(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061019
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】歯磨き補助装置、歯磨き補助システムおよび歯磨き補助プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20240425BHJP
A61C 17/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G16H10/00
A61C17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168662
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳代
(72)【発明者】
【氏名】石角 篤
(72)【発明者】
【氏名】太田 安里
(72)【発明者】
【氏名】金田 健
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】歯磨きを通じてユーザの血糖を制御するための歯磨き補助装置、歯磨き補助システムおよび歯磨き補助プログラムを提供する。
【解決手段】歯磨き補助装置1は、口腔ケア用品4に由来する歯磨き行動に関するデータ61と血糖に関するデータ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定する血糖変動推定部111と、血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定する行動候補決定部112と、歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する行動候補提示部113と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔ケア用品に由来する歯磨き行動に関するデータと血糖に関するデータとに基づいて、ユーザの血糖変動に関する値を推定する血糖変動推定部と、
前記血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定する行動候補決定部と、
前記歯磨き行動の候補を前記ユーザに提示する行動候補提示部と、
を備える、歯磨き補助装置。
【請求項2】
前記血糖変動推定部は、前記歯磨き行動に関するデータと前記血糖に関するデータとを入力とし、前記血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデルに基づいて、前記ユーザの前記血糖変動に関する値を推定する、請求項1に記載の歯磨き補助装置。
【請求項3】
前記予測モデルは、回帰モデルであり、前記血糖変動に関する値を目的変数とし、前記歯磨き行動に関するデータの各項目を含む項目を説明変数とする、請求項2に記載の歯磨き補助装置。
【請求項4】
前記歯磨き行動に関するデータは、所定の期間内の歯磨き回数、所定の時間帯内の歯磨き回数、所定の期間内の歯磨き実施率、所定の時間帯内の歯磨き実施率、一回当たりの歯磨き時間、所定の期間内の歯磨き時間、所定の期間内の総歯磨き時間、歯磨き時刻、歯磨き時間帯、一回当たりの若しくは所定の期間内の歯磨き動作に関するスコア、口腔ケアツールの使用頻度、および使用する口腔ケアツールの種類、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の項目を含む、請求項1に記載の歯磨き補助装置。
【請求項5】
前記血糖に関するデータは、グルコース由来値、HbA1c由来値、インスリン由来値、およびインスリン抵抗指数(HOMA-R)からなる群から選択される1つ以上の項目を含む、請求項1に記載の歯磨き補助装置。
【請求項6】
歯磨き行動に関する無線信号を送信する口腔ケア用品モジュールと、前記無線信号を受信する請求項1から5のいずれかに記載の歯磨き補助装置と、を備え、
前記口腔ケア用品モジュールは、
ユーザの歯磨き行動に関する物理量を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記物理量を示す無線信号を送信する無線送信部と、
を備え、
前記歯磨き補助装置は、
前記物理量を示す前記無線信号を受信する無線受信部
をさらに備える、歯磨き補助システム。
【請求項7】
前記歯磨き補助装置と通信可能に接続され、前記歯磨き行動に関するデータと前記血糖に関するデータとを入力とし、前記血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデルを学習する学習部を備える歯磨き補助サーバをさらに備える、請求項6に記載の歯磨き補助システム。
【請求項8】
前記ユーザの血糖に関するデータをモニタリングして前記歯磨き補助装置に無線送信する血糖モニタリング装置をさらに備える、請求項6に記載の歯磨き補助システム。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の歯磨き補助装置の各部としてコンピュータを機能させるための歯磨き補助プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが歯磨きを行う際に用いられる歯磨き補助装置、歯磨き補助システムおよび歯磨き補助プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
身体的および精神的に健康な生活を送るためには、口腔機能を維持することが大切である。個人の健康寿命を延ばすためにも、歯磨きを含む日々の口腔ケアを適切に施すことにより、歯を十分に清浄な状態に保つことが歯科医師からも勧められている。歯ブラシを用いて行われる日々の歯磨きを支援する従来の技術としては、例えば下記特許文献1および下記特許文献2に記載の技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-240760号公報
【特許文献2】特表2011-524756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、歯周病と糖尿病との関連性を指摘する報告がなされており、糖尿病を予防する観点においても、日々の口腔ケアを適切に施すことが求められている。口腔ケアにおいては日々の歯磨きが基本であり、歯磨きを通じて、健常者には糖尿病を予防することが、糖尿病患者には日々の血糖を制御し管理することが求められている。
【0005】
本発明は、歯磨きを通じてユーザの血糖を制御するための歯磨き補助装置、歯磨き補助システムおよび歯磨き補助プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
