(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006074
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B43K24/08
B43K24/08 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106628
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】大西 智温
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HA09
2C353HC02
2C353HC04
2C353HC15
2C353HG01
2C353HG03
(57)【要約】
【課題】筆記部材の移動距離を、ノック部材の移動距離に対して十分に大きくすること。
【解決手段】筆記具10は、軸筒20と筆記部材12と出没機構60とを備え、出没機構は、ノック部材61とストローク増大機構65とを有し、ストローク増大機構は、第1カム面72を有する後方部材70と、第2カム面82及び第3カム面84を有する中間部材80と、第4カム面92を有する前方部材90とを有し、没入状態において、第1カム面、第2カム面、第3カム面及び第4カム面は、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線に直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向に対して傾斜した方向へ延びており、後方部材が前方へ移動すると、中間部材が、軸筒に対して周方向dcに回転しながら後方部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動し、前方部材が、中間部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線及び前端開口部を有する軸筒と、前記軸筒内に配置された筆記部材と、前記筆記部材の先端を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備えた筆記具であって、
前記出没機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前記筆記部材を前方へ移動させるストローク増大機構と、を有し、
前記ストローク増大機構は、
前方を向く第1カム面を有する後方部材と、
前記後方部材の前方に配置され、後方を向く第2カム面及び前方を向く第3カム面を有する中間部材と、
前記中間部材の前方に配置され、後方を向く第4カム面を有する前方部材と、を有し、
前記筆記具の没入状態において、前記第1カム面、第2カム面、第3カム面及び第4カム面はいずれも、後方から前方へ向かうにつれて前記中心軸線に直交する第1方向の一方側から他方側へ向かうように、前記軸方向及び前記第1方向に対して傾斜した方向へ延びており、
前記後方部材が前方へ移動すると、前記中間部材が、前記軸筒に対して周方向に回転しながら前記後方部材の前記軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動し、前記前方部材が、前記中間部材の前記軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する、筆記具。
【請求項2】
前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第1溝部を有し、
前記第1溝部は、前記軸方向に延びる直線部を有し、
前記後方部材は、前記第1溝部内に位置する第1突出部を有する、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記第1溝部は、前記直線部の前端から前方へ延びる傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記軸方向及び周方向の両方に対して傾斜した方向へ延びている、請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記傾斜部における後面には、戻り止め部が設けられている、請求項3に記載の筆記具。
【請求項5】
前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第2溝部を有し、
前記第2溝部は、前記軸方向及び周方向の両方に対して傾斜した方向へ延びる主部を有し、
前記中間部材は、前記第2溝部内に位置する第2突出部を有する、請求項1に記載の筆記具。
【請求項6】
前記第2溝部は、前記主部の後端から後方に延長された延長部を有し、
前記延長部が延びる方向と前記軸方向との間の角度は、前記主部が延びる方向と前記軸方向との間の角度よりも小さい、請求項5に記載の筆記具。
【請求項7】
前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第3溝部を有し、
前記第3溝部は、前記軸方向に延びており、
前記前方部材は、前記第3溝部内に位置する第3突出部を有する、請求項1に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒と、軸筒内に配置された筆記部材と、ノック部材の操作に応じて筆記部材を出没させる出没機構と、を備えた筆記具において、ノック部材が操作されたときに、ノック部材の移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材を前方へ移動させるものが知られている。
【0003】
