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  • 特開-医療用吸引具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060995
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】医療用吸引具
(51)【国際特許分類】
   A61M 27/00 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
A61M27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168624
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】500004069
【氏名又は名称】アイオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】大薮 孝明
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA03
4C267BB02
4C267BB11
4C267BB12
4C267GG46
4C267JJ20
(57)【要約】
【課題】吸引管に対する着脱を容易に行うとともに、吸引作業中の脱落を防止することができ、且つ多孔質体を介して除去対象を吸引管内へ吸引することが可能な医療用吸引具の提供。
【課題手段】医療用吸引具1は、通気開口8と管挿入開口9とを一端部と他端部とに有する筒状のチューブ2と、連通構造を有し、少なくとも湿潤状態で柔軟な多孔質体3と、を備える。多孔質体3は、チューブ2の一端部に固定されて通気開口8を塞ぐ。医療用吸引具1は、チューブ2の管挿入開口9に吸引管4の先端部を挿入することにより、吸引管4の先端部に着脱可能に取り付けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気開口と管挿入開口とを一端部と他端部とに有する筒状のチューブと、
連通構造を有し、少なくとも湿潤状態で柔軟な多孔質体と、を備え、
前記多孔質体は、前記チューブの前記一端部に固定されて前記通気開口を塞ぎ、
前記チューブの前記管挿入開口に吸引管の先端部を挿入することにより、前記吸引管の前記先端部に着脱可能に取り付けられる医療用吸引具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用吸引具であって、
前記多孔質体の気孔径は、60μm以上660μm以下である医療用吸引具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の医療用吸引具であって、
前記多孔質体の気孔率は、89%以上97%以下である医療用吸引具。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の医療用吸引具であって、
前記多孔質体は、ポリウレタン樹脂またはポリビニルアセタール樹脂によって構成されている医療用吸引具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の吸引管に装着して使用される医療用吸引具に関する。
【背景技術】
【0002】
手術中において、出血した血液の他、浸出液、分泌液、洗浄液などの液体や、組織片、骨粉などの固体が手術対象の生体組織を覆うと、術野を確保することができなくなる。手術を安全かつ患者負担を少なく行うためには、術野を遮る液体や固体(以下、除去対象と称する)によって手術の進行が妨げられないように、除去対象を迅速に除去して術野を確保する必要がある。
【0003】
近年は、開胸、開腹手術から可能なものは内視鏡外科手術に置き換わってきているが、これら内視鏡を使用しない術式が依然として必要であることは明らかである。内視鏡を使用しない術式は相対的に出血量が多くなることが想定されるため、術野の確保がより重要となる。
【0004】
術野から除去対象を除去する方法として、脱脂綿やガーゼ、スポンジなどの吸液材を術野に投入し、吸液材によって除去対象を吸液する方法や、吸引管によって除去対象を吸引して除去する方法が従来から知られている。
【0005】
吸液材で除去対象を吸液する方法では、吸液時は吸液材自体により術野が一時的に遮られるため、その間は手術を止めなければならない。また、吸液能力が無くなった場合は、吸液済みの吸液材を新たな吸液材に交換して使用する必要がある。術式によっては相当数の吸液材が使用されることもあり、出血量の確認ために行う吸液材の計数作業が看護師の負担となる。
【0006】
一方、吸引管で除去対象を吸引して除去する方法は、吸液材で吸液する方法に比べて手術の進行を中断させる要因が少なく、進行を止めたくない手術に有効である。
