(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060947
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】動力取出装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/06 20060101AFI20240425BHJP
B60K 17/28 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
F16H1/06
B60K17/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168546
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】小木 治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英樹
【テーマコード(参考)】
3D043
3J009
【Fターム(参考)】
3D043AA06
3D043AB01
3D043BE02
3J009DA18
3J009EA05
3J009EA11
3J009EC04
3J009FA03
(57)【要約】
【課題】減速機の出力軸に施すスプラインの加工性を向上させた動力取出装置を提供する。
【解決手段】動力取出装置1は、ケーシング11内に装備され、駆動源M1の動力取出軸M2から出力された駆動トルクが入力される減速機入力軸12及び減速機入力軸12の入力ギヤ12bと出力ギヤ13bとが噛合して駆動トルクを出力する減速機出力軸13を備えた動力伝達ギヤ機構と、減速機出力軸13から出力された駆動トルクが入力軸22に入力され、作業機器の駆動油圧を発生する油圧ポンプ20とを備え、減速機出力軸13の軸部13aに貫通孔Hが設けられ、貫通孔Hのスプライン形成部H1に油圧ポンプ20の入力軸22の雄側スプライン部と嵌合する雌側スプライン部が設けられ、スプライン形成部H1と反対側にある軸部材配置部H2に貫通孔Hを塞ぐ軸部材16が設けられ、軸部材配置部H2はスプライン形成部H1に比較して同径又は大径である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に装備され、駆動源の動力取出軸から出力された駆動トルクが入力される減速機入力軸及び前記減速機入力軸の入力ギヤと出力ギヤとが噛合して駆動トルクを出力する減速機出力軸を備えた動力伝達ギヤ機構と、
前記減速機出力軸から出力された駆動トルクが入力軸に入力され、作業機器の駆動油圧を発生する油圧ポンプと、を備える動力取出装置であって、
前記減速機出力軸の軸部に貫通孔が設けられ、前記貫通孔のスプライン形成部に前記油圧ポンプの入力軸の雄側スプライン部とスプライン嵌合する雌側スプライン部が設けられ、前記貫通孔の前記スプライン形成部と反対側にある軸部材配置部に前記貫通孔を塞ぐ軸部材が設けられ、前記軸部材配置部は前記スプライン形成部に比較して同径又は大径であることを特徴とする動力取出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力取出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックなどの車両に架装される作業機器を駆動するため、下記特許文献1に記載のように、油圧ポンプをモータで駆動して作業機器の駆動力として利用する動力取出装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、本発明者らは、変速機などの駆動系から減速機を介して動力を取り出して、作業機器の駆動力として利用する動力取出装置について研究を重ねた。具体的に、この動力取出装置は、減速機に駆動源となる変速機やモータなどから駆動力が入力され、減速機内のギヤ機構に動力が伝達され、減速機の出力軸から作業機器の駆動源となる油圧ポンプを回転駆動する。
【0005】
減速機の出力軸と油圧ポンプの入力軸はスプライン嵌合されている。油圧ポンプの入力側が雄側スプライン、減速機の出力軸が雌側のスプラインとなっている場合、出力軸側の雌側スプラインは、油圧ポンプの入力軸が嵌るように中空形状となっており、そこにスプライン加工が施される。
【0006】
