(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060914
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/02 20060101AFI20240425BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
F02D9/02 301Z
F02D45/00 364D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168486
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 賢寛
(72)【発明者】
【氏名】戸田 仁司
【テーマコード(参考)】
3G065
3G384
【Fターム(参考)】
3G065CA11
3G065GA02
3G065GA05
3G065GA10
3G065GA46
3G384BA05
3G384DA04
3G384FA01Z
3G384FA04Z
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA56Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】エンジン制御装置に関し、スロットル開度の安定性を高めて、エンジントルクの制御精度を改善する。
【解決手段】開示のエンジン制御装置10は、圧力比相当値算出部11と、センサ圧力比算出部12と、補正圧力比算出部13と、制御部20とを備える。圧力比相当値算出部11は、エンジン1の最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比である圧力比相当値Aを算出する。センサ圧力比算出部12は、スロットルバルブ3の上流圧に対する下流圧の比であるセンサ圧力比Bを算出する。補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合に、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bに基づき補正圧力比Cを算出する。制御部20は、補正圧力比Cに基づきスロットルバルブ3の開度を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの最大トルク相当値に対する前記エンジンの目標トルク相当値の比である圧力比相当値を算出する圧力比相当値算出部と、
スロットルバルブの上流圧に対する下流圧の比であるセンサ圧力比を算出するセンサ圧力比算出部と、
前記圧力比相当値又は前記センサ圧力比が所定値以上である場合に、前記圧力比相当値及び前記センサ圧力比に基づき補正圧力比を算出する補正圧力比算出部と、
前記補正圧力比に基づき前記スロットルバルブの開度を制御する制御部と、を備える
ことを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項2】
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値及び前記センサ圧力比の一方が他方よりも先に前記所定値以上になった場合に、その時点における前記センサ圧力比の値を前記補正圧力比の初期値に設定するとともに、前記圧力比相当値が1に達する時点で前記補正圧力比の値も1に達するように前記補正圧力比の値を増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値又は前記センサ圧力比が前記所定値以上になった時点における前記圧力比相当値の値を第一定数とおき、同一の時点における前記センサ圧力比の値を第二定数とおいて、「1から前記第一定数を減じた値」に対する「1から前記第二定数を減じた値」の比と「その時点における前記圧力比相当値から前記第一定数を減じた値」との積に、前記第二定数を加算することで、前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値が前記センサ圧力比よりも先に前記所定値以上になった場合に、以下の式1に基づき前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【数1】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
B
1:圧力比相当値Aが所定値D以上になった時点でのセンサ圧力比Bの値(B
1<D)
【請求項5】
前記補正圧力比算出部は、前記センサ圧力比が前記圧力比相当値よりも先に前記所定値以上になった場合に、以下の式2に基づき前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【数2】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
A
2:センサ圧力比Bが所定値D以上になった時点での圧力比相当値Aの値(A
2<D)
【請求項6】
