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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061061
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】異常判定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/003 20190101AFI20240425BHJP
   F16K 37/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01M13/003
F16K37/00 F
F16K37/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168750
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】池田 淳
【テーマコード(参考)】
2G024
3H065
【Fターム(参考)】
2G024AA17
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA16
2G024DA15
2G024FA02
2G024FA06
2G024FA14
3H065AA08
3H065BA07
3H065BB11
3H065CA01
3H065CA03
(57)【要約】
【課題】比例弁の作動耐久試験中に異常の有無を判定し、比例弁の異常を早期に発見する。
【解決手段】異常判定装置1は、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、比例弁2に供給される流体C1の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部17と、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後に、比例弁2に供給される流体C1の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部18と、比較データと検査データとに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する判定部14A(14B)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比例弁の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、当該比例弁に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部と、
前記比例弁の前記作動耐久試験を開始してより前記所定期間経過後に、前記比例弁に供給される前記流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部と、
前記比較データと前記検査データとに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する判定部と、
を備える異常判定装置。
【請求項2】
前記比較データは、前記所定期間の内における、前記第一供給圧以外の前記比例弁の弁動作に関する第一パラメータを更に含み、
前記検査データは、前記所定期間経過後における、前記第二供給圧以外の前記比例弁の弁動作に関する第二パラメータを更に含む、
請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記比較データは、前記第一供給圧の時系列データと前記第一パラメータの時系列データとが対応付けられたデータであり、
前記検査データは、前記第二供給圧の時系列データと前記第二パラメータの時系列データとが対応付けられたデータである、
請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記比較データの特徴を抽出しながら前記比較データの次元圧縮を行い再び次元を復号することで比較パターンを生成し、当該比較パターンの特徴に基づきながら前記検査データの次元圧縮を行い再び次元を複号することで復号データを生成するオートエンコーダと、
前記検査データと前記復号データとの差分であるオートエンコーダ差分を算出する算出部と、を更に備え、
前記判定部は、前記オートエンコーダ差分と閾値とに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記比較データと前記検査データとのパターンマッチングを行うことで、前記比較データと前記検査データとの差分を算出する比較部を更に備え、
前記判定部は、前記比較データと前記検査データとの前記差分と閾値とに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項6】
ユーザによる前記閾値の設定又は/及び変更を受け付ける閾値設定部を更に備える、
請求項4に記載の異常判定装置。
【請求項7】
コンピュータを、
比例弁の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、当該比例弁に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部、
前記比例弁の前記作動耐久試験を開始してより前記所定期間経過後に、前記比例弁に供給される前記流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部、
