(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006086
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】L-ピログルタミン酸開環酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20240110BHJP
C12N 9/48 20060101ALI20240110BHJP
C12P 13/14 20060101ALI20240110BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N15/57 ZNA
C12N9/48
C12P13/14 Z
A23L33/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106652
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 考太郎
(72)【発明者】
【氏名】夏目 亮
(72)【発明者】
【氏名】河合 広洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄己
(72)【発明者】
【氏名】玉井 海地
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寿
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B018LB03
4B018LB08
4B018LB09
4B018MD19
4B018ME14
4B050CC01
4B050DD02
4B050FF11E
4B050LL02
4B064AE19
4B064CA21
4B064CB05
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】調味料や保存食品の製造において使用可能な、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環酵素の提供を目的とする。
【解決手段】以下の特性:至適pH:6.0~6.5、至適温度:45~65℃、温度安定性:50℃以下、分子量:58~62kDaを有する、新規L-ピログルタミン酸開環酵素を提供する。さらにかかる新規L-ピログルタミン酸開環酵素は、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号3のアミノ酸配列に、少なくとも90%同一性を有する配列、又は配列番号3のアミノ酸配列に、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加された配列からなるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環酵素であって、以下の特徴:
至適pH:6.0~6.5
至適温度:45~65℃
温度安定性:50℃以下で10分間で80%以上の残存活性を有する
分子量:58~62kDa
を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項2】
前記L-ピログルタミン酸開環酵素が、バチルス属又はプリエスチア属由来である、請求項1に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項3】
前記プリエスチア属細菌が、プリエスチア・メガテリウム(Priestia megaterium)又はプリエスチア・アリャバハッタイ(Priestia aryabhattai)からなる群から選ばれる、請求項2に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項4】
亜鉛要求性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項5】
アミドヒドロラーゼ2のモチーフを有さない、請求項1~4のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項6】
前記L-ピログルタミン酸開環酵素が、カルボキシルペプチターゼモチーフを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項7】
カルボキシペプチダーゼモチーフが、ヒスチジン、グルタミン酸、及びヒスチジンから構成される活性中心を有する、請求項6に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項8】
亜鉛イオンが、前記活性中心のヒスチジン、グルタミン酸、及びヒスチジンにより配位される、請求項7に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項9】
亜鉛イオンが、His204、Glu121、及びHis118により配位される、請求項8に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項10】
さらにGlu305、Tyr267、及びArg165が配位に関与する、請求項9に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項11】
以下の:
配列番号3のアミノ酸配列、
配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも90%同一性を有する配列、又は
配列番号3のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加された配列
からなり、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環活性を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項12】
His204、Glu121、His 118、Tyr267、及びArg165モチーフを含み、かつ配列番号3のアミノ酸配列に対し、少なくとも70%同一性を有する配列からなり、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環活性を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