【0007】
(項1)
口腔ケア用品に由来する歯磨き行動に関するデータと血糖に関するデータとに基づいて、ユーザの血糖変動に関する値を推定する血糖変動推定部と、
前記血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定する行動候補決定部と、
前記歯磨き行動の候補を前記ユーザに提示する行動候補提示部と、
を備える、歯磨き補助装置。
(項2)
前記血糖変動推定部は、前記歯磨き行動に関するデータと前記血糖に関するデータとを入力とし、前記血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデルに基づいて、前記ユーザの前記血糖変動に関する値を推定する、項1に記載の歯磨き補助装置。
(項3)
前記予測モデルは、回帰モデルであり、前記血糖変動に関する値を目的変数とし、前記歯磨き行動に関するデータの各項目を含む項目を説明変数とする、項2に記載の歯磨き補助装置。
(項4)
前記歯磨き行動に関するデータは、所定の期間内の歯磨き回数、所定の時間帯内の歯磨き回数、所定の期間内の歯磨き実施率、所定の時間帯内の歯磨き実施率、一回当たりの歯磨き時間、所定の期間内の歯磨き時間、所定の期間内の総歯磨き時間、歯磨き時刻、歯磨き時間帯、一回当たりの若しくは所定の期間内の歯磨き動作に関するスコア、口腔ケアツールの使用頻度、および使用する口腔ケアツールの種類、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の項目を含む、項1から3のいずれか一項に記載の歯磨き補助装置。
(項5)
前記血糖に関するデータは、グルコース由来値、HbA1c由来値、インスリン由来値、およびインスリン抵抗指数(HOMA-R)からなる群から選択される1つ以上の項目を含む、項1から4のいずれか一項に記載の歯磨き補助装置。
(項6)
歯磨き行動に関する無線信号を送信する口腔ケア用品モジュールと、前記無線信号を受信する項1から5のいずれかに記載の歯磨き補助装置と、を備え、
前記口腔ケア用品モジュールは、
ユーザの歯磨き行動に関する物理量を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記物理量を示す無線信号を送信する無線送信部と、
を備え、
前記歯磨き補助装置は、
前記物理量を示す前記無線信号を受信する無線受信部
をさらに備える、歯磨き補助システム。
(項7)
前記歯磨き補助装置と通信可能に接続され、前記歯磨き行動に関するデータと前記血糖に関するデータとを入力とし、前記血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデルを学習する学習部を備える歯磨き補助サーバをさらに備える、項6に記載の歯磨き補助システム。
(項8)
前記ユーザの血糖に関するデータをモニタリングして前記歯磨き補助装置に無線送信する血糖モニタリング装置をさらに備える、項6または7に記載の歯磨き補助システム。
(項9)
項1から5のいずれかに記載の歯磨き補助装置の各部としてコンピュータを機能させるための歯磨き補助プログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、歯磨きを通じてユーザの血糖を制御するための歯磨き補助装置
、歯磨き補助システムおよび歯磨き補助プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムの模式的な構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムの機能を説明するためのブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る血糖モニタリング装置をユーザに装着した状態を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムにおいて歯磨き補助装置が行うデータ処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【
図5】血糖値の時間変動を示すCGMデータを一日の総歯磨き時間毎にプロットしたグラフである。
【
図6】血糖値の時間変動を示すCGMデータを一日の総歯磨き時間毎にプロットしたグラフである。
【
図7】母集団として夕方から夜の時間帯に歯磨きが行われたCGMデータを抽出しプロットしたグラフである。
【
図8】母集団として夕方から夜の時間帯に歯磨きが行われたCGMデータを抽出しプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0011】
[システム構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムの模式的な構成を示す概念図である。
図1を参照して、歯磨き補助システム100の概要について説明する。
【0012】
一実施形態に係る歯磨き補助システム100は、歯磨き補助装置1と、歯磨き補助サーバ2と、歯ブラシ用アタッチメント3と、血糖モニタリング装置5とを備える。
【0013】
歯磨き補助装置1は、歯ブラシ4を用いた歯磨き行動に関する物理量を示す無線信号を、歯ブラシ用アタッチメント3から受信する。歯磨き補助装置1は、受信した無線信号に示されている物理量を、歯磨き時刻や歯磨き時間等の他の関連するデータと共に、歯磨き行動データ61として記録する。同様に、歯磨き補助装置1は、ユーザ9の血糖に関するデータを、測定時刻等の他の関連するデータと共に血糖モニタリング装置5から受信し、血糖データ62として記録する。血糖モニタリング装置5は、ユーザ9の血糖に関するデータを持続的にモニタリングする。
【0014】
歯磨き補助装置1は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定する。推定により得られるユーザ9の血糖変動に関する値は、ユーザ9の血糖値の時間的な変動に関する傾向を表している。例示的には、血糖変動に関する値は、血糖データ62のTIR(Time in Range)指標である。血糖変動は、1点以上の血糖データ62から求められるものを含む。推定時には、歯磨き行動データ61および血糖データ62は1セットあればよい。本実施形態では、血糖変動に関する値の推定に予測モデル63を用いる。例示的には、予測モデル63は回帰モデルである。歯磨き補助装置1は、歯磨き補助サーバ2に予め記録されている予測モデル63を取得し、取得した予測モデル63を用いて、血糖変動に関する値を推定する。歯磨き補助装置1はさらに、血糖変動を制御するための歯磨き行動の候補を決定する。例示的には、歯磨き行動の候補は、歯磨き回数、歯磨き時間、および歯磨き時間帯である。その後、歯磨き補助装置1は、決定した歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する。