【0007】
また、吸引管を用いて除去対象を除去する方法において、吸引管の先端面の開口に多孔質体を差し込み、吸引管の先端部に多孔質体を保持する構成や、多孔質体に形成した穴に吸引管の先端部を差し込み、吸引管の先端部に多孔質体を保持する構成が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1-138449号公報
【特許文献2】実開平5-88552号公報
【特許文献3】実開平7-22743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸引管の先端面の開口に多孔質体を差し込むことにより、または多孔質体に形成した穴に吸引管の先端部を差し込むことにより、吸引管の先端部に多孔質体を保持する構成では、多孔質体を介して除去対象を吸引管内へ吸引するので、除去対象に比較的大形の固形物質(例えば凝固した血液や組織片など)が含まれている場合であっても、吸引管内へ到達する前に大形の固形物質を多孔質体で捕捉することが可能となる。このため、大形の固形物質が吸引管内へ入り込んで詰まり、吸引管を閉塞して吸引不能となる事態を未然に回避することができ、進行を止めたくない手術にさらに有効である。
【0010】
上記のような吸引管の先端面の開口に多孔質体を差し込む構成や、多孔質体に形成した穴に吸引管の先端部を差し込む構成では、多孔質体と吸引管とが面接触し、吸引管による多孔質体の保持力は、吸引管と多孔質体との静摩擦力に依存する。
【0011】
しかし、多孔質体の表面には必ず気孔が存在し、吸引管と多孔質体との接触面積は気孔によって減少する。このため、十分な静摩擦力が得られず、吸引作業中に多孔質体が吸引管から脱落するおそれがある。多孔質体の脱落は、手術の進行の中断を招く。
【0012】
そこで本発明は、多孔質体を介して除去対象を吸引管内へ吸引することができ、吸引管に対する着脱が容易で、且つ吸引作業中に脱落し難い医療用吸引具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明の医療用吸引具は、通気開口と管挿入開口とを一端部と他端部とに有する筒状のチューブと、連通構造を有し、少なくとも湿潤状態で柔軟な多孔質体と、を備える。多孔質体は、チューブの一端部に固定されて通気開口を塞ぐ。医療用吸引具は、チューブの管挿入開口に吸引管の先端部を挿入することにより、吸引管の先端部に着脱可能に取り付けられる。
【0014】
多孔質体の気孔径は、60μm以上660μm以下が好適であり、130μm以上300μm以下がさらに好適である。多孔質体の気孔率は、89%以上97%以下が好適である。また、多孔質体は、ポリウレタン樹脂またはポリビニルアセタール樹脂によって構成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の医療用吸引具によれば、吸引管に対する着脱を容易に行うとともに、吸引作業中の脱落を防止することができ、且つ多孔質体を介して除去対象を吸引管内へ吸引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る医療用吸引具の斜視図である。
図2】医療用吸引具を吸引管に装着した状態の側断面図である。
図3】医療用吸引具を吸引管に装着した状態の軸直交方向の断面図であり、(a)は図2のIIIa-IIIa断面を、(b)は図2のIIIb-IIIb断面をそれぞれ示す。
図4】多孔質体の変形例を示す斜視図であり、(a)はチューブ保持穴が開口しない端面が半球面状に湾曲する例を、(b)は四角柱形状の例をそれぞれ示す。
図5】実施例と比較例の気孔径、気孔率および吸引試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る医療用吸引具を、図面に基づいて説明する。以下の説明において、軸方向とはチューブ2の中心軸に沿う方向を意味し、径方向とはチューブ2の中心軸に直交する方向を意味する。また、多孔質体3の各方向は、多孔質体3をチューブ2に固定した状態での方向を意味する。
【0018】
図1図3に示すように、医療用吸引具(以下、吸引具と略称する)1は、チューブ2と多孔質体3とを備え、医療用の吸引管4の先端部に着脱可能に取り付けられる。吸引管4および吸引具1は、主に内視鏡を使用しない術式の手術中において、手術対象の生体組織を覆う出血した血液、浸出液、分泌液、洗浄液などの液体や、組織片、骨粉などの固体(以下、これらの液体および個体を除去対象と称する)を吸引除去するために使用される。吸引具1は、手術対象の生体組織やその周辺を傷つけないように、愛護的であることが好ましい。
【0019】
