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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060900
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/54 20100101AFI20240425BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20240425BHJP
   H01L 33/60 20100101ALI20240425BHJP
【FI】
H01L33/54
H01L33/56
H01L33/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168470
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】林 欣司
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA12
5F142AA58
5F142AA67
5F142AA75
5F142CE06
5F142CE13
5F142CE22
5F142CE32
5F142CG05
5F142DA02
5F142DA12
5F142DA73
5F142EA02
5F142EA18
5F142FA46
5F142HA03
(57)【要約】
【課題】シリコーン樹脂上に設けられたAl膜のクラックや反応生成物による反射率の低下が抑えられた、光取出効率に優れる発光装置を提供する。
【解決手段】発光素子10と、発光素子10を封止する、シリコーン樹脂を母材とする封止部材11と、封止部材11上のSiO膜からなる密着層12と、密着層12上のAl膜からなる反射層13と、を備えた、発光装置1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子を封止する、シリコーン樹脂を母材とする封止部材と、
前記封止部材上のSiO膜からなる密着層と、
前記密着層上のAl膜からなる反射層と、
を備えた、
発光装置。
【請求項2】
前記密着層の厚さが10nm以上、300nm以下の範囲内にある、
請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記反射層の厚さが50nm以上、300nm以下の範囲内にある、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記反射層の上のSiO膜、Ti膜、Ta膜、又はCr膜からなる保護層を備えた、
請求項1に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子から発せられる光を反射する金属膜を備えた発光装置が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の発光装置においては、発光素子の上にシリコーン樹脂などからなる透光部が設けられ、その上に金属膜からなる光反射部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-174196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発光装置のように、樹脂層の上に金属膜が設けられる場合であって、樹脂層の材料として特許文献1にも初めに挙げられている代表的な樹脂材料であるシリコーン樹脂が用いられ、金属膜の材料として反射率に優れるAlが用いられる場合、樹脂層と金属膜との熱膨張率の差によってクラックが発生しやすい。また、この場合、シリコーン樹脂とAlの間に反応が生じ、界面に反応による生成物が生成される。このようなAl膜のクラックや反応による生成物が発生すると、Al膜の反射率が低下し、発光装置の光取り出し効率が低下する。
【0005】
本発明の目的は、シリコーン樹脂上に設けられたAl膜のクラックや反応生成物による反射率の低下が抑えられた、光取出効率に優れる発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の発光装置を提供する。
【0007】
[1]発光素子と、前記発光素子を封止する、シリコーン樹脂を母材とする封止部材と、前記封止部材上のSiO膜からなる密着層と、前記密着層上のAl膜からなる反射層と、を備えた、発光装置。
[2]前記密着層の厚さが10nm以上、300nm以下の範囲内にある、上記[1]に記載の発光装置。
[3]前記反射層の厚さが50nm以上、300nm以下の範囲内にある、上記[1]又は[2]に記載の発光装置。
[4]前記反射層の上のSiO膜、Ti膜、Ta膜、又はCr膜からなる保護層を備えた、上記[1]又は[2]に記載の発光装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコーン樹脂上に設けられたAl膜のクラックや反応生成物による反射率の低下が抑えられた、光取出効率に優れる発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置の垂直断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係るフリップチップ型である発光素子の構造の一例を示す下面図である。
図3図3(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る発光装置の配光角と発光強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発光装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置1の垂直断面図である。発光装置1は、発光素子10と、発光素子10を封止する、シリコーン樹脂を母材とする封止部材11と、封止部材11上のSiO膜からなる密着層12と、密着層12上のAl膜からなる反射層13と、反射層13の上の保護層14を備える。
