、R1~R6は、脂肪族炭化水素または水素原子である。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、これらのT単位、D単位およびM単位が組み合わされて構成されている。
【0018】
オルガノポリシロキサンの具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリスルホン/ポリヒドロキシスチレン/ポリジメチルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/ジフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサン共重合体末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端H、ジメチルシロキサン-メチルハイドロシロキサン共重合体等が挙げられる。なお、これらには、架橋反応物を形成している形態も含まれる。また、第1層3の構成材料は、これらのうちの1種または2種以上の複合物であってもよいし、質量比でオルガノポリシロキサンを主成分とし、他の樹脂成分を併用した複合材料であってもよい。
【0019】
なお、オルガノポリシロキサンは、それを構成するSi-O結合やSi-C結合の原子間距離が1.8オングストローム程度と大きく、自由体積が大きいため、二酸化炭素分子の拡散性が良好であり、二酸化炭素に対して良好な気体透過性を有する。このため、第1層3の構成材料として有用である。
【0020】
第1層3の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上3000μm以下であるのが好ましく、5μm以上500μm以下であるのがより好ましく、10μm以上150μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、第1層3は、気体分離膜1の基層として必要かつ十分な機械的特性を有するとともに、気体透過性の低下を抑制することができる。
【0021】
なお、第1層3の平均厚さは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、第1層3の10か所について測定された厚さの平均値として求められる。
【0022】
また、第1層3の気体透過性は、好ましくは第2層4の気体透過性より高くなるように設定されている。具体的には、二酸化炭素を対象の気体成分としたときの第1層3の気体透過速度が、第2層4の気体透過速度よりも高いことが好ましい。これにより、第1層3は、第2層4を機械的に支持しつつ、気体分離膜1に良好な気体透過性を付与することができる。
【0023】
なお、気体透過性が高いとは、二酸化炭素の透過速度が大きいことを意味する。具体的には、上流側の全圧を4MPaにして二酸化炭素を供給したとき、二酸化炭素の透過速度が大きいければよい。
【0024】
第1層3の二酸化炭素の透過速度は、40℃の温度下、上流側に全圧4MPaの二酸化炭素を供給したとき、1×10-5cm3(STP)/cm2・sec・cmHg(10GPU)以上であることが好ましく、3×10-5cm3(STP)/cm2・sec・cmHg(30GPU)以上であることがより好ましく、100GPU以上であることがさらに好ましく、200GPU以上であることが特に好ましい。
【0025】
第1層3は、シートやフィルムの製造方法により製造可能である。また、犠牲層上に成膜した後、犠牲層を除去する方法によっても製造可能である。
【0026】
1.2.第2層
第2層4は、第1層3の上面31(一方の面)に成膜されている。第2層4は、第1層3よりも平均厚さを薄くすることにより、良好な気体透過性を有する。
【0027】
また、第2層4は、気体分離膜1に二酸化炭素分離能を与える。ところが、二酸化炭素分離能は、混合気体において二酸化炭素とともに用いられる気体によって左右される。そこで、本発明者は、二酸化炭素と窒素との混合気体から二酸化炭素を選択的に分離するとき、二酸化炭素分離能を高める指標について鋭意検討を重ねた。そして、第2層4中における窒素の活量係数と、二酸化炭素の活量係数と、に基づいた分離性能パラメーターという指標によって二酸化炭素分離能を定量化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
具体的には、COSMO-RS法で計算される、第2層4中における窒素の活量係数をγ2
N2とし、第2層4中における二酸化炭素の活量係数をγ2
CO2とする。また、第2層4の25℃における分離性能パラメーターをξ2=ln(γ2
N2)-ln(γ2
CO2)とする。このとき、第2層4は、0.56<ξ2を満たす。
【0029】
分離性能パラメーターξ2がこのような関係を満たすことにより、従来のオルガノシロキサン化合物を用いた気体分離膜よりも高い二酸化炭素分離能を有する第2層4が得られる。そして、このような第2層4を有することにより、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性および二酸化炭素の気体透過性の双方が良好な気体分離膜1が得られる。なお、以下の説明では、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性を、単に「選択分離性」ということがある。