吸引管4は、金属や硬質樹脂等によって形成された細長い円管形状であり、内側に流通路5を区画する。吸引管4の先端部には、端面吸引開口6と2箇所の周面吸引開口7とが設けられている。2箇所の周面吸引開口7は、吸引管4の周方向に180度ずれて配置されて互いに対向する。吸引管4の基端側は吸引器(図示省略)に接続され、吸引器によって流通路5内の空気が軸方向に沿って吸引される(吸引方向を図2中に矢印20で示す)。なお、周面吸引開口7は必ずしも設けられていなくてもよい。また、周面吸引開口7が設けられている場合、その数は2箇所に限定されず任意(1箇所または3箇所以上)である。
【0020】
チューブ2は、両端面が開口する円筒形状であり、可撓性を有する素材(例えば軟質樹脂)によって形成される。チューブ2の一端部側の端面開口は通気開口8を構成し、他端部側の端面開口は管挿入開口9を構成する。チューブ2の内径は、吸引管4の先端部の外径よりも僅かに大きく設定され、吸引管4の先端部は、管挿入開口9からチューブ2内に挿入される。チューブ2の形状は円筒形状に限定されず、吸引管4の先端部の外形に合わせた筒形状に設定すればよい。例えば、吸引管4の先端部の外形が矩形状の場合には、矩形筒形状のチューブを用いればよい。
【0021】
チューブ2は、医療用に適した素材で形成することが好ましく、必要に応じて滅菌される。このため、オートクレーブ滅菌、ガス滅菌(EOG滅菌)、放射線滅菌などのそれぞれの滅菌方法に適した素材で形成することが好ましい。また、より愛護的には軟質な素材が好ましい。チューブ2を軟質な素材で形成することにより、硬質な素材で形成する場合に比べて吸引管4への接続(着脱)を容易に行うことができる。
【0022】
多孔質体3は、断面円形で有底のチューブ保持穴10を備える円柱形状であり、気孔が三次元に連続する連通構造を有する。多孔質体3は、少なくとも湿潤状態で柔軟な多孔質素材によって形成される。多孔質素材は、湿潤状態および乾燥状態の双方で柔軟であってもよく、乾燥状態で硬化してもよい。
【0023】
多孔質体3は、必要に応じて滅菌される。このため、オートクレーブ滅菌、ガス滅菌(EOG滅菌)、放射線滅菌などのそれぞれの滅菌方法に適した多孔質素材で形成することが好ましい。
【0024】
多孔質体3の一端面は、円形状平面であり、チューブ保持穴10は、多孔質体3と同軸に配置されて多孔質体3の他端面から凹む。チューブ保持穴10の内径は、チューブ2の外径と略同じ、またはそれよりも僅かに小さく設定され、チューブ保持穴10の深さ(軸方向の長さ)は、チューブ2の全長(軸方向の長さ)よりも短く設定されている。本実施形態では、多孔質体3の全長(軸方向の長さ)とチューブ2の全長とが略同じに設定され、チューブ保持穴10の深さは、多孔質体3の全長の1/2程度(チューブ2の全長の1/2程度)に設定されている。
【0025】
多孔質体3の端面厚さ(多孔質体3の一端面とチューブ保持穴10の底面との間の軸方向の距離)D1は、周面厚さ(チューブ保持穴10の内周面と多孔質体3の外周面との間の径方向の距離)D2よりも厚く(長く)設定されている。また多孔質体3の周面厚さD2は、3mm以上10mm以下に設定されている。
【0026】
チューブ2の一端部は、チューブ保持穴10に進入した状態で多孔質体3に固定され、チューブ2の他端部は、多孔質体3の他端面から外部へ延びて露出する。すなわち、多孔質体3は、チューブ2の一端部に固定されて通気開口8を塞ぎ、チューブ2の内部空間は、通気開口8および多孔質体3の連続気孔を介して外部と連通する。
【0027】
吸引管4の先端部は、端面吸引開口6がチューブ保持穴10の底面に近接又は接触する所定の装着位置に達するまで、管挿入開口9から軸方向に沿ってチューブ2内に挿入される。吸引管4の先端部をチューブ2内の所定の装着位置まで挿入した吸引具装着状態において、吸引管4の端面吸引開口6は多孔質体3のチューブ保持穴10の底面と対向し、2箇所の周面吸引開口7はチューブ2によって閉止される。すなわち、チューブ2の全長は、吸引具装着状態で周面吸引開口7に重なって閉止する長さに設定されている。
【0028】
吸引具装着状態において、吸引器によって吸引管4の流通路5内の空気が吸引されると、吸引具1の外部の空気は、多孔質体3およびチューブ2の通気開口8を介して流通路5に吸引されて流入する。また、チューブ2の内周面は、周面吸引開口7を介して流通路5側に吸引される。
【0029】
なお、多孔質体3の形状は円柱形状に限定されず、チューブ保持穴10が開口しない一端面が半球面状に湾曲する形状(図4(a)参照)や、四角柱形状などの多角柱形状(図4(b)参照)等の他の形状であってもよい。
【0030】