前記制御部は、前記圧力比相当値が前記センサ圧力比よりも先に前記所定値以上になった場合に、前記センサ圧力比と前記補正圧力比とのうち値が大きい一方を用いて前記スロットルバルブの開度を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記センサ圧力比が前記圧力比相当値よりも先に前記所定値以上になった場合に、前記センサ圧力比と前記補正圧力比とのうち前記補正圧力比のみを用いて前記スロットルバルブの開度を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、スロットルバルブの開度制御に係るエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクを基準としてエンジンの作動状態を制御するトルクベース制御において、圧力比相当値とセンサ圧力比とに基づいてスロットルバルブの開度を制御する手法が知られている。圧力比相当値とは、例えばエンジンの最大トルクに対する目標トルクの比であり、センサ圧力比とは、例えばセンサで実測されたスロットルバルブの上流圧に対する下流圧の比である。スロットルバルブを通過する吸入空気の流速は、これらの圧力比相当値及びセンサ圧力比に基づいて推定される。この流速と吸入空気の目標流量とからスロットルバルブの開放面積が算出され、開放面積に応じてスロットル開度が制御される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサ圧力比が比較的高い状態においては、センサ圧力比の微小な変動に対する流速変化が大きくなる。これにより、スロットル開度の安定性が低下し、エンジントルクの制御精度が低下しやすいという課題がある。例えば、スロットル開度が全開の状態で、センサ圧力比がわずかに低下すると、吸入空気の流速の推定値が大きく増加し、スロットル開度の目標値が減少する。これに応じて実際のスロットル開度が絞られると、センサ圧力比がさらに低下することになり、スロットル開度が閉じる方向に制御が進行しやすくなる。つまり、センサ圧力比のわずかな低下を契機として、その値がより減少方向へと移動しやすくなり、最終的にスロットル開度が強く絞られてしまうことがある。
【0005】
反対に、スロットル開度が全開近傍の状態で、センサ圧力比がわずかに上昇すると、吸入空気の流速の推定値が大きく減少し、スロットル開度の目標値が増加する。これに応じて実際のスロットル開度が開かれると、センサ圧力比がさらに上昇することになり、スロットル開度が全開まで開く方向に制御が進行してしまう。つまり、センサ圧力比のわずかな上昇を契機として、その値がより増加方向へと移動しやすくなり、最終的にスロットル開度が大きく開かれてしまうことがある。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、スロットル開度の安定性を高めて、エンジントルクの制御精度を改善できるようにしたエンジン制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示のエンジン制御装置は、以下に開示する態様又は適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示のエンジン制御装置は、エンジンの最大トルク相当値に対する前記エンジンの目標トルク相当値の比である圧力比相当値を算出する圧力比相当値算出部と、スロットルバルブの上流圧に対する下流圧の比であるセンサ圧力比を算出するセンサ圧力比算出部と、前記圧力比相当値又は前記センサ圧力比が所定値以上である場合に、前記圧力比相当値及び前記センサ圧力比に基づき補正圧力比を算出する補正圧力比算出部と、前記補正圧力比に基づき前記スロットルバルブの開度を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
開示のエンジン制御装置によれば、圧力比相当値又はセンサ圧力比が所定値以上である場合に補正圧力比を算出し、補正圧力比に基づいてスロットルバルブの開度を制御することで、センサ圧力比の微小な変動に対するスロットル開度の変動を抑制できる。したがって、スロットル開度の安定性を高めることができ、エンジントルクの制御精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】エンジン及びエンジン制御装置の構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】スロットルバルブを流通する空気の流速と圧力比との関係を示すグラフである。
【
図3】エンジン制御装置の制御内容を説明するためのブロック図である。
【
図4】補正圧力比の変化を説明するためのグラフであり、(A)は圧力比相当値がセンサ圧力比よりも先に所定値以上になった場合のグラフ、(B)はセンサ圧力比が圧力比相当値よりも先に所定値以上になった場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示のエンジン制御装置は、吸気通路にスロットルバルブが介装される種々のエンジンに適用可能である。このエンジン制御装置は、例えば自動車用エンジン,船舶用エンジン,産業用エンジン等に適用可能である。以下の実施例では、車両に搭載されるエンジンに適用されたエンジン制御装置を例示する。なお、エンジン制御装置が適用可能なエンジンの種類には、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンが含まれる。以下の実施例では、ガソリンエンジンを想定して装置構成等を説明する。
【実施例0011】
[1.構成]
実施例としてのエンジン制御装置10は、
図1に示す車載のエンジン1に適用される。ここでは、多気筒のエンジン1に設けられた複数のシリンダのうち、一つのシリンダを図示している。シリンダよりも吸気流の上流側には、インマニ2(インテークマニホールド)が取り付けられる。インマニ2は、複数のシリンダの各々に吸気流を導入させるべく分岐した形状に形成される。
【0012】
インマニ2よりも吸気流の上流側の吸気通路には、エンジン1のシリンダに導入される吸入空気量を制御するためのスロットルバルブ3が介装される。スロットルバルブ3を通過してインマニ2側へと流通する空気の流量は、スロットルバルブ3の開度(スロットル開度)に応じて調節される。スロットル開度は、エンジン制御装置10によって電気的に制御される。