【0030】
第2層4中における窒素の活量係数γ2
N2は、第2層4中において窒素分子の非理想性の度合いを表している。また、第2層4中における二酸化炭素の活量係数γ2
CO2は、第2層4中において二酸化炭素分子の非理想性の度合いを表している。活量係数が大きければ、非理想性が大きいといえる。そして、二酸化炭素分子の非理想性が、窒素分子の非理想性がよりも小さいとき、第2層4は、窒素分子に比べて二酸化炭素分子の親和性が高いと考えることができる。そこで、本実施形態では、第2層4の25℃における分離性能パラメーターをξ2=ln(γ2
N2)-ln(γ2
CO2)と定義する。そして、この分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たすことで、従来よりも良好な二酸化炭素分離能を獲得することができる。
【0031】
よって、本実施形態に係る気体分離膜1は、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性に優れるとともに、二酸化炭素の透過性に優れる。
【0032】
なお、第2層4は、0.80≦ξ2を満たすことが好ましく、0.90≦ξ2を満たすことがより好ましい。なお、第2層4の分離性能パラメーターξ2が前記下限値を下回る場合、第2層4において窒素分子に対する二酸化炭素分子の相対的な親和性が低下する。このため、第2層4では、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が低下する。一方、分離性能パラメーターξ2の上限値は、特に設定されなくてもよいが、それを実現する構成材料の入手性等を考慮すれば、ξ2≦1.50であることが好ましく、ξ2≦1.40であることがより好ましい。
【0033】
また、COSMO-RS法で計算される、第1層3中における窒素の活量係数をγ1
N2とし、第1層3中における二酸化炭素の活量係数をγ1
CO2とする。また、第1層3の25℃における分離性能パラメーターをξ1=ln(γ1
N2)-ln(γ1
CO2)とする。このとき、第1層3および第2層4は、ξ1<ξ2を満たすことが好ましい。
【0034】
分離性能パラメーターξ1、ξ2がこのような関係を満たすことにより、第2層4では、窒素分子と比べたときの二酸化炭素分子の親和性が、第1層3よりも高くなる。これにより、第2層4では、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が高くなる。一方、第1層3では、第2層4に比べて、二酸化炭素分子の親和性が低いため、仮に、気体分離膜1の下流側で圧力が上昇したとしても、気体分離膜1を透過した二酸化炭素が第1層3に対して逆方向に浸透する確率を下げることができる。
【0035】
また、第1層3および第2層4は、0.10≦ξ2-ξ1を満たすことが好ましく、0.30≦ξ2-ξ1を満たすことがより好ましく、0.50≦ξ2-ξ1を満たすことがさらに好ましい。これにより、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性を特に高めることができる。
【0036】
なお、ξ2-ξ1の上限値は、特に設定されなくてもよいが、それを実現する構成材料の入手性等を考慮すれば、ξ2-ξ1≦1.20であることが好ましく、ξ2-ξ1≦1.00であることがより好ましい。
【0037】
ここで、COSMO-RS法について説明する。COSMO-RS法の基本となる文献は、以下の3つの参考文献(1)~(3)である。
(1) Klamt, A. J. Phys. Chem. 99, 2224 (1995).
(2) Klamt, A.; Jonas, V.; Burger, T.; Lohrenz, J. C. J. Phys. Chem. A 102, 5074 (1998).
(3) Eckert, F. and A. Klamt, AIChE Journal, 48, 369 (2002).
【0038】
COSMO-RS法は、量子化学計算で得られる分子の表面遮蔽電荷σをもとにした液体に対する統計力学により、分子の化学ポテンシャルμを算出し、種々の平衡物性値を決定する計算方法である。COSMO-RS法により、前述した活量係数γ1
N2、γ1
CO2、γ2
N2、γ2
CO2を算出することができる。
【0039】
なお、分子の活量係数を求める際には、分子体積および分子表面積の効果を計算に取り入れる必要がある。これらの効果は、Elbroの自由体積コンビナトリアル項で表される。Elbroの自由体積コンビナトリアル項については、以下の参考文献(4)に記載されている。
(4) Elbro, H. S.; Fredenslund, A.; Rasmussen, P. A. Macromolecules 23, 4707(1990).