例えば、大型の油圧ポンプなどでは入力軸の径も大きいため、減速機の出力軸のスプラインの径も大きくなる。出力軸には貫通孔が設けられている。この貫通孔は、焼き入れ時、スプラインひずみ防止の目的でオイルを流すためのものである。通常、ブローチ加工によってスプラインが形成されるのであるが、大径のスプラインの場合、スプライン径が貫通孔よりも径が大きくなるため、ブローチ加工ができない。そのような場合、スプラインの歯を1本ずつ加工する必要があり、時間とコストがかかる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、減速機の出力軸に施すスプラインの加工性を向上させた動力取出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0009】
本適用例に係る動力取出装置は、ケーシング内に装備され、駆動源の動力取出軸から出力された駆動トルクが入力される減速機入力軸及び前記減速機入力軸の入力ギヤと出力ギヤとが噛合して駆動トルクを出力する減速機出力軸を備えた動力伝達ギヤ機構と、前記減速機出力軸から出力された駆動トルクが入力軸に入力され、作業機器の駆動油圧を発生する油圧ポンプと、を備える動力取出装置であって、前記減速機出力軸の軸部に貫通孔が設けられ、前記貫通孔のスプライン形成部に前記油圧ポンプの入力軸の雄側スプライン部とスプライン嵌合する雌側スプライン部が設けられ、前記貫通孔の前記スプライン形成部と反対側にある軸部材配置部に前記貫通孔を塞ぐ軸部材が設けられ、前記軸部材配置部は前記スプライン形成部に比較して同径又は大径であることを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、軸部材配置部がスプライン形成部に比較して同径又は大径であるため、減速機出力軸のスプライン形成部にブローチ加工により雌側スプライン部を形成する工程(加工工程)において、減速機出力軸の貫通孔においてスプライン形成部から軸部材配置部までブローチングツールを挿通させることができる。すると、減速機出力軸の貫通孔にブローチングツールを挿通させるだけで、スプライン形成部に雌側スプライン部を形成することができるため、動力取出装置の大量生産を促進することができる。
【0011】
また、本適用例によれば、減速機出力軸においてスプライン形成部から軸部材配置部まで貫通孔が設けられているため、上記加工工程により得られた減速機出力軸を焼き入れる工程(焼入工程)の直前に実施するオイル供給工程において、減速機出力軸の貫通孔に供給したオイルを円滑に貫通孔から排出することができる。これにより、オイル排出用の追加の部材及び加工等が不要となり、動力取出装置の大量生産を促進することができる。なお、オイル供給工程は、上記焼入工程における雌側スプライン部のひずみを抑制するための工程である。
【0012】
さらに、本適用例によれば、軸部材配置部における貫通孔を塞ぐ部材が軸部材であるため、上記焼入工程の実施後における圧入工程において、減速機出力軸の貫通孔に対して軸部材配置部からスプライン形成部に向けて軸部材を圧入することができる。これにより、簡易な方法によって軸部材を減速機出力軸に嵌合させることができるため、動力取出装置の大量生産を促進することができる。
【0013】
以上のように、本発明によれば、減速機の出力軸に施すスプラインの加工性を向上させた動力取出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る動力取出装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る動力取出装置の一実施形態における減速機を示す平面図である。
【
図3】
図2に示す減速機の減速機出力軸を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(動力取出装置の構成)
次に、本発明に係る動力取出装置の一実施形態について
図1~
図3を参照しつつ説明する。
図1に示すように、動力取出装置1は、トラックに設けられるPTO(Power Take Off)であり、減速機10と、油圧ポンプ20とを備えている。減速機10は、ケーシング11と、減速機入力軸12と、減速機出力軸13と、入力軸ベアリング14(14A、14B)と、出力軸ベアリング15(15A、15B)と、軸部材16とを備えている。減速機入力軸12と減速機出力軸13とにより動力伝達ギヤ機構が構成されている。減速機入力軸12は、軸部12aと、入力ギヤ12bとを備えている。減速機出力軸13は、軸部13aと、出力ギヤ13bとを備えている。油圧ポンプ20は、基部21と、入力軸22とを備えている。なお、
