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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060739
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/12 20060101AFI20240425BHJP
   G01S 13/84 20060101ALI20240425BHJP
   G01S 3/46 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01S5/12
G01S13/84
G01S3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168211
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 太樹
(72)【発明者】
【氏名】高井 大輔
【テーマコード(参考)】
5J062
5J070
【Fターム(参考)】
5J062AA05
5J062CC14
5J070AB10
5J070AC02
5J070AC12
5J070AD08
5J070AE04
5J070AF01
5J070AK22
5J070BC13
5J070BD07
(57)【要約】
【課題】測角誤差を低減可能な測位システムを提供する。
【解決手段】測位システムは、飛行体の高度を測定する高度測定部と、第1及び第2通信部の間での信号の伝搬時間又は位相に基づき第1通信部と飛行体の間の距離を測定し、第1及び第2通信部が通信する信号を第1又は第2通信部で受信した際の位相に基づいて第1通信部に対する飛行体の第1仰角を算出し、高度測定部によって取得された高度と距離測定部によって測定された距離との差を補正値として算出し、補正値が算出された後に、第1仰角の絶対値が第1所定角度よりも大きい第2所定角度以上である場合には、高度測定部によって取得された高度を補正値で補正した値を距離測定部によって測定された距離で除した値の逆余弦を第2仰角として算出し、第1仰角の値に基づいて、第1仰角と第2仰角のいずれかを選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信部と、
前記第1通信部に対して移動可能な飛行体と、
前記飛行体に搭載され、前記第1通信部と通信する第2通信部と、
前記飛行体に搭載され、前記第1通信部に対する前記飛行体の高度を測定する高度測定部と、
前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号の伝搬時間又は位相に基づいて、前記第1通信部と前記飛行体との間の距離を測定する距離測定部と、
前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号を前記第1通信部又は前記第2通信部の複数のアンテナ素子で受信した際の位相に基づいて、前記第1通信部に対する前記飛行体の第1仰角を算出する仰角算出部と、
前記第1仰角の絶対値が第1所定角度以下の場合に、前記高度測定部によって取得された高度と、前記距離測定部によって測定された距離との差を補正値として算出する補正値算出部と
を備え、
前記仰角算出部は、前記補正値算出部によって前記補正値が算出された後に、前記第1仰角の絶対値が前記第1所定角度よりも大きい第2所定角度以上である場合には、前記高度測定部によって取得された高度を前記補正値で補正した値を前記距離測定部によって測定された距離で除した値の逆余弦を第2仰角として算出し、前記第1仰角の値に基づいて、前記第1仰角と前記第2仰角のいずれかを選択する、測位システム。
【請求項2】
前記第1仰角はAoA形式で算出され、前記第2仰角はToAを利用して算出される、請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記第1所定角度は、前記第1通信部の真上における仰角が所定の挟角範囲になる角度である、請求項1に記載の測位システム。
【請求項4】
前記補正値算出部は、前記第1仰角の絶対値が前記第1所定角度以下になると、前記高度測定部によって取得された高度と、前記距離測定部によって測定された距離との差を前記補正値として算出し、前記補正値を更新する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測位システム。
【請求項5】
前記高度測定部は、気圧に基づいて前記飛行体の高度を測定する気圧センサである、請求項1に記載の測位システム。
【請求項6】
前記距離測定部、前記仰角算出部、及び前記補正値算出部は、前記第1通信部側に設けられており、
前記第1通信部は、3つ以上のアンテナ素子を有する、請求項1に記載の測位システム。
【請求項7】
