(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060938
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】炭化珪素ウェハおよびそれを用いた炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240425BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240425BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20240425BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H01L29/78 652G
H01L29/78 652T
H01L29/86 301F
H01L29/78 652H
H01L29/78 653C
H01L29/86 301D
C30B29/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168533
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上東 秀幸
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB06
4G077BE08
4G077DB01
4G077HA06
(57)【要約】
【課題】BPDがSFに拡張することを抑制する。
【解決手段】SiCで構成される基板と、SiCで構成され、基板上に配置されたエピタキシャル層と、を備え、基板側からエピタキシャル層に向かって炭素空孔の濃度が連続的に減少しており、基板は、炭素空孔の濃度が3.0×10
15cm
-3以上となるように構成される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素で構成される炭化珪素ウェハであって、
炭化珪素で構成される基板(10)と、
炭化珪素で構成され、前記基板上に配置されたエピタキシャル層(20)と、を備え、
前記基板側から前記エピタキシャル層に向かって炭素空孔(VC)の濃度が連続的に減少しており、
前記基板は、炭素空孔の濃度が3.0×1015cm-3以上とされている炭化珪素ウェハ。
【請求項2】
前記基板には、ボロン、アルミニウム、チタン、バナジウム、硫黄、鉄、ニオブ、およびタンタルの少なくともいずれか1つを含む不純物が含まれている請求項1に記載の炭化珪素ウェハ。
【請求項3】
前記エピタキシャル層は、膜厚が4~40μmとされ、ドナー濃度が1.0×1015~1.0×1019cm-3とされている部分を有する請求項1または2に記載の炭化珪素ウェハ。
【請求項4】
前記エピタキシャル層は、前記基板側に位置するバッファ層(21)と、前記バッファ層上に位置するドリフト層(22)と、を有し、
前記バッファ層は、1.0×1018~1.0×1019cm-3とされ、
前記ドリフト層は、1.0×1015~5×1016cm-3とされている請求項3に記載の炭化珪素ウェハ。
【請求項5】
前記基板は、比抵抗が30m・Ωcm以下とされている請求項1に記載の炭化珪素ウェハ。
【請求項6】
炭化珪素半導体装置であって、
請求項1に記載の炭化珪素ウェハを備え、
前記基板は、第1導電型とされ、
前記エピタキシャル層は、前記基板側に配置された第1導電型のドリフト層(22)と、前記ドリフト層上に配置されたベース層(23)と、を少なくとも有し、
前記ベース層の表層部には、第1導電型のソース領域(24)が形成されている炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
炭化珪素半導体装置であって、
請求項1に記載の炭化珪素ウェハを備え、
第1導電型とされた前記基板を含むダイオードが構成された炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下では、SiCともいう)で構成されるSiCウェハおよびそれを用いたSiC半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiCで構成されるSiC半導体装置が提案されており、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略)が形成されたSiC半導体装置が提案されている。具体的には、このようなSiC半導体装置は、n+型の基板上に、基板よりも低不純物濃度とされたn-型のバッファ層が形成され、バッファ層上に、バッファ層よりも低不純物濃度とされたn-型のドリフト層が形成されている。ドリフト層上には、p型のベース層が配置されている。なお、バッファ層およびドリフト層は、エピタキシャル層で構成されている。
【0003】
ベース層の表層部には、n+型のソース領域が形成されている。そして、ソース領域およびベース層を貫通してドリフト層に達するように複数のトレンチが形成されており、各トレンチには、ゲート絶縁膜およびゲート電極が順に形成されている。これにより、トレンチゲート構造が形成されている。
【0004】
そして、上記のようなSiC半導体装置は、ベース層等とドリフトとのpn接合によって寄生ダイオードが構成される。
【0005】