【請求項13】
以下の:
(1)配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(2)配列番号2の塩基配列、
(3)(1)又は(2)に記載の塩基配列に、少なくとも90%同一性を有する配列、
からなり、L-ピログルタミン酸開環酵素をコードするDNA。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有溶液に適用し、L-グルタミン酸濃度を増加させる方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有食品に適用し、L-グルタミン酸濃度を増加させた食品を製造する方法。
【請求項16】
前記L-ピログルタミン酸含有食品が、トマト加工物又は醤油である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
L-ピログルタミン酸開環酵素が、pH4~10、15~65℃でL-ピログルタミン酸含有食品に適用される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか一項に記載の方法により製造された食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-ピログルタミン酸をL-グルタミン酸へと開環する酵素、および当該酵素をコードする遺伝子、並びに当該酵素の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-ピログルタミン酸は、飲食品の製造及び保存過程で、L-グルタミン酸又はL-グルタミンの非酵素的な閉環反応により生じる無味の物質である。加熱処理や長期の保存により、飲食品中のL-ピログルタミン酸の含有量が増加する。飲食品の製造及び保存過程で無味であるL-ピログルタミン酸が生成すると、L-グルタミン酸含有量が低下し、本来L-グルタミン酸が呈するうま味が失われてしまう。長期の発酵過程を経る発酵飲食品の製造過程では、ペプチドの分解によりL-グルタミン酸が生成し、またペプチド分解により生じたL-グルタミンがさらにグルタミナーゼの作用を受けることによりL-グルタミン酸が生成する。こうして生成したL-グルタミン酸は、発酵飲食品のうま味を構成する。したがって、発酵過程においてL-ピログルタミン酸の生成を抑制することが必要になる。醤油の製造過程では、L-ピログルタミン酸開環酵素を適用させることにより、L-ピログルタミン酸をL-グルタミン酸へと変換することで、うま味に富んだ醤油を製造することが検討されている(特許文献1:WO2014/126186)。
【0003】
5-オキソプロリナーゼは、国際生化学連合の酵素委員会による分類基準においてEC3.5.2.9に分類され、ピログルタマーゼ、L-ピログルタミン酸加水分解酵素とも称される酵素である。これまでにいくつかの生物種から、5-オキソプロリナーゼ活性が確認されている。ラット(非特許文献1:Scand. J. Clin. Lab. Invest.32, 233-237, 1973;非特許文献2:Proc. Nat. Acad. Sci USA 68, 2982-2985, 1971)、シュードモナス属(非特許文献3:Biochem. Biophys. Res. Commun. 56, 90-96, 1974)、アルカリゲネス属(非特許文献4:Plant Physiol. 62, 798-801, 1978)、酵母(特許文献2:特開平8-252075号公報)、及びアスペルギルス属(特許文献1:WO2014/126186)由来の5-オキソプロリナーゼが知られている。これらの5-オキソプロリナーゼは、Mg2+やK+等の金属イオン要求性であり、またATP依存性である。ATP依存性の酵素は、ATP再生に関する問題があり、飲食品の製造課程において生成したL-ピログルタミン酸を開環するのに適さない。
【0004】
また、5-オキソプロリナーゼ以外のL-ピログルタミン酸開環酵素として、アルカリゲネス・フェイカリス(Alcaligenes Faecalis)属由来の約4万7千Daのタンパク質及び当該タンパク質をコードする遺伝子が特定されている(特許文献3及び4:特開平9-250号公報及び特開平11‐221078号公報)。かかる酵素はATP非依存性ではあるが、至適pHが中性~アルカリ性にあるため、発酵飲食品、特に醤油中に生成したL-ピログルタミン酸の開環には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/126186号
【特許文献2】特開平8-252075号公報
【特許文献3】特開平9-250号公報
【特許文献4】特開平11‐221078号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Scand. J. Clin. Lab. Invest. (1973) 32, 233-237
【非特許文献2】Proc. Nat. Acad. Sci USA (1971)68, 2982-2985
【非特許文献3】Biochem. Biophys. Res. Commun. (1974) 56, 90-96
【非特許文献4】Plant Physiol. (1978)62, 798-801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
調味料や保存食品の製造において使用可能な、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環酵素の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、L-ピログルタミン酸開環活性を有する新規酵素を取得すべく鋭意研究を行ったところ、プリエスチア属の細菌がL-ピログルタミン酸開環活性を発揮することを見出した。次いで本発明者らは、このプリエスチア属の細菌から新規L-ピログルタミン酸開環酵素を単離し、特性解析をするとともに、そのアミノ酸配列及び遺伝子配列を特定し、本発明に至った。そこで、本発明は以下に関する:
【0009】
[1] ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環酵素であって、以下の特徴:
至適pH:6.0~6.5
至適温度:45~65℃
温度安定性:50℃以下で10分間で80%以上の残存活性を有する
分子量:58~62kDa
を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
[2] 前記L-ピログルタミン酸開環酵素が、バチルス属又はプリエスチア属由来である、項目1に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[3] 前記プリエスチア属細菌が、プリエスチア・メガテリウム(Priestia megaterium)又はプリエスチア・アリャバハッタイ(Priestia aryabhattai)からなる群から選ばれる、項目2に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[4] 亜鉛要求性を有する、項目1~3のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[5] アミドヒドロラーゼ2のモチーフを有さない、項目1~4のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[6] 前記L-ピログルタミン酸開環酵素が、カルボキシルペプチターゼモチーフを有する、項目1~5のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[7] カルボキシペプチダーゼモチーフが、ヒスチジン、グルタミン酸、及びヒスチジンから構成される活性中心を有する、項目6に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[8] 亜鉛イオンが、前記活性中心のヒスチジン、グルタミン酸、及びヒスチジンにより配位される、項目7に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[9] 亜鉛イオンが、His204、Glu121、及びHis118により配位される、項目8に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[10] さらにGlu305、Tyr267、及びArg165が配位に関与する、項目9に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素。
[11] 以下の:
配列番号3のアミノ酸配列、
配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも90%同一性を有する配列、又は
配列番号3のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加された配列
からなり、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環活性を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
[12] His204、Glu121、His 118、Tyr267、及びArg165モチーフを含み、かつ配列番号3のアミノ酸配列に対し、少なくとも70%同一性を有する配列からなり、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環活性を有する、L-ピログルタミン酸開環酵素。
[13] 以下の:
(1)配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(2)配列番号2の塩基配列、
(3)(1)又は(2)に記載の塩基配列に、少なくとも90%同一性を有する配列、
からなり、L-ピログルタミン酸開環酵素をコードするDNA。
[14] 項目1~12のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有溶液に適用し、L-グルタミン酸濃度を増加させる方法。
[15] 項目1~12のいずれか一項に記載のL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有食品に適用し、L-グルタミン酸濃度を増加させた食品を製造する方法。
[16] 前記L-ピログルタミン酸含有食品が、トマト加工物又は醤油である、項目15に記載の方法。
[17] L-ピログルタミン酸開環酵素が、pH4~10、15~65℃でL-ピログルタミン酸含有食品に適用される、項目15又は16に記載の方法。
[18] 項目15~17のいずれか一項に記載の方法により製造された食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明において単離されたL-ピログルタミン酸開環活性を有する酵素は、ATP非依存性で作動し、かつ低いpHにおいて活性を有した。これにより、低pHとなる食品又は調味料に用いることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A-B】
図1は、L-ピログルタミン酸開環酵素のアミノ酸配列(B)及び当該酵素のORFについての塩基配列(A)を示す。BmE1のアミノ酸配列中のドメインについて表示する(C)。
【
図1C】
図1は、L-ピログルタミン酸開環酵素のアミノ酸配列(B)及び当該酵素のORFについての塩基配列(A)を示す。BmE1のアミノ酸配列中のドメインについて表示する(C)。
【
図2】
図2Aは、pUC18-BmE1のプラスミドマップを示す。
図2Bは、pColdI-His-BmE1のプラスミドマップを示す。
【
図3A】
図3Aは、pColdIプラスミドのNdeI-BamHI切断部位にクローニングされたBmE1の塩基配列を表す。
【
図3B】
図3Bは、pColdI-His-BmE1プラスミドから発現される塩基配列を表す。
【
図3C】
図3Cは、pColdI-His-BmE1プラスミドから発現されるタンパク質のアミノ酸配列を表す。
【
図4】