【0013】
インマニ2のサージタンク内には、インマニ圧センサ4が設けられる。インマニ圧センサ4は、スロットルバルブ3の下流圧であるインマニ圧(サージタンク内の圧力)を検出するセンサである。また、スロットルバルブ3よりも上流側の吸気通路には、上流圧センサ5,エアフローセンサ6,吸気温センサ7が設けられる。上流圧センサ5は、スロットルバルブ3の上流圧を検出するセンサである。エアフローセンサ6は、吸気流量を検出するセンサであり、吸気温センサ7は、吸気温度を検出するセンサである。
【0014】
エンジン1のクランクシャフトの近傍には、エンジン回転速度(単位時間あたりのエンジン回転数)を検出するエンジン回転速度センサ8が設けられる。また、車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ9が設けられる。アクセル開度は、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメーターであり、エンジン1の負荷(エンジン1に対する出力要求)を表すパラメーターである。
【0015】
エンジン制御装置10は、車両に搭載される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)の一つである。エンジン制御装置10には、図示しないプロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置等が内蔵され、これらが互いに通信可能に接続される。エンジン制御装置10で実行される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリや記憶装置に記録,保存される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容が展開され、プロセッサによって演算処理がなされる。
【0016】
本実施例のエンジン制御装置10は、エンジン1に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御を実施する。エンジン制御装置10の具体的な制御対象としては、燃料噴射量,燃料噴射のタイミング(燃料噴射時期),点火プラグで点火するタイミング(点火時期),スロットル開度等が挙げられる。本実施形態では、スロットル開度の調整によるエンジントルクの制御(吸気量制御)に着目し、その機能を説明する。
【0017】
スロットル開度は、エンジン1の目標トルクに応じて設定される吸入空気の目標流量と、スロットルバルブ3の上流圧に対する下流圧の比である圧力比とに基づいて制御される。目標トルクは、その時点におけるアクセル開度やエンジン回転速度に基づいて算出される。目標流量は、スロットルバルブ3を通過する空気の質量流量の目標値であり、例えば目標トルクと目標流量との関係を規定する制御マップや数式に基づいて算出される。
【0018】
圧力比の値は、例えばスロットルバルブ3の上流圧及び下流圧を実測した上で、下流圧の値を上流圧で除算して求めてもよい。あるいは、大気圧やエンジン1の作動状態に基づいて上流圧や下流圧を推定し、実測値や推定値を用いて求めてもよい。ここで、インマニ圧センサ4で検出されたインマニ圧を上流圧センサ5で検出された上流圧で除算した値を、センサ圧力比と定義する。本実施例では、センサ圧力比が上記の圧力比として使用されることを想定しているが、センサ圧力比以外の圧力比(例えば、センサで得られた実測値の代わりに推定値を用いて算出した圧力比)を用いることも可能である。
【0019】
図2は、スロットルバルブ3を通過する空気の流速と圧力比との関係を示すグラフである。流速は、圧力比が大きいほど減少する。一方、圧力比が臨界圧力比P
0よりも小さくなると流速は一定となる。このような特性を踏まえて、
図2のグラフでは圧力比の定義域が0以上、1以下の範囲に設定され、圧力比が1であるときに流速が0となっている。また、圧力比が減少するに連れて流速が増大し、圧力比が臨界圧力比P
0未満のときには流速が音速に対応する上限値V
0となるような圧力比と流速との関係が示されている。臨界圧力比P
0よりも小さい圧力比の範囲は臨界域と呼ばれ、臨界圧力比P
0以上の圧力比の範囲は非臨界域と呼ばれる。
【0020】
図2中の非臨界域において、圧力比に対する流速の減少勾配は、圧力比が1に近づくにつれて大きくなる。したがって、例えばインマニ圧センサ4や上流圧センサ5で得られる圧力値がわずかに変化することによって圧力比の値がわずかに変動した場合に、流速が大きく変化してしまう。その結果、スロットル開度が大きく変動し、エンジントルクの制御精度が低下することが懸念される。
【0021】
そこで、本実施例のエンジン制御装置10は、スロットル開度の制御においてエンジントルクの制御精度を高めるべく、二種類の制御を実施する。
第一の制御は、圧力比(若しくは圧力比相当値)から算出される流速と目標流量とに基づいた制御である。第一の制御は、圧力比が比較的低い場合(後述する「圧力比が比較的高い場合」以外の場合)に実施される。第二の制御は、圧力比と圧力比相当値とに基づいて補正圧力比を算出し、これに基づいて算出される補正後流速を用いることで、エンジントルクの制御精度を改善する制御である。第二の制御は、圧力比が比較的高い場合に実施される。これらの二種類の制御について、以下に詳述する。
【0022】
[2.エンジン制御装置]
エンジン制御装置10は、エンジン1に要求されるトルクのうち、吸入空気量の調整によって達成されるトルク分の目標値を目標トルクとして算出し、目標トルクを発生させるのに必要な量の空気がスロットルバルブ3を通過するようにスロットル開度を制御する。エンジン制御装置10の入力側には、インマニ圧センサ4,上流圧センサ5,エアフローセンサ6,吸気温センサ7,エンジン回転速度センサ8,アクセル開度センサ9等が接続され、出力側にはスロットルバルブ3が接続される。
