(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006106
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】精製カーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C09C1/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106683
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 央帆
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037BB01
4J037CA08
4J037CB09
4J037CB12
4J037CB16
4J037DD20
4J037DD23
4J037EE19
4J037EE33
4J037EE35
4J037EE47
4J037FF05
4J037FF30
(57)【要約】
【課題】本発明は、灰分量が効果的に低減された精製カーボンブラックの製造方法に関する。
【解決手段】下記工程(1)及び工程(2)を含む精製カーボンブラックの製造方法。
工程(1)カーボンブラックを含む粒子及び酸化剤を溶媒中に仕込み、接触させる工程
工程(2)カーボンブラックを含む粒子及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び工程(2)を含む精製カーボンブラックの製造方法。
工程(1)カーボンブラックを含む粒子及び酸化剤を溶媒中に仕込み、接触させる工程
工程(2)カーボンブラックを含む粒子及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる工程
【請求項2】
前記工程(1)が、更に有機酸を溶媒中に仕込み、接触させる工程である、請求項1に記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)及び工程(2)の各々の工程の後、又は前記工程(1)及び工程(2)の全工程の終了後に、接触処理後の溶媒を固液分離し、カーボンブラックを含む被接触処理粒子を得る工程(3)を有する、請求項1又は2に記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)の後に、前記被接触処理粒子を洗浄する工程(4)を有する、請求項3に記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)又は工程(4)の後に、前記被接触処理粒子を乾燥する工程(5)を有する、請求項3又は4に記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、水系溶媒である、請求項1~5のいずれかに記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【請求項7】
前記カーボンブラックを含む粒子が、使用済みタイヤ由来のものである、請求項1~6のいずれかに記載の精製カーボンブラックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製カーボンブラックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、循環型社会の実現に向け、タイヤ業界においてもより一層のサステナビリティ(持続可能性)が求められている。
使用済みタイヤの利用法の一例としては、使用済みタイヤを熱分解処理して、油化された成分を石化原料とし、固形分として回収されるカーボンブラックを再利用する方法が挙げられる。
例えば、特許文献1には、廃タイヤからの重軽質油分及びガス分の分解回収はもちろんのこと市販のカーボンブラックの性能とあまり遜色ない性能を有する補強用充填剤をも製造する方法を提供することを目的として、廃タイヤを高温の非酸化性雰囲気下で熱分解して重軽質油分、ガス分及び炭化物を分解して補強用充填剤を製造するに当り、前記熱分解を生成炭化物のアセトン抽出物が1重量%以下となるように十分な時間実施し、得られた生成炭化物を空気の侵入を遮断した雰囲気下で急冷することを特徴とする廃タイヤから補強用充填剤を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような廃タイヤから回収されたカーボンブラックには、不純物として、タイヤ製造時に利用されるシリカや金属成分などからなる灰分が多く含まれ、回収されたカーボンブラックを種々の製品へ適用する際、製品の物性に悪影響をもたらす場合があった。例えばタイヤの材料として再利用する場合には、灰分量が多いと引っ張り特性などのゴム物性に悪影響をもたらすという問題があった。そのため、回収されたカーボンブラックの灰分量を低減させる必要がある。