【0040】
自由体積とは、高分子中、つまり第1層3や第2層4中において、低分子、つまり窒素分子や二酸化炭素分子が動ける隙間の体積に相当する。
【0041】
任意の分子iの自由体積をvi
Fとし、分子iのハードコアの体積をvi
*とし、系中で占める分子iの体積をviとすると、自由体積vi
Fは、下記式(a)で表される。
【0042】
【0043】
上記式(a)における、分子iのハードコアの体積vi
*は、量子化学計算によって求められる。一方、系中で占める分子iの体積viは、分子iの分子量Miおよび密度ρiを用いて、下記式(b)で表される。
【0044】
【0045】
上記式(b)におけるNAは、アボガドロ数である。
高分子中における低分子の振る舞いを計算するとき、分子iを高分子と考える。そして、高分子の分子量Miを10000、密度ρiを1.00g/ccにそれぞれ統一し、温度25℃における活量係数を計算する。
【0046】
COSMO-RS法による計算には、熱力学物性推算ソフトウェアを用いることができる。このソフトウェアとしては、例えば、ダッソー・システムズ社製のBIOVIA COSMOtherm 2022が挙げられる。また、Parameterizationでは、BP_TZVPD_FINE_20.ctdを用いた。
【0047】
第2層4の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、5nm以上90nm以下であるのがより好ましく、30nm以上80nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、第2層4の選択分離性を確保しつつ、気体透過性を高めることができる。なお、第2層4の平均厚さが前記下限値を下回ると、第2層4の構成材料によっては、選択分離性が低下するおそれがある。一方、第2層4の平均厚さが前記上限値を上回ると、第2層4の構成材料によっては、第2層4の気体透過性が低下するおそれがある。
【0048】
なお、第2層4の平均厚さは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、第2層4の10か所について測定された厚さの平均値として求められる。
【0049】
第2層4は、二酸化炭素分離能を有する化合物で構成されている。前述したように、25℃における第2層4の分離性能パラメーターξ2は、0.56<ξ2を満たすが、この分離性能パラメーターξ2は、主に、第2層4を構成する化合物によって左右される。
【0050】
分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たす化合物としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、トリアセテート、ジアセテート、ポリ乳酸(PLA)、ポリアミド6、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、セルロース、またはこれらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物は、分離性能パラメーターξ2が前記関係を満たすとともに、成膜性に優れ、成膜後の安定性に優れる第2層4が得られる。
【0051】
化合物が高分子である場合、その重合度は、10以上であるのが好ましく、20以上であるのがより好ましい。これにより、より安定した第2層4を形成することができる。これは、後述するポリジメチルシロキサン(PDMS)でも同様である。
【0052】
図2は、複数の化合物について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0053】
図2に示すように、上述した化合物は、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たしている。したがって、これらの化合物を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0054】
また、前述した誘導体として、
図2には、セルロース誘導体を挙げている。このセルロース誘導体は、セルロースにアルキルケテンダイマー(AKD)を導入して得られる化合物(AKD化セルロース)である。なお、誘導体の例は、これに限定されない。
【0055】
なお、
図2には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)およびポリ塩化ビニル(PVC)を挙げている。
【0056】
また、上記化合物は、カップリング剤に由来する構造を含んでいてもよい。カップリング剤は、加水分解性基と官能基とを有し、加水分解性基の加水分解によって、上面31に対する結合性を発現する。また、加水分解した加水分解性基と、上面31が有していた水酸基と、が脱水縮合して、共有結合に変化していてもよい。そして、後述するPDMSに導入する置換基を官能基として適宜選択することにより、0.56<ξ2という関係を満たしつつ、非常に薄くて上面31への密着性に優れた第2層4が得られる。これにより、二酸化炭素に対して高い親和性を示し、良好な選択分離性および気体透過性を有する第2層4が実現される。したがって、カップリング剤に由来する構造とは、例えば、カップリング剤の加水分解物、かかる加水分解物と水酸基との脱水縮合による生成物等が挙げられる。官能基には、後述する置換基として挙げられた原子団が用いられる。
【0057】
分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たす化合物としては、上記の他に、例えば、下記表1に示す化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
図3は、表1に示す化合物について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。なお、
図3には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
【0060】
図3に示すように、表1に示す化合物は、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たしている。したがって、これらの化合物を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0061】
