(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060884
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
F04C18/02 311U
F04C18/02 311H
F04C18/02 311F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168449
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 善彰
(72)【発明者】
【氏名】野口 章浩
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 俊介
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB28
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC16
3H039CC22
(57)【要約】
【課題】吸入ポートから内部空間に導かれた冷媒を圧縮部に導く際の圧力損失を低減して圧縮効率を向上させる。
【解決手段】スクロール圧縮機構5と、スクロール圧縮機構5を収容するリアハウジング2と、旋回スクロール16の端面16aと接触する摺動面3Baがスクロール圧縮機構5側の端部に形成されたフロントハウジング3と、を備え、リアハウジング2には、冷媒ガスを内部空間ISに導く吸入ポート2bが形成されており、摺動面3Baが配置される位置において、フロントハウジング3の径方向RDの外縁部3cは、リアハウジング2の内周面2cとの間に隙間CLを空けて配置され、吸入ポート2bから内部空間ISへ導かれた冷媒ガスをスクロール圧縮機構5側に導くように軸線X回りの周方向の複数箇所に径方向RDの内側に向けて切り欠かれた切欠部3dを有する圧縮機1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールと前記固定スクロールに噛み合わされる旋回スクロールとを有する圧縮部と、
軸線回りに回転するとともに前記軸線から偏心して配置される偏心軸を介して前記旋回スクロールに取り付けられる駆動軸と、
前記駆動軸を支持する軸受部と、
前記圧縮部を収容するとともに前記軸線に沿って筒状に形成される第1ハウジングと、
前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所と前記旋回スクロールの端面と接触する摺動面が前記圧縮部側の端部に形成された第2ハウジングと、を備え、
前記第1ハウジングには、前記圧縮部により圧縮される冷媒を前記摺動面よりも前記軸線に沿った方向の前記軸受部側の内部空間に導く吸入ポートが形成されており、
前記摺動面が配置される位置において、前記第2ハウジングの前記軸線に直交する径方向の外縁部は、前記第1ハウジングの内周面との間に隙間を空けて配置され、前記吸入ポートから前記内部空間へ導かれた前記冷媒を前記軸線に沿った方向の前記圧縮部側に導くように前記軸線回りの周方向の複数箇所に前記径方向の内側に向けて切り欠かれた切欠部を有するスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記第2ハウジングは、前記凹所が形成された本体部と、前記本体部に取り付けられるとともに前記摺動面を形成する板状のスラストプレートと、を有し、
前記切欠部は、前記本体部に形成される第1切欠形状と前記スラストプレートに形成される第2切欠形状とを前記周方向の同一位置に配置して形成されている請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記第2ハウジングは、前記凹所が形成された第1本体部と、前記摺動面と前記切欠部とが形成された第2本体部と、を有し、
前記第1本体部は、締結ボルトが締結される複数の締結穴を有し、
