(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060897
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ろう付性に優れるアルミニウム合金とアルミニウム合金クラッド材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240425BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20240425BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240425BHJP
C22F 1/043 20060101ALN20240425BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
C22C21/02
C22C21/00 L
C22F1/00 651A
C22F1/00 630M
C22F1/00 627
C22F1/00 683
C22F1/00 682
C22F1/00 623
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 626
C22F1/00 685A
C22F1/00 630A
C22F1/00 614
C22F1/00 640A
C22F1/043
C22F1/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168463
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一
(57)【要約】
【課題】本発明は、無フラックスろう付用アルミニウム合金とアルミニウム合金クラッド材の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る無フラックスろう付用アルミニウム合金は、フラックスを使用しないろう付接合に供されるアルミニウム合金であって、材料表層面(RD-TD)方向のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のO、あるいは、8at%以上のCが占める面積率が50%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスを使用しないろう付接合に供されるアルミニウム合金であって、材料表層面(RD-TD)方向のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率が50%以下である、ろう付性に優れるアルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金であって、組成が質量%で、Mg:0.01~2.5%、Si:1.5~14.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金。
【請求項3】
請求項2に記載するアルミニウム合金であって、さらに、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~0.6%、Sn:0.01~1.4%、0.003~0.6%のFe、Sr、Na、Cr、Bの1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金からなる皮材を心材の片面あるいは両面に具備したアルミニウム合金クラッド材。
【請求項5】
請求項1に記載のアルミニウム合金であって、組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.5%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~2.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%の1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム合金であって、さらに、Zn:0.5~8.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のアルミニウム合金からなる皮材を心材の片面あるいは両面に具備したアルミニウム合金クラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付性に優れるアルミニウム合金とアルミニウム合金クラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサやエバポレーターなどに代表されるアルミニウム製自動車熱交換器は、多数の接合箇所を有することや高い密閉性が求められる点から、ろう付接合によって製造されている。現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法では、フラックスが材料中のMgと反応して不活性化しろう付不良が生じやすいため、Mg添加による部材高強度化が制限されている。しかし、近年の自動車熱交換器は小型軽量化が強く望まれていることから、フラックスを用いることなく、Mgを添加したアルミニウム合金をろう付接合する手法の開発が要求されている。
【0003】
アルミニウム合金をろう付接合する場合、従来はフラックスによって酸化皮膜を除去することで達成していたが、近年はフラックス残渣レスの要求から、合金中に添加したMgによる皮膜破壊作用によってフラックスを使用しないろう付方法の開発が進んでいる。
【0004】