【0015】
歯磨き補助サーバ2は、ネットワーク8を介して歯磨き補助装置1と通信可能に接続されており、ユーザ9の歯磨き行動データ61および血糖データ62を歯磨き補助装置1から取得する。歯磨き補助サーバ2には複数の歯磨き補助装置1が通信可能に接続されており、歯磨き補助サーバ2は、異なる複数のユーザ9による歯磨き行動データ61および血糖データ62の複数のセットを、複数の歯磨き補助装置1から取得する。歯磨き補助サーバ2は、これら複数の歯磨き補助装置1から取得された複数のセットのデータ61,62を、予測モデル63を学習するための教師データ64として記録する。歯磨き補助サーバ2は学習部211を備えている。学習部211は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とを入力とし、血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデル63を、教師データ64を用いて学習する。本実施形態では、歯磨き補助装置1は、学習済みの予測モデル63を歯磨き補助サーバ2から取得して、取得した学習済みの予測モデル63に基づいてユーザ9の血糖変動に関する値を推定する。この場合、ユーザ9の歯磨き行動データ61および血糖データ62は1セットがあればよい。歯磨き補助装置1は、ユーザ9に関する少なくとも1点の測定データを用いて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定し、血糖変動を制御するための歯磨き行動の候補を決定し、決定した歯磨き行動の候補をユーザ9に提示することができる。
【0016】
このような歯磨き補助システム100によると、歯磨き補助装置1は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定する。歯磨き補助装置1は、推定した血糖変動に関する値(血糖値の時間的な変動の傾向)に基づいて、血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定し、決定した歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する。これにより、血糖変動を制御するための歯磨き行動の具体的な候補が、例えばタッチパネルディスプレイ15を通じて歯磨き補助装置1のユーザ9に提示され、ユーザ9は、日々の歯磨きを通じて自身の血糖を制御し管理することが可能となる。例えばユーザ9が健常者であれば、日々の歯磨きを通じて糖尿病を予防することが促進され、例えばユーザ9が糖尿病患者であれば、日々の歯磨きを通じて日々の血糖変動を制御し管理することが可能となる。
【0017】
[ハードウェア構成および機能ブロック]
図2は、本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムの機能を説明するためのブロック図である。
【0018】
<歯磨き補助装置>
歯磨き補助装置1は、演算部11と、記録部12と、通信部13と、無線受信部14と、タッチパネルディスプレイ15とを備える。任意の構成として、歯磨き補助装置1は、カメラ16と、スピーカ17とをさらに備えることができる。例示的には、歯磨き補助装置1は、スマートフォンまたはタブレット型のコンピュータで構成することができる。
【0019】
演算部11は、後述するデータ処理を行うためのCPU(図示せず)と、データ処理の作業領域に使用するメモリ(図示せず)とを備えている。
【0020】
記録部12は、オペレーティングシステム(OS)、各種の制御または演算プログラム、および、プログラムによって生成されたデータなどを記憶する不揮発性の記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリやeMMC(embedded Multi Media Card)、SSD(Solid State Drive)等によって構成される。
【0021】
通信部13は、有線または無線のネットワーク8を介して、歯磨き補助サーバ2等の外部機器とデータの送受信を行う。
【0022】
無線受信部14は、歯ブラシ用アタッチメント3の無線送信部32から送信される無線信号と、血糖モニタリング装置5から送信される無線信号とを受信する。
【0023】
タッチパネルディスプレイ15は、表示装置としての機能と入力装置としての機能とが一体化されて構成されている。ユーザ9の歯みがき行動データ61および血糖データ62の一部の項目は、タッチパネル15を介して歯磨き補助装置1に入力することもできる。
【0024】
演算部11は、血糖変動推定部111と、行動候補決定部112と、行動候補提示部113とを備える。演算部11におけるこれらの機能ブロックは、記録部12または演算部11内のメモリにインストールされているプログラムを、演算部11内のCPUが実行することにより実現される。
【0025】
血糖変動推定部111は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、ユーザの血糖変動に関する値を推定する。行動候補決定部112は、血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定する。行動候補提示部113は、歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する。
【0026】
<歯磨き補助サーバ>
歯磨き補助サーバ2は、演算部21と、記録部22と、通信部23とを備える。これら演算部21、記録部22および通信部23は、歯磨き補助装置1の演算部11、記録部12および通信部13と同様のハードウェアの機能を有している。例示的には、歯磨き補助サーバ2はサーバコンピュータで構成することができる。
【0027】
演算部21は、学習部211を備える。演算部21におけるこの機能ブロックは、記録部22または演算部21内のメモリにインストールされているプログラムを、演算部21内のCPUが実行することにより実現される。
【0028】
学習部211は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とを入力とし、血糖変動に関する値の推定値を出力とする予測モデル63を、教師データ64を用いて学習する。
【0029】
<歯ブラシ用アタッチメント>
