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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060877
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】核酸抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240425BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240425BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240425BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240425BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12N15/10 112Z
C12Q1/37
C12Q1/04
C12Q1/6806 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168438
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前村 知佳
(72)【発明者】
【氏名】宮内 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】田口 朋之
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ16
4B063QQ36
4B063QQ54
4B063QR16
4B063QR35
4B063QR39
4B063QR75
4B063QS14
4B063QS17
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QS40
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】試料に含まれる核酸を効率よく抽出すること。
【解決手段】核酸抽出方法は、細胞を含む試料に細胞の溶解を促進する酵素としてアクロモペプチダーゼを添加し、アクロモペプチダーゼを添加した試料を所定温度で保温し、所定時間保温された試料に細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、溶解補助剤を添加した試料を所定温度まで加熱し、所定時間加熱した試料を核酸を吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入し、核酸を精製する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、
前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する酵素としてアクロモペプチダーゼを添加し、前記アクロモペプチダーゼが添加された前記試料を所定温度で保温する保温工程と、
前記保温工程において所定時間保温された前記試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、
を含む核酸抽出方法。
【請求項2】
細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、
前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において所定時間加熱された前記試料を、前記核酸を吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入し、前記核酸を精製する精製工程と、
を含む核酸抽出方法。
【請求項3】
前記核酸は、リボ核酸である、
請求項1または2に記載の核酸抽出方法。
【請求項4】
前記細胞は、グラム陽性菌が有する細胞である、
請求項1または2に記載の核酸抽出方法。
【請求項5】
前記溶解補助剤は、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを含む、
請求項1または2に記載の核酸抽出方法。
【請求項6】
前記保温工程は、
前記細胞を含む試料に、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸をさらに添加する、
請求項1に記載の核酸抽出方法。
【請求項7】
前記保温工程は、
前記細胞を含む試料に、前記酵素としてリゾスタフィンをさらに添加する、
請求項1に記載の核酸抽出方法。
【請求項8】
前記保温工程は、
前記アクロモペプチダーゼが添加された前記試料を10分以上保温する、
請求項1に記載の核酸抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菌体培養液を採取し、溶解補助剤を添加し、高温高圧処理を行うことによって、菌体の細胞から核酸を抽出する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5624487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、試料に含まれる核酸を効率よく抽出することが難しい。例えば、従来技術では、グラム陽性菌等の細胞表層が強固な菌体からの核酸の回収量が少ないので、核酸の抽出に長い時間を必要とする。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、試料に含まれる核酸を効率よく抽出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する酵素としてアクロモペプチダーゼ(登録商標)を添加し、前記アクロモペプチダーゼが添加された前記試料を所定温度で保温する保温工程と、前記保温工程において所定時間保温された前記試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、を含む核酸抽出方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程において所定時間加熱された前記試料を、前記核酸を吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入し、前記核酸を精製する精製工程と、を含む核酸抽出方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料に含まれる核酸を効率よく抽出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る核酸抽出システムの構成例を示す図である。
図2】実施形態に係る実験結果1を説明するための図である。
図3】実施形態に係る実験結果2を説明するための図である。
図4】実施形態に係る実験結果3を説明するための図である。
図5】実施形態に係る実験結果4を説明するための図である。
図6】実施形態に係る実験結果5を説明するための図である。
図7】実施形態に係る核酸抽出工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る採取工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】実施形態に係る保温工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図10】実施形態に係る封入工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図11】実施形態に係る加熱工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図12】実施形態に係る精製工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態に係る核酸抽出方法を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態により限定されるものではない。
【0011】
〔実施形態〕
以下に、実施形態に係る核酸抽出システムの構成、各工程の詳細、各工程の流れを順に説明し、最後に実施形態の効果を説明する。
【0012】
〔1.核酸抽出システム100の構成〕
図1を用いて、実施形態に係る核酸抽出システム100の構成を説明する。図1は、実施形態に係る核酸抽出システム100の構成例を示す図である。以下では、核酸抽出システム100全体の構成例、核酸抽出システム100の各工程、核酸抽出システム100の効果の順に説明する。
