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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061070
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】気体収集装置及び気体収集方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
G01N1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168771
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】梅田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正志
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA03
2G052AB03
2G052AC12
2G052AC26
2G052AD02
2G052AD42
2G052BA02
2G052BA14
2G052GA27
(57)【要約】
【課題】電源を用いずに金属素材により形成された収容設備の表面に貫通孔を形成し内部の気体を収集することができる気体収集装置、及び気体収集方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る気体収集装置は、金属素材により形成された収容設備の表面に取り付けられ金属素材を腐食させる腐食媒体を収容設備の表面に接触させるように収容する収容空間と、収容設備の表面に取り付けられ収容空間を密閉して覆う密閉容器と、を備え、腐食媒体を収容空間に収容し、収容設備の表面において腐食媒体に基づいて腐食が進行することにより貫通孔を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属素材により形成された収容設備の表面に設けられ前記金属素材を腐食させる腐食媒体を前記収容設備の表面に接触させるように収容する収容空間と、
前記収容設備の表面に取り付けられ前記収容空間を密閉して覆う密閉容器と、を備え、
前記腐食媒体を前記収容空間に収容し、前記収容設備の表面において前記腐食媒体に基づいて腐食が進行することにより貫通孔を形成する、
気体収集装置。
【請求項2】
前記密閉容器に取り付けられ、前記貫通孔が生じた際に前記収容設備の内部から流出する気体を収集する気体収集部と、を備える、
請求項1に記載の気体収集装置。
【請求項3】
前記収容空間に収容される前記腐食媒体を備え、
前記腐食媒体は、前記金属素材を酸化させる、
請求項2に記載の気体収集装置。
【請求項4】
前記金属素材は、鉄を含む材料により形成され、
前記腐食媒体は、前記金属素材を腐食させる酸性溶液を含む、
請求項3に記載の気体収集装置。
【請求項5】
前記密閉容器に設けられ、前記収容空間から腐食の反応が低下した前記腐食媒体を回収する回収部と、
前記密閉容器に設けられ、前記回収部により前記腐食媒体が取り除かれた前記収容空間に新たに前記腐食媒体を追加して供給する供給部と、を備える、
請求項4に記載の気体収集装置。
【請求項6】
前記密閉容器に設けられ、前記貫通孔に中和剤を塗布するための操作棒を備える、
請求項5に記載の気体収集装置。
【請求項7】
金属素材により形成された収容設備の表面に開口を有する収容空間を設ける工程と、
前記収容空間を密閉して覆う密閉容器を前記収容設備の表面に取り付ける工程と、
前記収容空間の内部に前記金属素材を腐食させる腐食媒体を収容し、前記腐食媒体を前記収容設備の表面に接触させる工程と、
前記収容設備の表面において前記腐食媒体に基づいて腐食を進行させ貫通孔を形成する工程と、
前記貫通孔を介して前記収容設備内の気体を収集する工程と、を備える、
