(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006089
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法及びエルゴチオネインの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20240110BHJP
C12P 17/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12P13/04
C12P17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106656
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】391011700
【氏名又は名称】宮崎県
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】越智 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】水谷 政美
(72)【発明者】
【氏名】福良 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大暢
(72)【発明者】
【氏名】武谷 圭子
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】田代 大祐
(72)【発明者】
【氏名】青柳 守紘
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064AE48
4B064CA05
4B064CD13
4B064CD24
4B064DA01
(57)【要約】
【課題】微生物発酵を利用してエルゴチオネインを含有する発酵物及びエルゴチオネインを製造する新たな方法を提供する。
【解決手段】本発明のエルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法は、マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程を含む。本発明のエルゴチオネインの製造方法は、上記方法で得た前記培養物からエルゴチオネインを取得する工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程
を含む、エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法。
【請求項2】
前記アミノ酸原料が、
システイン、ヒスチジン、シスチン及びγ-アミノ-n-酪酸並びにそれらの塩からなる群から選択される1以上を含有する、或いは、
オルニチン及びその塩から選択される1以上と、メチオニン及びその塩から選択される1以上とを含有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物原料が、ダイズ、イネ及びオオムギ並びにそれらの処理物からなる群から選択される1以上を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵物は、25ppm以上のエルゴチオネインを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程、及び、
前記発酵物からエルゴチオネインを取得する工程
を含む、エルゴチオネインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法及びエルゴチオネインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインは微生物により生産される含硫アミノ酸の1種である。植物や動物は、エルゴチオネインを独自に生産することができず、微生物から摂取したエルゴチオネインを生体内に蓄積する。
【0003】
エルゴチオネインは、抗酸化作用、美肌作用、脳機能改善作用等の人体にとって有益な生理機能を有することが知られている。
【0004】
特許文献1では、エルゴチオネイン生合成遺伝子を過剰発現させた、放線菌、腸内細菌、酵母等の微生物を培養し、菌体外に産生されたエルゴチオネインを取得することを特徴とするエルゴチオネインの製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2では、ヒスチジン及びシステインからエルゴチオネインを生成する反応に関与する、アスペルギルス属微生物に由来する酵素をコードする遺伝子を過剰発現する、形質転換アスペルギルス属微生物を培養して、エルゴチオネインを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2017/150304
【特許文献2】国際公開WO2016/121285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エルゴチオネインを大量生産するための確立された方法は従来知られていない。
【0008】
そこで本明細書では、微生物発酵を利用してエルゴチオネインを含有する発酵物及びエルゴチオネインを製造する新たな方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、微生物発酵を利用してエルゴチオネインを含有する発酵物及びエルゴチオネインを製造する新たな方法として以下の方法を開示する。