前記第2本体部は、前記周方向の前記切欠部と対応する位置に前記締結ボルトを貫通させる貫通穴を有する請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記切欠部は、前記周方向の2以上の箇所に形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定スクロールと固定スクロールに噛み合わされる旋回スクロールとを有するスクロール圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、吸入口からスクロール圧縮機構を収容するハウジングの密閉空間に潤滑油を含む冷媒が供給される。密閉空間に供給された冷媒は、ハウジングとメイン軸受を保持するフロントハウジングとの間の隙間からスクロール圧縮機構に導かれ、スクロール圧縮機構で圧縮された後に吐出口から外部へ吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、ハウジングとフロントハウジングとの間の微小な隙間を冷媒が通過するため、この隙間を通過する際に圧力損失が生じてしまい圧縮機の圧縮効率を低下させる要因となる。また、この隙間を広くとると装置が大型化してしまうため装置の小型化を実現することができない。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、吸入ポートから内部空間に導かれた冷媒を圧縮部に導く際の圧力損失を低減して圧縮効率を向上させることが可能なスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールと前記固定スクロールに噛み合わされる旋回スクロールとを有する圧縮部と、軸線回りに回転するとともに前記軸線から偏心して配置される偏心軸を介して前記旋回スクロールに取り付けられる駆動軸と、前記駆動軸を支持する軸受部と、前記圧縮部を収容するとともに前記軸線を中心とした第1半径の円形の内周面を有する第1ハウジングと、前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所と前記旋回スクロールの端面と接触する摺動面が前記圧縮部側の端部に形成された第2ハウジングと、を備え、前記第1ハウジングには、前記圧縮部により圧縮される冷媒を前記摺動面よりも前記軸線に沿った方向の前記軸受部側の内部空間に導く吸入ポートが形成されており、前記摺動面は、前記軸線を中心とした前記第1半径よりも小さい第2半径の円形の外形を有し、前記摺動面が配置される位置において、前記第2ハウジングの前記軸線に直交する径方向の外縁部には、前記第1ハウジングの内周面との間に隙間を空けて配置され、前記吸入ポートから前記内部空間へ導かれた前記冷媒を前記軸線に沿った方向の前記圧縮部側に導くように前記軸線回りの周方向の複数箇所に前記径方向の内側に向けて切り欠かれた切欠部が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、吸入ポートから内部空間に導かれた冷媒を圧縮部に導く際の圧力損失を低減して圧縮効率を向上させることが可能なスクロール圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る圧縮機の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの本体部にスラストプレートを取り付けた状態を示す。
【
図3】
図1に示すスラストプレートの平面図である。
【
図4】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの本体部からスラストプレートを取り外した状態を示す。
【
図5】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの摺動面に旋回スクロールの端面を取り付けた状態を示す。
【
図6】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの摺動面に旋回スクロールの端面を取り付けた状態を示す。
【
図7】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの摺動面に旋回スクロールの端面を取り付けた状態を示す。
【
図8】
図1に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの摺動面に旋回スクロールの端面を取り付けた状態を示す。
【
