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特開2024-60760Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060760
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20240425BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240425BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C22C9/04
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 692A
C22F1/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168247
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】片岡 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大石 恵一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 志信
(72)【発明者】
【氏名】大楽 寛太
(57)【要約】
【課題】鋳造欠陥が少なく、かつ、冷間加工性に優れたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を提供する。
【解決手段】CuとZnとSnを含むCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材であって、Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、残部がZn及び不純物からなり、ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuとZnとSnを含むCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材であって、
Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、残部がZn及び不純物からなり、
ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされていることを特徴とするCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項2】
引張強度が370N/mm以上、伸びが14%以上とされていることを特徴とする請求項1に記載のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項3】
550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度が420N/mm以上、伸びが22%以上、0.2%耐力が300N/mm以上350N/mm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項4】
ZrとPを含有するZr-P化合物の個数密度が50個/mm以上500個/mm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項5】
さらにAlを0.20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項6】
さらにSbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【請求項7】
上方引出連続鋳造線棒材であることを特徴とする請求項1又は請求項2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造されたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述のCu-Zn-Sn系合金は、各種部品の素材として広く使用されている。
例えば特許文献1には、Cu-Zn-Sn系合金からなる線材(Cu-Zn-Sn系合金線材)を用いた海水用網状構造物が開示されている。この海水用網状構造物は、例えば、魚類用の養殖網、発電設備や淡水化設備の海水取水口に設置される海水ストレーナ、船舶用エンジンの海水ストレーナ等、海水に浸漬又は接触した状態で使用される。
【0003】
このような海水用網状構造物においては、藻やフジツボ等の海洋生物が付着することがある。これらの海洋生物が付着した場合には、網目が目詰まりしてしまい、海水の流れが阻害されてしまい、海水用網状構造物としての所望の機能を確保できないおそれがあった。また、海水による腐食及び浸蝕により、早期に劣化するおそれがあった。
【0004】
ここで、上述のCu-Zn-Sn系合金線材においては、Cuイオンが海水中に溶出し、このCuイオンの作用により、海水用網状構造物に藻やフジツボ等の海洋生物が付着することが抑制される。また、周辺の海水域を滅菌、殺菌されることになる。
さらに、Snを含有していることから耐蝕性(耐海水性)に優れており、海水による腐食及び浸蝕を抑制することが可能となる。
よって、Cu-Zn-Sn系合金線材は、上述の海水用網状構造物を構成する素材として特に適している。
【0005】
ところで、金属の線材を製造する場合、通常、大型の鋳塊を熱間で押出加工又は圧延加工することにより棒材とし、この棒材に対して、抽伸加工等の塑性加工を行うことによって製造されている。しかし、押出加工又は圧延加工を行って棒材を製造する場合には、大型の鋳塊を製造する鋳造工程と、鋳塊を加熱する加熱工程と、加熱した鋳塊を押し出す押出工程又は圧延工程と、多くの工程を行う必要があり、多大な製造コスト及び製造時間を要するものであった。
【0006】
