(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060899
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】回収用部材付き係留索及び係留索回収システム
(51)【国際特許分類】
B63B 21/50 20060101AFI20240425BHJP
B63C 7/16 20060101ALI20240425BHJP
G01S 15/74 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B63B21/50 Z
B63C7/16
G01S15/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168468
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森屋 陽一
(72)【発明者】
【氏名】保木本 智史
(72)【発明者】
【氏名】横畠 隆広
(72)【発明者】
【氏名】廣井 康伸
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA03
5J083AD01
5J083AE07
(57)【要約】
【課題】水底に設置される係留索を水上交通の妨げとならずに容易に回収できるようにする。
【解決手段】情報処理装置13は、トランスポンダ31から発せられた応答波を各受波器が受波したときの位相差に基づいて、トランシーバ12(つまり船舶10)に対するトランスポンダ31(つまり回収用部材30)の相対的な位置を算出する。係留索に設けられた回収用部材30は、水底面に接している状態で、船舶10のクレーン11からワイヤー14により吊り下げられたフック15を引っ掛けることが可能な立体形状を有している。具体的には、回収用部材30において、その立体形状の水底面に接する接触部材が少なくとも2部材以上であり、且つ、回収用部材30はその2以上の接触部材が水底面に接している状態で、クレーン11から吊り下げられたフック15を引っ掛けることが可能な構造になっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に設置される係留索に設けられた回収用部材を有し、
前記回収用部材は水底面に立設している状態で、船舶から吊り下げられた回収用の鉤状部材を引っ掛けることが可能な立体形状を有する
ことを特徴とする回収用部材付き係留索。
【請求項2】
前記立体形状の水底面に接する接触部材が少なくとも2部材以上であり、
前記2以上の接触部材が水底面に接している状態で、前記立体形状を保持し、回収用の鉤状部材を引っ掛けることが可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項3】
前記接触部材に水底面に接する安定部材として重量物が設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項4】
当該回収用部材の位置を測定するための測位用装置を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項5】
前記測位用装置が1つである場合には、
当該測位用装置は前記立体形状の内側に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項6】
前記測位用装置が2つである場合には、
当該測位用装置は当該回収用部材において水底面に接する接触部材の両端に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項7】
前記測位用装置が前記回収用部材の各隅角部内に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の回収用部材付き係留索。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の回収用部材付き係留索と、
前記回収用部材の位置を測定するトランシーバと
を備えることを特徴とする係留索回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底に設置される係留索を回収するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
浮体式洋上風力等の水上構造物を係留する方法として、その水上構造物を係留する係留索を水底に設置するカテナリー係留が知られている。このような係留索を水底から回収するための仕組みが従来から提案されている(例えば特許文献1)
【0003】
しかしながら当該発明は、地上からの指令により海底係留具に取り付けられた浮力負荷装置であるバルーンにガスボンベ内の圧縮ガスを供給してバルーンを膨張させることにより海底係留具を浮上させ回収するもので、その構造は複雑であり、バルーン上に海底の土砂が堆積した場合には、バルーンが十分な浮力を得るまで膨張できるか不安がある。
【0004】
また、近年では浮体式水上構造物のより大型化により、当該浮体式水上構造物の設置対象水域がより沖合の深度がある水域へと変わってきている。そのため当該浮体式水上構造物の係留索の必要索長も長くなり、同一日で係留索の水底への設置と当該浮体式水上構造物への係留を行うことは出来ないため、一旦設置した係留索を後日水底から回収し、当該浮体式水上構造物を係留することとなる。
【0005】
そのため、近年では水底に設置された係留索の位置が分かるように海底の係留索にブイが取り付けられたワイヤーを所定の間隔毎に取り付け、水底上の係留索の位置が水面上に浮かぶブイで確認できるようにしている。
【0006】