【0023】
図1に示すように、エンジン制御装置10には、圧力比相当値算出部11,センサ圧力比算出部12,補正圧力比算出部13,制御部20が設けられる。これらの要素は、エンジン制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものであり、個々の要素を独立したプログラムとして記述してもよいし、これらの機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述してもよい。
【0024】
圧力比相当値算出部11は、エンジン1の最大トルク相当値に対するエンジン1の目標トルク相当値の比である圧力比相当値Aを算出するものである。最大トルク相当値とは、エンジン1で発生しうる最大トルク、又はこの最大トルクに対応する物理量(例えば、最大充填効率やこれに対応する最大平均有効圧)を意味する。最大トルクとは、その時点におけるエンジン1の運転状態で吸入空気量が最大であるときに発生するトルク(仮にスロットルバルブ3を全開にした場合に発生するトルク)である。また、最大充填効率とは、最大トルクを充填効率(空気量)に換算した値であり、最大平均有効圧とは、最大トルクを平均有効圧(筒内圧力)に換算した値である。
【0025】
目標トルク相当値とは、エンジン1への出力要求に基づいて設定される目標トルク、又はこの目標トルクに対応する物理量(例えば、目標充填効率やこれに対応する目標平均有効圧)を意味する。目標トルクは、例えばエンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて算出される。また、目標充填効率とは、目標トルクを充填効率(空気量)に換算した値であり、目標平均有効圧とは、目標トルクを平均有効圧(筒内圧力)に換算した値である。
【0026】
センサ圧力比算出部12は、スロットルバルブ3の圧力比(上流圧に対する下流圧の比)として、センサ圧力比Bを算出するものである。本実施例では、上流圧センサ5で検出された上流圧とインマニ圧センサ4で検出されたインマニ圧とに基づき、インマニ圧を上流圧で除算した値がセンサ圧力比Bとして算出される。なお、上流圧及びインマニ圧だけでなく、スロットルバルブ3の近傍や吸気通路における圧力損失の影響が考慮された制御マップや数式に基づいて、センサ圧力比Bを算出してもよい。
【0027】
補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合に、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bに基づいて補正圧力比Cを算出するものである。所定値Dは、エンジン1の作動状態において比較的大きな値(例えば臨界圧力比P0以上)であって、1に近い値(例えば、0.95程度)に設定される。また、「圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合」とは、第二の制御の実施条件に係る「圧力比が比較的高い場合」に対応している。
【0028】
補正圧力比算出部13が補正圧力比Cの算出を開始する条件は、以下の通りである。
条件1.圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bが所定値D未満の状態から、圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値D以上になった場合
条件2.圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bが所定値D未満の状態から、センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値D以上になった場合
【0029】
また、補正圧力比算出部13が補正圧力比Cの算出を終了する条件は、例えば以下の条件3及び条件4の通りである。あるいは、条件3、条件4に代えて条件5を用いてもよい。
条件3.上記の条件1の成立後、圧力比相当値Aが所定値D未満になった場合
条件4.上記の条件2の成立後、センサ圧力比Bが所定値D未満になった場合
条件5.上記の条件1、条件2の成立後、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bが所定値D未満になった場合
【0030】
補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bの一方が他方よりも先に所定値D以上になった場合に、その時点におけるセンサ圧力比Bの値を補正圧力比Cの初期値に設定する。また、補正圧力比算出部13は、圧力比相当値Aが1に達する時点で補正圧力比Cの値も1に達するように補正圧力比Cの値を増加させる。つまり、圧力比相当値Aは運転者の要求(エンジン1の目標トルク相当値)が反映される値であるが、圧力比が比較的高い状況で上昇中であるとき、圧力比相当値Aとセンサ圧力比Bとのずれが大きくなる可能性があり、センサ圧力比Bを使用してスロットル開度を制御すると運転者の要求が十分に反映されない可能性があるため、圧力比相当値Aとセンサ圧力比Bとの中間的な値を持つ補正圧力比Cを算出して、これをスロットル開度の制御に適用できるようにする。
【0031】
例えば、補正圧力比算出部13は、条件1が成立した場合(圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値D以上になった場合)に、以下の式1に基づいて補正圧力比Cを算出する。