なお、表1に示す化合物は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、セバシン酸エステル、ナフタレンジカルボン酸エステル、コハク酸エステル、フタル酸エステル等に由来する構造を分子中に含んでいる。つまり、表1に示す化合物は、分子中にエステル構造を含む。エステル構造とは、-COO-で表されるエステル結合を指すが、この構造は、二酸化炭素分子に対する第2層4の親和性を高める。このため、分子中にエステル構造を含む化合物は、第2層4の構成材料として有用である。
【0062】
分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たす化合物としては、上記の他に、リグニンが挙げられる。
【0063】
図4は、リグニンについて算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。なお、
図4には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
【0064】
図4に示すように、リグニンは、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たしている。したがって、リグニンを第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0065】
なお、リグニンは、ベンゼン環、水酸基およびエーテル結合を分子中に含んでいる。これらの構造は、二酸化炭素分子に対する第2層4の親和性を高める。
【0066】
分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たす化合物としては、上記の他に、ポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられる。
【0067】
図5は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0068】
図5には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0069】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、カルボキシル基、アミド基、アセチル基等が挙げられる。
【0070】
なお、
図5には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)、トリフルオロメチル基置換PDMS、クロロメチル基置換PDMSを挙げている。
【0071】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図5に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各置換基で置換した場合の値である。
図5では、置換に用いた置換基の名称を記載している。
【0072】
図6は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0073】
図6には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0074】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、イソプロピル基、エトキシ基、メトキシ基、ゲラニル基、2-プロペニル基、グリシジル基等が挙げられる。
【0075】
なお、
図6には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)、ターシャリーブチル基置換PDMS、およびメチノール基置換PDMSを挙げている。
【0076】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図6に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各置換基で置換した場合の値である。
図6では、置換に用いた置換基の名称を記載している。
【0077】
図7は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0078】
図7には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0079】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、シアノ基、フェニル基等が挙げられる。
【0080】
なお、
図7には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)、チオール基置換PDMS、メチル基置換PDMSを挙げている。
【0081】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図7に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各置換基で置換した場合の値である。
図7では、置換に用いた置換基の名称を記載している。
【0082】
図8は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0083】
図8には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0084】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、アミノ酸に由来する置換基であって、アミノ酸が持つカルボキシル基に由来する-COO-部位で水素原子を置換してなる原子団が挙げられる。この置換基をもたらすアミノ酸としては、例えば、システイン、リシン、メチオニン、ロイシン、アルギニン、オルニチン、イソロイシン、バリン、トリプトファン、トレオニン、セリン、アスパラギン、タウリン、アラニン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、チロシン、プロリン、フェニルアラニン等が挙げられる。
【0085】
なお、
図8には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
【0086】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図8に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各アミノ酸に由来する置換基で置換した場合の値である。
図8では、置換に用いたアミノ酸の名称を記載している。
【0087】
図9は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0088】