図4は、大腸菌で発現誘導され、精製されたHis-BmE1について、SDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、次いでCBC染色を行った結果を示す。CEは細胞破砕後、Niは、Ni-Affinity精製後、GFはゲル濾過クロマトグラフィー精製後の結果を示す。
【
図5】
図5は、各緩衝液を用いたBmE1酵素の比活性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、各緩衝液で4℃、18時間保存した後に残存するBmE1酵素の相対活性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、各温度におけるBmE1酵素の比活性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、各温度で10分間処理した後のBmE1酵素の残存活性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、His-BmE1酵素をEDTA処理し、透析により、EDTAを除去し、亜鉛の添加の有無によるHis-BmE1酵素の比活性を比較したグラフである。
【
図10】
図10は、His-BmE1酵素によるγ-ポリグルタミン酸の分解により生じたL-グルタミン酸量を示すグラフである。
【
図11】
図11Aは、His-BmE1について結晶構造解析を用いて明らかにされた立体構造を示す。
図11Bは、His-BmE1の亜鉛配位箇所の拡大図を示す。
【
図12】
図12はヒト由来カルボキシペプチダーゼ(PDBID:5OM9)の活性中心と、亜鉛が配位すると考えられる箇所を重ね合わせて比較した図である。
【
図13】
図13は、His-BmE1の変異体の反応時間10分における酵素活性を比較したグラフである
【
図14】
図14は、His-BmE1の変異体の酵素反応時間の経時的な変化による酵素活性を比較したグラフである。
【
図15】
図15は、トマト缶試料に対し、BmE1を適用した場合に、Blankに比較してL-Glu濃度が増加したことを示すグラフである。
【
図16】
図16は、しょうゆ試料に対して、BmE1を適用した場合に、Blankに比較してL-Glu濃度が増加したことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<L-ピログルタミン酸開環酵素>
本発明は、新規L-ピログルタミン酸開環酵素に関する。本発明のL-ピログルタミン酸開環酵素は、ATP非依存的にL-ピログルタミン酸と水とから、L-グルタミン酸を生成する加水分解反応又はその逆反応を触媒する酵素である。本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、下記の性質のいずれか1つ又はその任意の組み合わせにより特徴づけられる。下記の性質は、本技術分野に周知の方法により決定することができる。
【0013】
(1)至適pH及び安定pH範囲
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素の至適pHは、6.0~6.5である。本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素はpH4.0~10.5で安定である。
【0014】
(2)至適温度及び安定温度範囲
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素の至適温度は、55℃である。本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は50℃以下で安定である。
【0015】
(3)金属要求性
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、2価の金属イオン、特に亜鉛イオンを必要とする酵素である。
【0016】
(4)カルボキシペプチダーゼ活性
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、カルボキシペプチダーゼ活性を有する。カルボキシペプチダーゼ活性の比活性は、0.2U/mg以上であり、好ましくは0.3U/mg以上である。
【0017】
(5)γ-ポリグルタミン酸分解活性
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素はγ-ポリグルタミン酸分解活性を有する。γ-ポリグルタミン酸は分解することで、L-グルタミン酸を生成する。
【0018】
(6)分子量
分子量は、アミノ酸配列からの推測値で60200Daである。由来元に応じて分子量は変動してもよく、50~70kDaである。分子量は、55kDa以上が好ましく、58kDa以上がより好ましく、65kDa以下が好ましく、62kDa以下がより好ましい。本発明のL-ピログルタミン酸開環酵素は、シグナルペプチドを含んでおり、シグナルペプチドを除去されてもよい。
【0019】
(7)由来元
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、プリエスチア(Priestia)属、バチルス(Bacillus)属、メタバチルス(Metabacillus)属、サイトバチルス(Cytobacillus)属、ペリバチルス(Peribacillus)属、パエニバチルス(Paenibatillus)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、グロビスポラ(globispora)属、とベビバクテリウム(Brevibacterium)属、フリゴリトレランス(frigoritolerans)属からなる群から選ばれる少なくとも1の属に属する微生物に由来する。なかでも、BLAST解析により多くの種が挙げられたことから、プリエスチア属及びバチルス属が好ましい。より具体的に、プリエスチア・メガテリウム(Priestia megaterium)又はプリエスチア・アリャバハッタイ(Priestia aryabhattai)が当該酵素を発現しうる。
【0020】
(8)モチーフ