特許文献1には、第1カムと、第2カムと、バレルとを備えた筆記具が記載されている。特許文献1の筆記具では、引込状態においてノックにより第1カムを前方へ押圧することで、第1カムがバレルに対して回転しながら前方へ移動する。このとき、長手方向に対して傾斜した第1カムの第1接合面と第2カムの第2接合面とが互いに回転して、第2カムが前方へ向かって第1カムの移動距離よりも長い距離を移動する。これにより、ノックによる第1カムの前方への移動距離よりも大きな距離だけ、ペン先が前方へ移動する。
【0004】
特許文献2には、直動カムと、延伸カムと、ノックカムとを備えたノック式筆記具が記載されている。特許文献2のノック式筆記具では、ノックにより直動カムが前進すると、直動カムの移動距離よりも大きな距離だけ延伸カムが移動する。また、延伸カムの移動距離よりも大きな距離だけノックカムが移動する。したがって、ノックによる直動カムの移動距離に比べて、ノックカムが大きく移動する。これにより、ノックによる直動カムの前方への移動距離よりも大きな距離だけ、ペン先が前方へ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4642782号公報
【特許文献2】特許第6306909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載された筆記具では、使用者が直接操作するノック部材の前方への移動距離に対する、ペン先の前方への移動距離の比(倍率)を十分に大きくすることができなかった。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、筆記部材の移動距離を、ノック部材の移動距離に対して十分に大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による筆記具は、
[1]中心軸線及び前端開口部を有する軸筒と、前記軸筒内に配置された筆記部材と、前記筆記部材の先端を前記前端開口部から出没させる出没機構と、を備えた筆記具であって、
前記出没機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材の軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前記筆記部材を前方へ移動させるストローク増大機構と、を有し、
前記ストローク増大機構は、
前方を向く第1カム面を有する後方部材と、
前記後方部材の前方に配置され、後方を向く第2カム面及び前方を向く第3カム面を有する中間部材と、
前記中間部材の前方に配置され、後方を向く第4カム面を有する前方部材と、を有し、
前記筆記具の没入状態において、前記第1カム面、第2カム面、第3カム面及び第4カム面はいずれも、後方から前方へ向かうにつれて前記中心軸線に直交する第1方向の一方側から他方側へ向かうように、前記軸方向及び前記第1方向に対して傾斜した方向へ延びており、
前記後方部材が前方へ移動すると、前記中間部材が、前記軸筒に対して周方向に回転しながら前記後方部材の前記軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動し、前記前方部材が、前記中間部材の前記軸方向の移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する、筆記具、である。
【0009】
本発明による筆記具は、
[2]前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第1溝部を有し、
前記第1溝部は、前記軸方向に延びる直線部を有し、
前記後方部材は、前記第1溝部内に位置する第1突出部を有する、[1]に記載の筆記具、である。
【0010】
本発明による筆記具は、
[3]前記第1溝部は、前記直線部の前端から前方へ延びる傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記軸方向及び周方向の両方に対して傾斜した方向へ延びている、[2]に記載の筆記具、である。
【0011】
本発明による筆記具は、
[4]前記傾斜部における後面には、戻り止め部が設けられている、[3]に記載の筆記具、である。
【0012】
本発明による筆記具は、
[5]前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第2溝部を有し、
前記第2溝部は、前記軸方向及び周方向の両方に対して傾斜した方向へ延びる主部を有し、
前記中間部材は、前記第2溝部内に位置する第2突出部を有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の筆記具、である。
【0013】
本発明による筆記具は、
[6]前記第2溝部は、前記主部の後端から後方に延長された延長部を有し、
前記延長部が延びる方向と前記軸方向との間の角度は、前記主部が延びる方向と前記軸方向との間の角度よりも小さい、[5]に記載の筆記具、である。
【0014】
本発明による筆記具は、
[7]前記ストローク増大機構は、前記軸筒の内周面に設けられた第3溝部を有し、
前記第3溝部は、前記軸方向に延びており、
前記前方部材は、前記第3溝部内に位置する第3突出部を有する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の筆記具、である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筆記部材の移動距離を、ノック部材の移動距離に対して十分に大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、没入状態の筆記具を、軸筒を中心軸線に沿って切断した状態で示す斜視図である。
【
図2】
図2は、没入状態の筆記具を示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、突出状態における
図1の筆記具を、軸筒を中心軸線に沿って切断した状態で示す斜視図である。
【
図4】