【0010】
(1)マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程
を含む、エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法。
(2)前記アミノ酸原料が、
システイン、ヒスチジン、シスチン及びγ-アミノ-n-酪酸並びにそれらの塩からなる群から選択される1以上を含有する、或いは、
オルニチン及びその塩から選択される1以上と、メチオニン及びその塩から選択される1以上とを含有する、
(1)に記載の方法。
(3)前記植物原料が、ダイズ、イネ及びオオムギ並びにそれらの処理物からなる群から選択される1以上を含有する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記発酵物は、25ppm以上のエルゴチオネインを含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程、及び、
前記発酵物からエルゴチオネインを取得する工程
を含む、エルゴチオネインの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本明細書で開示する方法により、エルゴチオネインを含有する発酵物及びエルゴチオネインを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法>
本発明の一実施形態に係るエルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法は、
マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0014】
特許文献1及び2に記載の方法では、遺伝子組み換えにより得られた形質転換微生物によりエルゴチオネインを生産するのに対して、本実施形態に係る方法は、形質転換微生物を必要とせず、野生型の麹菌を用いてエルゴチオネイン含有発酵物を得ることができるため特に好ましい。
【0015】
本実施形態に係る方法で用いる植物原料は、マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上である。植物原料としては、マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物の、種子等の植物体の一部、或いは、植物体の一部を処理して得られる処理物を使用できる。植物体の一部としては種子が好ましい。種子等の植物体の一部は、生、乾燥物、粉砕物等の任意の形態のものを包含する。
【0016】
マメ科植物としては、ダイズ及びダイズ処理物から選択される1以上が好ましく、特にダイズ種子又はダイズ種子処理物が好ましい。ダイズ種子処理物としては、オカラ、豆乳、豆腐、ダイズ種子の蒸煮物等が例示でき、特にオカラが好ましい。オカラ、豆乳、豆腐、ダイズ種子の蒸煮物等のダイズ種子処理物は、生のものも乾燥されたものも使用できるが、乾燥されたものが好ましい。
【0017】
イネ科植物としては、イネ及びオオムギ並びにそれらの処理物から選択される1以上が好ましく、イネ種子及びオオムギ種子並びにそれらの処理物から選択される1以上が特に好ましい。イネ種子としては、例えば、生、乾燥物、粉砕物等の任意の形態の精米又は玄米を利用できる。オオムギ種子としては、例えば、生、乾燥物、粉砕物等の任意の形態のオオムギ種子を利用できる。イネ種子処理物、オオムギ種子処理物としては、イネ種子の蒸煮物、オオムギ種子の蒸煮物が例示できる。
【0018】
本実施形態に係る方法で用いるアミノ酸原料は、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上である。アミノ酸の塩としては、アミノ酸と、有機酸、無機酸、有機塩基又は無機塩基との塩のいずれも使用でき、例えば、アミノ酸の塩酸塩、硫酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が例示できる。また1分子中に2以上のアミノ基又は2以上のカルボキシル基を有するアミノ酸は、2以上のアミノ基又はカルボキシル基のうち全部が塩を形成していてもよいし、一部のみが塩を形成していてもよい。
【0019】
アミノ酸が、α位炭素が不斉炭素であるαアミノ酸である場合、L-体であってもよいしD-対であってもよいし両者の混合物であってもよいが、好ましくはL-体である。
【0020】
本実施形態に係る方法で用いるアミノ酸原料は、オルニチン、メチオニン、システイン、ヒスチジン、シスチン、γ-アミノ-n-酪酸及びL-ホモシステイン並びにそれらの塩からなる群から選択される1以上を含有することが好ましく、オルニチン、メチオニン、システイン、ヒスチジン、シスチン及びγ-アミノ-n-酪酸並びにそれらの塩からなる群から選択される1以上を含有すること、或いは、オルニチン及びその塩から選択される1以上とメチオニン及びその塩から選択される1以上とを含有することが特に好ましい。さらに、本実施形態に係る方法で用いるアミノ酸原料は、メチオニン及びその塩から選択される1以上とメチオニン以外のアミノ酸及びその塩から選択される1以上とを含有すること、システイン及びその塩から選択される1以上とシステイン以外のアミノ酸及びその塩から選択される1以上とを含有すること、シスチン及びその塩から選択される1以上とシスチン以外のアミノ酸及びその塩から選択される1以上とを含有すること、或いは、ホモシステイン及びその塩から選択される1以上とホモシステイン以外のアミノ酸及びその塩から選択される1以上とを含有すること、が特に好ましい。