図9には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0089】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、核酸塩基に由来する置換基が挙げられる。この置換基をもたらす核酸塩基としては、例えば、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシル等が挙げられる。
【0090】
なお、
図9には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
【0091】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図9に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各核酸塩基に由来する置換基で置換した場合の値である。
図9では、置換に用いた核酸塩基の名称を記載している。
【0092】
図10は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0093】
図10には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0094】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、π共役系の環状構造を有する有機化合物に由来する置換基が挙げられる。π共役系の環状構造は、二重結合と単結合が交互につながった部位を含む環状構造である。この置換基をもたらす有機化合物としては、例えば、チオフェン、ピロリジン、ピラゾール、フェニル、ピロール、アズレン、イミダゾール、インドール、アントラセン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0095】
図10に示す結果から、環状構造の構成原子に窒素原子または炭素原子が含まれていることが好ましいとわかる。特に、1つの環状構造に2つ以上の窒素原子が含まれている窒素含有複素環であること、環状構造が芳香環であること、環状構造が縮合環であること、がそれぞれ好ましいこともわかる。これにより、分離性能パラメーターξ
2を特に高くすることができ、選択分離性が特に高い第2層4が得られる。
【0096】
なお、
図10には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)、および、ボラジンに由来する置換基で置換されたPDMSを挙げている。
【0097】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図10に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各核酸塩基に由来する置換基で置換した場合の値である。
図10では、置換に用いた核酸塩基の名称を記載している。
【0098】
図11は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0099】
図11には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たすポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。したがって、ポリジメチルシロキサン誘導体を第2層4の構成材料として用いることにより、選択分離性の高い第2層4が得られる。
【0100】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、メチル基が持つ水素原子のうちの1つまたは複数、好ましくは1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、アミノフェニル基、フェニルエステル基、エチルエステル基、2-メトキシエトキシエチル基等が挙げられる。
【0101】
図11に示す結果から、置換基にエステル結合および芳香環の双方が含まれていることが好ましいとわかる。これにより、分離性能パラメーターξ
2を特に高くすることができ、選択分離性が特に高い第2層4が得られる。
【0102】
なお、
図11には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさない化合物として、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
【0103】
また、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の全てにおいて上記の置換がなされていてもよいが、一部のメチル基のみで置換がなされているのが好ましい。これにより、第2層4において分離性能パラメーターξ
2が特に大きくなる。なお、
図11に示す分離性能パラメーターξ
2は、ポリジメチルシロキサンに含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを各置換基で置換した場合の値である。
図11では、置換に用いた置換基の名称を記載している。
【0104】
一方、ポリジメチルシロキサン誘導体であっても、分離性能パラメーターξ2が0.56<ξ2を満たさない化合物もある。
【0105】
図12は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0106】
図12には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさないポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。つまり、
図12に示すポリジメチルシロキサン誘導体は、いずれも分離性能パラメーターξ
2がξ
2≦0.56を満たす。
【0107】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、1分子当たりメチル基全数のうち、25%、50%、75%、100%のメチル基自体を、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、水酸基、アミノ基、またはこれらの双方が挙げられる。
【0108】
なお、
