IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本車輌製造株式会社の特許一覧 ▶ 東海旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-鉄道車両 図1
  • 特開-鉄道車両 図2
  • 特開-鉄道車両 図3
  • 特開-鉄道車両 図4
  • 特開-鉄道車両 図5
  • 特開-鉄道車両 図6
  • 特開-鉄道車両 図7
  • 特開-鉄道車両 図8
  • 特開-鉄道車両 図9
  • 特開-鉄道車両 図10
  • 特開-鉄道車両 図11
  • 特開-鉄道車両 図12
  • 特開-鉄道車両 図13
  • 特開-鉄道車両 図14
  • 特開-鉄道車両 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060754
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/28 20060101AFI20240425BHJP
   B61D 25/00 20060101ALI20240425BHJP
   B61C 17/04 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B60S1/28
B61D25/00 G
B61C17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168233
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】河合 竜太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康宏
【テーマコード(参考)】
3D225
【Fターム(参考)】
3D225AB00
3D225AC01
3D225AD02
3D225AD09
3D225AE01
(57)【要約】
【課題】補助ワイパ装置を備え誤操作によって主ワイパ装置と補助ワイパ装置が干渉してしまうことを防ぐ構造を備えた鉄道車両の提供。
【解決手段】運転席のフロントガラス25に備えられた第1主ワイパ装置50Aと、第1主ワイパ装置50Aの第1払拭範囲A1と重複する第2払拭範囲A2を設定された補助ワイパ装置55とを有する鉄道車両10において、第1主ワイパ装置50Aと補助ワイパ装置55の作動を切り替える手動切替部65と、第1主ワイパ装置50Aのワイパ位置を手動で変更するのに用いる着脱可能な延長桿70と、を備え、延長桿70が、第1主ワイパ装置50Aと延長桿70を接続する接続部位へのアクセスを妨げる位置に、着脱自在に設置されているためである。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席のフロントガラスを拭き取る為に備えられた主ワイパ装置と、該主ワイパ装置の予備として備えられた補助ワイパ装置を有する鉄道車両において、
前記主ワイパ装置の拭き取り域と重複する拭き取り域を設定された前記補助ワイパ装置と、
前記主ワイパ装置と前記補助ワイパ装置の運転を切り替える切替手段と、
前記主ワイパ装置のワイパブレードの位置を手動で変更するのに用いる着脱可能な手動部材と、を備え、
前記手動部材が、前記切替手段へのアクセスを妨げる保管位置に、着脱自在に保管されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記切替手段は、前記主ワイパ装置と前記補助ワイパ装置の通電回路を切り替える切替スイッチに取り付けるツマミを含み、
前記切替スイッチから前記ツマミを取り外すことで、前記切替スイッチの操作が出来ないようにすることが可能であり、
取り外された前記ツマミを収納する収納ボックスは、前記手動部材を前記保管位置に保管することによって前記ツマミが取り出せない位置に配置されること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両において、
前記切替手段は、前記主ワイパ装置の回動軸と連結される手動切替部を含み、