気体収集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉空間内に存在する気体を収集するための気体収集装置及び気体収集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力設備においては、放射性物質を含んだ廃棄物が発生する。このような廃棄物は、コンテナ等の収容設備の内部に保管されている。収容設備の内部に水が含まれている場合、水が放射性物質から放射される放射線により放射線分解され、水素が発生する可能性がある。空気中において水素濃度が所定の割合になる場合、静電気などによって生じるスパークを起因として爆発する虞がある。従って、収容設備を開放する前に、十分な安全対策を行い収容設備の内部の空間に存在する気体に含まれる水素の濃度を測定し、測定値に応じた対策を検討することが求められている。
【0003】
収容設備の扉や蓋などを開放せずに内部の水素濃度を測定する場合、収容設備の壁面や天井に内部空間と外部空間とを連通する貫通孔等を設ける必要がある。貫通孔等を設ける場合、火花の発生を防止するため、なるべく電動ドリル等の電気工具を用いないことが望ましい。例えば、特許文献1には、金属管の表面に接続した電極と、金属管の表面に接触させた電解質溶液とに基づいて金属管の表面に電界腐食を生じさせ、貫通孔を設ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-014544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された手法は、電極に電力を供給するための電源装置が必要となる。屋外に設置される収容設備には、電源が設けられていない場合が多く、また、電源装置を運搬するために労力を要するため、電源を不要としつつ、収容設備に貫通孔を形成可能な手法が求められている。
【0006】
本発明は、電源を用いずに金属素材により形成された収容設備の表面に貫通孔を形成し内部の気体を収集することができる気体収集装置、及び気体収集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属素材により形成された収容設備の表面に設けられ前記金属素材を腐食させる腐食媒体を前記収容設備の表面に接触させるように収容する収容空間と、前記収容設備の表面に取り付けられ前記収容空間を密閉して覆う密閉容器と、を備え、前記腐食媒体を前記収容空間に収容し、前記収容設備の表面において前記腐食媒体に基づいて腐食が進行することにより貫通孔を形成する、気体収集装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電源を用いずに金属素材により形成された収容設備の表面に貫通孔を形成し内部の気体を収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】気体収集装置の構成を示す断面図である。
図2】容器の構成を示す断面図である。
図3】腐食媒体の交換部及び供給部を取り付けた状態の気体収集装置の構成を示す断面図である。
図4】操作棒の使用方法を示す断面図である。
図5】気体収集方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図6】容器の他の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の気体収集装置、及び気体収集方法の実施形態について説明する。
【0011】