【0013】
(1-1.核酸抽出システム100全体の構成例)
核酸抽出システム100は、菌体培養容器10、保温容器20、封入容器30、加熱装置40および精製容器50を有する。以下では、菌体培養容器10、保温容器20、封入容器30、加熱装置40、精製容器50の順に説明する。
【0014】
(1-1-1.菌体培養容器10)
菌体培養容器10は、菌体培養液Sを収容する容器である。菌体培養液Sは、細胞Cを有する微生物を培養する溶液である。図1の例では、菌体培養容器10は、栓の付いた三角フラスコであるが、菌体培養容器10の形状や材質は限定されない。
【0015】
(1-1-2.保温容器20)
保温容器20は、前処理溶液Iを保温(インキュベート)する容器である。前処理溶液Iは、菌体培養液Sに酵素Eを添加した溶液である。図1の例では、保温容器20は、栓の付いたガラスチューブであるが、保温容器20の形状や材質は限定されない。
【0016】
(1-1-3.封入容器30)
封入容器30は、加熱用溶液Hを封入する容器である。加熱用溶液Hは、前処理溶液Iに溶解補助剤Dを添加した溶液である。図1の例では、封入容器30は、栓の付いたガラスチューブであるが、封入容器30の形状や材質は限定されない。
【0017】
(1-1-4.加熱装置40)
加熱装置40は、加熱用溶液Hを加熱する容器である。図1の例では、加熱装置40は、ヒートブロックであるが、加熱装置40の形状や材質は限定されない。
【0018】
(1-1-5.精製容器50)
精製容器50は、精製用溶液Pを精製する容器である。精製用溶液Pは、精製される対象として核酸Nを含む溶液である。図1の例では、加熱装置40は、コックの付いたカラムであるが、精製容器50の形状や材質は限定されない。
【0019】
(1-1-6.その他)
図1に示した核酸抽出システム100には、複数の菌体培養容器10、複数の保温容器20、複数の封入容器30、複数台の加熱装置40または複数の精製容器50が含まれてもよい。また、核酸抽出システム100において、菌体培養容器10、保温容器20および封入容器30のうち2以上の容器が統合された構成であってもよい。
【0020】
(1-2.核酸抽出システム100の工程)
上記の核酸抽出システム100の工程について説明する。以下では、採取工程、保温工程、封入工程、加熱工程、精製工程の順に説明する。なお、各工程のうち、省略される工程があってもよい。
【0021】
(1-2-1.採取工程)
図1(1)に示す採取工程について説明する。第1に、採取工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sにおいて、菌体を培養する菌体培養工程を実施する。例えば、菌体培養工程では、菌体として、大腸菌(Escherichia coli:E.coli)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:S.aureus)を使用し、SCD(Soybean Casein Digest)液体培地において37℃で一晩培養する。第2に、採取工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sの一部を保温容器20に採取する菌体培養液採取工程を実施する。ここで、菌体培養液採取工程は、ターゲットを効率よく回収できるので、培養工程における培養が難しい細胞Cであっても、培養することなく対象から直接採取された試料に適用できる。また、菌体培養液採取工程は、少ない細胞数であっても適用できるので、検出に必要な微生物培養時間の短縮効果がある。
【0022】
(1-2-2.保温工程)
図1(2)に示す保温工程について説明する。第1に、保温工程では、保温容器20に採取された菌体培養液Sに細胞Cの溶解を促進する酵素Eを添加する酵素添加工程を実施する。このとき、酵素添加工程では、酵素Eとして、アクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)およびリゾスタフィン(Lysostaphin)を添加する。第2に、保温工程では、酵素Eを含む菌体培養液Sである前処理溶液Iを調製する前処理溶液調製工程を実施する。このとき、前処理溶液調製工程では、緩衝剤としてトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)を添加し、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic Acid)を添加し、各成分の濃度やpHを調整する。第3に、保温工程では、前処理溶液Iを収容した保温容器20を保温する前処理溶液保温工程を実施する。例えば、前処理溶液保温工程では、前処理溶液Iを収容した保温容器20を37℃、10分間保温するが、保温する温度および時間は細胞Cの溶解を促進可能な範囲であればよく、特に限定されない。
【0023】
(1-2-3.封入工程)
図1(3)に示す封入工程について説明する。第1に、封入工程では、一定時間保温後の前処理溶液Iに細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加する溶解補助剤添加工程を実施する。例えば、溶解補助剤添加工程では、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS:Sodium Dodecyl Sulfate)を添加する。第2に、封入工程では、溶解補助剤Dを含む菌体培養液Sである加熱用溶液Hを調製する加熱用溶液調製工程を実施する。このとき、加熱用溶液調製工程では、各成分の濃度やpHを調整する。第3に、封入工程では、調製された加熱用溶液Hを封入容器30に封入する加熱用溶液封入工程を実施する。例えば、加熱用溶液封入工程では、封入容器30として、ガラスチューブに加熱用溶液Hを封入し、栓をすることによって密閉する。
【0024】
(1-2-4.加熱工程)
図1(4)に示す加熱工程について説明する。第1に、加熱工程では、加熱装置40を設定温度まで予熱する加熱装置予熱工程を実施する。例えば、加熱装置予熱工程では、設定温度である140℃まで予熱するが、予熱する温度は核酸Nを抽出可能な範囲であればよく、特に限定されない。第2に、加熱工程では、加熱用溶液Hが封入された封入容器30を加熱装置40に収容する封入容器設置工程を実施する。例えば、封入容器設置工程では、封入容器30であるガラスチューブをヒートブロックに挿入することによって設置する。第3に、加熱工程では、設置された封入容器30を加熱する封入容器加熱工程を実施する。例えば、封入容器加熱工程では、加熱用溶液Hを封入した封入容器30を140℃、45秒間加熱するが、加熱する温度および時間は核酸Nを抽出可能な範囲であればよく、特に限定されない。
【0025】
(1-2-5.精製工程)
図1(5)に示す精製工程について説明する。第1に、精製工程では、加熱工程後の加熱用溶液Hであって細胞Cの核酸Nを含む精製用溶液Pを、吸着担体が充填された精製容器50に注入する精製用溶液注入工程を実施する。このとき、精製用溶液注入工程では、吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素の複合素材を有する精製容器50に精製用溶液Pを注入する。第2に、精製工程では、精製用溶液Pを注入した精製容器50に溶出液を注入し、核酸Nを抽出する溶出液注入工程を実施する。例えば、溶出液注入工程では、16S リボソームリボ核酸(rRNA:ribosome Ribonucleic Acid)を抽出する。第3に、精製工程では、精製された核酸Nのコピー数を算出するコピー数算出工程を実施する。例えば、コピー数算出工程では、16S rRNAのコピー数をリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)法によって算出する。
【0026】
(1-3.核酸抽出システム100の効果)
以下では、参考技術として、核酸抽出技術の背景、核酸抽出技術であるトライゾール法および高温高圧法の概要、参考技術の改善点を順に説明した上で、核酸抽出システム100の効果について説明する。
【0027】
(1-3-1.参考技術の背景)
近年、食品製造現場の微生物検査では、迅速かつ簡便な検査手法が望まれている。ここで、遺伝子検査法は、従来培養法と比較して、迅速な検査手法である。特に、遺伝子検査法は、16S rRNAを対象とした解析は、汚染度や菌種判別等に有用である。
【0028】
(1-3-2.トライゾール法の概要)