前記手動切替部は、桿状の部材よりなる前記手動部材を取り付けることで、前記主ワイパ装置の前記ワイパブレードの位置を手動で変更することが可能であり、
前記手動切替部の上部に開閉扉を有するカバーを備え、
前記開閉扉の開閉を阻害するように、前記手動部材が着脱自在に設置されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項2に記載の鉄道車両において、
前記切替スイッチは、運客仕切り側の配電盤に配置されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両において、
前記配電盤には、前記切替スイッチを覆うカバーが備えられ、該カバーの内側には突起を有し、
前記主ワイパ装置が作動する側に前記切替スイッチが倒されている場合に、前記切替スイッチに取り付けられた前記ツマミと前記突起が干渉するように、前記突起が配置されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先頭車両のフロントガラスを拭き取る為に設けられた主ワイパ装置と補助ワイパ装置を備えた鉄道車両用の、ワイパ誤取り扱い・破損防止を目的とした構造を有する鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の運転室のフロントガラスの外側には、降雨時や積雪時など天候状況の悪い時にも運転士の視界を確保できるようにワイパ装置(以降、他と区別するために主ワイパ装置とする)が備えられている。この主ワイパ装置は、車両整備時や運行前などに動作チェックがなされて、故障した場合には修理・交換が必要となる。多くの場合は、工場で主ワイパ装置が修理されることになるが、運行中に故障が発生し、運行不可となるケースもある。こうした運行中の故障に備えて緊急措置としてワイパを使用できるように車両に補助的に用いることができる補助ワイパ装置を備えている車両が存在する。
【0003】
特許文献1に、可搬型ワイパ装置に関する技術が開示されている。ベース部材にワイパユニットと吸着装置を設けた本体部に、電源コードでバッテリーを接続した可搬型ワイパ装置(前出の補助ワイパ装置に相当)であり、既設の主ワイパ装置が故障した時に、フロントガラス表面の適当な位置に固定することで、既設の主ワイパ装置の機能を代替することができる。本体部及びバッテリーをそれぞれに取り付けてあるチェーンを車両外面の適当な箇所に係止させて落下防止を図っている。
【0004】
特許文献2に、主ワイパ装置とこれを備える車両及び鉄道車両に関する技術が開示されている。フロントガラスに備えられたワイパアームとワイパアームを支持すると共にフロントガラスの外面から内部まで貫通するワイパ軸と、ワイパアーム及びワイパ軸を回動させるモータと、ワイパの電動駆動と非常時の手動駆動を切り替えるクラッチ機構を備える車両で、手動駆動は足だけで操作可能な構成となっている。したがって、手動駆動時には車両の運転者が手を用いることなく、足踏み式ワイパ駆動手段によってワイパを駆動させることが出来るため、運転に支障をきたしにくいという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-274555号公報
【特許文献2】特開2007-261416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の可搬式ワイパ装置は、一旦は車両の外に出て作業する必要があることから、車両の走行中に取り付けることが難しい。よって、車両をどこかで一旦停止させた後、フロントガラスに可搬式ワイパ装置を取り付ける必要がある。そうすると、鉄道車両の運行ダイヤに影響を与える為、問題となる。また、悪天候下に車外での作業を行う必要があるため運転者に対する負担が大きいことも問題となる。
【0007】