本発明は、灰分量が効果的に低減された精製カーボンブラックの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]に関する。
[1] 下記工程(1)及び工程(2)を含む精製カーボンブラックの製造方法。
工程(1)カーボンブラックを含む粒子及び酸化剤を溶媒中に仕込み、接触させる工程
工程(2)カーボンブラックを含む粒子及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる工程
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、灰分量が効果的に低減された精製カーボンブラックの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[精製カーボンブラックの製造方法]
本発明の精製カーボンブラックの製造方法は、下記工程(1)及び工程(2)を含む。
工程(1)カーボンブラックを含む粒子(以下、「回収カーボンブラック」ともいう)及び酸化剤を溶媒中に仕込み、接触させる工程(以下、「酸化剤接触工程」ともいう)
工程(2)カーボンブラックを含む粒子及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる工程(以下、「塩基接触工程」ともいう)
本発明の精製カーボンブラックの製造方法によれば、灰分量が効果的に低減された精製カーボンブラックが提供される。
【0008】
上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。
一般に、タイヤ等のゴム製品の加熱分解により回収されるカーボンブラックを含む粒子には、不純物として、後述するような金属化合物やケイ素化合物を含む灰分が含まれており、このような回収カーボンブラックを酸化剤で処理することにより金属化合物を溶媒に可溶な化学物質に変化させ、また、塩基により処理することでケイ素化合物を溶媒に可溶な化学物質に変化させることで、回収カーボンブラック中の灰分を溶媒中に溶解させることが可能となり、溶け込んだ灰分ごと溶媒を取り除くことで、灰分を除去することが可能となると考えられる。
尚、本発明の効果が得られる機構は、これに限定されるものではない。
以下、各工程について説明する。
【0009】
<カーボンブラックを含む粒子>
本発明において、カーボンブラックを含む粒子は、カーボンブラックが含まれている粒子(粒子群)であれば特に限定されず、一つの粒子がカーボンブラックと後述する他の成分とが凝集した粒子であってもよく、粒子群中にカーボンブラックのみからなる粒子と他の成分のみからなる粒子とを含むものであってもよく、また、これらの粒子が混在しているものであってもよい。
カーボンブラックを含む粒子(原料となる回収カーボンブラック)の平均粒径は、取扱容易性及び溶媒の浸透し易さ等の観点からは、好ましくは10nm以上1000nm以下である。回収カーボンブラックの平均粒径は、例えば透過型電子顕微鏡、比表面積測定法、X線散乱法、動的光散乱法等により測定することができる。
【0010】
このような回収カーボンブラックとしては、例えばタイヤ、ゴムクローラー、防振ゴム、コンベアベルト等のゴム製品由来のもの、又はゴム製品の製造や加工時に発生する屑ゴム由来のものが挙げられる。これらの中でも、回収カーボンブラックは、好ましくは使用済みのゴム製品(特に、使用済みタイヤ)由来のものであり、より好ましくは使用済みのゴム製品(特に、使用済みのタイヤ)から熱分解により回収されるものである。タイヤなどのゴム製品は年間の廃棄量が多いため、環境保護や持続可能性の観点よりリサイクルが望まれており、このようなゴム製品には、補強材としてカーボンブラックが含まれている場合が多いためである。
【0011】
回収カーボンブラック中に含まれるカーボンブラック以外の他の成分としては、灰分が挙げられる。ここで「灰分」とは、回収カーボンブラック又は精製カーボンブラックを加熱分解した後、残留する無機物質をいう。灰分量は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
このような灰分としては、例えば、ZnO、ZnS、Al2O3、CaO等の金属化合物、SiO2等のケイ素化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。特に、使用済みタイヤを原料とする場合は、タイヤの構成成分由来のZnO、ZnS、SiO2が多く含まれると考えられる。