図9】本開示の第2実施形態に係る圧縮機の概略構成を示す縦断面図である。
【
図10】
図9に示すフロントハウジングをスクロール圧縮機構側からみた図であり、フロントハウジングの本体部にスラストプレートを取り付けた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
以下、本開示の第1実施形態に係る開放型スクロール圧縮機(以下、圧縮機と呼ぶ)1について、図面を参照して説明する。
図1は、本開示の第1実施形態に係る圧縮機1の概略構成を示す縦断面図である。
図1は、後述する
図2に示す圧縮機1のA-A矢視断面図となっている。
図1に示す白矢印は、冷媒ガスの流通経路の一例を示す。
【0010】
本実施形態の圧縮機1は、
図1に示すように、軸線X回りの周方向に沿って筒状に形成されるリアハウジング2(第1ハウジング)と、リアハウジング2の前端側に設けられる開口部2aを閉塞するように取り付けられるフロントハウジング3(第2ハウジング)とを備える。
【0011】
また、本実施形態の圧縮機1は、スクロール圧縮機構(圧縮部)5と、駆動軸6と、メイン軸受(軸受部)7と、サブ軸受8と、リップシール9と、軸受10と、電磁クラッチ11と、クランクピン(偏心軸)13と、ドライブブッシュ14と、固定スクロール15と、旋回スクロール16と、バランスウェイト30と、オルダムリンク31と、を備える。
【0012】
リアハウジング2は、後端側が閉塞した形状となっており、前端側の開口部2aにフロントハウジング3がボルト(図示略)によって固定される。リアハウジング2にフロントハウジング3が固定された状態で内部に内部空間ISが形成され、内部空間ISにスクロール圧縮機構5および駆動軸6が収容される。
【0013】
リアハウジング2の外周面には、冷媒ガスを内部空間ISに流入させる吸入ポート2bと、スクロール圧縮機構5により圧縮された冷媒ガスを内部空間ISから外部へ吐出する吐出ポート(図示略)とが形成されている。吸入ポート2bは、冷媒ガスを後述するスラストプレート3Bの摺動面3Baよりも軸線Xに沿った方向のメイン軸受7側の内部空間ISに導く。
【0014】
フロントハウジング3は、メイン軸受7を軸線X上に保持するための凹所3aと、サブ軸受8を軸線X上に保持するための凹所3bとが内部に形成され、リアハウジング2側が開口した略筒状の部材である。凹所3aは、スクロール圧縮機構5側の端部に形成されている。
【0015】
また、フロントハウジング3は、凹所3aおよび凹所3bが形成された本体部3Aと、本体部3Aのスクロール圧縮機構5側の端部に取り付けられる板状のスラストプレート3Bと、を有する。本体部3Aのスクロール圧縮機構5側の端部には、スラストプレート3Bを収容するための円環状の溝部3Aaが形成されている。
【0016】
スラストプレート3Bは、旋回スクロール16の端面16aと接触する摺動面3Baをスクロール圧縮機構5側の端部に形成する。スラストプレート3Bは、例えば、鉄を主成分とする金属材料により形成されており、表面にフッ素樹脂材料(例えば、PTFE)をコーティングすることにより潤滑性の高い摺動面3Baとしている。
【0017】
次に、
図2から
図4を参照して、フロントハウジング3に形成される摺動面3Baと、第1ハウジングの外縁部3cに形成される切欠部3dについて詳細に説明する。
図2は、
図1に示すフロントハウジング3をスクロール圧縮機構5側からみた図であり、フロントハウジング3の本体部3Aにスラストプレート3Bを取り付けた状態を示す。
図3は、
図1に示すスラストプレート3Bの平面図である。
図4は、
図1に示すフロントハウジング3をスクロール圧縮機構5側からみた図であり、フロントハウジング3の本体部3Aからスラストプレート3Bを取り外した状態を示す。
図2および
図4は、スクロール圧縮機構5およびオルダムリンク31を取り外した状態を示す。
【0018】
図1および
図2に示すように、摺動面3Baが配置される軸線X方向の位置において、フロントハウジング3の摺動面3Baの軸線Xに直交する径方向RDの外縁部3cは、リアハウジング2の内周面2cとの間に隙間CLを空けて配置されている。また、摺動面3Baが配置される軸線X方向の位置において、フロントハウジング3の摺動面3Baの軸線Xに直交する径方向RDの外縁部3cは、吸入ポート2bから内部空間ISへ導かれた冷媒を軸線Xに沿った方向のスクロール圧縮機構5側に導くように軸線X回りの周方向CDの複数箇所(