一方、特許文献2のように電動駆動の他に手動駆動装置を備えて、非常時に切り替え手段を行う場合、手動駆動の状態で長距離の運行は現実的ではなく、また、雨の勢いが強い場合などは、手動駆動装置を頻回に動作させる必要があるという理由から、足踏み式駆動であったとしても運転者に負担をかける可能性は高い。更に、特許文献2の方法では、電動駆動装置の故障にしか対応できない。例えば、ワイパブレードの損傷やワイパ軸の損傷などによる故障の場合には、手動駆動装置に切り替えたとしてもワイパ装置を動かすことは出来ない。
【0008】
こうしたことから、特許文献1のように補助ワイパ装置を常設することが考えられるが、この場合も既設の主ワイパ装置の故障に対して補助ワイパ装置を駆動させるためには、お互いのワイパアームやワイパブレードが干渉しない様に注意する必要がある。主ワイパ装置の故障時におけるワイパブレードの位置によっては、補助ワイパ装置のワイパアームやワイパブレードと干渉し駆動を妨げる場合が発生する。この場合、補助ワイパ装置の拭き取り域から主ワイパ装置のワイパブレードを退かす必要があるが、その動作は運転者により実施される為、誤取り扱いによりワイパ装置自体を破損させる課題がある。こうした対応を運転者に負担をかけずに行えることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、主ワイパ装置から補助ワイパ装置へ駆動を切り替える際の運転者による誤取り扱いを防ぐ構造を備えた鉄道車両の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両は、以下のような特徴を有する。
【0011】
(1)運転席のフロントガラスを拭き取る為に備えられた主ワイパ装置と、該主ワイパ装置の予備として備えられた補助ワイパ装置を有する鉄道車両において、
前記主ワイパ装置の拭き取り域と重複する拭き取り域を設定された前記補助ワイパ装置と、
前記主ワイパ装置と前記補助ワイパ装置の運転を切り替える切替手段と、
前記主ワイパ装置のワイパブレードの位置を手動で変更するのに用いる着脱可能な手動部材と、を備え、
前記手動部材が、前記切替手段へのアクセスを妨げる保管位置に、着脱自在に保管されていること、
を特徴とする。
【0012】
上記(1)に記載の態様によって、鉄道車両に備えられた主ワイパ装置と補助ワイパ装置は、その駆動の切り替えを行う切替手段に対するアクセスを手動部材が妨げているため、手動部材を取り外してから切替操作を行う必要があり、それが故障した主ワイパ装置のワイパブレードの退避操作を想起させる手順(ポカ避け)として機能する。課題に示すように鉄道車両の運転席のフロントガラスに備えられた主ワイパ装置と、その故障に備えて補助ワイパ装置が用意されている場合において、主ワイパ装置と補助ワイパ装置のフロントガラスにおける拭き取り域は重複する様に設定されている。
【0013】
このため、作業者が間違って主ワイパ装置のワイパブレードを退避しないまま切替手段で主ワイパ装置と補助ワイパ装置の駆動を先に切り替え、補助ワイパ装置を起動してしまうと、補助ワイパ装置の拭き取り領域内に故障して退避されていない主ワイパ装置のワイパブレードがあった場合に、稼働した補助ワイパ装置のワイパブレードと干渉し補助ワイパ装置も破損してしまうおそれがあるが、手動部材の設置位置を切替手段へのアクセスを妨げる位置に配置することで、手動部材を手に取らないと切替手段にアクセスできなくなるため、主ワイパ装置のワイパブレードが補助ワイパ装置のワイパ拭き取り域に残っている時に補助ワイパ装置を駆動することを防ぐことに繋がる。
【0014】
補助ワイパ装置が設けられるのは、万が一、主ワイパ装置が運行中に故障した場合に、車内から補助ワイパ装置へ切り替えて運行を継続するためであるが、主ワイパ装置と補助ワイパ装置のワイパブレードを干渉させてしまって、補助ワイパ装置側も破損すると車両の運行の続行が出来なくなってしまう。しかし、本発明によってこうしたトラブルを未然に防ぐことが可能となるため、より鉄道運行の安全性を高めることが可能となる。
【0015】
(2)(1)に記載の鉄道車両において、
前記切替手段は、前記主ワイパ装置と前記補助ワイパ装置の通電回路を切り替える切替スイッチに取り付けるツマミを含み、
前記切替スイッチから前記ツマミを取り外すことで、前記切替スイッチの操作が出来ないようにすることが可能であり、