図1及び図2に示されるように、気体収集装置1は、内部空間Sが形成された収容設備Cに載置されて使用される。収容設備Cは、例えば、原子力設備の敷地内等に設置されているコンテナ型倉庫である。収容設備Cは、鉄を含むSUS304等の金属素材により形成されている。収容設備Cは、例えば、函型に形成されている。収容設備Cの内部空間Sには、例えば、原子力設備において発生した放射性物質を含んだ廃棄物が保管されている。収容設備Cは、扉(不図示)が設けられている。扉は、通常、固定されている。これにより、内部空間Sは、密閉されている。収容設備Cの内部には水素が発生している虞がある。収容設備Cの内部に水素が発生しているか否かを、扉を開放する以前に確認する必要がある。
【0012】
水素が発生した場合、空気に比して軽い水素は、収容設備Cの天井部C1の内側に溜まる。気体収集装置1は、収容設備Cの天井部C1に穿孔し、水素の有無を計測するために用いられる。気体収集装置1は、例えば、収容設備Cの天井部C1の上面側の表面に取り付けられる容器2と、容器を密閉して覆う密閉容器3と、密閉容器3内の気体を収集する気体収集部4とを備えている。容器2及び密閉容器3により穿孔装置Dが構成される。
【0013】
容器2は、例えば、円形断面の筒状体に形成されている。容器2は、収容設備Cの天井部C1の上面側の表面の穿孔予定箇所C2に比して大きい径の筒状体に形成されている。容器2は、上面側及び下面側に開口が生じるように中心軸を上下方向に沿って配置される。容器2の底部は、穿孔予定箇所C2を囲うように隙間なく接着される。穿孔予定箇所C2は、表面に存在する塗装、酸化被膜等を予め研磨して除去され、金属素地が露出していることが望ましい。
【0014】
穿孔予定箇所C2は、なるべく電動工具を用いずに紙やすり等を用い、手作業により研磨されることが望ましい。穿孔予定箇所C2は、例えば、直径20mm以下の円形断面の貫通孔Hを形成する場合、直径20mm以下の円形領域である。後述の様に、穿孔予定箇所C2を円形に腐食させたい場合、金属素材を露出させた穿孔予定箇所C2以外の領域は、マスキングや塗装等の被膜が形成されてもよい。容器2の底部の周囲には、収容設備Cの天井部C1の表面との間の隙間を塞ぐためのコーキング剤が充填されてもよい。
【0015】
穿孔予定箇所C2は、収容設備Cの天井部C1を貫通しない程度にドリルで途中まで穿孔しておいてもよい。このとき、穿孔予定箇所C2は、電気工具を用いずにハンドドリルなどの手動工具により途中まで穿孔されることが望ましい。この場合、穿孔予定箇所C2の研磨作業は省略されてもよい。容器2は、例えば、穿孔予定箇所C2の周囲を囲むように接着剤等を用いて接着される。容器2は、例えば、樹脂やガラスなどの耐腐食性素材により形成されている。容器2は、後述の様に貫通孔Hが形成されるまでの期間に使用可能であれば、金属素材により形成されていてもよい。容器2の底部が接着された場合、容器2の上面側が開口し、穿孔予定箇所C2を含む収容設備Cの天井部C1と容器2の内周面2Aとにより収容空間2Bが形成される。
【0016】
容器2の収容空間2Bには、金属素材を腐食させる腐食媒体Lが収容される。容器2は、収容空間2Bにおいて腐食媒体Lを収容設備の表面に接触させるように収容する。腐食媒体Lは、金属素材を腐食させる酸性溶液である。腐食媒体Lは、例えば、鉄を含む金属素材を腐食させる50%程度の濃硫酸(HSO)水溶液である。腐食媒体Lは、収容設備Cを形成する金属素材を酸化させるものであれば、王水や10%程度のシュウ酸溶液が用いられてもよい。容器2は、例えば、容器2に比して大きく形成された密閉容器3により覆われる。
【0017】
密閉容器3は、収容設備Cの天井部C1の表面に取り付けられる。密閉容器3は、筒状に形成された筒状部3Aと、筒状部3Aの上面側を塞ぐ上面部3Bとを備えている。筒状部3Aの下端の周囲に沿って延在して形成されたフランジ部3Cを備えていることが望ましい。筒状部3Aは、矩形断面、円形断面等任意の容器2の周囲を覆うことができればどのような断面形状に形成されていてもよい。フランジ部3Cは、例えば、筒状部3Aの断面形状に合わせた環状に形成されている。筒状部3Aの下端もしくはフランジ部3Cは、例えば、収容設備Cの天井部C1の表面に接着される。筒状部3Aの下端において収容設備Cの天井部C1の表面に接着可能であれば、フランジ部3Cはなくてもよい。筒状部3Aの上面側の開口は、板状に形成された上面部3Bにより塞がれる。密閉容器3は、筒状部3Aの内周面と、上面部3Bの下面と、収容設備Cの天井部C1の表面とにより内部空間3Sが形成される。フランジ部3Cと収容設備Cの天井部C1の表面との間の接着強度は、内部空間3Sに生じる内圧に基づいて調整される。