そこで、金属の線材を低コストで効率良く製造する方法として、例えば特許文献2に開示されているように、金属の溶湯が貯留された鋳造炉に鋳型を設置し、線棒状の鋳塊(続鋳造線棒材)を連続的に鋳造する連続鋳造法が提供されている。なお、上述の鋳型においては、通常、グラファイトのように自己潤滑性を有するモールドが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4814183号公報
【特許文献2】特開2010-201505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の続鋳造線棒材においては、鋳造組織が比較的粗大になり易く、押出材に比べて、強度や伸びといった機械的特性が低下してしまうおそれがあった。
また、続鋳造線棒材に粗大なデンドライトが存在した場合には、冷間加工性が大きく低下し、冷間加工を効率良く行うことができないおそれがあった。
さらに、Cu-Zn-Sn系合金の続鋳造線棒材においては、引け巣や深いオシレーションマークなどの鋳造欠陥が発生しやすく、安定して鋳造できないおそれがあった。
【0009】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、鋳造欠陥が少なく、かつ、冷間加工性に優れたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明の態様1のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材は、CuとZnとSnを含むCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材であって、Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、残部がZn及び不純物からなり、ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされていることを特徴としている。
【0011】
本発明の態様1のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内とされ、ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされているので、Zr-P化合物が分散されることになり、このZr-P化合物を接種核として初晶α相が発生することにより、凝固時において晶出するα相が微細なデンドライト化および粒状結晶化することになり、鋳造組織の結晶粒径を適度に微細化することが可能となる。これにより、強度および伸び等の機械的特性に優れたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材とすることができる。
また、Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内とされているので、Cuイオンによる海洋生物の付着防止効果や滅菌・殺菌効果を得ることができる。
さらに、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内とされているので、耐蝕性(耐海水性)を確保できるとともに、鋳造性の低下を抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の態様2は、態様1のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、引張強度が370N/mm以上、伸びが14%以上とされていることを特徴としている。
本発明の態様2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、引張強度および伸びが上述のように構成されているので、Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材としての機械的特性に十分に優れている。よって、その後の冷間加工を良好に行うことができる。
【0013】
本発明の態様3は、態様1または態様2のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度が420N/mm以上、伸びが22%以上、0.2%耐力が300N/mm以上350N/mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様3のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度、伸び、0.2%耐力が上述のように構成されているので、押出材を加工した場合と同様な機械的特性を有する加工材を得ることができる。
【0014】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つのCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、ZrとPを含有するZr-P化合物の個数密度が50個/mm以上500個/mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様4のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、Zr-P化合物の個数密度が50個/mm以上500個/mm以下の範囲内とされているので、鋳造組織の結晶粒径を確実に微細化することが可能となる。
【0015】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つのCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、さらにAlを0 .20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有することを特徴としている。
本発明の態様5のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、Alを0 .20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有しているので、強度および耐力をさらに向上させることができる。また、湯流れ性が改善され、鋳造をさらに良好に行うことができる。