前記第2通信部は、1つのアンテナ素子を有する、請求項6に記載の測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のアンテナ素子で電波を受信した際の位相差を利用して、電波の到来角度を測定(推定)するAoA(Angle of Arrival)という到来角度の測定方法がある。AoAでは複数のアンテナ素子間の位相差を利用して電波の到来角度を測定するため、複数の矩形のアンテナ素子や複数の円形のアンテナ素子を有するアレイアンテナが用いられる。AoAに用いられるアレイアンテナは、複数のアンテナ素子を選択し、電波を受信するアンテナ素子を切り替えながら各アンテナ素子で電波を受信する際の位相を取得し、アンテナ素子間での位相差を取得して電波の到来方向を測定する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02-245683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようにアレイアンテナを使用してAoA形式で電波の到来方向を測定する際に、アレイアンテナの位相差の誤差は仰角が大きいときに増加するため、仰角が大きいときに仰角の誤差が大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、仰角の大きいときは高度測定部により補正した距離によって仰角を算出することにより、測角誤差を低減可能な測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の測位システムは、第1通信部と、前記第1通信部に対して移動可能な飛行体と、前記飛行体に搭載され、前記第1通信部と通信する第2通信部と、前記飛行体に搭載され、前記第1通信部に対する前記飛行体の高度を測定する高度測定部と、前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号の伝搬時間又は位相に基づいて、前記第1通信部と前記飛行体との間の距離を測定する距離測定部と、前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号を前記第1通信部又は前記第2通信部の複数のアンテナ素子で受信した際の位相に基づいて、前記第1通信部に対する前記飛行体の第1仰角を算出する仰角算出部と、前記第1仰角の絶対値が第1所定角度以下の場合に、前記高度測定部によって取得された高度と、前記距離測定部によって測定された距離との差を補正値として算出する補正値算出部とを備え、前記仰角算出部は、前記補正値算出部によって前記補正値が算出された後に、前記第1仰角の絶対値が前記第1所定角度よりも大きい第2所定角度以上である場合には、前記高度測定部によって取得された高度を前記補正値で補正した値を前記距離測定部によって測定された距離で除した値の逆余弦を第2仰角として算出し、前記第1仰角の値に基づいて、前記第1仰角と前記第2仰角のいずれかを選択する。
【発明の効果】
【0007】
仰角の大きいときは高度測定部により補正した距離によって仰角を算出することにより、測角誤差を低減可能な測位システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の測位システムの構成の一例を示す図である。
図2】仰角算出部がAoA形式で算出するアンテナアレイに対する飛行体の仰角の誤差を示す図である。
図3A】補正値の求め方を説明する図である。
図3B】補正値を用いた高度の補正方法を説明する図である。
図4A】実施形態の測位システムの制御装置が実行する処理の一例を表すフローチャートである。
図4B】実施形態の測位システムの制御装置が実行する処理の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の測位システムを適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、測位システム100の構成の一例を示す図である。測位システム100は、アレイアンテナ110、制御装置120、及び飛行体130を含む。アレイアンテナ110は、第1通信部の一例である。
【0011】
測位システム100の制御装置120は、アレイアンテナ110に対する飛行体130の仰角及び方位角をAoA形式で測定(推定)する。また、制御装置120は、ToA(Time of Arrival)形式でアレイアンテナ110と飛行体130との間の距離を測定(推定)する。なお、仰角及び方位角は、アレイアンテナ110の表面の中心を原点Oとする極座標系で与えられる仰角及び方位角である。
【0012】
<アレイアンテナ110>
アレイアンテナ110は、基板111及び4つのアンテナ素子112を有する。基板111は、絶縁体製の基板であり、上面に4つのアンテナ素子112が設けられている。アレイアンテナ110は、一例として、地上や、地上に設けられた固定物に設置されており、配線を通じて制御装置120に接続されている。
【0013】