しかしながら、水面上に多数のブイが浮かんでいると、船舶が当該水域を航行する際の障害物となり航行の妨げとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、係留索の先端部に水底上で立設する立体形状の回収用部材を設けることで、水上交通を妨げずに水上からフック上の鉤状部材などを用いて水底に設置される係留索を容易に回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る回収用部材付き係留索は、水底に設置される係留索に設けられた回収用部材を有し、前記回収用部材は水底面に立設している状態で、船舶から吊り下げられた回収用の鉤状部材を引っ掛けることが可能な立体形状を有することを特徴とする。
【0010】
前記立体形状の水底面に接する接触部材が少なくとも2部材以上であり、前記2以上の接触部材が水底面に接している状態で、前記立体形状を保持し、回収用の鉤状部材を引っ掛けることが可能であってもよい。
【0011】
前記接触部材に水底面に接する安定部材として重量物が設けられていてもよい。
【0012】
当該回収用部材の位置を測定するための測位用装置を備えていてもよい。
【0013】
前記測位用装置が1つである場合には、当該測位用装置は前記立体形状の内側に設けられていてもよい。
【0014】
前記測位用装置が2つである場合には、当該測位用装置は当該回収用部材において水底面に接する接触部材の両端に設けられていてもよい。
【0015】
前記測位用装置を前記回収用部材の各隅角部内に設けるようにしてもよい。
【0016】
本発明に係る係留索回収システムは、上記のいずれかの回収用部材付き係留索と、前記回収用部材の位置を測定するトランシーバとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水底に設置される係留索を容易に回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る係留索回収システムの全体構成を例示する図。
【
図2】同実施形態に係る回収用部材の構造を例示する三面図。
【
図3】同実施形態に係る回収用部材の構造を例示する三面図。
【
図4】同実施形態に係る回収用部材の構造を例示する三面図。
【
図5】同実施形態に係る回収用部材の構造を例示する三面図。
【
図6】同実施形態において係留索の回収動作を説明する図。
【
図7】同実施形態において係留索の回収動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る係留索回収システムの全体構成を例示するである。
図1において、線Sは水面を意味しており、線Gは水底面を意味している。回収システムは、水面を移動する船舶10と、例えば水深100m程度の水底に設置された係留索20に設けられた回収用部材30とを有する。船舶10には、係留索20及び回収用部材30(回収用部材付き係留索)を回収するためのクレーン11と、船底に設置された水中に音波を発するトランシーバ12と、情報処理装置13を備えている。
【0020】
水底に設置された係留索に設けられた回収用部材30には、トランシーバ12から発せられた音波に応答する応答波を発する測位用装置であるトランスポンダ31が設けられている。トランシーバ12はいわゆるアレイ構造の3以上の複数の受波器を備えている。情報処理装置13は、プロセッサ、メモリ、通信装置、表示装置及び操作装置等からなり、回収用部材30に設置されているトランスポンダ31から発せられた応答波を各受波器が受波したときの位相差に基づいて、トランシーバ12(つまり船舶10)に対するトランスポンダ31(つまり回収用部材30)の相対的な位置を算出する。このように、トランスポンダ31は測位用装置として機能し、情報処理装置13及びトランシーバ12は測位装置として機能する。
【0021】
回収用部材30は、水底面に立設している状態で水底上に着底した際に、船舶10のクレーン11からワイヤー14により吊り下げられたフック15(回収用の鉤状部材)を引っ掛けることが可能な立体形状を有している。具体的には、回収用部材30において、その立体形状の水底面に接する接触部材が少なくとも2部材以上であり、且つ、回収用部材30はその2以上の接触部材が水底面に接して立設している状態で、クレーン11から吊り下げられたフック15を引っ掛けることが可能な構造になっている。
【0022】
回収用部材30は、例えば
図2に例示するように、棒状の鋼材からなる矩形の部材301、302、303が正面から見て三角形、側面から見て矩形となるように組み合わせられて構成されている。各部材301、302、303の間には、フック15が挿入されるのに十分な空隙が設けられている。本回収用部材30の形状において、水底面に接触する接触部材の数は4である。
【0023】
さらに、部材301、302、303の一辺には、水底面に接する際の安定部材として、鋼板等からなる重量物304が設けられている。この重量物304は、水底面において回収用部材の位置を安定させるとともに、回収用部材30が水底面に埋もれにくくなるような役割を果たしている。
【0024】
また、回収用部材30は、例えば
図3に例示するように、鋼材からなる矩形の部材311、312が正面から見てX状となるように組み合わせられて構成されている。そして、各部材311、312の間には、フック15が挿入されるのに十分な空隙が設けられている。本回収用部材30の形状において、水底面に接触する接触部材の数は2である。部材311、322の一辺には、
図2の構造と同様に、安定部材としての重量物304が設けられている。
【0025】
また、回収用部材30は、例えば