回収カーボンブラック中のカーボンブラックの含有量は、回収カーボンブラック全量(カーボンブラックを含む粒子群全量)に対して、例えば60質量%以上95質量%以下である。また、灰分の含有量(カーボンブラック以外の無機物質の含有量)は、回収カーボンブラック全量に対して、例えば5質量%以上40質量%以下である。これらの中でも、灰分の含有量が10質量%以上であると、本発明の製造方法による灰分量の低減効果が顕著に得られるため、好ましい。
また、本発明において、カーボンブラックを含む被接触処理粒子とは、カーボンブラックを含む粒子に、工程(1)及び工程(2)の少なくともいずれか一方の接触工程を施したものをいう。
【0012】
<酸化剤接触工程(工程(1))>
工程(1)は、カーボンブラックを含む粒子及び酸化剤を溶媒中に仕込み、接触させる工程である。
工程(1)で用いられる酸化剤は、入手容易性及び取り扱い容易性の観点から、好ましくは過酸化水素及び有機過酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上である。
有機過酸としては、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸、過酪酸等の低級脂肪族過カルボン酸(例えば炭素数1~4)、過安息香酸、過フタル酸等の芳香族過カルボン酸等が挙げられる。尚、酸化剤として有機過酸を用いる場合は、有機過酸を直接加えてもよく、また、後述するように、系中に過酸化水素等の酸化剤と、酸化剤と反応して有機過酸を形成し得る、有機酸等の有機過酸前駆体とを加え、系中で有機過酸を生成させてもよい。有機過酸を生成し得る酸化剤と酸との組合せについても、後述する。
【0013】
このような酸化剤の添加量は、酸化剤の種類や回収カーボンブラック中の灰分量等によっても異なり特に制限されるものではないが、回収カーボンブラック100質量部に対して、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは2000質量部以下、更に好ましくは500質量部以下である。添加量がこのような範囲にあると、より効果的な灰分の除去が可能となる。
尚、ここで、酸化剤に加え、更に有機酸等の有機過酸前駆体を加え、系内で有機過酸を生成させる場合は、酸化剤の添加量は、生成される有機過酸の量ではなく、有機過酸前駆体と反応させる酸化剤の添加量をいう。
【0014】
また、酸化剤を溶媒に溶解させて使用する際は、酸化剤を含む溶媒(以下、「処理液1」ともいう)の添加量は、バッチ方式で行う場合は、取扱い容易性、灰分の溶解性等の観点から、回収カーボンブラック1質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。尚、バッチ方式については、後述の洗浄工程(4)の項で説明する。
また、同様の観点から、工程(1)に使用される溶媒の総量も、上記範囲であることが好ましい。
【0015】
また、その際の処理液1中の酸化剤の濃度は、取扱い容易性、回収カーボンブラック中の灰分と酸化剤との反応性等の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0016】
また、工程(1)は、更に有機酸を溶媒中に仕込み、接触させる工程であることが好ましい。上述したように、この場合には、有機酸が酸化剤によって有機過酸となり、回収カーボンブラックと、酸化剤である有機過酸とが溶媒中で接触するものとなる。
したがって、有機酸としては、酸化剤と反応して有機過酸を生成するものが好ましい。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ハロゲン化酢酸(例えば、トリフルオロ酢酸)等の脂肪族カルボン酸、及び安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、灰分を増加させることがない観点、水溶性が高く、水系溶媒に溶解するので、固液分離や水系溶媒による洗浄により余剰の有機酸を容易に除去でき、取扱いが容易という観点からは、好ましくはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪族カルボン酸(例えば炭素数1~4)、より好ましくはギ酸、酢酸、更に好ましくはギ酸である。
また、有機酸のpKaは、好ましくは0.1以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは3.5以上、そして、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下である。pKaがこのような範囲にあると、取扱い性がよく、灰分除去が可能となる。