トライゾール法は、以下の手順によって核酸を抽出する技術である。トライゾール法では、菌体培養液を調製し、ライセート調製を実施し、トライゾール処理を実施し、RNA精製を実施し、トータルRNA量を定量する。このとき、トライゾール法では、トライゾール処理として、ライセート調製後の試料について、トライゾールを添加し、65℃で20分間静置し、室温で5分間静置し、クロロホルムを添加し、室温で3分間静置し、4℃で15分間遠心分離を実施し、水層を回収し、回収した水層にイソプロピルアルコールを添加し、室温で10分間インキュベートし、4℃で10分間遠心分離し、チューブの側面および底部のRNAを回収する。
【0029】
(1-3-3.高温高圧法の概要)
高温高圧法は、特許文献1に記載された核酸抽出技術であって、以下の手順によって核酸を抽出する簡便で迅速な核酸抽出技術である。高温高圧法では、菌体培養液を調製し、加熱用溶液の調製を実施し、高温高圧処理を実施し、RNA精製を実施し、トータルRNA量を定量する。このとき、高温高圧法では、高温高圧処理として、加熱用溶液の調製後の試料をガラスチューブに封入し、140℃で45秒間加熱する。
【0030】
(1-3-4.参考技術の改善点)
上述した遺伝子検査法による解析を行うためには十分な核酸を用意する必要があるが、参考技術に係る核酸抽出技術においては、グラム陽性菌等の細胞表層が強固な菌体からのRNA等の核酸の回収量が少ない。そのため、参考技術に係る核酸抽出技術では、上記解析のために、多量の菌体を集菌する必要があるとともに、多量の菌体からの核酸の抽出が必要になるので、核酸抽出に長時間を要する。
【0031】
(1-3-5.核酸抽出システム100の概要)
核酸抽出システム100では、細胞Cを含む菌体培養液Sに、細胞Cの溶解を促進する酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加し、アクロモペプチダーゼが添加された菌体培養液Sを所定温度で保温し、所定時間保温した菌体培養液Sに細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加し、溶解補助剤Dを添加した菌体培養液Sを所定温度まで加熱することによって、核酸Nを抽出する。
【0032】
また、核酸抽出システム100では、細胞Cを含む菌体培養液Sに、細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加し、溶解補助剤Dを添加した菌体培養液Sを所定温度まで加熱し、所定時間加熱した菌体培養液Sを核酸Nを吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入することによって、核酸Nを精製する。
【0033】
(1-3-6.核酸抽出システム100の効果)
核酸抽出システム100は、以下のような効果が期待できる。第1に、核酸抽出システム100では、参考技術に係る核酸抽出技術と比較し、複数菌種で多量のRNA調製(核酸抽出)が可能となる。第2に、核酸抽出システム100では、低濃度菌体試料からのRNA回収量の底上げが可能となる。第3に、核酸抽出システム100では、遺伝子検査法の高感度化や増菌工程の短縮化が可能となる。第4に、核酸抽出システム100では、菌体培養液SからのRNAの調製を30分以内に完了することが可能となる。第5に、核酸抽出システム100では、特に迅速性を必要とする遺伝子検査法における核酸抽出にも用いることが可能となる。
【0034】
〔2.核酸抽出システム100の各工程の詳細〕
図1に示した核酸抽出システム100の各工程の詳細について説明する。以下では、実施形態に係る各工程について、採取工程、保温工程、封入工程、加熱工程、精製工程の順に説明する。
【0035】
(2-1.採取工程)
以下では、核酸抽出システム100の採取工程の詳細について、菌体培養工程、菌体培養液採取工程の順に説明する。
【0036】
(2-1-1.菌体培養工程)
第1に、核酸抽出システム100の採取工程では、菌体培養工程を実施する。例えば、菌体培養工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sにおいて、菌体を培養する。培養に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養工程では、菌体培養容器10として滅菌したガラス製の栓付き三角フラスコを使用し、菌体を培養する。培養する菌体の一例について説明すると、菌体培養工程では、大腸菌や黄色ブドウ球菌を培養する。培養する条件の一例について説明すると、菌体培養工程では、SCD液体培地において37℃で一晩培養する。
【0037】
(2-1-1-1.菌体培養液Sの培養方法)
上記の菌体培養工程で使用される菌体培養液Sは、核酸Nを有する試料を培養することにより得られる。試料の培養方法は、特に限定されず、例えば、試料を捕集したフィルターを直接固体培地上に置き、フィルターを介して試料を培養する方法(固相培養)が挙げられる。また、試料の別の培養方法としては、例えば、液体培地または固体培地を水に溶解させた溶液の存在下で試料を培養する方法(液相培養)が挙げられる。使用する液体培地または固体培地の種類は、培養する試料の種類や生理的条件によって選択される。
【0038】
(2-1-1-2.菌体培養液Sの試料)
上記の菌体培養工程において、処理対象である試料としては、グラム陽性菌等の細胞表層が強固な菌体について特に有効であるが、限定されない。例えば、処理対象である試料としては、微生物、微生物以外の動物細胞(例えば、昆虫細胞等)、植物細胞、マイコプラズマ、ウィルス等であってもよい。
【0039】
上記微生物としては、例えば、アシネトバクター(Acinetobacter)種、アクチノミセス(Actinomyces)種、アエロコッカス(Aerococcus)種、アエロモナス(Aeromonas)種、アルカリゲネス(Alcaligenes)種、バチルス(Bacillus)種、バクテリオデス(Bacteriodes)種、ボルデテラ(Bordetella)種、ブランハメラ(Branhamella)種、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)種、カンピロバクター(Campylobacter)種、カンジダ(Candida)種、カプノシトファギア(Capnocytophagia)種、クロモバクテリウム(Chromobacterium)種、クロストリジウム(Clostridium)種、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種、クリプトコッカス(Cryptococcus)種、デイノコッカス(Deinococcus)種、エンテロコッカス(Enterococcus)種、エリジペロスリックス(Erysipelothrix)種、エシェリシア(Escherichia)種、フラボバクテリウム(Flavobacterium)種、ゲメラ(Gemella)種、ヘモフィルス(Haemophilus)種、クレブシエラ(Klebsiella)種、ラクトバチルス(Lactobacillus)種、ラクトコッカス(Lactococcus)種、レジオネラ(Legionella)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種、リステリア(Listeria)種、ミクロコッカス(Micrococcus)種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)種、ナイセリア(Neisseria)種、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)種、ノカルディア(Nocardia)種、オエルスコビア(Oerskovia)種、パラコッカス(Paracoccus)種、ペディオコッカス(Pediococcus)種、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)種、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)種、プロテウス(Proteus)種、シュードモナス(Pseudomonas)種、ラーネラ(Rahnella)種、ロドコッカス(Rhodococcus)種、ロドスピリルム(Rhodospirillum)種、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種、ストレプトミセス(Streptomyces)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ビブリオ(Vibrio)種、およびイェルシニア(Yersinia)種からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0040】