ところで、このようなSiC半導体装置では、基板に基底面転位(basal plane dislocation:以下では、単にBPDともいう)が存在する場合がある。そして、上記のようなSiC半導体装置では、寄生ダイオードが動作する際に注入されるホールがBPDに達することにより、BPDが積層欠陥(stacking fault:以下では、単にSFともいう)に拡張する可能性があることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Skowronski and S.Ha,「Degradation of hexagonal silicon-carbide-based bipolar devices」, Applied Physics Reviews 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなSiC半導体装置では、BPDは、線状欠陥であるために素子動作に及ぼす影響が小さいが、SFは、面状欠陥となるために抵抗成分となり、素子動作に及ぼす影響が大きくなる。したがって、上記のようなSiC半導体装置では、オン電圧が高くなる可能性がある。
【0008】
本発明は上記点に鑑み、BPDがSFに拡張することを抑制できるSiCウェハおよびそれを用いたSiC半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1は、SiCで構成されるSiCウェハであって、SiCで構成される基板(10)と、SiCで構成され、基板上に配置されたエピタキシャル層(20)と、を備え、基板側からエピタキシャル層に向かって炭素空孔(VC)の濃度が連続的に減少しており、基板は、炭素空孔の濃度が3.0×1015cm-3以上とされている。
【0010】
これによれば、MOSFET等を形成した際、炭素空孔によってBPDがSFに拡張することを抑制できる。
【0011】
また、請求項6は、SiC半導体装置であって、請求項1に記載のSiCウェハを備え、基板は、第1導電型とされ、エピタキシャル層は、基板側に配置された第1導電型のドリフト層(22)と、ドリフト層上に配置されたベース層(23)と、を少なくとも有し、ベース層の表層部には、第1導電型のソース領域(24)が形成されている。
【0012】
請求項7は、SiC半導体装置であって、請求項1に記載のSiCウェハを備え、第1導電型とされた基板を含むダイオードが構成されている。
【0013】
これらのように、上記のSiCウェハを用いてSiC半導体装置を構成することにより、BPDがSFに拡張することを抑制したSiC半導体装置とできる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態におけるSiC半導体装置の断面図である。
【
図2A】SiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2B】
図2Aに続くSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2C】
図2Bに続くSiC半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3】加熱処理を行う前の深さと炭素空孔の濃度との関係を示す図である。
【
図4】加熱処理を行った後の深さと炭素空孔の濃度との関係を示す図である。
【
図5】加熱処理を行った後の深さと炭素空孔の濃度との関係を示す図である。
【
図6】加熱処理を行った後の深さと炭素空孔の濃度との関係を示す図である。
【
図7】シミュレーションに用いたSiC半導体装置の模式図である。
【
図8】加熱処理を行った後の深さと炭素空孔の濃度との関係を示す図である。
【
図9】基板の炭素空孔の濃度が3.0×10
15cm
-3である場合の順方向電流と順方向電圧の変化量との関係を示す図である。
【
図10】基板の炭素空孔の濃度が1.0×10
14cm
-3である場合の順方向電流と順方向電圧の変化量との関係を示す図である。
【
図11】基板の炭素空孔の濃度が3.0×10
15cm
-3である場合のフォトルミネッセンス画像で、光学フィルタにより420±10nmの蛍光を撮影した図である。
【
図12】基板の炭素空孔の濃度が1.0×10
14cm
-3である場合のフォトルミネッセンス画像で、光学フィルタにより420±10nmの蛍光を撮影した図である。
【
図13】基板の炭素空孔の濃度が1.0×10
14cm
-3である場合の順方向電流と順方向電圧の変化量との関係を示す図である。
【
図14】第2実施形態における、基板の炭素空孔の濃度が1.0×10
14cm
-3である場合のフォトルミネッセンス画像で、光学フィルタにより420±10nmの蛍光を撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略)が形成されたSiC半導体装置を例に挙げて説明する。なお、SiC半導体装置は、特に図示しないが、セル領域、およびセル領域を囲むように形成された外周領域を有している。そして、
図1に示すMOSFETは、SiC半導体装置のうちのセル領域に形成されている。
【0018】