これらのアミノ酸原料を用いる場合に、エルゴチオネイン濃度が高い発酵物を効率的に得ることができるため好ましい。なおオルニチン、メチオニン、システイン、ヒスチジン、シスチン、ホモシステインは、それぞれ、L-オルニチン、L-メチオニン、L-システイン、L-ヒスチジン、L-シスチン、L-ホモシステインであることが好ましい。オルニチン及びその塩から選択される1以上と、メチオニン及びその塩から選択される1以上とを組み合わせる場合、10質量部のオルニチン及びその塩から選択される1以上に対して、例えば1質量部~100質量部、好ましくは1質量部~20質量部のメチオニン及びその塩から選択される1以上を組み合わせることができる。
【0021】
本実施形態に係る方法で用いる麹菌は特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等の黄麹、アスペルギルス・ルチェンシス(Aspergillus luchensis)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus mut.kawachii)等の白麹、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus var.awamori)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の黒麹、モナスカス・パーピュレウス(Monascus purpureus)等の紅麹を使用することができ、特に黄麹が好ましい。ここで黄麹としてはアスペルギルス・オリゼが好ましく、黒麹としてはアスペルギルス・アワモリが好ましい。麹菌としては、蒸米等の培養基材上に麹菌を繁殖させた種麹を使用することができる。
【0022】
本実施形態に係る方法で用いる、植物原料とアミノ酸原料と麹菌とを含有する原料混合物の調製手順は特に限定されない。例えば、植物原料とアミノ酸原料とを混合したのちに、麹菌を混合して前記原料混合物を得ることができる。或いは、植物原料とアミノ酸原料と麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養して得られた前記麹菌を含む1段階目の発酵物と、追加の植物原料(及び必要に応じて追加のアミノ酸原料)とを混合して、2段階目の発酵物の生産のための原料混合物を得ることもできる。また、植物原料及び/又はアミノ酸原料は必要に応じて麹菌の培養途中に追加添加してもよい。
【0023】
前記原料混合物中のアミノ酸原料の濃度は特に限定されないが、前記原料混合物全量に対して例えば0.01~10質量%、好ましくは0.20~5質量%、より好ましくは0.50~3質量%であることができる。複数種のアミノ酸原料を用いる場合、複数種のアミノ酸原料の合計量が前記原料混合物に対してこの範囲であることができる。
【0024】
前記原料混合物中の植物原料の濃度は特に限定されないが、前記原料混合物全量に対して植物原料(乾燥物換算)が例えば30~80質量%、好ましくは40~70質量%であることができる。
【0025】
前記原料混合物は更に、水を含むことができ、水以外の他の成分を更に含むこともできる。水の含有量は適宜調節することができ特に限定されないが、前記原料混合物全量に対して例えば10~50質量%、好ましくは20~40質量%であることができる。
【0026】
前記原料混合物中での麹菌の培養の条件は特に限定されず適宜調節することができ、例えば25~45℃、好ましくは30~40℃の温度、例えば40時間~120時間、好ましくは60時間~110時間、より好ましくは80時間~100時間の培養時間が例示できる。培養は静置培養で行うことができる。
【0027】
本実施形態に係る方法で製造される、エルゴチオネインを含有する発酵物は、エルゴチオネインを発酵物全量に対して例えば25ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上含有する。本実施形態に係る方法によれば、このような高濃度のエルゴチオネインを含有する発酵物を製造することが可能である。
【0028】
エルゴチオネインを含有する発酵物は、培養後の発酵物そのものや、培養後の発酵物を濃縮又は乾燥したものが例示できる。
【0029】
<エルゴチオネインの製造方法>
本発明の別の一実施形態は、
マメ科植物及びイネ科植物からなる群から選択される1以上の植物原料と、アミノ酸及びその塩からなる群から選択される1以上のアミノ酸原料と、麹菌とを含有する原料混合物中で前記麹菌を培養することにより、前記原料混合物を発酵させ、エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程、及び、
前記発酵物からエルゴチオネインを取得する工程
を含む、エルゴチオネインの製造方法に関する。
【0030】
エルゴチオネインを含有する発酵物を得る工程は、上述の本発明の一実施形態に係る、エルゴチオネインを含有する発酵物の製造方法により行うことができるので、説明を省略する。
【0031】
前記発酵物からエルゴチオネインを取得する工程は、エルゴチオネインを精製品として得る工程には限定されない。前記発酵物からエルゴチオネインを取得する工程としては、例えば、前記発酵物からエルゴチオネインを抽出することや、前記発酵物又はその抽出物からクロマトグラフィー、溶媒分画、蒸留、結晶析出等の濃縮技術を用いて、エルゴチオネインを精製又は粗精製することが挙げられる。