【0032】
【数1】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
B
1:圧力比相当値Aが所定値D以上になった時点でのセンサ圧力比Bの値(B
1<D)
【0033】
また、補正圧力比算出部13は、条件2が成立した場合(センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値D以上になった場合)に、以下の式2に基づいて補正圧力比Cを算出する。
【0034】
【数2】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
A
2:センサ圧力比Bが所定値D以上になった時点での圧力比相当値Aの値(A
2<D)
【0035】
ここで、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点における圧力比相当値Aの値を第一定数aと定義し、同一の時点におけるセンサ圧力比Bの値を第二定数bと定義する。補正圧力比Cは「1から第一定数aを減じた値」に対する「1から第二定数bを減じた値」の比と「その時点における圧力比相当値Aから第一定数aを減じた値」との積に第二定数bを加算することで算出される。すなわち、上記の式1,式2の内容は、以下の式3に示すようにまとめることができる。
【0036】
【数3】
A:圧力比相当値、C:補正圧力比
a:第一定数(圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点に
おける、圧力比相当値Aの値)
b:第二定数(圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点に
おける、センサ圧力比Bの値)
【0037】
制御部20は、補正圧力比Cに基づいてスロットル開度を制御するものであって、少なくとも前述の第二の制御を実施するものである。本実施例の制御部20は、第一の制御と第二の制御とを実施する機能を持つ。第一の制御では、少なくともセンサ圧力比Bに基づいてスロットル開度が制御され、第二の制御では、補正圧力比Cに基づいてスロットル開度が制御される。第一の制御は従来技術(特許第5598374号における背景技術、若しくは特許第5598374号)と同様であるため、詳細は省略する。
【0038】
図3は、エンジン制御装置10の制御内容を説明するためのブロック図である。エンジン制御装置10の制御部20には、補正後流速算出部23,目標面積算出部25,目標スロットル開度算出部26,制御電圧算出部27が設けられる。これらの要素は、制御部20の機能を便宜的に分類して示したものである。
【0039】
補正後流速算出部23は、補正圧力比Cに基づいて空気の補正後流速VCを算出するものである。ここでは、補正圧力比Cの算出が開始された条件に応じて、異なる手法で補正後流速VCが算出される。まず、条件1が成立することで補正圧力比Cの算出が開始された場合(式1に基づいて補正圧力比Cが算出された場合)には、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのうち値が大きい一方を用いて補正後流速VCを算出する。
【0040】
つまり、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのマックス取りがなされ、その結果得られた片方に対応する補正後流速VCが算出される。一方、条件2が成立することで補正圧力比Cの算出が開始された場合(式2に基づいて補正圧力比Cが算出された場合)には、補正圧力比Cをそのまま用いて補正後流速VCを算出する。つまり、単に補正圧力比Cに対応する補正後流速VCが算出される。
【0041】
補正後流速算出部23には、圧力比と流速との関係を規定する制御マップや数式等が予め保存されている。補正後流速算出部23は、例えば
図2に示すような圧力比と流速との関係に基づいて、補正後流速V
Cを算出する。ここで算出された補正後流速V
Cの情報は、目標面積算出部25に伝達される。
【0042】
目標面積算出部25は、エンジン1の目標トルクに応じて設定される吸入空気の目標流量とスロットルバルブ3を通過する空気の流速とに基づいて、スロットルバルブ3の目標面積(空気が通過する開口面積の目標値)が算出される。スロットルバルブ3の目標面積は、空気の流速に補正係数を乗じた値で目標流量を除算して求められる。補正係数は、温度による空気の密度変化を考慮して算入される値であり、例えば、吸気温センサ7で検出された吸気温度や上流圧センサ5で検出された上流圧に基づいて設定される。補正圧力比算出部13が補正圧力比Cを算出している状況下では、補正後流速算出部23で算出された補正後流速VCが参照されて、スロットルバルブ3の目標面積が算出される。
【0043】
目標スロットル開度算出部26は、目標面積算出部25で算出された目標面積に対応するスロットル開度を算出するものである。目標スロットル開度算出部26には、目標面積と目標スロットル開度との関係を規定する制御マップや数式等が予め保存されている。
制御電圧算出部27は、目標スロットル開度算出部26で算出された目標スロットル開度に対応するスロットルバルブ3の制御電圧を算出し、その制御電圧をスロットルバルブ3に出力するものである。これにより、スロットル開度が目標スロットル開度になるように、スロットルバルブ3の作動状態が制御される。制御電圧算出部27には、目標スロットル開度と制御電圧との関係を規定する制御マップや数式等が予め保存されている。
【0044】
[3.作用]