【0011】
発光素子10は、典型的にはLEDチップである。また、発光素子10は、典型的にはフリップチップ型の素子であるが、フェイスアップ型の素子であってもよい。発光素子10がフリップチップ型である場合、図1に示されるp側パッド電極101aとn側パッド電極101bが、プリント基板などの実装対象の電極に接続される。
【0012】
図2は、フリップチップ型である発光素子10の構造の一例を示す下面図である。図2に示される例においては、発光素子10は、p側パッド電極101aに接続されるp側コンタクト電極102aと、n側パッド電極101bに接続されるn側コンタクト電極102bを有する。また、発光素子10は、発光層及びそれを上下方向から挟むp型コンタクト層とn型コンタクト層を含む半導体層をサファイア基板などの基板104上に有する。p側コンタクト電極102aは、p型コンタクト層に電流を均一に拡散させるためのITOなどからなる透明電極103を介してp型コンタクト層に接続され、n側コンタクト電極102bは、n型コンタクト層に接続される。
【0013】
また、発光素子10の下面は図示されない保護膜に覆われており、その保護膜の表面上にp側パッド電極101aとn側パッド電極101bが設けられている。保護膜は、発光素子10を分割しやすくするためや、半導体層の端部を保護するために設けられる。なお、図2においては、p側パッド電極101aとn側パッド電極101bの下に位置するp側コンタクト電極102a、n側コンタクト電極102b、及び透明電極103の輪郭を点線で示しているが、これらの線はp側パッド電極101aとn側パッド電極101bの上から段差として視認できる。
【0014】
封止部材11は、上述のように、シリコーン樹脂を母材とし、例えば、発光素子10が発する光を変換する蛍光体を含む。例えば、発光素子10の発する光が青色光、例えば波長が430~470nmの光であって、封止部材11がYAG蛍光体などの黄色蛍光体を含む場合、発光装置1は白色の光を発する。
【0015】
封止部材11は、通常、発光素子10の側面と上面を覆い、また、封止部材11の平面方向の中心に発光素子10が位置するように設けられる。封止部材11の形状は特に限定されないが、典型的には直方体である。この場合、封止部材11の側面が直方体の発光素子10の側面に平行になるように設けられる。
【0016】
密着層12は、封止部材11と反射層13の間に設けられる膜であり、密着層12を設けることにより、反射層13のクラックの発生による反射率の低下を抑えることができる。
【0017】
シリコーン樹脂の線膨張係数はおよそ200×10-6~400×10-6ppm、Alの線膨張係数はおよそ23.6×10-6ppmであるため、Al膜からなる反射層13の線膨張係数とシリコーン樹脂を母材とする封止部材11の線膨張係数の差はかなり大きい。このため、封止部材11の上に反射層13を直接形成した場合、反射層13の形成時の昇温による封止部材11と反射層13の膨張、その後の降温による収縮を経て金属膜である反射層13にクラックが発生しやすい。
【0018】
封止部材11上にSiO膜からなる密着層12を介して反射層13が形成された発光装置1においては、Alの線膨張係数とおよそ0.5×10-6ppmであるSiOの線膨張係数の差が、Alの線膨張係数とシリコーン樹脂の線膨張係数の差よりも格段に小さいために、反射層13の形成時の昇温とその後の降温を経ても反射層13にクラックが生じ難い。
【0019】
また、密着層12を設けることにより、封止部材11と反射層13の界面に生成される生成物による反射層13の反射率の低下を抑えることができる。
【0020】
封止部材11の上に反射層13を直接形成した場合、封止部材11を構成するシリコーン樹脂と反射層13を構成するAlの間に反応(Alの酸化などが考えられる)が生じ、封止部材11と反射層13の界面に反応による生成物が生成される。この生成物の反射率がAlの反射率よりも低いために、この生成物の発生が反射層13の反射率を低下させることになる。
【0021】
封止部材11上にSiO膜からなる密着層12を介して反射層13が形成された発光装置1においては、封止部材11と反射層13が接触していないため、両者の反応による生成物の発生が抑えられる。なお、反射層13と密着層12との間では反応は生じず、また、密着層12の上に高品質の反射層13を形成できることが確認されている。
【0022】
密着層12の厚さは、密着層12がアイランド状に形成されて反射層13と封止部材11が部分的に接触することを防ぐため、10nm以上であることが好ましい。また、SiO膜からなる密着層12は、Al膜からなる反射層13よりもクラックが生じ難いが、厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、封止部材11との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、密着層12の厚さは300nm以下であることが好ましい。密着層12は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0023】
反射層13は密着層12の上に形成されるため、上述のクラックや封止部材11との反応による生成物の発生による反射率の低下が抑えられている。例えば、封止部材11の上に密着層12を介して形成され、表面を保護層14で保護された反射層13の500nmの波長を有する光に対する反射率がおよそ78%であり、ガラスの上に成膜されたクラックや反応による生成物のないAl膜の反射率と同等であることが実験により確かめられている。一方で、封止部材11の上に直接形成した反射層13の500nmの波長を有する光に対する反射率はおよそ37%であり、クラックや封止部材11との反応による生成物によると考えられる著しい低下がみられた。
【0024】