4つのアンテナ素子112は、基板111の上面に等間隔で配置されている。より具体的には、4つのアンテナ素子112は、各アンテナ素子112の平面視における中心が、平面視で正方形の頂点に位置するように配置されている。図1には平面視で円形のアンテナ素子112を示すが、アンテナ素子112は平面視で矩形であってもよい。
【0014】
<制御装置120>
制御装置120は、アレイアンテナ110に接続されている。制御装置120は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。
【0015】
制御装置120は、通信制御部121、距離測定部122、仰角算出部123、補正値算出部124、及びメモリ125を有する。通信制御部121、距離測定部122、仰角算出部123、及び補正値算出部124は、制御装置120が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ125は、制御装置120のメモリを機能的に表したものである。
【0016】
通信制御部121は、アレイアンテナ110を通じて、飛行体130の通信部132と通信するための処理を行う。通信制御部121は、アレイアンテナ110の4つのアンテナ素子112の中から、通信に用いる1又は複数のアンテナ素子112を選択する。通信は、一例として、BLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))又はWLAN(Wireless Local Area Network)等で行う。以下では、一例として、制御装置120と飛行体130の通信部132とがBLEで通信する形態について説明する。通信には、測距及び測角のための通信の他に、BLEの信号を受信した際の位相等のデータを含む通信を行うデータ通信が含まれる。
【0017】
距離測定部122は、アレイアンテナ110と飛行体130の通信部132との間で通信される信号の伝搬時間又は位相に基づいて、アレイアンテナ110と飛行体130との間の距離を測定する。より具体的には、距離測定部122は、アレイアンテナ110の4つのアンテナ素子112のうちの1つを利用して、ToA形式で距離を測定する。
【0018】
一例として、距離測定部122は、アンテナ素子112から複数の周波数f1~fN(Nは2以上の整数)の信号を飛行体130の通信部132に送信し、複数の周波数f1~fNの信号を飛行体130の通信部132からアンテナ素子112で受信する。距離測定部122は、各周波数の信号を飛行体130の通信部132が受信したときの位相を表すデータを飛行体130の通信部132から通信によって取得する。
【0019】
距離測定部122は、通信部132から各周波数の信号をアンテナ素子112が受信したときの位相と、各周波数の信号を飛行体130の通信部132が受信したときの位相との周波数毎の合計の位相(往復の位相)を求め、複数の周波数と、各周波数での往復の位相との関係から、アレイアンテナ110と飛行体130との間の距離を測定する。
【0020】
また、距離測定部122は、上述のような測距方法の代わりに、アンテナ素子112から飛行体130の通信部132に信号を送信したときの信号の伝搬時間、又は、飛行体130の通信部132からアンテナ素子112に信号を送信したときの信号の伝搬時間を測定し、測定した伝搬時間に光の速度を乗じることによって、アレイアンテナ110と飛行体130との間の距離を測定してもよい。なお、距離測定部122の処理の詳細については、図4A及び図4Bのフローチャートを用いて後述する。
【0021】
仰角算出部123は、アレイアンテナ110の4つのアンテナ素子112のうちの2つ以上のアンテナ素子112を利用して、AoA形式で、アレイアンテナ110に対する飛行体130の位置の極座標系における仰角及び方位角を測定する。仰角算出部123は、飛行体130の通信部132から送信されるBLEの信号を2つ以上のアンテナ素子112で受信する際の位相差に基づいて、AoA形式またはToAを利用して仰角及び方位角を測定する。仰角算出部123の処理の詳細については、図4A及び図4Bのフローチャートを用いて後述する。
【0022】
補正値算出部124は、仰角算出部123によって算出される第1仰角の絶対値が第1所定角度以下の場合に、気圧センサ133によって取得された高度と、距離測定部122によって測定された距離との差を補正値として算出する。補正値については、図3A及び図3Bを用いて後述する。
【0023】
メモリ125は、制御装置120が処理を行うために実行するプログラムや処理に必要なデータ等を格納する。
【0024】
<飛行体130>
飛行体130は、一例としてドローンであり、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle: UAV)である。飛行体130には、制御装置131、通信部132、及び気圧センサ133が搭載されている。
【0025】
飛行体130は、図示しないリモートコントローラから送信される操縦信号に応じて飛行する。飛行体130には、一例としてカメラが搭載されている。飛行体130は、一例として、リモートコントローラから送信される撮影信号に基づいて、カメラを操作し、静止画(写真)や動画(ビデオ)を撮影する。