本実施形態では、多孔質体3に形成したチューブ保持穴10にチューブ2を挿入し、接着剤等によってチューブ2と多孔質体3を固着する後加工によって吸引具1を製作する。チューブ保持穴10の形成方法としては、乾燥状態の多孔質体3をドリル等で切削加工する方法や、熱プレスにより一部を圧縮して凹ます方法を用いることができる。熱プレスによる方法では、圧縮によって気孔が潰れ、吸引管4による吸引能力が低下する可能性があるため、切削による方法が好適である。
【0031】
なお、原料等を含む混合液を所定の型内で化学反応させて多孔質体3を形成する場合、型内の混合液中にチューブ2を設置した状態で化学反応させることにより、多孔質体3をチューブ2と一体成型してもよい。
【0032】
一体成型では、通気開口8からチューブ2内に多孔質体3が入り込み、チューブ2に対する吸引管4の先端部の挿入長さは、チューブ2内に入り込んだ多孔質体3によって減少する。吸引管4の挿入長さが減少すると、吸引管4による吸引具1の保持力も低下する。吸引管4の挿入長さを後加工の場合と同等に確保するためには、後加工の場合よりもチューブ2の全長を増大させる必要があり、吸引具1の大型化を招く。このため、吸引具1の大型化の抑制と保持力の確保とを両立させるためには、一体型よりも後加工が好適である。一方、多孔質体3にチューブ保持穴10を形成する工程やチューブ2と多孔質体3を固定する工程を省略して工数の削減を図るためには、後加工よりも一体型が好適である。
【0033】
術野を遮る除去対象(出血した血液、浸出液、分泌液、洗浄液などの液体や、組織片、骨粉などの固体)に多孔質体3を接触させると、毛細管現象による液体の拡散力により、除去対象の液体が多孔質体3へ移動し、多孔質体3に保持される。
【0034】
また、吸引具装着状態の多孔質体3を除去対象に近接または接触させ、吸引器によって吸引すると、除去対象の大部分は、多孔質体3の連続気孔を通過し、通気開口8から吸引管4の流通路5を流通して排出される。除去対象のうち多孔質体3の連続気孔を通過しない大きさの固体(固形物質)は、多孔質体3に捕捉される。
【0035】
多孔質体3の気孔の大きさ(気孔径)は、除去対象のうち吸引管4の詰まりを生じさせる可能性が高い比較的大形の固形物質(例えば凝固した血液や組織片など)よりも小さく、吸引管4を詰まらせる可能性が低い比較的小形の固形物質よりも大きいことが好ましい。吸引管4の詰まりを防止しつつ、多孔質体3の詰まりによる吸引具1の交換頻度を低減させるためである。
【0036】
多孔質体3の気孔率は、吸引器による吸引速度に影響を与える。気孔率が低いと、吸引速度が低下し、除去対象を吸引除去する能力が不足する。一方、気孔率が高すぎると、多孔質体3が安定した形状を成さない。
【0037】
多孔質体3の気孔径および気孔率の好適な範囲は、気孔径が60μm以上660μm以下、気孔率が50%以上97%以下である。吸引管4の詰まりを防止しつつ、多孔質体3の詰まりによる吸引具1の交換頻度を低減させるとともに、実用上必要な吸引速度を確保するためである。さらに好適な範囲は、気孔径が130μm以上、気孔率が89%以上である。多孔質体3の詰まりによる吸引具1の交換頻度を大幅に低減させるとともに、大量吸引時に良好な吸引速度を確保するためである。
【0038】
多孔質体3の気孔径は、毛細管現象による液体の移動(吸液)および保持(保液)に影響を与える。気孔径が300μmよりも大きいと、毛細管現象による液体の拡散力が低下し、吸液力の低下や保液力の低下が生じる。気孔径が660μmよりも大きいと、血管などからわずかにしみ出した少量の液体を継続的に吸液するために、多孔質体3の表面を手術対象の生体組織に押し当てる必要があり、術者の使用感が低下する。また、大きな気孔によって多孔質体3の表面が荒れた面となり、柔軟な多孔質体3によって得られる愛護的な効果が減少する。毛細管現象による吸液力および保液力を確保し、且つ多孔質体3の愛護的な効果を損なわないためには、気孔径は660μm以下が好適であり、300μm以下がさらに好適である。
【0039】
上記気孔径は、多孔質体3の気孔の大きさを示す値であり、得られた気孔径の分布の最頻値としている。例えば水銀圧入式ポロシメーター(Quantachrome製)によって検出される。
上記気孔率は、乾燥機で十分に乾燥された乾燥状態の多孔質体3の真体積を乾式自動密度計にて測定し、多孔質体3の見掛け体積と真体積とから、次式(1)にて算出される値である。
気孔率(%)=(見掛け体積-真体積)/見掛け体積×100・・・(1)
【0040】
多孔質体3を形成する多孔質素材としては、例えばポリウレタン、ポリオレフィン、フッ素樹脂、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン、ポリスチレン系エラストマー、ポリビニルアセタールなどからなる樹脂多孔質素材や、ゼラチン、コラーゲンなどからなる生物由来の多孔質素材を用いることができる。
【0041】