SiC半導体装置は、SiCで構成されるn+型の基板10を用いて構成されている。基板10の表面上には、SiCで構成されるエピタキシャル層20が配置されている。本実施形態のエピタキシャル層20は、n-型のバッファ層21、n-型のドリフト層22、およびp型のベース層23が順に配置された構成とされている。なお、本実施形態では、基板10とエピタキシャル層20とを含んでSiCウェハ1が構成されている。また、本実施形態のエピタキシャル層20は、基板10の面方向に対する法線方向に沿った長さを膜厚とすると、膜厚が4~40μm程度とされている。
【0019】
そして、ベース層23の表層部には、n+型のソース領域24が形成されている。なお、ソース領域24は、ベース層23の表層部にイオン注入をするか、またはベース層23に溝を形成すると共に当該溝にn型のエピタキシャル層を配置することで構成される。
【0020】
基板10は、例えば、比抵抗が30mΩ・cm以下(例えば、20mΩ・cm)とされ、表面が(0001)Si面とされ、(0001)Si面に対して0.5~5°のオフ角が設けられたものが用いられる。また、基板10は、後述するように、炭素空孔の濃度が規定されることにより、少数キャリアのライフタイムτが2.5ns以下とされている。バッファ層21は、例えば、n型不純物濃度が1.0×1018~1019cm-3とされている。ドリフト層22は、例えば、n型不純物濃度が1.0×1015~5.0×1016/cm3とされている。なお、本実施形態では、基板10がMOSFETにおけるドレイン層を構成する。
【0021】
ベース層23は、チャネル領域が形成される部分であり、例えば、p型不純物濃度が3.0×1017cm-3程度とされ、厚さが0.5~2μmとされている。ソース領域24は、ドリフト層22よりも高不純物濃度とされ、例えば、表層部におけるn型不純物濃度が2.5×1018~1.0×1019cm-3程度とされ、厚さが0.5~2μmとされている。なお、ドリフト層22、ベース層23およびソース領域24の膜厚等は、任意であり、上記に限定されるものではない。
【0022】
また、ベース層23およびソース領域24を貫通してドリフト層22に達するようにトレンチ30が形成されている。そして、このトレンチ30の側面と接するように、上記のベース層23およびソース領域24が配置されている。なお、
図1では、1本のトレンチ30のみを図示しているが、実際のトレンチ30は、複数本が紙面左右方向に等間隔に配置されたストライプ状に形成されている。
【0023】
トレンチ30の内壁面には、ゲート絶縁膜31が形成されている。ゲート絶縁膜31の表面には、ドープドPoly-Siにて構成されたゲート電極32が形成されている。そして、トレンチ30は、これらゲート絶縁膜31およびゲート電極32によって埋め尽くされている。本実施形態では、このようにしてトレンチゲート構造が構成されている。
【0024】
エピタキシャル層20上には、ゲート電極32と絶縁され、ベース層23およびソース領域24と接続されるソース電極としての上部電極41が配置されている。本実施形態では、上部電極41は、例えば、Ni/Al等の複数の金属にて構成されている。そして、複数の金属のうちのn型SiC(すなわち、ソース領域24)を構成する部分と接触する部分は、n型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。また、複数の金属のうちの少なくともp型SiC(すなわち、ベース層23)と接触する部分は、p型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。
【0025】
基板10の裏面側には、基板10と電気的に接続されるドレイン電極としての下部電極42が形成されている。本実施形態では、このような構造により、nチャネルタイプの反転型であるトレンチゲート構造のMOSFETが構成されている。そして、このようなMOSFETが複数配置されることでセル領域が構成されている。
【0026】
以上が本実施形態におけるSiC半導体装置の基本的な構成である。なお、特に図示していないが、基板10には、BPDが含まれる場合がある。そして、上記のようなMOSFETが形成されたSiC半導体装置では、寄生ダイオードが動作する際に注入されるホールがBPDに達することにより、BPDがSFに拡張する可能性がある。
【0027】
ここで、SiCで構成される基板10には真性欠陥である炭素空孔が含まれ、炭素空孔は、禁制帯中にZ1/2という少数キャリアキラーとなる欠陥準位を形成することが報告されている。また、炭素空孔VCの濃度とZ1/2濃度は、ほぼ1:1の関係にあることも報告されている。このため、本発明者らは、炭素空孔の影響について鋭意検討を行った。
【0028】
まず、本発明者らは、鋭意検討を行い、加熱することにより、基板10に含まれる炭素空孔がエピタキシャル層20に拡散することを見出した。このため、本実施形態のSiC半導体装置は、次のように製造される。
【0029】
まず、
図2Aに示されるように、基板10を用意する。なお、基板10は、炭素空孔(すなわち、Carbon Vacancy)V
Cを含有するSiCインゴットを切断することで用意される。SiCインゴットは、一般的に2000℃以上の高温で製造されるため、基板10には、炭素空孔V
Cが含まれる。また、特に図示しないが、基板10には、BPDも含まれ得る。
【0030】
次に、
図2Bに示されるように、1600~1700℃程度でエピタキシャル層20を成長させてSiCウェハ1を構成する。この際、1600~1700℃程度でエピタキシャル層20を成長させるため、基板10に含まれる炭素空孔V
Cは、エピタキシャル層20に拡散する。