【0026】
制御装置131は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。図1では飛行体130がリモートコントローラから操縦信号を受信する受信部を省くが、制御装置131は、リモートコントローラから受信した操縦信号に応じて、飛行体130の飛行制御等を行う。
【0027】
通信部132は、アンテナ素子132Aを有し、アレイアンテナ110とBLEでの通信を行う。通信部132は、第2通信部の一例である。通信には、測距及び測角のための通信の他に、データ通信が含まれる。
【0028】
気圧センサ133は、気圧を高度に変換して出力するセンサであり、アレイアンテナ110に対する飛行体130の高度を測定する。気圧センサ133は、高度測定部の一例である。高度を表すデータは、制御装置131によって通信部132を通じてアレイアンテナ110に送信され、制御装置120に入力される。
【0029】
なお、ここでは、気圧センサ133が気圧を高度に変換して出力する形態について説明するが、気圧センサ133は気圧を表すデータを出力してもよく、この場合には、制御装置120が気圧を高度に変換する処理を行えばよい。また、ここでは、飛行体130の高度を測定するために気圧センサ133を用いる形態について説明するが、飛行体130の高度を測定可能な気圧センサ133以外の装置等を用いてもよい。
【0030】
<測角で得られる仰角の誤差>
図2は、仰角算出部123がAoA形式で算出するアレイアンテナ110に対する飛行体130の仰角の誤差を示す図である。図2において、横軸は、実際の仰角を示し、縦軸は、算出される仰角を示す。実線は、仰角算出部123によってAoA形式で算出される仰角の理論値と実際の仰角の関係を表し、破線は、仰角算出部123によって実際にAoA形式で算出される仰角と実際の仰角との関係を表す。仰角算出部123によってAoA形式で算出される仰角の理論値とは、4つのアンテナ素子112に、基板111上の配置や環境の違いが存在せずに、位相特性が同一である場合に算出される仰角である。
【0031】
実際のアレイアンテナ110の4つのアンテナ素子112は、基板111上の配置や、周囲のグランド電位の物体との位置関係等の環境の違いによって位相特性が異なるため、図2に示すように、算出される仰角の絶対値が約60度以上になると、理論値との差が無視できない程度に大きくなる。
【0032】
実施形態の測位システム100では、AoA形式で算出される仰角の絶対値が約60度以上になると誤差が大きくなるため、仰角算出部123は、AoA形式ではなく、ToAを利用した方法によって仰角を算出する。以下では、仰角算出部123がAoA形式で算出する仰角を仰角1と称し、ToAを利用した方法で算出する仰角を仰角2と称す。仰角1は、第1仰角の一例であり、仰角2は、第2仰角の一例である。なお、仰角算出部123がAoA形式で算出する飛行体130の方位角については、理論値との差が許容範囲内である。このため、飛行体130の方位角については、仰角算出部123がAoA形式で算出する方位角を用いる。
【0033】
<補正値を用いた高度の補正方法>
図3Aは、補正値の求め方を説明する図である。図3Bは、補正値を用いた高度の補正方法を説明する図である。
【0034】
図3Aには、飛行体130に搭載された気圧センサ133によって測定される高度を破線で示し、飛行体130がアレイアンテナ110の真上にいる場合に距離測定部122によってToA形式で測定される距離を実線で示す。飛行体130がアレイアンテナ110の真上にいる場合には、距離測定部122によってToA形式で測定される距離は、飛行体130の高度に相当する。
【0035】
気圧センサ133によって測定される高度は、距離測定部122によってToA形式で測定される距離よりも高精度に測定されることから、気圧センサ133によって測定される高度と、距離測定部122によってToA形式で測定される距離とには差がある。
【0036】
ここでは、気圧センサ133によって測定される高度から、距離測定部122によってToA形式で測定される距離を減じた値を補正値として求める。補正値を求める処理は、補正値算出部124が行う。補正値は、仰角算出部123がToAを利用した方法によって仰角を算出する際に、気圧センサ133によって測定される高度をToA用の値に補正する際に用いられる。
【0037】
図3Bに示すように、飛行体130の仰角θが大きく、第2所定角度以上である場合には、飛行体130に搭載された気圧センサ133によって測定される高度Hから補正値を減じた高度Hcを、距離測定部122によってToA形式で測定される距離で除算した値の逆余弦(acos)を求めることで、仰角θを求める。この処理は、仰角算出部123が実行する処理であり、仰角算出部123がToAを利用した方法によって仰角2を算出する方法である。高度Hc=高度H-補正値である。