図4は、突出状態の筆記具を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、筆記具の軸筒の本体部を中心軸線に沿って切断した状態で示す斜視図である。
【
図7】
図7は、筆記具のストローク増大機構の一部の構造及び動作について説明するための図である。
【
図8】
図8は、ストローク増大機構の一部の構造及び動作について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0018】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0019】
本明細書では、筆記具10の中心軸線Aが延びる方向を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向dcとする。軸方向daに沿って、ペン先側を前方とし、ペン先と反対側を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、没入状態の筆記具10を、軸筒20を中心軸線Aに沿って切断した状態で示す斜視図であり、
図2は、没入状態の筆記具10を示す縦断面図である。
図3は、突出状態における筆記具10を、軸筒20を中心軸線Aに沿って切断した状態で示す斜視図であり、
図4は、突出状態の筆記具10を示す縦断面図である。
図5は、筆記具10の分解斜視図である。
【0021】
本実施形態の筆記具10は、筆記部材12と、軸筒20と、出没機構60とを備えている。筆記具10は、中心軸線Aに沿って延びている。筆記部材12は、紙面等の筆記面に筆跡を形成する部材である。筆記部材12は、軸筒20内に収容されている。筆記部材12としては、例えば、ボールペン、万年筆、マーカー、シャープペンシル、スタイラスペン等に用いられる部材を用いることができる。
【0022】
軸筒20は、本体部22と、本体部22の前方に配置された先端部材24と、を含んでいる。軸筒20の中心軸線は、筆記具10の中心軸線Aと一致している。軸筒20は、筆記部材12と、弾発部材63と、出没機構60とを収容している。軸筒20の前端には、前端開口部26が設けられている。本実施形態では、前端開口部26を通って、筆記部材12の先端が出没する。軸筒20の後端には、後端開口部28が設けられている。本実施形態では、後述のノック部材61が後端開口部28から後方に突出する。
【0023】
本体部22は、先端部材24の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。本体部22は、後述のストローク増大機構65の後方部材70の移動軌跡を画定する第1溝部30、中間部材80の移動軌跡を画定する第2溝部40、及び、前方部材90の移動軌跡を画定する第3溝部50を有している。第1溝部30、第2溝部40及び第3溝部50の詳細については後述する。
【0024】
先端部材24は、前端開口部26を画定する部材である。すなわち、前端開口部26は、先端部材24に設けられている。先端部材24の後端部が本体部22の前端部に取り付けられることにより、先端部材24が本体部22に対して連結される。一例として、本体部22の前端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、先端部材24の後端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、先端部材24が本体部22に対して連結される。本実施形態では、先端部材24を本体部22から取り外した状態で、本体部22の前方から、本体部22内に出没機構60を取り付けることができる。また、先端部材24を本体部22から取り外すことにより、筆記部材12を交換することができる。
【0025】
出没機構60は、筆記部材12の先端を軸筒20の前端開口部26から出没させて、筆記具10を、軸筒20の前端開口部26から筆記部材12の先端部が突出する突出状態と、前端開口部26から筆記部材12の先端部が没入する没入状態と、を交互に切り換えるための機構である。本実施形態の出没機構60は、ノック部材61と、弾発部材63と、ストローク増大機構65と、を含んでいる。
【0026】
ノック部材61は、使用者により直接操作されることが意図された部材である。ノック部材61は、軸筒20の後端開口部28から後方に突出しており、使用者により前方へ向けて押圧可能に構成されている。
【0027】
弾発部材63は、筆記部材12を軸筒20に対して後方へ向けて付勢する部材である。弾発部材63は、例えばコイルスプリングである。弾発部材63は、軸筒20(先端部材24)の内段部と、後述の前方部材90の前端との間に圧縮状態で配置されている。
【0028】
本実施形態の出没機構60では、
図1及び
図2に示された没入状態の筆記具10において、使用者がノック部材61を前方へ押圧すると、ストローク増大機構65を介して筆記部材12が前方に向かって移動し、筆記部材12の先端部が前端開口部26から前方へ突出して、筆記具10が
図3及び
図4に示された突出状態となる。ノック部材61の前方への押圧が解除されても、筆記部材12は、筆記部材12の先端部が前端開口部26から前方へ突出した状態を維持する。突出状態において使用者がノック部材61を中心軸線A周りに回転させると、弾発部材63の弾発力により、筆記部材12の先端部が前端開口部26から軸筒20内へ没入して、筆記具10が
図1及び
図2に示された没入状態となる。本実施形態の筆記部材12の突出及び没入の動作の詳細については後述する。なお、出没機構60は、これに限られず、例えば、特開平11-78361号公報に開示された、軸筒の内面に形成されたカム溝、回転カム及びノック体を有する出没機構と同様の機構を用いてもよい。
【0029】
本実施形態では、筆記具10は、使用者によりノック部材61が前方に押圧されたときに、ノック部材61の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、筆記部材12の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなるように構成されている。以下、このような機能を実現するストローク増大機構65について説明する。
