(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060832
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】プラスチックレンズ用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240425BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240425BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240425BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240425BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C08K3/22
C08L29/04
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168376
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優治
【テーマコード(参考)】
3C158
4J002
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB03
3C158ED12
3C158ED22
3C158ED26
4J002AB012
4J002AB032
4J002BE021
4J002DD047
4J002DE146
4J002DE147
4J002DF037
4J002DG047
4J002DH057
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002GT00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】チオウレタン樹脂等のプラスチックレンズ用基材の研磨に対して高い研磨効率を発揮可能なプラスチックレンズ用研磨剤組成物の提供を課題とする。
【解決手段】プラスチックレンズ用研磨剤組成物は、アルミナと、ポリビニルアルコールと、水とを含有し、ポリビニルアルコールのケン化度は、40~98mol%であり、ポリビニルアルコールの重合度は、50~1000である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナと、
ポリビニルアルコールと、
水と
を含有し、
前記ポリビニルアルコールのケン化度は、
40~98mol%であり、
前記ポリビニルアルコールの重合度は、
50~1000であるプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記重合度は、
50~500である請求項1に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記ケン化度は、
40~70mol%である請求項1または2に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【請求項4】
分散剤を更に含有する請求項1に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【請求項5】
pH値(25℃)は、
1.0~10.0である請求項1に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ用研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズとして、ガラスレンズの代わりに樹脂素材を用いたプラスチックレンズが多用されている。その理由としては、プラスチックレンズがガラスレンズに比べて軽量であり、割れにくく、かつ、加工成形がし易いこと等の利点があることに起因している。このプラスチックレンズは光学分野で幅広く利用されているが、上記の利点があることから、眼鏡用レンズとして特に使用されている。
【0003】
プラスチックレンズ用基材としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、及びチオウレタン樹脂等が挙げられる。アクリル樹脂(PMMA)は、透明性や耐候性に優れ、機械的強度が良好で表面硬度が高いことから有機ガラスとも呼ばれ、ガラスよりも光を透過し、屈折率が低いため、光学レンズ素材として広く使用されている。しかしながら、吸水性が高く、吸水により屈折率が変化し、耐熱性が低いという欠点を有している。
【0004】
更に、ポリカーボネートは、高い耐衝撃性を持つエンジニアリングプラスチックの一種であり、ガラスと同程度の透明性で、アクリル樹脂の次に高い透明性を持っている。また、ポリカーボネートは、寸法安定性に優れるが、複屈折が大きいという欠点を有している。例えば、CR-39(登録商標)(ピッツバーグ・プレート・ガラスカンパニー(PPG Industries)製)としてポリカーボネート系アリルジグリコール炭酸塩ポリマーが知られている。
【0005】
シクロオレフィンポリマーは、環状オレフィンポリマーであり、モノマーのシクロペンタジエンを開環重合させ、水素添加で安定させて得られるポリマーであり、アクリル樹脂と同等の透明性を持ち、吸水性はプラスチックの中でも最小レベルである。高湿度下でも寸法安定性に優れ、成形品の反りや変形がほとんどないため、精密成形に適している。
【0006】
シクロオレフィンコポリマーは、環状オレフィンコポリマーで、2つのモノマーであるノルボルネンとエチレンユニットを付加重合させたポリマーであり、高剛性と、高透明性(アクリル樹脂と同等の透明性)、高光学性(高透明性、低複屈折)であり、光学部品として優れた特性を有している。
【0007】
チオウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリチオール組成物とを反応させることにより得られるポリマーであり、屈折率が高く、耐衝撃性も優れていることから高屈折率プラスチックレンズ用として幅広く使用されている。例えば、MR-10(登録商標)(三井化学株式会社製)等が知られている。
【0008】
