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特開2024-60913二酸化炭素のメタン化触媒成型体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060913
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】二酸化炭素のメタン化触媒成型体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/46 20060101AFI20240425BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240425BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240425BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20240425BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240425BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20240425BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20240425BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
B01J23/46 301Z
B01J37/08
B01J37/02 101D
B01J37/03 B
B01J37/00 E
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168485
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】山本 直生
(72)【発明者】
【氏名】則岡 慎平
(72)【発明者】
【氏名】永躰 将克
(72)【発明者】
【氏名】丹呉 威
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA01C
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA05C
4G169BA36C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB06C
4G169BB12C
4G169BC51C
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC70C
4G169CB02
4G169CB62
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA04Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC03Y
4G169ED03
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB09
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB57
4G169FB62
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC07
4G169FC08
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC29
4H006BA09
4H006BA10
4H006BA23
4H006BA30
4H039CA19
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】ルテニウムを活性金属として担持してなるメタン化触媒に関して、高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備した成型体触媒を提供する。
【解決手段】アルミナ粒子中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナ成型体と成型体に担持されたジルコニアとルテニウムとを含有する二酸化炭素のメタン化触媒成型体であって、成型体中のジルコニア及び成型体に担持されたジルコニアの含有量がアルミナ100質量部に対し2~10質量部でありルテニウムの含有量がアルミナ100質量部に対し0.1~5質量部であり粒径が1~20mmである二酸化炭素メタン化触媒成型体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナの成型体と、当該成型体に担持されたジルコニア及びルテニウムとを含有する、二酸化炭素のメタン化触媒成型体であって、
前記成型体中のジルコニア及び前記成型体に担持されたジルコニアの含有量がアルミナ100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であり、前記ルテニウムの含有量がアルミナ100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり、粒径が1mm以上20mm以下である二酸化炭素のメタン化触媒成型体。
【請求項2】
アルミナ粒子中にアルミナ100質量部に対して1質量部以上9質量部以下のジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナであり、粒径が1mm以上20mm以下である成型体を、前記ジルコニウムイオンを含む溶液に浸漬して前記成型体中のアルミナ100質量部に対してジルコニア換算で1質量部以上9質量部以下のジルコニウム化合物が含浸されたジルコニウム含浸体を得るジルコニウム含浸工程と、
前記ジルコニウム含浸体を乾燥して前記ジルコニウム含浸体の乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥体を大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して担体を得る焼成工程と、
前記担体をルテニウムイオンを含む溶液に浸漬してルテニウム含浸体を得るルテニウム含浸工程と、
前記ルテニウム含浸体を乾燥してルテニウムを固定化するルテニウム固定化工程と、を含む二酸化炭素のメタン化触媒成型体の製造方法。