【0030】
本実施形態のストローク増大機構65は、軸筒20の内周面に設けられた第1溝部30、第2溝部40及び第3溝部50、並びに、軸筒20内に配置された後方部材70、中間部材80及び前方部材90を含んでいる。
図6は、軸筒20の本体部22を中心軸線Aに沿って切断した状態で示す斜視図である。
図7及び
図8は、ストローク増大機構65の一部の構造を示す図である。
図7は、没入状態におけるストローク増大機構65を示し、
図8は、突出状態におけるストローク増大機構65を示している。
図7及び
図8は、軸筒20(本体部22)を、中心軸線Aから径方向に延びる面で切り開き、径方向の外側から見て示す図である。
図7及び
図8には、第1溝部30、第2溝部40の形状が示されている。
【0031】
第1溝部30、第2溝部40及び第3溝部50は、それぞれ軸筒20(本体部22)の内周面に設けられている。第2溝部40は、第1溝部30の前方に配置されており、第3溝部50は、第2溝部40の前方に配置されている。
【0032】
第1溝部30は、後方部材70の後述の第1突出部74が内部を移動するように構成されている。第1溝部30は、軸方向daに延びる直線部31と、直線部31の前端から前方へ延びる傾斜部33と、を有している。直線部31は、中心軸線Aと平行な方向に沿って直線状に延びている。傾斜部33は、直線部31の前端において直線部31と連通している。傾斜部33は、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向に延びている。とりわけ、傾斜部33は、前方に向かうにつれて、周方向dcの一方側から他方側へ向かうように延びている。傾斜部33は、直線状に延びてもよいし曲線状に延びてもよい。ストローク増大機構65は、複数の第1溝部30を有してもよい。複数の第1溝部30は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、ストローク増大機構65は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第1溝部30を有している。
【0033】
傾斜部33は、傾斜部33の幅方向に対面する前面35及び後面37を有している。前面35は、傾斜部33の前方側の側面を画定する面であり、後方且つ周方向dcの他方側を向いた面である。後面37は、傾斜部33の後方側の側面を画定する面であり、前方且つ周方向dcの一方側を向いた面である。後面37には、戻り止め部39が設けられている。戻り止め部39は、後方部材70の第1突出部74が第1溝部30の前端部32に位置した際に、弾発部材63の弾発力により後方部材70が後方へ戻ることを抑制する機能を有する。第1溝部30の前端部32は、傾斜部33の幅方向寸法よりも大きな幅方向寸法を有している。戻り止め部39は、前端部32と傾斜部33との境界に位置している。本実施形態では、戻り止め部39は、前端部32の幅方向寸法と傾斜部33の幅方向寸法との差により形成される段部である。換言すると、戻り止め部39は、前端部32と傾斜部33との境界に位置して、第1溝部30の内側に突出する突出部である。
【0034】
第2溝部40は、中間部材80の後述の第2突出部86が内部を移動するように構成されている。第2溝部40は、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ延びる主部41と、主部41の後端から後方に延長された延長部43と、を有している。本実施形態では、
図7及び
図8において、主部41は、軸方向daに対して角度θ
1を有して、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ直線状に延びている。また、
図7及び
図8において、延長部43は、軸方向daに対して角度θ
2を有して、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ直線状に延びてもよい。図示された例では、角度θ
2は、角度θ
1よりも小さい。なお、延長部43は、軸方向daに延びてもよい。角度θ
1は、10度以上60度以下であってもよい。好ましくは、角度θ
1は、15度以上45度以下であってもよい。また、角度θ
2は、0度以上30度以下であってもよい。好ましくは、角度θ
2は、1度以上15度以下であってもよい。なお、主部41及び延長部43は、
図7及び
図8において、曲線状に延びてもよい。ストローク増大機構65は、複数の第2溝部40を有してもよい。複数の第2溝部40は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、ストローク増大機構65は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第2溝部40を有している。
【0035】
第2溝部40は、第2溝部40の幅方向に対面する前面45及び後面47を有している。前面45は、第2溝部40の前方側の側面を画定する面であり、後方且つ周方向dcの他方側を向いた面である。後面47は、第2溝部40の後方側の側面を画定する面であり、前方且つ周方向dcの一方側を向いた面である。
【0036】
第3溝部50は、前方部材90の後述の第3突出部94が内部を移動するように構成されている。第3溝部50は、軸方向daに直線状に延びている。なお、これに限られず、第3溝部50は、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ延びる部分を有してもよい。ストローク増大機構65は、複数の第3溝部50を有してもよい。複数の第3溝部50は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、ストローク増大機構65は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第3溝部50を有している。