これらのプラスチックレンズ用基材の研磨に使用するための様々なプラスチックレンズ用研磨剤組成物が当業者において従来から周知となっている。これらの周知のプラスチックレンズ用研磨剤組成物は、水及び/または他の液体中に分散した研磨粒子から一般的に構成されている。このような研磨粒子としては、例えば、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、二酸化珪素、及び酸化チタンが知られている。
【0009】
ここで、酸化アルミニウムスラリーは、上述のプラスチックレンズ用基材を研磨するプラスチックレンズ用研磨剤組成物として使用されている。単に水に分散された酸化アルミニウム研磨粒子からなるプラスチックレンズ用研磨剤組成物の場合、プラスチックレンズ用基材の研磨に使用すると、許容可能な表面品質を提示する一方で、許容できない低い研磨効率を示すことがある。このようなスラリー組成物は、かなり大きい酸化アルミニウム粒子を用いることによって研磨効率を改善することが可能であるものの、許容することができない表面品質、すなわち、かすり傷、くぼみ傷、オレンジの皮状の凹凸(みかん肌、orange peel)、或いは同様の欠陥をもたらすことになる。
【0010】
例えば、特許文献1(米国特許第4225349号明細書)には、脱イオン水に分散された、か焼アルミナ(酸化アルミニウム粒子)及び硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩研磨促進剤からなるプラスチックレンズ用研磨剤組成物が、表面品質を損なうことなくCR-39基材材料の研磨を促進することが示されている。
【0011】
一方、特許文献2(特表2008-537704号公報)には、ピロリドン化合物、或いはポリビニルカプロラクタム等を添加したアルミナ系研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨効率が得られるとの提案がなされているが、依然として十分な研磨効率には到達していない。
【0012】
更に、特許文献3(特表2018-533071号公報)には、いくつかの第三級アミド含有化合物を添加したアルミナ系研磨剤組成物を用いることにより、高い研磨効率が得られるとの提案がなされているが、同様に十分な研磨効率には到達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4225349号明細書
【特許文献2】特表2008-537704号公報
【特許文献3】特表2018-533071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特に、高い屈折率を有するチオウレタン樹脂等のプラスチックレンズ用基材(例えば、MR-10等)であっても同様に高い研磨効率を有するプラスチックレンズ用研磨剤組成物の開発が期待されていた。
【0015】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、チオウレタン樹脂等のプラスチックレンズ用基材の研磨に対して高い研磨効率を発揮可能なプラスチックレンズ用研磨剤組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本願発明者は鋭意検討した結果、以下のプラスチックレンズ用研磨剤組成物を用いることにより、特に高屈折率のプラスチック用レンズ基材に対し、高い研磨効率を有し、かつ、光沢のある表面形状を得ることが可能なことを見出した。
【0017】
[1] アルミナと、ポリビニルアルコールと、水とを含有し、前記ポリビニルアルコールのケン化度は、40~98mol%であり、前記ポリビニルアルコールの重合度は、50~1000であるプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【0018】
[2] 前記重合度は、50~500である前記[1]に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【0019】
[3] 前記ケン化度は、40~70mol%である前記[1]または[2]に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【0020】
[4] 分散剤を更に含有する前記[1]に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【0021】
[5] pH値(25℃)は、1.0~10.0である前記[1]に記載のプラスチックレンズ用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプラスチックレンズ用研磨剤組成物は、アルミナとポリビニルアルコールと水を含有し、特にポリビニルアルコールのケン化度が40~98mol%、及び、ポリビニルアルコールの重合度が50~1000であることを特徴とするものであり、プラスチックレンズ用基材の研磨に用いることにより、研磨速度を向上させ、高い研磨効率を達成可能であり、かつ、研磨後のプラスチックレンズを光沢表面に仕上げることができる優れた作用効果を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
1.プラスチックレンズ用研磨剤組成物
本発明のプラスチックレンズ用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物と称す。)は、アルミナとポリビニルアルコールと水とを含有することを特徴とする。更に、好ましくは分散剤を含有するものであっても構わない。以下本発明の一実施形態の研磨剤組成物の各構成について詳述する。
【0025】
1.1 アルミナ
本実施形態の研磨剤組成物で使用されるアルミナは、α―アルミナ、中間アルミナ、及び、α―アルミナと中間アルミナとの混合物のいずれかを用いるものであってもよい。また、中間アルミナとしては、例えば、γ―アルミナ、δ―アルミナ、及びθ―アルミナ等を示すことができる。
【0026】
特に、プラスチックレンズ用基材の研磨において、研磨速度を可能な限り早くする観点から、α-アルミナを好適に使用することができる。
【0027】