取り外された前記ツマミを収納する収納ボックスは、前記手動部材を前記保管位置に保管することによって前記ツマミが取り出せない位置に配置されること、
が好ましい。
【0016】
上記(2)に記載の態様によって、切替手段は切替スイッチとそのツマミで構成されていて、切替スイッチからツマミを取り外すことで、切替スイッチの切り替えが出来なくなる。そして、ツマミを取り外して収納ボックスに入れ、この収納ボックスへのアクセスを手動部材によって妨げておくことで、手順的に必ず手動部材を外すところから行う必要がでてくる。つまり、手動部材を手に取らないと切替手段であるツマミが収納される収納ボックスにアクセス出来ず、このことがポカ避けとして機能し、主ワイパ装置のワイパブレードが補助ワイパ装置の拭き取り域に残っている状態で補助ワイパ装置を駆動することを防ぐことに繋がる。
【0017】
(3)(1)又は(2)に記載の鉄道車両において、
前記切替手段は、前記主ワイパ装置の回動軸と連結される手動切替部を含み、
前記手動切替部は、桿状の部材よりなる前記手動部材を取り付けることで、前記主ワイパ装置の前記ワイパブレードの位置を手動で変更することが可能であり、
前記手動切替部の上部に開閉扉を有するカバーを備え、
前記開閉扉の開閉を阻害するように、前記手動部材が着脱自在に設置されていること、
が好ましい。
【0018】
上記(3)に記載の態様によって、手動切替部を覆うカバーに設けられた開閉扉の開閉を阻害するように配置される手動部材を取り外し、手動切替部を覆うカバーを開けることで、手動切替部にアクセスすることができる。このようにカバーに手動部材が着脱自在に設けられる事で、正しい手順での主ワイパ装置から補助ワイパ装置への切り替えを行うことができる。
【0019】
(4)(2)に記載の鉄道車両において、
前記切替スイッチは、運客仕切り側の配電盤に配置されていること、
が好ましい。
【0020】
上記(4)に記載の態様によって、切替スイッチが運客仕切り側に配置されている。つまり、運転席にいて通常の運行を行っている時(主ワイパ装置が故障していない場合)には、切替スイッチを運転者が目視することはない。他方、主ワイパ装置が故障し補助ワイパ装置を作動させるためには、運客仕切り側を向いて配電盤内に配置された切替スイッチを操作する必要がある。したがって、主ワイパ装置の正常動作時に誤って切替スイッチの切り替え操作することを防止することができる。
【0021】
(5)(4)に記載の鉄道車両において、
前記配電盤には、前記切替スイッチを覆うカバーが備えられ、該カバーの内側には突起を有し、
前記主ワイパ装置が作動する側に前記切替スイッチが倒されている場合に、前記切替スイッチに取り付けられた前記ツマミと前記突起が干渉するように、前記突起が配置されていること、
が好ましい。
【0022】
上記(5)に記載の態様によって、ツマミが取り付けられた状態では、補助ワイパ装置が作動する側に切替スイッチが倒されていなければ、配電盤のカバーがきっちり閉まらないようになる。このため、切替スイッチの操作忘れに気がつくことが可能となり、切替スイッチの切り替え操作忘れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の、鉄道車両の正面図である。
図2】本実施形態の、鉄道車両の運転室の上視断面図である。
図3】本実施形態の、運転席側の部分拡大図である。
図4】本実施形態の、運転席側のワイパ装置を拡大して示す断面図である。
図5】本実施形態の、主ワイパ装置の断面図である。
図6】本実施形態の、運転席側からの主ワイパ装置の機構部を示す図である。
図7】本実施形態の、主ワイパ装置の機構部のカバー部分を示す平面図である。
図8】本実施形態の、蓋体の周辺を模式的に示した斜視図である。
図9】本実施形態の、延長桿(手動部材)を取り外した状態を模式的に示す斜視図である。
図10】本実施形態の、延長桿を切替手段に接続した状態を模式的に示す斜視図である。
図11】本実施形態の、延長桿を操作した状態を模式的に示す斜視図である。
図12】本実施形態の、延長桿を切替手段に接続した状態で蓋体を閉じた様子を模式的に示す斜視図である。