上述した微生物の中には、生育状態によって芽胞や胞子といった形態をとる微生物が存在する。核酸抽出システム100の核酸抽出工程において、処理対象である試料の形態は、特に限定されない。また、核酸抽出システム100の核酸抽出工程において、処理対象である試料は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0041】
(2-1-2.菌体培養液採取工程)
第2に、核酸抽出システム100の採取工程では、菌体培養液採取工程を実施する。例えば、菌体培養液採取工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sの一部を保温容器20に採取する。採取に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養液採取工程では、採取する器具として滅菌したガラス製のピペットを使用し、保温容器20として滅菌した栓の付いたガラスチューブを使用し、菌体培養液Sを採取する。採取する菌体の細胞数の一例について説明すると、菌体培養液採取工程では、保温容器20に含まれる菌体の細胞数が1.0×10程度になるように菌体培養液Sを採取する。
【0042】
(2-2.保温工程)
以下では、核酸抽出システム100の保温工程の詳細について、酵素添加工程、前処理溶液調製工程、前処理溶液保温工程の順に説明する。
【0043】
(2-2-1.酵素添加工程)
第1に、核酸抽出システム100の保温工程では、酵素添加工程を実施する。例えば、酵素添加工程では、保温容器20に採取された菌体培養液Sに細胞Cの溶解を促進する酵素Eを添加する。添加に使用する器具の一例について説明すると、酵素添加工程では、添加する器具として滅菌したガラス製のピペットを使用し、酵素Eを含む溶液を菌体培養液Sに添加する。添加する酵素の一例について説明すると、酵素添加工程では、細胞Cを含む試料である菌体培養液Sに、細胞Cの溶解を促進する酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加する。また、酵素添加工程では、酵素Eとしてアクロモペプチダーゼのみならずリゾスタフィンをさらに添加してもよい。
【0044】
(2-2-1-1.酵素)
上記の酵素添加工程において、添加する酵素Eとしては、アクロモペプチダーゼ、またはアクロモペプチダーゼとリゾスタフィンとの双方が特に有効であるが、限定されない。例えば、添加する酵素Eとしては、プロテイナーゼK(Proteinase K)等のタンパク質分解酵素や、キチナーゼ(Chitinase)、リゾチーム(Lysozyme)、ザイモリエイス(Zymolyase)(登録商標)、ラビアーゼ(Labiase)等の多糖分解酵素であってもよい。
【0045】
(2-2-2.前処理溶液調製工程)
第2に、核酸抽出システム100の保温工程では、前処理溶液調製工程を実施する。例えば、前処理溶液調製工程では、酵素Eを含む菌体培養液Sである前処理溶液Iを調製する。調製する前処理溶液Iの各成分の終濃度の一例について説明すると、前処理溶液調製工程では、緩衝剤であるTris-HCl(pH8.0)を10mMで調製し、キレート剤であるEDTAを0.1mMで調製し、酵素Eであるアクロモペプチダーゼを400mg/mL、酵素Eであるリゾスタフィンを20μg/mLで調製するが、各成分の終濃度は特に限定されない。
【0046】
(2-2-3.前処理溶液保温工程)
第3に、核酸抽出システム100の保温工程では、前処理溶液保温工程を実施する。例えば、前処理溶液保温工程では、前処理溶液Iを収容した保温容器20を保温する。保温に使用する機器の一例について説明すると、前処理溶液保温工程では、保温容器20を保温する機器として恒温槽を使用し、前処理溶液Iを収容した保温容器20を一定温度に保温する。保温する条件の一例について説明すると、前処理溶液保温工程では、前処理溶液Iを収容した保温容器20を37℃で10分間保温するが、保温する温度および時間は細胞Cの溶解を促進可能な範囲であればよく、特に限定されない。このとき、前処理溶液保温工程では、アクロモペプチダーゼが添加された試料である前処理溶液Iを10分以上保温してもよい。
【0047】
(2-3.封入工程)
以下では、核酸抽出システム100の封入工程の詳細について、溶解補助剤添加工程、加熱用溶液調製工程、加熱用溶液封入工程の順に説明する。
【0048】
(2-3-1.溶解補助剤添加工程)
第1に、核酸抽出システム100の封入工程では、溶解補助剤添加工程を実施する。例えば、溶解補助剤添加工程では、保温工程において所定時間保温された試料である前処理溶液Iに細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加する。添加に使用する器具の一例について説明すると、溶解補助剤添加工程では、添加する器具として滅菌したガラス製のピペットを使用し、溶解補助剤Dを含む溶液を前処理溶液Iに添加する。添加する溶解補助剤Dの一例について説明すると、溶解補助剤添加工程では、界面活性剤としてSDSを含む溶解補助剤Dを添加する。
【0049】
(2-3-2.加熱用溶液調製工程)
第2に、核酸抽出システム100の封入工程では、加熱用溶液調製工程を実施する。例えば、加熱用溶液調製工程では、溶解補助剤Dを含む菌体培養液Sである加熱用溶液Hを調製する。調製する加熱用溶液Hの各成分の終濃度の一例について説明すると、加熱用溶液調製工程では、界面活性剤であるSDSを質量百分率1%、緩衝剤であるTris-HCl(pH8.0)を0.05Mで調製するが、各成分の終濃度は特に限定されない。
【0050】
(2-3-2-1.加熱用溶液Hの種類)
以下では、加熱用溶液Hの種類について説明する。核酸抽出システム100の加熱用溶液Hは、水のみでも上記効果を発揮するが、試料から核酸Nをより効率的に抽出する目的で、水以外に、界面活性剤、アルカリ、酸、酸化還元剤およびタンパク質変性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶解補助剤Dを含むことが好ましい。
【0051】
(2-3-2-2.溶解補助剤Dの種類)
以下では、溶解補助剤Dの種類について説明する。溶解補助剤Dは、試料の膜構造を溶解させる能力を有する。溶解補助剤Dが試料の膜構造に作用することで、試料を破壊しやすくなり、試料から核酸Nをより効率的に抽出することができる。
【0052】
(界面活性剤)
溶解補助剤Dとして使用する界面活性剤は、例えばイオン性であってもよく、非イオン性であってもよい。非イオン性の界面活性剤としては、例えばオクチルフェノールエトキシレート(C14H22O(C2H4O)n)等が挙げられる。核酸抽出システム100の核酸抽出工程では、市販品のオクチルフェノールエトキシレートを用いることができ、例えばSIGMA社製のTritonX-100(C14H22O(C2H4O)n,n=100)等が挙げられる。
【0053】
また、イオン性の界面活性剤は、陰イオン性であってもよく、陽イオン性であってもよく、両イオン性であってもよい。陰イオン性の界面活性剤としては、例えば上述したSDS等が挙げられる。陽イオン性の界面活性剤としては、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB:Cetyltrimethylammonium Bromide)等が挙げられる。両イオン性の界面活性剤としては、例えばベタイン等が挙げられる。ここで、「ベタイン」とは、正電荷と負電荷とを同一分子内の隣り合わない位置に持ち、正電荷をもつ原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、分子全体としては電荷を持たない化合物の総称のことである。ベタインの代表例としては、トリメチルグリシンが挙げられる。
【0054】
(アルカリ)
溶解補助剤Dとして使用するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、または水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0055】
(酸)
溶解補助剤Dとして使用する酸としては、例えば塩酸(HCl)、または硫酸(H2SO4)等が挙げられる。
【0056】
(酸化還元剤)
溶解補助剤Dとして使用する酸化還元剤としては、例えば過酸化水素水、β-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等が挙げられる。
【0057】
(タンパク質変性剤)