【請求項3】
前記ジルコニウム含浸工程の前に、
アルミニウムイオン及びジルコニウムイオンを含む溶液にアルカリを加えてジルコニア分散アルミナヒドロゲルを得る共沈工程と、
前記ジルコニア分散アルミナヒドロゲルを乾燥して前記ジルコニア分散アルミナを得る乾燥工程と、
前記ジルコニア分散アルミナを成型した後、大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して前記成型体を得る焼成工程とを実行する、請求項2に記載の二酸化炭素のメタン化触媒成型体の製造方法。
【請求項4】
前記ジルコニウム含浸工程における、前記ジルコニウムイオンを含む溶液が、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液である、請求項2又は3に記載の二酸化炭素のメタン化触媒成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と二酸化炭素とを反応させてメタンを主成分とする燃料ガスを製造するための触媒成型体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の観点から、燃焼利用しても大気中の二酸化炭素濃度を実質的に増加させることがないカーボンニュートラル燃料に注目が集まっている。
【0003】
工業プロセスや火力発電などで発生する排ガスから二酸化炭素を回収し、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電などによる電力を用いた電気分解により得られた水素と反応させれば、メタンが得られる。この方法によって得られたメタンは、燃焼利用しても追加的な二酸化炭素の発生がないことから、地球温暖化に影響しないカーボンニュートラル燃料と考えることができる。
【0004】
二酸化炭素と水素とを反応してメタンを得るメタン化反応(式1)は公知である。
【0005】
CO+4H → CH+2HO (式1)
特許文献1には、COおよびHを含むガスをメタン化するに際し、上流側にCu-Zn系低温シフト触媒を配し且つ下流側にメタン化触媒を配置したメタン化反応器を使用することを特徴とするCOおよびHを含むガスのメタン化方法が開示されている。上流側の低温シフト反応器ではCOシフト反応(式2)が進行するので、原料ガスに含まれる一酸化炭素の大部分は水蒸気と反応して二酸化炭素に転換され、下流側のメタン化触媒上では二酸化炭素のメタン化反応が進行しているものと考えられる。
【0006】
CO+HO → CO+H (式2)
メタン化反応はアンモニア合成用の水素から一酸化炭素および二酸化炭素を除去する目的で古くから使用されており、NiやRuなどを担持した触媒が高活性を示すことが知られている(非特許文献1、2)。
【0007】
二酸化炭素と水素を反応させてメタンを得るメタン化反応は、工業的にも確立された技術(たとえば非特許文献3)であるが、都市ガス原料として使用できる品質の燃料ガスを得るにはなお課題がある。
【0008】
都市ガス原料として一般に利用されているのは天然ガスであり、メタンを主成分とし、少量のエタン、プロパン、およびブタンを含有する。天然ガスには、水素は通常含まれず、二酸化炭素は天然ガスの精製過程で除去される。特に、液化天然ガスを原料として製造される都市ガスの場合には、水素および二酸化炭素は液化精製の過程でほぼ完全に除去されるので、実質的にほとんど含まれない。
【0009】
水素および二酸化炭素が都市ガスに含まれると以下のような問題を引き起こす可能性がある。
【0010】
二酸化炭素は、不燃性であるだけでなく、燃焼を抑える働きがある。従って、燃料ガスに高濃度で混入した場合、燃料ガスの発熱量の低下に伴う導管でのガス輸送の効率を低下させるだけでなく、燃焼機器の効率の低下を引き起こす恐れもある。
【0011】
水素は、燃料ガスではあるものの、都市ガスの主成分であるメタンと比較すると単位体積当たりの発熱量が約3分の1しかない。従って、メタン主成分の燃料ガスに水素が混入すると、単位体積当たりの発熱量が低下する。さらに水素は、燃焼速度が速いことから、燃焼機器への影響が大きいことも知られている。
【0012】
二酸化炭素のメタン化反応(式1)は、平衡反応であり、通常の工業的な操作条件では、二酸化炭素と水素とを完全にメタンに転化することはできない。化学量論比(水素:二酸化炭素=4:1)の混合ガスを、常圧(0.1MPa)で反応させた場合の二酸化炭素のメタンへの平衡転化率は、反応温度が300℃の場合において95.0%であり、反応温度が250℃の場合において97.5%であり、反応温度が200℃の場合において98.9%である。
【0013】
このように常圧では、多量に水素を含む燃料ガスしか得られない。メタン化反応は発熱反応であるため、低温になるほど、平衡転化率は向上するが、触媒反応の場合、低温になるほど触媒活性が低下する。このため、反応温度には下限があり、通常のメタン化触媒の場合、実用的な反応速度を得るには250℃以上が必要とされる(非特許文献4、特許文献2および3)。
【0014】
二酸化炭素のメタン化反応(式1)は、物質量(モル数)が減少する反応であるため、圧力が高いほど平衡転化率は高くなる。メタン化反応を高圧で行うと、メタン純度の高い燃料ガスが得られるが、高圧に耐える反応設備は高価になるほか、原料ガスの圧縮動力が多く必要となるなどの問題がある。低温活性に優れた触媒を用いてメタン化反応を行えば、反応圧力を極端に高めることなく、メタン純度の高い燃料ガスを得ることができ、経済的に有利である。
【0015】
特許文献4には、粉末状の担体にナノ粒子が分散担持された二酸化炭素の水素還元用触媒であって、 前記ナノ粒子のうち90%以上は粒径が10nm未満の粒子であり、 前記ナノ粒子は、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一の金属粒子または該金属粒子を含む材料粒子であることを特徴とする二酸化炭素の水素還元用触媒が開示されている。
【0016】
この文献には、内部の断面形状が多角形を有する真空容器を、前記断面に対して略垂直方向を回転軸として回転または振り子動作させることにより、該真空容器内の粉末状の担体を攪拌、回転あるいは振り子動作させながらスパッタリングを行うことで、該粉末状の担体の表面にナノ粒子を分散担持でき、そのようにして調製されたメタン化触媒では、反応温度200℃において100%のCO転化率が得られ、一般的な含浸法で得られたメタン化触媒よりも低温活性が優れることが示されている。