例えば、フラックスを使用しないろう付技術として、以下の特許文献1に記載のアルミニウムブレージングシートが知られている。
このブレージングシートは、第1と第2のアルミニウムろう付層を有し、第1のろう付層に2~14質量%のSiと0.4質量%未満のMgを含み、第2のろう付層に5~20質量%のSiと0.01~3質量%のMgを含むと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種、従来のフラックスを使用しないろう付方法では、従来のフラックスろう付と比べてろう付性が劣ることが明らかとなっている。
この原因について本発明者が調査したところ、アルミニウム合金の材料表面に酸素あるいは炭素を含む異物が分布しており、これら異物がろうの濡れ広がりを阻害することがわかった。フラックスは酸化皮膜の破壊に加えて異物除去の働きもあり、これらにより高いろう付性が得られている。これに対し、無フラックスろう付接合技術においてMgを添加したアルミニウム合金を用いてろう付している場合に異物を除去できず、高いろう付性が得られないことが課題と考えられる。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、SEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率を50%以下とすることにより、ろうの濡れ広がりへの寄与を低減させることで、フラックスを使用しなくても高いろう付性が得られるろう付技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本形態に係るろう付性に優れるアルミニウム合金は、フラックスを使用しないろう付接合に供されるアルミニウム合金であって、材料表層面(RD-TD)方向のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率が50%以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)本形態に係るアルミニウム合金は、(1)に記載のアルミニウム合金であって、組成が質量%で、Mg:0.01~2.5%、Si:1.5~14.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることが好ましい。
(3)本形態に係るアルミニウム合金は、(2)に記載するアルミニウム合金であって、さらに、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~0.6%、Sn:0.01~1.4%、0.003~0.6%のFe、Sr、Na、Cr、Bの1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることが好ましい。
【0010】
(4)本形態のアルミニウム合金クラッド材は、(1)~(3)のいずれかに記載のアルミニウム合金からなる皮材を心材の片面あるいは両面に具備したことが好ましい。
【0011】
(5)本形態のアルミニウム合金は、(1)に記載のアルミニウム合金であって、組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.5%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~2.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%の1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることが好ましい。
(6)本形態のアルミニウム合金は、(5)に記載のアルミニウム合金であって、さらに、Zn:0.5~8.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることが好ましい。
(7)本形態のアルミニウム合金クラッド材は、(5)または(6)に記載のアルミニウム合金からなる皮材を心材の片面あるいは両面に具備したことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルミニウム合金は、スタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率が50%以下としてろうの濡れ広がりへの寄与を低減した。これにより、フラックスを使用しないろう付であっても、良好なろうの濡れ広がりを得ることができ、高いろう付性を確保することができるアルミニウム合金を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るアルミニウム合金からなる皮材を心材の両面に備えたブレージングシートの一例を示す断面図。
【
図2】本形態に係るアルミニウム合金からなる皮材を心材の片面に備えたブレージングシートの一例を示す断面図。
【
図3】前記ブレージングシートからなるチューブを備えた熱交換器の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照し、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0015】
本発明に係るろう付性に優れる無フラックスろう付用アルミニウム合金は、一例として、
図1に示す皮材1を構成するために用いられ、この皮材1は、心材2の両面に貼り合わされてブレージングシート(アルミニウム合金クラッド材)Aを構成するために用いられている。
また、
図2に例示するように、心材2の片面に皮材1を他面に犠牲材(犠牲陽極材)3を貼り合わせて構成されるブレージングシート(アルミニウム合金クラッド材)Bに本発明に係るアルミニウム合金からなる皮材1を適用することもできる。