【0017】
また、酸化剤と有機酸との組合せとしては、例えば、過酸化水素と、過酸化水素と反応して有機過酸を生成する有機酸との組合せが挙げられる。これらの中でも、好ましくは過酸化水素と低級脂肪族カルボン酸との組合わせ、より好ましくは過酸化水素とギ酸又は過酸化水素と酢酸との組合せ、更に好ましくは過酸化水素とギ酸との組合せが挙げられる。このような組合せによれば、有機過酸が生成するため、過酸化水素単体よりも効果的に灰分の除去が可能となると考えられる。また、このような酸化剤や有機酸によれば、灰分を増加させることもなく、更に、水溶性が高く、水系溶媒に溶解するので、固液分離や水系溶媒による洗浄処理により、容易に使用した薬剤(酸化剤、有機酸)の除去が可能となり、取扱いも容易となる。
【0018】
尚、有機酸を添加する目的は、有機過酸の生成に限定されるものではなく、例えば、有機過酸を含む系の安定性の向上や、灰分中の金属化合物と酸化剤とが反応して生じる生成物の溶媒への溶解性を高める目的で添加するものであってもよく、特に限定されない。
酸化剤に対して添加する有機酸のモル比(過酸化水素/有機酸(モル比))は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.0未満、更に好ましくは0.8以下である。
【0019】
また、酸化剤と有機酸を溶媒に溶解させて処理液1として使用する際は、調製直後の処理液1中の有機酸の濃度が、取扱い容易性、有機過酸の製造容易性の観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0020】
回収カーボンブラック、酸化剤及び必要に応じて有機酸を溶媒中に仕込み、接触させる順序、方法は、特に限定されず、例えば、溶媒中に、回収カーボンブラック、酸化剤及び必要に応じて有機酸を同時に加え、混合することにより接触させてもよく、溶媒中に酸化剤及び必要に応じて有機酸を予め溶解(又は懸濁)させた処理液1を調製した後に、この処理液1と回収カーボンブラックとを混合することにより接触させてもよい。また、回収カーボンブラックを予め溶媒中に懸濁させた後に、酸化剤及び必要に応じて有機酸を混合することにより接触させてもよい(尚、その際、酸化剤及び必要に応じて有機酸も予め処理液1として調製したものを用いてもよい)。また、有機酸と回収カーボンブラックを溶媒中で混合後に、酸化剤を加え、混合し接触させてもよく、酸化剤と回収カーボンブラックを溶媒中で混合後に、有機酸を加え、混合し接触させてもよい。更に、回収カーボンブラックを保持(充填)した容器(例えばカラム等)に、酸化剤及び必要に応じて有機酸を溶解した処理液1を通過(通液)させることにより接触させてもよい。
【0021】
これらの中でも、製造容易性及び効果的に金属化合物を低減し得るという観点からは、処理液1を調製した後に、この処理液1と回収カーボンブラックとを混合することにより接触させる方法が好ましい。また、前記に加え、更に接触性を高められるという観点からは、回収カーボンブラックを予め溶媒中に懸濁させた後に、別途調製した処理液1を混合する方法により接触することが好ましい。また、発生期の有機過酸を有効に利用できるという観点からは、酸化剤と回収カーボンブラックとを混合後に、有機酸を加え、混合し接触させることが好ましい。更に、後述する固液分離工程(3)、洗浄工程(4)、及び、塩基接触工程(2)を連続的に行うことが可能であり、処理効率がよいという観点からは、カラム等の充填容器に回収カーボンブラックを充填し、酸化剤及び必要に応じて有機酸を含む処理液1を通液させる方法が好ましい。
【0022】
尚、接触時においては、必要に応じて適宜撹拌することが好ましい。撹拌方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、撹拌翼や回転子を使用した撹拌、超音波や電磁波による撹拌、振盪、バブリングなどが挙げられる。工業的には、撹拌効率の観点からは、撹拌翼を使用した撹拌が好ましい。
【0023】
本発明で用いられる溶媒は、本発明の効果を損なわない限り通常用いられる溶媒であれば、特に限定されるものではなく、有機溶媒であっても水系溶媒であってもよいが、環境に優しく、取扱い容易であるという観点からは水系溶媒であることが好ましい。
このような水系溶媒は、水100質量%のものが好適に利用可能であるが、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類などの水親和性を有する有機溶媒と水との混合溶媒であってもよい。環境に優しく、取扱い容易である観点からは、水の含有量は、水系溶媒全量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよく、100質量%であることがより更に好ましい。