【実施例0032】
実験1:各種アミノ酸原料を添加したオカラを用いたエルゴチオネイン含有発酵物の生産
オカラに、各種アミノ酸原料を添加し、黄麹(Aspergillus oryzae)により発酵させて、発酵物中のエルゴチオネイン濃度を確認した。
【0033】
(発酵物の生産の手順)
下記表に示す添加量のアミノ酸原料(オルニチンとメチオニンは併用、その他は単独使用)を蒸留水30mlに溶解した水溶液を、オカラ50g(乾燥おから、株式会社やまみ)に加え、均一に混合した。得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0034】
オートクレーブ滅菌後の混合物を容器(容量700~940mL)に移し、35℃前後まで冷却した。続いて黄麹(Aspergillus oryzae)を含む市販の種麹(BF1号菌、味噌・甘酒用、株式会社樋口松之助商店)0.4gを接種し均一になるように混ぜ合わせて、原料混合物とした。
【0035】
原料混合物を収容した容器を、35℃の恒温器内に置き黄麹を培養し、原料混合物の発酵を行った。
【0036】
培養開始後43時間、又は67時間経過後に、手入れ(容器の蓋を開放し内容物をほぐすようにかき混ぜる操作)を行い、続いて2時間枯らし(水分を揮発させながら冷却する操作)を行い、培養時間45時間、又は69時間の発酵物を得た。
【0037】
(アミノ酸原料)
【0038】
【0039】
(エルゴチオネインの定量)
発酵物中のエルゴチオネイン(EGT)濃度を以下の方法で定量した。
【0040】
(1)測定試料の調製
分析対象試料0.5gを15ml容試験管に採取し、0.1%ギ酸水を9.5ml添加した。試験管を振とう器で30min間撹拌した後、3000rpmで10min間遠心し、上清200μlを限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ-0.5ml 3K,Merck Millipore)に載せ、15000rpmで30min間遠心した。ろ過液100μlに、0.1%ギ酸水900μlを加え、撹拌した。0.2μmフィルターに通し、バイアル(ポリプロピレン製)に入れ、測定試料とした。
【0041】
(2)検量線用試料の作成
エルゴチオネイン(TRONTO RESEARCH CHEMICALS)標品を0.1%ギ酸水で段階希釈し、検量線用試料を作成した。
【0042】
(3)LCMS分析条件
LC:Ultimate 3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
MS:Q Exactive Focus(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
分析カラム:Discovery HS F5, 5μm,250mm×4.6mm,5μm(SIGMA-ALDRICH)
カラム温度:40℃、注入量:2μl、流速:0.3ml/min
移動相A:0.1%ギ酸水(ギ酸、富士フィルム和光純薬)
移動相B:アセトニトリル(LCMSグレード、富士フィルム和光純薬)
移動相条件:
【0043】
【表2】
MS条件:スプレー電圧 3.5kV、キャピラリー温度250℃、MS scan range m/z 67-1005 イオン化モード ESIポジティブ、ネガティブ(スイッチング)
【0044】
(4)LCMSデータの解析
LCMSトータルイオンクロマトグラムから、エルゴチオネインのプロトン付加体の精密質量230.0957[M+H]をイオンクロマトグラム抽出し、ピーク面積を算出した。
【0045】
【0046】
検量線を作成し、試料中のエルゴチオネイン濃度を算出した。
【0047】
(結果)
各条件での発酵物中のエルゴチオネイン濃度の測定結果を
図1に示す。なお、図中の「対照」は無添加(アミノ酸原料を添加しない)のものである。
【0048】
この実験結果は、システイン、ヒスチジン、シスチン、GABA(γ-アミノ-n-酪酸)、及び、メチオニンとオルニチンとの混合物を加えることによりエルゴチオネイン濃度が顕著に高まることを示す。
【0049】
実験2:異なる植物原料を用いたエルゴチオネイン含有発酵物の生産
実験1でのオカラの代わりに、植物原料として精米又は大麦を用いてエルゴチオネイン含有発酵物を生産した。
【0050】
精米としては、うるち米(品種ひのひかり)の生米を、水に浸漬し水切り後、蒸気により蒸煮したものを用いた。
【0051】
大麦としては生の大麦(品種二条大麦)を使用した。
【0052】
0.8gのオルニチン及び0.8gのメチオニンを30mlの蒸留水に溶解した水溶液と、50gのオカラ或いは50gの上記の精米又は大麦と、0.4gの黄麹の種麹を用いて、実験1と同様の手順で発酵を行い、培養時間69時間での発酵物中のエルゴチオネイン濃度を測定した。オルニチン及びメチオニンとしてそれぞれ実験1で用いた試薬を用いた。
【0053】
(結果)
各条件での発酵物中のエルゴチオネイン濃度の測定結果を
図2に示す。なお図示しないが、アミノ酸原料を無添加のオカラ及び大麦の黄麹による同条件での発酵物の45時間後のエルゴチオネイン濃度はそれぞれ13.80ppm及び11.59ppmであった。
【0054】
メチオニン及びオルニチンを添加した精米又は大麦の黄麹による発酵物は、メチオニン及びオルニチンを添加したオカラの黄麹による発酵物と同等の高濃度のエルゴチオネインを含有することが示された。