なお、
図1、
図2に示したブレージングシートA、Bは、それぞれ1つの例に過ぎず、他の種々の形態を採用することができ、例えば、心材2を複層構造とする構造、心材2と皮材1との間に他の層を介在させた構造、心材2と犠牲材3との間に他の層を介在させた構造など、種々の構成を採用できる。また、ブレージングシートの積層数は、2層構造、3層構造、4層構造、5層構造など、2層以上の多層構造も適宜採用できる。
【0016】
ブレージングシートA、Bは、ろう材1の溶融温度以上に加熱するとろう材1が溶融してブレージングシートA、Bの片面あるいは両面において濡れ広がり、ブレージングシートA、Bに対しろう付対象とする他の部材をろう付するために使用する。
ブレージングシートA、Bは、熱交換器に適用する場合、チューブに加工されるかフィンに加工されるか、他の熱交換器用構成部材に加工されるなど、必要な形状に加工され、ろう付対象とする他の物体と接近または接触した状態でろう付加熱される。
【0017】
本実施形態において皮材1は、表面層(RD-TD)方向のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のO(酸素)、あるいは、8at%以上のC(炭素)が占める面積率が50%以下であることを特徴とする。
図1に示すブレージングシートAは、ブレージングシートAの縦断面の一部を示し、例えば、
図1の左右方向が圧延方向(RD)であり、
図1の紙面に垂直な方向が圧延直角方向(TD)である。従って、材料表層面(RD-TD)方向の観察とは、
図1に示す皮材1の上面をSEM-EDS(走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析)により観察することを意味する。この観察によりSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のO、あるいは、8at%以上のCが占める面積率を確認する。
【0018】
皮材1を構成するアルミニウム合金において、アルミニウム合金表面の酸化皮膜とは異なる酸素および炭素、あるいはそれぞれを単独で含む粒子は、皮材1のろうの濡れ性を低下させる。合金表面の酸化皮膜はMg添加によりろう付時にある程度除去することが可能であるが、アルミニウム合金に含まれているMgで上述の粒子を充分に除去することはできない。
よって、上述のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率を50%以下にすることで高いろう付性が得られる。同様の理由で上述の粒子が占める面積割合は、35%以下がより好ましい。
【0019】
次に、皮材1を構成するアルミニウム合金について、合金成分の望ましい含有量について説明する。
皮材1を構成するアルミニウム合金において、質量%でMg:0.01~2.5%とSi:1.5~14.0%を含み、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成であることが好ましい。
なお、皮材1を構成するアルミニウム合金には、前述のSiとMgに加え、質量%で後に説明するCu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~0.6%、Sn:0.01~1.4%を含有していても良い。皮材1を構成するアルミニウム合金には、前述の元素に加え、Fe、Sr、Na、Cr、Bの1種又は2種以上の元素を0.003~0.6%含有していても良い。
【0020】
Mg:0.01~2.5%
Mgはろう付時にアルミニウム酸化皮膜(Al2O3)を還元分解するために添加される。Mg含有量が0.01%未満であると、ろう付時の酸化皮膜の還元分解の効果が不十分であり、Mg含有量が2.5%超であると、皮材1としての材料強度が硬すぎて、ブレージングシートの製造が困難になる。また、Mg含有量が2.5%超であると、MgO皮膜が皮材1の表面に密に生成されることでブレージングシートを製造する場合の皮材1と心材2の接合性が低下する。
Si:1.5~14.0%
Siはろう付時に溶融ろうを形成し、ろう付接合部にフィレットを形成するために添加される。Si含有量が1.5%未満であると、溶融ろうが不足する。Si含有量が14.0%を超であると、皮材1が硬く脆くなるため、ブレージングシートの製造が困難になる。
【0021】
Cu:0.05~1.0%
Cuはアルミニウムに固溶してろう付熱処理後に共晶α相に濃縮することで初晶α相と共晶α相の電位差を小さくし、ろう材の腐食形態を改良することで耐食性を向上させるために添加される。Cu含有量が0.05%未満であると、耐食性を向上させる効果が得られず、1.0%超であると金属Cuが析出して耐食性が低下する。
Mn:0.05~1.0%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Siなどの金属間化合物として析出し、材料表面において腐食の起点を増やすことで、孔食の板厚方向進展速度を低下させるために添加される。Mn含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0022】
Ti:0.05~0.3%
Tiは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Ti含有量が0.05%未満であると濡れ性向上効果が不十分となる。Ti含有量が0.3%超であると皮材1を鋳造により製造する場合、鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、皮材1を圧延により製造する場合の圧延性が低下する。