【0016】
本発明の態様6は、態様1から態様5のいずれか一つのCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、さらにSbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有することを特徴としている。
本発明の態様6のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、Sbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有しているので、耐食性をさらに向上させることが強度および耐力を向上させることができるとともに、加工性を十分に確保することができる。
【0017】
本発明の態様7は、態様1から態様5のいずれか一つのCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、上方引出連続鋳造線棒材であることを特徴としている。
本発明の態様7のCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、上方引出連続鋳造線棒材とされているので、重力の影響を抑制することができ、引抜方向に直交する断面において均一で微細な鋳造組織を有するものとなり、加工性に特に優れている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋳造欠陥が少なく、かつ、冷間加工性に優れたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を製造する際に用いられる連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2】実施例における連続鋳造線棒材の断面マクロ組織である。
図3】実施例における連続鋳造線棒材のミクロ組織である。(a)が本発明例14、(b)が比較例11、(c)が比較例6である。
図4】実施例における連続鋳造線棒材のEPMA分析結果である。
図5】実施例におけるオシレーション深さの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材について説明する。
ここで、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、長手方向に直交する断面が、概略円形をなしており、その断面積が12mm以上227mm以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、後述するように、図1に示す上方引出式の連続鋳造装置によって製造された上方引出連続鋳造線棒材とされていることが好ましい。
【0021】
本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材は、Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、残部がZn及び不純物からなる組成とされている。
そして、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされている。
【0022】
なお、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、Cu,Zr,Snに加えて、Alを0.20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有していてもよい。
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、さらにSbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有していてもよい。
【0023】
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、ZrとPを含有するZr-P化合物の個数密度が50個/mm以上500個/mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
また、本実施形態においては、引張強度が370N/mm以上、伸びが14%以上とされていることが好ましい。
【0024】
さらに、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度が420N/mm以上、伸びが22%以上、0.2%耐力が300N/mm以上350N/mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0025】
以下に、組成、Zr-P化合物の個数密度、連続鋳造線棒材の機械的特性、連続鋳造線棒材に対して所定条件の加工を実施した加工材の機械的特性を、上述のように規定した理由について説明する。
【0026】
(Zr)
Zrは、Pと共添加することによって、ZrとPを含むZr-P化合物が生成することになる。このZr-P化合物粒子を接種核として、初晶α相が生成することにより、凝固時において晶出するα相が微細デンドライト化及び粒状結晶化することになる。
このように、α相が微細デンドライト化及び粒状結晶化することにより、連続鋳造線棒材の加工性が大幅に向上し、熱間加工、冷間加工時において、割れ等の欠陥が発生することを防止することができる。さらに、鋳造時の溶湯の流動性が向上し、大きな引け巣の発生が抑制され、鋳造時の歩留りを大幅に向上させることが可能となる。
ただし、Zrは、酸素との親和力が強いためにZr酸化物等が発生し易い。その結果、溶湯の粘性が高くなり、鋳造時の酸化物等の巻き込み欠陥が発生し易くなる。また、ブローホールやミクロポロシティが発生しやすくなる。また、Zrは、カーボン鋳型と反応しやすい元素であるため、多量に含有すると表面欠陥が発生しやすくなり、鋳造性が低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、Zrの含有量を0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内に設定している。