【0018】
上面部3Bには、例えば、着脱自在な蓋部3Dが設けられている。蓋部3Dは、例えば、上面部3Bに形成された開口3Hを塞ぐように形成されたゴム栓などの樹脂製の栓、SUS栓、ガラス栓、あるいは上面部3B全体あるいはその一部が開閉可能な板状の蓋である。蓋部の形状は特に限定されないが、栓の場合は、すり合わせ式あるいはネジ式などが考えられ、収容設備Cの内部で水素などが発生して万一圧力が高くなっていた場合、貫通孔Hが貫通した際に密閉容器3の密閉性を保つためには、シール材を併用したネジ式が望ましい。同様に蓋部3Dが板状の場合は、パッキンなどで密閉でき、留め具などで固定できるものが望ましい。あるいは、蓋部3Dを用いない場合、上面部3Bには、コックで開閉可能な耐蝕性を有する配管が接続された容器2の内側に液を滴下可能な治具が設けられていてもよい。
【0019】
密閉容器3は、平面視して容器2の位置と蓋部3Dとが一致するように設置されることが望ましい。蓋部3Dは、密閉容器3の設置後に、取り外される。蓋部3Dが取り外された後、上面部3Bに形成された開口3Hからスポイト等を用いて容器2の収容空間2Bに腐食媒体Lが滴下される。その後、蓋部3Dを開口3Hに取り付け密閉容器3を密閉する。収容空間2Bに収容された腐食媒体Lは、穿孔予定箇所C2の金属素材を腐食させ、穿孔予定箇所C2の腐食が進行することにより貫通孔Hを形成する。
【0020】
貫通孔Hは、例えば、直径20mm以下である。腐食媒体Lを容器2の収容空間2Bに添加すると、腐食媒体Lと穿孔予定箇所C2の金属とが反応して激しく発泡する。腐食媒体Lが溢れることを防止するため、貫通孔Hの内径が5mmの場合、容器2は、腐食媒体Lの水深の5倍以上の高さに形成されていることが望ましい。腐食媒体Lの発泡を抑制する場合、容器2の内径は10mm程度に形成されていることが望ましい。
【0021】
密閉容器3には、気体を収集するための気体収集部4が設けられている。気体収集部4は、密閉容器3に取り付けられ、収容設備Cの表面において腐食媒体Lに基づいて腐食が進行することにより貫通孔Hが形成された際に、収容設備Cの内部から流出する水素等の気体を収集するように構成されている。気体収集部4は、例えば、気体を吸引するシリンジ5と、シリンジ5により吸引された気体を収集する気体収集容器6とを備えている。シリンジ5と密閉容器3の筒状部3Aとは、第1配管4Aにより接続されている。
【0022】
第1配管4Aの上流側には、流路を開放又は閉塞する二方コック4Gが設けられている。第1配管4Aの途中には、第2配管4Bが分岐部4Cを介して分岐して接続されている。分岐部4Cには、三方コックが設けられている。密閉容器3の内部空間3S側から気体を流出させるが、シリンジ5及び気体収集容器6側から密閉容器3の内部空間3S側には気体を流通させないように構成されている。第2配管4Bの下流側には、気体収集容器6が接続されている。二方コック4Gは、流路の開放に基づいてシリンジ5と密閉容器3との第1接続が可能となる。
【0023】
閉塞時は密閉容器3の密閉をすることができる。(なお、確実にシリンジ5及び気体収集容器6側から密閉容器3の内部空間3S側には気体を流通させないようにするために、分岐部4Cと二方コック4Gの間に、逆止弁が内蔵されていてもよい。)、分岐部4C(三方コック)は、シリンジ5と密閉容器3との第1接続と、シリンジ5と気体収集容器6との第2接続とを切り替える切り替えバルブに形成されている。上記構成は一例であり、密閉容器3の内部空間3S側から気体を流出させるが、シリンジ5及び気体収集容器6側から密閉容器3の内部空間3S側には気体を流通させないように構成されていれば、他の配管構成が用いられてもよい。