Zr:0.05~0.3%
Zrは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Zr含有量が0.05%未満であると濡れ性向上効果が不十分であり、0.3%超であると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、皮材1を圧延により製造する場合の圧延性が低下する。
【0023】
Bi:0.01~0.6%
Biはろう付昇温過程でMgO皮膜中に浸透・濃化し、MgOを脆弱化することでろう付性を向上させる。Bi含有量が0.01%未満であるとMgOを脆弱化する場合の効果が不十分であり、Bi含有量が0.6%超であると、MgOを脆弱化する効果が飽和することに加えて耐食性が低下する。
Sn:0.01~1.4%
Snは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Sn含有量が0.01%未満であると濡れ性向上効果が不十分であり、Sn含有量が1.4%超であると濡れ性向上効果が飽和することに加えて耐食性が低下する。
【0024】
皮材1を構成するアルミニウム合金には、上述の組成に加え、以下に説明する元素を含有していても良い。
Fe、Sr、Na、Cr、Bのうち、1種又は2種以上:0.003~0.6%
以下の説明において、Fe、Sr、Na、Cr、Bに関し元素Xと略称する。
元素Xは、元素Xを含む金属間化合物を形成して直上の酸化皮膜(Al2O3)を脆弱にすることでろう付時の接合性を向上させる効果がある。さらに、溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。元素Xの含有量が0.003%未満であるとろう付接合性の向上効果が不十分であり、元素Xの含有量が0.6%超であると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0025】
本実施形態に係る無フラックスろう付用アルミニウム合金は、前述した如く、材料表層面(RD-TD)方向のSEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率を50%以下とし、前述した組成を有するが、他に、以下の組成を有するアルミニウム合金であっても良い。
【0026】
本形態の無フラックスろう付用アルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.5%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~2.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%の1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されていても良い。
この組成のアルミニウム合金は、例えば、熱交換器を構成するチューブに適用することができる。
また、本形態の無フラックスろう付用アルミニウム合金において、上述の元素に加え、さらに、Zn:0.5~8.0%を含有していてもよい。
この組成のアルミニウム合金は、例えば、熱交換器のチューブに積層して設ける犠牲材として用いることができる。
【0027】
Mn:0.3~2.0%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出し、材料強度を向上させるために添加される。Mn含有量が0.3%未満であると材料強度向上効果が不十分であり、Mn含有量が2.0%超であると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Si:0.1~1.5%
Siは、アルミニウムに固溶することにより材料強度を向上させる他、Mg2SiやAl-Mn-Si、Al-Mn-Si-Fe金属間化合物として析出し、材料強度を向上させるために添加される。Si含有量が0.3%未満であると材料強度向上効果が不十分であり、Si含有量が1.5%超であると材料の皮材1の融点が過剰に低下する。
【0028】
Fe:0.05~0.7%
FeはAl-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して材料強度を向上させるために添加される。Fe含有量が下限未満であるとコストが高くなり、Fe含有量が0.7%超であると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Cu:0.05~2.0%
Cuはアルミニウムに固溶して材料強度を向上させるために添加される。Cu含有量が0.05%未満であると材料強度向上効果が不十分であり、Cu含有量が2.0%超であると材料強度が硬すぎて素材製造が困難になる。
【0029】
Mg:0.05~2.0%
Mgは、Mg2Siなどの金属間化合物として析出して材料強度を向上させること、およびろう付時に酸化皮膜(Al2O3)を還元分解させ、ろう付の接合性を向上させるために添加される。Mg含有量が下限未満であると材料強度向上効果あるいは接合性の向上効果が不十分であり、Mg含有量が2.0%超であると材料強度が硬すぎて素材製造が困難になる。
Ti:0.05~0.3%
TiはAl-Ti系などの金属間化合物を析出して材料強度を向上させるために添加される。Ti含有量が0.05%未満であると強度向上効果が不十分である。Ti含有量が0.3%超であると皮材1を鋳造により製造する場合、鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0030】
Zr:0.05~0.3%