【0024】
本発明に用いる水としては、特に限定されるものではなく、蒸留水、脱イオン水、脱気水、水道水、井戸水等が挙げられるが、処理時における酸化剤の安定性の観点からは、脱イオン水、蒸留水が好ましく、脱イオン水がより好ましい。
水系溶媒には、本発明の効果を妨げない限り、分散剤等の他の添加剤を添加していてもよい。尚、本発明は、分散剤としての窒素水素化物(N-H結合を有する化合物)を含まなくても有効な効果が得られる。
【0025】
工程(1)の接触温度(反応温度)は、取扱い性、作業性の観点からは、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは35℃以上、より更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは100℃未満、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下、より更に好ましくは70℃以下である。
また、接触時の圧力も、効率的に灰分を減少させる観点から、常圧下又は加圧下で接触させることが好ましい。より具体的には、上述の観点から、好ましくは0.1MPa以上であり、そして、好ましくは0.3MPa以下である。また、製造容易性の観点から、常圧(0.1MPa)下で接触させることがより好ましい。
また、接触時間(反応時間)は、好ましくは1分間以上、より好ましくは10分間以上、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは3時間以下である。
【0026】
<塩基接触工程(工程(2))>
工程(2)は、カーボンブラックを含む粒子及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる工程である。
工程(2)で用いられる塩基としては、通常塩基として利用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;テトラメチルアミン等の脂肪族アミン類;芳香族アミン類;ジアンミン銀水酸化物、テトラアンミン銅水酸化物等のアンミン錯体の水酸化物;グアニジン類等が挙げられる。これらの塩基は1種単独で用いてもよく、2種以上の組合せで用いてもよい。これらの中でも、水溶性で、固液分離や水系溶媒による洗浄により余剰の塩基を容易に除去でき、また、灰分を効果的に除去できるという観点からは、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0027】
このような塩基の添加量は、塩基の種類や回収カーボンブラック中の灰分量等によっても異なり特に制限されるものではないが、回収カーボンブラック100質量部に対して、好ましくは0.4質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、そして、好ましくは4000質量部以下、より好ましくは800質量部以下、更に好ましくは200質量部以下である。添加量がこのような範囲にあると、より効果的な灰分の除去が可能となる。
【0028】
また、塩基を溶媒に溶解させて使用する際は、塩基を含む溶媒(以下、「処理液2」ともいう)の添加量は、バッチ方式で行う場合は、取扱い容易性、灰分の処理液2への溶解性等の観点から、回収カーボンブラック1質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
また、同様の観点から、工程(2)に使用される溶媒の総量も、上記範囲であることが好ましい。
また、その際の水溶液中の塩基の濃度は、取扱い容易性、灰分と塩基との反応性等の観点から、好ましくは0.1M以上、より好ましくは0.5M以上、更に好ましくは0.8M以上であり、そして好ましくは20M以下、より好ましくは5M以下、更に好ましくは2M以下である。
また、塩基(共役酸)のpKaは、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。pKaがこのような範囲にあると、取扱い性がよく、灰分除去が容易となる。
【0029】
工程(2)で用いられる溶媒は、前述の工程(1)の溶媒と同様のものが用いられる。