図13】本実施形態の、運転席の背面に設置された遮断器盤の斜視図である。
図14】(a)本実施形態の、切替スイッチを切り替える前にカバーを閉めた様子を示す斜視図である。(b)本実施形態の、切替スイッチを切り替えた後にカバーを閉めた様子を示す斜視図である。
図15】本実施形態の、ワイパ装置切替手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の鉄道車両の正面図を示す。図2に、図1のAA断面にあたる鉄道車両の運転室の上視断面図を示す。図3に、図2のB矢視にあたる運転席側の部分拡大図を示す。
【0025】
鉄道車両10の運転室20の前面に設けられるフロントガラス25は、図1において向かって右面に配置される第1ガラス25Aと左面に配置される第2ガラス25Bの2面が、貫通扉30を挟んで妻構体11に設けられている。つまり運転席21側に第1ガラス25Aが、助士席22側に第2ガラス25Bがフロントガラス25として配置されている。
【0026】
この第1ガラス25A及び第2ガラス25Bを拭き取る為にそれぞれ主ワイパ装置50が設けられており、雨天などのフロントガラス25に水滴が付くような環境下にて作動させることで、視界を確保可能である。なお、説明の都合で、運転席21側の第1ガラス25Aに設けられるのを第1主ワイパ装置50A、助士席22側の第2ガラス25Bに備えられる第2主ワイパ装置50Bと称する。なお、特に運転席21側と助士席22側とを区別する必要が無い場合、若しくは両方のことを指す場合には、符号末尾のAまたはBを省略する。
【0027】
主ワイパ装置50は、ワイパブレード51が上向きになるように妻構体11のフロントガラス25の車両幅方向略中央部で下辺近傍の妻構体11に後述する回動軸66が車両内側から外側に貫通して取り付けられ、ワイパブレード51をワイパアーム52によってフロントガラス25上を左右(車両幅方向)往復動作させることで運転席21側からの視界を確保することが可能となっている。運転席21側に設けられた第1主ワイパ装置50Aと助士席22側に設けられた第2主ワイパ装置50Bはほぼ同じ構成であるが、第1主ワイパ装置50Aが補助ワイパ装置55と切り替え可能である点で、第2主ワイパ装置50Bと構成が異なる。
【0028】
運転席21側の第1ガラス25Aに備えられる第1主ワイパ装置50Aの拭き取り域である第1払拭範囲A1と運転士が運転席21に着座した場合に正面となる領域で重複するように、補助ワイパ装置55の拭き取り域である第2払拭範囲A2が設定され、補助ワイパ装置55は第1主ワイパ装置50Aと並べて配置される。補助ワイパ装置55は、第1主ワイパ装置50Aが故障した場合に使用する。その切り替え手順などは後述する。
【0029】
第1主ワイパ装置50Aと補助ワイパ装置55は、次のような構成になっている為に、切り替えが可能である。図4に、運転席側のワイパ装置を拡大する拡大断面図を示す。図4図2の一点鎖線部の拡大図にあたる。図5に、図4のDD断面にあたる主ワイパ装置の断面図を示す。図6に、図5のF矢視にあたる運転席側からの主ワイパ装置の機構部を図に示す。
【0030】
運転席21側に備えられる第1主ワイパ装置50Aのワイパアーム52は、図5に示す様に運転室20側に備えられた切替手段に相当する手動切替部65と、妻構体11を貫通して備えられる回動軸66を介して接続されている。手動切替部65に係合される回動軸66は、妻構体11を貫通して設けられ、図示しない軸受によって回動可能に支持されている。
【0031】
図6に示すように、手動切替部65とリンクロッド67で接続されるリンクプレート68は、回転軸69に軸支されている。そして、リンクプレート68は第1モータ60Aによって回動される。したがって、第1モータ60Aの回転によってリンクプレート68が回動し、リンクロッド67によって往復運動に変換されて手動切替部65に伝達され、手動切替部65と回動軸66で接続されるワイパアーム52を往復運動させる。つまり、第1モータ60Aの働きで、第1主ワイパ装置50Aが動作する構成となっている。一方で、補助ワイパ装置55は第2モータ60Bによって駆動され、同様のリンク機構により作動するが、通常運行時は後述する切替スイッチ72によって通電されないような回路となっている。