歯ブラシ用アタッチメント3は、歯ブラシ4に取り付けられており、ユーザ9による歯ブラシ4を用いた歯磨き行動に関する物理量を検出する。歯ブラシ用アタッチメント3は、センサ31と、無線送信部32とを備える。例示的には、これらセンサ31および無線送信部32は、回路ブロックとして実装することができ、電源(図示せず)と共に歯ブラシモジュール39に収容されている。電源は一次電池でもよいし二次電池であってもよい。
【0030】
センサ31は、ユーザ9による歯磨き行動に関する物理量を検出する。例示的には、歯磨き行動に関する物理量は、歯磨き行動に関する加速度であり、センサ31には、加速度を検出する例えば三軸の加速度センサを用いることができる。歯ブラシ用アタッチメント3は歯ブラシ4に取り付けられているので、センサ31は、歯ブラシ4の動きに伴う物理量(加速度)を、ユーザ9による歯ブラシ4を用いた歯磨き行動に関する物理量(加速度)として検出することができる。
【0031】
センサ31は、地球の重力により生じる重力加速度を検出することができる。歯ブラシ用アタッチメント3は歯ブラシ4に取り付けられているので、歯ブラシ4の姿勢変化に応じて歯ブラシ用アタッチメント3の姿勢が変化し、センサ31で検出される重力加速度の方向が変化する。よって、センサ31で検出される重力加速度の方向から、歯ブラシ4の姿勢を検出することができる。以下では説明を簡略化するために、センサ31で検出された重力加速度の方向に基づいて歯ブラシ4の姿勢を検出することを、単に、センサ31で歯ブラシ4の姿勢を検出する、と表現する。
【0032】
なお、センサ31は加速度センサに限らない。センサ31は、歯ブラシ4の回転角や角速度を検出するジャイロセンサ、地磁気を検出する磁気コンパス、ユーザ9の歯に対する歯ブラシ4の押圧力を検出する圧力センサ、距離を計測する距離センサ、位置情報を取得するGPS、音声信号を取得するマイク、あるいは口腔内を撮像するための口腔内カメラ(画像センサ)などのセンサであってもよく、これらのセンサを組み合わせて複数含んでいてもよい。口腔内カメラによると、歯ブラシ4のヘッド部の口腔内における位置を撮像して、撮像した口腔内画像とセンサ31によって検出される種々の物理量とを突き合わせることにより、口腔内において歯ブラシ4が歯のどの部分と当接しているのかを検証し、当接している部分の位置を補正することが可能となる。
【0033】
無線送信部32は、センサ31により検出される物理量を示す無線信号を送信する。例示的には、無線送信部32と、歯磨き補助装置1の無線受信部14との間の無線通信には、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の種々の無線方式を用いることができる。
【0034】
<血糖モニタリング装置>
血糖モニタリング装置5は、ユーザ9の血糖に関するデータをモニタリングし、モニタリングにより取得したデータを歯磨き補助装置1に無線送信する。例示的には、血糖に関するデータは、或る時刻におけるグルコース値である。本実施形態に係る血糖モニタリング装置5は、CGM(continuous glucose monitoring)またはisCGM(intermittently scanned continuous glucose monitoring)を行う装置である。
【0035】
図3は、一実施形態に係る血糖モニタリング装置をユーザに装着した状態を示す図である。
図3に例示するように、血糖モニタリング装置5は、ユーザ9の例えば上腕部に貼り付けられる。例示する血糖モニタリング装置5には、皮下グルコース測定用の針電極(図示せず)と、測定データの記録および非接触近距離無線通信(NFC)用のICチップ(図示せず)と電源(図示せず)とが設けられている。
【0036】
血糖モニタリング装置5による血糖に関するデータの測定は、所定の時間毎(例えば15分毎)に行われる。血糖に関するデータの測定は、ユーザ9が血糖モニタリング装置5を装着している間、継続的に行われ、血糖モニタリング装置5は、ユーザ9の血糖に関するデータの時系列的な変化を日々モニタリングする。モニタリングにより得られるデータは、測定時刻等のデータと共に、血糖モニタリング装置5に内蔵されるICチップに記録される。
【0037】
[データ処理手順]
図4は、本発明の一実施形態に係る歯磨き補助システムにおいて歯磨き補助装置が行うデータ処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【0038】
図4に示すステップS1~S5の処理は、演算部11が備える各機能ブロックにより、すなわち演算部11によりそれぞれ実行される。なお以下の説明では、ステップS1~S5の処理を実行するにあたり、ユーザ9の血糖変動に関する値の推定に用いる予測モデル63は、歯磨き補助サーバ2の学習部211により教師データ64を用いて予め学習されていることとする。
【0039】
まず、歯磨き補助システム100を使用する前の準備として、歯ブラシ用アタッチメント3を歯ブラシ4に装着し、歯ブラシ用アタッチメント3の電源を入れる。また、血糖モニタリング装置5をユーザ9の例えば上腕部に貼り付けて装着する。次に、歯磨き補助装置1にインストールされている歯磨き補助プログラム(アプリ)を起動して、歯磨き補助装置1と、歯ブラシ用アタッチメント3および血糖モニタリング装置5との間でデータ通信が可能な状態に設定する。
【0040】
ステップS1(歯磨き行動データ取得ステップ)では、歯磨き行動に関するデータ(歯磨き行動データ61)を取得する。歯磨き行動データ61は、所定の期間内の歯磨き回数、所定の時間帯内の歯磨き回数、所定の期間内の歯磨き実施率、所定の時間帯内の歯磨き実施率、一回当たりの歯磨き時間、所定の期間内の歯磨き時間、所定の期間内の総歯磨き時間、歯磨き時刻、歯磨き時間帯、一回当たりの若しくは所定の期間内の歯磨き動作に関するスコア、口腔ケアツールの使用頻度、および使用する口腔ケアツールの種類、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の項目を含むことができる。例示的には、所定の期間は一日とすることができる。
【0041】
歯磨き補助装置1は、歯磨き行動に関する物理量を示す無線信号を、歯ブラシ用アタッチメント3から受信する。ユーザ9が歯ブラシ4を用いて歯磨き行動を開始すると、歯ブラシモジュール39に収容されているセンサ31が、ユーザ9による歯磨き行動に関する物理量を検出し、無線送信部32が、検出された物理量を示す無線信号を歯磨き補助装置1に送信する。歯磨き補助装置1は、無線受信部14を介して無線信号を受信する。本実施形態では、歯磨き補助装置1は、ユーザ9が歯磨き行動を開始してから所定の時間の間、歯ブラシ用アタッチメント3から無線信号を受信する。歯磨き補助装置1は、受信した無線信号に示されている物理量を用いて、ブラッシングの位置に関する情報やブラッシングのスコアに関する情報を適宜算出することができる。