また、回収カーボンブラック及び塩基を溶媒中に仕込み、接触させる順序、方法も特に限定されず、例えば、溶媒中に回収カーボンブラックと塩基とを同時に加え、混合することにより接触させてもよく、また、溶媒中に塩基を溶解(又は懸濁)させた処理液2を調製した後に、この処理液2と回収カーボンブラックとを混合することにより接触させてもよい。また、回収カーボンブラックを予め溶媒中に懸濁させた後に、塩基を混合することにより接触させてもよい(尚、その際、塩基も予め処理液2として調製したものを用いてもよい)。更に、回収カーボンブラックを保持(充填)した容器(例えばカラム等)に、塩基を溶解した処理液2を通過(通液)させることにより接触させてもよい。
【0030】
接触方法としては、これらの中でも、製造容易性及び効果的に灰分を低減し得るという観点からは、処理液2を調製した後に、この処理液2と回収カーボンブラックとを混合することにより接触させることが好ましい。また、前記に加え、更に接触性を高められるという観点からは、回収カーボンブラックを予め溶媒中に懸濁させた後に、別途調製した処理液2を混合する方法により接触することが好ましい。更に、前述の酸化剤接触工程(1)、及び、後述する固液分離工程(3)、洗浄工程(4)を連続的に行うことが可能であり、処理効率がよいという観点からは、カラム等の充填容器に回収カーボンブラックを充填し、塩基を含む処理液2を通液させる方法が好ましい。
尚、接触時において、必要に応じて適宜撹拌することが好ましい。撹拌方法としては、酸化剤接触工程(1)で記載したものと同様の公知の方法が挙げられる。
【0031】
工程(2)の接触温度(反応温度)は、使用する塩基の種類等によっても異なり、特に限定されるもではないが、取扱い性、作業性の観点からは、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは35℃以上、より更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは100℃未満、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下、より更に好ましくは70℃以下である。
また、接触時の圧力は、効率的に灰分を減少させる観点から、常圧下又は加圧下で接触させることが好ましい。より具体的には、上述の観点から、好ましくは0.1MPa以上であり、そして、好ましくは0.3MPa以下である。また、製造容易性の観点から、常圧(0.1MPa)下で接触させることが更に好ましい。
また、接触時間(反応時間)は、好ましくは1分間以上、より好ましくは10分間以上、更に好ましくは30分間以上であり、そして好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは3時間以下である。
【0032】
工程(1)と工程(2)の順序は特に問わず、工程(1)の後に、工程(2)を行ってもよく、工程(2)の後に工程(1)を行ってもよい。灰分を効果的に除去し得るという観点からは、工程(1)の後に工程(2)を行うことが好ましい。
また、工程(1)、工程(2)は各々繰り返し行ってもよく、また、工程(1)から工程(2)の順序で一旦処理した後に再度同じ一連の処理を繰り返し行ってもよく、同様に、工程(2)から工程(1)の順序で一旦処理した後に再度同じ一連の処理を、繰り返し行ってもよい。
【0033】
<固液分離工程(工程(3))>
工程(1)及び工程(2)の各々の工程の後、又は前記工程(1)及び工程(2)の全工程の終了後に、接触処理後の溶媒を固液分離し、カーボンブラックを含む被接触処理粒子を得る工程(3)を有することが好ましい。当該工程によれば、接触処理により溶媒中に溶け込んだ灰分や、接触処理後の余剰の酸化剤、場合により有機酸、塩基等の薬剤を、固液分離により溶媒を取り除くことで、容易に除去することが可能となり、灰分が低減された、カーボンブラックを含む被接触処理粒子、すなわち、精製カーボンブラックを得ることが可能となる。
工程(3)は、工程(1)及び工程(2)の各々工程の後、すなわち、工程(1)の後に工程(3)を行い、かつ工程(2)の後に工程(3)を行ってもよい。また、工程(1)及び工程(2)の全工程の終了後、すなわち、工程(1)の後、工程(3)を行わずに、工程(2)を行い、その後に工程(3)を行ってもよく、また、工程(2)の後、工程(3)を行わずに工程(1)を行い、その後に工程(3)を行ってもよい。
不純物をより低減し得るという観点からは、工程(1)及び工程(2)の各々の工程の後、すなわち、工程(1)の後に工程(3)を行い、かつ工程(2)の後に工程(3)を行うか、又は工程(2)の後に工程(3)を行い、かつ工程(1)の後に工程(3)を行うことが好ましい。
【0034】