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、カルボキシルペプチターゼモチーフを有する。さらに、本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、アミドヒドロラーゼ2のモチーフを有さないことを特徴とする。カルボキシペプチターゼモチーフとは、ヒスチジン、グルタミン酸、及びヒスチジンから構成される活性中心を構成する保存されたモチーフである。好ましくは、かかる活性中心には亜鉛イオンが配位されうる。かかるカルボキシペプチターゼモチーフは、一例としてHis204、Glu121、及びHis118により配位される。さらにGlu305、Tyr267、及びArg165からなる群から選択される少なくとも1のアミノ酸残基が配位に関与してもよい。これらのカルボキシペプチダーゼのアミノ酸位置は例示であり、亜鉛イオンを配位する限りにおいて変動してもよい。
【0021】
(9)アミノ酸配列
本発明に係るピログルタミン酸開環酵素は、以下の:
配列番号3のアミノ酸配列、
配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも70%同一性を有する配列、又は
配列番号3のアミノ酸配列に1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加された配列
からなり、ATP非依存性のL-ピログルタミン酸開環活性を有する。配列同一性は、一例として、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性であってもよい。アミノ酸の置換、欠失又は付加は、一例として数個、例えば1~9の任意の数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されうる。置換される場合には、任意のアミノ酸に置換されてもよいが、保存的置換であることが好ましい。さらに、別の態様では、His204、Glu121、His118、Glu305、Tyr267、及びArg165からなるカルボキシペプチダーゼモチーフを含むことが好ましい。
【0022】
(10)塩基配列
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素は、以下の:
(1)配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(2)配列番号2の塩基配列、
(3)(1)又は(2)に記載の塩基配列に、少なくとも70%同一性を有する配列、
からなるDNAによりコードされることを特徴とする。配列同一性は、一例として、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性であってもよい。本発明の別の態様では、本発明は、かかる塩基配列からなり、発現されたときにL-ピログルタミン酸開環活性を有する核酸、例えばDNAに関していてもよい。
【0023】
本発明に係るL-ピログルタミン酸開環活性を有する酵素をコードするDNAは、ベクターに組み込まれていてもよいし、ベクターに組み込まれて、宿主細胞、例えば大腸菌等に形質転換されていてもよい。本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素をコードするDNAを含むベクターを用いて宿主細胞に形質転換し、かかる宿主細胞を培養することで取得することができるが、かかる手法に限定されるものではない。プリエスチア属やバチルス属の細菌、例えばプリエスチア・メガテリウムを大量培養し、精製により取得してもよい。精製を容易にする観点から、タグ、例えばHisタグを付加して発現させてもよい。精製は、硫安分画、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独又は組み合わせて行うことができる。
【0024】
<L-ピログルタミン酸開環活性の測定方法>
L-ピログルタミン酸開環活性の測定方法は、ピログルタミン酸含有試料に対し、L-ピログルタミン酸開環酵素を適用し、適用前後の溶液中のピログルタミン酸量及び/又はL-ピログルタミン酸量を測定することで開環活性を測定することができる。測定系が確立している観点から、L-グルタミン酸量に基づいて、開環活性を決定することが好ましい。
【0025】
<L-グルタミン酸濃度を増加させる方法>
本発明の別の態様では、本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有溶液に適用し、L-グルタミン酸濃度を増加させる方法に関する。本発明のさらに別の態様では、本発明に係るL-ピログルタミン酸開環酵素をL-ピログルタミン酸含有飲食品に適用し、L-グルタミン酸が富化された飲食品を製造する方法に関する。L-グルタミン酸を含む飲食品は、製造課程又は長期保存中にL-グルタミン酸が環化し、無味のL-ピログルタミン酸を精製することがある。このような環化反応は、加熱や長期保存により、非酵素的な反応として生じうる。このような場合に、L-ピログルタミン酸を本発明のL-ピログルタミン酸開環酵素により開環することで、うま味を回復又は増強することができる。この方法は、L-ピログルタミン酸開環酵素を食品に添加することにより行われる。L-グルタミン酸濃度を富化した後に、L-ピログルタミン酸開環酵素を失活させてもよいし、そのまま製品に含ませてもよい。
【0026】
L-グルタミン酸及び/又はL-ピログルタミン酸含有飲食品の例としては、調味料、茶飲料、酒飲料、又は保存食品が挙げられる。調味料の中でも、特にL-グルタミン酸を豊富に含む調味料、例えば発酵調味料が好ましい。調味料の一例として、醤油、味噌、魚醤、日本酒、オイスターソース、みりん、つゆ、白だし、トマトケチャップなどが挙げられる。特に発酵調味料、例えば醤油、味噌、魚醤、みりん等は、発酵過程において、L-ピログルタミン酸を蓄積しうる。茶飲料としては、緑茶、紅茶など挙げられる。茶飲料では、茶葉を熱湯で抽出する際に、うまみ成分のL-グルタミン酸がL-ピログルタミン酸に環化しうるし、缶やペットボトル入りの茶飲料の場合保存中にL-ピログルタミン酸が蓄積しうる。酒飲料のなかでも、特に長期熟成がされた酒、例えば焼酎、日本酒、ウイスキー等ではL-ピログルタミン酸が増加しうる。保存食品としては、缶詰、瓶詰、レトルトパウチ食品が挙げられる。食品の中でも特に、トマト製品は、L-グルタミン酸及び/又はL-ピログルタミン酸含量が高いことが知られており、一例としてトマト缶、トマトピューレ、トマトペースト、トマトケチャップなどが挙げられる。これらのL-グルタミン酸及び/又はL-ピログルタミン酸含有飲食品の製造にあたり、L-ピログルタミン酸開環酵素を添加する工程が含まれうる。