ZrはAl-Zr系などの金属間化合物を析出して材料強度を向上させるために添加される。Zr含有量が0.05%未満であると強度向上効果が不十分である。Zr含有量が0.3%超であると、鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0031】
無フラックスろう付用アルミニウム合金には、前述のMn、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zrのうち、1種、あるいは2種以上に加え、Znを以下の含有量含んでいても良い。
Zn:0.5~8.0%
Znはアルミニウムに固溶して材料の自然電位を他部材より卑にし、犠牲防食効果によってクラッド材の耐孔食性を向上させるために添加される。Zn含有量が0.5%未満であると耐孔食性の向上効果が不十分であり、8.0%超であると電位が過剰に卑化して自己腐食速度が増加し、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。
【0032】
「クラッド材の製造方法」
クラッド材を製造するためには、まず、ろう材を作製する。ろう材は、目的組成の合金溶湯から鋳造により鋳塊を製造し、この鋳塊に均質化処理、面削、均熱処理を施した後、熱間圧延により所用厚さの板材を得、この板材を後述するように心材を構成するための板材と組み合わせて後述するクラッド圧延に供する。
クラッド材を製造するためには、別途、心材などの非ろう材を作製する必要がある。目的の組成の非ろう材とするための合金溶湯から鋳造により鋳塊を得、この鋳塊に均質化処理を施し、面削した後、熱間圧延により所用厚さの板材を得、上述のろう材用の板材と組み合わせて以下のクラッド圧延に供する。
ろう材用の板材と芯材用の板材を重ねて組合せ、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延を施し、最終的に目的の厚さの積層板とするクラッド圧延を施す。冷間圧延の途中で必要に応じて中間焼鈍および最終焼鈍を実施しても良い。
また、熱間圧延後、ワイヤーブラシなどを用いて表面を研磨しても良い。熱間圧延後、エッチングを施してもよい。クラッド材の具体例として、上述したブレージングシートAあるいはブレージングシートBを挙げることができる。
【0033】
「クラッド圧延」
上述のように用意した心材1用のアルミニウム合金と、ろう材2用のアルミニウム合金を熱間圧延により板状に加工後、板状のアルミニウム合金を重ねてクラッド圧延する。
クラッド率は、例えば、ろう材:心材:犠牲材=5~20%:60~90%:5~20%程度に設定できる。また、クラッド圧延は、熱間圧延にて行う。この熱間圧延により、例えば、上述した積層構造のアルミニウム合金クラッド材を得ることができる。
【0034】
「ロールブラッシング」
前述の熱間圧延時、ロールブラッシングを行うことが好ましい。熱間圧延時にはアルミニウム合金板材の表面で生成する酸化皮膜がロールをコーティングするが、このコーティングが過多になるとコーティングの一部が脱落して圧延中の板材に転写され、この転写された酸化物はろう付性の低減に寄与する。そのため、熱間圧延を行う際はロールブラッシングによって圧延材表面のロールコーティングを制御することが望ましい。
「熱間圧延時の上限温度」
熱間圧延時の材料温度が550℃を超えると、材料表面の酸化皮膜が異常成長し、また、高温高圧環境故に構造が変化してMgでは還元分解できない酸化物となってろう付性を阻害する。同様の理由で、熱間圧延時の材料温度は500℃以下が望ましい。
【0035】
「熱間圧延後の材料表面研磨」
熱間圧延時のロールブラッシングや温度管理による材料表面状態の制御に加えて、熱間圧延後にワイヤーブラシを用いて材料表面を研磨し、より厳密に異物を除去することが望ましい。
「冷間圧延速度」
冷間圧延速度が速すぎると圧延ロールと材料の間に圧延油を過多に巻き込み、圧延油がロールに押されて材料表面にわずかな深さのくぼみを生成し、このくぼみの内部に圧延油が入り込んで最終製品まで残存するおそれがある。冷間圧延速度は1600m/min未満であることが望ましく、1300m/min未満であることがより望ましい。
【0036】
「冷間圧延時の材料温度」
冷間圧延によって材料温度が過多に上昇すると、材料表面に圧延油が焼き付いてしまう。冷間圧延時の材料温度は170℃未満であることが好ましい。
【0037】
「冷間圧延油の蒸発温度」
焼鈍を実施する際、冷間圧延に用いた圧延油が蒸発せずに残存すると材料表面に圧延油が焼き付いてしまう。この焼き付きを防止するために、冷間圧延油の蒸発温度は130~200℃の範囲で制御することが好ましい。
冷間圧延の条件は、特に規定されるものではないが、1パスあたりの圧下率を20%~50%の間に設定して実施することができる。
【0038】
「エッチング」
製造工程中に生成した酸素および炭素、あるいはそれぞれを単独で含む粒子を除去するために必要に応じて適宜エッチングを行うことが望ましい。エッチング液として用いるNaOHの濃度を0.5~30%に設定し、溶液温度を30~80℃として2~100sの溶解を行う。アルカリエッチング後はHNO3などの酸性液を用いてデスマット処理することが望ましい。
【0039】
以上説明の製造方法により得られたブレージングシートAは、チューブを構成するかフィンを構成するなどの目的で使用され、熱交換器を構成する他の部材とのろう付用として利用される。ろう付温度は、例えば、室温から平均昇温速度70℃/分程度で昇温し、590~620℃の温度範囲である不活性ガス雰囲気中に1~30分程度保持後、50℃/分程度の降温速度で降温冷却する条件を例示できる。
【0040】