【0037】
次に、後方部材70、中間部材80及び前方部材90について説明する。
【0038】
後方部材70は、使用者によりノック部材61が前方に押圧されたときに、ノック部材61からの押圧力を受けて前方へ移動する部材である。本実施形態では、後方部材70は、略円筒形状を有する中空の部材である。これにより、後方部材70の重量が小さくなり、ストローク増大機構65を軽量化することができる。なお、これに限られず、後方部材70は中実の部材であってもよい。本実施形態では、ノック部材61と後方部材70とが一体の部材として形成されている。したがって、ノック部材61と後方部材70とは一体に移動する。これに限られず、ノック部材61と後方部材70とは、それぞれ別体の部材として構成されてもよい。後方部材70は、前方を向く第1カム面72を有している。第1カム面72は、後方部材70の前端に設けられている。筆記具10の没入状態(
図1及び
図2参照)において、第1カム面72は、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びている。本実施形態では、第1カム面72は平面であるが、これに限られず、第1カム面72は曲面であってもよい。
【0039】
後方部材70の外周面には、第1突出部74が設けられている。第1突出部74は、後方部材70の外周面から径方向に突出して形成されている。第1突出部74は、径方向から見て円形の輪郭を有する円柱状の形状を有している。第1突出部74は、軸筒20(本体部22)の第1溝部30内に位置しており、第1溝部30内を移動可能である。これにより、後方部材70は、第1溝部30に沿って移動可能に構成される。上述したように、第1溝部30は、直線部31と傾斜部33とを有している。第1突出部74が第1溝部30の直線部31内に位置しているとき、後方部材70は、軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転不能である。また、第1突出部74が第1溝部30の傾斜部33内に位置しているとき、後方部材70は、傾斜部33に沿って軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転可能である。後方部材70は、複数の第1突出部74を有してもよい。とりわけ、後方部材70は、第1溝部30の数と同じ数の第1突出部74を有してもよい。複数の第1突出部74は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、後方部材70は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第1突出部74を有している。
【0040】
中間部材80は、後方部材70の前方に配置された部材である。本実施形態では、中間部材80は、略円筒形状を有する中空の部材である。これにより、中間部材80の重量が小さくなり、ストローク増大機構65を軽量化することができる。なお、これに限られず、中間部材80は中実の部材であってもよい。中間部材80は、後方を向く第2カム面82と、前方を向く第3カム面84と、を有している。第2カム面82は、中間部材80の後端に設けられており、第3カム面84は、中間部材80の前端に設けられている。筆記具10の没入状態(
図1及び
図2参照)において、第2カム面82は、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びている。また、筆記具10の没入状態において、第3カム面84は、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びている。本実施形態では、第2カム面82と第3カム面84とは、互いに平行に延びている。本実施形態では、第2カム面82及び第3カム面84は平面であるが、これに限られず、第2カム面82及び第3カム面84は曲面であってもよい。筆記具10の没入状態において、第2カム面82は、後方部材70の第1カム面72に対して面接触している。
【0041】
中間部材80の外周面には、第2突出部86が設けられている。第2突出部86は、中間部材80の外周面から径方向に突出して形成されている。第2突出部86は、径方向から見て円形の輪郭を有する円柱状の形状を有している。第2突出部86は、軸筒20(本体部22)の第2溝部40内に位置しており、第2溝部40内を移動可能である。これにより、中間部材80は、第2溝部40に沿って移動可能に構成される。上述したように、第2溝部40は、主部41と延長部43とを有している。第2突出部86が第2溝部40の主部41内に位置しているとき、中間部材80は、主部41に沿って軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転可能である。延長部43が、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ延びている場合、第2突出部86が第2溝部40の延長部43内に位置しているとき、中間部材80は、延長部43に沿って軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転可能である。また、延長部43が、軸方向daに沿って延びている場合、第2突出部86が第2溝部40の延長部43内に位置しているとき、中間部材80は、延長部43に沿って軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転不能である。中間部材80は、複数の第2突出部86を有してもよい。とりわけ、中間部材80は、第2溝部40の数と同じ数の第2突出部86を有してもよい。複数の第2突出部86は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、中間部材80は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第2突出部86を有している。