【0031】
その後、
図2Cに示されるように、エピタキシャル層20を成長させる温度よりも高い温度で加熱処理を行い、基板10に含まれる炭素空孔V
Cをエピタキシャル層20側にさらに拡散させる。具体的には、加熱処理を行うことにより、
図3および
図4に示されるように、エピタキシャル層20に含まれる炭素空孔V
Cの濃度を高くできる。なお、
図3および
図4は、基板10上に9μmのエピタキシャル層20を成長させた際の結果を示し、エピタキシャル層20の表面(すなわち、エピタキシャル層20における基板10と反対側の面)を0μmとしている。すなわち、
図3および
図4は、エピタキシャル層20内の炭素空孔V
Cの濃度を示している。また、
図3および
図4は、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopyの略)法でZ
1/2濃度の分布を測定した結果に基づくものであり、Z
1/2濃度と炭素空孔V
Cの濃度とがほぼ等しくなるため、炭素空孔V
Cを測定した結果となる。そして、後述する炭素空孔V
Cの濃度についても、DLTS法で確認している。さらに、加熱処理を行う際には、表面の荒れを抑制するために炭素キャップを配置した状態で行ってもよい。
【0032】
なお、ベース層23やソース領域24は、エピタキシャル層20に適宜イオン注入を行うことで構成されるが、加熱処理を行う前に形成されてもよいし、加熱処理を行った後に形成されてもよい。加熱処理を行う際の温度は、エピタキシャル層20を成長させる温度より高い温度であって、SiCの昇華温度未満の温度とされる。
【0033】
そして、このように、炭素空孔V
Cを拡散させることにより、
図5および
図6に示されるように、炭素空孔V
Cは、基板10側からエピタキシャル層20側に向かって連続的に減少した濃度分布となる。
図5および
図6は、基板10の厚さを変更しつつ、基板10上に9μmのエピタキシャル層20を成長させた際の結果を示している。そして、
図5および
図6に示されるように、エピタキシャル層20の炭素空孔V
Cの濃度は、基板10の厚さに依存しないことが確認される。
【0034】
なお、
図3~
図6は、
図7に示されるように、基板10上にn型の不純物濃度が1.0×10
15cm
-3であるエピタキシャル層20を配置し、エピタキシャル層20側にショットキー電極50を配置すると共に基板10側に下部電極42を配置してショットキーダイオードを構成した際の模式図である。なお、MOSFETを作成した後に
図4に示す結果を得るため、MOSFETの寄生ダイオードで同様の評価をすることもできる。
【0035】
そして、
図8に示されるように、エピタキシャル層20側における炭素空孔V
Cの濃度は、基板10の炭素空孔V
Cの濃度が高くなるほど高くなることが確認される。
【0036】
本発明者らは、さらに、炭素空孔V
Cの濃度と順方向電流との関係について鋭意検討を行い、
図9および
図10に示される結果を得た。なお、
図9および
図10は、
図7中のエピタキシャル層20をp型に変更すると共にショットキー電極50を上部電極41に変更してpnダイオードを構成した際の結果を示している。また、
図9は、基板10の炭素空孔V
Cの濃度が3.0×10
15cm
-3である場合の順方向電圧の変化量を示し、
図10は、基板10の炭素空孔V
Cの濃度が1.0×10
14cm
-3である場合の順方向電圧の変化量を示している。また、
図9および
図10では、順方向電流を40Aとした場合の順方向電圧を基準値(すなわち、図中ではInitial)とし、基準値に対する変化量を順方向電圧の変化量としている。
【0037】
図9に示されるように、基板10における炭素空孔V
Cの濃度が3.0×10
15cm
-3である場合、順方向電流を大きくしても、順方向電圧の変化量が小さいことが確認される。一方、
図10に示されるように、基板10における炭素空孔V
Cの濃度が1.0×10
14cm
-3である場合、順方向電流を大きくすることにより、順方向電圧の変化量が大きくなることが確認される。
【0038】
そして、本発明者らは、このような半導体装置について、順方向電流を流した後にフォトルミネッセンス(以下では、単にPLともいう)画像を取得したところ、
図11および
図12に示される結果を得た。なお、
図11および
図12は、光学フィルタを用いて420±10nmの光のみを検出器に映したPL画像である。また、
図11は、順方向電流を2500A/cm
2まで流した後の図である。
図12は、順方向電流を2000A/cm
2まで流した後の図である。
【0039】
図11に示されるように、基板10における炭素空孔V
Cの濃度が3.0×10
15cm
-3である場合、順方向電流を流したとしても、SF等の欠陥が確認されない。一方、
図12に示されるように、基板10における炭素空孔の濃度が1.0×10
14cm
-3である場合、複数のSFが発生していることが確認される。
【0040】
このため、本実施形態では、基板10における炭素空孔VCの濃度が3.0×1015cm-3以上となるようにしている。具体的には、基板10は、SiCインゴットを切断することで得られ、SiCインゴットには炭素空孔VCが含まれている。そして、SiCインゴットは、高温CVD法によって得られ、製造時の温度によって炭素空孔VCの濃度が変化する。詳しくは、SiCインゴットは、製造時の温度が高くなるほど、炭素空孔VCの濃度が高くなる。このため、本実施形態では、約2500℃以上の条件で高温CVD法を行い、加熱処理を行った後に3.0×1015cm-3以上の炭素空孔VCが含まれる基板10となるようにしている。すなわち、本実施形態の基板10は、加熱処理を行った後に炭素空孔VCの濃度が3.0×1015cm-3以上となる高炭素空孔含有基板であるともいえる。