なお、Zr-P化合物を確実に生じさせるためには、Zrの含有量の下限を0.0200mass%以上とすることが好ましく、0.0380mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、Zr酸化物の発生を抑制するためには、Zrの含有量の上限を0.0840mass%以下とすることが好ましく、0.0680mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
(P)
Pは、上述のように、Zrと共添加することによって、ZrとPを含むZr-P化合物が生成することになり、このZr-P化合物粒子を接種核として初晶α相が生成することにより、微細デンドライト化及び粒状結晶化することが可能となる。
ただし、Pが多量に含有すると、鋳塊作成時に表面あるいは内部に割れが生じやすく、加工時に断線が生じやすくなる。また、Pは、カーボン鋳型と反応しやすい元素であるため、多量に含有すると表面欠陥が発生しやすくなり、鋳造性が低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、Pの含有量を0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内に設定している。
なお、Zr-P化合物を確実に生じさせるためには、Pの含有量の下限を0.0200mass%以上とすることが好ましく、0.0360mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、割れの発生を抑制するためには、Pの含有量の上限を0.0800mass%以下とすることが好ましく、0.0680mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
(Cu)
上述のように、Zr-P化合物粒子を接種核として初晶α相が生成することで、晶出するα相が微細デンドライト化及び粒状結晶化することになる。
ここで、Cuの含有量を62.0mass%以上とすることにより、初晶α相の領域となり易くなり、上述のZr,Pの作用効果によって微細デンドライト化及び粒状結晶化することが可能となる。
一方、Cuの含有量が70.0mass%を超えると、初晶α相(粒状結晶粒)同士の結合が行われ、結果的に、デンドライトアームが成長したものと同様になる。さらに、結晶粒の結合により、ブローホール、ひけ巣も多く且つ大きくなるといった鋳造面での問題もある。さらに、Cuの含有量が高くなることで強度も低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、Cuの含有量を62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内に設定している。
なお、初晶α相を確実に生じさせるためには、Cuの含有量の下限を64mass%以上とすることが好ましく、65mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、初晶α相(粒状結晶粒)同士の結合を抑制するためには、Cuの含有量の上限を68mass%以下とすることが好ましく、67mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
(Sn)
Snは、耐蝕性、耐潰蝕性、耐摩耗性及び強度を向上させる作用を有する元素である。
ただし、Snの含有量が多すぎると、凝固温度範囲が広がることになり、割れ、ひけ巣及びざく巣等の鋳造欠陥が発生し易くなる。また、鋳造時におけるSnの偏析が著しくなって、熱間での延性が乏しくなり、冷間での加工性の低下及び延性の低下を招くおそれがある。
一方、Cu,Zn等との配合割合にもよるが、母相(α相)よりSn濃度の高い硬質相であるγ相が顕著に生成することにより伸線時に破断し易くなる上、γ相の選択腐蝕が生じて、耐海水性を却って低下させるおそれがある。
そこで、本実施形態では、Snの含有量を0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内に設定している。
なお、耐蝕性、耐潰蝕性、耐摩耗性及び強度をさらに向上させるためには、Snの含有量の下限を0.60mass%以上とすることが好ましく、0.62mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、鋳造性、熱間加工性、冷間加工性をさらに向上させるためには、Snの含有量の上限を0.68mass%以下とすることが好ましく、0.66mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
(Zr/P)
Zr及びPは、銅合金結晶粒の微細デンドライト化を目的として共添加する。Zr及びPは、単独では、他の一般的な添加元素と同様、銅合金結晶粒の微細化を僅かに図ることができるにすぎないが、ZrとPを適切な範囲にして共存状態にすることで微細デンドライト化を有効に発揮するものである。しかしながら、Pに対するZrの比率が小さい場合には、微細デンドライト化が得られにくい。
そこで、本実施形態では、ZrとPの質量比Zr/Pを0.3以上に設定している。
なお、ZrとPの質量比Zr/Pの下限は、0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがさらに好ましい。一方、質量比Zr/Pの上限は、4以下であることが好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(Al)
Alは、マトリックスを強化することにより、強度と耐力を向上させる作用を有する元素である。また、湯流れ性を向上させる作用を有する。一方、Alを多く含有すると伸びが低下するおそれがある。