本実施形態の研磨剤組成物に使用されるアルミナを製造する際の原料としては、ギブサイト:Al2O3・3H2O、ベーマイト:Al2O3・H2O、擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)等を列挙することができる。更に、これらのアルミナ原料は、例えば以下のような方法で調製することができる。
【0028】
・ギブサイト:Al2O3・3H2O
ボーキサイトを水酸化ナトリウムの熱溶液で溶解し、不純分をろ過により除去して得られた溶液を冷却し、その結果得られた沈殿物を乾燥することにより得ることができる。
【0029】
・ベーマイト:Al2O3・H2O
金属アルミニウムとアルコールとの反応により得られるアルミニウムアルコキシド:Al(OR)3を加水分解することにより得ることができる。
【0030】
・擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)
ギブサイトをアルカリ性雰囲気下、水蒸気で処理して得ることができる。
【0031】
更に、上述したアルミナ原料を焼成等することにより、α―アルミナ、或いはγ―アルミナ、δ―アルミナ、θ―アルミナ等の中間アルミナを得ることができる。
【0032】
ここで、使用するアルミナの平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1~10.0μmであり、より好ましくは0.1~5.0μm、更に好ましくは0.2~2.0μmである。
【0033】
また、本実施形態の研磨剤組成物中のアルミナの濃度は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~45質量%、更に好ましくは3~40質量%である。アルミナの濃度が1質量%よりも少ないと十分な研磨速度が得られず、一方、アルミナの濃度が50質量%より多い場合はそれ以上の研磨速度の向上が認められず、経済的な点を考慮すると適切ではない。
【0034】
1.2 ポリビニルアルコール
本実施形態の研磨剤組成物に使用されるポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化することによって得ることができる。また、ポリ酢酸ビニルは、一般にメタノール或いはエタノール等のアルコール類を溶媒とする溶液重合によって得ることができる。更に、酢酸ビニルモノマーの反応槽への仕込みは、分割仕込み、連続仕込み、及び一括仕込み等の仕込み方法で実施することができる。
【0035】
また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、及び過酸化ラウロイル等のラジカル開始剤を用いて行われる。重合反応における反応温度は、50℃~沸点程度の範囲から選択することが可能であり、重合反応によって合成されたポリ酢酸ビニルの重合度は、通常5000程度である。ここで、重合度とは、ポリ酢酸ビニルを構成する酢酸ビニル単位の繰り返し回数を示すものである。
【0036】
上記方法により合成されたポリ酢酸ビニルを、メタノール等のアルコール中で水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を用いてケン化することにより、ポリビニルアルコールを得ることができる。このとき、ケン化の反応温度は、通常10~70℃、好ましくは30~40℃であり、反応時間は2~3時間程度である。
【0037】
なお、市販等されているポリビニルアルコールの汎用品の重合度は、1000~5000程度であり、ケン化度は70~98mol%程度である。ここで、ケン化度とは、ポリビニルアルコールを構成するモノマー単位の中で、側鎖に水酸基を有するモノマー単位の割合をmol%で表したものである。上記のように合成された汎用品のポリビニルアルコールがフィルム、繊維、成形品、乳化分散剤、熱可塑性樹脂の改質剤、接着剤等の多様な用途に使用されている。
【0038】
ここで、本実施形態の研磨剤組成物において使用されるポリビニルアルコールは、ケン化度が40~98mol%、重合度が50~1000であり、好ましくはケン化度が40~70mol%であり、重合度が50~500であり、より好ましくは重合度が50~300であり、更に好ましくは重合度が50~200のものである。
【0039】
ケン化度が40mol%未満では、ポリビニルアルコールが研磨剤組成物中で析出するおそれがある。このようにポリビニルアルコールが析出した状態の研磨剤組成物を用いてプラスチックレンズの研磨を行った場合、プラスチックレンズにポリビニルアルコールが付着し、その除去に手間がかかるため作業効率が低下するおそれがある。一方、重合度が1000を超えると、研磨速度の向上効果を認めにくくなる。
【0040】
研磨剤組成物中のポリビニルアルコールの含有量は、好ましくは0.01~10.00質量%であり、更に好ましくは0.02~5.00質量%である。ポリビニルアルコールの含有量が0.01質量%未満では、研磨効果を十分に発揮できないおそれがある。一方、含有量が10質量%を超えると、研磨処理後のプラスチックレンズにポリビニルアルコールが残存しやすくなり、その後の洗浄工程に多くの時間を要することとなり、作業効率が低下し経済的な損失が大きくなる可能性がある。
【0041】
1.3 分散剤
本発明の研磨剤組成物に、必要に応じて分散剤を配合することができる。分散剤としては、アルミナゾル、セルロース類、及び縮合リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0042】
研磨剤組成物中のアルミナ粒子が、経時や静置で沈降することを防止する必要があるため、また、研磨剤組成物の取り扱いの面から、長期保存中にアルミナ粒子が沈降した場合であっても、簡単にアルミナ粒子が再分散されることが望ましい。このため、研磨剤組成物に分散剤を配合することが行われる。
【0043】
アルミナゾルとは、水酸化アルミニウムまたは水和アルミナを水溶液中にコロイド状に分散させたものである。水和アルミナには、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、ギブサイト、及びバイヤライト等を挙げることができる。
【0044】