ブレージングシートAは、上述の組成のアルミニウム合金から構成され、表面において酸素および炭素を低く抑えている。このため、無フラックスろう付に用いたとして、適切なろうを生じさせてろう付対象物との間にろうを充分に濡れ拡がらせることができ、ろう付性に優れた構造の熱交換器を提供できる。
【0041】
図3は、前記ブレージングシートAを用いてチューブ7を構成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のフィン6を用いたアルミニウム製熱交換器5を例示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダープレート9と組み込み、フラックスを用いることなくろう付することによって自動車用途などのアルミニウム合金製の熱交換器5を得ることができる。
【0042】
図3に示す構成の熱交換器5であるならば、チューブ7の内部を媒体が流動し、熱を受けてチューブ7が膨張し、ヘッダープレート9との接合部分に応力が作用したとして、チューブ7とヘッダープレート9との接合部分において亀裂や破断を生じ難いろう付性に優れた熱交換器5を提供できる。
この熱交換器5は、フラックスを使用しないろう付を実施したとして、ろう付界面にろう付の阻害となる、酸素量および炭素量を低く抑制しているので、優れたろう付構造を実現できる。
【0043】
また、前述した如く、SEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率を50%以下とし、Mn、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zrを前述の範囲含むアルミニウム合金から、チューブ7を構成してもよい。
上述のアルミニウム合金からチューブ7を構成した場合、チューブ7の両面にろう材を設け、更にフィン6と組合せ、ろう付温度に加熱してろう付けすることにより、熱交換器5を得ることができる。
この構成においても、チューブ7の両面でろう材が良好に濡れ広がり、優れたろう付構造を実現できる。
【0044】
また、前述した如く、SEM-EDSマッピングの定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率を50%以下とし、Mn、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zrを前述の範囲含むアルミニウム合金に、更にZnを0.5~8%含有させたアルミニウム合金から、
図2に示す犠牲材3を構成することもできる。
この構成において、犠牲材3がろう付時に良好に濡れ広がり、犠牲材3に含まれるZnがチューブ7に均一に拡散して犠牲陽極層を形成する結果、良好な犠牲陽極効果を具備する耐食性に優れた熱交換器を提供できる。
【0045】
本発明に係るアルミニウム合金は、
図1、
図2に示す構造のクラッド材に限らず、種々の積層構造のクラッド材に適用することができる。
前述のMn、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zrの1種、あるいは2種以上を前述の範囲含むアルミニウム合金、あるいはこの合金に更にZnを0.5~8%含有させたアルミニウム合金は、被接合体に適用することができる。被接合体として、ベア材、2層クラッド材ではろう材/心材の構成であれば心材に適用可能、犠牲材/心材の構成であれば、何れにも適用可能である。3層クラッド材においても2層クラッド材と同様に適用することができる。
前述のMn、Si、Fe、Cu、Mg、Ti、Zrの1種、あるいは2種以上を前述の範囲含むアルミニウム合金は、心材や何らかのベア材として適用可能であり、更にZnを前述の範囲含むアルミニウム合金は、犠牲材か、犠牲陽極フィン(ベア材)に適用することができる。
【実施例0046】
表1に示す組成を有する実施例合金としてのアルミニウム合金(No.1~16)と、比較例合金としてのアルミニウム合金(No.17~20)を用いて、後述する異物密度を求める試験と、ろう付接合率を求める試験と、ろう付後に生成したフィレット長を求める試験と、耐食性を求める試験を実施した。
また、表2に示す組成を有する実施例合金としてのアルミニウム合金(No.21~39)と、比較例合金としてのアルミニウム合金(No.40~55)を用いて、後述する異物密度を求める試験と、ろう付接合率を求める試験と、引張強度を求める試験と、耐食性を求める試験を実施した。
【0047】
なお、表1、表2に示した成分はそれぞれのアルミニウム合金に含まれているアルミニウム以外の主要元素のみを記載し、不可避不純物とアルミニウムの記載は略している。従って、各アルミニウム合金において表1、表2に示した成分を除き残部は不可避不純物とアルミニウムからなる。また、表1、表2において各欄に-と記載した成分については該当する元素を含有していないことを意味する。
【0048】
表1、表2に示す組成のアルミニウム合金について、鋳塊から得た板材に対し、後述するAl-Mn系合金の非ろう材層とクラッド材を構成するために、熱間圧延と冷間圧延を施し、板厚0.2mm、クラッド率10%のクラッド材を得た。熱間圧延時、必要に応じてロールブラッシングを行い、一部クラッド材の作製に対し熱間圧延後に表面研磨を実施し、冷間圧延後にエッチングを実施した。
表3に、各クラッド材製造時のロールブラッシングの有無、熱間圧延温度(℃)、熱間圧延後の表面研磨の有無、冷間圧延速度(m/min)、冷間圧延温度(℃)、冷間圧延油蒸発温度(℃)について記載した。これらのクラッド材を用いて以下に記載する各種の試験を実施し、各試験の結果を後述する表4~表8に記載した。ロールブラッシング、表面研磨、エッチングについては下記の条件で実施し、各試験の評価項目は後述する通りである。