図1に示す減速機10は、
図2のA-A線断面を示している。
【0016】
図1に示すように、軸部12aは、駆動源であるモータM1の動力取出軸M2から動力F(駆動トルク)が伝達される回転部材である。動力取出軸M2から軸部12aへの動力伝達機構としては、例えば、雌側スプライン部が形成された入力ギヤ(図示せず)が軸部12aに設けられ、動力取出軸M2の雄側スプライン部が当該雌側スプライン部に嵌合しており、動力取出軸M2の雄側スプライン部から当該雌側スプライン部を介して軸部12aへ動力Fが伝達される機構が挙げられる。
【0017】
軸部12aには、軸部12aと一体で回転可能な入力ギヤ12bが固定されている。入力ギヤ12bは、減速機出力軸13の出力ギヤ13bと噛合している。出力ギヤ13bは、軸部13aと一体で回転可能なように軸部13aに固定されている。
図3に示すように、軸部13aには、その軸方向に延びている貫通孔Hが形成されている。油圧ポンプ20の入力軸22は、貫通孔Hのスプライン形成部H1に挿入されて嵌合されている。スプライン形成部H1の内表面には雌側スプライン部が形成されており、入力軸22の外表面には雄側スプライン部が形成されている。このようにして、動力取出軸M2から入力軸22への動力伝達機構が構成されている。
【0018】
図3に示すように、貫通孔Hのスプライン形成部H1は、軸部13aの軸方向一端側(油圧ポンプ20が設けられた側)において形成されている。スプライン形成部H1は、軸部13aの貫通孔Hにおける内表面においてインナースプラインが形成されている箇所である。軸部材配置部H2は、軸部13aの他端側において形成されており、スプライン形成部H1における最大径よりも大径になっている。軸部材配置部H2には、軸部13aの他端側から軸部材16が圧入されて嵌合されている。
【0019】
図1に示すように、軸部13aの軸方向において、軸部材16の2つの先端部は、軸部13aの径方向中心においてそれぞれ軸部材16の中心に向かって凹んでいる。また、軸部13aの軸方向における軸部材16の先端部一方側(油圧ポンプ20が設けられた側)は、軸部13aの径方向端部において、軸部13aの径方向から軸部13aの先端部他方側(油圧ポンプが設けられていない側)に向かって傾斜している(つまり、角部が面取りされている)。
【0020】
軸部材16は、軸部13aの軸方向において、少なくとも出力ギヤ13bの取付箇所(軸部13aと出力ギヤ13bの接続部分)まで挿入されている。具体的には、軸部13aの軸方向における軸部材16の先端部一方側(油圧ポンプ20が設けられた側)は、軸部13aの径方向において出力ギヤ13bと同一直線上に位置しており、軸部13aの軸方向において軸部13aの内壁と当接している。これにより、軸部材配置部H2は中実になっている。
【0021】
図1に示すように、入力軸ベアリング14(14A、14B)は、ボールベアリングであり、軸部12aの軸方向において入力ギヤ12bを挟み込むように配置されて軸部12aを回転自在に支持している。出力軸ベアリング15(15A、15B)は、ボールベアリングであり、軸部13aの軸方向において出力ギヤ13bを挟み込むように配置されて軸部13aを回転自在に支持している。
【0022】
油圧ポンプ20は、作業機器の駆動油圧を発生させるためのものである。作業機器としては、例えば、トラックの荷台もしくはクレーン、または、ミキサー車のドラム等が挙げられる。
【0023】
(動力取出装置の動作)
動力取出装置1の動作について説明する。モータM1の回転によって動力取出軸M2が回転すると、動力取出軸M2からの動力Fが軸部12aに伝達される。これにより、軸部12aが回転し、これと一体となって入力ギヤ12bも回転する。すると、入力ギヤ12bと噛合している出力ギヤ13bが回転し、出力ギヤ13bが固定されている軸部13aが回転する。それゆえ、軸部13aのスプライン形成部H1に嵌合されている入力軸22が回転し、入力軸22から基部21に動力が伝達される。
【0024】
(動力取出装置の効果)
動力取出装置1によれば、軸部材配置部H2がスプライン形成部H1に比較して大径であるため、軸部13aのスプライン形成部H1にブローチ加工により雌側スプライン部を形成する工程(加工工程)において、軸部13aの貫通孔Hにおいてスプライン形成部H1から軸部材配置部H2までブローチングツールを挿通させることができる。すると、軸部13aの貫通孔Hにブローチングツールを挿通させるだけで、スプライン形成部H1に雌側スプライン部を形成することができる。よって、軸部13aに施すスプラインの加工性を向上させることができ、動力取出装置1の大量生産を促進することができる。