【0017】
特許文献5には、担体に、触媒金属ナノ粒子と前記触媒金属ナノ粒子の粒成長を抑制するための金属酸化物とが分散担持されている、二酸化炭素の水素還元用触媒が開示されている。
【0018】
この文献には、金属と金属酸化物とを含むターゲットを用い、担体を転動させながら、スパッタリングを行って、前記担体の表面に、前記金属を含むナノ粒子と前記金属酸化物とを分散担持できること、そのようにして調製されたメタン化触媒では、金属酸化物を含まない触媒と比較して、金属ナノ粒子の粒径が小さく、メタン化活性が高いことが示されている。
【0019】
しかし、これらの文献に示された、スパッタリングを用いる活性金属の担持は、担体が粉末状である場合には適用が容易であるが、予め所定の形状に成型された担体を用いる場合には、担体の最表面にしか活性金属が担持できないという問題がある。
【0020】
特許文献6には、チタニア、ジルコニアおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持されたセリア粒子と、前記担体に担持されたルテニウム粒子とを含有し、 前記セリア粒子の平均粒子径が8nm以下であり、前記セリア粒子の担持量が前記担体100質量部に対して0.3~10質量部であり、 前記ルテニウム粒子の平均粒子径が8nm以下であり、前記ルテニウム粒子の担持量が前記担体100質量部に対して0.5~5質量部である、 ことを特徴とするメタン化触媒が開示されている。
【0021】
この文献によれば、セリア粒子およびルテニウム粒子による担体表面の被覆率が1~80%、好ましくは3~75%、より好ましくは5~70%であると、高い触媒活性が得られるとされる。
【0022】
しかし、特許文献4~6のいずれにも、実用上十分な強度を有する成型体のメタン化触媒を製造する方法については記載されていない。
【0023】
触媒の成型方法としては、転動造粒、打錠成型、押出成型などの方法があるが、いずれの方法で成型する場合でも、十分な強度を付与するためには、成型後に熱処理を行う必要があるため、この過程で触媒活性が低下することが懸念される。
【0024】
活性アルミナは、例えばベーマイトを転動造粒したのち、空気中で焼成して活性アルミナとするなどの方法で、高い強度を持った成型体が容易に得られることから、工業触媒の担体として幅広く利用されており、メタン化触媒の担体としても用いられている。
【0025】
しかし、活性アルミナは、1000℃以上の高温あるいは、水蒸気分圧の高い条件では、より低い温度でも結晶構造が変化して、比表面積が低下し、これに伴って成型体の場合には強度が著しく低下することが知られている。
【0026】
特許文献7には、アルミナまたはアルミニウムオキシ水酸化物をベースとする担体上の酸化ジルコニウムを含み、900℃で4時間焼成後、酸化ジルコニウムが前記担体上に付着した粒子の形態であり、この粒径が最大10nmであることを特徴とする組成物が開示されている。
【0027】
この組成物は、例えば、ジルコニウム化合物のコロイド分散体をアルミナまたはアルミニウムオキシ水酸化物と混合したのち、乾燥し、焼成することにより得られるとされており、1000℃で4時間焼成後の比表面積の低下が、公知の含浸法により調製された酸化ジルコニウムを担持したアルミナよりも小さいことが示されている。
【0028】
しかし、この文献では、ルテニウムを担持した際のルテニウム分散度に及ぼす効果やメタン化触媒としての活性に及ぼす影響は開示されておらず、またアルミナの相変化を抑制できるか否かの記載もない。また、工業的に十分な強度を持つ成型体を得る方法についても具体的な記載はない。
【0029】
特許文献8には、ルテニウム化合物と周期表IVa族元素の化合物を含有する水溶液で、pHが3以下であることを特徴とするルテニウム触媒製造用含浸液、およびこの含浸液を担体に接触させ、ルテニウム成分と周期表IVa族元素成分を該担体に担持し、得られたルテニウム担持組成物を、乾燥後、焼成することを特徴とするルテニウム触媒の製造方法が開示されている。
【0030】
しかし、この文献は、電子顕微鏡観察の結果としての、担持されたルテニウムの粒径を示すのみであり、カルボニル化合物、芳香族化合物、オレフィンやジエン類等の不飽和化合物の選択的水素化触媒、アンモニア合成触媒、FT合成用触媒、COやCOのメタン化触媒、COやCOのアルコール等への水素化触媒、ニトロ化合物の水素化触媒、炭化水素類の水素化分解触媒、芳香族アミン類の選択的水素化触媒、NOxの還元浄化触媒、炭化水素等の水蒸気改質触媒、低温型完全酸化触媒、光半導体触媒、電極触媒といった多様な反応を例示するものの、どの反応についても具体的な触媒活性を示していない。
【0031】
また、特許文献8には、アルミナに担持されたジルコニアの結晶相や、それがアルミナの相変化に及ぼす影響の記載もない。
【0032】
この文献が示すのは、活性アルミナにジルコニアを担持し、次いでルテニウムを担持して得られる触媒のルテニウム粒径と比較して、ルテニウム化合物とジルコニウム化合物を含有するpH3以下の含浸液を活性アルミナに含浸し、乾燥、焼成して得られる触媒のルテニウム粒径が小さくなる点であるが、その理由は含浸液において、ルテニウムとジルコニウムが錯体様の化合物を形成するためと説明されている。
【0033】
しかし、この方法では、成型体触媒におけるルテニウムとジルコニウムの分布は、同一とならざるを得ず、ルテニウムとジルコニウムの分布を別々に制御することはできない。実際に、特許文献8には、ルテニウムがむらなく均一性よく担持される、と記載されている。
【0034】
アルミナの相変化を抑制するという観点では、ジルコニアは成型体触媒の中心部まで十分な濃度で担持されている必要がある。これに対して、触媒の活性点となるルテニウムは、成型体触媒の表面付近に多く担持されている方が好ましい。しかし、特許文献8に記載の方法では、ルテニウムとジルコニウムの分布を別々に制御することは困難である。特許文献8には、ルテニウムとジルコニウムの分布を別々に制御することの意義や、それを実現する方法について、何らの示唆も与えていない。
【0035】
以上のように、ルテニウムを活性金属として担持してなるメタン化触媒に関して、高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備した成型体触媒は、なお確立されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開昭60-235893号公報