溶解補助剤Dとして使用するタンパク質変性剤としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等が挙げられる。
【0058】
(その他)
溶解補助剤Dの成分として、キレート剤を使用してもよい。溶解補助剤Dとして使用するキレート剤としては、例えば上述したEDTA等が挙げられる。
【0059】
また、上述した溶解補助剤Dの中でも、核酸抽出システム100の溶解補助剤Dは、界面活性剤を含むことが好ましく、SDSと、オクチルフェノールエトキシレートとのいずれか一方または両方を含むことがより好ましい。
【0060】
例えば、核酸抽出システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸を高感度で検出したい場合にはSDSを用いるとよい。これに対し、核酸抽出システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸Nを、SDSによって阻害される酵素反応に用いる場合には、試料の膜構造に対してSDSよりも温和に作用するオクチルフェノールエトキシレートを用いるとよい。
【0061】
核酸抽出システム100の溶解補助剤Dは、必要に応じて緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤としては、例えば上述したTris-HCl等が挙げられる。
【0062】
(2-3-3.加熱用溶液封入工程)
第3に、核酸抽出システム100の封入工程では、加熱用溶液封入工程を実施する。例えば、加熱用溶液封入工程では、調製された加熱用溶液Hを封入容器30に封入する。封入に使用する器具の一例について説明すると、加熱用溶液封入工程では、加熱用溶液Hを採取する器具として滅菌したガラス製のピペットを使用し、封入容器30として滅菌したガラスチューブを使用し、加熱用溶液Hを採取する。このとき、加熱用溶液封入工程では、複数の封入容器30に加熱用溶液Hを一定量ずつ採取する。そして、加熱用溶液封入工程では、加熱用溶液Hを一定量採取した後、ガラスチューブの栓をすることによって密閉する。
【0063】
(2-4.加熱工程)
以下では、核酸抽出システム100の加熱工程の詳細について、加熱装置予熱工程、封入容器設置工程、封入容器加熱工程の順に説明する。
【0064】
(2-4-1.加熱装置予熱工程)
第1に、核酸抽出システム100の加熱工程では、加熱装置予熱工程を実施する。例えば、加熱装置予熱工程では、加熱装置40を設定温度まで予熱する。加熱装置40の一例について説明すると、加熱装置予熱工程では、加熱装置40として、ヒートブロック、オイルバス等を使用する。予熱する温度の一例について説明すると、加熱装置予熱工程では、設定温度である140℃まで予熱するが、予熱する温度は核酸Nを抽出可能な範囲であればよく、特に限定されない。
【0065】
(2-4-2.封入容器設置工程)
第2に、核酸抽出システム100の加熱工程では、封入容器設置工程を実施する。例えば、封入容器設置工程では、加熱用溶液Hが封入された封入容器30を加熱装置40に収容する。このとき、封入容器設置工程では、複数の封入容器30をヒートブロックに挿入することによって設置する。
【0066】
(2-4-3.封入容器加熱工程)
第3に、核酸抽出システム100の加熱工程では、封入容器加熱工程を実施する。例えば、封入容器加熱工程では、設置された封入容器30を加熱装置40によって加熱し、加熱用溶液Hに核酸Nを抽出する。加熱する条件の一例について説明すると、封入容器加熱工程では、加熱用溶液Hを封入した封入容器30を140℃、45秒間加熱するが、加熱する温度および時間は核酸Nを抽出可能な範囲であればよく、特に限定されない。
【0067】
(2-4-3-1.核酸Nの種類)
上記の封入容器加熱工程において、封入容器30に収容された加熱用溶液Hに抽出される核酸Nとしては、16S rRNA等のRNAが特に有効であるが、限定されない。例えば、抽出される核酸Nとしては、デオキシリボ核酸(DNA:Deoxyribonucleic Acid)であるゲノムDNA、プラスミドDNA等であってもよい。
【0068】
(2-5.精製工程)
以下では、核酸抽出システム100の精製工程の詳細について、精製用溶液注入工程、溶出液注入工程、コピー数算出工程の順に説明する。
【0069】
(2-5-1.精製用溶液工程)
第1に、核酸抽出システム100の精製工程では、精製用溶液注入工程を実施する。例えば、精製用溶液注入工程では、加熱工程後の加熱用溶液Hであって細胞Cの核酸Nを含む精製用溶液Pを、吸着担体が充填された精製容器50に注入する。このとき、精製用溶液注入工程では、加熱工程において所定時間加熱された試料である精製用溶液Pを、核酸Nを吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入する。具体的な例を挙げて説明すると、精製用溶液注入工程では、NORGEN社製のRNA精製キット(Single Cell RNA Purification Kit)のシリカおよび炭化ケイ素との複合カラムを使用する。
【0070】
(2-5-2.溶出液注入工程)
第2に、核酸抽出システム100の精製工程では、溶出液注入工程を実施する。例えば、精製用溶液注入工程では、精製用溶液Pを注入した精製容器50に溶出液を注入し、核酸Nを精製する。このとき、溶出液注入工程では、精製用溶液注入工程においてカラムに吸着された16S rRNAを溶出液に溶解させることによって抽出する。具体的な例を挙げて説明すると、溶出液注入工程では、上述したRNA精製キットに付属する溶出液を使用する。
【0071】
(2-5-2-1.核酸Nの種類)
上記の溶出液注入工程において、溶出液に抽出される核酸Nとしては、16S rRNA等のRNAが特に有効であるが、限定されない。例えば、抽出される核酸Nとしては、DNAであるゲノムDNA、プラスミドDNA等であってもよい。
【0072】
(2-5-3.コピー数算出工程)
第3に、核酸抽出システム100の精製工程では、コピー数算出工程を実施する。例えば、コピー数算出工程では、精製された核酸Nのコピー数を算出する。このとき、コピー数算出工程では、16S rRNAのコピー数をリアルタイムPCR法によって算出する。
【0073】
〔3.各種実験結果〕
図2図6を用いて、実施形態に係る核酸抽出システム100による各種実験結果について説明する。
【0074】
(3-1.実験結果1)
図2を用いて、核酸抽出システム100による16S rRNAのコピー数の一例を示す実験結果1について説明する。図2は、実施形態に係る実験結果1を説明するための図である。実験結果1では、グラム陰性菌である大腸菌(E.coli)およびグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(S.aureus)における核酸抽出技術ごとの16S rRNAのコピー数を比較することができる。
【0075】
(3-1-1.大腸菌)
図2の「E.coli」に示す棒グラフは、上述した参考技術であるトライゾール法を用いて大腸菌から抽出した16S rRNAのコピー数(図2(1-1)参照)、上述した参考技術である高温高圧法を用いて大腸菌から抽出した16S rRNAのコピー数(図2(1-2)参照)、核酸抽出システム100を用いて大腸菌から抽出した16S rRNAのコピー数(図2(1-3)参照)を示す。図2(1-1)~(1-3)に示すように、核酸抽出システム100では、参考技術に係る核酸抽出技術と比較して、25倍程度のコピー数の16S rRNAが抽出できる。
【0076】
(3-1-2.黄色ブドウ球菌)
図2の「S.aureus」に示す棒グラフは、上述した参考技術であるトライゾール法を用いて黄色ブドウ球菌から抽出した16s rRNAのコピー数(図2(2-1)参照)、上述した参考技術である高温高圧法を用いて黄色ブドウ球菌から抽出した16s rRNAのコピー数(図2(2-2)参照)、核酸抽出システム100を用いて黄色ブドウ球菌から抽出した16s rRNAのコピー数(図2(2-3)参照)を示す。図2(2-1)~(2-3)に示すように、核酸抽出システム100では、参考技術に係る核酸抽出技術と比較して、500~700倍程度のコピー数の16S rRNAが抽出できる。
【0077】
(3-1-3.実験結果1の考察)
図2の実験結果1より、核酸抽出システム100では、参考技術に係る核酸抽出技術と比較して、グラム陰性菌である大腸菌およびグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌ともに、効果的に16S rRNAが抽出できる。また、核酸抽出システム100では、参考技術に係る核酸抽出技術と比較して、特にグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌について、効果的に16S rRNAが抽出できる。