このため、本実施形態において、強度、耐力、湯流れ性を向上させるために、Alを0.20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有してもよい。
なお、Alの含有量の下限は0.30mass%以上とすることがさらに好ましく、0.40mass%以上とすることがより好ましい。一方、Alの含有量の上限は0.70mass%以下とすることがさらに好ましく、0.60mass%以下とすることがより好ましい。
【0032】
(Sb)
Sbは、耐食性を向上させる作用を有する元素である。一方、Sbを多く含有すると加工性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態において、耐食性を向上させるために、Sbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有してもよい。
なお、Sbの含有量の下限は0.027mass%以上とすることがさらに好ましく、0.034mass%以上とすることがより好ましい。一方、Sbの含有量の上限は0.054mass%以下とすることがさらに好ましく、0.047mass%以下とすることがより好ましい。
【0033】
(Zr-P化合物の個数密度)
上述のように、Zr-P化合物を接種核として初晶α相が発生することにより、凝固時において晶出するα相が微細デンドライト化及び粒状結晶化することになる。
ただし、Zr-P化合物が多過ぎると、初晶α相(粒状結晶粒)同士の結合が行われ、結果的に、デンドライトアームが成長した粗大デンドライトと同様になる。また、初晶α相同士が結合しない場合には、結晶粒が微細になりすぎて伸びが低下してしまうおそれがあった。
そこで、本実施形態では、Zr-P化合物の個数密度を50個/mm以上500個/mm以下の範囲内に設定している。
なお、微細デンドライト化及び粒状結晶化の効果を確実に奏功せしめるためには、Zr-P化合物の個数密度の下限を60個/mm以上とすることが好ましく、90個/mm以上とすることがさらに好ましい。一方、初晶α相(粒状結晶粒)同士の結合をさらに抑制するためには、Zr-P化合物の個数密度の上限を400個/mm以下とすることが好ましく、300個/mm以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
(引張強度及び伸び)
Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、冷間抽伸性は、強度と伸びのバランスが重要である。
このため、本実施形態において、引張強度を370N/mm以上とし、伸びを14%以上とすることが好ましい。
なお、引張強度の下限は380N/mm以上とすることがさらに好ましく、390N/mm以上とすることがより好ましい。一方、引張強度の上限は420N/mm以下とすることが好ましく、410N/mm以下とすることがさらに好ましい。
また、伸びの下限は16%以上とすることがさらに好ましく、18%以上とすることがより好ましい。一方、伸びの上限は29%以下とすることが好ましく、27%以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
(加工材の機械的特性)
Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、所定の線径に加工された線材(加工材)に対して曲げ加工等を施すことにより、例えば海水用網状構造物を構成することになる。このため、Cu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材においては、所定の条件で加工した後の加工材の機械的特性が特に重要である。
そこで、本実施形態においては、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度を420N/mm以上、伸びを22%以上、0.2%耐力を300N/mm以上350N/mm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
なお、上述の加工材の引張強度の下限は430N/mm以上とすることが好ましく、435N/mm以上とすることがさらに好ましい。一方、上述の加工材の引張強度の上限は460N/mm以下とすることが好ましく、450N/mm以下とすることがさらに好ましい。
上述の加工材の伸びの下限は26%以上とすることがさらに好ましく、30%以上とすることがより好ましい。一方、上述の加工材の伸びの上限は41%以下とすることが好ましく、37%以下とすることがさらに好ましい。
上述の加工材の0.2%耐力の下限は310N/mm以上とすることが好ましく、315N/mm以上とすることがさらに好ましい。一方、上述の加工材の0.2%耐力の上限は340N/mm以下とすることが好ましく、330N/mm以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
次に、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を製造する際に用いられる上方引出式の連続鋳造装置10について図1を参照して説明する。
この連続鋳造装置10は、鋳造炉11と、鋳造炉11に連結された連続鋳造用鋳型20と、連続鋳造用鋳型20から製出された鋳造線材1を引き抜くピンチロール17と、を備えている。
【0038】
鋳造炉11は、溶解原料を加熱溶解して所定の組成の銅溶湯を製出して保持するものであり、溶解原料及び銅溶湯が保持される坩堝12と、この坩堝12を加熱する加熱手段(図示なし)と、を備えている。
ピンチロール17は、連続鋳造用鋳型20から製出される鋳造線材1を挟み込み、引抜方向Fへ引き抜くものである。本実施形態では、鋳造線材1を間欠的に引き抜く構成とされている。
【0039】
連続鋳造用鋳型20は、供給された銅溶湯が注入される筒状のモールド21と、モールド21を冷却する冷却部28と、を備えている。