【0042】
歯磨き補助装置1は、受信した無線信号に示されている物理量を、歯磨き時刻や歯磨き時間等の他の関連するデータや、算出したブラッシングの位置情報やスコア情報と共に、歯磨き行動データ61として記録する。歯磨き補助装置1が歯ブラシ用アタッチメント3を通じて取得し算出することが可能な、ユーザ9の歯磨き行動データ61の一例を表1に例示する。歯磨き補助装置1は、表1に例示するこれら算出した値をそのまま用いることができるし、算出した値の例えば時間軸方向における変化量、変化率および変化速度等の値を用いることもできる。
【0043】
【0044】
ステップS2(血糖データ取得ステップ)では、血糖に関するデータ(血糖データ62)を取得する。血糖データ62は、グルコース由来値、HbA1c由来値、インスリン由来値、およびインスリン抵抗指数(HOMA-R)からなる群から選択される1つ以上の項目を含むことができる。用語「由来値」については後述する。
【0045】
歯磨き補助装置1は、受信したユーザ9の血糖に関するデータを、測定時刻等の他の関連するデータと共に血糖モニタリング装置5から受信し、血糖データ62として記録する。例示的には、血糖に関するデータは、或る時刻におけるグルコース値であり、例えば15分間隔で測定されている。
【0046】
ステップS3(血糖変動推定ステップ)では、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定する。本実施形態では、血糖変動に関する値は、血糖データ62のTIR(Time in Range)指標であり、この血糖変動に関する値(血糖データ62のTIR指標)の推定に用いる予測モデル63として、回帰モデルを使用する。
【0047】
血糖変動に関するTIR(Time in Range)指標は、持続的にモニタリングされた血糖データ62に基づいて推定することができる。TIR指標は、時間的な血糖変動の傾向を示しており、血糖データが至適範囲からしている程度を示している。すなわちTIR指標は血糖のコントロールを反映している。血糖に関するデータ(血糖データ62)が例えばグルコース値の場合、TIR指標は、持続血糖モニタリングによりグルコース値の時系列的な変化を測定したデータにおいて、間質液グルコース値の目標域を満たす割合を示している。例示的には、グルコース値の目標域は、例えば70~180mg/dLと設定する。グルコース値は、例示する間質液中の値に限らず例えば血清中の値でもよく、その他非侵襲または軽微な侵襲により得られるグルコース値に相当する値であってもよい。糖尿病における合併症の発症や進展を予防するうえでは、グルコース値の絶対値の管理に加えて、グルコースのTIRを最大化できるように、患者毎に血糖を制御し管理することが効果的である。なお、目標域を満たす割合は、例えば時間の割合であれば、目標域を満たす時間と全測定時間との割合とすることができ、例えば測定回数の割合であれば、目標域を満たす測定回数と全測定回数との割合とすることができる。
【0048】
予測モデル63は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、血糖変動に関する値の推定値を予測する。予測モデル63には、例えば、回帰式や対応表を用いることができ、ニューラルネットワーク、決定木、状態遷移モデル等といった回帰式以外の形式で表現される機械学習モデルも用いることができる。
【0049】
予測モデル63として回帰モデルを用いる場合、予測モデル63は、血糖変動に関する値を目的変数とし、すなわち血糖データ62のTIR指標(例えば、グルコースのTIR指標)を目的変数とし、歯磨き行動データ61の各項目(例えば、表1に示す各データ項目)を含む項目を説明変数とする。予測モデル63が血糖データ62のTIR指標(グルコースのTIR指標)を算出するための回帰式は、例えば、
【0050】
【0051】
式中、Yは、血糖データ62のTIR指標(目的変数)であり、X1~X4は因子(説明変数)、a1~a4は偏回帰係数である。因子は、例えば、歯磨き行動データ61の各項目(例えば、表1に示す各データ項目)をスコア化したもの、またはこれら項目を組み合わせた項目をスコア化したものである。因子Xの数(例示した式では4つ)は特に制限されないが、例えば数十とすることができる。
【0052】
例示的には、因子の数nを4とすると、式中のY、X1~X4は次の値を設定することができる。X1~X3は、歯磨き行動データ61の各項目を組み合わせた項目であり、x4は、血糖データ62から得られる項目である。
Y:持続的なグルコース値のモニタリングデータから算出されるTIRの期待変化量
X1:一日当たりの総歯磨き時間の平均値
X2:夜の時間帯における歯磨き時刻が21時以降か否か(True:-1, False:0)
X3:夜の間食の有無(True:2, False:1)
X4:検査時の空腹時血糖値
【0053】
本実施形態では、予測モデル63は、歯磨き補助サーバ2に備えられている学習部211および教師データ64によって予め学習されている。歯磨き補助サーバ1は、学習済みの予測モデル63を、歯磨き補助サーバ2からネットワーク8を通じて取得して使用する。
【0054】
ステップS4(行動候補決定ステップ)では、血糖変動を制御するための歯磨き行動の候補を決定する。例示的には、歯磨き行動の候補は、歯磨き回数、歯磨き時間、および歯磨き時間帯である。
【0055】
歯磨き行動の候補を決定する手順を例示する。まず、ユーザ9の現在の歯磨き行動データ61と血糖データ62とから得られる血糖データ62のTIR指標を算出(以下、値E1と呼ぶ)し記録する。次に、新たな歯磨き行動案を生成し、その新たな歯磨き行動案により得られる、血糖データ62のTIR指標を算出(以下、値E2と呼ぶ)し記録する。新たな歯磨き行動案の生成とは、例えば上記した回帰式において、因子xiの新たな組み合わせを生成することに対応する。引き続き、さらに新たな歯磨き行動案を生成し、そのさらに新たな歯磨き行動案により得られる、血糖データ62のTIR指標を算出(以下、値E3と呼ぶ)し記録する。以後、新たな歯磨き行動案の生成と、対応する血糖データ62のTIR指標の算出(以下、値Exと呼ぶ)および記録とを、所定の回数繰り返す。これにより、歯磨き行動案の内容が異なっている、血糖データ62のTIR指標の値E1~Exを得る。これら算出したx個の値E1~Exのうち、例えば最も値が高くなる値に対応する歯磨き行動案の組み合わせを、血糖変動を制御する(好ましくは、抑制する)ための歯磨き行動の候補のうち、最も効果的な歯磨き行動の候補であると決定する。