【0078】
(3-2.実験結果2)
図3を用いて、核酸抽出システム100による酵素ごとの16s rRNAのコピー数の一例を示す実験結果2について説明する。図3は、実施形態に係る実験結果2を説明するための図である。実験結果2では、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌における酵素ごとの16s rRNAのコピー数を比較することができる。なお、図3の棒グラフのデータラベルは、後述する(3-2-1.酵素不添加)によって抽出された16S rRNAのコピー数を基準とした際の倍率を示す。また、後述する(3-2-1.酵素不添加)、(3-2-2.リゾチーム)、(3-2-3.アクロモペプチダーゼ)、(3-2-4.ラビアーゼ)において、酵素Eとして20μg/mLのリゾスタフィンが添加されている。
【0079】
(3-2-1.酵素不添加)
図3(1)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌を細胞数1.0×10含む菌体培養液Sを使用し、上述した核酸抽出システム100の保温工程においてリゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない前処理溶液Iから抽出した16S rRNAのコピー数を示す。
【0080】
(3-2-2.リゾチーム)
図3(2)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌を細胞数1.0×10含む菌体培養液Sを使用し、上述した核酸抽出システム100の保温工程においてリゾスタフィン以外の酵素Eとしてリゾチームを、10mg/mL、20mg/mL、80mg/mL添加した前処理溶液Iから抽出した16S rRNAのコピー数を示す。図3(2)に示すように、酵素Eとしてリゾチームを添加した核酸抽出システム100では、図3(1)に示すリゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない工程と比較して、10mg/mLでは5.3倍、20mg/mLでは2.7倍、80mg/mLでは0.0倍のコピー数の16S rRNAが抽出できる。ここで、酵素Eの濃度が増加するにつれてコピー数が減少しているのは、酵素Eの製品中に含まれるヌクレアーゼ活性によるRNA分解が起こるためである。
【0081】
(3-2-3.アクロモペプチダーゼ)
図3(3)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌を細胞数1.0×10含む菌体培養液Sを使用し、上述した核酸抽出システム100の保温工程においてリゾスタフィン以外の酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを、10μg/mL、20μg/mL、100μg/mL、400μg/mL添加した前処理溶液Iから抽出した16s rRNAのコピー数を示す。図3(3)に示すように、酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加した核酸抽出システム100では、図3(1)に示すリゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない工程と比較して、10μg/mLでは8.3倍、20μg/mLでは8.5倍、100μg/mLでは9.1倍、400μg/mLでは0.9倍のコピー数の16S rRNAが抽出できる。ここで、酵素Eの濃度が増加するにつれてコピー数が減少しているのは、酵素Eの製品中に含まれるヌクレアーゼ活性によるRNA分解が起こるためである。
【0082】
(3-2-4.ラビアーゼ)
図3(4)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌を細胞数1.0×10含む菌体培養液Sに対応する試料を使用し、上述した核酸抽出システム100の保温工程においてリゾスタフィン以外の酵素Eとしてラビアーゼを10mg/mL添加した前処理溶液Iから抽出した16S rRNAのコピー数を示す。図3(4)に示すように、酵素Eとしてラビアーゼを添加した核酸抽出システム100では、図3(1)に示すリゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない工程と比較して、10mg/mLでは1.3倍のコピー数の16S rRNAが抽出できる。
【0083】
(3-2-5.実験結果2の考察)
図3の実験結果2より、核酸抽出システム100では、リゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない工程と比較して、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に対して、酵素Eを過剰に添加しない場合には効果的に16S rRNAが抽出できる。特に、核酸抽出システム100では、酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを適量に添加した場合には、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌について、より効果的に16S rRNAが抽出できる。
【0084】
(3-3.実験結果3)
図4を用いて、核酸抽出システム100による酵素ごとの16S rRNAの保存率の一例を示す実験結果3について説明する。図4は、実施形態に係る実験結果3を説明するための図である。実験結果3では、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌における酵素ごとの16S rRNAの保存率を比較し、酵素Eの製品に含まれるヌクレアーゼ活性によるRNA分解のトレードオフを確認することができる。なお、後述する(3-3-1.酵素不添加)、(3-3-2.リゾチーム)、(3-3-3.アクロモペプチダーゼ)、(3-3-4.ラビアーゼ)において、酵素Eとして20μg/mLのリゾスタフィンが添加されている。
【0085】
(3-3-1.酵素不添加)
図4(1)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された細胞数1.0×10に対応する精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない場合のRNAの保存率を示す。図4(1)に示すように、リゾスタフィン以外の酵素Eを添加しない場合には、16S rRNAの保存率が100%となる。
【0086】
(3-3-2.リゾチーム)
図4(2)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された細胞数1.0×10に対応する精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eとしてリゾチームを、10mg/mL、20mg/mL、80mg/mL添加した場合のRNAの保存率を示す。図4(2)に示すように、酵素Eとしてリゾチームを添加した核酸抽出システム100では、10mg/mLでは16S rRNAの保存率が微減し、20mg/mLおよび80mg/mLでは16S rRNAの保存率がほぼ0%となる。
【0087】
(3-3-3.アクロモペプチダーゼ)
図4(3)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された細胞数1.0×10に対応する精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを、10μg/mL、20μg/mL、100μg/mL、400μg/mL添加した場合のRNAの保存率を示す。図4(3)に示すように、酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加した核酸抽出システム100では、10μg/mLおよび20μg/mLでは16S rRNAの保存率がほぼ100%であり、100μg/mLでは16S rRNAの保存率が微減し、400μg/mLでは16S rRNAの保存率がほぼ0%となる。
【0088】
(3-3-4.ラビアーゼ)
図4(4)に示す棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された細胞数1.0×10に対応する精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eとしてラビアーゼを、10mg/mL添加した場合のRNAの保存率を示す。図4(4)に示すように、酵素Eとしてラビアーゼを添加した核酸抽出システム100では、10mg/mLでは16S rRNAの保存率が10%以下となる。