ここで、本実施形態では、図1に示すように、連続鋳造用鋳型20は、鋳造炉11内の銅溶湯上に耐火断熱材15を介して配置されており、鋳造線材1を上方へ引き抜く構成としている。
【0040】
モールド21は、概略筒状をなしており、一方側から他方側に向けて貫通する鋳造孔24が設けられている。
冷却部28は、モールド21の外周側に配設された水冷ジャケットとされており、冷却水を循環させることでモールド21を冷却する構成とされている。
【0041】
次に、上述した連続鋳造装置10を用いて本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を製造する方法について説明する。
まず、鋳造炉11の原料投入口から坩堝12内に溶解原料を投入する。原料としては、Cu単体、Zn単体およびSn単体やCu-Zn母合金およびCu-Sn母合金等を用いることができる。また、ZnおよびSnを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
【0042】
次に、加熱手段によって坩堝12内に装入された溶解原料を加熱して溶解し、上述した成分組成に調製された銅溶湯を製出する。
この銅溶湯は、坩堝12内において所定の鋳造温度にまで加熱されて保持される。そして、この銅溶湯が、連続鋳造用鋳型20へと供給される。
【0043】
連続鋳造用鋳型20内に供給された銅溶湯は、モールド21内で冷却されて凝固して鋳造線材1となる。この鋳造線材1がピンチロール17で間欠的に引き抜かれることによって、鋳造線材1が連続的に製造される。
【0044】
ここで、鋳造温度が低い場合には、溶湯の流動性低下により湯回り不良が発生し、深いオシレーションマークや内部欠陥、変質層が形成される。一方、鋳造温度が高い場合には、鋳型への焼き付きが発生するおそれがある。
そこで、本実施形態では、鋳造温度を980℃以上1100℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0045】
また、鋳造速度が遅く、凝固時の冷却速度が小さい場合には、Zr-P化合物粒子を接種核とした場合においても、結晶成長或いは結晶粒の合体が促進されるため、結晶粒を十分に微細化することができないおそれがある。一方、鋳造速度が速い場合には、引抜の際の溶湯供給が不十分となり、深いオシレーションマークや内部欠陥、変質層が形成されるおそれがある。また、引抜時の鋳型と凝固シェルの摩擦力も大きくなり、引抜時に凝固シェルが破断し、オシレーションマークが深く形成されるおそれがある。
そこで、本実施形態では、鋳造速度を0.8m/min以上3.3m/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
また、鋳造時における冷却速度が遅い場合には、過冷度が低くなり、一部のZr-P化合物しか接種核として作用せず、微細化効果が不十分となる。また、結晶粒成長または結晶粒の合体が促進されるため、微細化し難くなるおそれがある。一方、鋳造時における冷却速度が速い場合は、Zr-P化合物が接種核として作用するよりも前に、溶湯温度が低下して凝固してしまうため、微細化効果が得られないおそれがある。
そこで、本実施形態では、鋳造時における冷却速度を22℃/sec以上75℃/sec以下の範囲内とすることが好ましい。
【0047】
また、連続鋳造線棒材の断面積が小さい場合には、鋳造中の冷却速度が速くなり、十分な微細化効果が得られないおそれがある。一方、連続鋳造線棒材の断面積が大きい場合には、鋳造中の冷却速度が遅くなり、十分な微細化効果が得られないおそれがある。また、十分な凝固シェル強度が得られず、鋳造中にかかる引抜応力によりオシレーションマークが大きくなったり、破断し易くなったりするおそれがある。
そこで、本実施形態では、連続鋳造線棒材の断面積を28mm以上226mm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材によれば、Zrの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内、Pの含有量が0.0050mass%以上0.1000mass%以下の範囲内とされ、ZrとPの質量比Zr/Pが0.3以上とされているので、Zr-P化合物が十分に分散されることになり、凝固時において晶出するα相が微細なデンドライト化および粒状結晶化し、鋳造組織の結晶粒径を適度に微細化することが可能となる。よって、機械的特性および加工性に優れており、海水用網状構造物等を構成するCu-Zn-Sn系合金線材の素材として特に適している。
【0049】
また、Cuの含有量が62.0mass%以上70.0mass%以下の範囲内とされているので、Cuイオンによる海洋生物の付着防止効果や滅菌・殺菌効果を得ることができる。
さらに、Snの含有量が0.3mass%以上0.9mass%以下の範囲内とされているので、耐蝕性(耐海水性)を確保できるとともに、鋳造性の低下を抑制することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、ZrとPを含有するZr-P化合物の個数密度が50個/mm以上500個/mm以下の範囲内とされている場合には、鋳造組織の結晶粒径を確実に微細化することができ、機械的特性および加工性をさらに向上させることが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、引張強度が370N/mm以上、伸びが14%以上とされている場合には、機械的特性に十分に優れており、その後の冷間加工を良好に行うことができる。よって、海水用網状構造物等を構成するCu-Zn-Sn系合金線材の素材として特に適している。
【0052】
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施後の加工材における引張強度が420N/mm以上、伸びが22%以上、0.2%耐力が300N/mm以上350N/mm以下の範囲内とされている場合には、機械的特性に優れた加工材(線材)を得ることができる。
【0053】