【0032】
第1主ワイパ装置50Aに備えられる手動切替部65には、図6に示すように回動軸66と連結してかつ手動部材に相当する延長桿70を差し込む差込口65Aがワイパアーム52と略平行となるように突設されている。差込口65Aは棒状の延長桿70の軸部を挿入できるように円筒形状に形成されており、手動切替部65に固定されているため、手動切替部65に延長桿70を差し込んで回動させることで、ワイパアーム52及びワイパブレード51の位置変更を行うことが可能である。
【0033】
延長桿70は、金属製軸の一端に握り把手を備えた器具であり、他端を手動切替部65の差込口65Aに挿入して用いる。通常運行時には使用しないので、取り外して後述する所定の保持金具13A上に保管しておく。図7に、主ワイパ装置の機構部のカバー部分を平面図に示す。前述した手動切替部65などは、通常時には操作する必要はないので、カバー12及び蓋体13によって覆われている。手動切替部65は、図2に示すように運転室20の運転席21側の妻構体11の内面に沿って設けられている。運転席21側には、図示しない運転台が設けられて速度メータなどの計器類や運転機器などが備えられている。手動切替部65は、第1ガラス25Aの下部に設けられており、着座した運転士から見て運転台の奥(第1ガラス25Aと運転台との間)に配置されることになる。
【0034】
こうした手動切替部65に、不用意にアクセス出来ないように設けられたのがカバー12及び蓋体13である。蓋体13には、保持金具13Aと把手14、及びツマミ収納15が設けられている。蓋体13は開閉可能に蝶番で保持されており、運転席21側に立った状態で向かって右側に開く構造となっている。蓋体13を開くことで、手動切替部65にアクセスが可能となる。
【0035】
閉じた状態の蓋体13の上面に2箇所設けられている保持金具13Aは、略U字形状で上方に開口しており、延長桿70の金属製軸部分を把持して固定できる構造となっている。この延長桿70が蓋体13に保持された状態で、蓋体13に備えられた把手14とツマミ収納15にはアクセス出来ないように配置されている。つまり把手14やツマミ収納15、そして、蓋体13の奥に配置される手動切替部65にアクセスするためには、延長桿70を取り外す必要がある。
【0036】
把手14は、不使用時は凹みに収まっており、使用時に把手14を指で摘まんで引き起こすことで把手として機能する。また、ツマミ収納15には、後述する抜き差し可能な切替スイッチ72を操作するのに必要となるツマミ71が収納されている。
【0037】
上記構成の鉄道車両10の第1主ワイパ装置50Aと補助ワイパ装置55の切替手順について、次に説明する。
【0038】
図8に、蓋体の周辺を模式的に斜視図に示す。図9に、延長桿を取り外した状態を模式的に斜視図に示す。図10に、延長桿を切替手段に接続した状態を模式的に斜視図に示す。図11に、延長桿を操作した状態を模式的に斜視図に示す。図12に、延長桿を切替手段に接続した状態で蓋体を閉じた様子を模式的に斜視図に示す。図13に、運転席の背面に設置された遮断機盤を斜視図に示す。図14に、遮断機盤に備えられた切替スイッチ付近の拡大斜視図を示す。(a)には、切替スイッチを切り替える前にカバーを閉めた様子を示し、(b)には、切替スイッチを切り替えた後にカバーを閉めた様子を示している。図15に、ワイパ装置切替手順のフローチャートを示す。
【0039】
主ワイパ装置50から補助ワイパ装置55への切替手順は、まず、S10で、ワイパ電源をOFFにする。切り替え作業中に主ワイパ装置50Aが動作することを防ぐ為である。そして、S11で、運転席21側の第1ガラス25Aの下部に設置されている延長桿70を蓋体13から取り外す。延長桿70は、前述した様に蓋体13に取り付けられた保持金具13Aに保持されている。延長桿70を取り外すことで、蓋体13に設けられた把手14及びツマミ収納15にアクセスが可能となり、蓋体13を開閉することができる。
【0040】