【0041】
以上説明した本実施形態によれば、基板10は、3.0×1015cm-3以上の炭素空孔VCが含まれ、炭素空孔VCは、基板10側からエピタキシャル層20側に向かって徐々に減少する構成とされている。このため、BPDがSFを拡張し難くできる。したがって、例えば、MOSFETを形成した場合には、オン電圧が高くなることを抑制できる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、基板10に不純物を添加したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0043】
本実施形態では、基板10に、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、硫黄(S)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、およびタンタル(Ta)の少なくともいずれか1つの不純物が含まれるようにしている。これによれば、不純物も少数キャリアキラーとして機能するため、さらにBPDがSFに拡張することを抑制できる。
【0044】
具体的には、
図13に示されるように、基板10における炭素空孔V
Cの濃度が1.0×10
14cm
-3である場合、
図10と比較すると、炭素空孔V
Cの濃度が同じであるが、不純物を含有させたことによって順方向電圧の変化量が小さくなっていることが確認される。また、
図14に示されるように、
図13と比較すると、SFが確認されるが、数が少なくなっていることが確認される。なお、
図13順方向電流を2500A/cm
2まで流した後のPL画像を二値化して示した図である。
【0045】
以上説明した本実施形態によれば、基板10は、3.0×1015cm-3以上の炭素空孔VCが含まれ、炭素空孔VCは、基板10側からエピタキシャル層20側に向かって徐々に減少する構成とされている。したがって、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0047】
上記各実施形態では、MOSFETが形成されたSiC半導体装置について説明した。しかしながら、SiC半導体装置は、上記
図7のようなショットキーダイオードが構成されていてもよいし、
図7のエピタキシャル層20をp型に変更すると共にショットキー電極50を上部電極41に変更したpnダイオードが構成されていてもよい。
【0048】
また、上記各実施形態では、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネルタイプのトレンチゲート構造のMOSFETが形成されたSiC半導体装置を説明した。しかしながら、例えばnチャネルタイプに対して各構成要素の導電型を反転させたpチャネルタイプのトレンチゲート構造のMOSFETが形成されたSiC半導体装置とされていてもよい。
【0049】
(本発明の特徴)
[請求項1]
炭化珪素で構成される炭化珪素ウェハであって、
炭化珪素で構成される基板(10)と、
炭化珪素で構成され、前記基板上に配置されたエピタキシャル層(20)と、を備え、
前記基板側から前記エピタキシャル層に向かって炭素空孔(VC)の濃度が連続的に減少しており、
前記基板は、炭素空孔の濃度が3.0×1015cm-3以上とされている炭化珪素ウェハ。
[請求項2]
前記基板には、ボロン、アルミニウム、チタン、バナジウム、硫黄、鉄、ニオブ、およびタンタルの少なくともいずれか1つを含む不純物が含まれている請求項1に記載の炭化珪素ウェハ。
[請求項3]
前記エピタキシャル層は、膜厚が4~40μmとされ、ドナー濃度が1.0×1015~1.0×1019cm-3とされている部分を有する請求項1または2に記載の炭化珪素ウェハ。
[請求項4]
前記エピタキシャル層は、前記基板側に位置するバッファ層(21)と、前記バッファ層上に位置するドリフト層(22)と、を有し、
前記バッファ層は、1.0×1018~1.0×1019cm-3とされ、
前記ドリフト層は、1.0×1015~5×1016cm-3とされている請求項3に記載の炭化珪素ウェハ。
[請求項5]
前記基板は、比抵抗が30m・Ωcm以下とされている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の炭化珪素ウェハ。
[請求項6]
炭化珪素半導体装置であって、
請求項1に記載の炭化珪素ウェハを備え、
前記基板は、第1導電型とされ、
前記エピタキシャル層は、前記基板側に配置された第1導電型のドリフト層(22)と、前記ドリフト層上に配置されたベース層(23)と、を少なくとも有し、
前記ベース層の表層部には、第1導電型のソース領域(24)が形成されている炭化珪素半導体装置。
[請求項7]
炭化珪素半導体装置であって、
請求項1に記載の炭化珪素ウェハを備え、
第1導電型とされた前記基板を含むダイオードが構成された炭化珪素半導体装置。
【符号の説明】
【0050】
10 基板
20 エピタキシャル層
VC 炭素空孔