【0089】
(3-3-5.実験結果3の考察)
図4の実験結果3より、核酸抽出システム100における酵素Eのヌクレアーゼ活性によるRNA分解の影響が少ない条件が確認できる。すなわち、核酸抽出システム100において、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に対して、リゾスタフィン以外の酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを10mg/mL~20mg/mL添加する場合には、特に効果的に16S rRNAが抽出できる。
【0090】
(3-4.実験結果4)
図5を用いて、核酸抽出システム100によるRNAの残存量の一例を示す実験結果4について説明する。図5は、実施形態に係る実験結果4を説明するための図である。実験結果4では、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌について酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを使用し、アクロモペプチダーゼの濃度ごとの16S rRNAの保存量を、EDTAの添加の有無の条件ごとに比較し、酵素Eの製品に含まれるヌクレアーゼ活性によるRNA分解とEDTAとの関係を確認することができる。なお、図5のグラフにおける「RNA残存量(%)」は、アクロモペプチダーゼを添加しない場合のRNA残存量を100%としたものである。
【0091】
(3-4-1.EDTA不添加)
図5に示す白地の棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加し、かつキレート剤であるEDTAを添加しない場合のRNAの保存量を示す。図5に示すように、EDTAを添加しない場合には、アクロモペプチダーゼの濃度が10μg/mL~40μg/mLでは16S rRNAの保存量が増加し、100μg/mL以上では16S rRNAの保存量が減少し、400μg/mL以上では16S rRNAの保存量がほぼ0%となる。
【0092】
(3-4-2.EDTA添加)
図5に示す斜線の棒グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対してリゾスタフィン以外の酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加し、かつキレート剤であるEDTAを5mM添加した場合のRNAの保存量を示す。図5に示すように、EDTAを添加した場合には、アクロモペプチダーゼの濃度が400μg/mL以上であっても16S rRNAの保存量が100%以上となる。
【0093】
(3-4-3.実験結果4の考察)
図5の実験結果4より、核酸抽出システム100における酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加した場合であっても、キレート剤であるEDTAを添加することによってヌクレアーゼ活性によるRNA分解を防止し、核酸抽出システム100における酵素Eを使用した工程の効果的な条件を確認することができる。
【0094】
(3-5.実験結果5)
図6を用いて、核酸抽出システム100によるRNAの回収率の一例を示す実験結果5について説明する。図6は、実施形態に係る実験結果5を説明するための図である。実験結果5では、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された精製済みのRNAを使用し、当該RNAに対するカラムの素材ごとのRNAの回収率を示す。図6に示すように、供試した、すなわちカラムに注入したRNAのコピー数に対して、カラムから回収した、すなわち抽出したRNAのコピー数が「RNA回収率(%)」となる。
【0095】
(3-5-1.シリカカラム)
図6に示す破線の折れ線グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された精製済みのRNAを使用し、シリカが充填されたシリカカラムに当該RNAを含む溶液を注入することによって吸着させ、当該カラムに溶出液を注入することによって当該RNAを抽出した場合のRNAの回収率を示す。図6に示すように、シリカカラムを使用する場合には、供試RNAのコピー数が低濃度の1.0×10~1.0×10において、回収率が5%~20%程度である。
【0096】
(3-5-2.複合カラム)
図6に示す実線の折れ線グラフは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌から抽出された精製済みのRNAを使用し、シリカおよび炭化ケイ素の複合素材が充填された複合カラムに当該RNAを含む溶液を注入することによって吸着させ、当該カラムに溶出液を注入することによって当該RNAを抽出した場合のRNAの回収率を示す。図6に示すように、複合カラムを使用する場合には、供試RNAのコピー数が低濃度の1.0×10~1.0×1010において、回収率が50%~70%程度である。
【0097】
(3-5-3.実験結果5の考察)
図6の実験結果5より、核酸抽出システム100において、カラムとしてシリカおよび炭化ケイ素の複合素材が充填された複合カラムを使用した場合には、シリカカラムと比較して、低濃度であっても6倍程度のコピー数の16S rRNAが抽出できる。
【0098】
〔4.核酸抽出システム100の処理の流れ〕
図7図12を用いて、実施形態に係る核酸抽出システム100の処理の流れについて説明する。以下では、核酸抽出システム100の工程全体である核酸抽出工程の流れを説明した上で、採取工程の流れ、保温工程の流れ、封入工程の流れ、加熱工程の流れ、精製工程の流れの順に説明する。
【0099】
(4-1.核酸抽出工程の流れ)
図7を用いて、核酸抽出システム100の工程全体である核酸抽出工程の流れについて説明する。図7は、実施形態に係る核酸抽出工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS101~S105は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS101~S105のうち、省略される工程があってもよい。
【0100】
第1に、核酸抽出システム100では、採取工程を実施する(ステップS101)。第2に、核酸抽出システム100では、保温工程を実施する(ステップS102)。第3に、核酸抽出システム100では、封入工程を実施する(ステップS103)。第4に、核酸抽出システム100では、加熱工程を実施する(ステップS104)。第5に、核酸抽出システム100では、精製工程を実施し(ステップS105)、核酸抽出工程を終了する。
【0101】
(4-2.採取工程の流れ)
図8を用いて、核酸抽出システム100の採取工程の流れについて説明する。図8は、実施形態に係る採取工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS201~S202は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS201~S202のうち、省略される工程があってもよい。
【0102】
第1に、核酸抽出システム100の採取工程では、菌体培養工程を実施する(ステップS201)。第2に、核酸抽出システム100の採取工程では、菌体培養液採取工程を実施し(ステップS202)、採取工程を終了する。
【0103】
(4-3.保温工程の流れ)
図9を用いて、核酸抽出システム100の保温工程の流れについて説明する。図9は、実施形態に係る保温工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS301~S303は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS301~S303のうち、省略される工程があってもよい。
【0104】
第1に、核酸抽出システム100の保温工程では、酵素添加工程を実施する(ステップS301)。第2に、核酸抽出システム100の保温工程では、前処理溶液調製工程を実施する(ステップS302)。第3に、核酸抽出システム100の保温工程では、前処理溶液保温工程を実施し(ステップS303)、保温工程を終了する。
【0105】
(4-4.封入工程の流れ)