さらに、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、さらにAlを0 .20mass%以上0.80mass%以下の範囲内で含有する場合には、強度および耐力をさらに向上させることができる。また、湯流れ性が改善され、鋳造をさらに良好に行うことができる。
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、Sbを0.02mass%以上0.06mass%以下の範囲内で含有している場合には、耐食性をさらに向上させることができるとともに、加工性を十分に確保することができる。
【0054】
また、本実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材において、上方引出式の連続鋳造装置によって製造された上方引出連続鋳造線棒材である場合には、重力の影響を抑制することができ、引抜方向に直交する断面において均一で微細な鋳造組織を有するものとなり、加工性に特に優れている。
【0055】
以上、本発明の実施形態であるCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示す上方引出式の連続鋳造装置を用いて製造された上方引出連続鋳造線棒材として説明したが、これに限定されず、水平方向に連続鋳造線棒材を引き出す水平引出式の連続鋳造装置で製造したものであってもよい。
【0056】
また、本実施形態では、断面円形で断面積が12mm以上227mm以下の範囲内の連続鋳造線棒材を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、断面多角形の連続鋳造線棒材であってもよいし、断面が管状をなす連続鋳造線棒材であってもよい。また、断面が凸部及び凹部を有する異形状の連続鋳造線棒材であってもよい。また、その長手方向に直交する断面の断面積についても特に制限はない。
【実施例0057】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
表1,2に示す組成となるように、溶解原料を調製した。調製された溶解原料を、図1に示す鋳造炉11の坩堝内12に500kg装入して、加熱手段で加熱することにより溶解した。
【0058】
鋳型として、外径6mm(引抜方向に直交する断面の断面積28.26mm)の断面円形の鋳造線棒材を製造するものを準備した。
そして、表3,4に示す鋳造条件によって、鋳造線棒材の引き抜きを行って300kgの鋳造を行った。
【0059】
得られた鋳造線材を、引抜方向に平行に中心線に沿って切断し、オシレーション、内部欠陥観察用のミクロ組織観察用試料、EPMA測定用試料を作成した。また、引抜方向に直交する方向に切断し、ミクロ組織観察用試料とした。
上述の各種試料を、♯240、400、800、1500の順にエメリー研磨を圧力100N、速度100r/minで1000sずつ行った。次に、粒子9μm、3μm、1μmの順にバフ研磨を圧力30N、速度100r/minで1000sずつ行った。
その後、30~40℃のエッチング液(過酸化水素水とアンモニア水の混合液)に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った。次に、常温の水に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った後、乾燥させた。
【0060】
(引抜方向に直交する断面のミクロ組織)
鋳造線棒材の引抜方向に直交する断面を光学顕微鏡により観察した。鋳造線棒材の前記断面の全体のミクロ組織観察結果の一例を図2に示す。また、高倍率で観察したミクロ組織観察結果の一例を図3に示す。
図2(b)に示すように、比較例11においては、外周側部分の結晶粒が微細化されているが、中心部においては結晶が粗大化しており、結晶粒の大きなが不均一であった。
これに対して、本発明例14においては、図2(a)に示すように、断面の全面において、結晶粒が微細化されていることが確認される。
【0061】
また、図3(b)に示すように、ZrおよびPの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例11においては、結晶粒が粗大化していることが確認される。図3(c)に示すように、ZrおよびPの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例6においては、結晶粒が必要以上に微細化していることが確認される。
これに対して、本発明例14においては、図3(a)に示すように、結晶粒が適度に微細化されていることが確認される。
【0062】
(Zr-P化合物)
そして、上述のようにして得られたEPMA測定用試料を用いてEPMA測定し、Zr-P化合物の分散状況を確認した。観察視野は69μm×49μmとし、EPMA測定用試料のほぼ中心位置で1回測定した。なお、EPMA測定の各種条件は、以下のように設定した。
加速電圧:15kV
照射電流:3.016×10-8
ビーム形状:SPOT
ビーム径:0μm
時間:10ms
Zr及びPがそれぞれレベル3以上の検出強度を有し、サイズが直径1μmの粒状のものをZr-P化合物と認定した。図4に、EPMA測定結果の一例を示す。Zr及びPが重複して存在している領域がZr-P化合物である。
【0063】
(オシレーション深さ)
得られた鋳造線材を、引抜方向に平行に中心線に沿って10mmに切断。♯240、400、800、1500の順にエメリー研磨を圧力100N、速度100r/minで1000sずつ行った。次に、粒子9μm、3μm、1μmの順にバフ研磨を圧力30N、速度100r/minで1000sずつ行った。
その後、30~40℃のエッチング液(過酸化水素水とアンモニア水の混合液)に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った。次に、常温の水に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った後、乾燥させた。