【特許文献2】特開2015-124217号公報
【特許文献3】特開2018-135283号公報
【特許文献4】特開2009-131835号公報
【特許文献5】特開2019-48249号公報
【特許文献6】特開2019-76862号公報
【特許文献7】特表2011-513055号公報
【特許文献8】特開平7-116516号公報
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】社団法人化学工学協会編、化学プロセス集成、1970年、p.153
【非特許文献2】触媒学会編、触媒便覧、2008年、p.535
【非特許文献3】川越、松田、松島および植松、日立評論、68巻10号、1986年、p.73
【非特許文献4】E.I.KoytsoumpaおよびS.Karellas、Renewable and Sustainable Energy Reviews、94巻、2018年、p.536
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、ルテニウムを活性金属として担持してなるメタン化触媒に関して、高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備した成型体触媒およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明に係るメタン化触媒成型体の特徴構成は、アルミナ粒子中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナの成型体と、当該成型体に担持されたジルコニア及びルテニウムとを含有する二酸化炭素のメタン化触媒成型体であって、前記成型体中のジルコニア及び前記成型体に担持されたジルコニアの含有量がアルミナ100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であり、前記ルテニウムの含有量がアルミナ100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり、粒径が1mm以上20mm以下である点にある。
【0040】
本特徴構成によれば、メタン化触媒成型体が、メタン化反応に対して高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備する。
【0041】
本発明のメタン化触媒成型体の製造方法の特徴構成は、アルミナ粒子中にアルミナ100質量部に対して1質量部以上9質量部以下のジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナであり、粒径が1mm以上20mm以下である成型体を、前記ジルコニウムイオンを含む溶液に浸漬して前記成型体中のアルミナ100質量部に対してジルコニア換算で1質量部以上9質量部以下のジルコニウム化合物が含浸されたジルコニウム含浸体を得るジルコニウム含浸工程と、前記ジルコニウム含浸体を乾燥して前記ジルコニウム含浸体の乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥体を大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して担体を得る焼成工程と、前記担体をルテニウムイオンを含む溶液に浸漬してルテニウム含浸体を得るルテニウム含浸工程と、前記ルテニウム含浸体を乾燥してルテニウムを固定化するルテニウム固定化工程と、を含む点にある。
【0042】
本発明のメタン化触媒成型体の製造方法の特徴構成は、前記ジルコニウム含浸工程の前に、アルミニウムイオン及びジルコニウムイオンを含む溶液にアルカリを加えてジルコニア分散アルミナヒドロゲルを得る共沈工程と、前記ジルコニア分散アルミナヒドロゲルを乾燥して前記ジルコニア分散アルミナを得る乾燥工程と、前記ジルコニア分散アルミナを成型した後、大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して前記成型体を得る焼成工程とを実行する点にある。
【0043】
上記特徴構成によれば、経済的に有利な方法で、メタン化反応に対して高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備した二酸化炭素のメタン化触媒成型体を製造することができる。
【0044】
本発明のメタン化触媒成型体の製造方法の特徴構成は、前記ジルコニウム含浸工程における、前記ジルコニウムイオンを含む溶液が、ジルコニウムの水溶性化合物を溶解した硝酸酸性の水溶液である点にある。
【0045】
上記特徴構成によれば、メタン化反応に対する低温活性、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性の、いずれの点においても優れたメタン化触媒成型体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係るメタン化触媒成型体およびメタン化触媒成型体の製造方法の実施形態について説明する。
【0047】
(メタン化触媒成型体)
本発明のメタン化触媒成型体は、アルミナ粒子(1次粒子)中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナの成型体と、当該成型体に担持されたジルコニア及びルテニウムとを含有する。
【0048】
ここで、ジルコニア分散アルミナとは、アルミナ粒子(1次粒子)中にジルコニア粒子が分散したものを指す。ジルコニア分散アルミナは、γ型およびη型に代表される遷移アルミナを主成分(マトリックス)とする、10nm程度の大きさのアルミナ粒子であり、少量のジルコニア粒子のほとんどが、粒径が数nm以下の微細なジルコニアの形態でアルミナ粒子中に分散している。ジルコニア分散アルミナの成型体は、ジルコニア分散アルミナを成型することで得られる、1mm以上20mm以下の大きさを持つ成型体である。当該ジルコニア分散アルミナの製造法及び当該成型体の成型法については後述する。
【0049】