【0056】
ステップS5(行動候補提示ステップ)では、決定した歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する。歯磨き補助装置1は、例えばタッチパネルディスプレイ15に、ステップS4において決定した最も効果的な歯磨き行動の候補として、「夜の間食は控えめに」、「夕方から夜の時間帯に3分以上の歯磨きをおすすめします」等といった、血糖変動を制御するための具体的な歯磨き行動をユーザ9に促すためのメッセージを表示する。
【0057】
以上、一実施形態に係る歯磨き補助システム100によると、歯磨き補助装置1は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定する。歯磨き補助装置1は、推定した血糖変動に関する値(血糖値の時間的な変動の傾向)に基づいて、血糖変動を制御する歯磨き行動の候補を決定し、決定した歯磨き行動の候補をユーザ9に提示する。これにより、血糖変動を制御するための歯磨き行動の具体的な候補が、例えばタッチパネルディスプレイ15を通じて歯磨き補助装置1のユーザ9に提示され、ユーザ9は、日々の歯磨きを通じて自身の血糖を制御し管理することが可能となる。例えばユーザ9が健常者であれば、日々の歯磨きを通じて糖尿病を予防することが促進され、例えばユーザ9が糖尿病患者であれば、日々の歯磨きを通じて日々の血糖を制御し管理することが可能となる。
【0058】
糖尿病の患者やその境界域にある人(以下、患者等と呼ぶ)には、至適血糖範囲からののリスクがあるところ、一実施形態に係る歯磨き補助システム100によると、侵襲性のある経時的な血糖モニタリングや服薬に頼ることなく、患者等の生活習慣を通じて上記リスクを制御できることが可能となる。特に、食事や運動などの従前の対策では行動のハードルが高く、生活習慣の改善を十分に実施できない患者等がいるところ、一実施形態に係る歯磨き補助システム100によると、患者等の単回以上の血糖関連データをもとに、効果的な口腔清掃の実施を患者等に促すことにより、患者等の口腔内を正常にする歯みがき行動を通じて、至適血糖範囲からのを緩和することが可能となる。
【0059】
[その他の実施形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。以下において説明するその他の実施形態に係る歯磨き補助システムの構成は、特に言及しない限り、上記した実施形態に係る歯磨き補助システムと同様であるので、重複する説明は省略する。
【0060】
上記した実施形態では、血糖変動に関する値の推定に予測モデル63を用いているが、ユーザ9の血糖変動に関する値は、予測モデル63を用いずに推定することもできる。例えば表2に示す対応表を予め作成しておき、対応表を参照して、ユーザ9の歯磨き行動データ61内に含まれている歯磨き時間と、ユーザ9の血糖データ62内に含まれている空腹時血糖値とを入力として、ユーザ9の血糖変動に関する値(グルコース値のTIR指標)の推定値を得ることができる。
【0061】
【0062】
上記した実施形態では、ユーザの血糖変動に関する値を、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて推定しているが、ユーザの血糖変動に関する値は、さらに、ユーザ9の日々の習慣に関するデータにさらに基づいて、推定することができる。日々の習慣に関するデータとは、食事習慣(食事内容、摂取カロリー、栄養成分、食事時間、間食の有無、ながら食べの有無)、運動習慣、活動量(歩数など)、睡眠習慣(起床・就寝時刻、睡眠の質など)、アルコール摂取習慣、喫煙習慣などに関するデータである。さらに、ユーザの血糖変動に関する値は、ユーザ9の口腔状態に関するデータにさらに基づいて、推定することができる。口腔状態に関するデータとは、歯列情報(現在歯数、機能歯数、かみ合わせ、補綴物の数・種類、叢生の有無、インプラントの有無など)、口腔情報(歯周病・う蝕の罹患状態、知覚過敏、歯肉退縮、歯垢の量など)に関するデータである。例示する以外にも、ユーザの血糖変動に関する値は、さらに、ユーザ9の年齢、性別、脂質代謝関連(HDL-C、総コレステロール、トリグリセリドなど)、腎臓機能関連(尿酸など)、肝機能関連(γ-GTP、AST、ALTなど)、炎症関連(CRP(C反応性タンパク)、IL-6、IL1-β、TNF-αなど)、体重、BMI、インスリン治療の情報、服薬情報(血糖降下薬など)、糖尿病の分類(1型、2型など)、家族歴、遺伝情報、スケーリング・ルートプレーニング(歯と歯茎の間など、セルフケアでは清掃が難しい部位の歯垢や歯石の除去)の有無、歯周病治療の有無、ストレス状態、血圧などにさらに基づいて、推定することができる。これらユーザ9の日々の習慣に関するデータや、ユーザ9の口腔状態に関するデータ、ユーザ9の年齢、性別等の上記例示したデータは、例えばタッチパネルディスプレイ15やカメラ16、別途設けられる任意のセンサ等を介して、歯磨き補助装置1に入力することができる。別途設けるセンサの種類としては、例えば、フォトセンサ(口腔内細菌や口腔内物質を測定する)や、う蝕リスクなど唾液の質を測定するPHセンサ、糖度センサ、および超音波測定装置などが挙げられる。
【0063】
上記した実施形態では、ユーザ9の血糖変動に関する値として、グルコース値のTIR指標を推定しているが、血糖に関するデータはグルコース値に制限されないし、変動の傾向を示す指標もTIR指標に制限されない。血糖に関するデータは、例示するグルコース値以外にも、例えばHbA1c値、インスリン値、およびインスリン抵抗指数(HOMA-R)を用いることができる。推定に使用する値はこれら測定値自体であってもよいし、これら測定値の変化量や変化率、変化速度を推定に使用してもよいし、これら測定値に基づいて算出される値であっても良い。例えばグルコース値に基づいて算出される値としては、例えばスマートウォッチに搭載されたグルコースセンサを用いて、非侵襲的な測定で得られる検出値が考えられ、グルコース値とこのような検出値とを含めて、本明細書においてグルコース由来値またはグルコース関連値と呼ぶことができる。HbA1c値およびインスリン値についても同様に、これら値に基づいて算出される値を含めて、本明細書ではHbA1c由来値、インスリン由来値と呼ぶことができる。変動の傾向を示す指標には、TIR指標に代えて、例えば所定の比較基準値との差(例えば、測定値と70mg/dLとの差)、最大値、最小値、ピークの勾配の大きさなどの値を使用することができる。これ以外にも、例えば変動係数や標準偏差などの一般的な統計量や、例えば血糖データ特有の統計量や、特定の基準(例えば70mg~180mg/dL)を超える範囲における積分値を、TIRに代えて、変動の傾向を示す指標に用いることができる。上記例示する血糖データ特有の統計量は、例えば次の3つを含むことができる。