光学顕微鏡にて、倍率100倍で組織観察を実施した。観察結果の一例を図5に示す。図5に示すように、鋳造線試料の表層端部から中心部側にかけて、連続した凹みや亀裂をオシレーションマークと定義し、表層端部にあるオシレーションマークの開始位置を0mm位置とし、その0mm位置から、中心部側にあるオシレーションマークの終了位置と交わるように引抜方向に直交するラインを引く。そのライン長さをオシレーションマーク深さと定義した。
オシレーション深さが0.05mm未満を「A」、オシレーション深さが0.05mm以上0.1mm未満を「B」、オシレーション深さが0.1mm以上を「C」と評価した。
【0064】
(内部欠陥)
得られた鋳造線材を、引抜方向に平行に中心線に沿って100mmに切断。10mmずつの10等分にして、♯240、400、800、1500の順にエメリー研磨を圧力100N、速度100r/minで1000sずつ行った。次に、粒子9μm、3μm、1μmの順にバフ研磨を圧力30N、速度100r/minで1000sずつ行った。
その後、30~40℃のエッチング液(過酸化水素水とアンモニア水の混合液)に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った。次に、常温の水に浸漬し、30~60sの超音波洗浄を行った後、乾燥させた。
光学顕微鏡にて、倍率100倍で組織観察を実施し、深さ20μm以上位置における円形または楕円形の孔や亀裂状のものを内部欠陥とした。
内部欠陥が観察されなかったものを「〇」、内部欠陥が観察されたものを「×」と評価した。
【0065】
(鋳造線棒材の機械特性)
得られた鋳造線材を長さ150mmに切断し、引張試験機AG-100kNXを用いて、つかみ間距離70mm、標点間距離50mm、引張速度15MPa/secの条件で引張試験を行い、引張強度、0.2%耐力、伸びを評価した。評価結果を表5,6に示す。
【0066】
(加工材の機械特性)
得られた鋳造線材を皮剥ぎし、550℃で2時間保持後に空冷する第1熱処理、加工率41%の第1冷間加工、550℃で2時間保持後に空冷する第2熱処理、加工率41%の第2冷間加工、450℃で2時間保持後に空冷する第3熱処理、加工率11%の第3冷間加工を実施した。
得られた加工材を長さ150mmに切断し、上述の条件で引張試験を行い、引張強度、0.2%耐力、伸びを評価した。評価結果を表5,6に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
比較例1においては、Cuの含有量が60.3mass%と本発明の範囲よりも少なく、初晶α相の領域から外れ、Zr,Pの作用効果によって微細デンドライト化及び粒状結晶化することができず、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。
比較例2においては、Cuの含有量が72.4mass%と本発明の範囲よりも多く、ブローホール等の内部欠陥が発生するとともに、オシレーション深さが深く、鋳造線棒材の内部品質及び表面品質が低くなった。また、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。
【0074】
比較例3においては、Snの含有量が0.21mass%と本発明の範囲よりも少なく、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。
比較例4においては、Snの含有量が1.36mass%と本発明の範囲よりも多く、鋳造欠陥が発生し、鋳造線棒材の内部品質及び表面品質が低くなった。また、鋳造線棒材および加工材における伸びが低くなった。
【0075】
比較例5においては、Zrの含有量が0.0037mass%と本発明の範囲よりも少なく、ZrとPの質量比Zr/Pが0.25と本発明の範囲外となっており、加工材における強度が低くなった。
比較例6においては、Zrの含有量が0.1230mass%と本発明の範囲よりも多く、オシレーション深さが深くなり、鋳造線棒材の表面品質が低くなった。
【0076】
比較例7においては、Pの含有量が0.0037mass%と本発明の範囲よりも少なく、オシレーション深さが深くなり、鋳造線棒材の表面品質が低くなった。また、加工材における強度が低くなった。
比較例8においては、Pの含有量が0.1740mass%と本発明の範囲よりも多く、鋳造欠陥が発生し、鋳造線棒材の内部品質及び表面品質が低くなった。また、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力、伸びが低くなった。
【0077】
比較例9おいては、ZrとPの質量比Zr/Pが0.18と本発明の範囲外となっており、加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。また、鋳造線棒材の内部品質及び表面品質が低くなった。
比較例10においては、Zrの含有量が0.4410mass%と本発明の範囲よりも多く、かつ、Pの含有量が0.2020mass%と本発明の範囲よりも多く、鋳造欠陥が発生し、鋳造線棒材の内部品質及び表面品質が低くなった。また、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。
比較例11においては、Zr,Pを含有しておらず、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力が低くなった。
【0078】
これに対して、本発明の範囲内の組成とされた本発明例1~18においては、鋳造線棒材における内部欠陥の発生が抑制されており、鋳造線棒材および加工材における強度、0.2%耐力、伸びに優れていた。
なお、本発明例2,7-13,15においては、オシレーション深さが若干深くなったが、皮剥ぎにより除去可能であり、加工材の製造には問題はなかった。
【0079】
以上の確認実験の結果、本発明例によれば、鋳造欠陥が少なく、かつ、冷間加工性に優れたCu-Zn-Sn系合金の連続鋳造線棒材を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5