本発明のメタン化触媒成型体において、ジルコニアは、アルミナ粒子中のジルコニアと、ジルコニア分散アルミナを用いて成型されたジルコニア分散アルミナの成型体に担持されたジルコニアの2種類の形態で存在する。このうち、アルミナ粒子に分散したジルコニアは、アルミナ粒子中で均一に分布するが、当該成型体に担持されたジルコニアは、分布の偏りが生じうる。ジルコニアの担持条件により程度は異なるが、通常は、当該成型体の中心部よりも、表面側がやや担持量が大きくなる。従って、メタン化触媒成型体におけるジルコニアの含有量は、通常、中心部と比較して、表面側がやや高くなる。
【0050】
ジルコニア分散アルミナにおけるジルコニアの含有量は、アルミナ100質量部に対し、1質量部以上9質量部以下とするのが好ましく、2質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。ジルコニアの含有量が、アルミナ100質量部に対し、1質量部未満であると、アルミナの相変化を十分に抑制できない恐れがある。一方で、ジルコニアの含有量を、アルミナ100質量部に対し、9質量部より大きくしても、アルミナの相変化を抑制する効果は大きく向上しないため、経済的に見合わない恐れがある。
【0051】
本発明のメタン化触媒成型体のジルコニアの含有量は、当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して2質量部以上10質量部以下、好ましくは4質量部以上10質量部以下である。ここで、ジルコニアの含有量とは、ジルコニア分散アルミナ中に分散したジルコニアと、ジルコニア分散アルミナの成型体に担持されたジルコニアの合計の含有量である。なお、担持されたジルコニアは、専らアルミナ成型体の表面及びアルミナ成型体を構成するジルコニア分散アルミナ間に存在する。
【0052】
メタン化触媒成型体におけるジルコニアの含有量が当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して2質量部よりも小さいと、遷移アルミナを安定化する効果が小さくなり、メタン化触媒成型体の反応条件である高温かつ高水蒸気分圧の条件で遷移アルミナがα型に相転移して、触媒活性の低下や触媒の粉化などの問題が生じる恐れがある。
【0053】
ジルコニアの含有量が当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して10質量部よりも大きい場合は、以下の問題が生じる恐れがある。まず、メタン化触媒に含有されているジルコニアのうち、当該メタン化触媒成型体中のアルミナに分散されたジルコニアの割合が大きい場合には、アルミナの相変化の抑制に対して、ジルコニアの添加量に見合った効果が得られないため、経済的に不利となる恐れがある。メタン化触媒成型体に含有されているジルコニアのうち、担持されたジルコニアの割合が大きい場合には、ジルコニアの添加量に見合った効果が得られないため、経済的に不利となることに加えて、ジルコニア分散アルミナ成型体中に形成された気孔がジルコニアで閉塞されて、ガスの拡散性が低下することにより、触媒活性が低下する恐れもある。
【0054】
本発明のメタン化触媒成型体は、成型体に担持されたルテニウムを含む。本発明のメタン化触媒成型体において、ルテニウムの担持量は当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下である。ルテニウムの担持量が当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して0.1質量部よりも小さいと、十分なメタン化活性が得られない。一方、ルテニウムの担持量がアルミナ成型体中のアルミナ100質量部に対して5質量部よりも大きいと、担持されたルテニウムの分散度が低くなり、担持量に見合ったメタン化活性が得られない。また、ルテニウムの担持量は、より担持量に見合った十分なメタン化活性を得るという観点から、当該メタン化触媒成型体中のアルミナ100質量部に対して0.5質量部以上2質量部以下であるとより好ましい。
【0055】
触媒活性を担うルテニウムは、触媒成型体において、中心部よりも表面部により高濃度で担持されていることが好ましい。これは、触媒成型体内の反応ガスの拡散性の問題から、触媒成型体の表面近傍にあるルテニウムのほうが、触媒成型体中心部にあるルテニウムよりも有効に触媒として作用するためである。ただし、触媒成型体の最表面部は、摩擦によって摩耗しやすく、最表面だけにルテニウムを担持した場合、摩耗によるルテニウムの損耗が大きくなること、加えて、一定の分散度を確保することも考慮すると、ルテニウムは、触媒成型体の表面から一定の深さまで、均等に担持し、それよりも中心側には、担持しないか、担持濃度を低くすると、少ないルテニウム担持量で、高いメタン化活性が得られやすい。
【0056】
より具体的には、触媒成型体において、ルテニウムがシェル部の厚さ0.2~0.4mmのエッグシェル状に活性アルミナ成型体に担持されている、換言すれば、触媒成型体の表面から0.2~0.4mmのシェル部にルテニウムが担持されていると、少ないルテニウム担持量で、高いメタン化活性が得られやすい。
【0057】
本発明のメタン化触媒成型体は、粒径1mm以上20mm以下、好ましくは粒径2mm以上20mm以下の成型体である。ここで、粒径が1mm以上20mm以下とは、成型体が球状である場合には、その直径が1mm以上20mm以下の範囲にあることを言い、成型体が円筒形状である場合には、その直径および長さが1mm以上20mm以下の範囲にあることを言い、その他の形状にある場合は、流体力学的な等価直径が1mm以上20mm以下の範囲にあることを言う。
【0058】
メタン化触媒成型体の粒径が1mmよりも小さいと、メタン化触媒成型体を充填した反応槽に反応ガスを流通した際の圧力損失が高くなり、メタン化プロセスの経済性が悪化する。一方、粒径が20mmよりも大きいと、成型体の幾何学的な表面積が相対的に小さくなることから、メタン化活性が低下する。
【0059】
(メタン化触媒成型体の製造方法)
本発明のメタン化触媒成型体の製造方法は、アルミナ粒子中にアルミナ100質量部に対して1質量部以上9質量部以下のジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナであって、粒径が1mm以上20mm以下である成型体を、前記ジルコニウムイオンを含む溶液に浸漬して前記成型体中のアルミナ100質量部に対してジルコニア換算で1質量部以上9質量部以下のジルコニウム化合物が含浸されたジルコニウム含浸体を得るジルコニウム含浸工程と、前記ジルコニウム含浸体を乾燥して前記ジルコニウム含浸体の乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥体を大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して担体を得る焼成工程と、前記担体をルテニウムイオンを含む溶液に浸漬してルテニウム含浸体を得るルテニウム含浸工程と、前記ルテニウム含浸体を乾燥してルテニウムを固定化するルテニウム固定化工程と、を含む。