多孔質素材としては、滅菌可能で、且つ吸液性や保液性に優れたものが好ましい。具体的には、ポリビニルアセタール樹脂や、ポリウレタン樹脂が好適である。ポリビニルアセタール樹脂は、乾燥状態で硬化するため、乾燥状態でも柔軟な樹脂(例えばポリウレタン樹脂等)に比べて切削などの加工を容易に行うことができ、且つ湿潤状態では軟化して所望の柔軟性を有することから特に好ましい。ポリビニルアセタール樹脂多孔質素材として、例えばアイオン(株)が販売するPVAスポンジを使用することができる。
【0042】
本実施形態の吸引具1は、吸引管4の先端部をチューブ2内の所定の装着位置まで挿入することにより吸引管4の先端部に取り付けられ(吸引具装着状態)、吸引管4の先端部をチューブ2内から抜くことにより取り外される。従って、吸引管4に対する吸引具1の着脱を容易に行うことができる。
【0043】
多孔質体3は、チューブ2の一端部に固定されて通気開口8を塞ぎ、チューブ2の内部空間は、通気開口8および多孔質体3の連続気孔を介して外部と連通するので、吸引具装着状態において、多孔質体3に除去対象を近接又は接触させて吸引器で吸引することにより、多孔質体3を介して除去対象を吸引管4内へ吸引することができる。また、吸引管4が吸引力調節機能を備えている場合には、その吸引力調節機能を損なうことなく吸引を行うことができる。
【0044】
吸引具装着状態では、多孔質体3ではなくチューブ2の内周面が吸引管4の外周面に面接触するので、十分な静摩擦力によって吸引具1を保持することができ、吸引作業中の吸引具1の脱落を抑制することができる。
【0045】
多孔質体3の端面厚さD1が周面厚さD2よりも長く設定されているので、多孔質体3の一端面とチューブ2の一端面(通気開口8)とが十分に離間する。このため、除去対象を除去するために多孔質体3の一端面を手術対象の生体組織に接触させた際に、多孔質体3の一端部の柔軟性がチューブ2によって損なわれることがなく、愛護的な吸引具1とすることができる。
【0046】
チューブ2の全長のうち略半分の領域が柔軟な多孔質体3に覆われるので、多孔質体3に比べて硬質なチューブ2が生体組織に接触し難く、愛護的な吸引具1とすることができる。
【0047】
チューブ2の内周面が周面吸引開口7を介して吸引管4の流通路5側に吸引されるので、吸引管4によって吸引具1を強固に保持することができ、吸引具1がさらに脱落し難くなる。
【0048】
多孔質体3の周面厚さD2が3mm以上であるので、切削加工によってチューブ保持穴10を形成する場合に、加工を比較的容易に行うことができる。また、周面厚さD2が10mm以下であるので、周面厚さD2の過度な増大による空気の流通抵抗の上昇を抑制して、吸引能力の低下を防止することができる。
【0049】
次に、図5を参照し、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明は記載した実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
多孔質体3として、気孔径60μm、気孔率89%のポリビニルアセタール樹脂多孔質体(以下、PVAtスポンジと称する)を用いた。乾燥状態の多孔質体3を、外径14mm、高さ(全長)22mmの円柱形状に加工し、一方の端面の中心に深さ12mmのチューブ保持穴10を形成した。加工時(乾燥状態)のチューブ保持穴10の内径は、湿潤状態でチューブの外径(8.4mm)と略等しくなるように形成した。形成したチューブ保持穴10に、外径8.4mm、内径6mm、全長24mmのチューブ2を挿入し接着して、吸引具1を作製した。作製した吸引具1を、オートクレーブにて滅菌し、汎用の吸引管4に装着して、吸引試験を行なった。
【0051】
吸引試験では、吸引具1を試験用容器内の試験用液体中に入れ、排気速度12L/minのポンプで試験用液体100mlを吸引し、吸引開始から100ml(試験用容器内の全量)の吸引が完了するまでの時間を吸引時間として計測した。また、吸引完了時に試験用容器の内面(主に底面)に最後まで残った試験用液体に多孔質体3を接触させ、残存する水滴の有無を目視により確認した。
【0052】
試験用液体として、WA♯1500(白色溶融アルミナ)の13%水溶液を使用した。試験用液体中の粒子数を測定したところ、白血球に相当する10~20μmの粒子数は7217600個/mlであり、人の平均白血球数である7000000個/mlと同程度であった。また、8μm以下の粒子数は56383600個/ml、8~9μmの粒子数は39093600個/ml、21~24μmの粒子数は26000個/mlであった。
【0053】