図12では、25%、50%、75%、100%のメチル基自体を水酸基で置換してなるPDMS誘導体を、PDMS_1OH、PDMS_2OH、PDMS_3OH、PDMS_4OHと表記する。また、25%、50%、75%、100%のメチル基自体をアミノ基で置換してなるPDMS誘導体を、PDMS_1NH2、PDMS_2NH2、PDMS_3NH2、PDMS_4NH2と表記する。さらに、50%のメチル基自体を水酸基で置換し、残りの50%のメチル基自体をアミノ基で置換してなるPDMS誘導体を、PDMS_2OH_2NH2と表記する。
【0109】
なお、
図12には、さらに、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。
図12に示すように、メチル基自体を官能基で置換しても、分離性能パラメーターξ
2を大きくすることは難しい。このため、PDMSに置換基を導入する場合、メチル基が持つ水素原子を置換する方が望ましい。
【0110】
図13は、ポリジメチルシロキサン誘導体について算出した分離性能パラメーターξ
2を比較するグラフである。
【0111】
図13には、分離性能パラメーターξ
2が0.56<ξ
2を満たさないポリジメチルシロキサン誘導体が挙げられている。つまり、
図13に示すポリジメチルシロキサン誘導体は、いずれも分離性能パラメーターξ
2がξ
2≦0.56を満たす。
【0112】
ポリジメチルシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし、側鎖や末端にメチル基を有する。ここでのポリジメチルシロキサン誘導体は、含まれるメチル基の25%において、そのメチル基が持つ水素原子の1つを、置換基で置換してなる誘導体が挙げられる。置換基としては、例えば、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ターシャリーブチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、アミノメチル基等が挙げられる。
【0113】
なお、
図13には、さらに、無置換ポリジメチルシロキサン(無置換PDMS)を挙げている。また、
図13では、置換に用いた置換基の名称を記載している。
【0114】
以上のように、ポリジメチルシロキサン誘導体は、無置換PDMSよりも二酸化炭素分子との親和性が高い。したがって、置換基の導入により、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が高められる。
【0115】
一方、無置換PDMSは、二酸化炭素の拡散性が高い。つまり、無置換PDMSは、二酸化炭素の透過性が高い。このため、ポリジメチルシロキサン誘導体は、無置換PDMSに由来する高い二酸化炭素の透過性に加え、置換基の導入に起因する選択分離性を併せ持つものとなる。
【0116】
なお、ポリジメチルシロキサンは、その他のオルガノポリシロキサンであってもよい。ポリジメチルシロキサンに代表されるオルガノポリシロキサンは、それを構成するSi-O結合やSi-C結合の原子間距離が1.8オングストローム程度と大きく、自由体積が大きいため、二酸化炭素分子の拡散性が良好である。
【0117】
1.3.その他の構成
以上、実施形態に係る気体分離膜1について説明したが、第1層3の下流側、および、第1層3と第2層4との間、のうちの少なくとも1か所には、任意の層が設けられていてもよい。例えば、第1層3の下流側には、多孔質体で構成されている多孔質層が設けられていてもよい。多孔質層は、第1層3よりも高い気体透過性を有し、かつ、第1層3よりも高い剛性を有することが好ましい。これにより、気体分離膜1の剛性をさらに高めることができ、気体分離膜1の形状保持性や耐久性の向上に寄与できる。
【0118】
多孔質層の構成材料としては、例えば、高分子材料、セラミック材料、金属材料等が挙げられる。また、多孔質層の構成材料は、これらの材料と他の材料との複合材料であってもよい。
【0119】
高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのような含フッ素樹脂、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等が挙げられる。
【0120】
セラミック材料としては、例えば、アルミナ、コーディエライト、ムライト、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0121】
多孔質層の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上3000μm以下であるのが好ましく、5μm以上500μm以下であるのがより好ましく、10μm以上150μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、多孔質層は、第1層3や第2層4を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。
【0122】
なお、多孔質層の平均厚さは、多孔質層の10か所について測定された、積層方向における厚さの平均値である。多孔質層の厚さの測定には、例えば、シックネスゲージを用いることができる。
【0123】
また、多孔質層の平均空孔径は、0.1μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.09μm以下であるのがより好ましく、0.01μm以上0.07μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、第1層3が多孔質層の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。
【0124】
多孔質層の平均空孔径は、貫通細孔径評価装置により測定される。貫通細孔径評価装置としては、例えば、PMI社製、パームポロメーターが挙げられる。
【0125】
多孔質層の空孔率は、20%以上90%以下であるのが好ましく、30%以上80%以下であるのがより好ましい。これにより、多孔質層は、良好な気体透過性と、十分な剛性と、を両立できる。多孔質層の空孔率は、前述した貫通細孔径評価装置により測定される。
【0126】
なお、以上のような気体分離膜1は、窒素に対する二酸化炭素の選択分離比は、10以上であるのが好ましく、15以上であるのがより好ましい。これにより、大気中からの二酸化炭素の分離に適した気体分離膜1が得られる。なお、窒素に対する二酸化炭素の選択分離比は、窒素の透過速度に対する二酸化炭素の透過速度の比として求められる。特に、PDMSに置換基を導入することで、PDMSに由来する良好な気体透過性を維持しつつ、良好な選択分離性を付与し得ることがわかった。
【0127】
2.気体分離膜の製造方法