【0027】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0028】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0029】
実施例1:L-ピログルタミン酸開環酵素の遺伝子クローニング
土壌中から採取され、L-ピログルタミン酸開環活性を有する菌株を単離し、この菌株を全ゲノム解析に供した。ゲノム解析の結果、本菌株は、プリエスチア・メガテリウム(Priestia Megaterium)であることを示す結果が得られた。なお、プリエスチア・メガテリウムは、従前はバチルス・メガテリウム(Bacillus Megaterium)に分類されており、近年の再分類により変更された。
この菌株を終濃度10mMのビオチン添加PE培地(ピログルタメート16g/L、Na2HPO4 6g/L、KH2PO4 3g/L、NaCl 0.5g/L、ビタミンB1 0.2mg/L、MgSO4・7H2O 400mg/L、FeSO4・7H2O 10mg/L、MnSO4・7H2O 10mg/L(pH6.0))に播種し、135rpm、24時間、31.5℃で振盪培養した。培養液を、8,000rpm、10分間遠心して菌を除去し、得らえた7.2Lの培養上清より酵素精製を試みた。具体的に、培養上清7.2Lに対して240mLの強陰イオン交換樹脂(Toyopearl SuperQ-650M 50% Slurry)を混合し、4℃で1時間攪拌して、レジンに吸着させた。吸着したレジンはバッチ式で、5%グリセロール含有20mM Tris-HCl溶液(pH8.0)1000mLで洗浄した。続いて、150mM NaClおよび5%グリセロール含有20mM Tris-HCl溶液(pH8.0)、1000mLで洗浄後、1.0M NaClおよび5%グリセロール含有20mM Tris-HCl溶液(pH8.0)500mLで溶出した。得られた溶出液は、Amicon Ultral 5 MWCO:10Kで150mLまで濃縮した後、緩衝液A液(5%グリセロール含有20mM Tris-HCl溶液(pH8.0))に対して4℃で8時間透析した。回収した試料は、同緩衝液で平衡化したpH弱陰イオン交換カラム(CaptoDEAE HP 5mL)に供し、ステップワイズ溶出で精製した。すなわち、まず15%緩衝液B液(1MNaClおよび5%グリセロール含有20mM Tris-HCl溶液(pH8.0)で溶出させた後に100%緩衝液B液で溶出した。15%緩衝液B液で溶出した活性画分40mLを回収し、緩衝液A液に対して、4℃で8時間透析した。回収した試料は、同緩衝液で平衡化した強陰イオン交換カラム(CaptoQ HP 5mL)に供し、ステップワイズ溶出で精製した。すなわち、まず40%緩衝液B液で溶出させた後に100%緩衝液B液で溶出した。40%緩衝液B液で溶出した活性画分30mLを回収し、緩衝液A液に対して4℃で8時間透析した。回収した試料は、同緩衝液で平衡化した強陰イオン交換カラム(ResourceQ 6 mL)に供し、緩衝液B液の0-100%のグラジエント溶出で酵素を精製し、大量のL-ピログルタミン酸開環活性画分を得た。
【0030】
こうして得られたL-ピログルタミン酸開環活性を有する画分を取得し、SDS-PAGEで分離後、PVDF膜に転写し、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色によって検出した。L-ピログルタミン酸開環活性を有する候補タンパク質のバンド領域(65kDa付近)の膜を切り出して、膜切片に含まれるタンパク質のN末端アミノ酸配列解析をアプロサイエンス社に依頼した。バンドに含まれるタンパク質のN末端のアミノ酸配列の11アミノ酸残基は、EVPYGKDYSQP(配列番号1)であった。
【0031】
決定された11残基分のアミノ酸配列をコードするORFを、同株の全5446個のORF中から1つ見出した。こうして決定された候補タンパク質のORFの配列は、1653塩基対からなり、残基数551のタンパク質をコードしていた。具体的に、配列番号2の塩基配列であり、ORFによりコードされるアミノ酸配列は、配列番号3のアミノ酸配列であった(
図1A及びB)。全アミノ酸配列を分泌シグナル配列解析サイトSignalPで解析したところ、N末端27残基の配列が分泌シグナル配列として検出された。また、EMBI-EBIのデーターベースを基にドメインを検索したところ、N末端側にZn
2+要求性タンパク質のドメインがあることがわかった(
図1C)。かかる候補タンパク質をBmE1と呼ぶものとする。全長BmE1は、551残基で、61509 Daの分子量を有するタンパク質である一方、分泌型BmE1は524残基で、58708Daのタンパク質である。
【0032】
菌株より抽出/精製したゲノムDNAを鋳型として、以下のエントリークローン構築用プライマーペアを用いたPCRでBmE1遺伝子断片を増幅した。
【表1】
増幅したDNA断片をリコンビナーゼ反応を用いてpUC18VectorのBamHI-EcoRIサイトに組み込んでエントリープラスミドpUC18-BmE1を構築した(
図2A)。pUC18-BmE1には、N末端分泌シグナル配列コード領域を含んだBmE1全長遺伝子領域をクローニングしてある。次に、pUC18-BmE1を鋳型として、以下の発現プラスミド構築用プライマーペアを用いたPCRで、BmE1遺伝子全長領域の 5’末端に存在する81塩基の分泌シグナル配列コード領域を除いた遺伝子領域を増幅した。
【表2】
増幅したDNA断片をリコンビナーゼ反応を用いてpCold IのNdeI-BamHIサイトに組み込み、N末端His-tag融合型BmE1発現プラスミドpColdI-His-BmE1を構築した(
図2B)。pColdI-His-BmE1にクローニングされている塩基配列(配列番号8)を