図4(A)は、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bがともに所定値D未満の状態から、圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値D以上になった場合における、補正圧力比Cの変化を説明するためのグラフである。時刻t
1は、圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値Dに達した時刻である。ここで、時刻t
1における圧力比相当値Aの値をA
1とおき、時刻t
1におけるセンサ圧力比Bの値をB
1とおく。補正圧力比Cの初期値は、B
1に設定される。
【0045】
その後の補正圧力比Cの値は、圧力比相当値Aが1に達する時刻t2の時点で1に達するように設定される。すなわち、圧力比相当値Aが所定値D(=A1)から1まで変化する間に、補正圧力比CがB1から1まで変化するように、圧力比相当値Aの値に応じた補正圧力比Cの値が算出される。ここで、補正圧力比Cを圧力比相当値Aの一次関数とみなせば、単位圧力比相当値あたりの補正圧力比Cの増分は(1-B1)÷(1-D)又は(1-B1)÷(1-A1)と表現される。一方、時刻t1を基準とした圧力比相当値Aの増分は(A-D)又は(A-A1)と表現される。したがって、補正圧力比Cは、上記の式1で算出可能であることがわかる。
【0046】
時刻t1から時刻t2までの間は、補正圧力比Cがセンサ圧力比B寄りの値から圧力比相当値A寄りの値へと漸近し、常にセンサ圧力比B以上の値となる。したがって、補正後流速VCが補正圧力比Cに基づいて算出され、その補正後流速VCに基づいてスロットル開度が制御される。また、時刻t2に補正圧力比Cが1になると、スロットル開度が所定開度(例えば全開)に制御される。このとき、補正圧力比Cが圧力比相当値A寄りの値へと漸近するため、センサ圧力比Bの値が変化したとしても、所定開度のスロットル開度が安定的に維持される。
【0047】
時刻t3に圧力比相当値Aが1から減少し始めると、それに応じて補正圧力比Cも1から減少し始める。その後の補正圧力比Cの値は、圧力比相当値Aが所定値Dまで低下する時刻t4の時点でB1になる。なお、補正圧力比Cが1に達することなく減少し始める場合も同様である。時刻t3以降はセンサ圧力比Bが圧力比相当値Aに遅れて減少することから、実際の圧力比(センサ圧力比B)と補正圧力比Cとの乖離が過大になってしまう。そのため、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのマックス取りを実施し、値の大きい一方に対応する補正後流速VCを算出するとともに、その補正後流速VCに基づいてスロットル開度を制御する。
【0048】
時刻t1に開始された補正圧力比Cの算出は、圧力比相当値Aが所定値Dまで低下する時刻t4に終了する。時刻t4以降は、圧力比相当値A若しくはセンサ圧力比Bに基づく従来のスロットル開度制御が実施される。
【0049】
図4(B)は、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bがともに所定値D未満の状態から、センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値D以上になった場合における、補正圧力比Cの変化を説明するためのグラフである。時刻t
5は、センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値Dに達した時刻である。ここで、時刻t
5における圧力比相当値Aの値をA
2とおき、時刻t
5におけるセンサ圧力比Bの値をB
2とおく。補正圧力比Cの初期値は、B
2(=D)に設定される。
【0050】
その後の補正圧力比Cの値は、圧力比相当値Aが1に達する時刻t6の時点で1に達するように設定される。すなわち、圧力比相当値AがA2から1まで変化する間に、補正圧力比CがB2(=D)から1まで変化するように、圧力比相当値Aの値に応じた補正圧力比Cの値が算出される。ここで、補正圧力比Cを圧力比相当値Aの一次関数とみなせば、単位圧力比相当値あたりの補正圧力比Cの増分は(1-D)÷(1-A2)又は(1-B2)÷(1-A2)と表現される。一方、時刻t5を基準とした圧力比相当値Aの増分は(A-A2)と表現される。したがって、補正圧力比Cは、上記の式2で算出可能であることがわかる。
【0051】
時刻t5から時刻t6までの間は、補正圧力比Cの値がセンサ圧力比B寄りの値から圧力比相当値A寄りの値へと漸近する。また、時刻t6に補正圧力比Cが1になると、スロットル開度が所定開度(例えば全開)に制御される。この区間(時刻t5から時刻t7までの間)では、補正後流速VCが補正圧力比Cに基づいて算出され、その補正後流速VCに基づいてスロットル開度が制御される。このとき、式2から分かるように、補正圧力比Cは所定値D以降のセンサ圧力比Bの値に依存しないため、センサ圧力比Bが大きく変化したとしても、所定開度のスロットル開度が安定的に維持される。
【0052】
時刻t7に圧力比相当値Aが1から減少し始めると、それに応じて補正圧力比Cも1から減少し始める。その後の補正圧力比Cの値は、センサ圧力比Bが所定値Dまで低下する時刻t8の時点でB2になる。時刻t7以降の補正圧力比Cは、圧力比相当値A寄りの値からセンサ圧力比B寄りの値へと漸近し、時刻t8の時点では実際の圧力比(センサ圧力比B)と補正圧力比Cとの乖離が生じない。そのため、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのマックス取りが不要であり、補正圧力比Cに対応する補正後流速VCを算出するとともに、その補正後流速VCに基づいてスロットル開度を制御する。
【0053】
時刻t
5に開始された補正圧力比Cの算出は、例えばセンサ圧力比Bが所定値Dまで低下する時刻t