図4に例示するように。鋼材からなる三角形状の部材321,322,323が組み合わされ、どの面からみても三角形となる三角錐の形状となっている。各部材321,322,323の間には、フック15が挿入されるのに十分な空隙が設けられている。さらに、部材321,322,323の一辺には、水底面に接する際の安定部材として、鋼板等からなる重量物304が設けられている。本回収用部材30の形状において、水底面に接触する接触部材の数は3である。
【0026】
図2、
図3及び
図4の例示において、重量物304には前述したトランスポンダ31が1つ取り付けられている。このように、回収用部材30に設けられた測位用装置としてのトランスポンダ31が1つである場合には、そのトランスポンダ31は回収用部材30の立体形状の内側で重量物304の略中央に設けられている。これにより、トランスポンダ31と例えば水底にある岩等の障害物との衝突によってトランスポンダ31が破損するような事態を避けることが可能となる。
【0027】
一方、回収用部材30においてトランスポンダ31が2つである場合には、
図5に例示するように、各トランスポンダ31は回収用部材30のいずれかの接触部材の両端に設けられている。これにより、情報処理装置13は各トランスポンダ31の位置を算出することができるから、これらトランスポンダ31間にある立体形状の領域を特定しやすくなり、その結果、その立体形状に対してフック15を引っ掛けやすくなる。
【0028】
また、回収用部材30において、回収用部材30の各隅角部内にトランスポンダ31を設けるようにしてもよい。これにより、情報処理装置13は各トランスポンダ31の位置だけでなく各トランスポンダ31の位置を仮想線でつなぐことで水底面での回収用部材30の状態を想定することができるから、これらトランスポンダ31間にある立体形状の領域をより特定しやすくなり、その結果、その立体形状に対してフック15を引っ掛けやすくなる。また、測位用装置であるトランスポンダ31は回収部材の隅角部内に設置されるので、破損しにくい。
【0029】
次に、
図6、7を参照して、係留索20の回収動作を説明する。船舶10の作業員は船舶10を操縦して係留索20の設置場所に近づくと、情報処理装置13の操作装置を用いて所定の操作を行い、トランシーバ12から音波を発する。
【0030】
これに応じて、回収用部材30に設けられたトランスポンダ31は、トランシーバ12から発せられた音波に応答する応答波を発する。情報処理装置13は、トランスポンダ31から発せられた応答波をトランシーバ12の各受波器が受波したときの位相差に基づいて、トランシーバ12に対するトランスポンダ31の相対的な位置を算出し、その位置を表示装置に表示する。
【0031】
作業員は情報処理装置13に表示されたトランスポンダ31の位置を参照しながら、
図6に例示するように、クレーン11の姿勢やワイヤー14の繰り出し長に関する操作を行うことで、トランスポンダ31があると想定される水底面へとフック15を降ろす。また、船舶10の船底に音響測深機(図示せず)を設置し、事前に回収用部材30が設置されている水底までの水深に基づいてワイヤーを繰り出しておくようにしてもよい。
【0032】
そして、作業員は情報処理装置13に表示された位置を参照しながら、トランスポンダ31があると想定される水底面付近でフック15を左右上下に振ることで、そのフック15を回収用部材30に引っ掛ける。
【0033】
回収用部材30は水底上で立体形状を有した状態で立設されているため、フック15が回収用部材30に引っかかりやすい。フック15が回収用部材30に引っかかると、回収用部材30と連結されている係留索の重量がワイヤー14に伝わるため、作業員はフック15が回収用部材30に引っ掛かったことを確認できる。作業員は、フック15が回収用部材30にかかったことを確認したのち、
図7に例示するように、ワイヤー14を船舶10上に設置されているウインチ(図示せず)で巻取り、回収用部材30及び係留索の先端を船舶10上に回収し、船舶10を所定の位置、例えば浮体式水上構造物へと移動させる。
【0034】
上述した実施形態によれば、水底に設置される係留索に設けられた回収用部材がフックに引っ掛かりやすい立体形状となっているので、その回収用部材の位置を把握しながら係留索を回収することが容易となる。
【0035】
[変形例]
上述した実施形態を以下のように変形してもよい。また、以下の2つ以上の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0036】
[変形例1]
回収用部材の立体形状は
図2~5の例示に限定されない。例えば棒状の鋼材からなる直方体であってもよい。この場合、直方体の対角線にX状となる筋交いを向かい合わせに4方向に設けるようにすれば、回収用部材が潮流等により転がったとしても、フックを引っ掛けやすい立体形状を水底面上で維持することができる。また、回収用部材の素材は、丸棒や異形鉄筋などの鋼材のほか、硬度の高いゴム等の樹脂素材であってもよい。
【0037】
[変形例2]
回収用部材30に設けたトランスポンダ31と同様のトランスポンダをフック15に設けておき、情報処理装置13は回収用部材30のトランスポンダ31の位置とフック15に設けられたトランスポンダの位置とを測位して表示するようにしてもよい。このようにすれば、作業者は、回収用部材30のトランスポンダ31の位置とフック15に設けられたトランスポンダの位置との位置関係を把握することができるので、回収用部材30にフック15を引っ掛ける操作が容易となる。
【符号の説明】
【0038】
10:船舶、11:クレーン、12:トランシーバ、13:情報処理装置、14:ワイヤー、15:フック、20:係留索、30:回収用部材、31:トランスポンダ、301,302,303,311,312,321,322,323:部材、304:重量物。