水酸化アルミニウムが水溶液中にコロイド状に分散したアルミナゾルとしては、アルミニウム塩のゾル化生成物を使用することが好ましい。アルミニウム塩のゾル化生成物は、各種アルミニウム塩と、水と反応して水酸基を発生しやすい化合物との反応によって得られる。また、各種アルミニウム塩と水酸基を含有する化合物との反応によっても得られる。
【0045】
使用される各種アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、及び硝酸アルミニウム等が挙げられる。使用される水と反応して水酸基を発生しやすい化合物としては、アンモニア、アルキルアミン、アミン系キレート化合物、アミノカルボン酸、アミノカルボン酸系キレート化合物、及びアミノホスホン酸系キレート化合物等が挙げられる。使用される水酸基を含有する化合物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が挙げられる。
【0046】
水和アルミナが水溶液にコロイド状に分散したアルミナゾルとしては、ベーマイトゾルを使用することが好ましい。ベーマイトゾルは、ベーマイトまたは擬ベーマイトを各種アルミニウム塩、無機酸、及び有機酸等と共存させることにより得られる。使用される各種アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、及び硝酸アルミニウム等が挙げられる。使用される無機酸としては、硝酸、及び塩酸等が挙げられる。使用される有機酸としては酢酸、及びグルコン酸等が挙げられる。
【0047】
セルロース類としては、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0048】
縮合リン酸塩としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、酸性メタリン酸ナトリウム、及び酸性ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの分散剤の中でもアルミナゾルが好ましく用いられる。
【0049】
研磨剤組成物中の分散剤の含有量は、好ましくは0.01~5.00質量%であり、更に好ましくは0.02~2.00質量%である。0.01質量%未満では、アルミナ粒子の分散効果が低下する。5質量%を超えると研磨剤組成物の粘度が上昇し、研磨剤組成物の流動性が低下する懸念がある。
【0050】
1.4 水
本発明で使用される水は、蒸留水、及びイオン交換水等の不純物を除去した水が、好ましく用いられる。水は、研磨剤組成物の流動性を制御する機能を有するので、その含有量は、研磨速度のような目標とする研磨特性に合わせて適宜決定することができる。例えば、水の含有割合は40~90質量%とすることが好ましい。水の含有量が、研磨剤組成物の40質量%未満では、研磨剤の粘性が高くなり、流動性が損なわれる場合がある。一方、水の含有量が90質量%を超えると、砥粒濃度が低くなり、十分な研磨速度が得られない場合がある。
【0051】
2.物性
本発明の研磨剤組成物のpH(25℃)は、1.0~10.0の範囲が好ましく、更に好ましくは2.0~7.0である。pH(25℃)が1.0未満であると、研磨機や配管等が腐食するおそれがある。pH(25℃)が10.0を超えると、研磨後のプラスチックレンズの表面粗さが悪化するおそれがある。上記のように、本実施形態の研磨剤組成物は、当該研磨剤組成物のpHを好ましい範囲に調整するために、酸や塩基、及びそれらの塩等のpH調整剤を用いることができる。
【0052】
3.プラスチックレンズの研磨方法
プラスチックレンズの研磨は、レンズ表面の曲率に合わせた研磨を行うために設計された曲面研磨用の研磨機を用いて通常行われるが、研磨剤組成物の研磨性能は、平板状のプラスチックレンズ素材を平面研磨用の研磨機を用いても評価できるため、本発明の研磨剤組成物の研磨性能評価は、平面研磨用の研磨機を用いて下記のように行った。
【0053】
所定量の研磨剤組成物を研磨機に設けられた供給容器に投入する。その後、供給容器からノズルやチューブを介して、研磨機の定盤上に貼付された研磨パッドに対して当該研磨剤組成物を滴下して供給しつつ、研磨対象物の研磨面を研磨パッド面に押圧し、定盤を所定の回転速度にて回転させることにより、研磨対象物の表面を研磨する。研磨パッドは、スェードタイプ、不織布タイプ、及びその他タイプのいずれのタイプも使用することができる。また、研磨パッドの表面形状としては、溝あり、溝無し、いずれの研磨パッドも使用することができる。
【実施例0054】
以下、本発明の研磨剤組成物を下記に示す実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。
【0055】
実施例1~11、及び比較例1~4としてそれぞれ調製した研磨剤組成物は、下記に示す表1に記載した材料を、表1に記載の含有量で含んで構成される。これらの実施例1~11、及び比較例1~4の研磨剤組成物による各種研磨試験(詳細は後述する。)の結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
4.研磨剤組成物の調製方法
4.1 実施例1の研磨剤組成物の調製
市販のα―アルミナ(平均粒子径(D50)=1.7μm)と、市販のアルミナゾルと、硝酸アルミニウムと、ポリビニルアルコール(JP-03(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=88%、重合度=300))とを、表1に記載された濃度となるように純水で希釈しながら添加し、攪拌混合して均質化されたものを実施例1の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。研磨剤組成物のpH値(25℃)は3.5であった。実施例1の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0058】