前記比較データと前記検査データとに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する判定部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、比例弁(比例制御弁とも呼称される)に備わるソレノイドコイルに流れる「励磁電流」と、当該比例弁を通過した流体の圧力である「制御圧」とが比例関係にあることが開示されている。
【0003】
比例弁の異常の有無を判定する手法として、従来は、比例弁に対して作動耐久試験を行い、試験前に測定した励磁電流と制御圧の特性(以下、これを「I-P特性」と呼称)と、試験後に測定したI-P特性とを比較し、試験前後のI-P特性の差異が規格内であれば比例弁は正常状態であると判定し、規格外であれば比例弁は異常状態であると判定していた。
【0004】
また、この従来の手法においては、応答性(励磁電流の変化に対する制御圧の変化のタイムラグ)、及び、ヒステリシス(励磁電流上昇時と励磁電流下降時の制御圧の差)についても測定し、仮にI-P特性の差異が規格内であったとしても、応答性及びヒステリシスのいずれかが規格外であれば、比例弁は異常状態であると判定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-324092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記作動耐久試験として、例えば、5秒間に励磁電流を1Aと0Aとの間で2往復するように変化させるサイクルを繰り返し行う試験などがある。このような試験中(比例弁の作動耐久試験中)には、励磁電流の急激な変化に制御圧が追従できないことから、試験中にI-P特性、応答性、及び、ヒステリシスを正確に測定することはできない。
【0007】
また、上記作動耐久試験は、主に比例弁の開発時において行われるものであるが、比例弁を購入したユーザが、実機において比例弁を使用している状況下で比例弁の異常の有無を判定するといった場合においても、比例弁の作動中は励磁電流の急激な変化に制御圧が追従できないことが起こり得る。
【0008】
したがって、従来の手法では、比例弁の作動耐久試験開始前にI-P特性を測定し、比例弁の作動耐久試験終了後に、改めてI-P特性、応答性、及び、ヒステリシスを測定する必要がある。これによって、従来の手法では、比例弁の異常を早期に発見することが困難であった。
【0009】
そこで本発明は、比例弁の作動耐久試験中に異常の有無を判定することができ、比例弁の異常を早期に発見することができる異常判定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係る異常判定装置は、比例弁の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、当該比例弁に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部と、前記比例弁の作動耐久試験を開始してより前記所定期間経過後に、前記比例弁に供給される前記流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部と、前記比較データと前記検査データとに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する判定部と、を備える。
【0011】
また、本発明の第二態様では、前記比較データは、前記所定期間の内における、前記第一供給圧以外の前記比例弁の弁動作に関する第一パラメータを更に含み、前記検査データは、前記所定期間経過後における、前記第二供給圧以外の前記比例弁の弁動作に関する第二パラメータを更に含む。
【0012】
また、本発明の第三態様では、前記比較データは、前記第一供給圧の時系列データと前記第一パラメータの時系列データとが対応付けられたデータであり、前記検査データは、前記第二供給圧の時系列データと前記第二パラメータの時系列データとが対応付けられたデータである。
【0013】
また、本発明の第四態様では、前記比較データの特徴を抽出しながら前記比較データの次元圧縮を行い再び次元を復号することで比較パターンを生成し、当該比較パターンの特徴に基づきながら前記検査データの次元圧縮を行い再び次元を複号することで復号データを生成するオートエンコーダと、前記検査データと前記復号データとの差分であるオートエンコーダ差分を算出する算出部と、を更に備え、前記判定部は、前記オートエンコーダ差分と閾値とに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する。
【0014】
また、本発明の第五態様では、前記比較データと前記検査データとのパターンマッチングを行うことで、前記比較データと前記検査データとの差分を算出する比較部を更に備え、前記判定部は、前記比較データと前記検査データとの前記差分と閾値とに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する。
【0015】
また、本発明の第六態様では、ユーザによる前記閾値の設定又は/及び変更を受け付ける閾値設定部を更に備える。
【0016】