図2では4箇所)に径方向RDの内側に向けて切り欠かれた切欠部3dを有する。
【0019】
図3に示すように、スラストプレート3Bには、切欠部3dの一部を形成する切欠形状(第2切欠形状)3Bbが、周方向CDの複数箇所(
図3では4箇所)に形成されている。
図4に示すように、本体部3Aには、切欠部3dの一部を形成する切欠形状(第1切欠形状)3Abが、周方向CDの複数箇所(
図4では4箇所)に形成されている。
図2に示すように、フロントハウジング3の切欠部3dは、
図4に示す本体部3Aに形成される切欠形状3Abと、
図3に示すスラストプレート3Bに形成される切欠形状3Bbを周方向CDの同一位置に配置して形成されている。
【0020】
図2から
図4において、フロントハウジング3の切欠部3dは、周方向CDの4箇所に形成するものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、フロントハウジング3の切欠部3dは、周方向CDの2以上の箇所に形成してもよく、4以上の箇所に形成するのが好ましい。
【0021】
ここで、
図5から
図8を参照して、旋回スクロール16を軸線X回りに公転旋回させる際の旋回スクロール16とフロントハウジング3の切欠部3dとの位置関係について説明する。
図5から
図8は、
図1に示すフロントハウジング3をスクロール圧縮機構5側からみた図であり、フロントハウジング3の摺動面3Baに旋回スクロール16の端面を取り付けた状態を示す。旋回スクロール16は、軸線Xを中心とした反時計回り方向に
図5、
図6、
図7、
図8の順に公転旋回する。
【0022】
図5では、旋回スクロール16の中心Coが軸線Xに対して図中の上方に位置している。そのため、旋回スクロール16の径方向RDの外縁部16bの下方側において、外縁部16bから2箇所の切欠部3dが露出している。そのため、吸入ポート2bから内部空間ISへ流入した冷媒は、外縁部16bから露出した2箇所の切欠部3dからスクロール圧縮機構5へ導かれ、スクロール圧縮機構5に吸入される。
【0023】
図6では、旋回スクロール16の中心Coが軸線Xに対して図中の左方に位置している。そのため、旋回スクロール16の径方向RDの外縁部16bの右方側において、外縁部16bから2箇所の切欠部3dが露出している。そのため、吸入ポート2bから内部空間ISへ流入した冷媒は、外縁部16bから露出した2箇所の切欠部3dからスクロール圧縮機構5へ導かれ、スクロール圧縮機構5に吸入される。
【0024】
図7では、旋回スクロール16の中心Coが軸線Xに対して図中の下方に位置している。そのため、旋回スクロール16の径方向RDの外縁部16bの上方側において、外縁部16bから2箇所の切欠部3dが露出している。そのため、吸入ポート2bから内部空間ISへ流入した冷媒は、外縁部16bから露出した2箇所の切欠部3dからスクロール圧縮機構5へ導かれ、スクロール圧縮機構5に吸入される。
【0025】
図8では、旋回スクロール16の中心Coが軸線Xに対して図中の右方に位置している。そのため、旋回スクロール16の径方向RDの外縁部16bの左方側において、外縁部16bから2箇所の切欠部3dが露出している。そのため、吸入ポート2bから内部空間ISへ流入した冷媒は、外縁部16bから露出した2箇所の切欠部3dからスクロール圧縮機構5へ導かれ、スクロール圧縮機構5に吸入される。
【0026】
以上のように、旋回スクロール16を軸線X回りに公転旋回させる際に、公転旋回の各位相において、吸入ポート2bから内部空間ISへ流入した冷媒は、外縁部16bから露出したそれぞれ2箇所の切欠部3dからスクロール圧縮機構5へ導かれ、スクロール圧縮機構5に吸入される。そのため、切欠部3dをフロントハウジング3に設けない場合に比べ、冷媒ガスが内部空間ISからスクロール圧縮機構5へ流入する際の圧力損失が低減する。
【0027】