図3Aに示し、またpColdI-His-BmE1により発現される遺伝子の全長配列(配列番号9)を
図3B、並びに発現されるタンパク質のアミノ酸配列(配列番号10)を
図3Cに示す。全長アミノ酸配列からの推測分子量は、60200Daであった。
【0033】
(1)Blast解析
BmE1と類似した配列を探す為に、NCBI(National Center Biotechnology Information)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて実施した。検索パラメータはデフォルトを使用した。実施例1で明らかにされたBmE1の遺伝子及び/又はタンパク質の配列(配列番号2/配列番号3)をBlast解析に供したところ、バチルス・メガテリウム(Bacillus Megaterium)以外にもプリエスチア(Priestia)属、メタバチルス(Metabacillus)属、サイトバチルス(Cytobacillus)属、ペリバチルス(Peribacillus)属、パエニバチルス(Paenibatillus)属、スポロサルシナ(Sporosarcina)属、グロビスポラ(globispora)属、ベビバクテリウム(Brevibacterium)属、及びフリゴリトレランス(frigoritolerans)属にもBmE1遺伝子の相同遺伝子が存在することがわかった。
【0034】
(2)モチーフ解析
EMBL_EBIのPfam35.0を用いてモチーフ検索を行った。検索パラメータはデフォルトを使用した。その結果、ペプチダーゼ14ファミリーのZinc Carboxypeptidaseのモチーフをもつことが明らかになった。
【0035】
実施例2:BmE1の発現と精製
実施例1で調製された発現プラスミドpCold1-His-BmE1を大腸菌BL21株に形質転換した。形質転換された菌株を、37℃で18時間培養し、次いでコールドショック(氷冷30分)後に、IPTG(終濃度0.2mM)及びZnSO
4(終濃度1.0mM)を添加し、候補タンパク質を発現させて15℃で22時間培養した。菌体を回収し、破砕後に、Ni-Affinity精製(カラム:His-trap HP5ml)及びゲル濾過クロマトグラフィー精製(カラム:Superose 6 10/300GL)により、精製タンパク質を調製した(
図4)。尚、Ni-Affinity精製には、緩衝液A(500mM NaCl、10%グリセロール、40mMイミダゾール含有50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0))緩衝液B(500mM NaCl、10%グリセロール、300mMイミダゾール含有50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0))を用いて、緩衝液Bの0%から100%のステップワイズ溶出で精製し、緩衝液Bの100%溶出画分を回収した。ゲルろ過クロマトグラフィー精製には150mM NaCl含有20mM Tris-HCl(pH8.0)を用いて、各フラクションのタンパク質をProtein assay試薬で検出し、SDS-PAGEできれいな溶出画分を回収した。
【0036】
実施例3:His-BmE1の特性解析
こうして調製された精製タンパク質について、生化学的実験を行い、下記の特性を調べた。標準的な酵素反応は、以下の通りに行った。酵素溶液50μL、0.5M MES-NaOH緩衝液(pH6.0) 200μL、1.0、2.0、3.0、5.0、10mg/mlピログルタミン酸(pH6.0) 600μL、0.1MZnSO
4 10μL、MilliQ水130μLを混合し、45℃で10分間反応させた。その後、0.5M EDTAを10μL添加後、95℃、10分間で酵素を失活させた。得られた反応液 50μLを用いてL-グルタミン酸測定キット(ヤマサ)を用いて生成したグルタミン酸量を測定し、反応速度を測定した。
【表3】
【表4】
1分間に1μmolのピログルタミン酸を開環してグルタミン酸にする酵素活性を1Uとして、各条件で比活性(U/mg)を算出した。
【0037】
(1)至適pHとpH安定性
標準的な酵素反応を用いて、至適pHを調べた(
図5)。使用した緩衝液を以下に示す。酢酸緩衝液:pH3.5~6.0、MES-NaOH緩衝液:pH5.5~6.5、HEPES-NaOH緩衝液:pH6.5~8.0、Tris-HCl緩衝液:pH8.0~9.5、ホウ酸緩衝液:pH9.5~10.5。反応に用いた基質のpHは各緩衝液のpHに調整して行った。
その結果、反応至適pHは、6.0~6.5であった。
各緩衝液の終濃度が0.1Mとなるように酵素液に添加後、4℃、18時間静置した後に、標準的な測定法に準じてpH安定性を調べた(
図6)。その結果、pH4.0~10.5で安定性を示した。
【0038】
(2)至適温度及び安定性
標準的な活性測定法に基づき、反応温度のみ30~80℃の範囲で測定し、至適温度を調べた(
図7)。反応至適温度は、約55℃であった。
【0039】
酵素溶液のみを30~80℃の範囲で10分間インキュベートした後に、残存する酵素活性値を標準法で調べた。その結果、50℃以下で80%以上の残存活性を示し、安定性を保つことが分かった(
図8)。
【0040】
(3)金属要求性
標準的な酵素反応条件下で、0.5M EDTAを10μL添加して反応させた。その結果、著しく反応は阻害された。また、アフィニティー精製したBmE1に終濃度5mMとなるようにEDTAを添加し、氷上で30分制した後に、EDTAを含まない緩衝液で4℃、18時間透析した。透析した酵素溶液を用いて、亜鉛の添加の有無で酵素活性を測定した結果、亜鉛を添加すると比活性が向上したことから、亜鉛要求性であることが示された(
図8)。
【0041】
(4)カルボキシペプチダーゼ活性
酸性カルボキシペプチダーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ社製)を用いて、カルボキシペプチダーゼ活性を測定した。0.332mg/mLのHis-BmE125μLを用いて、反応温度のみ55℃として、測定キットの手順通りに測定した。その結果、比活性は0.318U/mgであり、カルボキシペプチダーゼ活性を有すると考えられる。