【0049】
「ロールブラッシング」
ナイロン製のブラシを用いて、当たり幅が20~40mmとなるよう調整して実施した。
【0050】
「表面研磨」
ワイヤーブラシを用いて押し付け量が1~3mmとなるように調整して施した。
【0051】
「エッチング」
濃度5%のNaOH水溶液を用意し、溶液温度を50℃として10sの溶解を実施した。アルカリエッチング後は室温で濃度30%のHNO3を用いて20sのデスマット処理を行った。
【0052】
「酸素および炭素、あるいはそれぞれを単独で含む異物の分布測定(異物密度)」
ろう付相当熱処理前の各アルミニウム合金の供試材について、FE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)を用いて材料表層面(RD-TD方向)を観察し、EDS分析(エネルギー分散型X線分光分析)を実施する。ろう付性の低減に寄与するO(酸素)あるいはC(炭素)については、定性全元素によるスタンダードレスZAF法において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率で定義し、表面方向10000μm2の観察視野において10視野計測し、異物密度(%)を測定した。
なお、測定装置の検出限界から、0.1%が測定下限値になると考えられる。
【0053】
「接合率」
表1に記載した組成のアルミニウム合金をろう材として、Al-Mn系合金の非ろう材層とクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシート(厚さ0.2mm)を用意した。このブレージングシートにおいて、ろう材のクラッド率は10%(ろう材厚さ20μm)とした。
このブレージングシートから扁平チューブ(肉厚0.26mm×幅17.0mm×高さ1.5mm)を構成し、A3003合金板をコルゲート加工したフィンを組みつけてろう付相当熱処理を実施した。
【0054】
表2に記載した成分を有するアルミニウム合金から同様に扁平チューブを構成し、コルゲート加工した両面ろう材クラッドフィンを組みつけてろう付相当熱処理を実施した。
両面ろう材クラッドフィンのろう材組成は、Al-10Siである。
それぞれのフィン接合率を(接合数/総接触数)×100で求めた。
判定基準は、◎:100%、○○○:95%以上100%未満、○○:85%以上95%未満、〇:75%以上85%未満、×:75%未満とした。
【0055】
接合数は、コルゲートフィンの湾曲部と扁平チューブの片面とがろう材によりフィレットを形成し接合された部分を1箇所の接合部と見立て、充分な長さのフィレットを生成して接合部を構成した数を接合数としている。フィレットの生成が不十分で接合部の生成が不十分な場合は、接合数としてカウントしていない。ろう付後にフィンをはぎ取った際、チューブ側にフィレットが残るものは接合できている、そうでないものは未接合と判断した。
【0056】
「フィレット長」
表1に示す組成のアルミニウム合金をろう材として、Al-Mn系合金の非ろう材層とクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートから、上述と同じサイズのチューブを作製し、A3003合金板をコルゲート加工したフィンを組みつけ、ろう付相当熱処理を実施した。フィン/チューブ接合部においてフィレットからなる接合部長さ(チューブの長さ方向に沿うフィレット長)を各試料で20点計測し、その平均をもって評価した。
判定基準は、◎:1.2mm以上、○○○:1.0mm以上1.2mm未満、〇〇:0.8mm以上1.0mm未満、〇:0.6mm以上0.8mm未満、×:0.6mm未満とした。
【0057】
「ろう材の耐食性」
表1に示す組成のアルミニウム合金をろう材として、Al-Mn系合金の非ろう材層とクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートを作製した。このとき、ブレージングシートの板厚は0.2mmとし、ろう材のクラッド率は10%(ろう材厚さ20μm)とした。ろう材の耐食性評価はOY水(Cl-:195ppm、SO4
2-:60ppm、Cu2+:1ppm、Fe3+:30ppm、残部純水)による浸漬試験を実施した。
試験条件は室温×16h+88℃×8h(攪拌なし)を1日のサイクルとし、1週間試験を実施し、腐食深さによって評価した。
判定は、〇〇:20μm未満、〇:20μm以上50μm未満、×:50μm以上。
【0058】
「犠牲材の耐食性」
表2に示す組成のアルミニウム合金を犠牲材として、Al-Mn系合金の非ろう材層とクラッドしたクラッド材を作製した。このときクラッド材の板厚は0.2mmとし、犠牲材のクラッド率は20%(犠牲材厚さ40μm)とした。犠牲材表面以外をマスキングして、SWAAT試験に55日負荷し、腐食深さによって評価した。
判定基準は、〇〇:50μm未満、〇:100μm以上50μm未満、×:100μm以上。
【0059】
「引張強度」
表2に示すアルミニウム合金をH14調質相当の0.2mm厚に仕上げ、ろう付相当熱処理を施したのち、圧延方向と平行にサンプルを切り出し、JIS13号B試験片を作製し、引張試験を行った。
判定基準は、190MPa以上を〇〇、150MPa以上190MPa未満を〇、150MPa未満を×とした。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表4、表5に、表1に示す組成のアルミニウム合金のろう材を備えたブレージングシートにおける、異物密度(%)、接合率、フィレット長、耐食性の測定結果を示す。