4.2 実施例2の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJMR―20M(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=68%、重合度=400)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、実施例2の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例2の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0059】
4.3 実施例3の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJMR―10M(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=68%、重合度=250)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、実施例3の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例3の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0060】
4.4 実施例4の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJMR―8M(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=68%、重合度=220)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、実施例4の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例4の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0061】
4.5 実施例5の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJMR-3M(日本酢ビ・ポバール製、ケン化度=68%、重合度=120)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、実施例5の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例5の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0062】
4.6 実施例6の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをLW―100(三菱ケミカル株式会社製、ケン化度=43%、重合度=250)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、実施例6の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例6研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0063】
4.7 実施例7の研磨剤組成物の調製
実施例2の研磨剤組成物の調製において、α―アルミナとして平均粒子径(D50)=0.7μmのα―アルミナを使用すること以外は、実施例2と同様に調製し、実施例7の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例7研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0064】
4.8 実施例8の研磨剤組成物の調製
実施例2の研磨剤組成物の調製において、クエン酸を添加して研磨剤組成物のpH値(25℃)を2.0に変更すること以外は、実施例2と同様に調製し、実施例8の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例8研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0065】
4.9 実施例9の研磨剤組成物の調製
実施例2の研磨剤組成物の調製において、硝酸アルミニウムを添加せずに研磨剤組成物のpH値(25℃)を7.5に変更すること以外は、実施例2と同様に調製し、実施例9の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例9研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0066】
4.10 実施例10の研磨剤組成物の調製
実施例2の研磨剤組成物の調製において、硝酸アルミニウムを添加せず、水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することで研磨剤組成物のpH値(25℃)を10.0に変更すること以外は、実施例2と同様に調製し、実施例10の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例10研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0067】
4.11 実施例11の研磨剤組成物の調製
実施例2の研磨剤組成物の調製において、ポリビニルアルコールの添加量を変更すること以外は、実施例2と同様に調製し、実施例11の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。実施例11の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0068】
4.12 比較例1の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、ポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例1と同様に調製し、比較例1の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。比較例1の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0069】
4.13 比較例2の研磨剤組成物の調製