また、本発明の第七態様に係るプログラムは、コンピュータを、比例弁の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、当該比例弁に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部、前記比例弁の前記作動耐久試験を開始してより前記所定期間経過後に、前記比例弁に供給される前記流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部、前記比較データと前記検査データとに基づき、前記比例弁の異常の有無を判定する判定部、として機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る異常判定装置及びプログラムによれば、比例弁の作動耐久試験中に異常の有無を判定することができ、比例弁の作動耐久試験期間の早期に異常を発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るシステムの全体構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る異常判定装置のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る異常判定装置の機能的構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る比較部の機能的構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図5A】本発明の実施形態に係る比較パターンを生成する処理について説明するフローチャートである。
図5B】本発明の実施形態に係る比例弁の異常の有無を判定する処理について説明するフローチャートである。
図6A】本発明の実施形態に係るオートエンコーダ及び算出部が、比較データ及び正常状態の検査データを用いて求めた、検査データと復号データとの差分の一例を示すグラフである。
図6B】本発明の実施形態に係るオートエンコーダ及び算出部が、比較データ及び異常状態の検査データを用いて求めた、検査データと復号データとの差分の一例を示すグラフである。
図7A】本発明の実施形態に係る比較データに含まれる第一供給圧と第一指示電圧との対応関係の一例を示す図である。
図7B】本発明の実施形態に係る異常状態の検査データに含まれる第二供給圧と第二指示電圧との対応関係の一例を示す図である。
図8A】本発明の実施形態に係る比較データに含まれる第一指示電圧と第一励磁電流との対応関係の一例を示す図である。
図8B】本発明の実施形態に係る異常状態の検査データに含まれる第二指示電圧と第二励磁電流との対応関係の一例を示す図である。
図9A】本発明の実施形態に係る比較データに含まれる第一指示電圧と第一制御圧との対応関係の一例を示す図である。
図9B】本発明の実施形態に係る異常状態の検査データに含まれる第二指示電圧と第二制御圧との対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては極力同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0020】
《全体構成》
図1は、本実施形態に係るシステムの全体構成の一例を概略的に示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係るシステムは、異常判定装置1、比例弁2、ロガー3、及び、出力装置4を備えている。
【0021】
本実施形態に係る異常判定装置1は、比例弁2の異常の有無を判定する装置である。
【0022】
比例弁2は、図示しないソレノイドコイルを備え、当該ソレノイドコイルを流れる励磁電流の値に応じて開度が変化する弁である。これにより、比例弁2を通過した(すなわち比例弁2から出力される)流体C2の圧力である制御圧等を制御することができる。なお、以下では、励磁電流の値を制御する電圧を「指示電圧」と呼称し、比例弁2に供給される(すなわち比例弁2に入力される)流体C1の圧力を「供給圧」と呼称する。
【0023】
ロガー(データロガーとも呼称される)3は、比例弁2に設置され、比例弁2の弁動作に関する各パラメータを時系列データとして出力する装置である。この各パラメータとは、指示電圧、励磁電流、供給圧、及び、制御圧である。
【0024】
出力装置4は、異常判定装置1が判定した結果を外部に出力する装置である。この出力装置4としては、表示装置や音出力装置(スピーカ)等が挙げられる。
【0025】
《ハードウェア構成》
図2は、異常判定装置1のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。図2に示すように、異常判定装置1は、記憶装置5、制御装置6、及び、通信装置7を主に備えて主要部が構成されている。
【0026】
記憶装置5は、異常判定装置1の内部に配置されたハードディスク等によって構成される補助記憶装置である。この記憶装置5は、制御装置6における処理の実行に必要な各種プログラム、各種の情報、及び、処理結果の情報を記憶する。
【0027】
制御装置6は、CPU(Central Processing Unit)8、及び、メモリ(主記憶装置)9を主に備えて主要部が構成される。CPU8は、異常判定装置1の各種構成を制御する。メモリ9は、例えば異常判定装置1における処理の実行に必要な各種プログラム等を記憶する。
【0028】
また、制御装置6は、CPU8が記憶装置5あるいはメモリ9等に格納された所定のプログラムを実行することにより、各種の機能構成として機能する。この機能構成の詳細については後述する。当該プログラムは、記憶装置5に記憶されてもよく、外部の記憶装置等に記憶されてもよい。また、当該プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよく、インターネット等のネットワーク経由でインストールする形式で提供してもよい。