このような工程(3)の固液分離は、例えば、沈降分離、濾過、遠心分離、膜分離などの公知の固液分離手段により行うことができる。このような固液分離手段を用いることで、溶媒に溶解している余剰の酸化剤、必要に応じて添加された有機酸、余剰の塩基、及び灰分が溶媒ごと取り除かれるので、カーボンブラックを含む粒子から酸化剤、有機酸、塩基、及び灰分等の不純物を容易に除去することが可能となる。
これらの中でも、効率よく簡便に固液分離可能であるという観点からは、フィルターによる減圧ろ過及び加圧ろ過が好ましい。尚、その際利用するフィルターの孔径は、特に限定されるものではなく、原料となる回収カーボンブラックの粒径に応じて適宜選択される。
また、作業工程を簡略化し得るという観点からは、カラムを利用する方法も好ましい。カラムを利用した処理によれば、カラムの固相として回収カーボンブラックを容器内に充填し、処理液1や処理液2を通液させることで、工程(1)又は工程(2)の接触処理と同時に、固液分離(工程(3))も行うことが可能となる。
【0035】
<洗浄工程(工程(4))>
工程(3)の後に、被接触処理粒子を洗浄する工程(4)を有することが好ましい。被接触処理粒子を洗浄することで、より純度の高い精製カーボンブラックが得られる。
洗浄方法としては、新たな溶媒(以下、「洗浄液」ともいう)で被接触処理粒子を洗浄し、洗浄後の洗浄液を固液分離する方法が挙げられる。
このような洗浄工程は、1回、又は2回以上繰り返し行ってもよい。また、洗浄工程(4)の固液分離による洗浄液の除去についても、上述の工程(3)で示したものと同様の固液分離手段により行うことができる。
洗浄工程に用いられる洗浄液は、被接触処理粒子から不純物を取り除ける溶媒であれば特に制限されるものではないが、好ましくは、接触処理後の灰分、工程(1)で使用した酸化剤、必要に応じて使用した有機酸、及び/又は工程(2)で使用した塩基を溶解し得る溶媒であり、より好ましくは、接触処理後の灰分、工程(1)で使用した酸化剤、必要に応じて使用した有機酸、及び工程(2)で使用した塩基を溶解し得る溶媒である。このような溶媒であれば、固液分離後の被接触処理粒子に付着している不純物を除去可能となる。
【0036】
このような洗浄液としては、具体的には、工程(1)で記載した溶媒が利用できる。
尚、工程(1)、工程(2)及び工程(4)で用いられる溶媒は、同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。作業性、効率性の観点からは、同一のものを用いることが好ましい。また、このような同一の溶媒としては、取扱い容易等の観点から、好ましくは水系溶媒、より好ましくは水が用いられる。このように、工程(1)、工程(2)及び工程(4)を同一の水系溶媒(好ましくは水)で行うことで、設備や作業の簡略化、低コスト化が図られ、かつ、効率よく、工程(1)及び(2)の処理に使用した酸化剤等の薬剤や灰分の除去が可能となる。特に、工程(1)~工程(4)を、後述のカラム等の連続方式で行う際には、異なる溶媒を通液することによる追加の洗浄操作等が不要となるため、同一の水系溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
工程(1)~工程(4)の処理方式としては、バッチ方式で行ってもよく、連続方式で行ってもよい。
ここで、バッチ方式は、例えば、工程(1)又は工程(2)の処理時に、必要量の溶媒(又は処理液1又は2)を容器内に加えて処理する方法であり、より具体的には、例えば、回収カーボンブラック、酸化剤、及び必要に応じて有機酸を容器内の溶媒中で、撹拌混合した後(工程(1))、固液分離処理(工程(3))、必要に応じて、洗浄処理(工程(4))を行い、次いで、得られるこれらの処理後の回収カーボンブラック(尚、工程(1)又は工程(2)のいずれか一方のみの処理を行い、工程(3)、必要に応じて、工程(4)の処理を経た回収カーボンブラックを、以下、「粗精製カーボンブラック」ともいう)及び塩基を容器内の溶媒中で、撹拌混合した後(工程(2))、固液分離処理(工程(3))、必要に応じて、洗浄処理(工程(4))を行う方法である。
また、ここで、連続方式は、例えば、カラム等を用いて、工程(1)及び(2)で使用する処理液や、必要に応じて工程(4)で使用する洗浄液を、連続的に送液し排出する方法であり、より具体的には、例えば、カラムに回収カーボンブラックを固相として充填し、酸化剤及び必要に応じて有機酸を溶媒に溶解させた処理液1をカラムに通液し(工程(1)及び工程(3))、次いで、必要に応じて洗浄液を通液し(工程(4))、次いで塩基を溶媒に溶解させた処理液2を通液し(工程(2)及び工程(3))、次いで必要に応じて洗浄液を通液する(工程(4))方法である。
【0038】
<乾燥工程(工程(5))>