【0038】
仰角2は、次式(1)で求められる。気圧センサ133の精度は数cm程度であるのに対してToAの精度は数10cm程度と差があるため、気圧センサ133の値で仰角2を補正している。
仰角2=acos{(高度H-補正値)/距離} (1)
【0039】
<フローチャート>
図4A及び図4Bは、制御装置120が実行する処理の一例を表すフローチャートである。
【0040】
図4Aは、飛行体130の電源がオンにされた直後に実行する処理である。図4Aの処理の前提として、飛行体130は、電源がオンにされると、仰角の絶対値が5度以下になるように制御されるモードで飛行する。飛行体130は、制御装置120と通信しながら、仰角算出部123によって算出される仰角の絶対値が5度以下になるように飛行する。
【0041】
飛行体130の仰角の絶対値が5度以下であれば、飛行体130は、アレイアンテナ110の真上にいると考えられる。飛行体130がアレイアンテナ110の真上にいる状態で補正値を算出するため、飛行体130は、電源がオンにされた直後に、仰角の絶対値が5度以下になるように飛行する。5度は、第1所定角度の一例であり、アレイアンテナ110の真上における飛行体130の仰角が所定の挟角範囲になる角度である。所定の挟角範囲は、アレイアンテナ110の略真上に飛行体130が存在すると考えられる範囲である。なお、ここでは、第1所定角度が5度である形態について説明するが、第1所定角度は5度に限定されるものではなく、測位システム100の利用において求められる精度や、飛行体130の飛行範囲等に応じて、アレイアンテナ110の略真上に飛行体130が存在すると考えられる角度として適切な値に設定すればよい。
【0042】
図4Aに示す処理>
仰角算出部123は、処理をスタートさせると、AoA形式で方位角と仰角1を算出する(ステップS0)。
【0043】
仰角算出部123は、飛行体130の仰角の絶対値が5度以下であるかどうかを判定する(ステップS1)。
【0044】
仰角算出部123は、飛行体130の仰角の絶対値が5度以下ではない(S1:NO)と判定すると、フローをステップS0にリターンする。また、仰角算出部123は、飛行体130の仰角の絶対値が5度以下である(S1:YES)と判定すると、フローをステップS2に進める。
【0045】
次いで、距離測定部122は、ToA形式で距離を測定する(ステップS2)。
【0046】
次いで、仰角算出部123は、飛行体130から気圧センサ133によって検出された高度を取得する(ステップS3)。これにより、飛行体130の方位角、仰角1、及び高度が揃う。
【0047】
補正値算出部124は、ステップS2で測定された距離と、ステップS3で取得された高度とを用いて補正値を算出し、メモリ125に格納する(ステップS4)。補正値は、高度から距離を減算することで算出される。
【0048】
以上で、図4Aの処理は終了する(エンド)。制御装置120は、図4Aに示す処理を終えると、図4Bに示す処理を開始する。
【0049】
図4Bに示す処理>
仰角算出部123は、図4Bに示す処理をスタートさせると、AoA形式で方位角と仰角1を算出する(ステップS11)。図4Bに示す処理を開始すると、飛行体130は、仰角の絶対値が5度以下になるように制御されるモードが解除され、リモートコントローラの操縦信号によって自由に飛行可能になる。
【0050】
次いで、距離測定部122は、ToA形式で距離を測定する(ステップS12)。
【0051】
次いで、仰角算出部123は、飛行体130から気圧センサ133によって検出された高度を取得する(ステップS13)。
【0052】
仰角算出部123は、ステップS11で算出した仰角1の絶対値が60度未満であるかどうかを判定する(ステップS14)。60度は、図2に示したように、仰角算出部123によって算出される仰角と理論値との差が無視できない程度に大きくなる境界の角度であり、第2所定角度の一例である。第2所定角度の一例としての60度は、第1所定角度の一例としての5度よりも大きい。なお、第2所定角度の60度は、一例であり、第2所定角度は60度に限られるものではない。第2所定角度は、測位システム100に求められる精度や、飛行体130の飛行範囲等に応じて、仰角1の代わりに仰角2を用いた方がよいと考えられる角度に設定すればよい。
【0053】
仰角算出部123は、ステップS11で算出した仰角1の絶対値が60度未満である(S14:YES)と判定すると、仰角1を現在の飛行体130の仰角として出力する(ステップS15)。仰角算出部123は、飛行体130の通信部132から送信されるBLEの信号を2つ以上のアンテナ素子112で受信する際の位相差に基づいて、AoA形式で仰角測定する。すなわち、仰角算出部123は、アレイアンテナ110と通信部132との間で通信される信号をアレイアンテナ110又は通信部132の複数のアンテナ素子で受信した際の位相に基づいて、アレイアンテナ110に対する飛行体130の仰角1を算出する。
【0054】