駆動軸6は、フロントハウジング3にメイン軸受7およびサブ軸受8を介して回転自在に支持されている。また、フロントハウジング3からリップシール9を介して外部に突出した駆動軸6の前端部には、フロントハウジング3の外周部に軸受10を介して回転自在に設置された電磁クラッチ11のプーリ11aがクラッチアマチュア板11bを介して着脱可能に連結されている。電磁クラッチ11の電源がオンとなってプーリ11aがクラッチアマチュア板11bに連結される場合、プーリ11aを駆動する外部からの動力が駆動軸6に伝達され、
図1に示す軸線X回りに回転するようになっている。
【0028】
駆動軸6の後端には、軸線Xから返信して配置されるクランクピン(偏心軸)13が一体に設けられている。駆動軸6の後端は、後述するスクロール圧縮機構5の旋回スクロール16と、その旋回半径を可変とするドライブブッシュ14を含む公知の可変旋回半径機構を介して連結されている。駆動軸6は、クランクピン13を介して旋回スクロール16に取り付けられている。可変旋回半径機構には、駆動軸6に対して偏心して取り付けられる旋回スクロール16との重量バランスをとるためのバランスウェイト30が取り付けられている。
【0029】
スクロール圧縮機構5は、軸線X回りに回転する駆動軸6により駆動されるとともにリアハウジング2の外周面に形成される吸入ポート2bから流入する冷媒ガスを圧縮してリアハウジング2に形成される吐出ポート(図示略)から吐出する機構である。スクロール圧縮機構5は、例えば、アルミニウム合金により形成される固定スクロール15と旋回スクロール16を備える。
【0030】
スクロール圧縮機構5は、固定スクロール15と、固定スクロール15に対して180度位相をずらして噛み合わされる旋回スクロール16とを有し、固定スクロール15に対して旋回スクロール16を軸線X回りに公転旋回運動させる機構である。スクロール圧縮機構5は、固定スクロール15と旋回スクロール16との間に一対の圧縮室を形成し、外周位置から中心位置へと容積を漸次減じながら流体を移動させることにより冷媒ガスを圧縮する。
【0031】
固定スクロール15は、中心部位に圧縮した流体を吐出する吐出ポート(図示略)を備えており、リアハウジング2の底壁面にボルト(図示略)を介して固定されている。また、旋回スクロール16は、駆動軸6のクランクピン13にドライブブッシュ14を介して連結され、フロントハウジング3のスクロール圧縮機構5側の面にオルダムリンク31を介して公転旋回駆動自在に支持されている。クランクピン13は、駆動軸6の軸線Xに対して偏心した位置に配置されている。
【0032】
また、固定スクロール15と旋回スクロール16は、それぞれ軸線Xに直交する面上に配置される端板上に渦巻き状ラップが立設された構成である。固定スクロール15と旋回スクロール16との間に、それぞれの端板とそれぞれの渦巻き状ラップとで仕切られる一対の圧縮室が、スクロール中心に対して対称に形成される。また、旋回スクロール16が固定スクロール15周りにスムーズに公転旋回駆動するようになっている。
【0033】
メイン軸受7は、駆動軸6を軸線X上に支持するものであり、内輪7aが駆動軸6に圧入されるとともに外輪7bがフロントハウジング3のスクロール圧縮機構5側の端部に圧入されている。メイン軸受7は、フロントハウジング3によって軸線X上に保持されている。メイン軸受7は、サブ軸受8よりもスクロール圧縮機構5側に配置されるとともにサブ軸受8よりも外径が大きいラジアル玉軸受である。
【0034】
サブ軸受8は、メイン軸受7とともに駆動軸6を軸線X上に支持するものであり、内輪が駆動軸6に圧入されるとともに外輪がフロントハウジング3に圧入されている。サブ軸受8は、フロントハウジング3によって軸線X上に保持されている。サブ軸受8は、リップシール9よりもスクロール圧縮機構5側に配置されるとともにメイン軸受7よりも外径が小さいニードル軸受である。
【0035】
リップシール9は、駆動軸6の外周面に接触するとともに駆動軸6に沿った冷媒ガスの漏出を防止する部材である。リップシール9は、フロントハウジング3の内周面に取り付けられるとともに軸線X上に保持されている。
【0036】