【0042】
前方部材90は、中間部材80の前方に配置された部材である。前方部材90は、後方を向く第4カム面92を有している。第4カム面92は、前方部材90の後端に設けられている。筆記具10の没入状態(
図1及び
図2参照)において、第4カム面92は、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びている。本実施形態では、没入状態において、第1カム面72、第2カム面82、第3カム面84及び第4カム面92は、互いに平行に延びている。本実施形態では、第4カム面92は平面であるが、これに限られず、第4カム面92は曲面であってもよい。筆記具10の没入状態において、第4カム面92は、中間部材80の第3カム面84に対して面接触している。
【0043】
前方部材90の外周面には、第3突出部94が設けられている。第3突出部94は、前方部材90の外周面から径方向に突出して形成されている。本実施形態では、第3突出部94は、径方向から見て長方形の輪郭を有する角柱状の形状を有している。これに限られず、第3突出部94は、径方向から見て円形の輪郭を有する円柱状の形状を有してもよい。第3突出部94は、軸筒20(本体部22)の第3溝部50内に位置しており、第3溝部50内を移動可能である。これにより、前方部材90は、第3溝部50に沿って移動可能に構成される。上述したように、本実施形態では、第3溝部50は、軸方向daに直線状に延びている。この場合、前方部材90は、第3溝部50に沿って軸方向daに移動可能且つ中心軸線A周りに回転不能である。前方部材90は、複数の第3突出部94を有してもよい。とりわけ、前方部材90は、第3溝部50の数と同じ数の第3突出部94を有してもよい。複数の第3突出部94は、周方向dcに等角度間隔を有して設けられてもよい。本実施形態では、前方部材90は、周方向dcに180度の角度間隔を有して形成された、2つの第3突出部94を有している。
【0044】
前方部材90の前端には、筆記部材12が取り付けられている。これにより、筆記部材12は、前方部材90と一緒に軸方向daに移動可能である。本実施形態では、前方部材90の前端に設けられた凹部内に筆記部材12の後端が圧入されることにより、前方部材90に対して筆記部材12が取り付けられている。
【0045】
次に、筆記具10の出没動作について説明する。
【0046】
弾発部材63は、軸筒20(先端部材24)の内段部と、前方部材90の前端との間に圧縮状態で配置されている。したがって、前方部材90は、弾発部材63の弾発力により後方に向けて付勢されている。これにより、中間部材80、後方部材70及びノック部材61も後方に向けて付勢されている。没入状態(
図1、
図2及び
図7)では、後方部材70の後端が軸筒20(先端部材24)の後端部の内周面に位置する内段部に当接しており、ノック部材61、後方部材70、中間部材80、前方部材90及び筆記部材12は、軸方向daにおける移動範囲の最後部に位置している。
【0047】
没入状態では、
図7に示されているように、後方部材70の第1突出部74は、第1溝部30の直線部31内に位置し、中間部材80の第2突出部86は、第2溝部40の延長部43内に位置している。また、前方部材90の第3突出部94は、第3溝部50内に位置している。また、没入状態では、
図1及び
図2に示されているように、中間部材80の第2カム面82と後方部材70の第1カム面72とは互いに面接触している。また、前方部材90の第4カム面92と中間部材80の第3カム面84とは互いに面接触している。没入状態において、第1カム面72、第2カム面82、第3カム面84及び第4カム面92はいずれも、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びている。
【0048】
図1、
図2及び
図7に示されているように、没入状態では、第1突出部74と第2突出部86とは、軸方向daに沿って距離L1だけ離間している。また、没入状態では、第2突出部86と第3突出部94とは、軸方向daに沿って距離L2だけ離間している。
【0049】
没入状態において、使用者がノック部材61を前方へ向けて押圧すると、弾発部材63の弾発力に抗してノック部材61が前方へ移動する。ノック部材61の前方への移動にともなって、後方部材70が前方へ移動する。後方部材70の第1突出部74が第1溝部30の直線部31内に位置している間、後方部材70は、軸方向daに移動し中心軸線A周りには回転しない。
【0050】
後方部材70が前方へ移動すると、後方部材70からの押圧力を受けて、中間部材80が第2溝部40に沿って前方へ移動する。本実施形態では、第2溝部40は、主部41と、延長部43とを有しており、延長部43が延びる方向と軸方向daとの間の角度θ2は、主部41が延びる方向と軸方向daとの間の角度θ1よりも小さくなっている。したがって、中間部材80の第2突出部86が延長部43内に位置している間、中間部材80は、軸方向daに対して角度θ1よりも小さい角度θ2を有して中心軸線A周りに回転する。したがって、弾発部材63の弾発力に起因して第2溝部40の前面45から第2突出部86へ作用する抵抗力のうちの後方へ向かう分力が小さくなる。したがって、中間部材80を、前方へ向かってスムーズに移動させることができる。
【0051】