また、試験用容器とは別に洗浄用容器を用意し、試験用液体100mlの吸引が完了する前に多孔質体3が詰まり吸引不能となった場合に、吸引を一時中断し、洗浄用容器中の洗浄用の水によるすすぎを1回実施し、吸引を再開した。1回のすすぎでは、吸引具1(多孔質体3)を洗浄用の水に浸水させ、水中で数秒間撹拌した。すすぎのための中断時間は、吸引時間に含めずに除外した。
【0054】
吸引試験の結果は、吸引途中でPVAtスポンジが詰まり、吸引不能となったため、すすぎを1回実施し、100mlの吸引を完了した。吸引時間は、200secであった。試験用容器の内面に水滴は残存していなかった。
【0055】
(実施例2)
気孔径80μm、気孔率89%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具1を作製した。
【0056】
吸引試験の結果は、吸引途中にPVAtスポンジが詰まり、吸引不能となったため、すすぎを1回実施し、100mlの吸引を完了した。吸引時間は、123secであった。試験用容器の内面に水滴は残存していなかった。
【0057】
(実施例3)
気孔径130μm、気孔率90%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具1を作製した。
【0058】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、90secであった。試験用容器の内面に水滴は残存していなかった。
【0059】
(実施例4)
気孔径200μm、気孔率91%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具1を作製した。
【0060】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、65secであった。試験用容器の内面に水滴は残存していなかった。
【0061】
(実施例5)
気孔径300μm、気孔率91%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具1を作製した。
【0062】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、60secであった。試験用容器の内面に水滴は残存していなかった。
【0063】
(実施例6)
気孔径660μm、気孔率97%のポリウレタン樹脂多孔質体を用いて、実施例1と同様に吸引具1を作製した。オートクレーブによる吸引具1の滅菌は行わなかった。
【0064】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、20secであった。ポリウレタン樹脂多孔質体を押し当てることによって吸引は完了したが、試験用容器の内面には水滴がわずかに残存していた。
【0065】
(比較例1)
気孔径15μm、気孔率87%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具を作製した。
【0066】
吸引試験の結果は、10mlを吸引した時点でつまりが生じて吸引不能となり、すすぎを実施しても吸引不能は解消せず、吸引未完了のまま終了した。
【0067】
(比較例2)
気孔径700μm、気孔率90%のPVAtスポンジを用いて、実施例1と同様に吸引具を作製した。
【0068】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、20secであった。試験用容器の内面には水滴が残存し、PVAtスポンジによって吸液することはできなかった。
【0069】
(比較例3)
気孔径850μm、気孔率98%のポリウレタン樹脂多孔質体を用いて、実施例1と同様に吸引具を作製した。オートクレーブによる吸引具の滅菌は行わなかった。
【0070】
吸引試験の結果は、吸引途中に吸引不能とならずに100mlの吸引を完了した。吸引時間は、20secであった。試験用容器の内面には水滴が残存し、ポリウレタン樹脂多孔質体によって吸液することはできなかった。
【0071】
吸引試験の結果、多孔質体3の気孔径は、60μm~660μmが好適であり、130μm~300μmがさらに好適であることが判った。また、気孔率は、89%~97%が好適であることが判った。
【0072】
なお、本発明は、一例として説明した上述の実施形態、及びその実施例に限定されることはなく、上述の実施形態等以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、医療用の吸引管に装着する医療用吸引具として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1:医療用吸引具
2:チューブ
3:多孔質体
4:吸引管
5:流通路
6:端面吸引開口
7:周面吸引開口
8:通気開口
9:管挿入開口
10:チューブ保持穴
図1
図2
図3
図4
図5