【0029】
通信装置7は、外部の装置と通信するための通信インターフェース等で構成される。通信装置7は、例えば、異常判定装置1とロガー3との間、及び、異常判定装置1と出力装置4との間で、各種の情報を送受信する。
【0030】
なお、異常判定装置1は、専用又は汎用のコンピュータ等を用いて実現することができる。また、図2は異常判定装置1が有する主要なハードウェア構成の一部を示しているに過ぎず、異常判定装置1は、コンピュータが一般的に備える他の構成を備えることができる。
【0031】
《機能的構成》
図3は、本実施形態に係る異常判定装置1の機能的構成の一例を概略的に示すブロック図である。図3に示すように、異常判定装置1は、取得部11、記憶部12A、比較部13A、判定部14A、閾値設定部15A、及び、出力部16を主に備えて主要部が構成されており、取得部11は、第一取得部17、及び、第二取得部18を備えている。
【0032】
取得部11は、比例弁2の弁動作に関する各パラメータである、指示電圧、励磁電流、供給圧、制御圧の各時系列データを、互いに対応付けてロガー3から取得する。
【0033】
ところで、本実施形態においては、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内における指示電圧、励磁電流、供給圧、制御圧を、それぞれ第一指示電圧、第一励磁電流、第一供給圧、第一供給圧と呼称する。また、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後における指示電圧、励磁電流、供給圧、制御圧を、それぞれ第二指示電圧、第二励磁電流、第二供給圧、第二供給圧と呼称する。
なお、「所定期間」とは、作動耐久試験開始直後の(比例弁2に異常が発生しない)時間を指す。すなわち、第一指示電圧、第一励磁電流、第一供給圧、第一供給圧は比例弁2が正常な状態における正常な値である。
【0034】
また、第一指示電圧、第一励磁電流、第一供給圧、第一制御圧の各時系列データを互いに対応付けたデータを「比較データ」と呼称し、第二指示電圧、第二励磁電流、第二供給圧、第二制御圧の各時系列データを互いに対応付けたデータを「検査データ」と呼称する。
【0035】
そして、取得部11のうち、第一取得部17は、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内にロガー3から比較データを取得し、第二取得部18は、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後にロガー3から検査データを取得する。
【0036】
記憶部12Aは、取得部11が取得した比較データ及び検査データをCSVファイル(CSVファイルに代えて、Excelファイル、あるいは、データを表形式の配列として表す任意の形式としてもよい)として記憶する。さらに記憶部12Aは、後述する比較パターン、及び、後述する閾値についても記憶する。
【0037】
比較部13Aは、比較データと検査データに基づき、「オートエンコーダ差分」を求める。
【0038】
図4は、比較部13Aの機能的構成の一例を概略的に示すブロック図である。図4に示すように、比較部13Aは、オートエンコーダ21、及び、算出部22を備えている。
【0039】
オートエンコーダ21は、深層学習(ディープラーニング)により、比較データの特徴を抽出しながら比較データの次元圧縮を行い、再び次元を復号することで「比較パターン」を生成し、比較パターンの特徴に基づきながら検査データの次元圧縮を行い、再び次元を複号することで「復号データ」を生成する。
【0040】
算出部22は、検査データと復号データとの差分を算出する。なお、この検査データと復号データとの差分が「オートエンコーダ差分」となる。
【0041】
判定部14Aは、比較部13Aで求めたオートエンコーダ差分と閾値とに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する。具体的には、比較部13Aで求めたオートエンコーダ差分が、閾値よりも大きければ比例弁2が異常状態であると判定し、閾値以下であれば比例弁2が正常状態であると判定する。
【0042】
閾値設定部15Aは、ユーザによる上記閾値の設定又は/及び変更を受け付けるユーザインターフェースである。
【0043】
また、判定部14Aによる判定精度を向上させるため、所定期間の内における比例弁2が正常状態である場合の、オートエンコーダ差分の標準偏差をσとすると、上記閾値は3σ以上5σ以下とするのが好ましい。また、より好ましくは、上記閾値は3σである。したがって、これらのいずれかの値を上記閾値の初期設定としてもよい。
【0044】
あるいは、上記閾値を3σと5σの二つとし、オートエンコーダ差分が3σ以下であれば、比例弁2は正常状態であると判定し、オートエンコーダ差分が5σ以上であれば、比例弁2は異常状態であると判定し、オートエンコーダ差分が3σより大きく5σ未満であれば、警告状態とみなすようにしてもよい。
【0045】
出力部16は、判定部14Aが判定した結果を出力装置4に出力させる指示を行う。
【0046】
《比較パターンを生成する処理について》
図5Aは、異常判定装置1が比較パターンを生成する処理について説明するフローチャートである。なお、以下のステップはあくまでも一例である。
【0047】
(ステップS1)
ユーザが、比較パターンの生成開始を指示するボタン(図示略)を押すなどして、異常判定装置1及びロガー3が比較パターンを生成するための処理を開始する。その後、処理はステップS2へ移行する。