次いで、仰角算出部123は、飛行体130の仰角1の絶対値が5度以下であるかどうかを判定する(ステップS16)。
【0055】
仰角算出部123によって飛行体130の仰角の絶対値が5度以下である(S16:YES)と判定されると、補正値算出部124は、ステップS12で測定された距離と、ステップS13で取得された高度とを用いて補正値を算出し、メモリ125に格納されている補正値を更新する(ステップS17)。これにより、補正値が最新の補正値に更新される。補正値は、高度から距離を減算することで算出される。
【0056】
また、仰角算出部123は、ステップS14において、ステップS11で算出した仰角1が60度未満ではない(S14:NO)と判定すると、ステップS12で測定された距離と、ステップS13で取得された高度と、メモリ125に格納された補正値とを用いて、式(1)で仰角2を算出する(ステップS18)。すなわち、仰角算出部123は、仰角1が60度以上である場合には、気圧センサ133によって取得された高度を補正値で補正した値を距離測定部122によって測定された距離で除した値の逆余弦で与えられる仰角2を算出する。
【0057】
仰角算出部123は、ステップS11で算出した仰角1の代わりに、ステップS15で算出した仰角2を現在の飛行体130の仰角として出力する(ステップS19)。仰角算出部123は、ステップS19の処理を終えると、フローをステップS16に進める。
【0058】
以上で、方位角、距離、仰角1、または仰角2が取得できるため測位を完了し、一連の処理が終了する(エンド)。制御装置120は、図4Bに示す処理を繰り返し実行する。
【0059】
<効果>
測位システム100は、アレイアンテナ110と、アレイアンテナ110に対して移動可能な飛行体130と、飛行体130に搭載され、アレイアンテナ110と通信する通信部132と、飛行体130に搭載され、アレイアンテナ110に対する飛行体130の高度を測定する気圧センサ133と、アレイアンテナ110と通信部132との間で通信される信号の伝搬時間又は位相に基づいて、アレイアンテナ110と飛行体130との間の距離を測定する距離測定部122と、アレイアンテナ110と通信部132との間で通信される信号をアレイアンテナ110又は通信部132の複数のアンテナ素子で受信した際の位相に基づいて、アレイアンテナ110に対する飛行体130の仰角1を算出する仰角算出部123と、仰角1の絶対値が第1所定角度(一例として5度)以下の場合に、気圧センサ133によって取得された高度と、距離測定部122によって測定された距離との差を補正値として算出する補正値算出部124とを備える。仰角算出部123は、仰角1の絶対値が第1所定角度(一例として5度)よりも大きい第2所定角度(一例として60度)以上である場合には、気圧センサ133によって取得された高度を補正値で補正した値を距離測定部122によって測定された距離で除した値の逆余弦を仰角2として算出する。このため、仰角1の絶対値が第1所定角度(一例として5度)よりも大きい第2所定角度(一例として60度)以上であって、アレイアンテナ110の複数のアンテナ素子112で受信した際の位相に基づいて算出した仰角1の誤差が大きい場合に、仰角1の代わりに、気圧センサ133によって取得された高度と、補正値とを用いて仰角2を算出することができる。
【0060】
したがって、仰角の大きいときは気圧センサ133により補正した距離によって仰角を算出することにより、測角誤差を低減可能な測位システム100を提供することができる。
【0061】
また、第1所定角度(一例として5度)は、アレイアンテナ110の真上における仰角が所定の挟角範囲になる角度であり、所定の挟角範囲は、アレイアンテナ110の真上に飛行体130が存在すると考えられる範囲である。このため、アレイアンテナ110の略真上に飛行体130が存在するときに、距離測定部122によってToA形式で測定される距離(飛行体130の高度に相当する距離)と、気圧センサ133によって測定される高度とを用いて、補正値を算出することができる。
【0062】
また、補正値算出部124は、仰角1の絶対値が第1所定角度(一例として5度)以下になると、気圧センサ133によって取得された高度と、距離測定部122によって測定された距離との差を補正値として算出し、補正値を更新するので、アレイアンテナ110の略真上に飛行体130が存在するときに、補正値を最新の補正値に更新することができる。
【0063】
また、気圧センサ133は、気圧に基づいて飛行体130の高度を測定する気圧センサであるので、飛行体130の高度を正確に検出することができ、補正値を高精度に算出することができる。そして、アレイアンテナ110の複数のアンテナ素子112で受信した際の位相に基づいて算出した仰角1の誤差が大きい場合に、仰角1の代わりに、気圧センサ133によって取得された高度と、補正値とを用いて、高精度に仰角2を算出することができる。
【0064】