中間部材80がさらに前方へ移動すると、第2突出部86は、第2溝部40の主部41内に位置するようになる。第2突出部86が主部41内に位置している間、中間部材80は、軸方向daに対して角度θ2よりも大きい角度θ1を有して中心軸線A周りに回転する。とりわけ、中間部材80は、前方へ移動するとともに、周方向dcの一方側から他方側へ向かって回転する。このとき、第2突出部86が延長部43内に位置しているときと比較して、軸方向daの移動距離に対する中心軸線A周りの回転角度が大きくなる。これにより、中間部材80は、中心軸線A周りに大きく回転する。上述したように、後方部材70の第1突出部74が第1溝部30の直線部31内に位置している間、後方部材70は、軸方向daに移動し中心軸線A周りには回転しない。この場合、中間部材80の中心軸線A周りの回転にともなって、後方部材70の第1カム面72の延びる方向と中間部材80の第2カム面82の延びる方向とが互いにずれていく。これにより、第1カム面72と第2カム面82とは、互いに面接触しなくなり、第1カム面72の一部と第2カム面82の一部とが互いに接触するようになる。これにともなって、中間部材80は、後方部材70の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する。すなわち、後方部材70が前方へ移動すると、中間部材80が、軸筒20に対して周方向dcに回転しながら後方部材70の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する。
【0052】
また、前方部材90は、軸方向daに移動可能であるが、中心軸線A周りには回転しない。この場合、中間部材80の中心軸線A周りの回転にともなって、中間部材80の第3カム面84の延びる方向と前方部材90の第4カム面92の延びる方向とが互いにずれていく。これにより、第3カム面84と第4カム面92とは、互いに面接触しなくなり、第3カム面84の一部と第4カム面92の一部とが互いに接触するようになる。これにともなって、前方部材90は、中間部材80の軸方向daの移動距離よりもさらに大きな距離だけ前方へ移動する。すなわち、中間部材80が前方へ移動すると、前方部材90が、中間部材80の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する。
【0053】
したがって、使用者によりノック部材61が前方に押圧されたときに、ノック部材61の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、前方部材90と一緒に移動する筆記部材12の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が大きくなる。
【0054】
後方部材70がさらに前方へ移動すると、後方部材70の第1突出部74が、第1溝部30の傾斜部33内に位置するようになる。このとき、後方部材70は、第1溝部30に沿って、軸方向daに移動するとともに中心軸線A周りに回転する。とりわけ、後方部材70は、前方へ移動するとともに、周方向dcの一方側から他方側へ向かって回転する。すなわち、後方部材70は、前方へ移動するとともに、中間部材80の回転方向と同じ方向に回転する。これにより、後方部材70から中間部材80へ作用する押圧力が緩和される。したがって、後方部材70及び中間部材80に係る負荷が軽減される。よって、後方部材70の第1カム面72及び中間部材80の第2カム面82に変形や破損が生じることを抑制することができる。
【0055】
その後、第1突出部74は、第1溝部30の前端部32内に位置するようになる。この状態で使用者によるノック部材61の押圧が解除されると、弾発部材63の弾発力により、第1突出部74が前端部32の後面に押し付けられる。傾斜部33における後面37には、戻り止め部39が設けられているので、第1突出部74が前端部32から傾斜部33へ戻ることが抑制される。これにより、使用者がノック部材61の前方への押圧を解除しても、筆記部材12が軸筒20の前端開口部26から没入せず、筆記具10は、
図3、
図4及び
図8に示した突出状態に維持される。
【0056】
突出状態では、
図3、
図4及び
図8に示されているように、第1突出部74と第2突出部86とは、軸方向daに沿って距離L3だけ離間する。また、突出状態では、第2突出部86と第3突出部94とは、軸方向daに沿って距離L4だけ離間する。突出状態における第1突出部74と第2突出部86との間の距離L3は、没入状態における第1突出部74と第2突出部86との間の距離L1よりも大きい。また、突出状態における第2突出部86と第3突出部94との間の距離L4は、没入状態における第2突出部86と第3突出部94との間の距離L2よりも大きい。
【0057】
突出状態において、使用者が、ノック部材61を把持して中心軸線A周りに回転させる、とりわけノック部材61を周方向dcの他方側から一方側へ回転させると、後方部材70の第1突出部74が、第1溝部30の戻り止め部39を超えて、傾斜部33内に位置するようになる。この状態で使用者が、ノック部材61の把持を解除すると、弾発部材63の弾発力により、後方部材70、中間部材80及び前方部材90が、後方へ移動する。このとき、後方部材70の第1突出部74は第1溝部30内を後方へ移動し、中間部材80の第2突出部86は第2溝部40内を後方へ移動し、前方部材90の第3突出部94は第3溝部50内を後方へ移動する。その後、後方部材70の後端が軸筒20(先端部材24)の後端部の内周面に位置する内段部に当接すると、後方部材70、中間部材80及び前方部材90が停止して、
図1、
図2及び
図7に示す没入状態に戻る。このとき、筆記部材12の先端は、軸筒20の前端開口部26から没入する。
【0058】