【0048】
(ステップS2)
第一取得部17が、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、ロガー3から、第一指示電圧、第一励磁電流、第一供給圧、第一制御圧の各時系列データを互いに対応付けた比較データを取得する。その後、処理はステップS3へ移行する。
【0049】
(ステップS3)
オートエンコーダ21が、第一取得部17において取得した比較データの特徴を抽出しながら当該比較データの次元圧縮を行う。その後、処理はステップS4へ移行する。
【0050】
(ステップS4)
オートエンコーダ21が、次元圧縮した比較データの次元を復号することで比較パターンを生成する。この比較パターンは記憶部12Aに記憶される。その後、処理は終了する。
【0051】
《比例弁2の異常の有無を判定する処理について》
図5Bは、異常判定装置1が比例弁2の異常の有無を判定する処理について説明するフローチャートである。なお、以下のステップはあくまでも一例であり、その順番及び内容は、適宜変更することができる。
【0052】
(ステップS11)
比較部13Aが、図5AのステップS4において生成及び記憶された比較パターンを読み込む。その後、処理はステップS12へ移行する。
【0053】
(ステップS12)
閾値設定部15Aが、ユーザによる閾値の設定又は/及び変更を受け付け、受け付けた情報は記憶部12Aに記憶される。さらに、判定部14Aが、記憶部12Aに記憶された閾値を読み込む。ただし、閾値が初期設定されている等の場合には、当該ステップは適宜省略することができる。その後、処理はステップS13へ移行する。
【0054】
(ステップS13)
ユーザが、比例弁2の異常の判定開始を指示するボタン(図示略)を押すなどして、異常判定装置1及びロガー3が当該判定を行う処理を開始する。その後、処理はステップS14へ移行する。
【0055】
(ステップS14)
第二取得部18が、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後において、ロガー3から、第二指示電圧、第二励磁電流、第二供給圧、第二制御圧の各時系列データを互いに対応付けた検査データを取得する。その後、処理はステップS15へ移行する。
【0056】
(ステップS15)
オートエンコーダ21が、ステップS11にて比較部13Aが読み込んだ比較パターンの特徴に基づきながら検査データの次元圧縮を行う。その後、処理はステップS16へ移行する。
【0057】
(ステップS16)
オートエンコーダ21が、次元圧縮した検査データの次元を複号することで復号データを生成する。その後、処理はステップS17へ移行する。
【0058】
(ステップS17)
算出部22が、検査データと復号データとの差分、すなわちオートエンコーダ差分を算出する。その後、処理はステップS18へ移行する。
【0059】
(ステップS18)
判定部14Aが、算出部22で求めたオートエンコーダ差分と閾値を比較する。その後、処理はステップS19へ移行する。
【0060】
(ステップS19)
オートエンコーダ差分が閾値よりも大きければステップS20へ移行し、オートエンコーダ差分が閾値以下であればステップS21へ移行する。
【0061】
(ステップS20)
判定部14Aが、比例弁2は異常であると判定する。その後、処理はステップS22へ移行する。
【0062】
(ステップS21)
判定部14Aが、比例弁2は正常であると判定する。その後、処理はステップS22へ移行する。
【0063】
図6Aは、オートエンコーダ21及び算出部22が、比較データ及び正常状態の検査データを用いて求めた、オートエンコーダ差分の一例を示すグラフである。
【0064】
また、図6Bは、オートエンコーダ21及び算出部22が、比較データ及び異常状態の検査データを用いて求めた、オートエンコーダ差分の一例を示すグラフである。
【0065】
図6A図6Bは共に、横軸が比例弁2の作動耐久試験開始からの経過時間、縦軸がオートエンコーダ差分である。また、図中の2本の破線は、所定期間の内の比例弁2が正常状態である場合の、オートエンコーダ差分の標準偏差をσとするときの、3σと5σを表している。
【0066】
図6Aでは、オートエンコーダ差分が、経過時間に依らず、ほぼ3σ以下に収まっている。図6Bでは、当該オートエンコーダ差分が、作動耐久試験開始から50万秒経過付近まではほぼ3σ以下に収まっているものの、それ以降はほぼ5σ以上となっている。したがって、たとえば閾値が3σ~5σのいずれかの値に設定されている場合、判定部14Aは、図6Aの比例弁2を正常状態、図6Bの比例弁2を異常状態と判定することになる。
【0067】
(ステップS22)
出力部16が、判定部14Aによる判定の結果を出力装置4に出力させる指示を行う。出力装置4は、当該結果を外部に出力する。その後、処理は終了する。
【0068】
本実施形態においては、ロガー3及び取得部11が取得する、比例弁2の弁動作に関するパラメータとして、指示電圧、励磁電流、供給圧、及び、制御圧を挙げた。
【0069】
比較データは、第一供給圧の時系列データと、第一供給圧以外の(所定期間の内における)パラメータの時系列データとが、対応付けられたデータであるものとし、検査データは、第二供給圧の時系列データと、第二供給圧以外の(所定期間経過後における)パラメータの時系列データとが、対応付けられたデータであるものとすることで、より高精度な判定が可能となることが判明している。
しかしながら、本実施形態においては、パラメータのうち供給圧については省略することができない。仮に供給圧について省略すると、異常状態の比例弁2であっても、図6Aのように正常状態と変わらないグラフとなってしまうためである。