8(あるいは、圧力比相当値AがA
2まで低下する時刻t
8)に終了する。時刻t
8以降は、
図4(A)における時刻t
4以降と同様に、圧力比相当値A若しくはセンサ圧力比Bに基づく従来のスロットル開度制御が実施される。
【0054】
[4.効果]
(1)本実施例のエンジン制御装置10は、圧力比相当値算出部11と、センサ圧力比算出部12と、補正圧力比算出部13と、制御部20とを備える。圧力比相当値算出部11は、エンジン1の最大トルク相当値に対する目標トルク相当値の比である圧力比相当値Aを算出する。センサ圧力比算出部12は、スロットルバルブ3の上流圧に対する下流圧の比であるセンサ圧力比Bを算出する。補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合に、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bに基づき補正圧力比Cを算出する。制御部20は、補正圧力比Cに基づきスロットルバルブ3の開度を制御する。
【0055】
このように、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合に補正圧力比Cを算出し、補正圧力比Cに基づいてスロットルバルブ3の開度を制御することで、センサ圧力比Bの微小な変動に対するスロットル開度の変動を抑制できる。したがって、スロットル開度の安定性を高めることができ、エンジントルクの制御精度を改善できる。また、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bが所定値D未満である場合には、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bに基づく従来の制御を実施することができ、実際の圧力比(センサ圧力比B)に応じたスロットル開度を設定でき、エンジントルクの制御精度を改善できる。
【0056】
(2)補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A及びセンサ圧力比Bの一方が他方よりも先に所定値D以上になった場合に、その時点におけるセンサ圧力比Bの値(B1,B2)を補正圧力比Cの初期値に設定するとともに、圧力比相当値Aが1に達する時点(t2,t6)で補正圧力比Cの値も1に達するように補正圧力比Cの値を増加させる演算を実施可能である。
【0057】
このように、補正圧力比Cの初期値をセンサ圧力比Bの値に一致させることで、スロットル開度の急変を防止できる。また、圧力比相当値Aが1に達する時点で補正圧力比Cの値も1に達するように補正圧力比Cの値を増加させることで、スロットル開度を徐々に所定開度(例えば、全開状態)まで開放することができる。したがって、スロットル開度の安定性をさらに高めることができる。
【0058】
(3)補正圧力比算出部13は、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点における圧力比相当値Aの値を第一定数aとおき、同一の時点におけるセンサ圧力比Bの値を第二定数bとおいて、「1から第一定数aを減じた値」に対する「1から第二定数bを減じた値」の比と「その時点における圧力比相当値Aから第一定数aを減じた値」との積に、第二定数bを加算することで、補正圧力比Cを算出可能である。
【0059】
このように、補正圧力比Cを圧力比相当値Aの一次関数とみなすことで、圧力比相当値Aに応じた値の補正圧力比Cを容易に、かつ、精度よく算出することができる。したがって、簡素な構成でスロットル開度の安定性を高めることができるとともに、エンジントルクの制御精度を改善できる。また、補正圧力比Cの算出が極めて短時間で済むことから、スロットル開度やエンジントルクの応答性を改善できる。
【0060】
(4)補正圧力比算出部13は、圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値D以上になった場合に、式1に基づいて補正圧力比Cを算出可能である。これにより、条件1の成立時における補正圧力比Cを容易に、かつ、精度よく算出することができる。
(5)補正圧力比算出部13は、センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値D以上になった場合に、式2に基づいて補正圧力比Cを算出可能である。これにより、条件2の成立時における補正圧力比Cを容易に、かつ、精度よく算出することができる。
【0061】
(6)制御部20は、圧力比相当値Aがセンサ圧力比Bよりも先に所定値D以上になった場合に、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのうち値が大きい一方を用いてスロットル開度を制御しうる。例えば、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのうち値が大きい一方を用いて補正後流速VCを算出し、この補正後流速VCに基づいてスロットル開度を制御する。このような構成により、実際の圧力比(センサ圧力比B)から乖離した過小な補正圧力比Cが算出されたとしても、センサ圧力比Bを用いてスロットル開度を制御できる。したがって、エンジントルクの制御精度を改善できる。
【0062】
(7)制御部20は、センサ圧力比Bが圧力比相当値Aよりも先に所定値D以上になった場合に、センサ圧力比Bと補正圧力比Cとのうち、値が大きい一方ではなく、補正圧力比Cのみを用いてスロットル開度を制御しうる。このように、実際の圧力比(センサ圧力比B)から乖離した過小な補正圧力比Cが算出されない状況下では、補正圧力比Cのみを用いてスロットル開度を制御することで制御構成を簡素化できる。