気体分離膜1は、例えば、第1層3の上面31に、第2層4の原料を成膜することにより、製造される。
【0128】
第2層4の原料の成膜方法としては、例えば、浸漬法、滴下法、インクジェット法、ディスペンサー法、噴霧法、スクリーン印刷法、コーター塗布法、スピンコート法のような各種液相成膜法、プラズマCVD法、プラズマ重合法のような気相成膜法等が挙げられる。
【0129】
このうち、インクジェット法が好ましく用いられる。インクジェット法は、上面31に対してインクジェットヘッドを相対的に移動させながら、インクを吐出し、定着させる方法である。インクには、第2層4の原料を含む液体が用いられる。インクジェット法を用いることにより、目的とする位置に、目的とする量の原料を高い確率で定着させることができる。このため、膜厚が薄くても被覆率の高い第2層4を形成することができる。その結果、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が高く、かつ、二酸化炭素の透過性にも優れる気体分離膜1を効率よく製造することができる。
【0130】
なお、第2層4の成膜に先立ち、第1層3の上面31に活性化処理を施すようにしてもよい。活性化処理は、上面31を活性化させる処理であれば、特に限定されない。活性化処理としては、例えば、上面31にエネルギー線を照射する方法、上面31を加熱する方法、上面31をプラズマやコロナに曝す方法、上面31をオゾンガスに曝す方法等が挙げられる。エネルギー線としては、例えば、赤外線、紫外線、可視光等が挙げられる。
【0131】
3.気体分離膜の用途
実施形態に係る気体分離膜1は、二酸化炭素と窒素とを含む混合気体からの二酸化炭素分離回収、二酸化炭素分離精製等に用いることができる。特に、大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))において気体分離膜1を用いることが有効である。
【0132】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る気体分離膜1は、二酸化炭素と窒素とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択的に透過させて分離する気体分離膜であって、第1層3と、第2層4と、を有する。第2層4は、第1層3の上面31(一方の面)に設けられ、二酸化炭素分離能を有する化合物で構成されている。また、第2層4の平均厚さは、第1層3の平均厚さより薄くなっている。そして、COSMO-RS法で計算される、第2層4中における窒素の活量係数をγ2
N2とし、第2層4中における二酸化炭素の活量係数をγ2
CO2とし、第2層4の25℃における分離性能パラメーターをξ2=ln(γ2
N2)-ln(γ2
CO2)とするとき、第2層4は、0.56<ξ2を満たす。
【0133】
上記のように、第2層4中における窒素の活量係数と、二酸化炭素の活量係数と、に基づいた分離性能パラメーターξ2という指標によって二酸化炭素分離能を定量化できる。また、第2層4の平均厚さを第1層3より薄くすることで、良好な気体透過性を確保できる。したがって、上記の構成によれば、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性および二酸化炭素の気体透過性の双方が良好な気体分離膜1が得られる。
【0134】
また、COSMO-RS法で計算される、第1層3中における窒素の活量係数をγ1
N2とし、第1層3中における二酸化炭素の活量係数をγ1
CO2とし、第1層3の25℃における分離性能パラメーターをξ1=ln(γ1
N2)-ln(γ1
CO2)とするとき、第1層3および第2層4は、ξ1<ξ2を満たすことが好ましい。
【0135】
これにより、第2層4では、窒素分子と比べたときの二酸化炭素分子の親和性が、第1層3よりも高くなる。一方、第1層3では、第2層4に比べて、二酸化炭素分子の親和性が低いため、仮に、気体分離膜1の下流側で圧力が上昇したとしても、気体分離膜1を透過した二酸化炭素が第1層3に対して逆方向に浸透する確率を下げることができる。
【0136】
また、第1層3および第2層4は、0.10≦ξ2-ξ1を満たすことが好ましい。これにより、気体分離膜1において、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性を特に高めることができる。
【0137】
また、上記の化合物は、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリ乳酸、セルロース、セルロース誘導体、リグニン、またはカップリング剤に由来する構造を含むことが好ましい。これらの化合物は、分離性能パラメーターξ2が上記関係を満たすとともに、成膜性に優れ、成膜後の安定性に優れる第2層4が得られる。また、カップリング剤に由来する構造を含むことで、二酸化炭素に対する高い親和性を示すとともに、非常に薄い第2層4が得られる。その結果、良好な選択分離性および気体透過性を有する第2層4を実現できる。
【0138】
また、上記の化合物は、PDMSが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるPDMS誘導体を含むことが好ましい。また、この置換基は、アミノ基、シアノ基またはフェニル基であることが好ましい。
【0139】
PDMSは、自由体積が大きいため、二酸化炭素分子の拡散性が良好である。また、これらの置換基を導入することで、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が高められる。その結果、良好な選択分離性および気体透過性を有する第2層4を実現できる。
【0140】
また、上記の化合物は、PDMSが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるPDMS誘導体を含むことが好ましい。また、この置換基は、π共役系の環状構造を有する有機化合物に由来することが好ましい。
【0141】
これにより、分離性能パラメーターξ2を特に高くすることができ、選択分離性が特に高く、かつ気体透過性が良好な第2層4が得られる。
【0142】
また、上記の化合物は、PDMSが含むメチル基のうちの一部が持つ水素原子の1つが置換基で置換されてなるPDMS誘導体を含むことが好ましい。また、この置換基は、エステル結合および芳香環を含むことが好ましい。
【0143】
これにより、分離性能パラメーターξ2を特に高くすることができ、選択分離性が特に高く、かつ気体透過性が良好な第2層4が得られる。
【0144】