・TAR(Time above Range):高血糖(例えば180mg/dL以上)を範囲とする割合※
・TBR(Time below Range):低血糖(例えば70mg/dL未満)を範囲とする割合※
・平均血糖変動幅MAGE (mean amplitude of glycemic excursions):標準偏差SD(Standard Deviation)を超える血糖変動をピックアップし、その平均を求めた指標
【0064】
変動の傾向を示すTIR指標を算出する際の血糖に関するデータの種類と、血糖モニタリング装置5から入力される血糖データの種類とは異なっていてもよい。例えば、TIR指標を算出する際の血糖データをグルコース値とし、血糖モニタリング装置5から入力される血糖データをインスリン値とすることができる。
【0065】
上記した実施形態では、教師データ64は、異なる複数のユーザ9から取得される歯磨き行動データ61および血糖データ62に基づいているが、教師データ64は、ユーザ9自身の過去の歯磨き行動データ61および血糖データ62に基づいて作成してもよい。この場合、予測モデル63は自己回帰モデルとなり、歯磨き補助装置1は、歯磨き補助サーバ2にて実現されている学習部211を備えるスタンドアローン型の態様となる。あるいは、教師データ64は、異なる複数のユーザ9から取得される歯磨き行動データ61および血糖データ62と、ユーザ9自身の過去の歯磨き行動データ61および血糖データ62とを組み合わせたデータ61,62に基づいて作成してもよい。この場合、例えば歯磨き補助サーバ2は、ユーザ9自身の過去の歯磨き行動データ61および血糖データ62を用いて教師データ64を更新し、更新した教師データ64に基づいて予測モデル63を追加学習してもよい。
【0066】
上記した各実施形態では、歯ブラシ4と歯ブラシ用アタッチメント3とは別々に構成されているが、これらは一体化して構成することができる。この場合、歯ブラシ4には電動歯ブラシを用いることもできる。歯ブラシ4は電動歯ブラシの交換用ブラシであってもよい。また、アタッチメント3は歯ブラシ用に制限されず、ユーザ9の歯磨き行動を検知することができるセンサを有する機器であればよい。このようなセンサを有する機器としては、例えば歯ブラシ4を持ったユーザ9の手首に装着される腕時計型のウェアラブルデバイスや、歯ブラシ4を持ったユーザ9の姿を映すスマートミラー等の種々のIoT機器を用いることができる。アタッチメント3に取り付けるものも歯ブラシ4に制限されず、例えば歯間ブラシやデンタルフロス等の口腔ケア用品であればよい。すなわち、上記した実施形態に示した歯ブラシ用アタッチメント3および歯ブラシモジュール39はそれぞれ、口腔ケア用品用アタッチメントおよび口腔ケア用品モジュールと呼ぶことができる。
【0067】
上記した実施形態では、血糖モニタリング装置5は、CGMまたはisCGMを行う装置であり、血糖データ62としてユーザ9のグルコース値を測定しているが、血糖モニタリング装置5が測定する血糖データ62はグルコース値に制限されない。例えば血糖モニタリング装置5として、ユーザ9の手首に装着される腕時計型のウェアラブルデバイスを用いると、ウェアラブルデバイスは、ユーザ9の例えば手首の静脈付近の位置から、血糖データ62としてユーザ9のグルコース値に相当する値(すなわち、グルコース由来値またはグルコース関連値)を測定することができる。
【0068】
上記した各実施形態では、歯磨き補助装置1において通信部13と無線受信部14とは別々に構成されているが、これらは一体化して構成することができる。
【0069】
上記した各実施形態では、歯ブラシ用アタッチメント3を使用する際には、歯ブラシ用アタッチメント3と歯磨き補助装置1との間の無線通信がオンラインであることを想定しているが、歯ブラシ用アタッチメント3と歯磨き補助装置1との間の無線通信は常にオンラインである必要は無い。歯ブラシ用アタッチメント3は、不揮発性のメモリ(図示せず)とマイクロ・コントロール・ユニット(図示せず)とを備えることができ、歯ブラシ用アタッチメント3と歯磨き補助装置1との間の無線通信がオフラインの場合は、歯ブラシ用アタッチメント3は、センサ31により検出されるユーザ9による歯磨き行動に関する物理量を、例えばタイムスタンプ(歯磨き行動の開始時刻および終了時刻)と共に不揮発性のメモリに記憶することができる。歯ブラシ用アタッチメント3の無線送信部32は、例えば歯磨き補助装置1内の歯磨き補助プログラム(アプリ)の起動時またはバックグラウンド操作時等において無線通信がオンラインとなった際に、オフラインデータとして不揮発性のメモリに記憶しておいたユーザ9による歯磨き行動に関する物理量およびタイムスタンプを、歯磨き補助装置1の無線受信部14に送信することができる。
【0070】
上記した実施形態で例示するステップS5(行動候補提示ステップ)を実行した後に、以下に例示する評価ステップを任意のタイミングで実行することができる。評価ステップは、ステップS5においてユーザ9に提示した歯磨き行動の候補が、ユーザ9にとって有効であったか否かを評価または検証するステップである。評価する項目は、例えば次の2つとすることができる。
・評価項目1:提示された歯みがき行動の候補をユーザ9が実際に行ったか否か
・評価項目2:評価項目1において、提示された歯みがき行動の候補をユーザ9が実際に行った場合に、提示された歯みがき行動が血糖変動の制御に実際に有効であったか否か
【0071】
評価ステップでは、例示するこれら評価項目1および2の評価結果に基づいて、次に例示する2つの見直しステップを実行することができる。
・見直しステップその1:ステップS4(行動候補決定ステップ)の見直し
・見直しステップその2:予測モデル63の見直し
見直しステップその2は、好ましくは予測モデル63を再度学習し、予測モデル63を更新するステップを含む。予測モデル63の更新とは、例えば偏回帰係数の値を更新することを含むことができる。例示する見直しステップを含む評価ステップの処理は、歯磨き補助装置1が行ってもよいし、歯磨き補助サーバ2が行ってもよい。
【0072】
上記した実施形態では、ユーザ9の血糖変動に関する値は、歯磨き行動データ61と血糖データ62とに基づいて推定しているが、歯磨き行動データ61に代えて、口腔状態に関するデータと血糖データ62とに基づいて、ユーザ9の血糖変動に関する値を推定してもよい。ユーザ9の口腔状態に関するデータは、例えばタッチパネルディスプレイ15やカメラ16、別途設けられる任意のセンサ等を介して、歯磨き補助装置1に入力することができる。