【0063】
[5.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。例えば、上記の実施例では、車両に搭載されるエンジン1に適用されたエンジン制御装置10を例示したが、エンジン制御装置10の適用対象は自動車用エンジンに限定されない。
【0064】
また、上記の実施例では、圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上である場合に、補正圧力比C(又はセンサ圧力比Bと補正圧力比Cとのうちのいずれか大きい一方)から算出される補正後流速VCを用いてスロットル開度が制御されているが、この制御の細部は適宜変更可能であり、補正圧力比Cの具体的な算出式や補正圧力比Cとスロットル開度との関係も変更可能である。
【0065】
例えば、上記の実施例では補正圧力比Cを圧力比相当値Aの一次関数で表現したもの(式1~式3)を例示したが、補正圧力比Cを圧力比相当値Aについてのシグモイド関数やロジスティック関数で表現してもよい。あるいは、補正圧力比Cと圧力比相当値Aとの関係を予め制御マップに規定しておき、その制御マップを用いて補正圧力比Cの値を算出してもよい。少なくとも、実際の圧力比(センサ圧力比B)と補正圧力比Cとが大きく乖離しないように補正圧力比Cの値を滑らかに移行させることで、上記の実施例と同様の作用,効果を獲得できる。
【0066】
[6.付記]
上記の実施例や変形例に関して、以下の付記を開示する。
[付記1]
エンジンの最大トルク相当値に対する前記エンジンの目標トルク相当値の比である圧力比相当値を算出する圧力比相当値算出部と、
スロットルバルブの上流圧に対する下流圧の比であるセンサ圧力比を算出するセンサ圧力比算出部と、
前記圧力比相当値又は前記センサ圧力比が所定値以上である場合に、前記圧力比相当値及び前記センサ圧力比に基づき補正圧力比を算出する補正圧力比算出部と、
前記補正圧力比に基づき前記スロットルバルブの開度を制御する制御部と、を備える
ことを特徴とする、エンジン制御装置。
【0067】
[付記2]
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値及び前記センサ圧力比の一方が他方よりも先に前記所定値以上になった場合に、その時点における前記センサ圧力比の値を前記補正圧力比の初期値に設定するとともに、前記圧力比相当値が1に達する時点で前記補正圧力比の値も1に達するように前記補正圧力比の値を増加させる
ことを特徴とする、付記1記載のエンジン制御装置。
【0068】
[付記3]
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値又は前記センサ圧力比が前記所定値以上になった時点における前記圧力比相当値の値を第一定数とおき、同一の時点における前記センサ圧力比の値を第二定数とおいて、「1から前記第一定数を減じた値」に対する「1から前記第二定数を減じた値」の比と「その時点における前記圧力比相当値から前記第一定数を減じた値」との積に、前記第二定数を加算することで、前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、付記1又は2記載のエンジン制御装置。
【0069】
なお、前記補正圧力比算出部は、以下の式3に基づき前記補正圧力比を算出してもよい。
【数4】
A:圧力比相当値、C:補正圧力比
a:第一定数(圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点に
おける、圧力比相当値Aの値)
b:第二定数(圧力比相当値A又はセンサ圧力比Bが所定値D以上になった時点に
おける、センサ圧力比Bの値)
【0070】
[付記4]
前記補正圧力比算出部は、前記圧力比相当値が前記センサ圧力比よりも先に前記所定値以上になった場合に、以下の式1に基づき前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、付記1~3の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【0071】
【数5】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
B
1:圧力比相当値Aが所定値D以上になった時点でのセンサ圧力比Bの値(B
1<D)
【0072】
[付記5]
前記補正圧力比算出部は、前記センサ圧力比が前記圧力比相当値よりも先に前記所定値以上になった場合に、以下の式2に基づき前記補正圧力比を算出する
ことを特徴とする、付記1~4の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【0073】
【数6】
A:圧力比相当値、B:センサ圧力比、C:補正圧力比、D:所定値
A
2:センサ圧力比Bが所定値D以上になった時点での圧力比相当値Aの値(A
2<D)
【0074】
[付記6]
前記制御部は、前記圧力比相当値が前記センサ圧力比よりも先に前記所定値以上になった場合に、前記センサ圧力比と前記補正圧力比とのうち値が大きい一方を用いて前記スロットルバルブの開度を制御する
ことを特徴とする、付記1~5の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【0075】
[付記7]
前記制御部は、前記センサ圧力比が前記圧力比相当値よりも先に前記所定値以上になった場合に、前記センサ圧力比と前記補正圧力比とのうち前記補正圧力比のみを用いて前記スロットルバルブの開度を制御する
ことを特徴とする、付記1~6の何れか一項に記載のエンジン制御装置。