本実施形態の筆記具10は、中心軸線A及び前端開口部26を有する軸筒20と、軸筒20内に配置された筆記部材12と、筆記部材12の先端を前端開口部26から出没させる出没機構60と、を備え、出没機構60は、使用者により前方へ押圧可能なノック部材61と、ノック部材61が前方に押圧されたときに、ノック部材61の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ筆記部材12を前方へ移動させるストローク増大機構65と、を有し、ストローク増大機構65は、前方を向く第1カム面72を有する後方部材70と、後方部材70の前方に配置され、後方を向く第2カム面82及び前方を向く第3カム面84を有する中間部材80と、中間部材80の前方に配置され、後方を向く第4カム面92を有する前方部材90と、を有し、筆記具10の没入状態において、第1カム面72、第2カム面82、第3カム面84及び第4カム面92はいずれも、後方から前方へ向かうにつれて中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びており、後方部材70が前方へ移動すると、中間部材80が、軸筒20に対して周方向dcに回転しながら後方部材70の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動し、前方部材90が、中間部材80の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動する。
【0059】
このような筆記具10によれば、後方部材70、中間部材80及び前方部材90を有し、中間部材80が、後方部材70の軸方向daの移動距離よりも大きな距離だけ前方へ移動し、前方部材90が、中間部材80の軸方向daの移動距離よりもさらに大きな距離だけ前方へ移動するので、従来の筆記具と比較して、筆記部材12の移動距離を、ノック部材61の移動距離に対して十分に大きくすることができる。また、没入状態において、第1カム面72、第2カム面82、第3カム面84及び第4カム面92がいずれも、後方から前方へ向かうにつれて第1方向d1の一方側から他方側へ向かうように、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向へ延びていることにより、没入状態におけるストローク増大機構65をコンパクトに構成することができる。したがって、ストローク増大機構65を小型化しながらも、筆記部材12の移動距離を、ノック部材61の移動距離に対して十分に大きくすることができる。
【0060】
本実施形態の筆記具10では、ストローク増大機構65は、軸筒20の内周面に設けられた第1溝部30を有し、第1溝部30は、軸方向daに延びる直線部31を有し、後方部材70は、第1溝部30内に位置する第1突出部74を有する。
【0061】
本実施形態の筆記具10では、ストローク増大機構65は、軸筒20の内周面に設けられた第2溝部40を有し、第2溝部40は、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ延びる主部41を有し、中間部材80は、第2溝部40内に位置する第2突出部86を有する。
【0062】
本実施形態の筆記具10では、ストローク増大機構65は、軸筒20の内周面に設けられた第3溝部50を有し、第3溝部50は、軸方向daに延びており、前方部材90は、第3溝部50内に位置する第3突出部94を有する。
【0063】
このような筆記具10によれば、後方部材70、中間部材80及び前方部材90が、それぞれ第1溝部30、第2溝部40及び第3溝部50に沿って、安定してスムーズに移動することができる。
【0064】
本実施形態の筆記具10では、第1溝部30は、直線部31の前端から前方へ延びる傾斜部33を有し、傾斜部33は、軸方向da及び周方向dcの両方に対して傾斜した方向へ延びている。
【0065】
このような筆記具10によれば、後方部材70の第1突出部74が傾斜部33内に位置するときに、後方部材70は、前方へ移動するとともに、中間部材80の回転方向と同じ方向に回転する。これにより、後方部材70から中間部材80へ作用する押圧力が緩和される。したがって、後方部材70及び中間部材80に係る負荷が軽減される。よって、後方部材70の第1カム面72及び中間部材80の第2カム面82に変形や破損が生じることを抑制することができる。
【0066】
本実施形態の筆記具10では、傾斜部33における後面37には、戻り止め部39が設けられている。
【0067】
このような筆記具10によれば、第1突出部74が第1溝部30の前端部32内に位置した状態で使用者によるノック部材61の押圧が解除されたときに、戻り止め部39により、第1突出部74が前端部32から傾斜部33へ戻ることが抑制される。これにより、使用者がノック部材61の前方への押圧を解除しても、筆記部材12が軸筒20の前端開口部26から没入せず、筆記具10が突出状態になる。したがって、簡単な構成で、筆記具10を突出状態に維持する機構を実現することができる。
【0068】
本実施形態の筆記具10では、第2溝部40は、主部41の後端から後方に延長された延長部43を有し、延長部43が延びる方向と軸方向daとの間の角度θ2は、主部41が延びる方向と軸方向daとの間の角度θ1よりも小さい。
【0069】
このような筆記具10によれば、没入状態から突出状態へ遷移する際に、弾発部材63の弾発力に起因して第2溝部40の前面45から第2突出部86へ作用する抵抗力のうちの後方へ向かう分力が小さくなる。したがって、中間部材80を、前方へ向かってスムーズに移動させることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 筆記具
12 筆記部材
20 軸筒
22 本体部
24 先端部材
26 前端開口部
28 後端開口部
30 第1溝部
31 直線部
32 前端部
33 傾斜部
35 前面
37 後面
39 戻り止め部
40 第2溝部
41 主部
43 延長部
45 前面
47 後面
50 第3溝部
60 出没機構
61 ノック部材
63 弾発部材
65 ストローク増大機構
70 後方部材
72 第1カム面
74 第1突出部
80 中間部材
82 第2カム面
84 第3カム面
86 第2突出部
90 前方部材
92 第4カム面
94 第3突出部
A 中心軸線
da 軸方向
dc 周方向
d1 第1方向