以上で説明した本実施形態の圧縮機1が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の圧縮機1によれば、駆動軸6が軸線X回りに回転し、クランクピン13を介して駆動軸6が取り付けられた旋回スクロール16が固定スクロール15に対して公転旋回し、冷媒ガスを圧縮して吐出する。スクロール圧縮機構5を収容するリアハウジング2の内部空間ISには、吸入ポート2bから冷媒ガスが導かれる。リアハウジング2の開口部2aを閉塞するように取り付けられるフロントハウジング3には、メイン軸受7を収容する凹所3aと旋回スクロール16の端面が接触する摺動面3Baが形成されている。
【0037】
摺動面3Baが配置される位置において、フロントハウジング3の径方向RDの外縁部3cは、リアハウジング2の内周面2cとの間に隙間CLを空けて配置されている。また、摺動面3Baが配置される位置において、フロントハウジング3の径方向RDの外縁部3cには、吸入ポート2bから内部空間ISへ導かれた冷媒ガスを軸線Xに沿った方向のスクロール圧縮機構5側に導くように、周方向CDの複数箇所に径方向RDの内側に向けて切り欠かれた切欠部3dを有する。
【0038】
摺動面3Baが配置される位置においてフロントハウジング3の径方向RDの外縁部3cに切欠部3dが形成されているため、周方向CDの切欠部3dに対応する位置のフロントハウジング3の外縁から第1ハウジングの内周面の距離は、周方向CDの切欠部3dに対応しない位置の摺動面3Baの外縁からリアハウジング2の内周面2cまでの隙間CLの距離よりも長くなる。周方向CDの切欠部3dに対応する位置に周方向CDの他の位置よりも広い空間が形成されるため、切欠部3dが形成されない場合に比べて冷媒がスクロール圧縮機構5へ流入する際の圧力損失が低減する。よって、吸入ポート2bから内部空間ISに導かれた冷媒ガスをスクロール圧縮機構5に導く際の圧力損失を低減して圧縮効率を向上させることができる。
【0039】
本実施形態の圧縮機1によれば、フロントハウジング3を本体部3Aとスラストプレート3Bを有する構成とすることにより、フロントハウジング3の端面を摺動面とするような加工を施すことなく、スラストプレート3Bを配置して摺動面3Baを容易に形成することができる。また、本体部3Aに切欠形状3Abを形成し、スラストプレート3Bに切欠形状3Bbを形成し、これらを周方向の同一位置に配置することで、圧力損失を生じさせずに冷媒ガスが通過する流路を形成することができる。
【0040】
本実施形態の圧縮機1によれば、切欠部3dが周方向の2以上の箇所に形成されているため、旋回スクロール16が軸線X回りに公転旋回する際の各位置で切欠部3dからスクロール圧縮機構5に冷媒を適切に導くことができる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る圧縮機1Aについて、図面を参照して説明する。本実施形態に係る圧縮機1Aは、第1実施形態に係る圧縮機1の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。
【0042】
第1実施形態に係る圧縮機1は、フロントハウジング3を、本体部3Aとスラストプレート3Bとの2つの部材により構成するものであった。それに対して、本実施形態に係る圧縮機1Aは、フロントハウジング3を、第1本体部3Cと、第2本体部3Dと、スラストプレート3Bにより構成するものである。本実施形態のスラストプレート3Bは、第1実施形態のスラストプレート3Bと同様である。
【0043】
図9は、本開示の第2実施形態に係る圧縮機1Aの概略構成を示す縦断面図である。
図9は、後述する
図10に示す圧縮機1AのB-B矢視断面図となっている。
図9に示す白矢印は、冷媒ガスの流通経路の一例を示す。
【0044】
フロントハウジング3は、凹所3aおよび凹所3bが形成された第1本体部3Cと、摺動面3Baと切欠部3dが形成された第2本体部3Dと、第2本体部3Dのスクロール圧縮機構5側の端部に取り付けられる板状のスラストプレート3Bと、を有する。スラストプレート3Bは、旋回スクロール16の端面16aと接触する摺動面3Baをスクロール圧縮機構5側の端部に形成する。スラストプレート3Bは、例えば、鉄を主成分とする金属材料により形成されており、表面にフッ素樹脂材料(例えば、PTFE)をコーティングすることにより潤滑性の高い摺動面3Baとしている。
【0045】