S12で、後述するツマミ71をツマミ収納15から取り出す。S13で、ツマミ収納15から取り出したツマミ71を、図13に示すように運転席21側の背面側に備えられる遮断器盤80(配電盤)の、切替スイッチ72の軸部に差し込む(切替スイッチ72はツマミ71を取り外し可能であり、ツマミ71が取り外された状態では操作ができない)。
【0041】
S14で、切替スイッチ72はツマミ71が差し込まれた状態で、主ワイパ装置50Aから補助ワイパ装置55へと切り替える。こうすることで、第1主ワイパ装置50Aの駆動に用いる第1モータ60Aへの通電をカットし、補助ワイパ装置55の駆動に用いる第2モータ60Bへの通電を行うように電気的に切り替えられる。
【0042】
S15で、蓋体13を開ける。蓋体13は、把手14を使って引き上げるようにして持ち上げる。蓋体13は図10に示すように90度以上開けることができるので、蓋体13は開けたままの姿勢で維持することができる。そうすると、蓋体13の下に収納されている手動切替部65にアクセス可能となり、手動切替部65に備えられる差込口65Aに延長桿70を差し込むことができる。
【0043】
S16で、延長桿70は図10に示すように右側にある位置から図11に示すように左側に倒し、ワイパアーム52を退避させる。延長桿70を差込口65Aに差し込んだ状態で、延長桿70を切込部材12Aの位置まで倒すことで手動切替部65を回転させてワイパアーム52を第1払拭範囲A1のうち補助ワイパ装置55の第2払拭範囲A2と重ならない位置まで移動させる(図3で示す退避位置A12)。S17で、蓋体13を閉める。蓋体13閉めることで、図12に示すように延長桿70が切込部材12Aから突出した形で蓋体13に邪魔される形で移動させることができなくなる。つまり蓋体13が延長桿70の動きを規制する。そして、S18でワイパ電源をONにする。
【0044】
図11の位置に延長桿70を移動させると、カバー12に設けられたゴム製シートのカバーが設けられた切込部分12Aに延長桿70の軸部が入り込みし、延長桿70がこの位置にある状態で、蓋体13を図9に示される様に閉じることができる。延長桿70がこの状態になっていれば、補助ワイパ装置55を動作させても第1主ワイパ装置50Aと干渉することはない。なお、場合によっては手動切替部65が、待避位置にある場合もあるが、このケースでも延長桿70を差し込んで、切込部分12Aに延長桿70の軸部を確実に移動させておく必要がある。
【0045】
カバー12の切込部分12Aを延長桿70の軸部が貫通した状態で蓋体13が延長桿70の動きを規制するので、手動切替部65が移動することはない。つまり、蓋体13を閉めることで、第1主ワイパ装置50Aのワイパブレード51が、第2払拭範囲A2に入ることを防ぐ効果が得られる。
【0046】
ここで、遮断機盤80について説明を行う。図15のS14で、切替スイッチ72によって主ワイパ装置50Aから補助ワイパ装置55への接続切り替えを行っているが。図13に示すように遮断機盤80には、カバー76が設けられ、その内側に切替スイッチ72が取り付けられている。切替スイッチ72は、ツマミ71を差し込んで取り付けることで操作可能な構成となっており、主ワイパ装置50A側への通電と補助ワイパ装置55側への通電を切り替えられる機能を備えている。このツマミ71を取り付けた切替スイッチ72に対して、カバー76の裏側に設けられた突起75は、ツマミ71に干渉する位置に配置されている。
【0047】
具体的には、図14(a)に示される様に、ツマミ71が取り付けられた切替スイッチ72が、運転士が遮断機盤80に向かった際に左側に倒されている状態、即ち主ワイパ装置50Aに通電する状態の場合には、カバー76を閉めようとすると突起75がツマミ71と干渉することでカバー76は完全に閉まらない、浮いた状態となる。一方、図14(b)に示される様に、ツマミ71が取り付けられた切替スイッチ72が、運転士が遮断機盤80に向かった際に右側に倒されている状態、即ち補助ワイパ装置55に通電する状態の場合には、ツマミ71と突起75は干渉しないので、カバー76は閉まる。カバー76の裏面に設けられる突起75はツマミ71の位置によっては干渉するように段付き構造になっていて、突起75の突出部がツマミ71と干渉することで、カバー76が閉まらないような構成になっている。