【0025】
また、軸部13aにおいてスプライン形成部H1から軸部材配置部H2まで貫通孔Hが設けられているため、上記加工工程により得られた軸部13aを焼き入れる工程(焼入工程)の直前に実施するオイル供給工程において、軸部13aの貫通孔Hに供給したオイルを円滑に貫通孔Hから排出することができる。これにより、オイル排出用の追加の部材及び加工等が不要となり、動力取出装置1の大量生産を促進することができる。なお、オイル供給工程は、上記焼入工程における雌側スプライン部のひずみを抑制するための工程である。
【0026】
さらに、軸部材配置部H2における貫通孔Hを塞ぐ部材が軸部材16であるため、上記焼入工程の実施後における圧入工程において、軸部13aの貫通孔Hに対して軸部材配置部H2からスプライン形成部H1に向けて軸部材16を圧入することができる。これにより、簡易な方法によって軸部材16を軸部13aに嵌合させることができるため、動力取出装置1の大量生産を促進することができる。
【0027】
動力取出装置1によれば、軸部材16が軸部13aの軸方向において少なくとも出力ギヤ13bの取付箇所まで挿入されている。これにより、出力ギヤ13bから軸部13aに対して軸部13aの径方向に応力が加わっても、この応力を軸部材16にて受けることができるため、軸部13aの曲折等の不具合を抑制することができる。
【0028】
動力取出装置1によれば、軸部13aの軸方向における軸部材16の先端部一方側(油圧ポンプ20が設けられた側)は、軸部13aの径方向端部において、軸部13aの径方向から軸部13aの先端部他方側(油圧ポンプが設けられていない側)に向かって傾斜している。これにより、出力ギヤ13bから軸部13aを介して油圧ポンプ20の入力軸22へ動力が伝達される機構において、軸部材16の一方側の先端部周縁と軸部13aとの間の応力集中を極力回避することができ、より確実に軸部13aの不具合を抑制することができる。
【0029】
(その他)
以上で本発明に係る動力取出装置の一実施形態についての説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限定されるものではない。
【0030】
上記実施形態においては、軸部材配置部H2をスプライン形成部H1の最大径よりも大径にしているが、上記の効果を生じさせるためには、軸部材配置部H2をスプライン形成部H1の最小径と同径以上にすればよい。つまり、軸部材配置部H2を、スプライン形成部H1の最小径又は最大径と同径にしたり、スプライン形成部H1の最小径よりも大径にしたりすれば、上記の効果が生じる。
【0031】
上記実施形態においては、入力ギヤ12bと出力ギヤ13bとを直接噛合させているが、別のギヤを介して間接的に噛合させることもできる。また、上記実施形態においては、入力軸ベアリング14(14A、14B)及び出力軸ベアリング15(15A、15B)がそれぞれボールベアリングであるが、ボールベアリングに代えてローラベアリングを使用することもできる。
【0032】
上記実施形態においては、動力取出装置1がPTOであるが、動力取出装置1はPTO以外の動力伝達機構(例えばトランスミッション)であってもよい。この場合、トランスミッションのギヤと入力ギヤ12bとを噛合させたり、入力ギヤ12bをトランスミッションのギヤとして用いたりすることにより、少ない部品点数でエンジン(例えばディーゼルエンジン)の動力を油圧ポンプ20まで伝達することができる。
【0033】
上記実施形態においては、油圧ポンプ20の入力軸22を軸部13aに直接嵌合させているが、軸部13aに別の軸部材を嵌合させ、この軸部材からの動力(駆動トルク)を油圧ポンプ20の入力軸22に伝達させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 動力取出装置
10 減速機
11 ケーシング
12 減速機入力軸
12a 軸部
12b 入力ギヤ
13 減速機出力軸
13a 軸部
13b 出力ギヤ
14(14A、14B) 入力軸ベアリング
15(15A、15B) 出力軸ベアリング
16 軸部材
20 油圧ポンプ
21 基部
22 入力軸
F 動力
H 貫通孔
H1 スプライン形成部
H2 軸部材配置部
M1 モータ(駆動源)
M2 動力取出軸