実施例9の研磨剤組成物の調製において、ポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例9と同様に調製し、比較例2の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。比較例2の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0070】
4.14 比較例3の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJP―18(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=88%、重合度=1800)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製し、比較例3の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。比較例3の研磨剤組成物による研磨試験の結果を表2に示す。
【0071】
4.15 比較例4の研磨剤組成物の調製
実施例1の研磨剤組成物の調製において、使用したポリビニルアルコールをJMR―10L(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度=35%、重合度=250)に変更したこと以外は、実施例1と同様に調製した。なお、調製後、研磨剤組成物中のポリビニルアルコールが析出したため、研磨試験を実施しなかった。比較例4の結果を表2に示す。
【0072】
5.アルミナの粒子径
本発明で使用されるアルミナの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(SALD2200、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。アルミナの平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0073】
6.研磨条件
研磨機 片面研磨機 定盤径350mm
基板 高屈折率基板(MR-10) 75mm径の円形状
研磨パッド SUBA600溝なし
研磨圧力 160g/cm2
定盤回転数 60rpm
研磨時間 8min
研磨剤流量 25ml/min
【0074】
7.研磨した基板の評価
7.1 研磨速度の測定方法
研磨開始前の基板の厚さと研磨後の基板の厚さをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製、測定精度:1μm)を用いて測定し、これにより研磨速度(μm/min)を測定した。なお、それぞれの実施例等及び比較例等の研磨剤組成物について、3枚の研磨対象の基板を同時に研磨したため、かかる研磨速度はそれらの3枚についての平均値を記載している。
【0075】
7.2 研磨後の基板表面の外観(曇り)評価方法
研磨後の基板表面の曇りは、基板表面に集光灯(ECO LIGHT、株式会社永田製作所製、3万LuX)の光を当て、反射観察により、下記の評価条件に基づいて目視にて判定した。なお、判定は同時に研磨した3枚の基板についての総合判定を示している。
【0076】
7.3 曇り評価条件
〇:曇りなし
△:曇り一部あり
×:全面に曇りあり
【0077】
7.4 研磨後の基板の表面粗さ(Ra)測定方法
研磨後の基板の表面粗さ(Ra)は、3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPUS株式会社製)を用いて測定した。測定条件は、測定装置(OLS4100、OLYMPUS株式会社製、測定倍率:2160倍)を用い、カットオフ無し、測定エリアは128μm×128μmとした。
【0078】
実施例1~11、及び比較例1~4の研磨剤組成物を用い、高屈折率基板を研磨した結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
8.考察
ポリビニルアルコールを含有しない研磨剤組成物を用いて研磨を行った比較例1に対して、本発明のポリビニルアルコールを含有する研磨剤組成物を用いて研磨を行った実施例1~6および実施例11は、研磨速度の大幅な向上が認められる。一方、本発明の権利範囲から逸脱するポリビニルアルコール(ケン化度=88%、重合度1800)を含有する研磨剤組成物を用いて研磨を行った比較例3は、比較例1と同程度の研磨速度となっている。
【0081】
また、比較例4の研磨剤組成物は、ケン化度が本発明のケン化度の範囲(40~98%)よりも低いポリビニルアルコールを含有するため、研磨剤組成物中のポリビニルアルコールが析出してしまい、研磨を行うことが出来なかった。
【0082】
pHが7.5となるように調製された研磨剤組成物を用いた実施例9と比較例2を比べてみても、ポリビニルアルコールを含有しない比較例2に対して、本発明のポリビニルアルコールを含有する実施例9は、研磨速度が大幅に向上している。
【0083】
実施例2および実施例6は、実施例1よりもケン化度が低いポリビニルアルコールを含有する研磨剤組成物を用いて研磨を行った結果であるが、ケン化度が低くなることにより研磨速度が向上することがわかる。実施例3~5は実施例2に対してポリビニルアルコールの重合度を低くした場合の研磨試験結果である。ポリビニルアルコールの重合度が低くなるほど研磨速度が高くなることがわかる。
【0084】
実施例7は、比較例1よりも平均粒子径の小さなα―アルミナを用いた場合の研磨試験結果であるにもかかわらず、本発明の範囲内のポリビニルアルコールを含むことで研磨速度は維持され、かつ表面粗さは良好な結果となっている。
【0085】
実施例8~10は実施例2(pH=3.5)に対して研磨剤組成物のpH(25℃)を低く(実施例8:pH=2.0)あるいは高く(実施例9:pH=7.5 実施例10:pH=10.0)変化させた場合の研磨試験結果である。
【0086】
実施例11は、研磨剤組成物中のポリビニルアルコール含有量が実施例2と異なる場合の研磨試験結果である。
【0087】
以上のことから本発明のポリビニルアルコールを含有する研磨剤組成物を用いてプラスチックレンズを研磨することにより、研磨速度を向上させつつ表面粗さと表面光沢に優れたプラスチックレンズを得られることが明らかである。