【0024】
シリンジ5は、円筒状に形成されたシリンダ部5Aと、シリンダ部5Aの内周面を摺動するピストンロッド5Bとを備えている。シリンジ5は、ピストンロッド5Bを掃引して伸長することにより、シリンダ部5Aの内部に生じる陰圧に基づいて気体を収集することができる。
【0025】
密閉容器3の内部空間3Sの気体を収集する場合、第1配管4Aの流路が密閉容器3の内部空間3Sとシリンダ部5Aの内部空間とを接続するように二方コック4Gの流路と分岐部4C(三方コック)の流路を開放する。次に、ピストンロッド5Bを掃引することにより、シリンダ部5Aの内部に密閉容器3の内部空間3S内の気体を収集する。このとき、シリンジ5において陰圧が継続する場合、貫通孔Hが形成されていないことを意味する。この場合は、蓋部3Dを取り外し開口3Hからピペット等を用いて腐食媒体Lを容器2内に添加し、あるいは古い腐食媒体Lを吸い上げて回収した後に、新しい腐食媒体Lを添加し、容器2内の酸性度を上げ、貫通孔Hの形成を促す。その後、蓋部3Dを開口3Hに取り付けて密閉容器3を密閉する。ピストンロッド5Bは、シリンダ部5Aから外れる位置に比して前の位置において停止される。
【0026】
この状態において、密閉容器3の内部空間に生じる陰圧に基づいて貫通孔Hを介して密閉容器3の内部空間3Sに収容設備Cの内部空間Sから密閉容器3の内部空間3S内に密閉容器3の内部空間Sに存在する気体が流通する。密閉容器3の天井部C1の下面側に水素が溜まっている場合、密閉容器3の内部空間3S内に貫通孔Hを介して水素が流通する。
【0027】
次に、二方コック4Gの流路を閉塞するとともに、第1配管4Aの流路がシリンダ部5Aの内部空間と気体収集容器6とを接続するように分岐部4Cの三方コックの流路を切り替える。次に、ピストンロッド5Bをシリンダ部5Aの内部に押し込み、第1配管4Aと分岐部4Cと第2配管4Bとを介してシリンダ部5Aの内部に収集された気体を気体収集容器6内に移動させる。上記操作を繰り返すことにより、密閉容器3の内部空間3S内の気体を気体収集容器6内に収集することができる。
【0028】
気体収集容器6は、例えば、樹脂製の袋体に形成されている気体収集用のサンプリングバッグである。気体収集容器6は、例えば、気体の収集前の状態において萎んだ状態となっている。気体収集容器6は、シリンジ5におけるピストンロッド5Bの掃引回数に応じて気体が順次充填され、膨張する。上記工程により、気体収集容器6には、収容設備C内の気体を捕集することができる。腐食媒体Lの反応に基づいて発生する水素に基づいて密閉容器3内の圧力の上昇が無視できない場合や、貫通孔Hの形成直後に収容設備Cの内部空間Sに発生している気体の圧力に基づいて密閉容器3内の圧力が急上昇する場合、萎んだ状態の気体収集容器6や気体収集容器6に比して容積が大きいサンプリングバッグを予め密閉容器3に接続しておくことにより圧力を逃してもよい。この場合、二方コック4Gの流路を解放しておくとともに、第1配管4Aの流路が密閉容器3の内部空間3Sと気体収集容器6とを接続するように分岐部4Cの三方コックの流路を切り替えておくことが必要である。
【0029】
貫通孔Hが形成されており、気体収集容器6に捕集された場合、気体収集容器6内の気体をガスクロマトグラフィーやモバイル型の水素濃度計等の計測機器に基づいて分析し、水素濃度を測定すればよい。腐食媒体Lが硫酸や塩酸の場合、鉄との反応時に水素が発生する。貫通孔Hの直径が5mm程度であり、材料がSUS304により形成された収容設備Cの天井部C1の厚みが2mm程度であり、貫通孔Hが上下方向に一定の円形断面に形成される場合、例えば、鉄の腐食に基づいて発生する水素量は、以下の通り算出される。貫通孔Hが形成された際に腐食する金属量は、0.04cm(貫通孔H容積)×7.93g/cm(SUS304の比重)=0.311gである。1モルの鉄の腐食で、1モルの水素分子が発生するため、水素の発生量は、0.311×74[%(鉄の含有率)]/56[mol]×22.4[L]=0.092[L]である。