上述の工程(3)又は工程(4)の後に、被接触処理粒子を乾燥する工程(工程(5))を有することが好ましい。特に、乾燥工程は、工程(1)~工程(4)の終了後に行われることが好ましい。十分な乾燥が行われることで、種々の製品に好適に使用し得る。
乾燥方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法で行うことが可能であり、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥などの方法が挙げられる。乾燥時の温度、圧力、時間等の条件も、特に限定されるものではなく、乾燥方法によって適宜決定される。例えば、洗浄後、減圧濾過した濾残を静置乾燥する場合は、80℃で、乾燥時間は120分間以上の条件が挙げられる。
【0039】
本発明の精製カーボンブラックの製造方法は、更に、使用済みタイヤから、カーボンブラックを含む粒子を回収する工程を有していてもよい。
使用済みタイヤから、カーボンブラックを含む粒子を回収する方法としては、例えば、熱分解などの従来公知の方法で回収することが可能である。尚、本発明で用いられる回収カーボンブラックは、商業的に入手したものであってもよい。
【0040】
本発明の製造方法により得られる精製カーボンブラックの用途としては、例えば、塗料やインク等の黒色顔料、又はタイヤ等のゴム製品の補強材等として好適に利用し得る。
【実施例0041】
以下特記しない限り、「%」は「質量%」を示す。
工程(1)及び工程(2)に用いる酸化剤、酸、塩基は、脱イオン水を用い、表1に記載の濃度の水溶液となるように予め調製したものを各々準備した。以下、工程(1)に用いる酸の水溶液、及び、酸と酸化剤との水溶液を「処理液1」といい、工程(2)に用いる塩基の水溶液を「処理液2」という。
【0042】
実施例1~4
・実験操作
カーボンブラックを含む粒子として、使用済みタイヤから回収された回収カーボンブラック(BolderIndustries社製、商品名「BolderBlack」、灰分量17.7%)を用いた。
工程(1):5gの回収カーボンブラックと、50gの処理液1(調製直後の各成分の濃度が、表1に記載の値となるように調製。)を200mLのバイアルに入れ、60℃で、1時間、マグネティックスターラーにより撹拌した。
得られたスラリーを0.1μmのPTFEフィルターで減圧ろ過し、固形物(被接触処理粒子)を分離した後(工程(3))、固形物を脱イオン水100mLで洗浄し、減圧ろ過することで(工程(4))、粗精製カーボンブラックを得た。
【0043】
工程(2):上記で得られた粗精製カーボンブラック全量、及び50gの処理液2(1M NaOH)を200mLのバイアルに入れ、60℃で、1時間、マグネティックスターラーにより撹拌した。
上記スラリーを0.1μmのPTFEフィルターで減圧ろ過後(工程(3))、得られた固形物をPTFEフィルター上に残し、減圧を維持したまま、脱イオン水100mLをPTFEフィルターに通液し、洗浄した(工程(4))。その後、室温で、固形物をPTFEフィルター上に残し、減圧を維持したまま、60分間静置し、乾燥させ(工程(5))、精製カーボンブラックを得た。
【0044】
・評価方法
上記処理によって得られた精製カーボンブラックを100℃、12時間減圧乾燥させた。
乾燥後の精製カーボンブラックをアルミナ製るつぼに入れ、550℃の電気炉で4時間加熱した。精製カーボンブラック中の灰分割合は、下記式より算出した。
精製カーボンブラック中の灰分割合(質量%)=(残留物の質量/乾燥後の精製カーボンブラックの質量)×100
【0045】
参考例1
工程(1)及び工程(2)の処理を経ない未処理の回収カーボンブラック中の灰分割合を実施例1の評価方法により算出した。
【0046】
比較例1
工程(1)の処理をせず、表1に記載の処理液2(1M NaOH)を用いて工程(2)の処理を施した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0047】
比較例2
表1に記載の処理液1(10%H2O2)を用いて工程(1)の処理を施し、工程(2)の処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で行った。
実施例1~4、参考例1、比較例1~2の結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
以上の結果より、酸化剤による処理、又は塩基による処理のみでは、灰分量が十分に低減されず、酸化剤と塩基の両方の処理をすることにより灰分量が顕著に低減されることがわかった。
また、工程(1)において、有機酸と酸化剤とを用いて処理した実施例1では、更に顕著な灰分の低減効果が認められた。