図9に示すように、第1本体部3Cは、締結ボルト20が締結される雌ねじが形成された締結穴3Caを有する。第1本体部3Cは、軸線X回りの周方向CDにおいて、第2本体部3Dに形成される切欠部3dと対応する位置(
図10に示す例では4箇所)に、締結穴3Caを有する。
【0046】
図9に示すように、第2本体部3Dは、軸線Xに沿った方向の第1本体部3C側の端部に、締結ボルト20を貫通させる複数の貫通穴3Daを有する。第2本体部3Dは、軸線X回りの周方向CDの複数箇所(
図10では4箇所)に径方向RDの内側に向けて切り欠かれた切欠部3dを有する。貫通穴3Daは、第2本体部3Dの周方向CDの切欠部3dと対応する位置に形成されている。
【0047】
本実施形態の圧縮機1Aによれば、フロントハウジング3を、凹所3aが形成された第1本体部3Cと、摺動面3Baと切欠部3dとが形成された第2本体部3Dとに分割した構成を組み合わせたものとすることができる。
【0048】
また、第2本体部3Dは、周方向CDの切欠部3dと対応する位置に締結ボルト20を貫通させる複数の貫通穴3Daが形成されている。そのため、第2本体部3Dの貫通穴3Daに締結ボルト20を挿入して第1本体部3Cの締結穴3Caに締結する際に、締結ボルト20を、切欠部3dを通過させて貫通穴3Daへ容易に導くことができる。これにより、第1本体部3Cと第2本体部3Dを締結ボルト20により連結する組立作業の作業性が向上する。
【0049】
〔他の実施形態〕
第1実施形態および第2実施形態において、摺動面3Baを形成するスラストプレート3Bをフロントハウジング3の本体部とは別の部材としたが、他の多様であってもよい。例えば、スラストプレート3Bを設けず、第1実施形態の本体部3Aのスクロール圧縮機構5側の端面にフッ素樹脂材料(例えば、PTFE)をコーティングして摺動面3Baを形成してもよい。同様に、スラストプレート3Bを設けず、第2実施形態の第2本体部3Dのスクロール圧縮機構5側の端面にフッ素樹脂材料(例えば、PTFE)をコーティングして摺動面3Baを形成してもよい。
【0050】
以上説明した本実施形態に記載のスクロール圧縮機は、例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係るスクロール圧縮機(1)は、固定スクロール(15)と前記固定スクロールに噛み合わされる旋回スクロール(16)とを有する圧縮部(5)と、軸線(X)回りに回転するとともに前記軸線から偏心して配置される偏心軸(13)を介して前記旋回スクロールに取り付けられる駆動軸(6)と、前記駆動軸を支持する軸受部(7)と、前記圧縮部を収容するとともに前記軸線に沿って筒状に形成される第1ハウジング(2)と、前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所(3a)と前記旋回スクロールの端面と接触する摺動面(3Bb)が前記圧縮部側の端部に形成された第2ハウジング(3)と、を備え、前記第1ハウジングには、前記圧縮部により圧縮される冷媒を前記摺動面よりも前記軸線に沿った方向の前記軸受部側の内部空間(IS)に導く吸入ポート(2b)が形成されており、前記摺動面が配置される位置において、前記第1ハウジングの前記軸線に直交する径方向の外縁部(3c)には、前記第1ハウジングの内周面(2c)との間に隙間(CL)を空けて配置され、前記吸入ポートから前記内部空間へ導かれた前記冷媒を前記軸線に沿った方向の前記圧縮部側に導くように、前記軸線回りの周方向(CD)の複数箇所に前記径方向の内側に向けて切り欠かれた切欠部(3d)を有する。
【0051】
本開示に係るスクロール圧縮機によれば、駆動軸が軸線回りに回転し、偏心軸を介して駆動軸が取り付けられた旋回スクロールが固定スクロールに対して公転旋回し、冷媒ガスを圧縮して吐出する。圧縮部を収容する第1ハウジングの内部空間には、吸入ポートから冷媒が導かれる。第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられる第2ハウジングには、軸受部を収容する凹所と旋回スクロールの端面が接触する摺動面が形成されている。
【0052】
摺動面が配置される位置において、第2ハウジングの径方向の外縁部は、第1ハウジングの内周面との間に隙間を空けて配置されている。また、摺動面が配置される位置において、第2ハウジングの径方向の外縁部には、吸入ポートから内部空間へ導かれた冷媒を軸線に沿った方向の圧縮部側に導くように、周方向の複数箇所に径方向の内側に向けて切り欠かれた切欠部を有する。