【0030】
貫通孔Hが形成されるまでに発生する水素量が、後の計測に影響を与える程度である場合、密閉容器3内のガスの測定前において、予め密閉容器3の内容積の3-10倍程度のガスを吸引し、吸引したガスを排出して、密閉容器3内のガスを収容設備C内の気体へ十分に置換してからサンプリングすることが望ましい。水素濃度が所定の基準を超えた場合や、水素の有無が検知された場合、収容設備C内の気体は、窒素等の不活性ガスに置換される。この場合、収容設備Cの天井部C1に更に穿孔装置Dを設けて新たに貫通孔Hを形成し、貫通孔Hに不活性ガスを供給するための管路(不図示)を接続してもよい。容器2内に収容された腐食媒体Lは、硫酸や塩酸である場合、金属素材との反応の進行に応じて水素イオンが減少し、反応性が低下する。
【0031】
図3に示されるように、気体収集装置1は、腐食媒体Lを交換するための回収部7及び供給部8を備えていてもよい。回収部7及び供給部8は、例えば、密閉容器3に配管9を介して設けられている。回収部7は、例えば、容器2から腐食の反応が低下した腐食媒体Lを回収する。供給部8は、例えば、容器2に腐食媒体Lを供給する。
【0032】
回収部7は、円筒状に形成されたシリンダ部7Aと、シリンダ部5Aの内周面を摺動するピストンロッド7Bとを備えるシリンジである。回収部7は、ピストンロッド7Bを掃引して伸長することにより、シリンダ部7Aの内部に生じる陰圧に基づいて腐食媒体Lを回収することができる。回収部7と密閉容器3の上面部3Bとは、第3配管9A及び第4配管9Bにより接続されている。第3配管9Aの上流側には、流路を開放又は閉塞する二方コック9Gが設けられている。二方コック9Gの上流側には、管状に形成されたノズル部10が接続されている。
【0033】
ノズル部10の先端は、蓋部3Dが取り外された後、上面部3Bの開口3Hを介して密閉容器3の容器2の収容空間2Bに挿入される。ノズル部10と開口3Hとの間の隙間は、ボアスルーコネクター9Jを用いて密閉、固定される。ボアスルーコネクター9Jを緩めることで、ノズル部10を上下に移動させることができるため、腐食の反応が低下した腐食媒体Lを回収部7へ回収する際には、ノズル部10を容器2の底面部まで下げた上でボアスルーコネクター9Jを固定することが望ましい。一方、供給部8から新たな腐食媒体Lを供給する際には、ボアスルーコネクター9Jを緩めてノズル部10を任意の位置に上げてからボアスルーコネクター9Jを密閉、固定することで、容器2の収容空間2Bをなるべく大きくし、腐食媒体Lの添加量を最大にすることができ、またノズル部10が腐食することを防ぐことができる。
【0034】
この際のノズル部10の位置は、腐食媒体Lが容器2からこぼれずに収容空間2B内に確実に入るよう、段階的に上げていくのが望ましい。なお、腐食媒体Lの供給が終了した際には、ノズル部10は腐食を避けるため、もしくは内部観察のために密閉容器3を透明容器で構成した場合は、容器2の収容空間2Bの観察がしやすいように、密閉容器3の上部まで引き上げることが望ましい。腐食媒体Lを交換する作業をおこなうのは、シリンジ5の操作によって貫通孔Hが形成されていない場合に限られる。貫通孔Hが形成されている場合に、ボアスルーコネクター9Jを緩めてしまうと、密閉容器3の内部の気体が漏洩する可能性があるため、腐食媒体Lの交換操作は、念のため、シリンジ5の操作によって貫通孔Hが形成されていないことを確認した直後に実施するのが望ましい。
【0035】