【0070】
なお、本実施形態中において、比例弁2の作動耐久試験と説明している箇所があるが、これについては、耐久試験に限らず、例えば実機において作動する場合を含む作動全般に置き換えることもできる。
【0071】
《作用効果》
本実施形態では、異常判定装置1が、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、比例弁2に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部17と、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後に、比例弁2に供給される流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部18と、比較データと検査データとに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する判定部14A(14B)と、を備える。
これにより、本実施形態では、検査データと比較データの両方が、比例弁2の作動耐久試験中に取得したものであるにも関わらず、比例弁2の異常の判定が、従来の手法のように比例弁2の作動耐久試験中に(励磁電流の変化の速さなどの要因によって)不可となることはない。また、比例弁2の作動耐久試験中に比較データ及び検査データを取得する場合に、これらのデータに供給圧を含むことではじめて判定が可能となる。本実施形態では、供給圧を含めた比較データ及び検査データを用いるため、比例弁2の作動耐久試験中に異常の有無を判定することができ、耐久試験期間の早期に異常を発見することができる。
【0072】
また本実施形態では、比較データは、所定期間の内における、第一供給圧以外の比例弁2の弁動作に関する第一パラメータを更に含み、検査データは、所定期間経過後における第二供給圧以外の比例弁2の弁動作に関する第二パラメータを更に含む。
このように、供給圧以外の弁動作に関するパラメータ(指示電圧、励磁電流、制御圧)を含めた比較データと検査データを用いることで、判定の精度が向上する。
【0073】
また本実施形態では、比較データは、第一供給圧の時系列データと第一パラメータの時系列データとが対応付けられたデータであり、検査データは、第二供給圧の時系列データと第二パラメータの時系列データとが対応付けられたデータである。
このように、供給圧と供給圧以外のパラメータ(指示電圧、励磁電流、制御圧)とが対応付けられた比較データと検査データを用いることで、判定の精度がさらに向上する。
【0074】
また本実施形態では、比較部13Aは、比較データの特徴を抽出しながら比較データの次元圧縮を行い再び次元を復号することで比較パターンを生成し、比較パターンの特徴に基づきながら検査データの次元圧縮を行い再び次元を複号することで復号データを生成するオートエンコーダ21と、検査データと復号データとの差分であるオートエンコーダ差分を算出する算出部22と、を更に備え、判定部14Aは、オートエンコーダ差分と閾値とに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する。
このように、データの比較にオートエンコーダ21による次元圧縮を用いることで、ノイズを除去することができ、かつ、計算量を抑えることができる。
【0075】
また本実施形態では、ユーザによる閾値の設定又は/及び変更を受け付ける閾値設定部15Aを更に備える。
これにより、比例弁2の使用状況に応じて閾値を最適化することができる。
【0076】
また本実施形態では、コンピュータを、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間の内に、比例弁2に供給される流体の圧力である第一供給圧を含む比較データを取得する第一取得部17、比例弁2の作動耐久試験を開始してより所定期間経過後に、比例弁2に供給される流体の圧力である第二供給圧を含む検査データを取得する第二取得部18、比較データと検査データとに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する判定部14A(14B)、として機能させる。
これにより、比例弁2の作動耐久試験中に異常の有無を判定することができ、耐久試験期間の早期に異常を発見することができる。
【0077】
《変形例》
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0078】
例えば、上記実施形態における、オートエンコーダ21及び算出部22を備えた比較部13Aの代わりに、比較データと検査データとのパターンマッチングを行う比較部13Bを備えるものとしてもよい。
【0079】
図7Aは、比較データのうち第一供給圧と第一指示電圧との対応関係の一例を示す図である。図7Aは、横軸が第一供給圧、縦軸が第一指示電圧であり、第一供給圧と第一指示電圧が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0080】
図7Bは、異常状態の検査データのうち第二供給圧と第二指示電圧との対応関係の一例を示す図である。図7Bは、横軸が第二供給圧、縦軸が第二指示電圧であり、第二供給圧と第二指示電圧が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0081】