【0060】
本発明のメタン化触媒成型体の製造方法は、前記ジルコニウム含浸工程の前に、アルミニウムイオン及びジルコニウムイオンを含む溶液にアルカリを加えてジルコニア分散アルミナヒドロゲルを得る共沈工程と、前記ジルコニア分散アルミナヒドロゲルを乾燥して前記ジルコニア分散アルミナを得る乾燥工程と、前記ジルコニア分散アルミナを成型した後、大気中で500℃以上800℃以下にて焼成して前記成型体を得る焼成工程とを実行する。
【0061】
(共沈工程)
まず、共沈法によりアルミナヒドロゲルを作製する。共沈法とは、2種類以上の金属イオンを含む溶液にアルカリを加えることで沈殿を作製する方法である。本発明においては、アルミニウムイオン及びジルコニウムイオンを含む溶液にアルカリを加えることで、ジルコニア分散アルミナヒドロゲルが得られる。使用するアルミニウムイオン及びジルコニウムイオンは、例えばアルミナ前駆体としての硫酸アルミニウムとジルコニア前駆体としての硝酸酸化ジルコニウムとを溶解した酸性の水溶液を作製することで得られる。
【0062】
アルミナ前駆体としては、他にも塩化アルミニウム(AlCl)、硝酸アルミニウム(Al(NO)などのアルミニウムの水溶性化合物が使用できる。
【0063】
ジルコニア前駆体としては、他にも硝酸ジルコニウム(Zr(NO)、硝酸酸化ジルコニウム(Zr(NOO)、酢酸ジルコニウム(Zr(CHCOO))、酢酸酸化ジルコニウム(Zr(CHCOO)O)などのジルコニウムの水溶性化合物が使用できる。
【0064】
ジルコニウムの水溶性化合物の中には、水への溶解性が十分でないものや、水溶液の安定性が十分でないものがある。このような場合には、水溶液に硝酸や塩酸などを添加してもよい。硝酸酸性の水溶液とすると、ジルコニウムの水溶性化合物が安定化され、メタン化触媒成型体内に、好適な分布でジルコニアを担持させやすいことから、特に好ましい。
【0065】
(水洗工程及び第1乾燥工程)
共沈工程で得られたジルコニア分散アルミナヒドロゲルは、イオン交換水又は超純水等で水洗される(水洗工程)。その後、所定時間の間、所定温度で乾燥されると、ジルコニア分散アルミナのキセロゲル粉体が得られる(第1乾燥工程)。
【0066】
第1乾燥工程の温度や時間は、特に制約はないが、例えば80℃以上200℃以下で1時間以上20時間以下の範囲で行われ得る。
【0067】
(第1焼成工程)
第1乾燥工程で得られたジルコニア分散アルミナのキセロゲル粉体は、焼成温度よりも低い温度で仮焼され、転動造粒法または打錠成型法によって成型された後、焼成炉に入れられて所定時間の間、所定温度で焼成される(第1焼成工程)。これにより、強度が高いジルコニア分散アルミナ成型体が得られる。
【0068】
第1焼成工程の温度は、あまりに低すぎると、ジルコニウム化合物の分解が不十分となって、ルテニウムの担持工程において溶出する恐れがあり、あまりに高すぎても活性アルミナの焼結が進行して、その比表面積を低下させる恐れがある。従って、500℃以上800℃以下とするのが好ましい。
【0069】
第1焼成工程の時間は、あまりに短すぎるとジルコニウム化合物の分解が不十分となる恐れがあり、あまりに長すぎると経済的に不利となるほか、キセロゲル粉体が焼成されることで生成した活性アルミナの比表面積を低下させる恐れもあるため、1時間以上20時間以下とするのが好ましい。
【0070】
第1焼成工程において流通するガスは、空気でよいが、必要に応じて酸素あるいは窒素を添加して、酸素濃度を調整しても差し支えはない。
【0071】
(ジルコニウム含浸工程)
第1焼成工程で得られたジルコニア分散アルミナ成型体は、ジルコニウムイオンを含む溶液に浸漬される。これにより、ジルコニア分散アルミナ成型体のジルコニウム含浸体が得られる(ジルコニウム含浸工程)。ジルコニウム含浸工程において、ジルコニウムイオンを含む溶液の温度や当該溶液にジルコニア分散アルミナ成型体が浸漬される時間は、特に制約はないが、たとえば室温で1時間以上20時間以下の範囲で行われ得る。
【0072】
ジルコニア分散アルミナの成型体をジルコニウムイオンを含む溶液に浸漬させた後、焼成することでジルコニウム含浸体が得られる。このとき含浸するジルコニウムの量は前記成型体中のアルミナ100質量部に対してジルコニア換算で1質量部以上9質量部以下であることが好ましい。含浸するジルコニウムの量が、アルミナ100質量部に対し、ジルコニア換算で1質量部未満であると、成型体に十分なジルコニアが担持されない虞がある。一方で、ジルコニア粒子の含有量を、アルミナ100質量部に対し、ジルコニア換算で9質量部より大きくしても、メタン化触媒としての望ましい活性が得られず、経済的に見合わない虞がある。
【0073】
(第2乾燥工程)
ジルコニウム含浸工程で得られたジルコニウム含浸体は乾燥機に入れられて、所定温度にて所定時間乾燥される(第2乾燥工程)。これにより、ジルコニウム含浸体の乾燥体が得られる(第2乾燥工程)。第2乾燥工程の温度や時間は、特に制約はないが、例えば80℃以上200℃以下で1時間以上20時間以下の範囲で行われ得る。
【0074】
(第2焼成工程)
第2乾燥工程を経て得られたジルコニウム含浸体の乾燥体は、焼成炉に入れられて焼成温度よりも低い温度で仮焼された後、再び焼成炉に入れられて焼成される(第2焼成工程)。これにより、ジルコニアが担持されたジルコニア分散アルミナ成型体から成る担体を得る。
【0075】
第2焼成工程の温度は、あまりに低すぎると、ジルコニウム化合物の分解が不十分となって、ルテニウムの担持工程において溶出する恐れがあり、あまりに高すぎても活性アルミナの焼結が進行して、その比表面積を低下させる恐れがある。従って、500℃以上800℃以下とするのが好ましい。
【0076】
第2焼成工程の時間は、あまりに短すぎるとジルコニウム化合物の分解が不十分となる恐れがあり、あまりに長すぎると経済的に不利となるほか、キセロゲル粉体が焼成されることで生成した活性アルミナの比表面積を低下させる恐れもあるため、1時間以上20時間以下程度とするのが好ましい。
【0077】