第3配管9Aの途中には、第4配管9Bが分岐部9Cを介して分岐して接続されている。分岐部9Cには、三方コックが設置されている。分岐部9Cは、容器2の収容空間2B側から腐食媒体Lを流出させるが、供給部8側から回収部7側には腐食媒体Lを流通させないように構成されている。第4配管9Bの下流側には、回収部7が接続されている。二方コック9Gは、流路の開放によって回収部7と密閉容器3との第3接続が可能となる。閉塞時は密閉容器3の密閉をすることができる。(なお、確実に回収部7から密閉容器3の内部空間3S側には液体を流通させないようにするために、分岐部9Cと回収部7の間に、逆止弁が内蔵されていてもよい。)、分岐部9C(三方コック)は、回収部7と密閉容器3との第3接続と、供給部8と密閉容器3との第4接続とを切り替える切り替えバルブに形成されている。
【0036】
供給部8は、円筒状に形成されたシリンダ部8Aと、シリンダ部8Aの内周面を摺動するピストンロッド8Bとを備えるシリンジである。供給部8は、回収部7により腐食媒体Lが取り除かれた容器2に新たに腐食媒体Lを追加して供給する。シリンダ部8Aの内部には、腐食媒体Lが収容されている。供給部8は、ピストンロッド8Bをシリンダ部8A側に押し込むことにより、シリンダ部8Aの内部に生じる圧力に基づいて腐食媒体Lを第3配管9A及びノズル部10を介して容器2の収容空間2B内に供給することができる。気体収集装置1は、回収部7及び供給部8を設けることにより、容器2から腐食の反応が低下した腐食媒体Lを回収し、容器2に新たな腐食媒体Lを供給し、貫通孔Hの形成を促進することができる。
【0037】
図4に示されるように、貫通孔Hは、棒状に形成された操作棒20を用いてアルカリ性の中和剤Kが塗布されてもよい。中和剤Kは、例えば、操作棒20の先端部に予め塗布されていてもよく、あるいは操作棒20の内部を空洞にしてチューブ状にして、操作棒20に接続した中和剤供給装置からポンプ、シリンジ操作などによって、操作棒20の内部を介して送り出す仕組みとしても良い。操作棒20の先端部は、特に限定はされないが、例えば、テーパ形状に形成されているものや、スポンジ構造のものを取り付けて、貫通孔Hの形状に合わせて密着可能に形成されている。中和剤Kは、貫通孔Hから滴下しないように液体に比して粘度を低下させたペースト状に調整されていてもよい。
【0038】
操作棒20の外径は、特に限定はされず、貫通孔Hの内径に比して大きく形成しても良いし、小さく形成しても良い。貫通孔Hが形成された後、水素が回収され、ガス分析結果に基づいて水素による危険性が少ないと判定された場合、操作棒20の先端部を貫通孔Hに押し付け、貫通孔Hに付着している酸を中和する。操作棒20の外径を、貫通孔Hの内径に比して大きくした場合には、貫通孔Hは、水素濃度を測定後、操作棒20の先端部を貫入することにより塞ぐことができる。操作棒20の外径を、貫通孔Hの内径に比して小さくし、先端に中和剤Kを含んだスポンジなどを設置した場合は、貫通孔Hの内壁への接触性が高くなり、貫通処理以降にコンテナの腐食が進行するのをより防止する効果が高くなる。
【0039】
操作棒20は、収容設備Cの鉄を含む金属素材に比してイオン化傾向が高いアルミニウム、マグネシウム等の金属素材により形成されていてもよい。これにより、操作棒20を犠牲陽極として貫通孔Hに露出した金属素材を還元し腐食の進行を防止してもよい。操作棒20を貫通孔Hに挿入した後、開口3Hと操作棒20との間の隙間には、充填材Nが充填されてもよい。操作棒20は、容器2の上端の開口を塞ぐように形成されていてもよい。
【0040】
図5に示されるように、気体収集装置1を用いた気体集方法の処理の各工程の流れについて説明する。金属素材により形成された収容設備Cの表面に上部及び下部に開口を有する容器2を取り付ける(ステップS100)。容器2を密閉して覆う密閉容器3を収容設備Cの表面に取り付ける(ステップS102)。容器2の内部に収容設備Cの金属素材を腐食させる腐食媒体Lを収容し、腐食媒体Lを収容設備の表面に接触させる(ステップS104)。収容設備Cの表面において腐食媒体Lに基づいて腐食を進行させ貫通孔Hを形成する(ステップS106)。貫通孔Hを介して収容設備C内の水素などの気体を収集する(ステップS108)。