【0053】
摺動面が配置される位置において第2ハウジングの径方向の外縁部に切欠部が形成されているため、周方向の切欠部に対応する位置の第2ハウジングの外縁から第1ハウジングの内周面の距離は、周方向の切欠部に対応しない位置の第2ハウジングの外縁から第1ハウジングの内周面までの隙間の距離よりも長くなる。周方向の切欠部に対応する位置に周方向の他の位置よりも広い空間が形成されるため、切欠部が形成されない場合に比べて冷媒が圧縮部へ流入する際の圧力損失が低減する。よって、吸入ポートから内部空間に導かれた冷媒を圧縮部に導く際の圧力損失を低減して圧縮効率を向上させることができる。
【0054】
本開示の第2態様に係るスクロール圧縮機は、第1態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第2ハウジング(3)は、前記凹所が形成された本体部(3A)と、前記本体部に取り付けられるとともに前記摺動面を形成する板状のスラストプレート(3B)と、を有し、前記切欠部は、前記本体部に形成される第1切欠形状(3Ab)と前記スラストプレートに形成される第2切欠形状(3Bb)とを前記周方向の同一位置に配置して形成されている。
【0055】
本開示の第2態様に係るスクロール圧縮機によれば、第2ハウジングを本体部とスラストプレートを有する構成とすることにより、第2ハウジングの端面を摺動面とするような加工を施すことなく、スラストプレートを配置して摺動面を容易に形成することができる。また、本体部に第1切欠形状を形成し、スラストプレートに第2切欠形状を形成し、これらを周方向の同一位置に配置することで、圧力損失を生じさせずに冷媒が通過する流路を形成することができる。
【0056】
本開示の第3態様に係るスクロール圧縮機は、第1態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第2ハウジングは、前記凹所が形成された第1本体部(3C)と、前記摺動面と前記切欠部とが形成された第2本体部(3D)と、を有し、前記第1本体部は、締結ボルト(20)が締結される複数の締結穴(3Ca)を有し、前記第2本体部は、前記周方向の前記切欠部と対応する位置に前記締結ボルトを貫通させる貫通穴(3Da)を有する。
【0057】
本開示の第3態様に係るスクロール圧縮機によれば、第2ハウジングを、凹所が形成された第1本体部と、摺動面と切欠部とが形成された第2本体部とに分割した構成とすることができる。また、第2本体部は、周方向の切欠部と対応する位置に締結ボルトを貫通させる複数の貫通穴が形成されている。そのため、第2本体部の貫通穴に締結ボルトを挿入して第1本体部の締結穴に締結する際に、締結ボルトを、切欠部を通過させて貫通穴へ容易に導くことができる。これにより、第1本体部と第2本体部を締結ボルトにより連結する組立作業の作業性が向上する。
【0058】
本開示の第4態様に係るスクロール圧縮機は、第1態様から第3態様のいずれかにおいて、更に以下の構成を備える。すなわち、前記切欠部は、前記周方向の2以上の箇所に形成されている。
本開示の第4態様に係るスクロール圧縮機によれば、切欠部が周方向の2以上の箇所に形成されているため、旋回スクロールが軸線回りに公転旋回する際の各位置で切欠部から圧縮部に冷媒を適切に導くことができる。
【符号の説明】
【0059】
1,1A 圧縮機
2 リアハウジング(第1ハウジング)
2a 開口部
2b 吸入ポート
2c 内周面
3 フロントハウジング(第2ハウジング)
3A 本体部
3Ab 切欠形状
3B スラストプレート
3Ba 摺動面
3Bb 切欠形状
3C 第1本体部
3Ca 締結穴
3D 第2本体部
3Da 貫通穴
3a,3b 凹所
3c 外縁部
3d 切欠部
5 スクロール圧縮機構(圧縮部)
6 駆動軸
7 メイン軸受(軸受部)
13 クランクピン(偏心軸)
14 ドライブブッシュ
15 固定スクロール
16 旋回スクロール
16a 端面
16b 外縁部
20 締結ボルト
CD 周方向
CL 隙間
Co 中心
IS 内部空間
RD 径方向
X 軸線