(ルテニウム含浸工程)
第2焼成工程で得られた担体は、ルテニウムイオンを含む溶液に所定時間の間、所定温度にて浸漬される(ルテニウム含浸工程)。これにより、担体にルテニウムイオンが含浸された担体(ルテニウム含浸体)が得られる。ルテニウムイオンを含む溶液は、例えばルテニウム前駆体としてのルテニウム塩を、イオン交換水又は超純水等に溶解することで得られる。
【0078】
ルテニウム前駆体としては、例えば塩化ルテニウム(RuCl)、硝酸ルテニウム(Ru(NO)などのルテニウムの水溶性化合物が使用できる。
【0079】
ルテニウム含浸工程の温度や時間は、特に制約はないが、たとえば室温で1時間以上20時間以下の範囲で行われうる。
【0080】
(ルテニウム固定化工程)
ルテニウム含浸工程で得られたルテニウム含浸体は、還元剤を含む溶液に所定時間の間、所定温度にて浸漬され、還元処理が施される(ルテニウム固定化工程)。これにより、ルテニウムイオンが還元され、ルテニウム粒子が担体に担持される。還元処理が施された後の担体はイオン交換水や超純水で洗浄された後、再び乾燥を経ることでルテニウム粒子が担持上に固定化されたメタン化触媒が得られる。
【0081】
ルテニウムを固定化するルテニウム固定化工程は、含浸したルテニウムが流出せずに成型体上に固定でき、かつ触媒上に活性を阻害する残留物を残さない限り、その方法は問わないが、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液にルテニウム含浸体を浸漬して、ルテニウムを水酸化物として固定し、さらにヒドラジンなどの還元剤を用いて還元して金属ルテニウムとし、洗浄して、ナトリウムイオン、塩素イオンや硝酸イオンなどを除去したのち、空気中60℃以上100℃以下の範囲で乾燥することにより実施できる。
【0082】
本発明のメタン化触媒成型体は、二酸化炭素のメタン化に高い活性を有する。水素と二酸化炭素の反応によりメタンを得る反応は、比較的大きな発熱を伴うため、断熱的に反応を行うと、触媒層の温度が200℃~400℃程度上昇する場合がある。触媒層の温度が上昇すると、担持されたルテニウムが凝集することによって触媒活性が低下し、また、活性アルミナが焼結、相変化して、触媒の強度が低下する懸念がある。
【0083】
そのため、水素と二酸化炭素のメタン化反応を実施する際には、反応器出口ガスの一部を反応器入口にリサイクルして、発熱を緩和することが行われる。この場合、メタン化触媒成型体に導入されるガスは、水素と二酸化炭素に加えて、メタン、水蒸気、さらにはCOシフト反応の逆反応により生成する一酸化炭素も含まれることになるが、本発明の触媒は、水蒸気が共存しても高いメタン化活性を示し、また、一酸化炭素のメタン化にも活性を示すため、リサイクルのあるメタン化反応の条件でも好適に使用することができる。
【0084】
本発明のメタン化触媒成型体を用いるメタン化反応は、触媒が活性を示す範囲であれば、使用条件に特段の制約はないが、通常は200℃以上600℃以下の温度、常圧から10MPaの範囲内の圧力のもとで実施される。
【実施例0085】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例)
アルミナ源の原料として硫酸アルミニウム水溶液(Al10.9%、SO 13.6%、SG 1.33)を使用した。ジルコニア前駆体として硝酸酸化ジルコニウム2水和物(Zr(NOO・2HO)を使用した。硫酸アルミニウム水溶液274gに対し、硝酸酸化ジルコニウム4.6gを加えて撹拌混合したものを、水600mlと49%苛性ソーダ57.7gを混ぜ60℃に加熱した容器に注加してジルコニア分散アルミナヒドロゲルを得た。このゲルを60℃に加温したイオン交換水で、洗浄液が1μS/cm以下になるまで洗浄し、150℃で乾燥して、アルミナ粒子中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナを得た。このジルコニア分散アルミナを転動造粒により成型して乾燥した後、620℃で焼成してジルコニア分散アルミナの成型体a(2~4mm球状、ZrO:4.5質量%、Al:95.3質量%、BET比表面積203m/g)を得た。このジルコニア分散アルミナのX線回折測定を行ったところ、ジルコニア(ZrO)に由来する回折線は観測されなかった。
【0087】
硝酸酸化ジルコニウム2水和物5.40gを60%硝酸4.2gと純水32gを混合した希硝酸に溶解して得た水溶液に、前記のジルコニア分散アルミナの成型体a50gを浸漬し、15時間かけて含浸させてジルコニウム含浸体を得た。このジルコニウム含浸体を110℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、担体aを得た。
【0088】
担体aの98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより、触媒Aを得た。
【0089】
(比較例1)
ジルコニア前駆体を添加せず、苛性ソーダの量を55.6gとしたほかは、実施例と同様の方法で、アルミナの成型体b(2~4mm球状、Al:99.8質量%、BET比表面積169m/g)を得た。
アルミナの成型体bの98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより、触媒Bを得た。
【0090】
(比較例2)
硝酸酸化ジルコニウム2水和物(Zr(NOO・2HO)10.8gを60%硝酸11.5gと純水32gを混合した希硝酸に溶解して得た水溶液に、アルミナの成型体b(50g)を浸漬し、15時間かけて含浸させてジルコニウム含浸体を得た。このジルコニウム含浸体を110℃に保持した乾燥器で1.5時間かけて乾燥して乾燥体を得た。この乾燥体を電気炉に装填して、空気を流通しながら、常温から3時間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間保持して焼成した。その後、3時間かけて常温まで放冷して、ジルコニア担持アルミナの成型体cを得た。
ジルコニア担持アルミナの成型体cの98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより、触媒Cを得た。
【0091】
(比較例3)