【0073】
以下に本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【実施例0074】
実施例1では、予測モデルの学習に用いる学習データについて、データの傾向を分析した。分析結果を
図5~
図8のグラフに示す。
【0075】
持続血糖モニタリング(CGM:continuous glucose monitoring)のデータは、内科クリニックに通院する100名以上の2型糖尿病患者を対象として、アボット ジャパン株式会社(米国 Abbott Diabetes Care Inc. 製)のFreeStyleリブレProセンサーを用いて、最大で12週間取得した。持続血糖モニタリングのデータと共に、歯磨き行動に関するデータと、食事習慣に関するデータとを記録した。歯磨き行動に関するデータは、歯ブラシ用アタッチメントである、サンスター・オーラルケア・カンパニー社製G・U・M PLAY(登録商標)を用いて記録した。記録した歯磨き行動の項目および食事習慣に関する項目は次の通りであった。なお、時間帯の表現として、夕方は午後5時から午後9時(17時~21時)とし、夜は午後5時から午前3時(17時~27時)とした。
【0076】
・一日の歯磨き時間 最頻カテゴリー値(値1:1分未満、値2:1分以上2分未満、値3:2分以上3分未満、値4:3分以上)
・夜の歯磨き時間 最頻カテゴリー値(値1:1分未満、値2:1分以上2分未満、値3:2分以上3分未満、値4:3分以上)
・夕方17時~21時の歯磨き(実施日数/全記録日数から、実施した日数のパーセンテージを計算し、実施率が50パーセント以上の該当者を、夕方の歯磨き実施者とした)
・夜21時以降の歯磨き(実施日数/全記録日数から、実施した日数のパーセンテージを計算し、実施率が50パーセント以上の該当者を、夜の歯磨き実施者とした)
・一日の歯磨き回数(平均値、最頻値)
・時間帯毎の歯磨き実施率のパーセンテージ(起床後、朝食後、昼食後、夕食後および就寝前)
・データ記録期間内の喫食率パーセンテージ(朝食、午後の間食、昼食、午後の間食、夕食、夕食後の間食、晩酌)
・一日の総歯磨き時間の概算値 以下の式により計算
一日の歯磨き回数(平均値)×一日の歯磨き時間の最頻カテゴリー値*
(*一日の歯磨き時間が1分未満には値0.5を、1分以上2分未満には値1.5を、2分以上3分未満には値2.5を、3分以上には値3.5を代入)
【0077】
図5~
図8は、血糖値の時間変動を示すCGMデータのグラフである。
図5および
図6は、CGMデータを一日の総歯磨き時間毎にプロットしたグラフである。
図7および
図8は、母集団として夕方から夜(17時から21時)の時間帯に歯磨きが行われたCGMデータを抽出しプロットしたグラフである。
【0078】
<一日の総歯磨き時間と血糖変動に関する考察>
図5および
図6を参照して、一日の総歯磨き時間と血糖変動に関して考察した。
【0079】
図5のグラフを参照して、グラフ縦軸に示す平均血糖値の傾向について確認をした。平均血糖値の振れ幅は、丸印の記号(○)と黒三角形の記号(▲)でプロットするグラフの値が同等で、十字型の記号(+)でプロットするグラフの値が最も大きいことが確認された。平均血糖値の絶対値については、丸印の記号(○)でプロットするグラフの値が全体的に低い傾向にあり、次いで、黒三角形の記号(▲)でプロットするグラフの値が続き、十字型の記号(+)でプロットするグラフの値が全体的に高い傾向にあることが確認された。これらのことから、平均血糖値の変動を制御し抑制するためには、丸印の記号(○)でプロットするグラフに示すように、一日の総歯磨き時間を6分以上にするべきであることが確認された。また、一日の総歯磨き時間でみると、総歯磨き時間が6分以上のグループ(○)は、午前中の血糖変動が安定している傾向があった。それぞれのグループのTIRの平均値は次の通りであった。
十字型の記号(+)のグループ:76.31±19.02mg/dL
黒三角形の記号(▲)のグループ:80.51±11.95mg/dL
丸印の記号(○)のグループ:79.68±16.42mg/dL
【0080】
図5と同様に
図6のグラフを参照して、平均血糖値の傾向について確認をした。平均血糖値の振れ幅は、黒丸印の記号(●)でプロットするグラフの値の方が、逆三角形の記号(▽)でプロットするグラフの値よりも小さいことが確認された。平均血糖値の絶対値についても同様に、黒丸印の記号(●)でプロットするグラフの値の方が、逆三角形の記号(▽)でプロットするグラフの値よりも全体的に小さいことが確認された。これらのことから、平均血糖値の変動を制御し抑制するためには、黒丸印の記号(●)でプロットするグラフに示すように、一日の総歯磨き時間を6分以上にするべきであることが確認された。
【0081】
図5のグラフに示す各グループ毎の各種の記述統計量を表3に示す。
【表3】
【0082】
<夕方から夜の歯磨き時間と血糖変動に関する考察>
図7および
図8を参照して、夕方から夜の歯磨き時間と血糖変動に関して考察した。
【0083】
図7のグラフを参照して、グラフ縦軸に示す平均血糖値の傾向について確認をした。平均血糖値の振れ幅は、歯磨き時間に依って大きく変化することは無いことが確認された。一方で、平均血糖値の絶対値については、夕方から夜の歯磨き時間が長くなればなるほど、全体的に低い傾向にあることが確認された。それぞれのグループのTIRの平均値は次の通りであった。
十字型の記号(+)のグループ:71.80±23.48mg/dL
黒三角形の記号(▲)のグループ:77.47±18.88mg/dL
三角形の記号(△)のグループ:73.93±23.59mg/dL
丸印の記号(○)のグループ:81.25±11.10mg/dL
黒丸印の記号(●)のグループ:81.15±11.62mg/dL
【0084】
図7と同様に
図8のグラフを参照して、平均血糖値の傾向について確認をした。平均血糖値の振れ幅は、歯磨き時間に依って大きく変化することは無いことが確認された。一方で、平均血糖値の絶対値については、黒丸印の記号(●)でプロットするグラフの値の方が、十字型の記号(+)でプロットするグラフの値よりも全体的に小さいことが確認された。これらのことから、夕方から夜の時間帯において平均血糖値の変動を制御し抑制するためには、一回の歯磨き時間を少なくとも2分以上にするべきであることが確認された。それぞれのグループのTIRの平均値は次の通りであった。
十字型の記号(+)のグループ:74.31±22.09mg/dL
黒丸印の記号(●)のグループ:81.19±11.30mg/dL
【0085】
図7および
図8のそれぞれのグラフに示す各グループ毎の各種の記述統計量を表4および表5に示す。
【表4】
【表5】