実施例1~46が示すように、Mg:0.01~2.5%、Si:1.5~14.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金のろう材を備え、異物密度が50%以下のブレージングシートは、無フラックスろう付を行ってチューブとフィンを接合した場合であっても、接合率に優れ、フィレット長が充分であり、耐食性にも優れていた。
【0069】
比較例1~4はSi含有量あるいはMg含有量が望ましい範囲より少ないか多い試料であるが、いずれも接合率が悪くなった。
比較例5~8はSi含有量あるいはMg含有量が望ましい範囲より少ないか多い試料であり、製造方法としてFの条件を採用しているが、いずれも接合率が悪くなり、フィレット長も不足であった。
【0070】
実施例33~39は、実施例1が合金成分1を採用して製造方法Bを採用し、実施例17が合金成分1を採用して製造方法Fを採用したのに対し、合金成分1を採用した上で表3に示す製造方法A、C~E、G~Iを採用したブレージングシートに相当する。実施例33~39は接合率に優れ、フィレット長が充分であり、耐食性にも優れていた。
比較例9~13は、合金成分1を採用した上で表3に示す製造方法J~Nを採用したブレージングシートに相当するが、接合率が悪く、フィレット長も不足であった。
比較例9はロールブラッシングを施していない試料、比較例10は熱間圧延温度が高すぎる試料、比較例11は冷間圧延速度が高すぎる試料、比較例12は冷間圧延温度が高すぎる試料、比較例13は冷間圧延油蒸発温度が高すぎる試料である。
【0071】
実施例40~46は、合金成分11を採用した上で表3に示す製造方法A、C~E、G~Iを採用したブレージングシートに相当する。実施例40~46は接合率に優れ、フィレット長が充分であり、耐食性にも優れていた。
比較例14はロールブラッシングを施していない試料、比較例15は熱間圧延温度が高すぎる試料、比較例16は冷間圧延速度が高すぎる試料、比較例17は冷間圧延温度が高すぎる試料、比較例18は冷間圧延油蒸発温度が高すぎる試料である。
比較例14~18は、合金成分11を採用した上で表3に示す製造方法J~Nを採用したブレージングシートであるが、接合率が悪くなった。
【0072】
実施例47~103は、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.5%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~2.0%を含み、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%の1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からチューブを構成した試料である。また、製造方法は、A~Iの何れかを用いている。
いずれの試料も異物密度が低く、接合率に優れ、引張強度が高くなった。
【0073】
比較例19~34は、製造方法Bを採用し、Mn、Si、Fe、Cu、Mgのうち、いずれかの含有量が望ましい範囲から外れた試料であるか、Ti、Zr、Znのうち、いずれかの含有量が望ましい範囲から外れた試料に相当する。
比較例19~34は、接合率が悪いか、引張強度の低い試料であるか、耐食性に劣る試料であるか、製造不可であるか、コストの高い例であった。
比較例35~50は、製造方法Fを採用し、Mn、Si、Fe、Cu、Mgのうち、いずれかの含有量が望ましい範囲から外れた試料であるか、Ti、Zr、Znのうち、いずれかの含有量が望ましい範囲から外れた試料に相当する。
比較例35~50は、接合率が悪いか、引張強度の低い試料であるか、耐食性に劣る試料であるか、製造不可であるか、コストの高い例であった。
比較例51~65は、製造方法J~Nのいずれかを採用し、合金No.21、30、31の何れかを採用したが、異物密度が高くなり、接合率が悪くなった。
【0074】
以上の結果から、アルミニウム合金表面において、10at%以上のOを含む異物、または、8at%以上のCを含む異物、もしくは、10at%以上のOと8at%以上のCを含む異物が占める面積率が50%以下であることが、ろう付時にろうの濡れ広がりを良好とし、無フラックスろう付を行う上で重要であることがわかった。即ち、異物密度を低くすることにより、フラックスを利用しなくても高いろう付性を得られることがわかった。なお、表4、表5に示す結果から、異物密度25~50%の範囲で優れた特性が得られ、異物密度25~35%の範囲で特に優れた結果が得られた。
【0075】
また、Mgを0.01~2.5%、Siを1.5~14.0%含有するアルミニウム合金であって、表面に存在する前述の粒子を抑制したアルミニウム合金であるならば、ろう付接合率が高く、ろうにより生成するフィレット長が長く、耐食性にも優れたろう付構造を提供できることが分かった。
さらに、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.5%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~2.0%を含有するアルミニウム合金であって、表面に存在する前述の粒子を抑制したアルミニウム合金であるならば、ろう付接合率が高く、ろうにより生成するフィレット長が長く、耐食性にも優れたろう付構造を提供できることが分かった。なお、表6~表8に示す結果から、異物密度25~50%の範囲で優れた特性が得られ、異物密度25~35%の範囲で特に優れた結果が得られた。
A、B…アルミニウム合金ブレージングシート(アルミニウム合金クラッド材)、1…皮材、2…心材、3…犠牲材、5…熱交換器、6…フィン、7…チューブ、8…補強材、9…ヘッダープレート。