また、距離測定部122、仰角算出部123、及び補正値算出部124は、アレイアンテナ110側に設けられており、アレイアンテナ110は、3つ以上のアンテナ素子112を有する。このため、地上や地上に設けられた固定物に設置された制御装置120で、安定的にアレイアンテナ110と飛行体130との間の距離と補正値を算出できるとともに、3つ以上のアンテナ素子112を用いて求められる位相差を用いて仰角1を安定的に算出することができる。また、安定的に算出した距離及び補正値を用いて、仰角2を安定的に算出することができる。
【0065】
また、通信部132は、1つのアンテナ素子132Aを有するので、地上側の制御装置120が、距離、補正値、仰角1、及び仰角2を算出するという前提の下で、飛行体130の通信部132が、アレイアンテナ110から送信される信号を受信したときの位相の測定と、AoA形式で制御装置120が飛行体130の仰角及び方位角を測定する際の信号の送信とを行う構成にすることができ、飛行体130側の構成を簡略化することができる。
【0066】
<変形例>
なお、以上では、地上側の制御装置120がToA形式での距離の測定、AOAでの仰角1及び方位角の測定、補正値の算出、及び、仰角2の算出を行う形態について説明した。しかしながら、飛行体130の制御装置131が、ToA形式での距離の測定、AOA形式での仰角1及び方位角の測定、補正値の算出、及び、仰角2の算出を行ってもよい。この場合には、飛行体130の通信部132は、AOA形式で仰角1及び方位角を測定する際に、信号の位相差を検出するために、複数のアンテナ素子132Aを有していればよい。また、この場合に、地上側では、アレイアンテナ110の代わりに、少なくとも1つのアンテナ素子112を設ければよい。
【0067】
以上、本開示の例示的な実施形態の測位システムについて説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0068】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
第1通信部と、
前記第1通信部に対して移動可能な飛行体と、
前記飛行体に搭載され、前記第1通信部と通信する第2通信部と、
前記飛行体に搭載され、前記第1通信部に対する前記飛行体の高度を測定する高度測定部と、
前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号の伝搬時間又は位相に基づいて、前記第1通信部と前記飛行体との間の距離を測定する距離測定部と、
前記第1通信部と前記第2通信部との間で通信される信号を前記第1通信部又は前記第2通信部の複数のアンテナ素子で受信した際の位相に基づいて、前記第1通信部に対する前記飛行体の第1仰角を算出する仰角算出部と、
前記第1仰角の絶対値が第1所定角度以下の場合に、前記高度測定部によって取得された高度と、前記距離測定部によって測定された距離との差を補正値として算出する補正値算出部と
を備え、
前記仰角算出部は、前記補正値算出部によって前記補正値が算出された後に、前記第1仰角の絶対値が前記第1所定角度よりも大きい第2所定角度以上である場合には、前記高度測定部によって取得された高度を前記補正値で補正した値を前記距離測定部によって測定された距離で除した値の逆余弦を第2仰角として算出し、前記第1仰角の値に基づいて、前記第1仰角と前記第2仰角のいずれかを選択する、測位システム。
(付記2)
前記第1仰角はAoA形式で算出され、前記第2仰角はToAを利用して算出される、付記1に記載の測位システム。
(付記3)
前記第1所定角度は、前記第1通信部の真上における仰角が所定の挟角範囲になる角度である、付記1又は2に記載の測位システム。
(付記4)
前記補正値算出部は、前記第1仰角の絶対値が前記第1所定角度以下になると、前記高度測定部によって取得された高度と、前記距離測定部によって測定された距離との差を前記補正値として算出し、前記補正値を更新する、付記1乃至3のいずれか1項に記載の測位システム。
(付記5)
前記高度測定部は、気圧に基づいて前記飛行体の高度を測定する気圧センサである、付記1乃至4のいずれか1項に記載の測位システム。
(付記6)
前記距離測定部、前記仰角算出部、及び前記補正値算出部は、前記第1通信部側に設けられており、
前記第1通信部は、3つ以上のアンテナ素子を有する、付記1乃至5のいずれか1項に記載の測位システム。
(付記7)
前記第2通信部は、1つのアンテナ素子を有する、付記6に記載の測位システム。
【符号の説明】
【0069】
100 測位システム
110 アレイアンテナ(第1通信部の一例)
111 基板
112 アンテナ素子
120 制御装置
121 通信制御部
122 距離測定部
123 仰角算出部
124 補正値算出部
125 メモリ
130 飛行体
131 制御装置
132 通信部(第2通信部の一例)
132A アンテナ素子
133 気圧センサ(高度測定部の一例)
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B