図7A図7Bとを比較すると、指示電圧が0Vと5Vの場合を除き、第一供給圧と第二供給圧の値に大きな差分がある。例えば、指示電圧が3V付近においては、図示するように、第一供給圧の値は40kPa程度の幅があるが、第二供給圧の値は148kPa程度の幅がある。
【0082】
さらに、図示していないが、比例弁2の弁動作に関する各パラメータのうち、供給圧と励磁電流との対応関係、供給圧と制御圧との対応関係についても同様に、比較データと異常状態の検査データとの間で大きな差分がある。
【0083】
比較部13Bは、パターンマッチングを行って図7A図7Bに一例を示すような比較データと検査データの差分を求めるものである。
【0084】
また、上記実施形態においては、比較データ、検査データ、比較パターン、及び、オートエンコーダ差分に関する閾値を記憶する記憶部12Aを備えているが、比較部13Bを備える場合には、記憶部12Aに代えて、比較データ、検査データ、パターンマッチングによる差分、及び、パターンマッチングによる差分に関する閾値を記憶する記憶部12Bを備えるものとする。
【0085】
さらに、上記実施形態においては、オートエンコーダ差分に関する閾値を設定又は/及び変更する閾値設定部15Aを備えているが、比較部13Bを備える場合には、閾値設定部15Aに代えて、パターンマッチングによる差分に関する閾値を設定又は/及び変更する閾値設定部15Bを備えるものとする。
【0086】
さらに、上記実施形態においては、比較部13Aで求めたオートエンコーダ差分と閾値とに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する判定部14Aを備えているが、比較部13Bを備える場合には、判定部14Aに代えて、比較部13Bで求めたパターンマッチングによる差分と閾値とに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する判定部14Bを備えるものとする。
【0087】
具体的には、判定部14Bは、比較部13Bで求めたパターンマッチングによる差分が、閾値よりも大きければ比例弁2が異常状態であると判定し、閾値以下であれば比例弁2が正常状態であると判定する。より具体的には、判定部14Bは、パターンマッチングによる比較データと検査データの差分が、閾値よりも大きければ比例弁2が異常状態であると判定し、閾値以下であれば比例弁2が正常状態であると判定する。ただし、パターンマッチングの差分に関する閾値は、一致度(%)で表される。
【0088】
比較データは、第一供給圧の時系列データと、第一供給圧以外の(所定期間の内における)パラメータの時系列データとが、対応付けられたデータであるものとし、検査データは、第二供給圧の時系列データと、第二供給圧以外の(所定期間経過後における)パラメータの時系列データとが、対応付けられたデータであるものとすることで、より高精度な判定が可能となることが判明している。
【0089】
なお、パラメータとして、供給圧については省略することができない。この点について、図8A図8B図9A図9Bを用いて説明する。
【0090】
図8Aは、比較データのうち第一指示電圧と第一励磁電流との対応関係の一例を示す図である。図8Aは、横軸が第一指示電圧、縦軸が第一励磁電流であり、第一指示電圧と第一励磁電流が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0091】
図8Bは、異常状態の検査データのうち第二指示電圧と第二励磁電流との対応関係の一例を示す図である。図8Bは、横軸が第二指示電圧、縦軸が第二励磁電流であり、第二指示電圧と第二励磁電流が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0092】
図8A図8Bとを比較すると、全てのプロット点においてほとんど差分がない。これではパターンマッチングを行っても正確に判定を行うことができない。
【0093】
図9Aは、比較データのうち第一指示電圧と第一制御圧との対応関係の一例を示す図である。図9Aは、横軸が第一指示電圧、縦軸が第一制御圧であり、第一指示電圧と第一制御圧が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0094】
図9Bは、異常状態の検査データのうち第二指示電圧と第二制御圧との対応関係の一例を示す図である。図9Bは、横軸が第二指示電圧、縦軸が第二制御圧であり、第二指示電圧と第二制御圧が対応付けられた点が図中にプロットされている。
【0095】
図9A図9Bとを比較すると、全てのプロット点においてほとんど差分がない。これではパターンマッチングを行っても正確に判定を行うことができない。
【0096】
以上、図8A図8Bを比較した結果、及び、図9A図9Bを比較した結果から、パターンマッチングによる判定を行う場合においても、パラメータとして供給圧を用いる必要があることがわかる。
【0097】
上述のとおり、比較部13Bは、比較データと検査データとのパターンマッチングを行うことで、比較データと検査データとの差分を算出する。また、判定部14Bは、この差分と閾値とに基づき、比例弁2の異常の有無を判定する。これにより、数値データ同士を比較するパターンマッチングを行うので、例えば画像データ同士を比較するようなパターンマッチングに比べて、計算量を抑えることができる。
【符号の説明】
【0098】
1…異常判定装置、2…比例弁、13A,13B…比較部、14A,14B…判定部、15A,15B…閾値設定部、17…第一取得部、18…第二取得部、21…オートエンコーダ、22…算出部

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B