【0041】
上述した気体収集方法において、容器2或いは密閉容器3の周囲には、電源を不要とする熱源を配置し、腐食媒体Lを加熱し、貫通孔Hの形成を促進してもよい。例えば、鉄粉に水を添加して酸化熱を発生させて熱源を構成してもよいし、生石灰に水を添加して消石灰を生成させる際の反応熱に基づいて熱源を構成してもよい。腐食媒体Lは、液体の他、半固体、ゲル状物質であってもよい。収容設備Cの金属素材が鉄を含む場合、腐食媒体Lは、反応時の水素の発生を防止するため、硫酸銅水溶液であってもよい。
【0042】
容器2は、少なくとも一部が収容設備Cの金属素材を酸化させ、ガルバニック電流を発生させる陰極となる錫、銅、銀、金等の金属材料により形成されていてもよい。また、容器2とは別に収容設備Cの金属素材を酸化させる陰極となる電極を設け、収容設備Cの金属素材と電気的に接続してもよい。これにより、電源を用いずに貫通孔Hの形成を促進させてもよい。
【0043】
図6に示されるように、容器2は、少なくとも一部が銅により形成されてもよい。このとき、容器2の銅を収容設備Cの金属素材に電気的に接続すると共に、腐食媒体Lを硫酸銅水溶液とし、ガルバニック電流に基づいて貫通孔Hを形成してもよい。このとき、容器2と収容設備Cの金属素材とは、導電性接着剤や電線Wを用いて電気的に接続されてもよい。また、穿孔予定箇所C2の周囲と容器2との間にイオン膜Mを設け、腐食により露出した鉄と容器2とによりダニエル電池を形成してもよい。この構成によれば、容器2の内壁に銅が析出し、イオン膜Mの内部には硫酸イオンが移動し、イオン膜Mの外部には鉄イオンが移動し、電気的に安定化することができる。
【0044】
硫酸や塩酸を用いる場合、穿孔予定箇所C2の表面に水素の気泡が付着し、分極が生じて反応が進まなくなるのに比して、ダニエル電池は、穿孔予定箇所C2の腐食の進行を安定化することができる。容器2と収容設備Cとによりダニエル電池を構成することで、電源を用いずに穿孔予定箇所C2の腐食の進行を安定化しつつ、貫通孔Hを形成することができる。
【0045】
上述したように気体収集装置1によれば、電動工具等を用いることなく、金属素材により形成された収容設備Cに貫通孔Hを形成することができる。気体収集装置1によれば、水素の発生の可能性がある収容設備Cに安全性を確保しつつ、内部空間Sの気体を収集し、分析することができる。気体収集装置1によれば、腐食媒体Lの交換や安定化させることにより、穿孔予定箇所C2の腐食を促進し、貫通孔Hを形成することができる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、気体収集装置1は、水素以外の可燃ガス、有毒ガス等の気体の収集に適用してもよい。貫通孔Hは、円形断面以外の断面形状であってもよい。気体収集装置1は、設置対象の上面だけでなく、側面側に設置されてもよい。穿孔予定箇所C2において収容設備Cの天井部C1を貫通しない程度にドリルで途中まで穿孔して設けられた孔が腐食媒体の収容空間として利用可能であれば、容器2は無くてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 気体収集装置
2 容器
3 密閉容器
3D 蓋部
3H 開口
3S 内部空間
4 気体収集部
5 シリンジ
6 気体収集容器
7 回収部
8 供給部
9 配管
10 ノズル部
20 操作棒
C 収容設備
C2 穿孔予定箇所
D 穿孔装置
H 貫通孔
L 腐食媒体
S 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6