図10を用いて、核酸抽出システム100の封入工程の流れについて説明する。図10は、実施形態に係る封入工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS401~S403は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS401~S403のうち、省略される工程があってもよい。
【0106】
第1に、核酸抽出システム100の封入工程では、溶解補助剤添加工程を実施する(ステップS401)。第2に、核酸抽出システム100の封入工程では、加熱用溶液調製工程を実施する(ステップS402)。第3に、核酸抽出システム100の封入工程では、加熱用溶液封入工程を実施し(ステップS403)、封入工程を終了する。
【0107】
(4-5.加熱工程の流れ)
図11を用いて、核酸抽出システム100の加熱工程の流れについて説明する。図11は、実施形態に係る加熱工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS501~S503は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS501~S503のうち、省略される工程があってもよい。
【0108】
第1に、核酸抽出システム100の加熱工程では、加熱装置予熱工程を実施する(ステップS501)。第2に、核酸抽出システム100の加熱工程では、封入容器設置工程を実施する(ステップS502)。第3に、核酸抽出システム100の加熱工程では、封入容器加熱工程を実施し(ステップS503)、加熱工程を終了する。
【0109】
(4-6.精製工程の流れ)
図12を用いて、核酸抽出システム100の精製工程の流れについて説明する。図12は、実施形態に係る精製工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS601~S603は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS601~S603のうち、省略される工程があってもよい。
【0110】
第1に、核酸抽出システム100の精製工程では、精製用溶液調製工程を実施する(ステップS601)。第2に、核酸抽出システム100の精製工程では、溶出液注入工程を実施する(ステップS602)。第3に、核酸抽出システム100の精製工程では、コピー数算出工程を実施し(ステップS603)、精製工程を終了する。
【0111】
〔5.実施形態の効果〕
最後に、実施形態の効果について説明する。以下では、実施形態に係る工程に対応する効果1~8について説明する。
【0112】
(5-1.効果1)
第1に、上述した実施形態に係る工程では、細胞Cを含む試料に細胞Cの溶解を促進する酵素Eとしてアクロモペプチダーゼを添加し、アクロモペプチダーゼを添加した試料を所定温度で保温し、所定時間保温した試料に細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加し、溶解補助剤Dが添加された試料を所定温度まで加熱することによって、細胞Cから核酸Nを抽出する。このため、実施形態に係る工程では、効果的に細胞Cの溶解を促進することによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0113】
(5-2.効果2)
第2に、上述した実施形態に係る工程では、細胞Cを含む試料に細胞Cの溶解を促進する溶解補助剤Dを添加し、溶解補助剤Dが添加した試料を所定温度まで加熱し、所定時間加熱した試料を核酸Nを吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入し、核酸Nを精製することによって、細胞Cから核酸Nを抽出する。このため、実施形態に係る工程では、効果的に核酸Nをカラムに吸着させることによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0114】
(5-3.効果3)
第3に、上述した実施形態に係る工程では、核酸Nは、RNAである。このため、実施形態に係る工程では、試料に含まれる核酸NとしてRNAを効率よく抽出することができる。
【0115】
(5-4.効果4)
第4に、上述した実施形態に係る工程では、細胞Cは、グラム陽性菌が有する細胞Cである。このため、実施形態に係る工程では、効果的にグラム陽性菌の細胞Cの溶解を促進することによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0116】
(5-5.効果5)
第5に、上述した実施形態に係る工程では、溶解補助剤Dは、界面活性剤としてSDSを含む。このため、実施形態に係る工程では、高温高圧処理に際して効果的に細胞Cの溶解を促進することによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0117】
(5-6.効果6)
第6に、上述した実施形態に係る工程では、細胞Cを含む試料に、キレート剤としてEDTAをさらに添加する。このため、実施形態に係る工程では、細胞Cの溶解を促進する酵素Eが高濃度であっても、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0118】
(5-7.効果7)
第7に、上述した実施形態に係る工程では、細胞Cを含む試料に、酵素Eとしてリゾスタフィンをさらに添加する。このため、実施形態に係る工程では、より効果的な酵素Eを使用して細胞Cの溶解を促進することによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0119】
(5-8.効果8)
第8に、上述した実施形態に係る工程では、アクロモペプチダーゼが添加された試料を10分以上保温する。このため、実施形態に係る工程では、より効果的な時間を保温して細胞Cの溶解を促進することによって、試料に含まれる核酸Nを効率よく抽出することができる。
【0120】
〔システム〕
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0121】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0122】
〔その他〕
開示される技術特徴の組合せのいくつかの例を以下に記載する。
【0123】
(1)細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する酵素としてアクロモペプチダーゼを添加し、前記アクロモペプチダーゼが添加された前記試料を所定温度で保温する保温工程と、前記保温工程において所定時間保温された前記試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、を含む核酸抽出方法。
【0124】
(2)細胞から核酸を抽出する核酸抽出方法であって、前記細胞を含む試料に、前記細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、前記溶解補助剤が添加された前記試料を所定温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程において所定時間加熱された前記試料を、前記核酸を吸着する吸着担体としてシリカおよび炭化ケイ素を有するカラムに注入し、前記核酸を精製する精製工程と、を含む核酸抽出方法。
【0125】
(3)前記核酸は、リボ核酸である、(1)または(2)に記載の核酸抽出方法。
【0126】
(4)前記細胞は、グラム陽性菌が有する細胞である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の核酸抽出方法。
【0127】
(5)前記溶解補助剤は、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の核酸抽出方法。
【0128】
(6)前記保温工程は、前記細胞を含む試料に、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸をさらに添加する、(1)に記載の核酸抽出方法。
【0129】
(7)前記保温工程は、前記細胞を含む試料に、前記酵素としてリゾスタフィンをさらに添加する、(1)に記載の核酸抽出方法。
【0130】
(8)前記保温工程は、前記アクロモペプチダーゼが添加された前記試料を10分以上保温する、(1)に記載の核酸抽出方法。
【符号の説明】
【0131】
10 菌体培養容器
20 保温容器
30 封入容器
40 加熱装置
50 精製容器
100 核酸抽出システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12