また、第2層4の平均厚さは、1nm以上100nm以下であることが好ましい。これにより、第2層4の選択分離性を確保しつつ、気体透過性を高めることができる。
【0145】
また、第1層3は、オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。これにより、二酸化炭素に対して良好な気体透過性を有する第1層3が得られる。
【0146】
以上、本発明に係る気体分離膜について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0147】
例えば、本発明に係る気体分離膜は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0148】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.気体分離膜の作製
5.1.実施例1
まず、第1層としてのPDMSシートを用意する。PDMSシートは、ポリジメチルシロキサンで構成された厚さ30μmのシートである。次に、PDMSシートの一方の面に、活性化処理としてプラズマ処理を施した。
【0149】
次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)の固形分濃度が50質量%であるO/W型エマルションを調製した。次に、このO/W型エマルションと、グリセリンと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、2-ピロリドンと、を混合し、インクを調製した。調製したインクの静的表面張力は35mN/m、粘度は10mPa・s、密度は1.1g/ccであった。
【0150】
次に、調製したインクを用い、インクジェット法により、第2層を作製した。以上のようにして気体分離膜を得た。第1層および第2層についての、分離性能パラメーターおよび平均厚さを表2に示す。
【0151】
5.2.実施例2~5
第2層の構成材料を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0152】
5.3.実施例6~8
第2層の構成材料として、表2に示す置換基をPDMSに導入してなる化合物を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。なお、この置換基は、PDMSに含まれるメチル基のうち、モル比で25%のメチル基について、水素原子の1つを置換したものである。
【0153】
5.4.比較例1
第2層の形成を省略し、第1層のみを比較例1の気体分離膜とした。
【0154】
5.5.比較例2
第2層の構成材料として、無置換PDMSを用いるようにした以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0155】
5.6.実施例9~14
第2層の構成材料として、表3に示す置換基をPDMSに導入してなる化合物を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0156】
5.7.比較例3、4
第2層の構成材料として、表3に示す置換基をPDMSに導入してなる化合物を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。なお、この置換基は、PDMSに含まれるメチル基のうち、モル比で25%のメチル基自体を置換したものである。
【0157】
5.8.比較例5
第2層の構成材料として、表3に示す置換基をPDMSに導入してなる化合物を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。なお、この置換基は、PDMSに含まれるメチル基のうち、モル比で25%のメチル基について、水素原子の1つを置換したものである。
【0158】
6.気体分離膜の評価
各実施例および各比較例の気体分離膜について、以下のような評価を行った。
【0159】
6.1.気体透過性
各実施例および各比較例の気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。次に、ガス透過率測定装置を用い、二酸化炭素:窒素が体積比13:87で混合されてなる混合気体を試験サンプルの上流側に供給した。なお、上流側の全圧が5MPa、二酸化炭素の分圧が0.65MPa、流量が500mL/min、温度が40℃となるように調整した。そして、試験サンプルを透過してきた気体成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0160】
次に、分析結果から、気体分離膜における二酸化炭素の気体透過速度RCO2を算出した。続いて、第2層の形成を省略した気体分離膜(第1層のみで構成した気体分離膜)について算出した気体透過速度RCO2を基準にしたとき、各実施例および各比較例の気体分離膜について算出した気体透過速度RCO2がどの程度減少したかを、「CO2透過性減少率」として算出した。CO2透過性減少率とは、前述した基準に対する減少幅の割合である。そして、算出したCO2透過性減少率を以下の評価基準に照らすことにより、気体分離膜の気体透過性を相対評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0161】
A:CO2透過性減少率が20%以下である
B:CO2透過性減少率が20%超30%以下である
C:CO2透過性減少率が30%超である
【0162】
6.2.選択分離性
前述した分析結果から、気体分離膜における窒素の気体透過速度RN2を算出した。続いて、窒素の気体透過速度RN2に対する二酸化炭素の気体透過速度RCO2の比率RCO2/RN2を算出した。そして、比率RCO2/RN2を以下の評価基準に照らすことにより、気体分離膜の選択分離性を相対評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0163】
A:比率RCO2/RN2が比較例1より大きい
B:比率RCO2/RN2が比較例1と同等
C:比率RCO2/RN2が比較例1より小さい
【0164】
【0165】
【0166】
表2および表3から明らかなように、各実施例の気体分離膜は、基準に対する気体透過性の低下が少なく(CO2透過性減少率が小さく)、かつ、各比較例に比べて選択分離性が高かった。このことから、第2層の25℃における分離性能パラメーターξ2が所定の関係を満たすことにより、窒素に対する二酸化炭素の選択分離性が高く、かつ、二酸化炭素の気体透過性も良好な気体分離膜を実現できることがわかった。特に、PDMSに置換基を導入した化合物で第2層を構成した場合、この傾向が顕著であった。