反射層13は、厚さが小さすぎると発光素子10が発する光の一部を透過するおそれがあり、具体的には、およそ90nm以下になると透過が生じ始める。このため、光の透過を抑えるために、反射層13の厚さは50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、反射層13は、厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、密着層12との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、反射層13の厚さは300nm以下であることが好ましい。反射層13は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0025】
なお、Al膜からなる反射層13の厚さは、TiOなどの反射材を含む樹脂膜からなる反射層の厚さ(例えば60μm以上)と比較して、格段に小さい。このため、反射層13を用いることにより、樹脂膜からなる反射層を用いる場合と比較して、発光装置1を薄くすることができる。
【0026】
保護層14は、反射層13の表面を保護するための層である。保護層14を設けることにより、反射層13の形成後のクラック、傷、酸化の発生を抑えることができる。保護層14は、例えばSiO膜、Ti膜、Ta膜、又はCr膜からなる。保護層14の厚さは、保護層14がアイランド状に形成されて反射層13の表面が部分的に露出することを防ぐため、10nm以上であることが好ましい。また、保護層14の厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、反射層13との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、保護層14の厚さは300nm以下であることが好ましい。保護層14は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0027】
発光装置1は、典型的には、CSP(チップスケールパッケージ)と呼ばれる、そのサイズを光源である発光素子のサイズにできる限り合わせたパッケージである。
【0028】
封止部材11の外形は、典型的には直方体であり、この場合の厚さは、例えば50~400μmであり、平面形状である正方形又は長方形の一辺の長さは、例えば150~1200μmである。密着層12、反射層13、及び保護層14は、典型的には、封止部材11の上面と同じ形状、面積を有する。すなわち、発光装置1の典型的な形状は、厚さが50~400μm、平面形状である正方形又は長方形の一辺の長さが150~1200μmの直方体である。
【0029】
(発光装置の配光特性)
発光装置1においては、発光素子10が発する光が反射層13や発光装置1が実装される基板に反射されて、封止部材11の側面から斜め上方に取り出される。このため、発光装置1は、上方向の発光強度が比較的小さく、広角側に発光強度のピークを有する、いわゆるバットウィング形状の配光特性を有する。すなわち、配光角と発光強度の関係において、配光角が0°よりも大きい範囲に発光強度のピークが存在する。
【0030】
図3(a)、(b)は、発光装置1の配光角と発光強度の関係を示すグラフである。図3(a)、(b)は、発光素子10の中心を含み、発光素子10の平面方向に垂直な面内の配光曲線を示している。図3(a)の配光曲線を含む面と図3(b)の配光曲線を含む面とは互いに直交しており、いずれも直方体の封止部材11の一側面に平行である。図3(a)、(b)に示される配光角は、発光装置1の高さ方向(図1における上方向)を0°、高さ方向に直交する方向(図1における水平方向)を90°としている。
【0031】
図3(a)、(b)の発光特性を有する発光装置1の構成は以下の通りである。発光素子10は、平面形状が一辺の長さが218μmの正方形であり、厚さが100μmである、フリップチップ実装された青色発光のLEDチップである。封止部材11は、YAG蛍光体を含むシリコーン樹脂からなり、その外形は厚さ200μmの直方体である。発光素子10は、その側面と上面を封止部材11に覆われ、封止部材11の平面方向の中心に、側面が封止部材11の側面と平行になるように設置されている。密着層12は、厚さ210nmのSiO膜である。反射層13は、厚さ155nmのAl膜である。保護層14は、厚さ190nmのSiO膜である。また、封止部材11、密着層12、反射層13、及び保護層14の平面形状は、一辺が600μmの正方形である。
【0032】
図3(a)、(b)は、配光角がおよそ70°~90°の範囲内に発光強度のピークが存在し、発光装置1がバットウィング形状の配光特性を有することを示している。
【0033】
(発光装置の製造方法)
以下に、発光装置1の製造工程の一例について説明する。まず、支持基板上にチップ固定用テープを張り、その上に複数の発光素子10としてのLEDチップを配列する。次に、複数の発光素子10が固定されたチップ固定用テープの上に蛍光体入りシリコーン樹脂を塗布して硬化させ、封止部材11を形成する。次に、封止部材11の上に密着層12としてのSiO膜、反射層13としてのAl膜、保護層14としてのSiO膜を順に積層する。次に、積層された封止部材11、密着層12、反射層13、保護層14をCSPサイズにダイシングして、発光装置1を個片化する。その後、個片化された複数の発光装置1を支持基板及びチップ固定用テープから剥離する。
【0034】
(実施の形態の効果)
上記の本発明の実施の形態によれば、封止部材11の上に密着層12を介して反射層13を形成することにより、封止部材11と反射層13の熱膨張率の差に起因する反射層13のクラックの発生や、封止部材11と反射層13の反応による生成物の生成を抑え、それらに起因する反射層13の反射率の低下を抑えることができる。これにより、光取出効率に優れる発光装置1を提供することができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0036】
また、上記の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0037】
1 発光装置
10 発光素子
11 封止部材
12 密着層
13 反射層
14 保護層
図1
図2
図3