【0042】
(5)γ-ポリグルタミン酸分解活性
実施例2で調製されたBmE1をポリグルタミン酸(γ-PGA)含有試料に添加して、試料に含まれるγ-PGAに作用させることで、検出されるL-Glu濃度が変化するか分析した。20mg/ml γ-PGA、MES-NaOH(pH6.0) 200μL、試料600μL、ZnSO
4 10μL(終濃度1.0mM)、滅菌水130μL、0.0332mg/mLのBmE1 50μLを混合し、55℃で、5分、10分、20分、30分間、反応させた。0.5M EDTA10μl添加して、85℃5分間インキュベートすることで、酵素を失活させた。得られた反応液 50μLを用いてL-グルタミン酸測定キット(ヤマサ)を用いて生成したグルタミン酸量を測定した(
図10)。
【表5】
【0043】
実施例4:His-BmE1の構造解析
結晶化条件のスクリーニング
実施例2で精製されたHis-BmE1についての結晶化条件を、Crystal Screen HR2-110及びCrystal Screen HR2-112(Hampton Research社)を用いてスクリーニングし、結晶化条件として、Crystal Screen HR2-110の条件22を選択した。選択された結晶化条件を元に塩や沈殿剤の濃度、BufferのpHを変化させてより優れた結晶化条件を選択した。沈殿剤として、2000~8000でPEG分子量を変化させることで、PEG4000を用いることで優れた結晶化条件となった。こうして得られた結晶について高エネルギー加速器研究機構(KEK)のPhoton Factory供し、約2.0Åの回折データが得られた。
【0044】
セレノメチオニン置換His-BmE1結晶を用いたX線結晶構造解析
His-BmE1プラスミドを導入された大腸菌BL21株を用い、LeMaster培地を用いて生育させ、IPTGにより遺伝子発現を誘導することで、セレノメチオニン置換His-BmE1(Se-His-BmE1)を発現させた。Ni-Affinity及びゲル濾過クロマトグラフィーを行い、Se-His-BmE1を精製した。上述の結晶化条件を参考にして、調整することでSe-His-BmE1結晶が得られた。結晶を、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で回折データを取得した。
【0045】
SAD法による解析を進め、Se-His-BmE1結晶及びHis-BmE1結晶の両方の結晶構造モデルを精密化し、最大分解能を約1.7Åに設定し、精密化された3次元構造を取得した(
図11(A))。亜鉛が配位すると考えられる箇所の拡大図を
図11(B)に示す。また、ヒト由来カルボキシペプチダーゼ(PDBID:5OM9)の活性中心と、亜鉛が配位すると考えられる箇所を重ね合わせて比較した図を
図12に示す。His-BmE1とSe-His-BmE1結晶の結晶化条件を及び結晶学的統計値を下記に示す:
【表6】
【0046】
配列解析からN末端側にZn2+要求性タンパク質ドメインの存在が示唆されたが、かかる示唆に即し、亜鉛に基づくと考えられるDensityが確認された。亜鉛が配位している周辺のアミノ酸残基には、His204、Glu121、Glu305、His118、Tyr267、及びArg165が存在しており、かかるモチーフは、カルボキシペプチダーゼモチーフであり、カルボキシペプチダーゼ活性を有することが推測された。
【0047】
His-BmE1の立体構造において、基質結合部位と推測されるArg165、Tyr267、Glu305をアラニンに置換したpCold1-BmE1-R165A, Y267A, E305Aの発現プラスミドを構築し、それらを用いて大腸菌BL21株を形質転換し、実施例2と同様に培養、精製を行った。各変異株の比活性を実施例3の標準的な酵素活性測定法で比較した(
図13)
【0048】
E305Aは、His-BmE1と比べて、ピログルタミン酸開環反応が著しく低下し、基質認識に関わると推測された。
305Aの酵素活性が著しく低かったことから、反応時間を20分、30分と延ばして酵素活性が見られるか比較した(
図14)
His-BmE1や他の変異体においては、時間経過と共に活性が上昇されたが、E305Aは、酵素時間を長くしてもL-Gluへ変換されなかった。
【0049】
実施例5:食品製造工程における、L-ピログルタミン酸開環酵素の適用
(1)トマト缶試料を基質とした酵素反応
トマト缶試料に対して実施例2で調製されたBmE1を添加して試料に含まれるPEに作用させることで、検出されるL-Glu濃度が変化するか分析した。完熟ホールトマト(日本デルモンテ製)をフードプロセッサーで細かく粉砕し、6000rpm、10分間、遠心して上清を試料とした。MES-NaOH(pH6.0) 200μL、試料600μL、ZnSO
4 10μL(終濃度1.0mM)、滅菌水130μL、0.0332mg/mLのBmE1 50μLを混合し、55℃で、5分から30分間、反応させた。L-ピログルタミン酸含有水溶液(PE:終濃度15mg/ml)、トマト缶試料(Delmonte)を用いた。結果を下記に示す:
【表7】
【0050】
いずれの反応時間においても、BmE1を添加することで、Blankに対しL-Glu濃度が増加し、酵素処理時間が長くなるほど増加量が多くなった(
図15)。
【0051】
(2)Iしょうゆ試料を基質とした酵素反応
しょうゆ試料には、超減塩しょうゆ(食塩分66%カット)としぼりたて生しょうゆ(共にキッコーマン社製)を用いた。しょうゆ600μLにZnSO
4を10μL(終濃度1.0mM)、滅菌水130μL、0.0332mg/mLのBmE1 50μLを混合し、55℃で、10分間反応させた。Blankは、酵素の代わりに150mM NaCl含有20mMTris-HCl(pH8.0)を用いた。反応後、0.5M EDTAを添加して氷中に静置して反応を停止した。その後、反応液をMilliQ水で25倍希釈して、得られた反応液についてL-グルタミン酸測定キット(ヤマサ)を用いて生成したグルタミン酸量を測定した。
【表8】
【0052】
いずれの試料においても、BmE1を添加することで、Blankに対しL-Glu濃度が増加した(
図16)。