【0048】
本実施形態の鉄道車両10は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0049】
まず、本実施形態の鉄道車両は、補助ワイパ装置55を備えて、この補助ワイパ装置55を作動させる際に主ワイパ装置50の退避を忘れ、補助ワイパ装置55と主ワイパ装置50とが接触して損傷することを防ぐことが可能となる。これは、運転席のフロントガラス25に備えられた第1主ワイパ装置50Aと、第1主ワイパ装置50Aの拭き取り域(第1払拭範囲A1)と重複する拭き取り域(第2払拭範囲A2)を設定された補助ワイパ装置55とを有する鉄道車両10において、第1主ワイパ装置50Aと補助ワイパ装置55の作動を切り替える手動切替部65と、第1主ワイパ装置50Aのワイパ位置を手動で変更するのに用いる着脱可能な手動部材(延長桿70)と、を備え、延長桿70が、第1主ワイパ装置50Aと延長桿70を接続する接続部位へのアクセスを妨げる位置に、着脱自在に設置されているためである。
【0050】
つまり、図15に示すような手順で第1主ワイパ装置50Aから補助ワイパ装置55への切替が行われることで、第1主ワイパ装置50Aのワイパブレード51が、補助ワイパ装置55の第2拭取範囲A2に入ってしまうことを防ぐことが可能になる。そして、この操作手順が延長桿70の配置によって決定され、そのことがポカ避けとして機能することを意味する。つまり、延長桿70を最初に取り外さなければ、手動切替部65にアクセス出来ない構造となっていることが、第1主ワイパ装置50Aを退避させることを想起させ、第1主ワイパ装置50Aと補助ワイパ装置55の干渉することを防ぐという意味である。
【0051】
即ち、手動切替部65が蓋体13で覆われることで、誤って作動させることを防ぎ、蓋体13の上に延長桿70を保持してあり、また、蓋体13に、ツマミ収納15が設けられてツマミ71が収納されていることで、延長桿70を取り外さない限り、蓋体13を開閉できず、ツマミ収納15を開けることも出来ない。したがって、補助ワイパ装置55を動作させるためには、必ず延長桿70を手にしなければならず、ツマミ71で運転切り替えをするためにも、必ず延長桿70を手動切替部65に取り付けなければならない。つまり、このような収納構造を採用することで、第1主ワイパ装置50Aの退避を忘れて補助ワイパ装置55を動作させるリスクを減らすことが可能になる。
【0052】
また、遮断機盤80に備えられた切替スイッチ72と、そのカバー76の関係で、カバー76には突起75が設けられ、ツマミ71を切替スイッチ72に取り付けた状態で、カバー76が閉められた場合、図14(a)に示すように、切替スイッチ72が主ワイパ装置50Aに通電する状態の場合には、突起75とツマミ71が干渉して、カバー76がきっちり閉まらない構造にしてあることで、ポカ避けとして機能する。図14(b)に示すように、切替スイッチ72が補助ワイパ装置55に通電する状態にある場合には、突起75とツマミ71が干渉しないので、カバー76はきっちりと閉まる。つまり、ツマミ71を用いて切替スイッチ72を切り替える際に、切替スイッチ72で切り替え忘れた時には、カバー76がきっちり閉まらないことで、作業忘れを目視で把握できるため、切替スイッチ72による切り替え忘れを防止することに貢献できる。
【0053】
以上、本発明に係る鉄道車両10に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば鉄道車両10の構造は、単なる例示に過ぎず、先頭車両の形状を高速車両のような空力を考慮した形状にすることを妨げない。また、第2主ワイパ装置50B(助士席22側)にも補助ワイパ装置55を採用することを妨げない。
【符号の説明】
【0054】
10 鉄道車両
50 主ワイパ装置
51 ワイパブレード
70 延長桿
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15