硫酸アルミニウム水溶液274gに対し、硝酸酸化ジルコニウム9.6gを加えて撹拌混合したものを、水600mlと49%苛性ソーダ60gを混ぜ60℃に加熱した容器に注加してジルコニア分散アルミナヒドロゲルを得た。このゲルを60℃に加温したイオン交換水で、洗浄液が1μS/cm以下になるまで洗浄し、150℃で乾燥して、アルミナ粒子中にジルコニアが分散したジルコニア分散アルミナを得た。このジルコニア分散アルミナを転動造粒により成型して乾燥した後、620℃で焼成して、ジルコニア分散アルミナの成型体d(2~4mm球状、ZrO:11.2質量%、Al:88.1質量%、BET比表面積202m/g)を得た。
【0092】
ジルコニア分散アルミナの成型体dの98質量部に対して、2質量部のルテニウムを含有する塩化ルテニウム水溶液を含浸し、80℃で4時間乾燥し、0.375N-NaOH水溶液で15時間浸漬処理し、0.3%ヒドラジン水溶液で液相還元し、80℃の熱水で洗浄処理した後、80℃で4時間乾燥することにより、触媒Dを得た。
【0093】
《Ru、ZrOおよびAl含有率の測定方法》
触媒A、B、CおよびDについて、酸分解してICP発光分析法により、Ru、ZrおよびAlを定量し、Ruはそのまま、ZrおよびAlは酸化物に換算して含有率を求めた。
【0094】
《BET比表面積の測定方法》
液体窒素温度における相対圧(P/P)=0.3の条件での窒素吸着量を用いるBET1点法により、BET比表面積を測定した。
【0095】
《X線回折測定方法》
グラファイトモノクロメータを備えたX線回折計(島津製作所製XRD-6100)を用いて、次の条件で行った。
X線源:X線管(Cuターゲット、管電圧40kV、管電流40mA)から放射されるCu-Kα線(0.1542nm)。
測定条件:ステップスキャン法、0.02°ステップ、各ステップでの積算時間1.2秒、検出スリット0.15mm。
【0096】
《圧壊強度の測定方法》
アイコーエンジニアリング製卓上荷重試験機FTN1-13Aを用い、成型体触媒15粒の圧壊強度を測定し、その平均値を用いた。表1に、それぞれの触媒のRu、ZrOおよびAl含有率、BET比表面積および圧壊強度を示した。
【表1】
【0097】
(メタン化活性の評価結果)
触媒A、B、CおよびDのそれぞれについて、メタン化活性を評価した。結果を表2に示す。
【表2】
【0098】
《メタン化活性の評価方法》
ステンレス製反応管(内径24mm)に触媒5mLを充填し、触媒層を形成した。そして、この触媒層の温度を250℃に保持するように加熱しながら、窒素ガスに10%の水素ガス(体積基準)を混合した還元ガスを毎時150リットル(0℃、1気圧の標準状態における体積、以下同様)で流通し、3時間還元処理を行った。
【0099】
上記還元処理後、触媒層の温度を225℃に変更し、反応管内の圧力を0.7MPa(絶対圧)に保って、二酸化炭素2%と水素8%(いずれも体積基準)を含む窒素ガス(試験ガス)を毎時150リットルの流量で触媒層に流通し、触媒層出口ガス中の二酸化炭素、水素、窒素、およびメタン濃度を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製GC―14B、TCD検出器付き)で分析した。その後、試験ガスを流通したまま、触媒層の温度を250℃、300℃に順次変更し、同様に触媒層出口ガスをガスクロマトグラフで分析した。触媒層出口ガスのメタンおよび二酸化炭素濃度(いずれも体積%)から、試験ガス中のCOの転化率を次の式により計算した。なお、触媒層出口ガスに一酸化炭素は検出されなかった。(CO転化率[%])=100×(CH濃度)/{(CH濃度)+(CO濃度)
【0100】
(耐水蒸気性評価結果)
触媒A、BおよびCについて、水蒸気0.5MPa(絶対圧)および窒素0.1MPa(絶対圧)からなるガスを700℃で100時間流通することで、高水蒸気分圧下での安定性を評価した。所定時間の処理を行った試料について、圧壊強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【表3】
【0101】
《実施例および比較例の評価》
本発明の実施例である触媒Aのメタン化活性は、低温(225℃)から高温(300℃)のすべての温度で、比較例の触媒である触媒B、CおよびDのいずれよりも高く、低温から高温まで、優れたメタン化活性を示した。
【0102】
触媒A、CおよびDと、触媒Bのメタン化転化率を比較すると、触媒がジルコニアを含有すると、特に低温でのメタン転化率が大きく向上することがわかる。しかし、触媒Aと触媒Dの225℃でのメタン転化率を比較すると、触媒Dの方がジルコニア含有量が高いにもかかわらず、メタン転化率はやや低い。これは、触媒Dでは、ジルコニアの多くがアルミナ粒子内に分散して、表面に露出していないため、その効果が十分に発揮されなかったためと推測される。
【0103】
触媒Aと触媒Cのメタン転化率を比較すると、225℃でのメタン転化率には大きな差異はないが、より高い温度では、触媒Aの方が高い転化率を示した。触媒AおよびCともに、アルミナ表面に十分な量のジルコニアが露出しているため、低温活性は十分得られたものと考えられる。触媒Aでは、ジルコニアの約半量が、成型体触媒への含浸により担持されているが、触媒Cでは、ジルコニアの全量が成型後の触媒に含浸担持されている。このため、成型体触媒の細孔に充填されたジルコニアの量は、触媒Aと比較して触媒Cの方が多くなる。このため、触媒Cの方が、反応物質および反応生成物の拡散が阻害されやすく、拡散阻害の影響を受けやすい高転化率領域において、触媒Aが触媒Cよりも高いメタン転化率を示したものと考えられる。
【0104】
圧壊強度に関しては、本発明の触媒Aは、触媒B、CおよびDと比較して強度が高く、その優劣は高温水蒸気処理後も維持されていた。触媒Bと触媒C、触媒Bと触媒Dの強度を比較すると、アルミナ粒子内にジルコニアを分散させた場合も、アルミナ粒子表面にジルコニアを担持させた場合も成型体の強度は向上することがわかるが、触媒Aにおいては、アルミナ粒子内に分散させたジルコニアと、アルミナ表面に担持させたジルコニアとが共存するため、それらの効果が相俟って、強度が向上したものと推測される。
【0105】
以上の結果から、本発明のメタン化触媒成型体が、高い低温活性と、工業的に利用可能な十分な強度、および高温高水蒸気圧条件での耐熱性を具備することが明らかである。
【0106】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、たとえば、二酸化炭素と水素とを反応させて都市ガスとして利用できるメタンを主成分とする燃料ガスを製造するための触媒として利用することができる。